説明

絞り装置、カメラおよび電子機器

【課題】フィルタ切り替え機構を省スペースで実現し、あわせて光学フィルタの切り替えに必要な駆動力の低減と切り替え動作の高速化を実現する。
【解決手段】マグネット50と一体に回転するアーム部材51の歯車部55と、レバー部材61の歯車部62とを噛合させるとともに、レバー部材61の作動ピン65をフィルタ支持部材28の長孔67に嵌合させ、この嵌合状態を維持しつつ、レバー部材61の回転によってフィルタ支持部材28をX方向に移動させて光学フィルタ26,27の配置状態を切り替える構成とした。また、レバー部材61の回転中心軸に直交し、かつフィルタ支持部材28の移動方向Xと平行な仮想基準軸J5に対して、レバー部材61の作動ピン65の移動終端位置を、仮想基準軸J5から一方側にずれた位置であってその回転角度範囲θ3が180度未満となる位置に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光量を調整する絞り装置と、これを備えるカメラおよび電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
監視カメラを含む各種のカメラには、外部から入射する光の量(以下、「入射光量」と記す)を調整する絞り装置が組み込まれている。絞り装置は、入射光の光路上に存在する絞り開口の大きさを変えることによって入射光量を調整(適正化)するものである。絞り装置の仕組みとして、絞り部材の移動によって光量調整を行うものがある。具体的には、絞り部材の一例として、一対の絞り羽根を用いたものが公知となっている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、昼夜兼用の監視カメラには、カラー撮影が可能な撮像素子が組み込まれている。この種の監視カメラでは、被写体が明るい場合と、被写体が暗い場合で、撮影モードを切り替えている。具体的には、被写体が明るい昼間等の撮影時にはカラー撮影モードを適用し、被写体が暗い夜間等の撮影時にはモノクロ撮影モードを適用するように、撮影モードを切り替えている。
【0004】
上述した監視カメラにおいては、撮影モードの切り替え機能とあわせて、光学フィルタを切り替える機能を備えたものがある(たとえば、特許文献1、2を参照)。具体的には、カラー撮影モードでは、赤外線カットフィルタを通して撮影し、モノクロ撮影モードでは、赤外線カットフィルタなしで、または別の光学フィルタを通して撮影している。このため、カラー撮影モードで撮影する場合は、外部から入射した光が赤外線カットフィルタを介して撮像素子に到達する。モノクロ撮像モードで撮影する場合は、外部から入射した光が、赤外線カットフィルタを介することなく、または上記別の光学フィルタを通して、撮像素子に到達する。
【0005】
光学フィルタの配置を切り替える機構(以下、「フィルタ切り替え機構」という。)として、たとえば、特許文献2においては、光学フィルタをフィルタ支持部材で支持し、このフィルタ支持部材を移動させることにより、入射光路に対して光学フィルタを進退させる技術が開示されている。ここで記述する入射光路とは、絞り開口を通して入射しようとする光の進路をいう。
【0006】
また、先述した特許文献1においては、共通のフィルタ支持部材に2つの光学フィルタを隣り合わせに並べて取り付け、それらの光学フィルタの並び方向にフィルタ支持部材を移動させて切り替える技術が開示されている。具体的には、フィルタ支持部材に長孔を形成するとともに、駆動部の駆動力を受けて回転する回転アームの先端部をフィルタ支持部材の長孔に連結している。そして、回転アームの回転動作をフィルタ支持部材の移動動作に変換することにより、フィルタ支持部材と一体に2つの光学フィルタを移動させる仕組みになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−348398号公報
【特許文献2】特開2007−17594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された技術(以下、「第1の従来技術」という。)と特許文献2に記載された技術(以下、「第2の従来技術」という。)には、次のような解決すべき課題があった。
【0009】
すなわち、第1の従来技術では、フィルタ支持部材とフィルタ切り替え機構との干渉を避けるなどの目的で、フィルタ支持部材から離してフィルタ切り替え機構を設け、そこから回転アームのアーム部分を延在させてフィルタ支持部材の長孔に連結している。このため、光学フィルタの切り替えに必要とされるフィルタ支持部材の移動量を確保するために、回転アームの長さを十分に長くする必要がある。したがって、回転アームを回転動作させるためのスペースを広く確保する必要がある。
【0010】
一方、第2の従来技術では、次のような解決すべき課題がある。すなわち、一般に、カメラ等に用いられる光学フィルタは、ガラス基板等を用いて構成されている。このため、樹脂の成型品等と比べて、光学フィルタの質量が大きくなる。したがって、たとえば、第1の従来技術のように2つの光学フィルタを共通のフィルタ支持部材に取り付けて移動させる場合は、その移動のために必要とされる駆動力が大きくなり、動作の高速性(軽快さ)が損なわれてしまう。
【0011】
本発明の主な目的は、光学フィルタの切り替え機能を有する絞り装置において、フィルタ切り替え機構を省スペースで実現し、あわせて光学フィルタの切り替えに必要な駆動力の低減と切り替え動作の高速化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、
入射光を通過させる絞り開口を形成する絞り部材と、
第1の回転部材と、
前記第1の回転部材の回転角度および回転方向に応じて回転するとともに、自己の回転中心軸から離間した位置に作動ピンを有する第2の回転部材と、
前記第1の回転部材から前記第2の回転部材に回転力を伝達するとともに、当該回転力の伝達によって前記第2の回転部材を前記第1の回転部材よりも大きな角度で回転させる回転伝達手段と、
2つの光学フィルタと、
前記2つの光学フィルタを平面的に並べて支持するとともに、前記作動ピンに嵌合する長孔を有するフィルタ支持部材と、
前記フィルタ支持部材を一軸方向に移動自在に支持するベース部材と、
前記第1の回転部材、前記第2の回転部材および前記回転伝達手段を用いて構成されるものであって、前記作動ピンと前記長孔の嵌合状態を維持しつつ、前記第2の回転部材の回転によって前記フィルタ支持部材を移動させるとともに、前記2つの光学フィルタのうち一方の光学フィルタを入射光路上に配置した第1の配置状態と他方の光学フィルタを入射光路上に配置した第2の配置状態との間で前記フィルタ支持部材を往復移動させることにより、入射光路に対する光学フィルタの配置状態を切り替えるフィルタ切り替え手段と、
を備え、
前記第2の回転部材の回転中心軸に直交し、かつ前記フィルタ支持部材の移動方向と平行な仮想基準軸に対して、前記2つの光学フィルタが前記第1の配置状態および前記第2の配置状態にあるときの前記第2の回転部材の前記作動ピンの位置が、いずれも前記仮想基準軸から一方側にずれた位置であって前記第2の回転部材の回転角度範囲が180度未満となる位置に設定されている
