説明

絵具組成物

【課題】盛り上げ用絵具や造形用賦形剤において、塗布した形状を保ち、乾燥が速く、各種基材に強い接着性を持ち、かつその塗膜が柔軟で弾力に富む、水性の絵具組成物を提供する。
【解決手段】柔軟性があり、弾力に富む塗膜を形成する水性の組成物を得るためには、下記の構成成分が必要となる。即ち少なくとも1種または2種以上のスチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョン及びまたは、1種または2種以上のポリウレタンディスパージョンは必須である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性絵具組成物、特に画面に厚く盛り上げて描画できる水性絵具組成物に関する。また、描画に限らず、立体的な装飾を施すための造形用賦形剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油絵具は溶き油でかなり薄めて描く技法から、チューブから絵具を絞り出したままで塗りつける技法まで、画面の厚みに変化を持たせることが容易であるが、水性であるいわゆる水彩絵具は、画面に厚く盛り上げて描画するとひび割れを生じるので、水性絵具で厚く盛り上げて描くことはできなかった。
【0003】
水性において、盛り上げ用絵具や造形用賦形剤に関する提案には以下に示す特許文献1〜6のものがあった。
【特許文献1】特開昭48−53825号公報
【特許文献2】特開昭54−56530号公報
【特許文献3】特開昭58−157866号公報
【特許文献4】特開昭59−56464号公報
【特許文献5】特開平3−290473号公報
【特許文献6】特開2003−201422号公報
【0004】
上記提案の(特許文献1)は水性の造形用賦形剤に関するものであり、(特許文献2)〜(特許文献6)は水性の盛り上げ用絵具に関するものである。(特許文献1)は合成樹脂エマルジョンに白色系無機顔料を添加した組成の賦形剤である。(特許文献2)は水溶性接着剤と石膏を含む絵具の製造方法である。(特許文献3)は顔料とポリビニルアルコールとデキストリンからなる基材に、繊維質材料を含むことを特徴とした水性絵具組成物である。(特許文献4)は顔料と焼石膏と水溶性有機溶剤からなる水性絵具組成物である。(特許文献5)は粘度と化粧土とエチルアルコールに溶かされたアクリル絵具と締結剤からなる水性絵具組成物である。(特許文献6)はセメントと無機系骨材と混和剤からなる組成物である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述先行技術(特許文献2)(特許文献4)(特許文献5)(特許文献6)のように、盛り上げ用絵具では無機質材料が多く必要とされるためと思われるが、(特許文献3)を含め塗膜の高度や弾力を柔軟化しようとした提案は無い。(特許文献1)公報には軟らかさや弾力性のある皮膜が得られるとの記述があるものの、必須各組成の成分や配合量に関し、詳細な開示がなされていない。本発明は盛り上げ用絵具や造形用賦形剤において、塗布した形状を保ち、乾燥が速く、各種基材に強い接着性を持ち、かつその塗膜が柔軟で弾力に富む、水性の絵具組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
柔軟性があり、弾力に富む塗膜を形成する水性の組成物を得るためには、下記の構成成分が必要となる。即ち少なくとも1種または2種以上のスチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョン及びまたは、1種または2種以上のポリウレタンディスパージョンは必須である。また必要に応じて体質顔料、着色剤としての無機顔料や有機顔料を含んでも良く、さらに該組成物を所定形状の押し出し口を備えた容器に充填したことでさらに使用の利便性が良くなる。さらに本発明は、前記組成物を用いて立体的な装飾を施す造形方法でもある。
【発明の効果】
【0007】
本組成物は、クリームのような形状を施すことができるので、例えば、デコレーションケーキの上に飾られるホイップクリームのような装飾を立体または平面で表すことができる。本組成物を押し出して塗ることによって、ホイップクリームのように表面がなめらかでやわらかい質感を持ち、触らなければ形が崩れない程度の硬さのあるクリームを表現できる。また、本組成物が乾燥した後でも、形状や表面のなめらかさは維持される。
【0008】
