説明

絞り装置

【課題】各絞り開口制御状態での絞り駆動リングの停止位置を安定して得られるようにした、実用的な構成をした多段式の絞り装置を提供すること。
【解決手段】地板1の凹部1fの底面には、三つの穴1j〜1mが形成されていて、それらの中に、一部が底面から突き出るようにしてボール9〜11が配置されている。絞り駆動リング12には、カム溝12aの間の三つの角度範囲領域に、小さい円形の孔が、所定の角度間隔で複数個ずつ形成されている。そして、絞り駆動リング12は、最大絞り開口の制御状態においては、第1角度範囲領域の第1の孔をボール9に嵌合させており、絞り開口を1段絞ると、第1角度範囲領域の第2の孔をボール9に嵌合させ、2段絞ると、第2角度範囲領域の第1の孔をボール10に嵌合させ、3段絞ると、第3角度範囲領域の第1の孔をボール11に嵌合させるというように、順に嵌合させるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の絞り羽根の協働によって形成される絞り開口の大きさを、絞り駆動リングの往復回転によって多段階的に変化させるようにした、主に、カメラやプロジェクタなどに採用される絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数枚の絞り羽根が絞り駆動リングによって同時に同じ方向へ往復回転させられ、協働して形成している絞り開口の大きさを多段階的に変化させるようにした絞り装置(以下、多段式の絞り装置という)が知られている。そして、この種の絞り装置の場合には、複数枚の絞り羽根は、通常、地板とカバー板との間に構成された羽根室内で、光軸を中心にして略等角度間隔となるように配置されていて、地板に対して回転可能に取り付けられており、それらに設けられた連結ピンを、絞り駆動リングに形成された複数のカム溝に各々嵌合させている。
【0003】
他方、絞り駆動リングの方は、地板の羽根室側の面に光軸を中心にして環状に形成された凹部内に配置されており、地板に設けられている爪状の複数の押さえ部によって、絞り開口の制御作動中には凹部から脱出しないように構成されているが、組立時及び修理時における凹部への着脱は、作業者による挿脱作業だけで簡単に行えるようになっている。そして、この絞り駆動リングは、駆動手段によって往復回転させられると、カム溝の縁が上記の連結ピンを押すことによって、絞り羽根を往復回転させ、絞り開口の大きさを変化させるように構成されている。
【0004】
また、絞り羽根と絞り駆動リングとの重なり配置関係は、絞り羽根を、絞り駆動リングと地板との間に配置したものも知られているが、最近では、組立作業のし易さなどから、絞り駆動リングとカバー板との間に配置したものが多くなっている。更に、駆動手段としては、ステッピングモータを用いるのが普通であり、減速歯車機構を介して絞り駆動リングを往復回転させるようにしている。尚、このような構成の絞り装置は、単独でユニット化されることが多いが、カメラに用いられる場合には、シャッタ装置と共にユニット化されることがある。そして、その場合には、カバー板と、その外側に配置した第3の板部材との間に、シャッタ羽根の羽根室を構成している。
【0005】
ところで、上記の絞り駆動リングは、同じ大きさの絞り開口を制御するときには、常に同じ回転位置で停止することが要求され、次に回転させられるまでは、その停止状態を確実に維持していることが要求されている。ところが実際には、関係部品の加工精度や歯車機構のバックラッシュなどが原因となって、停止位置が、その都度、僅かに異なってしまったり、停止状態の維持が不安定になってしまったりしてしまう。そこで、そのようなことが生じないようにするための構成が、下記の特許文献1に記載されている。
【0006】