ことを特徴とする絞り装置である。
【0013】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様に記載の絞り装置において、
前記フィルタ切り替え手段は、前記第1の回転部材と一体に回転するマグネットと、当該マグネットの外周面に対向して設けられた磁性体とを含み、前記光学フィルタの切り替えに必要な回転角度の半分まで前記マグネットが回転したときに、前記マグネットの各磁極と前記磁性体との間に働く磁気吸引力が互いに等しい状態となるように、前記マグネットと前記磁性体の位置関係が設定されている
ことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第3の態様は、上記第1の態様に記載の絞り装置において、
前記フィルタ支持部材によって前記2つの光学フィルタを支持するとともに、一方の光学フィルタが赤外線カットフィルタであり、他方の光学フィルタがダミーフィルタである
ことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第4の態様は、
上記第1〜第3の態様のいずれか一つに記載の絞り装置と、
前記絞り開口を通して入射する光を電気信号に変換する光電変換素子と、
を備えることを特徴とするカメラである。
【0016】
本発明の第5の態様は、
上記第4の態様に記載のカメラと、
前記カメラから出力される画像信号を処理する画像処理部と、
を備えることを特徴とする電子機器である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光学フィルタの切り替え機能を有する絞り装置において、フィルタ切り替え機構を省スペースで実現し、あわせて光学フィルタの切り替えに必要な駆動力の低減と切り替え動作の高速化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用されるカメラの構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る絞り装置の全体的な構成例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る絞り装置の全体的な構成例を示す分解斜視図である。
【図4】絞り基板に一対の絞り羽根と絞り駆動部とを取り付けた状態を示す斜視図(その1)である。
【図5】絞り基板に一対の絞り羽根と絞り駆動部とを取り付けた状態を示す斜視図(その2)である。
【図6】フィルタユニットの構成を示す分解斜視図である。
【図7】フィルタ駆動部の構成を示す分解斜視図である。
【図8】フィルタ駆動部の各構成部分の相対的な位置関係を説明する模式図である。
【図9】絞り基板にフィルタユニットとフィルタ駆動部を取り付けた状態を示す斜視図(その1)である。
【図10】マグネットの回転動作について説明する図である。
【図11】絞り基板にフィルタユニットとフィルタ駆動部を取り付けた状態を示す斜視図(その2)である。
【図12】フィルタユニットの移動動作とフィルタ作動部およびレバー部材の回転動作の関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
まず、カメラの構成について説明する。
図1は本発明が適用されるカメラの構成例を示すもので、(A)はカメラ全体の外観図、(B)は鏡筒内部の概略図である。図示したカメラ100は、たとえば、防犯目的に建物の天井部分(又は壁など)に設置される監視カメラである。このカメラ100は、取り付け台座101と、カメラ本体102とを備えている。取り付け台座101は、たとえば、ねじ止めによって建物の天井部分に固定する構造になっている。
【0021】
カメラ本体102は、鏡筒部103と、対物レンズ104とを備えている。鏡筒部103の内部には、対物レンズ104を含む光学系が組み込まれている。対物レンズ104は、鏡筒部103の先端に取り付けられている。また、カメラ本体102には、光学系の一機能部として、絞り装置1と撮像素子105とが組み込まれている。絞り装置1については、後段で詳しく説明する。
【0022】
撮像素子105は、カラー撮影が可能な撮像素子であって、たとえば、CCD(Charge Coupled Device)撮像素子、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)撮像素子などで構成される。撮像素子105は、たとえば、複数(多数)の画素を行列状に配置してなる撮像面を有する。撮像素子105は、絞り装置1の絞り開口を通して上記撮像面に入射する光を電気信号に変換する光電変換素子の一例として組み込まれている。
【0023】
なお、本発明は、ここで例示したカメラ100に限らず、絞り装置1を備える他の構成のカメラにも適用可能である。また、光学系の構成としても、レンズの種類・枚数・配置や、絞り装置1の配置等、種々の変更が可能である。
【0024】
次に、絞り装置の構成について説明する。
(全体構成)
図2は本発明の実施の形態に係る絞り装置の全体的な構成例を示す斜視図であり、図3はその分解斜視図である。図示した絞り装置1は、大きくは、絞り基板2と、一対(2つ)の絞り羽根3,4と、フィルタユニット5と、絞り駆動部6と、フィルタ駆動部7と、を備えた構成となっている。
【0025】
絞り基板2は、ベース部材の一例として設けられたものである。この絞り基板2には、絞り装置1を構成する各構成部材が実装される。一対の絞り羽根3,4は、入射光を通過させる絞り開口を形成する絞り部材の一例として設けられたものである。一対の絞り羽根3,4は、互いに重なり合った状態で絞り開口(後述)を形成する。絞り開口とは、カメラに入射する光の光路(入射光路)上に位置し、そこを通過する光の量を制限する開口をいう。このため、絞り開口の大きさが相対的に大きくなると、そこを通過する光の量(入射光量)が相対的に増大し、絞り開口の大きさが相対的に小さくなると、そこを通過する光の量が相対的に減少する。フィルタユニット5は、入射光に対して光学的なフィルタ機能を有するものである。
【0026】
絞り駆動部6は、絞り開口の大きさを調整するために、一対の絞り羽根3,4を相対的に移動させるものである。フィルタ駆動部7は、入射光路に対する光学フィルタ(後述)の配置状態を切り替えるために、フィルタユニット5を動作させるものである。
【0027】
(絞り基板)
絞り基板2は、たとえば、樹脂を用いて構成されている。絞り基板2は、主に3つの基板部分11,12,13を一体に有している。基板部分11は、一対の絞り羽根3,4およびフィルタユニット5が取り付けられる部分である。基板部分12は、絞り駆動部6が搭載される部分であり、基板部分13は、フィルタ駆動部7が搭載される部分である。このうち、基板部分11には開口部14が一体に形成されている。また。基板部分12には凹部15が一体に形成され、基板部分13には凹部16が一体に形成されている。
【0028】
(絞り羽根)