また、本組成物を使用して、所定形状の押し出し口を持つ容器から基材へ装飾を加えると、マヨネーズを絞りだしたような形や、生クリームをホイップしたような形、ケーキのモンブランのような線状の形をもった、特徴的な立体装飾を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(スチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョン、ポリウレタンディスパージョン)
本発明は少なくとも1種または2種以上のスチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョン及びまたは、1種または2種以上のポリウレタンディスパージョンは必須であるが、スチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョンとしては、スチレン・ブタジエン共重合体(スチレン量5〜40重量%)が使用可能である。具体的な例示としては、JSR社製商品名「0561」(固形分69重量%)、同社製品名「2853」(固形分50重量%)、同社製品名「0602」(固形分52重量%)、日本エイアンドエル(株)社製「ナルスター SR-102」、「ナルスター SR-103」、日本ゼオン(株)社製「Nipol LX110」(固形分40.5重量%)などが好適に使用できる。ポリウレタンディスパージョンとしては、脂肪族ポリウレタンディスパージョン、ポリイソシアネート、水分散型ウレタン樹脂が使用可能である。具体的な例示としては、住化バイエルウレタン(株)社製「バイヒドロールPR240」(溶剤形態 水60重量%)、同社商品名「バイヒドロールPR340」(溶剤形態 水60重量%)、ダイセルサイテック(株)社製「7770」(固形分35重量%)、ポリウレタン工業(株)社製「アクアネート100」(固形分100重量%)、同社製品名「アクアネート 105」、大日本インキ化学工業(株)社製「HYDRAN HW-311」(固形分44〜46重量%)、同社製品名「SpensolL53」(固形分29〜31重量%)などが好適に使用できる。
【0010】
スチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョンやポリウレタンディスパージョンは、両者を混合して使用することもでき、それぞれは複数種類を混合して使用してもよい。塗膜の柔軟性や弾力はこれらに依存するところが大きく、目的とする軟らかさに応じて任意に混合して使用することができる。スチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョンやポリウレタンディスパージョンは、組成物中20重量%〜90重量%(固形分;13重量%〜63重量%)とすることができる。少なすぎる場合は粉っぽくなるので形がきれいに形成できなくなり、多すぎる場合には粘度が低く成形できないというような不具合が生じる。よって、より好ましい配合量としては組成物中50重量%〜80重量%(固形分;34重量%〜56重量%)であることが望ましい。
【0011】
(体質顔料)
画面上で立体的な盛り上げを施したり、被装飾体上にチューブ等から組成物を絞り出したままの形状を維持するためには、体質顔料を添加する必要がある。体質顔料を添加すると、適度な粘性が得られるために塗布後の乾燥までの形状の変化が少なく、乾燥後の体積の減少が低減できる。使用できる体質顔料としては、特に限定されていないが無色から白色が好ましく、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、石膏、炭酸バリウム、アルミナホワイトなどが好適に用いることができる。体質顔料は組成物中、1重量%〜50重量%とすることができる。少なすぎる場合は盛り上がりや形が維持できる粘度がなくなり、多すぎる場合には粘土のようにかたく、粘度が高く、液体の質感での盛り上げが出来ないというような不具合が生じる。よって、より好ましい配合量としては組成物中15重量%〜30重量%であることが望ましい。
【0012】
(着色剤)
着色剤としては、有機顔料、無機顔料を使用することができる。有機顔料としてはフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、モノアゾ系、イソインドリン系、モノアリライドイエローなど が好適に用いることができる。無機顔料としては酸化チタン、鉄黄、ニッケルチタネート、クロムチタネート、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化鉄粉、べんがら、カドミウムレッド、鉄/マグネシウム系ブラック、鉄黒、カーボンブラック、複合金属酸化物系、クロムオキサイドグリーンなどが好適に用いることができる。着色剤は有機顔料、無機顔料に限定されることはなく、必要に応じて パール顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、雲母 なども好適に用いることができる。