そして、特許文献1に記載されている絞り装置の場合には、絞り駆動リング又はそれと対向する地板等の部材に、細い永久磁石棒を取り付け、その永久磁石棒の磁気吸引力を利用することによって、絞り駆動リングを、各絞り制御位置で確実に位置決めできるようにしている。本発明は、このように、絞り駆動リングが、同じ大きさの絞り開口を制御するときには、常に同じ回転位置で停止し、次に回転させられるまでは、その停止状態を確実に維持できるようにした多段式の絞り装置に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−128358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多段式の絞り装置は、一般的には高級な絞り装置として知られている。それゆえに、上記のような要求がなされているわけである。そして、この種の絞り装置は、このほかにも、高級になればなるほど、絞り開口の制御段数を多くすることが要求されている。また、最近では、絞り装置の小型化も要求されており、そのためには、絞り駆動リングの外径を出来るだけ小さくする必要性にも迫られている。ところが、特許文献1に記載されているような構成の絞り装置は、実際に製品化する場合を考えると、それらの要求に応えるのが決して簡単ではない。
【0009】
即ち、この種の絞り装置の場合には、複数枚の絞り羽根との構成関係から絞り駆動リングの回転可能角度には、おのずと制限がある。そのうえで、制御段数を多くしたり、絞り駆動リングの外径を小さくしたりするためには、上記の永久磁石棒を極めて細いものにしなければならなくなる。ところが、そのように、永久磁石棒の形状を細くし、且つ所定箇所に取り付け得るようにするのは簡単なことではない。また、仮に、量産上、そのような加工が可能であるにしても、永久磁石棒を細くした上に、所定の磁気吸引力を確保し得るようにするのは容易なことではない。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、制御段数を多くしたり、装置を小型化したりしても、同じ大きさの絞り開口を制御するときには、絞り駆動リングは、常に同じ回転位置で停止し、次に回転させられるまでは、その停止状態を確実に維持することを可能にした、極めて実用的な構成をした多段式の絞り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の絞り装置は、光軸を中心に形成した円形の開口部を有しておりカバー板との間に構成した羽根室側の面には該開口部を囲むように形成した環状凹部の底面に所定の深さを有する穴を少なくとも一つ形成している地板と、前記穴に前記底面から一部が突き出るようにして回転可能に配置されているボールと、光軸を中心にして略等角度間隔で複数の細長いカム溝を形成し且つ光軸を中心にした所定の角度範囲領域に所定の角度間隔で円形の孔を複数形成しており前記凹部内において駆動手段によって往復回転させられる絞り駆動リングと、前記凹部の周りの複数箇所に取り付けられていて可撓性を有する押さえ部を前記絞り駆動リングに対して前記底面とは反対側から接触させている複数の押さえ部材と、光軸を中心にして略等角度間隔に配置されており長さ方向の一端近傍で前記地板に対して回転可能に取り付けられていて連結ピンを前記カム溝に挿入している複数枚の絞り羽根と、を備えていて、前記絞り駆動リングは、前記孔が前記ボールに嵌合した位置で回転を停止させられるようにする。
【0012】
その場合、前記押さえ部が可撓性を有しておらず、前記穴には、前記ボールの奥に圧縮コイルばねが配置されているようにしてもよい。
【0013】
前記絞り駆動リングには、前記複数の孔を形成している前記角度範囲領域が複数箇所に設けられており、前記ボールは、前記角度範囲領域ごとに一つずつ設けられていて、前記孔の一つが前記ボールの一つに嵌合しているときは、その他の前記孔がその他の前記ボールに嵌合していないようにすると、絞り駆動リングの外径を小さくして装置の小型化を図っても、制御段数を多くすることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多段式の絞り装置は、地板に形成した穴に配置されているボールと、絞り駆動リングに形成されている孔とを嵌合させることによって、各絞り開口制御位置において、絞り駆動リングを停止させるようにしたものであるから、同じ絞り開口を制御する場合には、絞り駆動リングは常に同じ位置で確実に停止され、常に同じ大きさの絞り開口を得ることができ、且つ、次に回転させられるまでは、その絞り開口を安定的に維持していることができるという利点があるほか、制御段数を多くしたり、装置を小型化したりするのに好適な構成であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例の分解斜視図である。