一対の絞り羽根3,4は、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる板状素材の表面をカーボンの膜で被覆したものを用いて構成されている。各々の絞り羽根3,4は、全体的に薄板状に形成されている。
【0029】
一方の絞り羽根3には、1つの孔部17と、3つの案内溝18a,18b,18cと、1つの係合孔19とが設けられている。孔部17は、真円またはそれに近い円形状をなし、この円形状の一部をV字形に切り欠いた形態の平面形状を有している。孔部17の一部(V字形の切り欠き部分)には、ND(Neutral Density)フィルタ20が取り付けられている。3つの案内溝18a,18b,18cは、絞り羽根3の長手方向に沿って互いに平行に形成されている。3つの案内溝18a,18b,18cのうち、2つの案内溝18b,18cは同一直線上に形成されている。そして、これら2つの案内溝18b,18cに対して、孔部17を挟んだ反対側の縁部に、残り1つの案内溝18aが形成されている。係合孔19は、上記2つの案内溝18b,18cの延長線上に形成されている。また、係合孔19は、絞り羽根3の短手方向に沿って平面視長孔状に形成されている。
【0030】
他方の絞り羽根4には、1つの孔部21と、3つの案内溝22a,22b,22cと、1つの係合孔23とが設けられている。孔部21は、真円またはそれに近い円形状をなし、この円形状の一部をV字形に切り欠いた形態の平面形状を有している。孔部21の一部(V字形の切り欠き部分)には、NDフィルタ24が取り付けられている。孔部21は、先述した孔部17との重なりによって絞り開口を形成する。3つの案内溝22a,22b,22cは、絞り羽根4の長手方向に沿って互いに平行に形成されている。3つの案内溝22a,22b,22cのうち、2つの案内溝22a,22bは同一直線上に形成されている。そして、これら2つの案内溝22a,22bに対して、孔部21を挟んだ反対側の縁部に、残り1つの案内溝22cが形成されている。係合孔23は、上記2つの案内溝22a,22bの延長線上に形成されている。また、係合孔23は、絞り羽根4の短手方向に沿って平面視長孔状に形成されている。
【0031】
(フィルタユニット)
フィルタユニット5は、2つの光学フィルタ26,27と、これら2つの光学フィルタ26,27を平面的に並べて支持するフィルタ支持部材28と、このフィルタ支持部材28に対して光学フィルタ26,27を留め付ける留め具29とを用いて構成されている。
【0032】
2つの光学フィルタ26,27は、たとえば、次のようなフィルタによって構成されている。すなわち、一方の光学フィルタ26は、赤外線カットフィルタによって構成され、他方の光学フィルタ27は、ダミーフィルタによって構成されている。赤外線カットフィルタは、たとえば、赤外線を吸収することによって当該赤外線の通過を遮断する特性を有する光学フィルタである。ダミーフィルタは、少なくとも赤外線を透過する特性を有する光学フィルタである。光学フィルタ26,27は、いずれも透明なガラス基板をベースに構成されている。また、光学フィルタ26,27を構成する各ガラス基板は、互いに光の屈折率が等しいものとなっている。そして、具体的な構成上の相違点として、たとえば、一方の光学フィルタ26を構成するガラス基板の主面には、可視光を透過し且つ赤外線を吸収する膜が形成され、他方の光学フィルタ27を構成するガラス基板の主面には、当該膜が形成されていない構成となっている。
【0033】
フィルタユニット5に赤外線カットフィルタとダミーフィルタを設ける理由は、光学フィルタの配置状態を切り替えたときに、その切り替えの前後で焦点距離(光学系の主点から焦点までの距離)にずれが生じないようにするためである。さらに詳述すると、ダミーフィルタがない場合は、赤外線カットフィルタを入射光路上に配置した状態と配置しない状態で、そこを通過する光の屈折率の差によって焦点距離にずれが生じる。これに対して、赤外線カットフィルタと差し替えるかたちでダミーフィルタを入射光路上に配置すれば、光の屈折率差による焦点距離のずれが解消される。以上の理由でフィルタユニット5にダミーフィルタを設けている。ただし、2つの光学フィルタ26,27を設ける理由は、これ以外の理由であってもかまわない。
【0034】
(絞り駆動部)
絞り駆動部6は、絞り作動部31と、ボビン組立体32と、ヨーク33と、中継基板34と、磁性体(不図示)と、コイル(不図示)とを用いて構成されている。
【0035】
絞り作動部31は、マグネット(永久磁石)35と、アーム部材36とを備えている。マグネット35は、円柱形に形成されている。マグネット35は、円形断面の一方の半月部分をN極側とし、他方の半月部分をS極側として磁化されている。マグネット35の中心軸には、当該中心軸に沿って図示しない軸孔が形成され、この軸孔にアーム部材36の軸37が挿入されている。
【0036】
アーム部材36は、たとえば、樹脂の一体成型によって得られるものである。アーム部材36は、上述した軸37の他に、基部38とアーム部39a,39bとを一体に有している。基部38は、マグネット35の外形に対応した形状をもって板状に形成されている。上述した軸37は、基部38の中心から垂直に起立する状態で形成されている。アーム部39a,39bは、基部38から一方と他方に延出するように形成されている。アーム部材36は、たとえば、接着剤等を用いてマグネット35に固定されている。これにより、軸37を中心にしてマグネット35とアーム部材36が一体に回転する構成となっている。また、一対のアーム部39a,39bは、それぞれクランク形状に形成されている。一方のアーム部39aの先端部には爪部40aが形成され、他方のアーム部39bの先端部にも爪部40bが形成されている。
【0037】
ボビン組立体32は、上述した絞り作動部31のマグネット35とアーム部材36の一部(主に基部38)を収容するもので、たとえば樹脂等の絶縁材料を用いて形成されている。ボビン組立体32に絞り作動部31を組み込んだ状態では、この絞り作動部31が上記の軸37を中心に回転自在に支持されるようになっている。また、上述した磁性体(不図示)は、ボビン組立体32に取り付けられ、上述したコイル(不図示)は、ボビン組立体32に巻き付けられるようになっている。
【0038】
ヨーク33は、外部への磁力線の漏洩を抑制するものである。ヨーク33は、円筒形に形成されている。ヨーク33は、上述した絞り作動部31、磁性体(不図示)およびコイル(不図示)を組み付けた状態のボビン組立体32を収容するものである。
【0039】
中継基板34は、ボビン組立体32に巻かれたコイル(不図示)と絞り制御部(不図示)とを電気的に接続するものである。絞り御部は、予め決められた条件を満たしたときに、ボビン組立体32に巻かれたコイルへの通電によって絞り作動部31を回転動作させるものである。中継基板34は、ヨーク33の直径に対応した円形のプリント配線基板で構成されている。中継基板34は、ボビン組立体32の一端部に設けられた複数(図例では4つ)の端子ピン41に対応する複数の端子部42と、当該複数の端子部42に対応する複数の端子部43とを有する。ボビン組立体32に巻かれたコイル(不図示)は、複数の端子ピン41に接続され、さらに各々の端子ピン41は、中継基板34の各端子部42に接続される。中継基板34は、ヨーク33の一端部に配置される。また、中継基板34の各端子部43には、それぞれに対応するリード線(不図示)が接続される。リード線(不図示)は、中継基板34と絞り制御部(不図示)とを電気的に接続するものである。
