説明

絣調織編布帛

【課題】天然パルプ抄造紙に成る紙糸を使用して耐水性に優れ、可撓性に富み、而も、天然パルプ抄造紙固有の感触・風合いを保持し、表装材等に適した織編布帛を得る。
【解決手段】坪量10〜40g/m2 の天然パルプ抄造紙を裁断して幅1.5〜15mmの紙テープとし、加撚して甘撚紙糸11とし、織編布帛に使用する。紙テープは、撚斑が発生し、強撚部21の撚数が甘撚部22の撚数の3倍以上になるように撚数40〜200回/mで加撚する。甘撚部と強撚部の外観上の相違によって絣調地模様が描出され、デザイン的に付加価値の高い織編布帛が得られる。又、内部隙間14や外部溝隙間19が甘撚紙糸の内外に発生するので、水系樹脂組成物と共に機能性物質を付与し、耐水性や機能性に優れた織編布帛を得ることが出来る。水系樹脂組成物や機能性物質は、隙間14・19に吸着保持されるので、天然パルプ抄造紙固有の感触・風合いを損なうことはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙を裁断して成る紙テープを加撚した加撚紙糸によって構成される紙製織編布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物から採取される天然パルプ(植物短繊維)を原料とする天然パルプ抄造紙は、水に濡れて破れ易い。従って、天然パルプ抄造紙に成る紙糸を用いた紙布も水に弱いものと考えられている。そのため、ポリエステル繊維やアクリル繊維等の多種多様な合成繊維を安価に入手することが出来る現代においては、天然パルプ抄造紙を用いた紙布は殆ど実用されていない。
【0003】
しかし、紙糸や紙布に耐水性を付与するための研究は、今もなお続けられている。その紙糸や紙布に耐水性を付与して強度アップを図る手段としては、天然パルプ抄造紙の抄造時の原料である天然パルプに耐水性バインダー、例えば、エポキシ化ポリアミド樹脂を添加する樹脂添加抄造法(例えば、特許文献1、2、3参照)、および、補強糸条を紙糸に捲撚被覆、或いは、紙糸を補強糸条に捲撚被覆する捲撚被覆法(例えば、特許文献4、5、6参照)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平08−060473号公報(特許第2994209号)
【特許文献2】特開平09−188928号公報(特許第3432689号)
【特許文献3】特開2001−200441号公報
【特許文献4】実公昭15−015406号公報
【特許文献5】特開2002−194642号公報
【特許文献6】特開2002−194667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂添加抄造法と捲撚被覆法の何れの方法においても、得られる紙糸は、プラスチック・モノフィラメント調であって吸湿性を欠き、天然パルプ抄造紙固有の感触・風合いを喪失している。
【0006】
荷造りや梱包に使用される太い紙紐も知られている。しかし、太い紙紐を使用したのでは、カーテン地、壁装内装材、表装材等に適した可撓な紙布は得られない。第一、荷造り紐は、太く剛直なので編機には適用することが出来ない。
【0007】
そこで本発明は、天然パルプ抄造紙に成る紙糸を使用して耐水性に優れ、可撓性に富み、而も、天然パルプ抄造紙固有の感触・風合いを保持し、ロールスクリーンやパネルカーテン等のカーテン地、壁装内装材、表装材等に適した紙製織編布帛を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る織編布帛は、坪量10〜40g/m2 の天然パルプ抄造紙を裁断して成る幅1.5〜15mmの紙テープを加撚して成り、平均撚数が40〜200回/mであり、撚数の最大となる強撚部21の撚数(H)が撚数の最小となる甘撚部22の撚数(L)の3倍以上となる撚斑のある甘撚紙糸11が織編込まれており、強撚部21と甘撚部22との外観上の相違による絣調地模様が描出されていることを第1の特徴とする。
