説明

絵柄印刷塗膜及び絵柄印刷塗膜形成用塗料組成物

【課題】被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも効率良く、鮮映で均一な画質が得られるうえ、従来の印刷方式では表現できなかった凹凸による触感までをも表現することができる絵柄印刷塗膜及び絵柄印刷塗膜形成用塗料組成物を提供する。
【解決手段】シーラー層2及び水性ベース塗膜3が形成された被印刷物1上に、孔版印刷システムにより粒状印刷剤を絵柄状に落下印刷して粒状印刷絵柄4を形成した後、水性クリヤー塗膜5で被覆することにより、被印刷物1の被印刷面に起伏があった場合でも効率良く、鮮映で均一な画質が得られるうえ、従来の印刷方式では表現できなかった凹凸による触感までをも表現できる絵柄印刷塗膜10及び絵柄印刷塗膜形成用塗料組成物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絵柄印刷塗膜及び絵柄印刷塗膜形成用塗料組成物に関し、特に、凹凸による触感を表現できる絵柄印刷塗膜及び絵柄印刷塗膜形成用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
被印刷物上に絵柄を形成する手法の一つとして、孔版印刷が挙げられる。この孔版印刷は、スクリーン印刷に代表されるように、絵柄を形成した孔版を作成してインキ等の着色樹脂粒子を版穴から押し出し、孔版の下に配置した被印刷物上に印刷するものである。
【0003】
例えばスクリーン印刷では、絵柄を形成した孔版は、ナイロン、テトロン、ステンレス等の織物を枠に張り、光工学的方法等で版膜(レジスト)を形成することで絵柄以外の織物の目を塞ぎ作成する。インキ等の着色樹脂粒子は、孔版の上からスキージと呼ばれるヘラ状のゴム板で加圧され、孔版の版膜のない部分の版穴を透過し、孔版の下の被印刷物上に絵柄が形成される。
【0004】
このスクリーン印刷によれば、被印刷物上に印刷されたインキ層を厚くすることができるうえ、孔版が柔軟であるので被印刷物の形状にとらわれることがなく、曲面や立体的なものであっても印刷が可能である。
【0005】
しかしながら、従来の孔版印刷では、孔版と被印刷物とを接触させる必要があったため、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合には印刷がほとんど不可能であった。また、孔版と被印刷物とが接触しているため、高速印刷に対応したロータリー式の印刷装置では、孔版の回転速度と被印刷物の搬送速度は同期せざるを得なかった。このため、被印刷物の印刷長さ等の印刷条件を変更する際には、孔版の交換や回転速度の変更をその都度行う必要があり、量産性を低下させていた。
【0006】
このような不具合を解決すべく、様々な印刷方式が考案されており、例えば、孔版と被印刷物を離隔し、インキ等の着色樹脂粒子を帯電させ、版孔からブラシ等により帯電した着色樹脂粒子を押し出し、孔版と被印刷物との間に静電場を形成することで、着色樹脂粒子を被印刷物に付着させる印刷方式が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
この方式によれば、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも、効率良く均一な画質を印刷することが可能である。また、孔版と被印刷物を離隔しているので、孔版の回転速度と被印刷物の搬送速度を同期させる必要がない。また、被印刷物の印刷長さ等の印刷条件を変更する際にも、孔版の交換等を行う必要がなく、孔版の回転速度と被印刷物の搬送速度の連動した変化により、高い量産性を維持したまま印刷条件の変更を実現できる。
【特許文献1】特開2003−182024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている印刷方式では、用いることができる着色樹脂粒子は、摩擦により帯電する粉体塗料等に限定されてしまう。さらには、形成される印刷面上の着色樹脂粒子層は薄く平滑で、凹凸を形成することは困難であり、印刷面に凹凸による触感を表現することは不可能であった。具体的には、例えば、被印刷物が砂岩調の壁用の建材である場合に砂岩調の色彩や模様を印刷はできるが、砂岩調の触感までは表現することができなかった。
【0009】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも効率良く、鮮映で均一な画質が得られるうえ、従来の印刷方式では表現できなかった凹凸による触感までをも表現することができる絵柄印刷塗膜及び絵柄印刷塗膜形成用塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた。その結果、シーラー層及び水性ベース塗膜が形成された被印刷物上に、孔版印刷システムにより粒状印刷剤を絵柄状に落下印刷して粒状印刷絵柄を形成した後、水性クリヤー塗膜で被覆することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 被印刷物上に形成された絵柄印刷塗膜であって、前記被印刷物の表面を被覆するシーラー層と、前記シーラー層を被覆する水性ベース塗膜と、前記水性ベース塗膜上に形成された粒状印刷絵柄と、前記水性ベース塗膜及び前記粒状印刷絵柄を被覆する水性クリヤー塗膜と、を有し、前記粒状印刷絵柄は、孔版印刷システムにより粒状印刷剤を絵柄状に落下印刷して形成されたものであり、前記粒状印刷剤を構成する粒子は、その体積の少なくとも1/10が前記水性ベース塗膜中に埋没しており、前記埋没している部分の前記水性ベース塗膜中における顔料体積濃度は、臨界顔料体積濃度以下である絵柄印刷塗膜。