【図2】最大絞り開口の制御状態を、カバー板を外して示した平面図である。
【図3】図2の部分断面図である。
【図4】図2の状態における絞り駆動リングの平面図である。
【図5】絞り駆動リングの異なる制御状態を説明するための図であって、(a)は最大絞り開口から1段階小さくした絞り開口の制御状態を示したものであり、(b)は2段階小さくした絞り開口の制御状態を示したものであり、(c)は3段階小さくした絞り開口の制御状態を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、図示した実施例によって説明する。上記したように、本発明の絞り装置は、カメラやプロジェクタなどに採用可能なものであって、カメラに採用される場合には、絞り装置だけでユニット化される場合のほか、シャッタ装置と一緒にユニット化される場合もあるものである。しかしながら、それらの全てを説明するまでもないと考えるので、実施例は、絞り装置だけをユニット化したものとし、その構成説明や作動説明に際しては、便宜上、その絞り装置が、カメラに採用されていることを前提にして説明する。
【0017】
尚、図1は、実施例の分解斜視図であり、図2は、最大絞り開口の制御状態を、カバー板を外して羽根室内を示した平面図である。また、図3は、図2の部分断面図であり、図4は、図2の状態における絞り駆動リングの平面図である。更に、図5は、絞り駆動リングの異なる制御状態を説明するための図であって、(a)は最大絞り開口から1段階小さくした絞り開口の制御状態を示したものであり、(b)は2段階小さくした絞り開口の制御状態を示したものであり、(c)は3段階小さくした絞り開口の制御状態を示したものである。
【実施例】
【0018】
先ず、本実施例の構成を、主に図1〜図4を用いて説明する。本実施例の地板1は、合成樹脂製であって、その平面外形形状は略円形をしており、中央部には光軸を中心にした円形の開口部1aを有していて、外周面の2箇所には、突起状の係合部1b,1cを有している。カバー板2は、金属製であり、その平面外形形状は、地板1より若干小さい円形をしており、中央部には光軸を中心にした円形の開口部2aを有しており、外周面の2箇所には、同じ形状をした可撓性を有する折り曲げ状のフック部2b,2cが設けられている。そして、このカバー板2は、フック部2b,2cに形成されている孔を、地板1の係合部1b,1cに引っ掛けた後、二つのねじ3,4を、取付け孔2d,2eに挿入し、地板1のねじ穴1d,1eに螺合させることによって、地板1に取り付けられていて、地板1との間に羽根室を構成している。
【0019】
また、本実施例の場合には、地板1の開口部1aの直径が、カバー板2の開口部2aの直径よりも小さく、しかも、後述する絞り駆動リング12の内径よりも小さい。そのため、本実施例では、地板1の開口部1aが最大絞り開口を規制するようになっている。しかしながら、周知のように、カバー板2の開口部2aの直径を一番小さくして最大絞り開口を規制するようにしてもよいし、絞り駆動リング12の内径を一番小さくして最大絞り開口を規制するようにしてもよい。尚、本実施例では、実際には、地板1に、カメラ本体への取付け部が形成されているが、その図示が省略されている。
【0020】
次に、地板1の形状を説明する。図1に示されているように、地板1の羽根室側の面には、開口部1aを囲むようにして環状の凹部1fが形成されており、その外側には、光軸を中心にした所定の角度間隔で、環状の凹部1fよりも深さの浅い三つの段部1g,1h,1iが形成されている。また、環状の凹部1fの底面には、光軸を中心にした所定の角度間隔であって、段部1g,1h,1iの略光軸側となる位置に、所定の深さを有する三つの穴1j,1k,1mが形成されており、環状の凹部1fの外側には、光軸を中心にした略等角度間隔位置に、六つの羽根取付け孔1nが形成されている。
【0021】
また、地板1には、その一部が環状の凹部1fと重なるようにして、その凹部1fよりも深い歯車収容部1pが形成されており、その底面には軸1qが立設されている。また、その歯車収容部1pに隣接してコップ状の回転子収容部1rが、地板1の反対側の面に突き出すようにして形成されている。そして、その回転子収容部1rの底面の中心には、軸1s(図2参照)が立設されており、また、筒状の壁には、その軸1sを間にして二つずつの窓部1tが形成されているが、図1においては、それらの窓部1tの一つだけが見えている。