【0040】
(フィルタ駆動部)
フィルタ駆動部7は、フィルタ作動部46と、ボビン組立体47と、ヨーク48と、中継基板49と、コイル(後述)と、磁性体(後述)とを用いて構成されている。フィルタ駆動部7は、後述するレバー部材61とともに、フィルタ切り替え手段を構成するものである。このフィルタ切り替え手段は、絞り部材の絞り開口を通過する入射光の光路に対する光学フィルタの配置状態を、フィルタユニットの移動によって切り替える手段をいう。以下、フィルタ切り替え手段の構成について説明する。
【0041】
フィルタ作動部46は、マグネット(永久磁石)50と、アーム部材51とを備えている。マグネット50は、円柱形に形成されている。マグネット50は、円形断面の一方の半月部分をN極側とし、他方の半月部分をS極側として磁化されている。マグネット50の中心軸には、当該中心軸に沿って図示しない軸孔が形成され、この軸孔にアーム部材51の軸52が挿入されている。
【0042】
アーム部材51は、第1の回転部材の一例として設けられたものである。アーム部材51は、たとえば、樹脂の一体成型によって得られるものである。アーム部材51は、上述した軸52の他に、基部53とアーム部54とを一体に有している。基部53は、マグネット50の外形に対応した形状をもって板状に形成されている。上述した軸52は、基部53の中心から垂直に起立する状態で形成されている。アーム部54は、基部53から一方に延出するように形成されている。アーム部材51は、たとえば、接着剤等を用いてマグネット50に固定されている。これにより、軸52を中心にしてマグネット50とアーム部材51が一体に回転する構成となっている。また、アーム部54は、L字形に形成されている。アーム部54の先端部には、歯車部55が設けられている。歯車部55は、アーム部材51の軸52と同軸の仮想軸線上に中心を有する円弧状に形成されている。歯車部55は、軸52を中心(座標原点)とした極座標系において、90度未満の角度範囲、具体的には60度またはそれに近い角度範囲をもって円弧状に複数の歯を連続的に並べた構造になっている。
【0043】
ボビン組立体47は、上述したアーム部材51のマグネット50とアーム部材51の一部(主に基部53)を収容するもので、たとえば樹脂等の絶縁材料を用いて形成されている。ボビン組立体47にフィルタ作動部46を組み込んだ状態では、このフィルタ作動部46が上記の軸52を中心に回転自在に支持されるようになっている。また、上述した磁性体(不図示)は、ボビン組立体47に取り付けられ、上述したコイル(不図示)は、ボビン組立体47に巻き付けられるようになっている。
【0044】
ヨーク48は、外部への磁力線の漏洩を抑制するものである。ヨーク48は、円筒形に形成されている。ヨーク48は、上述したフィルタ作動部46、磁性体(不図示)およびコイル(不図示)を組み付けた状態のボビン組立体47を収容するものである。
【0045】
中継基板49は、ボビン組立体47に巻かれたコイル(不図示)とフィルタ制御部(不図示)とを電気的に接続するものである。フィルタ制御部は、予め決められた条件を満たしたときに、ボビン組立体47に巻かれたコイルへの通電によってフィルタ作動部46を回転動作させるものである。中継基板49は、ヨーク48の直径に対応した円形のプリント配線基板で構成されている。中継基板49は、ボビン組立体47の一端部に設けられた複数(図例では4つ)の端子ピン56に対応する複数の端子部57と、当該複数の端子部57に対応する複数の端子部58とを有する。ボビン組立体47に巻かれたコイル(不図示)は、複数の端子ピン56に接続され、さらに各々の端子ピン56は、中継基板49の各端子部57に接続される。中継基板49は、ヨーク48の一端部に配置される。また、中継基板49の各端子部58には、それぞれに対応するリード線(不図示)が接続される。リード線(不図示)は、中継基板49とフィルタ制御部(不図示)とを電気的に接続するものである。
【0046】
さらに、フィルタ駆動部7に属する部材として、レバー部材61が設けられている。レバー部材61は、第2の回転部材の一例として設けられたものである。レバー部材61は、たとえば、樹脂の一体成型によって得られるものである。レバー部材61は、歯車部62と、枢軸部63と、レバー部64と、作動ピン65とを一体に有している。レバー部材61は、枢軸部63の中心軸を自己の回転中心軸として回転する。
【0047】
歯車部62は、上述したアーム部材51の歯車部55とともに、歯車伝達機構を構成するものである。この歯車伝達機構は、動力伝達手段の一例として設けられたものである。歯車部62は、180度またはそれに近い角度範囲をもって円弧状に複数の歯を連続的に並べた構造になっている。歯車部62は、前述した歯車部55と噛み合って一緒に回転するものである。その際、両歯車間では、歯車部55からレバー部材61へと動力(以下、「回転力」ともいう。)が伝達される。このため、歯車部55を有するアーム部材51は主動側の回転部材となり、歯車部62を有するレバー部材61は従動側の回転部材となる。また、レバー部材61は、アーム部材51の回転角度および回転方向に応じて回転することになる。歯車部62のピッチ円直径は、歯車部55のピッチ円直径よりも短く設定されている。このため、歯車部55と歯車部62との噛み合い部分で回転力の伝達がなされた場合は、歯車部62の回転角度が歯車部55の回転角度よりも大きくなる。このことから、歯車部55と歯車部62との間では、回転力の伝達とあわせて、回転角度の増幅がなされる。
【0048】
歯車部62は、レバー部64とほぼ同一の平面内に形成されている。また、歯車部62は、レバー部64の基端部近傍に位置して形成されている。枢軸部63は、孔63aを有する円筒状に形成されている。枢軸部63の中心軸は、歯車部62のピッチ円(歯先円)の中心に一致している。すなわち、枢軸部63は、歯車部62の外径に対応したピッチ円と同心状をなして形成されている。レバー部64は、平面視略三角形に形成されている。レバー部64の幅寸法は、レバー部64の長さ方向(レバー部64の基端部から先端部に至る部分)で連続的に変化し、最も幅広の部分がレバー部64の基端部寄りに位置している。上述した枢軸部63は、このレバー部64の基端部に設けられている。作動ピン65は、レバー部64の先端部に設けられている。このため、枢軸部63と作動ピン65とは、レバー部64の長さ寸法に対応した距離をもって離間した状態に配置されている。また、作動ピン65は、レバー部材61の回転中心軸からレバー部64の長さ方向に離間した位置に設けられている。枢軸部63は、レバー部64の厚み方向の一方に突出し、作動ピン65は、レバー部64の厚み方向の他方に突出している。
【0049】
次に、絞り基板2と一対の絞り羽根3,4と絞り駆動部6の関係について説明する。