【0009】
本発明に係る織編布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、甘撚紙糸11の内部に隙間14・19があり、水系樹脂組成物が甘撚紙糸11に付与されており、水系樹脂組成物が甘撚紙糸11の内部の隙間14・19に浸入して固着している点にある。
【0010】
本発明に係る織編布帛の第3の特徴は、上記第1と第2の何れかの特徴に加えて、織編目12において交絡する紙糸間が水系樹脂組成物によって接合されている点にある。
【0011】
本発明に係る織編布帛の第4の特徴は、上記第2と第3の何れかの特徴に加えて、水系樹脂組成物が水溶性難燃剤を含有している点にある。
【0012】
本発明に係る織編布帛の第5の特徴は、上記第4の特徴に加えて、水溶性難燃剤がリン酸グアニジンである点にある。
【0013】
本発明に係る織編布帛の第6の特徴は、上記第2と第3と第4と第5の特徴に加えて、水系樹脂組成物が着色成分を含有している点にある。
【発明の効果】
【0014】
坪量40g/m2 の天然パルプ抄造紙の厚みは概して50μm以下であり、幅が1.5mmの紙テープでは、その断面の扁平率は30となる。従って、本発明において使用する坪量10〜40g/m2 の天然パルプ抄造紙を裁断して成る幅1.5〜15mmの紙テープの断面の扁平率は30以上となる。
そのように薄く扁平な紙テープを加撚し始めると、その撚数に応じた数箇所で紙テープが捩じれ、その捩じれた箇所では紙テープが幅方向に2つ折りになって重なり、その重なり合う表裏の紙面間に隙間14が発生する。
加撚し続けると、紙テープの全長に亙って略均等に捩じれが発生し、紙テープ全体が2重折りになり、表裏の紙面間に内部隙間14が紙テープの全長に亙って発生する。
更に加撚し続けると、所々に撚目20が細かく発生し、幅方向に紙テープが絞り込まれ、扁平断面の紙テープから円形断面の紙糸に変形する。
そのように絞り込まれて幅を縮めると、紙糸の長さ方向に続く縦皺が発生し、その縦皺の数に応じて紙糸の内部隙間14が細かく分かれ、同時に、縦皺に沿って外部に溝(19)が発生し、その外部溝隙間19が撚目となって紙糸の周面に細かく現われる。
【0015】
こうして発生する内部隙間14や外部溝隙間19は、撚数が増えるにつれて狭まり、隙間14・19において向き合う紙面と紙面が強固に密着し、遂には閉鎖されてしまう。
その閉鎖された状態では、水系樹脂組成物や染液等の流動性組成物や液体が、紙糸内部に滲み込まず、紙糸の周面にだけ付着し、紙糸の周面だけが濡れて膨潤する。
そして、膨潤した紙糸の周面は止水層となり、水系樹脂組成物や染液等は益々紙糸内部に滲み込み難くなる。
この点、加撚前の紙テープには内部隙間14や外部溝隙間19がないので、粘性のない液体は、紙テープを構成している天然パルプ繊維間の微細な隙間や繊維内部に吸収されるとしても、樹脂粒子が細かく分散して粘性を帯びた水系樹脂組成物では、その樹脂粒子が紙テープに吸収されることはなく、濾紙に濾し分けられるように紙テープの外面に付着するだけとなる。
本発明の甘撚紙糸11は、坪量10〜40g/m2 の天然パルプ抄造紙を裁断して成る幅1.5〜15mmの紙テープを加撚したものであり、その内外に内部隙間14や外部溝隙間19が形成されており、その撚数が40〜200回/mと少ないので内部隙間14や外部溝隙間19は閉鎖されることなく介在し、その紙面と紙面に挟まれた内部隙間14や外部溝隙間19に毛細管現象が起きる。
【0016】
このため、本発明の甘撚紙糸11では、水系樹脂組成物が粘性を帯びていても、内部隙間14や外部溝隙間19に浸入して固着し、その固着した水系樹脂組成物によって甘撚紙糸11に耐水性が付与される。
