説明

絶縁アンプ

【課題】機械振動を応用した絶縁アンプは、1次側から2次側へ伝達する振動振幅は振動体のQ値に依存するため、変調レベルが安定せずアナログ信号を高精度で伝達できない。また、Q値が高い振動体を使うと入力信号の変化への追従性が悪くなり、帯域幅がほとんど得られない。
【解決手段】Q値の高い同一の振動体上に、第1の振動数を有する発振用振動子と第2の振動数を有する絶縁用振動子とを形成し、特に第1の振動数と前記第2の振動数とには所定の差を持たせる。発振用振動子により第1の振動数で発振するAGC機能付きの発振器を構成し、この発振信号に絶縁アンプ入力信号による振幅変調をかけて絶縁用振動子の1次側を振動させ、絶縁用振動子の2次側から得られる信号をAGCモニタ信号をもとに復調することで絶縁アンプ出力信号を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1次側と2次側とを電気的に絶縁した絶縁アンプに関するものであり、特に振動伝達を利用した絶縁アンプの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械的な振動伝達を利用した絶縁アンプが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−179270号公報(2頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の絶縁アンプは、図7に示すように、発振器1から得た信号で振動体2の1次側を機械的に駆動し、機械振動によって2次側に信号を伝達する構成となっている。振動体2は圧電セラミックスで構成している。振動体2の2次側からは増幅器3、整流器4、コンパレータ5を介して論理信号を出力可能となっている。振動体2の共振周波数は、発振器1の発振周波数と等しい。1次側と2次側との間の信号伝達に機械振動を利用しているため電気的には絶縁ができ、例えば1次側と2次側との間の接地電位に数1000Vの差があっても信号が伝達できる可能性がある。また、詳細な開示はないが、外部からの入力信号S1により振動振幅に変調をかけられる構成となっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁アンプは、主に論理信号の伝達を目的としており、振動体を駆動する電気信号と機械的な振幅との関係については考慮されていない。例えばこの例の場合、2次側へ伝達する振動振幅はQ値に比例する。圧電セラミックはQ値が低く、Q値の温度依存性が高い圧電材料であるので、機械振動の伝達特性が周囲温度の変化によって大きく変わってしまう。このため2次側での変調レベルが安定せず、アナログ信号を伝達する絶縁アンプとして利用できたとしても精度が全く保証できない。
【0006】
そこで、水晶に代表されるような、Q値が高くQ値の温度依存性の低い材料を振動体2に用いることも考えられるが、この場合は振動体2の共振周波数と発振器1の発振周波数とが等しいために共振のような振動状態になり、振幅が変化しにくくなる。結果として入力信号の変化への追従性が悪くなり、帯域幅がほとんどない絶縁アンプにしかならないという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決し、Q値の高い振動体であっても、変調レベルが安定で高精度な絶縁アンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の絶縁アンプは、以下の構成を採用する。
本発明の絶縁アンプは、
入力信号と出力信号とが絶縁された絶縁アンプにおいて、第1の振動数の信号を出力する発振器と、圧電材料からなり、第1の電極対及び第2の電極対が設けられ、固有振動数が第2の振動数である絶縁用振動子と、発振器からの信号に基づき、第1の電極対を介して絶縁用振動子を他励振動させる変調回路と、他励振動による絶縁用振動子の振動に基づいた第2の電極対からの信号を、発振器からの信号に基づいて復調し、出力信号として出力する復調回路と、を備え、変調回路は、入力信号に基づいて他励振動による絶縁用振動子
の振動振幅を変化させる変調機能を有し、第1の振動数と第2の振動数とは、所定の差を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、発振器は、圧電材料からなる発振用振動子と、前記発振用振動子を発振させる発振回路と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、絶縁用振動子と発振用振動子とは一体に形成されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、絶縁用振動子は、第1の電極対が設けられた第1の振動部と、第2の電極対が設けられた第2の振動部とを有し、第1の振動部と第2の振動部とは、互いに等しい固有振動数を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、第1のキャパシタを介して、発振器からの信号を変調回路に入力し、第2のキャパシタを介して、発振器からの信号を復調回路に入力することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、発振用振動子は、第3の電極対が設けられた第3の振動部と、第4の電極対が設けられた第4の振動部とを有し、第3の振動部と第4の振動部とは、互いに等しい固有振動数を有し、第3の電極対は、発振回路と接続され、第4の電極対の信号は、変調回路又は復調回路に入力することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、振動体上に第5の電極対を設け、第5の電極対により振動体に第1のキャパシタを形成し、振動体上に第6の電極対を設け、第6の電極対により振動体に第2のキャパシタを形成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、復調回路が形成された回路チップ、変調回路が形成された回路チップ、発振回路が形成された回路チップ、発振用振動子及び絶縁用振動子が気密性パッケージ内に封入されたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の絶縁アンプは、上述した構成に加えて、発振用振動子は水晶からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の絶縁アンプでは、発振器の出力周波数と、振動伝達部である絶縁用振動子の周波数とに所定の差を設けることで、絶縁用振動子をその固有振動数から所定量だけ離れた周波数で他励振動することになり、絶縁用振動子の振幅変化の追従性、すなわち絶縁アンプとしての周波数応答性を向上させることが可能となる。これは振動体のQ値が高い場合に特に有用な性質となる。
【0018】
したがって、本発明の絶縁アンプによれば、水晶のようなQ値の高い圧電材料を使った振動体でも、アンプとしての周波数応答性を犠牲にすることなく、変調レベルが安定で、高精度な絶縁アンプを実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態による絶縁アンプの全体構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明の絶縁アンプの要部信号のスペクトルを説明する波形図である。
【図3】本発明の絶縁アンプの第2の実施形態における振動体の構成を説明する上面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態による絶縁アンプの全体構成を説明するブロック図である。
【図5】本発明の第3の実施形態による絶縁アンプの回路要素間の結線を説明するブロック図である。
【図6】本発明の第4の実施形態による絶縁アンプの回路要素間の結線を説明するブロック図である。
【図7】従来の絶縁アンプの構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の絶縁アンプを実現するための最良の形態について説明する。
【0021】
(第1の実施の形態の全体構成説明:図1)
まず、図1を用いて本発明の第1の実施の形態の絶縁アンプの全体構成について説明する。本発明の絶縁アンプは、振動体10と、発振回路20と、復調回路30と、変調回路40とで構成した、振動型の絶縁アンプである。
【0022】
振動体10は、絶縁材料であり、かつ圧電材料である水晶をエッチング加工などで成形した、発振用振動子と絶縁用振動子とを一体にした振動子である。振動体10は、いわゆる双音叉振動子である。発振用振動子と絶縁用振動子はほぼ同じ形状に成形し、固有振動数以外の特性がほとんど等しくなるようにしている。
【0023】
発振回路20は、振動体10の発振部15へ流れる電流値を一定にするAGC機能を有する発振回路である。この機能により、発振部15の機械的な振動振幅を一定にする。発振回路20と発振部15とで発振器を構成している。
【0024】
変調回路40は、絶縁アンプとしての入力信号に、発振回路20から得られる発振信号を乗算することで変調をかけ、振動体10の絶縁用振動子の1次側を逆圧電効果により駆動する変調回路である。
【0025】
復調回路30は、振動体10の絶縁用振動子の2次側に圧電効果により発生する信号を増幅し、発振回路20から得られる発振信号S21を乗算することで復調をかけ、絶縁アンプとしての出力信号を得る復調回路である。
【0026】
なお、変調回路40と復調回路30とは異なる集積回路チップ上に形成し、動作させるために印加する電源配線も独立して設ける。これにより、入力信号側と出力信号側との間で電気的な絶縁を得ることができる。また、本実施の形態においては、発振回路20は変調回路40とを同一の集積回路上に形成するものとしている。また、少なくとも振動体10は、セラミックなどの高気密性パッケージ内に実装され、真空あるいは不活性ガスとともに封入されるものとする(図示せず)。
以下、それぞれの構成要素について詳細に説明する。
【0027】