【0012】
(2) 前記水性クリヤー塗膜は、光輝材、染料、顔料、及び、意匠性添加剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する(1)又は(2)記載の絵柄印刷塗膜。
【0013】
(3) (1)又は(2)記載の絵柄印刷塗膜の形成に用いられる水性ベース塗料組成物であって、アクリルエマルション及びアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂と、チクソトロピーインデックスを1.5以上5以下に調整する粘性制御剤と、を含有する水性ベース塗料組成物。
【0014】
(4) (1)又は(2)記載の絵柄印刷塗膜の形成に用いられる粒状印刷剤であって、砂、硅砂、カラーサンド、ビーズ、カラーチップ、鉱物チップ、ガラスチップ、木質チップ、顔料、及び、カラービーズよりなる群から選ばれる少なくとも一種である粒状印刷剤。
【0015】
(5) (1)又は(2)記載の絵柄印刷塗膜の形成に用いられる水性クリヤー塗料組成物であって、アクリルエマルション及びアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂を含有する水性クリヤー塗料組成物。
【0016】
(6) 光輝材、染料、顔料、及び、意匠性添加剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種をさらに含有する(5)記載の水性クリヤー塗料組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鮮映で均一な画質が得られるうえ、従来の印刷方式では表現できなかった凹凸による触感までをも表現することができる絵柄印刷塗膜及び絵柄印刷塗膜形成用塗料組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
<絵柄印刷塗膜>
本発明に係る絵柄印刷塗膜10の断面図を図1に示す。図1に示すように、本発明に係る絵柄印刷塗膜10は、被印刷物1にシーラー層2、水性ベース塗膜3、粒状印刷絵柄4、水性クリヤー塗膜5が順次、形成されたものである。また、図1からも明らかであるように、塗膜の表面には凹凸が形成されており、凹凸による触感を表現することができるものとなっている。
【0020】
<被印刷物>
本発明で用いられる被印刷物1としては特に限定されず、例えば、窯業サイディング材等を用いることができる。
【0021】
<シーラー層>
シーラー層2は、シーラー塗料組成物をエアーレススプレー等で塗装することにより形成される。シーラー層2を形成するのに用いられるシーラー塗料組成物としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、日本ペイント株式会社製アクリルエマルションシーラー「オーデタイト126シーラー」を用いることができる。
【0022】
<水性ベース塗膜>
水性ベース塗膜3を形成するために用いられる水性ベース塗料組成物としては、アクリルエマルション及びアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂と、チクソトロピーインデックスを1.5以上5以下に調整する粘性制御剤と、を含有する水性ベース塗料組成物が好ましく用いられる。アクリルエマルションとしては、従来公知のものを用いることができ、例えば、アクリル系モノマーと必要に応じて他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合させたものを用いることができる。具体的には、アクリル系モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、n−ブチルエステル、i−ブチルエステル、t−ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、ラウリルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、2−ヒドロキシエチルエステル、2−ヒドロキシプロピルエステルの他、プラクセルFM−1(メタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルのポリカプロラクタン付加物、ダイセル化学工業株式会社製)、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0023】
