説明

絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム及び、該コントロールシステムを使用した試験装置

【課題】この発明は、物質の劣化、促進に関わる試験装置において、試験槽内の温度及び湿度の設定値の設定ミスを無くして作業効率を向上し、湿度移行を早めて湿度安定性を向上することができる絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム及び試験装置を実現することを目的とする。
【解決手段】この発明は、絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムにおいて、制御手段は、温度及び絶対湿度を試験槽内の温度及び湿度の設定値として設定可能な温湿度設定手段と、試験槽内の乾球温度と湿球温度とから相対湿度を求めるとともに求めた相対湿度を絶対湿度に変換する湿度変換手段とを備え、湿度変換手段で求めた絶対湿度に基づいて試験槽内の温度及び湿度が温湿度設定手段で設定した設定値の温度及び絶対湿度になるように加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御することを特徴とする絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム及び試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム及び、該コントロールシステムを使用した試験装置に係り、特に、試験槽内の温度及び湿度の設定値の設定ミスを無くして作業効率を向上し、湿度移行を早めて湿度安定性を向上することができる絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム及び、該コントロールシステムを使用した試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の劣化、促進に関わる試験装置においては、試験槽内に設置した被試験体の腐食試験を行うために、試験槽内の温度及び湿度が設定値になるように、温湿度調整コントロールシステムにより制御している。
【0003】
温湿度調整コントロールシステムには、加圧空気供給装置から供給される加圧空気に振動子で発生した霧化蒸気を加えて加圧加湿空気を生成するとともに、生成した加圧加湿空気を試験槽内に供給する加湿空気供給装置を備え、絶対湿度センサで検出した試験槽内の加湿空気の絶対湿度が予め設定した設定値よりも高いときは振動子を停止し、試験槽内の絶対湿度が設定値よりも低いときは振動子を作動させて加湿空気の絶対湿度を一定にするオン・オフ制御を行うものがある。(特許文献1)
【0004】
また、温湿度調整コントロールシステムには、風洞の入口側の温湿度から得られる入口空気絶対湿度と予め設定した目標出口絶対湿度とを比較し、入口空気絶対湿度が目標出口絶対湿度以上の場合は目標冷却機出口温度を目標出口絶対湿度に対応する露点温度とし、入口空気絶対湿度が目標出口絶対湿度未満の場合は目標冷却機出口温度を入口空気絶対湿度に対応する露点温度とし、目標冷却機出口温度と風洞内の冷却機下流側の温度が同一になるように冷却機を制御し、風洞の出口側の温度が目標温度となるように加熱器(ヒータ)と加湿機(加湿空気生成装置)の少なくとも一方を制御するものがある。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−51428号公報
【特許文献2】特開平8−5131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、試験槽内の湿度の設定値を相対湿度を用いて設定する温湿度設定方法では、設定する相対湿度の値は設定した乾球温度における飽和蒸気圧に対する蒸気圧の比率であるので、相対湿度100%を越える設定は存在し得ない。また、湿度設定のミスによって設定した乾球温度よりも乾球温度が上昇することはない。
【0007】
これに対して、試験槽内の湿度の設定値を絶対湿度を用いて設定する温湿度設定方法では、設定する絶対湿度の値は空気1m又は1kg中に含まれる水蒸気の量(g)なので、絶対湿度の設定値を設定可能な湿度範囲以上の値に設定した場合は、加湿機(加湿空気生成装置)の蒸気発生用のヒータが連続通電状態になり、乾球温度が設定値を越えてしまうことになり、設定値と大きくかけ離れた間違った試験となってしまう。
【0008】
このため、絶対湿度を用いて設定する場合は、湿度設定のミスによって目標値の温湿度にならないばかりか、温度が異常に上昇してしまう問題がある。また、絶対湿度を用いた設定を間違いなく行うためには、湿り空気線図等を手に持ち、線図から設定値を読み取り設定しなくてはならなず、作業性を損なわせる問題がある。
【0009】