発振部15は発振用振動子に相当し、第1の振動部13および第2の振動部14が絶縁用振動子に相当する。すなわち振動体10は、一方の音叉である発振部15と、もう一方の音叉の脚である第1の振動部13、第2の振動部14とを備えている。発振部15の固有振動数はω1であり、第1および第2の振動部の固有振動数はともに等しくω2である。本実施形態では例として、ω1/(2・π)=50kHz、ω2/(2・π)=51kHzであるとする。ω1とω2との差Δωは、Δω/(2・π)=1kHzとなる。後述するが、この差振動数が本発明の絶縁アンプの動作帯域と関係する。なお、ω1およびω2がそれ
ぞれ第1の振動数、第2の振動数に相当する。
【0028】
振動体10のそれぞれの音叉部分の表面上には、金(Au)やクロム(Cr)といった材料を単層または多層に形成した金属薄膜による電極を形成する。これらの電極は、振動体10に圧電効果および逆圧電効果を生じさせることができる位置に配置する。
特に第1の振動部13に逆圧電効果を発生させるための電極は第1の電極対とし、第2の振動部14から圧電効果による電流を取り出すための電極は第2の電極対としている。第1の電極対の信号は1次側信号S13とし、第2の電極対の信号は2次側信号S14としている。第1の振動部13と第2の振動部14とは機械的には連結されているが電気的には絶縁であり、この間を機械的な振動によって信号伝達することによって絶縁アンプとしての機能を実現している。
【0029】
また、発振回路20はモニタ回路21と可変ゲインアンプ22、AGC制御回路23、参照信号生成回路24とで構成する。
【0030】
発振回路20は、振動体10に対し、モニタ回路21および可変ゲインアンプ22とで発振ループを形成した、いわゆるAGC機能を有する発振回路である。発振回路20はAGC制御回路23を備えており、発振部15の励振電流の実効値が参照信号S24と等しくなるように可変ゲインアンプ22のゲインを制御する機能を有している。モニタ回路21は、発振部15の励振電流を電圧信号に変換するI−V変換回路である。
【0031】
参照信号生成回路24は、後述のAGC制御回路23のための基準信号を生成する回路であり、ここでは周囲温度や電源電圧に依存しない一定の電圧である参照信号S24を生成する定電圧回路を用いる。参照信号生成回路24としては、バンドギャップリファレンスなどのよく知られた定電圧回路を利用できる。
【0032】
この構成では、AGC制御回路23により発振部15は発振制御がなされ、モニタ回路21が出力する発振信号S21は参照信号S24に基づいた一定の振幅を有する交流信号となる。この発振信号S21は後述の復調回路30での乗算に用いる信号としても利用する。
【0033】
その一方、AGC制御回路23が、発振部15のインピーダンス変化によらず一定の励振電流が流れるように制御する結果、可変ゲインアンプ22の出力である発振駆動信号S11Bは、発振部15のインピーダンス変化に比例して振幅が変化する交流信号となる。この発振駆動信号S11Bは後述の変調回路での変調に用いるものとしても利用する。
【0034】
変調回路40は、絶縁アンプ入力S40に入力された信号を差動増幅する差動アンプ41と、この差動アンプ41の出力信号の帯域を制限する前置フィルタ回路42と、この前置フィルタ回路42の出力信号S42に搬送波を乗算する変調乗算回路43と、この乗算出力S43によって振動体10の1次側を強制振動させる駆動回路44とで構成する。駆動回路44の出力は低インピーダンスであり、1次側信号S13として第1の電極対に接続している。
【0035】
搬送波としては、可変ゲインアンプ22の出力信号である発振駆動信号S11Bを第1の結合容量51によりDCカットした信号を用いる。この信号は搬送波信号S11Cとしている。第1の結合容量51としては、上記の集積回路とは別に設けた、外付けの高耐圧のキャパシタ素子を用いる。外付けである理由は、集積回路上に形成できるキャパシタ素子は一般に絶縁耐圧が低いためである。
【0036】
復調回路30は、振動体10の第2の電極対に発生する2次側信号S14を増幅する増
幅回路31と、この増幅回路31の出力信号である増幅信号S31に含まれる入力信号成分を乗算検波(復調)する復調乗算回路32と、この復調乗算回路32の出力信号を増幅および不要周波数成分の除去を行い、絶縁アンプ出力S30として出力する後置フィルタ回路33とで構成する。特に増幅回路31は、第2の電極対に発生する電流信号を電圧信号に変換するI−V変換回路である。
【0037】
復調乗算回路32は、増幅回路31の出力信号と、前述の発振信号S21をDCカットした信号S22とを乗算する演算回路である。この発振信号S21をDCカットした信号S22は復調動作のための同期信号であり、発振信号S21に第2の結合容量52を介することで得ている。なお、復調乗算回路32および変調乗算回路43としては、ギルバート乗算回路など、信号どうしをアナログ的に乗算する回路要素を用いることで上記演算が可能となる。後置フィルタ回路33には、搬送波である発振器の発振周波数を十分除去可能な、カットオフ周波数がωc/(2・π)=500Hzの2次フィルタを用いる。
【0038】
第2の結合容量52は第1の結合容量51と同じ構造、同じ容量値のキャパシタを用いる。第1の結合容量51は1次側と2次側との間を絶縁するために設けたが、第2の結合容量52は、変調回路40での信号変調に対して、復調回路30での信号復調の相対的な位相を設計上合わせる目的で設けている。第1の結合容量51と第2の結合容量52の出力端は、それぞれ抵抗35、45を介して信号グラウンド電位へバイアスし、いわゆるハイパスフィルタの構成となるようにする。