【0013】
着色剤は組成物中、0.1重量%〜50重量%とすることができる。少なすぎる場合は絵具の組成物としての色味がなく、多すぎる場合には粘度が高くなり、成型し難いというような不具合が生じる。よって、より好ましい配合量としては組成物中0.1重量%〜10重量%であることが望ましい。
【0014】
その他の添加剤も必要に応じ、添加することができる。例えば、流動パラフィンを、押し出しをする場合の滑剤や押し出した形を保持するため、またはしっとりとした質感を得るために加えてもよい。他に、水溶性有機溶剤、界面活性剤、防腐防黴剤、防錆剤、消泡剤、酸化防止剤、光安定剤などを必要に応じ添加してよい。
【0015】
本組成物は所定形状の押し出し口を持つ容器に充填し、この容器から直接基材に絞り出すことによって、所定形状の立体装飾を基材に施すことができる。押し出し口の形状は、星型、丸型など任意に設定する事ができる。押し出し口の材質や大きさに関しても、金属、プラスチック成型品などで、0.1mm口径から5cm口径ほど(容器の大きさに対応した大きさ)のように、任意に構成することができる。
【実施例】
【0016】
表1に本発明の実施例及び比較例を示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表中の数値は重量%を示し、組成物の詳細を以下にに示す。
(1)SBRエマルション(2583);JSR社製スチレンブタジエンラバー、商品名「2853」(固形分50重量%)
(2)SBRエマルション(0602);JSR社製スチレンブタジエンラバー、商品名「0602」(固形分52重量%)
(3)ポリウレタンディスパージョン(バイヒドロールPR340);住化バイエルウレタン(株)社製ポリウレタンディスパージョン、商品名「バイヒドロールPR340」(溶剤形態 水重量60%)
(4)ポリウレタンディスパージョン(バイヒドロールVPLS2952);住化バイエルウレタン(株)社製ポリウレタンディスパージョン、商品名「バイヒドロールVPLS2952」(溶剤形態 水重量60%)
(5)流動パラフィン;三光化学工業社製、商品名 ホワイトミネラルオイル
(6)炭酸カルシウム;近江化学工業社製、商品名 炭酸カルシウム
(7)酸化チタン;チタン工業社製、商品名 酸化チタンKA−10
(8)顔料;野間化学社製、商品名 レッドSR−200P
(9)香料;高砂香料社製、商品名 サクラ
【0019】
(評価)
(クリームのようななめらかでやわらかい質感の装飾ができる)
評価方法:クリームのような質感に見えるか目視で観察した。
評価基準
○;クリームのように見える。
×;見えない。
(立体的な盛り上がりを保持できる)
評価方法:成形された形が乾燥後に変化しているか目視で観察した。
評価基準
○;変化していない。
×;形がくずれている。
(乾燥が早い)
評価方法:押出した後15〜20分で手で触り手につくかつかないかを見る。
評価基準
○;手につかない。
×;手につく。
(ひび割れしない)
評価方法:乾燥後の表面の様子を目視で観察した。
評価基準
○;表面がなめらかで割れていない。
×;表面がところどころ割れている。
【0020】
以上の結果から本発明は、立体的な表現が容易にでき、立体造形を自由に形成できる効果を有すると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種又は2種以上のスチレン−ブタジエンラテックスのエマルジョン及びまたは、1種又は2種以上のポリウレタンディスパージョンを含む賦形用絵具組成物。
【請求項2】
さらに体質顔料が含まれている請求項1記載の絵具組成物。
【請求項3】
さらに着色剤としての無機顔料及び/又は有機顔料が含まれている請求項1乃至2記載の絵具組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載した絵具組成物を、所定形状の押し出し口を備えた容器に充填したことを特徴とする絵具。
【請求項5】
請求項4記載の絵具を用いて立体的な装飾を施す造形方法。

【公開番号】特開2007−154019(P2007−154019A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350522(P2005−350522)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】