その水系樹脂組成物13が着色成分を含有していれば、天然パルプ抄造紙の坪量が10〜40g/m2 なので内部隙間14や外部溝隙間19に固着した着色成分の色彩が滲み出て加撚紙糸11が着色され、難燃剤や消臭剤、芳香剤、抗菌剤、害虫忌避剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の機能性物質を含有していれば、それらの物質の機能性が加撚紙糸11に付与される。
その着色成分や機能性物質は、外部からは擦り取ることの出来ない内部隙間14や外部溝隙間19に固着しているので、耐水性を有し、耐久性が高く、変褪色することなく、機能性に優れた紙製織編布帛が得られることになる。
【0017】
甘撚紙糸11の周面、即ち、隣り合う撚目20と撚目20の間は、水系樹脂組成物が垂れ落ち易い平坦な平面になっている。
このため、甘撚紙糸11の周面には、その周面が湿潤する程度の水系樹脂組成物しか固着せず、その垂れ落ちることなく僅かに固着した水系樹脂組成物によって極薄皮膜が形成されることになる。
そして、内部隙間14や外部溝隙間19に水系樹脂組成物が固着しているのであれば、その固着した水系樹脂組成物によって所要の物性や機能性が紙糸11に付与されることになるので、水系樹脂組成物を増粘して甘撚紙糸11の周面に厚く固着させる必要はなく、却って水系樹脂組成物を増粘すれば、毛細管現象による内部隙間14や外部溝隙間19への浸入効果は薄れる。
そのように、水系樹脂組成物を増粘する必要がないので、水系樹脂組成物は、甘撚紙糸11の周面に極薄皮膜を形成することになる。
【0018】
そのように水系樹脂組成物を付与し易く、その付与する水系樹脂組成物が肌身に直接触れることのない内部隙間14や外部溝隙間19に吸着保持されるので、水系樹脂組成物によって天然パルプ抄造紙固有の感触・風合いが損なわれることがなく、耐水性や難燃性等の所要の物性や機能性を付与することの出来る織編布帛が得られる。
そのように水系樹脂組成物が内部隙間14や外部溝隙間19に吸着保持されるので、内部隙間14や外部溝隙間19の多い強撚部21には、内部隙間14や外部溝隙間19の少ない甘撚部22に比して水系樹脂組成物が多く吸着保持されることになる。
従って、水系樹脂組成物13が着色成分を含有していれば、強撚部21が甘撚部22に比して濃く着色されることになり、強撚部21と甘撚部22との外観上の差異が一層鮮明になり、強撚部21と甘撚部22との外観上の相違によって描出される絣調地模様が一層鮮明になる。
【0019】
本発明において、撚数を40回/m以上とするのは、加撚する紙テープの全長にわたって撚目20が発生して内部隙間14を形成するためである。
撚数を200回/m以下とするのは、内部隙間14が閉鎖されることなく介在し、紙テープの全長にわたって毛細管現象が起きるようにするためである。
それと共に、坪量が10〜40g/m2 であり、幅が1.5mmであり、断面の扁平率が30以下の紙テープを、撚数が40〜200回/mとなる範囲において加撚するとき、紙テープの全長に亙って撚目20が均等には発生せず、紙テープが捩じれて2つ折りになって撚目20のピッチの長い撚数の粗い平坦なテープ状の太い甘撚部22と、紙テープが絞り込まれて実撚紡績糸の如く円形断面形状に変形した撚目20のピッチの長い撚数の緻密な細い強撚部21とがランダムに発生し、甘撚紙糸は、スラブヤーンやネップヤーン等の意匠撚糸や絣糸の如き観を呈する。
【0020】
従って、本発明に係る紙製織編布帛は、そのように甘撚部22と強撚部21の外観上の相違によって絣調地模様を有し、デザイン的にも付加価値が高く、又、扁平断面形状を維持していて太く見える甘撚部22が、円形断面形状に変形していて細く見える強撚部21と繊度が同じであり、而も、甘撚部22が、2つ折りなった扁平断面形状を成すので、強撚部21に比して曲折し易く、織編布帛全体として可撓性に富み、且つ又、甘撚紙糸は、木綿繊維や麻繊維等の植物繊維糸条と同様に植物繊維である天然パルプを素材原料としていても、その植物繊維(天然パルプ)の長さ方向が一定方向に揃えられていないので、吸湿膨潤するとしても伸縮変化することがなく、寸法安定性に優れているので、ロールスクリーンやパネルカーテン等のカーテン地に好適なものとなる。