図4は絞り基板に一対の絞り羽根と絞り駆動部とを取り付けた状態を示す斜視図である。図4においては、絞り基板2の一面側に一対の絞り羽根3,4が互いに重なり合う状態で取り付けられ、その反対側となる絞り基板2の他面側(図3に示す凹部15)に絞り駆動部6が取り付けられている。各々の絞り羽根3,4は、絞り基板2の一面側に設けられた複数の案内ピン66によって一軸方向に移動自在(スライド自在)に取り付けられている。一軸方向とは、1本の直線軸と平行な方向をいう。各々の案内ピン66は、それぞれに対応する絞り羽根3,4の案内溝18a〜18c、22a〜22cに嵌め込まれている。また、絞り羽根3,4は、互いに適度な間隙を隔てて対面するように重ねられ、かつ基板部分11の長手方向(図中X方向)に移動自在となっている。また、絞り羽根3の係合孔19には上述したアーム部材36の爪部40bが差し込まれ、絞り羽根4の係合孔23には上述したアーム部材36の爪部40aが差し込まれている。
【0050】
次に、絞り装置における絞り動作について説明する。
絞り動作とは、一対の絞り羽根3,4が形成する絞り開口の大きさを変える動作をいう。本実施の形態においては、一例として、絞り開口の大きさを大小二段階に変える場合について説明する。ただし、本発明はこれに限らず、たとえば、絞り動作の駆動源としてモータ等を使用することにより、絞り開口の大きさを多段階(無段階)に変化(調整)する構成を採用してもよい。
【0051】
まず、絞り開口を調整するにあたって絞り駆動部6を駆動する。具体的には、図示しないコイルへの通電によって磁界を形成する。そうすると、コイルへの通電によって形成される磁界の向きによって絞り作動部31が一方または他方に回転する。このように絞り駆動部6の駆動によって絞り作動部31が回転すると、その駆動力がアーム部材36の各アーム部39a,39bによって、それぞれに対応する絞り羽根3,4に伝達される。このため、絞り作動部31が回転すると、それに連動して一対の絞り羽根3,4がX方向に移動する。ただし、一対の絞り羽根3,4が移動する方向は、X方向において互いに逆方向になる。また、一対の絞り羽根3,4が移動すると、それに応じて絞り羽根3の孔部17と絞り羽根4の孔部21の重なり合う面積が変化する。2つの孔部17,21が重なり合う面積は、絞り開口の大きさを規定するものとなる。このため、絞り駆動部6の駆動に伴う一対の絞り羽根3,4の移動によって絞り開口の大きさを変えることが可能となる。
【0052】
ちなみに、図4に示す状態は、孔部17,21がX方向に大きくずれることで、絞り開口が最小になるように絞り羽根3,4を移動させた状態である。また、図5に示す状態は、孔部17,21がちょうど重なり合うことで、絞り開口が最大となるように絞り羽根3,4を移動させた状態である。
【0053】
次に、フィルタユニット5の構成について詳しく説明する。
図6はフィルタユニットの構成を示す分解斜視図である。図示のように、フィルタユニット5のベースとなるフィルタ支持部材28には、長孔67と、2つの円形の孔部68,69とが設けられている。フィルタ支持部材28は、たとえば、樹脂の一体成型によって得られるもので、略長方形の板状に形成されている。長孔67は、フィルタ支持部材28の長手方向の一端部に形成されている。また、長孔67は、フィルタ支持部材28の短手方向と平行に形成されている。
【0054】
2つの孔部68,69は、フィルタ支持部材28の長手方向に隣り合わせに並んで形成されている。光学フィルタ26は、一方の孔部68を塞ぐようにしてフィルタ支持部材28に取り付けられ、光学フィルタ27は、他方の孔部69を塞ぐようにフィルタ支持部材28に取り付けられる。このため、2つの光学フィルタ26,27は、それぞれに対応する孔部68,69と同様に、フィルタ支持部材28の長手方向に隣り合わせに並んで取り付けられる。留め具29は、たとえば、適度なバネ性を有する板バネによって構成されている。留め具29は、フィルタ支持部材28に対して光学フィルタ26,27を押し付けて固定するものである。留め具29は、フィルタ支持部材28に取り付けられた光学フィルタ26,27を同時に押さえるようにフィルタ支持部材28に取り付けられる。
【0055】
次に、フィルタ駆動部の構成について詳しく説明する。
図7はフィルタ駆動部の構成を示す分解斜視図である。図示のように、フィルタ駆動部7は、上述したフィルタ作動部46、ボビン組立体47、ヨーク48、中継基板49に加えて、コイル71と磁性体72を備えている。コイル71は、ボビン組立体47の形状に対応した環状の巻線形態で、ボビン組立体47に巻装される。コイル71は、これに電流を流すことによって磁束を発生させ、磁界を形成するものである。磁性体72は、たとえば、接着等によってボビン組立体47に取り付けられる。磁性体72は、マグネット50の磁極(N極またはS極)との間に磁気吸引力を発生させ、この磁気吸引力によってフィルタユニット5の位置を保持するものである。
【0056】
図8はフィルタ駆動部の各構成部分の相対的な位置関係を説明する模式図である。図示のように、マグネット50は、N極とS極に分極されている。ここで、マグネット50の中心軸上で直交する2つの軸線をそれぞれ軸線J1、軸線J2とする。そうした場合、マグネット50のN極とS極は、同じ軸線J1上に配置されている。また、軸線J1と軸線J2の交点を中心に回転するマグネット50の回転角度範囲θ1は、上述したアーム部材51の歯車部55の形成角度範囲にあわせて60度またはそれに近い角度に設定されている。一方、磁性体72は、マグネット50の外周面に対向する状態で軸線J2上に配置されている。また、磁性体72は、軸線J2の位置を中心として、軸線J1と平行な向きで配置されている。
【0057】
上記図8においては、マグネット50が回転途中の状態であって、かつマグネット50の回転角度がちょうど中間(半分)の角度にあるときの状態を示している。この状態では、マグネット50のN極と磁性体72との間に働く磁気吸引力と、マグネット50のS極と磁性体72との間に働く磁気吸引力とが、互いに等しくなる。この状態を「磁気平衡状態」と定義する。これに対して、上述したコイル71に電流を流すと、たとえば図中の矢印M1の向きに磁界が形成される。また、その状態からコイル71に流す電流の向きを反転すると、図中の矢印M1とは反対の向きに磁界が形成される。このようにコイル71への通電によって形成される磁界の向きは、軸線J1を基準にすると、たとえば、軸線J1と40度〜50度の傾き角度θ2をもつように設定されている。この傾き角度θ2は、上述したマグネット50の回転角度範囲θ1との関係で規定すると、「θ2>θ1/2」の条件を満たすように設定されている。
【0058】
また、上記回転角度範囲θ1においてマグネット50を一方端まで回転させると、これに伴うアーム部材51およびレバー部材61の回転によってフィルタユニット5が一方端まで移動した状態となる。反対に、上記回転角度範囲θ1においてマグネット50を他方端まで回転させると、これに伴うアーム部材51およびレバー部材61の回転によってフィルタユニット5が他方端まで移動した状態となる。このとき、マグネット50およびアーム部材51を含むフィルタ作動部46の回転角度範囲θ1は60度程度であるが、レバー部材61の回転角度範囲θ3(図12を参照)は、θ1の2倍超の150度程度となる。