また、アクリルシリコンエマルションについても、従来公知のものを用いることができる。具体的には、上記のアクリルエマルションにオルガノポリシロキサンをグラフト重合したものや、エチレン性不飽和基を有するアルコキシシランモノマーとエチレン性不飽和モノマーとを共重合させたものの他に、アルコキシシラン又はその加水分解縮合物の存在下でアルコキシシリル基と反応する官能基を有するアクリルモノマーとエチレン性不飽和モノマーとを共重合させて得られたものを挙げることができる。エチレン性不飽和基を有するアルコキシシランモノマーとしては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシブチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。なお、粒状印刷剤を落下印刷する前に、例えば、グラビア印刷を挟むこともでき、この際に水性ベース塗膜3が乾燥してしまう場合には、粒状印刷剤を落下させる直前に透明タイプの水性ベース塗膜をさらに追加塗装してもよい。
【0024】
さらには、粘性制御剤についても、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ヒドロキシエチルセルロース等の繊維素誘導体系、変性ポリアクリルスルホン酸塩等のポリアクリル酸系、ポリエーテルウレタン変性物等のポリエーテル系、有機ベントナイト系等を用いることができる。
【0025】
ここで、チクソトロピーインデックス(TI値)とは、揺変性を示す指標であり、温度一定下で攪拌するとゾル状になり、これを放置すると再びゲル状に戻る性質を意味する。顔料粒子の特性やビヒクルにもよるが、分散系でよく見られる。これは、外力によってゲルの内部構造が破壊されて流動性が増すが、静置すると粒子間の結合が再現するためである。一般に、ペーストのような分散系では回転速度に応じて粘度値が低下するが、異なる回転速度aとb(a>b)における粘度値の比を取ったものがチクソトロピーインデックスである。このチクソトロピーインデックスについては、(旧)JIS−K−5400.4.5.3の参考試験、回転粘度計による非ニュートン性の評価に準拠した方法により測定することができる。
【0026】
具体的には、本発明で用いられる水性ベース塗料組成物の好ましいチクソトロピーインデックスは、1.5以上5以下である。チクソトロピーインデックスが1.5未満である場合には、塗装後、粒状印刷剤を落下埋没させるまでに被印刷物凸部の塗料が流下し、粒状印刷剤の埋没が不十分になるため好ましくない。また、5を越える場合には、塗装ベース塗膜に凹凸が発生するため好ましくない。
【0027】
<粒状印刷絵柄>
本発明で用いられる粒状印刷絵柄4は、孔版印刷システムにより粒状印刷剤を絵柄状に落下印刷して形成されたものである。即ち、水性ベース塗膜3上に粒状印刷剤を自然落下させて絵柄を形成したものであり、粒状印刷剤を構成する粒子は、その体積の少なくとも1/10が水性ベース塗膜3中に埋没したものとなっている。従って、粒状印刷剤を構成する粒子の全ての部分が水性ベース塗膜中に埋没することはなく、少なくともその一部は水性ベース塗膜の表面に露出しているため、従来の印刷方式では表現できなかった凹凸による触感を表現することができる。
【0028】
ここで、「粒状印刷剤を構成する粒子は、その体積の少なくとも1/10が水性ベース塗膜3中に埋没している」とは、粒状印刷剤を構成する粒子の大部分において、その体積の少なくとも1/10が水性ベース塗膜3中に埋没していることを意味する。なお、粒状印刷剤を構成する粒子が水性ベース塗膜3中に埋没している様子については、電子顕微鏡を利用して絵柄印刷塗膜10を断面拡大観察等することにより、確認することができる。具体的には、断面拡大観察結果から、粒状印刷剤を構成する各粒子の体積に対する、水性ベース塗膜中に埋没している各粒子の埋没部分の体積の割合を平均して求めることができる。
【0029】
また、水性ベース塗膜中に埋没している粒状印刷絵柄構成粒子の埋没部の水性ベース塗膜中における顔料体積濃度は、臨界顔料体積濃度以下である。埋没部の顔料体積濃度が臨界顔料体積濃度を越える場合には、埋没部における水性ベース塗膜が脆弱になり、層間剥離し易くなるため好ましくない。なお、埋没部の水性ベース塗膜中における顔料体積濃度については、塗装面1cmあたりの顔料体積濃度として、下式により求めることができる。下式において、Aは水性ベース塗膜中の顔料体積(cm)、Bは粒状印刷剤の埋没体積(cm)、Cは水性ベース塗膜中の樹脂体積(cm)を示す。
【0030】
【数1】

【0031】
また、臨界顔料濃度については、下式により求めることができる。ただし、吸油量については、JIS−K−5101に準拠した方法により測定することができる。
【数2】

【0032】