【0021】
そして、扁平断面形状を維持していて太く見える甘撚部22は、円形断面形状に変形していて細く見える強撚部21に比して厚紙や台紙、裏打紙等の基材との接触面積が広くなるので、それらの基材に接着し易く、本発明に係る織編布帛は、それを基材に貼り合わせて使用される壁装内装材、表装材等に好適なものとなる。
特に、本発明に係る紙製織編布帛を裏打紙に貼り合わせて壁装内装材や表装材等として使用するときは、壁面下地等に貼り合わせるために裏面に水系接着剤を塗工しても、織編布帛と裏打紙が共に吸湿して膨潤し易い天然パルプを素材原料としているので、それらの湿潤膨潤差に起因する伸縮差は発生せず、従って、その伸縮差に起因する端縁での反り上がり(カール)が発生せず、平坦に拡布された状態を維持するので、施工し易い壁装内装材や表装材等が得られる。
【0022】
又、甘撚紙糸は、木綿繊維や麻繊維等の植物繊維糸条に比して着色剤、難燃剤や消臭剤、芳香剤、抗菌剤、害虫忌避剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の機能性物質が吸着し易く、特に、難燃剤を付与したものでは、火炎に接して紙糸が炭化し、炭素繊維と同様の不燃物に変化するので、不燃カーテンや不燃壁装内装材を得る上で、本発明は頗る好都合である。
【0023】
このように、本発明によると、天然パルプ抄造紙固有の感触・風合いを保持し、甘撚部22と強撚部21の外観上の相違による絣調地模様が描出されてデザイン的にも付加価値が高く、ロールスクリーンやパネルカーテン等のカーテン地、壁装内装材、表装材等に適した紙糸に成る紙製織編布帛を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明において「織編布帛」とは、織布と編布の総称であり、その編布には緯編布と経編布が含まれる。甘撚紙糸は、織編布帛を構成する全ての糸条に適用することが望ましいが、織布では、通常の繊維糸条を経糸に用い、緯糸にだけ紙糸を用い、又、経編布では、ニードルループを形成しない挿入糸にだけ紙糸を用いることが出来る。
そのように甘撚紙糸を通常の紡績糸やマルチフィラメント糸等の繊維糸条と併用する場合、甘撚紙糸の繊度を繊維糸条よりも太くし、天然パルプ抄造紙固有の感触・風合いが繊維糸条によって損なわれないようにする。
【0025】
甘撚紙糸には、坪量10〜20g/m2 の極薄抄造紙、好ましくは和紙を用い、その紙テープの幅は2〜10mm、好ましくは2〜5mmにするとよい。
そのように紙テープの幅を細くすると、甘撚紙糸に発生する内部隙間14や外部溝隙間19も細かくなって押し潰され難くなるので好都合である。
強撚部21の撚数(H)と甘撚部22の撚数(L)とは、それぞれ甘撚紙糸の長さ2cmの部分での撚数を測定して比較し、強撚部21の撚数(H)が甘撚部22の撚数(L)
の3倍以上、好ましくは5倍以上になるように、甘撚紙糸11の平均撚数を設定する。
撚数が増えるにつれて、撚目20と撚目20の間のピッチが平均化され、紙テープが絞り込まれて実撚紡績糸の如く円形断面形状に変形し、強撚部21と甘撚部22との差異が少なくなる。
従って、強撚部21と甘撚部22との差異が明確な甘撚紙糸11を得るためには、その平均撚数を100回/m以下に、好ましくは45〜75回/mに設定し、坪量15g/m2 前後の極薄抄造紙を使用し、その紙テープの幅を2〜5mmに設定することが推奨される。
【0026】
坪量15g/m2 前後の極薄抄造紙を使用した幅2mmの紙テープ、幅4mmの紙テープ、幅10mmの紙テープに成る加撚紙糸の繊度は、それぞれ概して300dtex、600dtex、1500dtexとなる。