【0022】
そこで次に、このような地板1に取り付けられている駆動手段の構成を説明する。本実施例の駆動手段は、周知の構成をしたステッピングモータであって、回転子5と、二つのヨーク6,7と、図示していない二つの固定子コイルとからなっている。そして、回転子5は、径方向に4極に着磁された円筒状の永久磁石5aと、合成樹脂製の出力歯車5bとを一体成形したものであって、回転子収容部1r内において、上記の軸1sに回転可能に取り付けられている。また、二つのヨーク6,7は、各々、略U字形をしていて、二つの脚部の先端を上記の窓部1tから回転子収容部1r内に挿入し、固定子の磁極部として永久磁石5aの周面に対向させている。更に、図示していない二つの固定子コイルは、ヨーク6,7の一方の脚部に嵌装された図示していないボビンに巻回されている。
【0023】
次に、羽根室内の構成を説明する。上記した歯車収容部1p内の軸1qには、親子歯車8が回転可能に取り付けられている。そして、この親子歯車8は、親歯車8aを、上記の出力歯車5bに噛合させ、子歯車8bを、後述する絞り駆動リング12の歯部12bに噛合させており、回転子5の回転を減速し、絞り駆動リング12に伝えるようにしている。
【0024】
また、環状の凹部1fの底面に形成されている上記の三つの穴1j,1k,1mの中には、三つのボール9,10,11が、各々配置されているが、それらは、図3に示されているボール9のように、それらの一部を凹部1fの底面から突き出すようにして、回転可能に挿入されている。
【0025】
また、上記の環状の凹部1f内には、絞り駆動リング12が、光軸を中心にして回転可能に配置されている。そして、この絞り駆動リング12には、同じ形状をした六つの細長いカム溝12aが、光軸を中心にして略等角度間隔となるように形成されている。また、この絞り駆動リング12の外周面の一部には、歯部12bが形成されており、上記のように、親子歯車8の子歯車8bに噛合している。
【0026】
更に、絞り駆動リング12には、光軸を中心にした同一円周上の三つの所定の角度範囲領域に、合計14個の小さい孔が形成されている。即ち、図4において、略右上方となる第1の角度範囲領域には、六つの孔12c,12d,12g,12j,12n,12rが形成されており、それらのうちの五つの孔12d,12g,12j,12n,12rは等角度間隔に形成されている。また、図4において、略下方となる第2の角度範囲領域には、四つの孔12e,12h,12k,12pが等角度間隔に形成され、左上方となる第3の角度範囲領域には、四つの孔12f,12i,12m,12qが等角度間隔に形成されている。
【0027】
そして、第1の角度範囲領域における五つの孔12d,12g,12j,12n,12rの角度間隔と、第2の角度範囲領域における四つの孔12e,12h,12k,12pの角度間隔と、第3の角度範囲領域における四つの孔12f,12i,12m,12qの角度間隔は、全て同じ間隔であって、第1の角度範囲領域の孔12dと、第2の角度範囲領域の孔12eと、第3の角度範囲領域の孔12fとは、光軸を中心にして120度の角度間隔位置に形成されている。尚、これらの14個の孔の符号は、図4及び図5においては完全に付けられているが、図1及び図2においては、図面を見易くするために、省略されている。
【0028】
地板1に形成されている上記の三つの段部1g,1h,1iには、三つの押さえ部材13,14,15が、各々、ねじ16,17,18によって取り付けられている。これらの押さえ部材13,14,15は、可撓性を有する金属製の板材から製作された板ばね部材であって、その一部には突き出し加工によって押さえ部13a,14a,15aが形成されており、その押さえ部13a,14a,15aを上記の絞り駆動リング12の外周近傍部に接触させ、絞り駆動リング12を、凹部1bの底面に向けて付勢するようにしているが、それらの押さえ部13a,14a,15aのうち、押さえ部材13に形成されている押さえ部13aが、図3に明示されている。
【0029】