【0059】
また、フィルタユニット5が一方端から他方端まで移動する間に、レバー部材61の作動ピン65はフィルタ支持部材28の長孔67に沿って一往復するように移動する。そして、次に例示する構成部材同士の突き当てにより、フィルタ作動部46およびレバー部材61の回転動作と、この回転動作に連動したフィルタユニット5の移動動作とが、共に停止する。構成部材同士の突き当てとしては、たとえば、作動ピン65を長孔67の一端部に突き当てる場合や、レバー部材61を絞り基板2の一部に突き当てる場合などが考えられる。
【0060】
次に、絞り基板とフィルタユニットとフィルタ駆動部の関係について説明する。
図9は絞り基板にフィルタユニットとフィルタ駆動部を取り付けた状態を示す斜視図である。図9においては、絞り基板2の一面側にフィルタユニット5が取り付けられ、その反対側となる絞り基板2の他面側(図3に示す凹部16)にフィルタ駆動部7が取り付けられている。フィルタユニット5は、フィルタ支持部材28の両側縁部を絞り基板2で移動自在に支持することにより、一軸方向(図中X方向)に移動自在(スライド自在)となっている。また、フィルタ支持部材28の長孔67には上述したレバー部材61の作動ピン65が差し込まれている。作動ピン65は、長孔67の長軸方向に移動自在となっている。また、長孔67の向き(長軸方向)は、フィルタ支持部材28の移動方向(X方向)と垂直をなすY方向に平行な方向となっている。長孔67の長手寸法は、これに差し込まれた作動ピン65が長孔67の長軸方向に往復移動することにより、枢軸部63を中心としたレバー部材61の回転動作を180度未満の回転角度範囲で許容し得る寸法に設定されている。
【0061】
レバー部材61は、絞り基板2によって回転自在に支持されている。具体的には、絞り基板2に設けられたピン部73(図4、図5を参照)に枢軸部63の孔63a(図3を参照)を嵌め込むことにより、この枢軸部63を中心にレバー部材61が回転自在に支持されている。また、レバー部材61の歯車部62は、上述したアーム部材51の歯車部55に噛み合っている。このため、アーム部材51とレバー部材61との間では、歯車同士の噛み合いによって動力(回転力)の伝達がなされる。
【0062】
次に、マグネットの回転動作とフィルタユニットの移動動作との関係について説明する。
まず、マグネット50の回転動作につき、図10(A),(B)を用いて説明する。図10(A),(B)は、フィルタ駆動部7を上側(絞り基板2に対してフィルタ駆動部7が実装される側)から見た場合を想定している。
マグネット50は、上述したコイル71への通電によって磁界を形成することにより、この磁界の向きに応じて回転する。具体的には、図10(A)に示すように、矢印M1の方向に磁界を形成すると、この磁界の磁極とマグネット50の磁極との間に働く磁気反発力によってマグネット50が一方端まで回転する。また、図10(B)に示すように、矢印M2の方向に磁界を形成すると、この磁界の磁極とマグネット50の磁極との間に働く磁気吸引力によってマグネット50が他方端まで回転する。
【0063】
また、上記図10(A)に示すようにマグネット50が回転した状態では、フィルタユニット5のフィルタ支持部材28が、上記図9に示すようにX方向の一方端まで移動した状態となる。この場合は、絞り開口を通して入射しようとする光の光路上に一方の光学フィルタ(図例では光学フィルタ26)が配置された状態(以下、「第1の配置状態」という。)となる。また、フィルタ駆動部7の状態としては、上記図10(A)に示すように、マグネット50のS極がN極よりも磁性体72の近くに配置されるため、磁気平衡状態が大きく崩れる。したがって、マグネット50は、そのS極と磁性体72との間に働く磁気吸引力によって反時計回り方向に付勢される。そして、フィルタユニット5は、この付勢力によってX方向の一方端に移動停止した状態に保持される。
【0064】
これに対して、上記図10(B)に示すようにマグネット50が回転した状態では、フィルタユニット5のフィルタ支持部材28が、図11に示すようにX方向の他方端まで移動した状態となる。この場合は、絞り開口を通して入射する入射光路上に他方の光学フィルタ(図例では光学フィルタ27)が配置された状態(以下、「第2の配置状態」という。)となる。また、フィルタ駆動部7の状態としては、上記図10(B)に示すように、マグネット50のN極がS極よりも磁性体72の近くに配置されるため、磁気平衡状態が大きく崩れる。したがって、マグネット50は、そのN極と磁性体72との間に働く磁気吸引力によって時計回り方向に付勢される。そして、フィルタユニット5は、この付勢力によってX方向の他方端に移動停止した状態に保持される。
【0065】
次に、レバー部材の回転角度範囲について説明する。
図12(A)はフィルタユニットをX方向の一方の移動端まで移動させた状態を示し、図12(B)はフィルタユニットをX方向の他方の移動端まで移動させた状態を示している。ここではフィルタユニット5を一方の移動端まで移動させた状態で、レバー部材61の回転中心軸と作動ピン65の中心とを結ぶ軸線をJ3とする。また、フィルタユニット5を他方の移動端まで移動させた状態で、レバー部材61の回転中心軸と作動ピン65の中心とを結ぶ軸線をJ4とする。そうした場合、これらの軸線J3,J4がなす角度は、フィルタユニット5を一方の移動端から他方の移動端まで移動させる場合や、フィルタユニット5を他方の移動端から一方の移動端まで移動させる場合に、レバー部材61が回転する最大の角度θ3となる。レバー部材61の回転角度範囲は、この角度θ3に相当する。以降の説明では、レバー部材61の回転角度範囲を「θ3」と記述する。
【0066】
レバー部材61の回転角度範囲θ3は、少なくとも180度未満の条件を満たし、好ましくは130度〜170度の範囲内、より好ましくは140度〜160度の範囲内、さらに好ましくは150度程度に設定するとよい。
【0067】
また、本発明の実施の形態に係る絞り装置1においては、レバー部材61の回転中心軸に直交し、かつフィルタ支持部材28の移動方向Xと平行な仮想基準軸J5に対して、2つの光学フィルタ26,27が第1の配置状態および第2の配置状態にあるときのレバー部材61の作動ピン65の位置(移動終端位置)が、いずれも仮想基準軸J5から一方側にずれた位置であってレバー部材61の回転角度範囲θ3が180度未満となる位置に設定されている。この点についてさらに詳しく説明する。
【0068】
まず、仮想基準軸J5を基準にレバー部材61の回転動作範囲θ3を考えると、次のようになる。すなわち、仮にレバー部材61が回転を開始するときに作動ピン65が仮想基準軸J5上に位置し、レバー部材61が回転を終了するときにも作動ピン65が仮想基準軸J5上に位置すると、レバー部材61の回転動作範囲θ3は180度となる。
【0069】