坪量40g/m2 前後の極薄抄造紙を使用した幅2mmの紙テープ、幅4mmの紙テープ、幅10mmの紙テープに成る加撚紙糸の繊度は、それぞれ概して800dtex、1600dtex、4000dtexとなる。
繊度が5000dtexを超える太手の加撚紙糸を使用すると、織編布帛の可撓性が損なわれ、カーテン地や壁装内装材、表装材等に好適な織編布帛は得難い。
しかし、織編布帛のデザイン構成の都合上、5000dtexを超える太手の紙糸を必要とする場合もある。
そのような場合には、5000dtexを超える太手の加撚紙糸ではなく、2000dtex未満の加撚紙糸、好ましくは1000dtex未満の加撚紙糸、例えば坪量15g/m2 前後の極薄抄造紙を使用した幅4mmの紙テープに成る600dtex前後の加撚紙糸に成るリリーヤーン、例えば、600dtex前後の加撚紙糸を経編機によって鎖編に編成した経編リリーヤーン、或いは、600dtex前後の複数本の加撚紙糸を組み上げた組紐リリーヤーンを使用することが推奨される。
【0027】
甘撚紙糸に付与する水系樹脂組成物には、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル三元共重合体エマルジョン、酢酸ビニル・アクリル酸共重合体エマルジョン等の酢酸ビニル系エマルジョン樹脂が使用されるが、耐水性の点では変性酢酸ビニル・アクリル共重合体エマルジョンかエチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル三元共重合体エマルジョンを用いることが望ましく、更に好ましくは、甘撚紙糸に硬い紙質の感触を付与する上ではエチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル三元共重合体エマルジョンを用いる。
着色成分を含む水系樹脂組成物としては、アマニ油と松ヤニを出発原料とするテルペン樹脂に顔料を配合したステイン塗料のように乾性塗膜を形成する水性塗料を使用するとよい。
着色成分を含む水系樹脂組成物としては柿渋を使用することが出来、その場合、着色成分は媒染剤によって発色処理される。
着色成分は、染料、顔料、柿渋等の樹液の何れであってもよい。
【0028】
水系樹脂組成物の甘撚紙糸への付与量(乾燥質量)は、甘撚紙糸の質量以下にする。即ち、目付が100g/m2 の織編布帛に対する水系樹脂組成物の付与量(乾燥質量)は、100g/m2 以下、好ましくは70〜95g/m2 にする。
【0029】
水系樹脂組成物は、甘撚紙糸の原料である天然パルプ抄造紙や紙テープにではなく、加撚された甘撚紙糸それ自体に直接付与される。
何故なら、天然パルプ抄造紙や紙テープに付与したのでは、水系樹脂組成物を吸着保持する内部隙間14や外部溝隙間19を甘撚紙糸に設ける意味がなくなるからである。
水系樹脂組成物は、織編布帛を構成する前の甘撚紙糸に付与してもよく、又、織編布帛を構成している甘撚紙糸、つまり紙製織編布帛に付与してもよい。
しかし、織編布帛に付与するときは、その織編目において交絡する甘撚紙糸と甘撚紙糸の間が水系樹脂組成物によって接着固定され、織編布帛の寸法・形状安定性が高まる。
【0030】
甘撚紙糸を不燃化するために水系樹脂組成物に配合する難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸グアニジンが好適に使用される。
特に、水系樹脂組成物にエチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル三元共重合体エマルジョンを使用する場合には、リン酸グアニジンを難燃剤として配合することが望ましい。
紙製織編布帛の不燃化のためには、織密度や編密度を粗くして織編布帛の目付を120g/m2 以下に、好ましくは90〜100g/m2 にし、紙製織編布帛に対するリン酸グアニジンの付着量が20〜30g/m2 になるようにすることが望ましい。
【0031】