羽根室内において、絞り駆動リング12とカバー板2との間には、全く同じ形状をした6枚の絞り羽根19が配置されている。これらの絞り羽根19は、いずれも、地板1側に羽根軸19aと連結ピン19bとを有していて、羽根軸19aを地板1の羽根取付け孔1nに回転可能に嵌合させ、連結ピン19bを絞り駆動リング12のカム溝12aに挿入している。尚、本実施例においては、絞り羽根19を6枚備えているが、本発明の絞り羽根は6枚に限定されるものではなく、周知のように、枚数が多ければ多いほど、理想とする円形に近い形状の絞り開口が得られるようになる。
【0030】
次に、本実施例の作動を説明する。図2は、6枚の絞り羽根19が地板1の開口部1aを全開にしている状態、即ち最大の絞り開口が開口部1aによって規制されている状態を示したものである。そのため、本実施例の絞り装置がカメラに装着されている場合には、この状態が、撮影開始前の状態であって、絞り駆動リング12にとっては、この位置が作動開始の初期位置ということになる。そして、このとき、絞り駆動リング12は、押さえ部材13,14,15の押さえ部13a,14a,15aに押されていて、第1の角度範囲領域に形成されている孔12cだけが、ボール9に嵌合しており、第2の角度範囲領域に形成されている孔12e,12h,12k,12pは、いずれもボール10に嵌合していないし、第3の角度範囲領域に形成されている孔12f,12i,12m,12qは、いずれもボール11に嵌合していない。
【0031】
ここで、作動説明に入る前に、この状態における本実施例の特徴を説明しておく。上記のように、本実施例は、ボール9,10,11や押さえ部材13,14,15を備えている。しかし、もし、それらを備えていない場合には、絞り駆動リング12は、設計上で設定されている公差によって、光軸に対して直交する方向に対し若干動き得る状態になっている。また、回転子5の出力歯車5bと親子歯車8の親歯車8aとの間、及び親子歯車8の子歯車8bと絞り駆動リング12の歯部12bとの間にはバックラッシュや加工公差が存在するため、絞り駆動リング12は、回転方向へも若干動き得る状態になっている。
【0032】
そのため、カメラの構え方などによっては、それらの動きが、絞り駆動リング12に対して複合的に作用し、所定の初期位置が得られなくなってしまうことがある。そして、所定の初期位置が得られないと、それに準じて、各絞り開口の制御位置もずれてしまうことがある。そのため、絞り開口の制御段数が多くなればなるほど、しかも、小さい絞り開口の制御状態になればなるほど、所定の制御精度が得られなくなってしまうという問題が生じる。
【0033】
ところが、本実施例の場合には、図2の状態のとき、絞り駆動リング12は、三つの押さえ部材13,14,15の弾性により、地板1の凹部1fの底面側に付勢されており、しかも、絞り駆動リング12の孔12cは、ボール9に嵌合している。そのため、カメラの携帯時における振動や、撮影時におけるカメラの構え方などによって、絞り駆動リング12の初期位置が変動してしまうことがなく、常に同じ初期位置を維持し得るようになっている。しかも、本実施例の場合には、初期位置においてだけではなく、以下に説明するようにして、絞り駆動リング12に設けられた孔と地板1に設置されたボールとの嵌合によって、絞り駆動リング12は、どの絞り開口制御状態においてでも、常に同じ位置で確実に停止されるようになっている。
【0034】
そこで、このような図2の状態から行われる絞り開口の制御作動を説明する。先ず、測光装置によって測定された被写体の明るさに対応して、最大絞り開口で撮影が行われる場合がある。その場合には、絞り装置は全く作動することがなく、図2の状態のままで撮影が行われる。
【0035】
次に、絞り開口を1段階小さくして撮影する場合には、図2において、回転子5を時計方向へ回転させ、親子歯車8を介して、絞り駆動リング12を時計方向へ回転させる。そのため、6枚の絞り羽根19は、それらの連結ピン19bをカム溝12aの縁で押されることによって反時計方向へ回転させられ、開口部1a内に進入させられていく。そして、それらの絞り羽根19の協働によって所定の絞り開口が得られる段階になると、回転子5の回転が停止するが、そのときには、絞り駆動リング12は、既に、第1の角度範囲領域に形成されている孔12dがボール9の頂点と対向しているため、仮に、孔12dの中心とボール9の頂点との位置が微妙にずれているようなことがあったとしても、孔12dの縁がボール9の球面に案内されて僅かに移動させられ、所定の回転位置で停止させられる。このようにして、絞り駆動リング12の停止した状態が図5(a)に示されている。