また、フィルタユニット5のフィルタ支持部材28が移動する平面内(換言すると、光学フィルタ26,27の主面に平行な面内)において、仮想基準軸J5を境に領域を2つに区分すると、一方(図中上側)の領域にはフィルタユニット5が存在し、他方(図中下側)の領域にはフィルタ作動部46が存在する。このうち、フィルタ作動部46が存在する側の領域は、レバー部材61の回転角度範囲θ3が180度未満となる条件を満たさない領域となる。なぜなら、レバー部材61が回転を開始するとき、または終了するときに、その先端にある作動ピン65が仮想基準軸J5を超えてフィルタ作動部46が存在する側の領域まで移動すると、レバー部材61の回転動作範囲θ3が180度を超えることになるからである。
【0070】
このため、レバー部材61の作動ピン65は、常にフィルタユニット5が存在する側の領域内に存在している。また、作動ピン65は、レバー部材61が回転すると、フィルタユニット5が存在する側の領域内で、レバー部材61の回転中心軸から一定距離を隔てた円周上を移動する。また、作動ピン65は、この円周上を一方の移動終端から他方の移動終端に向かって移動したり、逆に、他方に移動終端から一方の移動終端に向けて移動したりする。したがって、レバー部材61の回転角度範囲θ3が150度に設定されていると仮定すると、上記図12(A)のようにフィルタ支持部材28を一方の移動端まで移動させた状態では、作動ピン65も一方の移動終端まで移動した状態となるため、仮想基準軸J5に対して軸線J3のなす角度θ4が15度となる。また、上記図12(B)のようにフィルタ支持部材28を他方の移動端まで移動させた状態では、作動ピン65も他方の移動終端まで移動した状態となるため、仮想基準軸J5に対して軸線J4のなす角度θ5が15度となる。なお、角度θ4と角度θ5は互いに異なる角度であってもよいが、本実施の形態においては、好ましい例として角度θ4,θ5が互いに等しい角度である場合を想定している。
【0071】
そうした場合、仮想基準軸J5と垂直をなすY方向で仮想基準軸J5から作動ピン65までの距離を規定すると、この距離はレバー部材61の回転にしたがって次のように変化する。すなわち、レバー部材61の回転により、フィルタユニット5を一方の移動端から他方の移動端に向けて移動させると、仮想基準軸J5から作動ピン65までの距離は、はじめ徐々に大きくなるように変化し、その後、徐々に小さくなるように変化する。このため、仮想基準軸J5から作動ピン65までの距離は、レバー部材61の回転によってフィルタユニット5を一方の移動端または他方の移動端まで移動させたときに最小となり、レバー部材61がちょうど中間の角度まで回転したときに(磁気平衡状態となるときに)最大となる。また、光学フィルタ26,27を第1の配置状態としたときの作動ピン65の位置は、上記最小の距離をもって仮想基準軸J5から一方側(図中、上側)にずれた位置となり、光学フィルタ26,27を第2の配置状態としたときの作動ピン65の位置も、上記最小の距離をもって仮想基準軸J5から一方側にずれた位置となる。
【0072】
次に、絞り装置におけるフィルタ切り替え動作について説明する。
フィルタ切り替え動作とは、入射光路に対する光学フィルタの配置状態を切り替える動作をいう。特に、本発明の実施の形態においては、フィルタユニット5が2つの光学フィルタ26,27を備えることから、フィルタ切り替え動作とは、入射光路上に配置する光学フィルタを切り替える動作をいう。このフィルタ切り替え動作は、X軸方向においてフィルタ支持部材28を往復移動させることにより行われる。
【0073】
以下、本発明の実施の形態におけるフィルタ切り替え動作について詳しく説明する。まず、光学フィルタを切り替えるにあたってフィルタ駆動部7を駆動する。具体的には、上述したコイル71(図7を参照)への通電によって磁界を形成する。そうすると、コイル71への通電によって形成される磁界の作用によってマグネット50が回転する。この動作原理については、上記図10(A),(B)を用いて説明したとおりである。
【0074】
また、マグネット50が回転すると、このマグネット50と一体になってアーム部材51が回転する。アーム部材51が回転すると、歯車部55と歯車部62との間の回転力の伝達によってレバー部材61が回転する。このとき、作動ピン65と長孔67の嵌合状態は、レバー部材61が回転している期間や停止している期間を含めて、常に維持される。このため、レバー部材61が回転すると、作動ピン65と長孔67との嵌合に伴う動力伝達により、フィルタユニット5がX方向に移動する。つまり、アーム部材51の回転に伴うレバー部材61の回転動作が、フィルタユニット5の移動動作に変換される。また、X方向においてフィルタユニット5が移動する方向は、フィルタ作動部46の回転角度および回転方向に応じたものとなる。したがって、フィルタ駆動部7の駆動に伴うフィルタユニット5の移動によって光学フィルタの配置状態を切り替えることが可能となる。
【0075】
次に、本発明の実施の形態に係る絞り装置によって得られる効果について説明する。
本発明の実施の形態に係る絞り装置とこれを備えるカメラにおいては、フィルタ切り替え機構を省スペースで実現し、あわせて光学フィルタの切り替えに必要な駆動力の低減と切り替え動作の高速化を実現することができる。以下に、その理由を述べる。
【0076】
光学フィルタの切り替え動作としては、第1の配置状態から第2の配置状態に切り替える場合と、第2の配置状態から第1の配置状態に切り替える場合とがあるが、両者の違いは方向性のみである。したがって、ここでは一例として、第1の配置状態から第2の配置状態に切り替える場合についてのみ説明する。
【0077】
まず、絞り装置1におけるフィルタ切り替え手段の構成として、アーム部材51とレバー部材61を組み合わせ、歯車部55から歯車部62への動力伝達により、アーム部材51よりも大きな角度でレバー部材61を回転させる構成になっている。このため、レバー部材61の回転によってフィルタ支持部材28を広範囲に往復移動させることができる。また、レバー部材61の回転動作に比較すると、アーム部材51の回転動作は非常に小さくなる。そのため、フィルタ切り替え用の動作スペースが小さくて済む。したがって、フィルタ切り替え手段(フィルタ切り替え機構)を省スペースで実現することができる。
【0078】
また、光学フィルタ26,27が第1の配置状態にあるときの作動ピン65の位置は、仮想基準軸J5から一方側にずれた状態となり、この状態では上記図12に示す仮想基準軸J5に対して軸線J3のなす角度θ4が鋭角(たとえば、15度)となる。このため、その後、光学フィルタ26,27の配置状態を切り替えるために、フィルタ駆動部7を駆動した場合は、レバー部材61の回転によって作動ピン65が上記軸線J3と垂直をなす方向に移動しようとする。したがって、作動ピン65と長孔67の嵌合部分にはX方向の分力が働く。この分力は、フィルタ駆動部7の駆動を開始すると同時に働く。
【0079】
これに対して、たとえば、作動ピン65が仮想基準軸J5上に存在する状態からフィルタ駆動部7を駆動した場合は、作動ピン65が仮想基準軸J5と垂直をなす方向に移動しようとする。このため、作動ピン65と長孔67の嵌合部分にX方向の分力がほとんど働かない。したがって、光学フィルタの切り替えに必要な駆動力が、本実施の形態の場合よりも大きくなる。本実施の形態の場合は、フィルタ駆動部7の駆動開始時に働く分力によって後押しされるようにフィルタ支持部材28が移動を開始する。このため、光学フィルタの切り替えに必要な駆動力、特に、切り替え動作開始時に必要とされる駆動力を低減することができる。