粒状印刷絵柄4を形成するのに好適に用いられる孔版印刷システムの概略構成図を図2に示す。図2に示すように、この孔版印刷システムは、搬送装置12と、搬送装置12の上に設置され、円筒状の孔版21A及び孔版21Aの内側に接合されるドクターユニット22等を備える孔版印刷装置11と、搬送装置12の下流に配置された固着装置13と、飛散した粒状印刷剤を回収する一対の第1の粒状印刷剤回収装置33と、第2の粒状印刷剤回収装置34と、第1、第2の粒状印刷剤回収装置で回収した粒状印刷剤を孔版印刷装置11に戻す粒状印刷剤循環手段35とから構成されている。
【0033】
図2における孔版印刷装置11の拡大断面図を図3に示す。図3に示すように、シーラー層及び水性ベース塗膜が順次形成された被印刷物31は、搬送装置12により搬送され、搬送中に孔版印刷装置11から粒状印刷剤26が落下されることで粒状印刷絵柄4が形成される。固着装置13による硬化処理は、水性クリヤー塗膜5を形成する前であってもよく、形成後であってもよい。
【0034】
粒状印刷剤としては、砂、硅砂、カラーサンド、ビーズ、カラーチップ、鉱物チップ、ガラスチップ、木質チップ(例えば、シーナリーパウダー等)、顔料、カラービーズ等を用いることができ、粒度や比重が小さく僅かな空気の流れで舞い上がらない粒状物が好ましく用いられる。
【0035】
粒状印刷剤の大きさは、円筒状の孔版21Aに設けられた版孔27の孔径の1/20以上1/2以下の平均粒子径であることが好ましい。粒状印刷剤の平均粒子径が、版孔27の孔径の1/20未満であると、絵柄の凹凸が少なくなり触感が弱くなるため好ましくなく、1/2を越えると、版孔に詰まり易くなり絵柄が不安定になるため好ましくない。
【0036】
<水性クリヤー塗膜>
水性クリヤー塗膜5を形成するために用いられる水性クリヤー塗料組成物としては、アクリルエマルション及びアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂を含有する水性クリヤー塗料組成物が好ましく用いられる。アクリルエマルション及びアクリルシリコンエマルションとしては、水性ベース塗膜3と同様、上記で例示したものが好ましく用いられる。
【0037】
水性クリヤー塗膜5は、光輝材、染料、顔料、及び、意匠性添加剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。これらは、水性クリヤー塗膜5が透明性を維持できる範囲内で配合することができ、いずれも従来公知のものを用いることができる。例えば、光輝材としては、カラーマイカ、樹脂フレークやガラスフレークの金属コート品等を用いることができる。また、顔料としては、一般に使用される塗料用顔料を用いることができるが、絵柄が見えるように、添加量は3体積%以下であることが好ましい。意匠性添加剤としては、樹脂ビーズ、樹脂カラービーズ、ガラスフレーク等を用いることができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
被印刷物として、シーラー(日本ペイント株式会社製シーラー「オーデタイト126シーラー」)で処理済みであるエンボス柄付きの窯業サイディング材を準備した。窯業サイディング材としては、セメント系のものを用いた。この被印刷物に、水性ベース塗料として、チクソトロピーインデックスが3であるアクリルエマルション塗料(日本ペイント株式会社製「オーデプリント400」)をエアースプレー塗装した。水性ベース塗料の塗布量は、100g/mとした。
【0040】
次いで、図2に示した孔版印刷装置を用いて粒状印刷絵柄を形成した。具体的には、孔版印刷装置の開孔率を30%に設定し、孔径の1/4に相当する粒径を有するカラー珪砂(粒径範囲0.2mm〜0.5mm)からなる粒状印刷剤を用いて粒状印刷絵柄を形成した。孔版印刷は、水性ベース塗料塗装直後に実施し、粒状印刷剤の塗布量は50g/mとした。
【0041】
最後に、水性クリヤー塗料として、光輝材を2%含有したアクリルエマルション塗料(日本ペイント株式会社製「オーデプリント200」)をエアースプレー塗装した。水性クリヤー塗料の塗布量は、60g/mとした。
【0042】
<実施例2>
実施例1で用いたものと同様の水性ベース塗料を塗布して10分間20℃の室温下で静置した後、さらに追加水性ベース塗料を塗装した以外は、実施例1と同様にして絵柄印刷塗膜を形成した。なお、追加水性ベース塗料としては、チクソトロピーインデックスが2.6である透明タイプのアクリルエマルション塗料(日本ペイント株式会社製「オーデプリント400(透明)」)を用い、これを塗布量50g/mとしてエアースプレー塗装した。
【0043】
<比較例1>
水性ベース塗料の塗布量を80g/mとし、孔径の2/3に相当する粒径を有するカラー珪砂(粒径範囲0.4mm〜2.0mm)からなる粒状印刷剤を用いて、その塗布量を40g/mとした以外は、実施例1と同様にして絵柄印刷塗膜を形成した。
【0044】
<比較例2>
粒状印刷剤の塗布量を200g/mとした以外は、実施例1と同様にして絵柄印刷塗膜を形成した。
【0045】
<比較例3>