【0036】
この図5(a)の状態から分かるように、このとき、第1の角度範囲領域に形成されている孔12dは、上記のようにしてボール9に嵌合しているが、第2の角度範囲領域に形成されている孔12eは、その中心が未だボール10の頂点に対向する位置まで達していないし、第3の角度範囲領域に形成されている孔12fの中心は、それ以上にボール11の頂点から離れている。そして、この状態において撮影が行われることになるが、既に説明した図2の状態のときと同様に、その撮影中においては、絞り駆動リング12が動いてしまうことがない。また、撮影が終了すると、絞り駆動リング12は、回転子5が反時計方向へ回転させられることによって反時計方向へ回転させられ、図2の状態で停止させられ、その状態が好適に維持される。
【0037】
また、図2の状態から、絞り開口を2段階小さくして撮影する場合には、回転子5を時計方向へ回転させ、上記の場合と同様にして、絞り駆動リング12を、図5(b)に示された状態まで、時計方向へ回転させる。そのため、このときには、第2の角度範囲領域に形成されている孔12eが、ボール10に嵌合する。しかしながら、第3の角度範囲領域に形成されている孔12fの中心は、ボール11の頂点に対向する位置まで達していないし、第1の角度範囲領域に形成されている孔12gの中心は、それ以上にボール9の頂点から離れている。そして、この状態において撮影が行われるが、絞り駆動リング12は、その撮影中に動いてしまうようなことがなく、撮影が終了すると、上記と同様にして、図2の状態に復帰させられる。
【0038】
更に、図2の状態から、絞り開口を3段階小さくして撮影する場合には、回転子5を時計方向へ回転させ、絞り駆動リング12を、図5(c)に示された状態まで、時計方向へ回転させる。そのため、このときには、第3の角度範囲領域に形成されている孔12fが、ボール11に嵌合する。しかしながら、第1の角度範囲領域に形成されている孔12gの中心は、ボール9の頂点に対向する位置まで達していないし、第2の角度範囲領域に形成されている孔12hの中心は、それ以上にボール10の頂点から離れている。そして、この状態において撮影が行われるが、絞り駆動リング12は、その撮影中に動いてしまうようなことがなく、撮影が終了すると、図2の状態に復帰させられる。
【0039】
ここまでの説明からも分かるように、本実施例の場合には、それ以後の絞り開口の制御は、三つの角度範囲領域に形成されている孔を、符号12に付けられているアルファベットの順に、各々の領域に対応して設けられているボールに対して嵌合させることによって行われる。従って、本実施例の場合には、最大絞り開口を含めて、14段階の絞り開口が常に正確に制御できるように構成されている。
【0040】
ところで、本実施例の場合には、このように構成されているが、通常の考え方からすると、14段階もの絞り開口を制御し得るようにするためには、光軸を中心にした同一円周上に、14個の孔を所定の間隔で連続的に形成するのが普通である。しかしながら、絞り駆動リング12の回転可能角度の大きさには自ずと制約がある上に、本実施例のように、絞り羽根19を6枚備えていて、しかも、装置の小型化を図るために絞り駆動リング12の外径を小さくした場合には、絞り駆動リング12の外周部にそれらを連続的に形成することは不可能になる。そこで、本実施例の場合には、上記のように、14個の孔を三つに分け、それらの相対的な配置関係を工夫することによって、それを可能にしている。
【0041】
しかしながら、本発明は、このような実施例の構成に限定されるものではない。実施例においては、絞り駆動リング12の三つの角度範囲領域に複数の孔を形成しているが、例えば、上記の第1の角度範囲領域にだけ形成するようにしても差し支えない。絞り駆動リング12に形成される複数の孔は、ボールの球面の頂点を中心にした小さい範囲の面に嵌合していればよいことから、その直径を小さくすることが可能である。そのため、それらの孔の間隔を短くすることが可能であって、本実施例のような14段階の制御は無理としても、かなりの段数の絞り制御を行えるようにすることが可能である。
【0042】