【0080】
また仮に、作動ピン65が仮想基準軸J5を超えて「フィルタ作動部46が存在する側の領域」に存在し、その状態からフィルタ駆動部7を駆動した場合は、まず、フィルタ支持部材28が最終的に向かうべき方向とは反対方向に移動する。次に、作動ピン65が仮想基準軸J5を横切るように通過してから、フィルタ支持部材28が最終的に向かうべき方向に移動する。したがって、光学フィルタの切り替えに必要な駆動量が、本実施の形態の場合よりも大きくなる。また、上記反対方向へのフィルタ支持部材28の移動によってフィルタユニット5に慣性力が働き、作動ピン65が仮想基準軸J5を通過するときは、この慣性力に対抗するように逆向きの力を加える必要がある。このため、光学フィルタの切り替えに必要な駆動力が、本実施の形態の場合よりも大きくなる。
【0081】
さらに、本発明の実施形態においては、上述したようにフィルタ駆動部7の駆動開始時に働く分力によってフィルタ支持部材28の移動を開始した後、アーム部材51の回転動作が増幅されるかたちでレバー部材61が高速に回転動作する。このため、フィルタ支持部材28が移動を開始してから終了するまでの所要時間が短くなる。その結果、光学フィルタの切り替えに際して、フィルタ支持部材28を軽快に素早く移動させることが可能となる。
【0082】
また、本発明の実施の形態においては、フィルタ駆動部7の構成として、マグネット50の回転角度が中間の角度にあるときに磁気平衡状態となるように、マグネット50の磁極(N極、S極)と磁性体72の位置関係を設定している。このため、X方向でフィルタ支持部材28をどちらの方向に移動させる場合でも、その移動途中でマグネット50の各磁極と磁性体72との間に働く磁気吸引力をアーム部材51の回転動作に効率よく利用することができる。
【0083】
次に、本発明の変形例等について説明する。
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0084】
たとえば、光学フィルタの組合せは、赤外線カットフィルタとダミーフィルタの組合せに限らず、他のフィルタの組合せであってもよい。また、組合せの形態としては、異種のフィルタの組合せに限らず、同種のフィルタの組合せであってもよい。異種のフィルタの組合せとしては、上記実施の形態の例の他に、たとえば、赤外線カットフィルタと色補正フィルタの組合せ、あるいは青フィルタと緑フィルタの組合せ等が考えられる。また、同種のフィルタの組合せとしては、たとえば、同じ色域の光をカット(吸収)するフィルタであって、それぞれの特性として吸収波長に違いをもたせたフィルタ同士の組合せ等が考えられる。
【0085】
また、回転伝達手段としては、歯車伝達機構に限らず、たとえば、プーリーとタイミングベルトを適宜組み合わせた動力伝達機構であってもよい。ただし、シンプルかつコンパクトに回転伝達手段を構成するうえでは、歯車伝達機構を採用する方が好ましい。
【0086】
また、本発明は、絞り装置やこれを用いたカメラに限らず、そのカメラを備える電子機器(たとえば、セキュリティ機器など)などにも適用可能である。かかる電子機器は、本発明の実施の形態に係るカメラと、当該カメラから出力される画像信号を処理する画像処理部とを備える構成となる。
【符号の説明】
【0087】
1…絞り装置
2…絞り基板
3,4…絞り羽根
5…フィルタユニット
6…絞り駆動部
7…フィルタ駆動部
26,27…光学フィルタ
28…フィルタ支持部材
51…アーム部材
55…歯車部
61…レバー部材
62…歯車部
65…作動ピン
67…長孔
100…カメラ
J5…仮想基準軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を通過させる絞り開口を形成する絞り部材と、
第1の回転部材と、
前記第1の回転部材の回転角度および回転方向に応じて回転するとともに、自己の回転中心軸から離間した位置に作動ピンを有する第2の回転部材と、
前記第1の回転部材から前記第2の回転部材に回転力を伝達するとともに、当該回転力の伝達によって前記第2の回転部材を前記第1の回転部材よりも大きな角度で回転させる回転伝達手段と、
2つの光学フィルタと、
前記2つの光学フィルタを平面的に並べて支持するとともに、前記作動ピンに嵌合する長孔を有するフィルタ支持部材と、
前記フィルタ支持部材を一軸方向に移動自在に支持するベース部材と、
前記第1の回転部材、前記第2の回転部材および前記回転伝達手段を用いて構成されるものであって、前記作動ピンと前記長孔の嵌合状態を維持しつつ、前記第2の回転部材の回転によって前記フィルタ支持部材を移動させるとともに、前記2つの光学フィルタのうち一方の光学フィルタを入射光路上に配置した第1の配置状態と他方の光学フィルタを入射光路上に配置した第2の配置状態との間で前記フィルタ支持部材を往復移動させることにより、入射光路に対する光学フィルタの配置状態を切り替えるフィルタ切り替え手段と、
を備え、
前記第2の回転部材の回転中心軸に直交し、かつ前記フィルタ支持部材の移動方向と平行な仮想基準軸に対して、前記2つの光学フィルタが前記第1の配置状態および前記第2の配置状態にあるときの前記第2の回転部材の前記作動ピンの位置が、いずれも前記仮想基準軸から一方側にずれた位置であって前記第2の回転部材の回転角度範囲が180度未満となる位置に設定されている
ことを特徴とする絞り装置。
【請求項2】
前記フィルタ切り替え手段は、前記第1の回転部材と一体に回転するマグネットと、当該マグネットの外周面に対向して設けられた磁性体とを含み、前記光学フィルタの切り替えに必要な回転角度の半分まで前記マグネットが回転したときに、前記マグネットの各磁極と前記磁性体との間に働く磁気吸引力が互いに等しい状態となるように、前記マグネットと前記磁性体の位置関係が設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の絞り装置。
【請求項3】
前記フィルタ支持部材によって前記2つの光学フィルタを支持するとともに、一方の光学フィルタが赤外線カットフィルタであり、他方の光学フィルタがダミーフィルタである
ことを特徴とする請求項1に記載の絞り装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の絞り装置と、
前記絞り開口を通して入射する光を電気信号に変換する光電変換素子と、
を備えることを特徴とするカメラ。
【請求項5】
請求項4に記載のカメラと、
前記カメラから出力される画像信号を処理する画像処理部と、
を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−185374(P2012−185374A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49158(P2011−49158)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000231590)日本精密測器株式会社 (64)
【Fターム(参考)】