また、試験槽内の湿度制御において、振動子やヒータをオン・オフ制御して試験槽内の湿度を調整する加湿機(加湿空気生成装置)では、設定値に追従して変化するのが難しく、各種の試験条件を組み合わせて行う複合サイクル試験等では試験条件を変化させるたびに、湿度が変動しやすい傾向にあり、腐食試験の再現性に影響を与えることもある。
【0010】
この発明は、試験槽内の温度及び湿度の設定値の設定ミスを無くして作業効率を向上し、湿度移行を早めて湿度安定性を向上することができる絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム及び試験装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の請求項1は、物質の劣化、促進に関わる試験装置の試験槽内に供給される空気に水分を加えて加湿空気を生成する加湿空気生成装置を備え、前記加湿空気生成装置で生成された加湿空気の温度を調整する温度調整装置を備え、前記試験槽内の温度及び湿度が設定値になるように絶対湿度に基づいて前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御する制御手段を備える絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムにおいて、前記制御手段は、温度及び絶対湿度を前記試験槽内の温度及び湿度の設定値として設定可能な温湿度設定手段と、前記試験槽内の乾球温度と湿球温度とから相対湿度を求めるとともに求めた相対湿度を絶対湿度に変換する湿度変換手段とを備え、前記湿度変換手段で求めた絶対湿度に基づいて前記試験槽内の温度及び湿度が前記温湿度設定手段で設定した設定値の温度及び絶対湿度になるように前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御することを特徴とする。
【0012】
この発明の請求項2は、物質の劣化、促進に関わる試験装置の試験槽内に供給される空気に水分を加えて加湿空気を生成する加湿空気生成装置を備え、前記加湿空気生成装置で生成された加湿空気の温度を調整する温度調整装置を備え、前記試験槽内の温度及び湿度が設定値になるように絶対湿度に基づいて前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御する制御手段を備える絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムにおいて、前記制御手段は、温度及び絶対湿度を前記試験槽内の温度及び湿度の設定値として設定可能な温湿度設定手段と、前記温湿度設定手段で設定した温度及び絶対湿度付近の、相対湿度と絶対湿度との関係を表示する温湿度関係表示手段とを備え、前記試験槽内の温度及び湿度が前記温湿度設定手段で設定した設定値の温度及び絶対湿度になるように前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御することを特徴とする。
この発明の請求項3は、前記加湿空気生成装置は、前記試験槽に供給される加湿空気量を自動で変更可能な加湿空気量変更手段を備えていることを特徴とする。
この発明の請求項4は、請求項1〜請求項3に記載の技術的思想を用いた試験装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明の請求項1及び請求項3の絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムは、絶対湿度による温湿度制御を行い、湿度設定の変更にともなう、適切な空気量になるよう加湿空気量を変更することで、温度変動に対して湿度を追従させることができ、一つの試験槽において、複数の試験条件を組み合わせて行う複合サイクル試験では、特に各試験の切り替わり時の湿度移行が早く、確実に行うことができる。これにより、温湿度調整コントロールシステムは、湿度の移行スピードがより速くなり、また、湿度安定性の向上により、試験結果の再現性を向上することができる。
【0014】
この発明の請求項2及び請求項3の絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムは、温湿度設定手段で設定した温度及び絶対湿度付近の、相対湿度と絶対湿度との関係を表示する機能を有するので、表示された内容で相対湿度と絶対湿度との関係を確認しながら迅速に設定を行うことができる。これにより、温湿度調整コントロールシステムは、温度及び絶対湿度の設定時間を短縮して設定ミスを無くすことができ、作業性を向上することができる。
この発明の請求項4の試験装置は、上述の温湿度調整コントロールシステムを搭載することによって、温湿度安定性の良い試験を迅速・確実に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムのシステム構成図である。(実施例)