また、本実施例の上記の作動説明においては、絞り装置が、静止画像を撮影する場合のように、撮影中には絞り開口を変化させない場合を想定して説明した。しかしながら、動画撮影を行う場合には、撮影中に、被写体の明るさが変化してしまうことがあるので、そのような場合には、初期位置から回転させられ、所定の絞り開口制御状態で停止させられていた絞り駆動リング12は、その明るさの変化に対応して、その都度、絞り開口を大きくする方向へ回転させられたり、小さくする方向へ回転させられたりすることは言うまでもない。そして、そのような作動は、プロジェクタに採用された場合にも行うようにすることが知られている。
【0043】
尚、上記の実施例の場合には、押さえ部材13,14,15は、金属性の板ばね材料によって製作されていて、ねじ16,17,18によって地板1に取り付けられているが、本発明は、そのような構成に限定されず、それらの押さえ部材13,14,15に相当する部位が、合成樹脂材料で、地板1と一体成形されているようにしても構わない。そして、そのように製作した場合には、絞り駆動リング12の外周部に、特許文献1に記載されているような逃げ部を形成すれば、絞り駆動リング12の着脱が可能になる。
【0044】
また、実施例の場合には、押さえ部材13,14,15が可撓性を有していて、それらの弾性によって、絞り駆動リング12を凹部1fの底面方向に付勢しているが、それらには、可撓性を付与せず、凹部1fの穴2j,1k,1mには、ボール9,10,11の奥に、圧縮コイルばねを配置し、ボール9,10,11を絞り駆動リング12側に付勢するようにしても構わない。そして、このことは、上記のように、押さえ部材13,14,15を、地板1と一体成形する場合にも言えることである。
【符号の説明】
【0045】
1 地板
1a,2a 開口部
1b,1c 係合部
1d,1e ねじ穴
1f 凹部
1g,1h,1i 段部
1j,1k,m 穴
1n 羽根取付け孔
1p 歯車収容部
1q,1s 軸
1r 回転子収容部
1t 窓部
2 カバー板
2b,2c フック部
2d,2e 取付け孔
3,4,16,17,18 ねじ
5 回転子
5a 永久磁石
5b 出力歯車
6,7 ヨーク
8 親子歯車
8a 親歯車
8b 子歯車
9,10,11 ボール
12 絞り駆動リング
12a カム溝
12b 歯部
12c〜12k,12m,12n,12q〜12r 孔
13,14,15 押さえ部材
13a,14a,15a 押さえ部
19 絞り羽根
19a 羽根軸
19b 連結ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸を中心に形成した円形の開口部を有しておりカバー板との間に構成した羽根室側の面には該開口部を囲むように形成した環状凹部の底面に所定の深さを有する穴を少なくとも一つ形成している地板と、前記穴に前記底面から一部が突き出るようにして回転可能に配置されているボールと、光軸を中心にして略等角度間隔で複数の細長いカム溝を形成し且つ光軸を中心にした所定の角度範囲領域に所定の角度間隔で円形の孔を複数形成しており前記凹部内において駆動手段によって往復回転させられる絞り駆動リングと、前記凹部の周りの複数箇所に取り付けられていて可撓性を有する押さえ部を前記絞り駆動リングに対して前記底面とは反対側から接触させている複数の押さえ部材と、光軸を中心にして略等角度間隔に配置されており長さ方向の一端近傍で前記地板に対して回転可能に取り付けられていて連結ピンを前記カム溝に挿入している複数枚の絞り羽根と、を備えていて、前記絞り駆動リングは、前記孔が前記ボールに嵌合した位置で回転を停止させられるようにしたことを特徴とする絞り装置。
【請求項2】
前記押さえ部が可撓性を有しておらず、前記穴には、前記ボールの奥に圧縮コイルばねが配置されているようにしたことを特徴とする請求項1に記載の絞り装置。
【請求項3】
前記絞り駆動リングには、前記複数の孔を形成している前記角度範囲領域が複数箇所に設けられており、前記ボールは、前記角度範囲領域ごとに一つずつ設けられていて、前記孔の一つが前記ボールの一つに嵌合しているときは、その他の前記孔がその他の前記ボールに嵌合していないようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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