本発明では、難燃剤が直接火炎に触れない内部隙間14や外部溝隙間19に水系樹脂組成物と共に介在するので、火炎に接して直ちに分解し、不燃性ガスを放出することなく、徐々に放出することになる。
そのように、不燃性ガスを徐々に放出する過程において、甘撚紙糸は、高温加熱されて炭化し、炭素繊維と同様の不燃性炭化物となり、完全に灰燼となって消失することがなく、その不燃性炭化物として生じる残渣分だけ可燃分解ガスの発生が抑えられる。
即ち、火炎にあって紙製織編布帛が灰燼となって消失することがなく、炭素繊維に成る不燃性織編布帛としての形状を留めることになる。
そのように防炎性能の高い紙製織編布帛が得られるので、高い防炎性能の求められる自動車、列車、航空機等のカーテン地や壁装内装材に、本発明の紙製織編布帛は特に好適である。
【0032】
紙製織編布帛にはエンボス加工を施すことが出来る。
そのエンボスは、織編布帛の片面の一部が他の片面に押し出されるように施す必要はなく、紙糸11の内部隙間14や外部溝隙間19が押し潰されて変形する程度の所謂ペーパーエンボスでよい。
何故なら、甘撚紙糸は、繊維糸条と異なって粘弾性を有せず、略完全に塑性変形し、経時的に原形を弾性回復することはない。
そして、エンボス付形された押圧箇所では、撚目(撚山)が押し潰されて平滑面となり、撚目(撚山)による細かい起伏や凹凸のある非押圧箇所との表面光沢の差によって鮮明に看取されるからである。
従って、ジャカードやドビー等の柄出し装置によって図柄模様を描出することなく、エンボス加工によって簡便且つ効率的に図柄模様を描出することが出来る点でも、本発明に係る紙製織編布帛は実用的である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る紙製織編布帛の斜視図である。
【図2】本発明に係る甘撚紙糸の斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
11:紙糸
12:織編目
14:内部隙間
19:外部溝隙間
20:撚目
21:強撚部
22:甘撚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坪量10〜40g/m2 の天然パルプ抄造紙を裁断して成る幅1.5〜15mmの紙テープを加撚して成り、平均撚数が40〜200回/mであり、撚斑があって撚数の最大となる強撚部(21)の撚数(H)が撚数の最小となる甘撚部(22)の撚数(L)の3倍以上である甘撚紙糸(11)が織編込まれており、強撚部(21)と甘撚部(22)との外観上の相違による絣調地模様が描出されている絣調織編布帛。
【請求項2】
甘撚紙糸(11)の内部に隙間(14・19)があり、水系樹脂組成物が甘撚紙糸(11)に付与されており、水系樹脂組成物が甘撚紙糸(11)の内部の隙間(14・19)に浸入して固着している前掲請求項1に記載の絣調織編布帛。
【請求項3】
織編目(12)において交絡する紙糸間が水系樹脂組成物によって接合されている前掲請求項1と2に記載の絣調織編布帛。
【請求項4】
水系樹脂組成物が水溶性難燃剤を含有している前掲請求項2と3の何れかに記載の絣調織編布帛。
【請求項5】
水溶性難燃剤がリン酸グアニジンである前掲請求項4に記載の絣調織編布帛。
【請求項6】
水系樹脂組成物が着色成分を含有している前掲請求項2と3と4と5の何れかに記載の絣調織編布帛。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−7689(P2009−7689A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168714(P2007−168714)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(505242633)株式会社和紙空間 (5)
【Fターム(参考)】