【図2】図2は湿り空気線図及び制御手段を示す図である。(実施例)
【図3】図3(A)は温湿度調整コントロールシステムを搭載した試験装置の正面図、図3(B)は温湿度調整コントロールシステムを搭載した試験装置の右側面図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0017】
図1〜図3は、この発明の実施例を示すものである。図1において、1は絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム、2は物質の劣化、促進に関わる試験を行う複合サイクル試験装置である。試験装置2は、図3に示すように、被試験体Sを配置する試験槽3を備え、試験槽3に対して隔壁4で循環空気通路5を区画形成している。試験装置2は、試験槽3内に供給される空気に水分を加えて加湿空気を生成する加湿空気生成装置6を備え、加湿空気生成装置6で生成された加湿空気の温度を調整する温度調整装置7を備えている。
【0018】
加湿空気生成装置6は、水を加熱して蒸気を発生するヒータ8を備えている。また、加湿空気生成装置6は、試験槽3に供給される加湿空気量を自動で変更可能な加湿空気量変更手段として、回転を無段階に変更可能なエアポンプ9を備えている。加湿空気生成装置6は、ヒータ8によって発生した蒸気により加湿空気を生成し、エアポンプ9によって加湿空気量を無段階に変更して温度調整装置7に供給する。
【0019】
温度調整装置7は、循環空気通路5内に、循環空気を冷却する冷却器10と循環空気を加熱する加熱器11と循環空気を送風する送風機12とを配置している。温度調整装置7は、加湿空気生成装置6から供給される循環空気の温度を、冷却器10と加熱器11とで調整し、送風機12で試験槽3に送り込む。
【0020】
加湿空気生成装置6のヒータ8とエアポンプ9、及び温度調整装置7の冷却器10と加熱器11と送風機12は、温湿度調整コントロールシステム1の制御手段13に接続されている。制御手段13には、試験槽3に配置した乾球温度測定器14と湿球温度測定器15とを接続している。
【0021】
制御手段13は、図2に示すように、温度及び絶対湿度を試験槽3内の温度及び湿度の設定値として設定可能な温湿度設定手段16と、試験槽3内の乾球温度と湿球温度とから相対湿度を求めるとともに求めた相対湿度を絶対湿度に変換する湿度変換手段17と、温湿度設定手段16で設定した温度及び絶対湿度付近の、相対湿度と絶対湿度との関係を表示する温湿度関係表示手段18とを備えている。
【0022】
絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム1は、制御手段13によって、乾球温度測定器14と湿球温度測定器15との検出した試験槽3内の乾球温度と湿球温度とから湿度変換手段17により相対湿度と絶対湿度とを求め、湿度変換手段17で求めた絶対湿度に基づいて、試験槽3内の温度及び湿度が温湿度設定手段16で設定した設定値の温度及び絶対湿度になるように、加湿空気生成装置6によりヒータ8とエアポンプ9及び温度調整装置7の冷却器10と加熱器11と送風機12を制御する。
【0023】
次に作用を説明する。
この温湿度調整コントロールシステム1は、試験装置2の試験槽3に被試験体Sを設置して試験を行う際に、制御手段13の温湿度設定手段16によって試験槽3内の温度及び湿度の設定値として温度及び絶対湿度を設定する。このとき、制御手段13は、温湿度関係表示手段18によって、温湿度設定手段16で設定した温度及び絶対湿度付近の、相対湿度と絶対湿度との関係を、図2に示すような湿り空気線図等により数値で表示する。
【0024】
試験を行う者は、温湿度関係表示手段18に表示された湿り空気線図等の内容を参照することで、相対湿度と絶対湿度との関係を確認しながら、試験槽3の温度及び湿度の設定値を迅速に設定することができる。これにより、温湿度調整コントロールシステム1は、温度及び絶対湿度の設定時間を短縮して設定ミスを無くすことができ、作業性を向上することができる。
【0025】
また、この温湿度調整コントロールシステム1は、制御手段13によって、温湿度設定手段16で設定した絶対湿度による温湿度制御を行い、加湿空気生成装置6のヒータ8を無段階の電流出力制御を行い、かつエアポンプ9の回転を無段階に変えることで、湿度設定の変更にともなう、適切な空気量になるよう加湿空気量を無段階に変更し、温度変動に対して湿度を、追従させることができる。この温湿度調整コントロールシステム1は、試験装置2で複数の試験条件を組み合わせて行う複合サイクル試験では、特に各試験の切り替わり時の湿度移行が早く、確実に行うことができる。
【0026】
これにより、温湿度調整コントロールシステム1は、湿度の移行スピードがより速くなり、湿度安定性の向上により、試験結果の再現性を向上することができる。また、試験装置2は、上述の温湿度調整コントロールシステム1を搭載することによって、被試験体Sの試験を迅速・確実に実施することができる。