孔版印刷装置の代わりにスクリーン印刷機(株式会社橋場グランド製の試作刷版及び印刷台)を用い、粒状印刷剤としてインキ(東洋インキ製造株式会社製「2液反応型インキ」)をスキージを用いて60g/m塗布した以外は、実施例1と同様にして絵柄印刷塗膜を形成した。なお、スクリーン印刷は、水性ベース塗料塗装後、乾燥してから実施した。
【0046】
<評価>
実施例及び比較例により得られた絵柄印刷塗膜について、肉眼による印刷絵柄の鮮映性の評価、JIS−K−5400.8.5.2に準拠した方法(2mm間隔で実施)による付着性の評価、触感による触感性の評価、電子顕微鏡(株式会社キーエンス製「VHX−100」)を用いた断面拡大観察による埋没度の評価を行った。具体的には、埋没度として、粒状印刷剤を構成する各粒子の体積に対する、水性ベース塗膜中に埋没している各粒子の埋没部分の体積の割合を平均して求めた。また、埋没部の水性ベース塗膜中における顔料体積濃度及び臨界顔料体積濃度を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示す通り、埋没度が1/10以上であり、且つ、埋没部の水性ベース塗膜中における顔料体積濃度が臨界顔料体積濃度以下であるのは実施例のみであることが確認された。また、印刷絵柄の鮮映性、付着性、触感性いずれにおいても、良好な結果が得られたのは実施例のみであった。この結果から、本発明に係る絵柄印刷塗膜は、均一で鮮映な画質が得られるうえ、従来の印刷方式では表現できなかった凹凸による触感までをも表現することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る絵柄印刷塗膜の断面図である。
【図2】孔版印刷装置の概略構成図である。
【図3】図2の孔版印刷装置付近の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 被印刷物
2 シーラー層
3 水性ベース塗膜
4 粒状印刷絵柄
5 水性クリヤー塗膜
10 絵柄印刷塗膜
11 孔版印刷装置
12 搬送装置
13 固着装置
21A 孔版
22 ドクターユニット
23 粒状印刷剤均し装置
24 版カバー
25 孔つまり対策用エアーノズル
26 粒状印刷剤
27 版孔
28 ドクター
31 被印刷物
32 搬送コンベヤー
33 第1の粒状印刷剤回収装置
34 第2の粒状印刷剤回収装置
35 粒状印刷剤循環手段
36 ヒーター
37 固着装置部コンベヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物上に形成された絵柄印刷塗膜であって、
前記被印刷物の表面を被覆するシーラー層と、
前記シーラー層を被覆する水性ベース塗膜と、
前記水性ベース塗膜上に形成された粒状印刷絵柄と、
前記水性ベース塗膜及び前記粒状印刷絵柄を被覆する水性クリヤー塗膜と、を有し、
前記粒状印刷絵柄は、孔版印刷システムにより粒状印刷剤を絵柄状に落下印刷して形成されたものであり、
前記粒状印刷剤を構成する粒子は、その体積の少なくとも1/10が前記水性ベース塗膜中に埋没しており、
前記埋没している部分の前記水性ベース塗膜中における顔料体積濃度は、臨界顔料体積濃度以下である絵柄印刷塗膜。
【請求項2】
前記水性クリヤー塗膜は、光輝材、染料、顔料、及び、意匠性添加剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する請求項1記載の絵柄印刷塗膜。
【請求項3】
請求項1又は2記載の絵柄印刷塗膜の形成に用いられる水性ベース塗料組成物であって、
アクリルエマルション及びアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂と、
チクソトロピーインデックスを1.5以上5以下に調整する粘性制御剤と、を含有する水性ベース塗料組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の絵柄印刷塗膜の形成に用いられる粒状印刷剤であって、
砂、硅砂、カラーサンド、ビーズ、カラーチップ、鉱物チップ、ガラスチップ、木質チップ、顔料、及び、カラービーズよりなる群から選ばれる少なくとも一種である粒状印刷剤。
【請求項5】
請求項1又は2記載の絵柄印刷塗膜の形成に用いられる水性クリヤー塗料組成物であって、
アクリルエマルション及びアクリルシリコンエマルションのうち少なくとも一方を含む塗膜形成性樹脂を含有する水性クリヤー塗料組成物。
【請求項6】
光輝材、染料、顔料、及び、意匠性添加剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種をさらに含有する請求項5記載の水性クリヤー塗料組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−198588(P2006−198588A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15896(P2005−15896)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】