【0027】
なお、この実施例においては、加湿空気量変更手段として、回転を無段階に変えることができるエアポンプ9を設け、加湿空気量を連続的に変化させて供給したが、エアポンプ9と加湿空気生成装置6との間に電磁弁19を設け、電磁弁19をON・OFFすることで、加湿空気を間欠的に供給することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は、試験槽内の温度及び湿度の設定値の設定ミスを無くして作業効率を向上し、湿度移行を早めて湿度安定性を向上することができるものであり、試験を単独で行う試験装置だけでなく、複合サイクル試験を行う試験装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 温湿度調整コントロールシステム
2 試験装置
3 試験槽
4 隔壁
5 循環空気通路
6 加湿空気生成装置
7 温度調整装置
8 ヒータ
9 エアポンプ
10 冷却器
11 加熱器
12 送風機
13 制御手段
14 乾球温度測定器
15 湿球温度測定器
16 温湿度設定手段
17 湿度変換手段
18 温湿度関係表示手段
19 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の劣化、促進に関わる試験機の試験槽内に供給される空気に水分を加えて加湿空気を生成する加湿空気生成装置を備え、前記加湿空気生成装置で生成された加湿空気の温度を調整する温度調整装置を備え、前記試験槽内の温度及び湿度が設定値になるように絶対湿度に基づいて前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御する制御手段を備える絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムにおいて、前記制御手段は、温度及び絶対湿度を前記試験槽内の温度及び湿度の設定値として設定可能な温湿度設定手段と、前記試験槽内の乾球温度と湿球温度とから相対湿度を求めるとともに求めた相対湿度を絶対湿度に変換する湿度変換手段とを備え、前記湿度変換手段で求めた絶対湿度に基づいて前記試験槽内の温度及び湿度が前記温湿度設定手段で設定した設定値の温度及び絶対湿度になるように前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御することを特徴とする絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム。
【請求項2】
物質の劣化、促進に関わる試験機の試験槽内に供給される空気に水分を加えて加湿空気を生成する加湿空気生成装置を備え、前記加湿空気生成装置で生成された加湿空気の温度を調整する温度調整装置を備え、前記試験槽内の温度及び湿度が設定値になるように絶対湿度に基づいて前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御する制御手段を備える絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムにおいて、前記制御手段は、温度及び絶対湿度を前記試験槽内の温度及び湿度の設定値として設定可能な温湿度設定手段と、前記温湿度設定手段で設定した温度及び絶対湿度付近の、相対湿度と絶対湿度との関係を表示する温湿度関係表示手段とを備え、前記試験槽内の温度及び湿度が前記温湿度設定手段で設定した設定値の温度及び絶対湿度になるように前記加湿空気生成装置及び温度調整装置を制御することを特徴とする絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム。
【請求項3】
前記加湿空気生成装置は、前記試験槽に供給される加湿空気量を自動で変更可能な加湿空気量変更手段を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶対湿度による温湿度調整コントロールシステム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の絶対湿度による温湿度調整コントロールシステムを搭載し、安定した温湿度調整が可能であることを特徴とする物質の劣化、促進に関わる試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−211825(P2012−211825A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77671(P2011−77671)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000107583)スガ試験機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】