【0039】
なお、図示はしないが、本発明の絶縁アンプは、前述の高気密性パッケージの外部に、変調回路40と復調回路30とを動作させる電源端子と、絶縁アンプ入力S40の外部端子と、絶縁アンプ出力S30の外部端子とを備えている。
【0040】
(第1の実施の形態の動作説明:図1、図2)
次に、図1と図2とを用いて本発明の第1の実施の形態の絶縁アンプの動作について説明する。
【0041】
第1の実施の形態である絶縁アンプに電源を投入すると、発振回路20は発振部15の固有振動数に従った振動数ω1で発振動作を開始する。発振部15の機械的な発振振幅はAGC制御回路により一定に制御される。
【0042】
絶縁アンプ入力S40に印加された入力信号は、搬送波信号S11Cと乗算される。図2(a)に示すように、例としてこの絶縁アンプ入力S40が振動数がωiの正弦波であるとすると、三角関数の性質から図2(b)のごとく、この乗算による変調で振動数ω1±ωiの信号に変換される。
【0043】
第1の振動部13はこの変換後の振動数で強制的に機械振動させられる。この振動は、発振ループなどによる自身の固有振動数での自励振動とは異なり、外部加振による他励振動(強制振動)である。機械力学によれば、Q値が高い振動体であれば、この他例振動による振幅は、第1の振動部13と発振部15との振動数差Δωに反比例する。
【0044】
さらに第2の振動部14は第1の振動部13と等しい固有振動数を持つ音叉を形成しているので、機械的な振動が高効率で伝達し、第1の振動部13と等しい振幅で機械的に振動する。
【0045】
第2の振動部14が振動することにより第2の電極対に誘起された電流は、増幅された後に発振信号S21をDCカットした信号S22と乗算される。図2(c)に示すように、この乗算による復調で、振動数がωiの成分と、2・ω1±ωiの成分をもつ信号とに変
換される。高い振動数である後者(2・ω1±ωi)の成分は次段の後置フィルタ回路33により除去され、ωiの成分のみが絶縁アンプ出力S30として出力される。
【0046】
発振用振動子と絶縁用振動子とは同じ材質かつほぼ同じ形状であり、固有振動数に比べて、その差振動数Δωはほとんど一定である。このため、それぞれの固有振動数が周囲温度によって変化しても、Δωも一定とみなすことができ、Δωに反比例する機械振動の伝わり方も常に一定とみなすことができる。
【0047】
これに加え、周囲温度の変化などによって発振部15のインピーダンス(いわゆるCI)が変化しても、発振回路20のAGC機能によって機械的な振幅は一定に制御されている。これは、発振部15のインピーダンス変化に応じて発振駆動信号S11Bの振幅を変化させることで発振部15の励振電流を一定に保っていることによる。一方、これとほぼ同じ絶縁用振動子の第1の振動部13のインピーダンスも同様に変化するが、変調回路40では発振駆動信号S11Bを使って変調をかけているので、結果的に第1の振動部13の機械的な変調レベルは一定となる。よって第2の振動部14は第1の振動部13の機械的な振幅に比例することになるため、第2の電極対から取り出される信号振幅は振動体10の影響を受けないことになる。
【0048】
従って、絶縁アンプ出力S30の出力振幅は、振動体10の温度特性に依存せず絶縁アンプ入力S40の信号振幅に正しく比例することになり、結果的に絶縁アンプの1次側から2次側へ正確に信号伝達がなされることが分かる。
【0049】
また、上述の構成説明より分かるように、絶縁アンプ入力S40の側と絶縁アンプ出力S30の側とは電気的には絶縁されており、絶縁アンプとして動作することは明らかである。絶縁アンプの1次側と2次側の絶縁耐圧は、主に振動体10の表面上に形成した電極間の耐圧で決まる。
【0050】
なお、絶縁アンプ入力S40の振動数ωiがΔωとちょうど等しい場合は、次の理由で問題となる。すなわち、図2に示すように、絶縁アンプ入力S40に振動数ωiの成分が含まれると、変調回路40の変調乗算回路43の出力にω2の成分が含まれることになる。ω2は第1の振動部13の固有振動数と等しいため、この振動数で第1の振動部13を振動させようとすると振幅が成長し過ぎてしまう。これを防ぐため、入力信号に含まれるΔωの周波数成分を十分除去できるような減衰特性を前置フィルタ回路42に設定する。前置フィルタ回路42の例としては、カットオフ周波数がωc/(2・π)=500Hzの、2次以上の次数のフィルタが好適である。
【0051】
このように、本発明の絶縁アンプの原理的な帯域はΔωをもとに決まるので、伝達したい信号の周波数成分に対してω1やΔωを高く設定し、前置フィルタ回路42のカットオフ周波数をこれに対して適宜設定することで、アンプとしての必要な帯域幅を得ることができる。
【0052】
(第2の実施の形態:図3)
次に、図3を用いて、本発明の第2の実施の形態の絶縁アンプの構成について説明する。
【0053】
図3に示した上面図は、第1の実施の形態における振動体10の別形態であり、それ以外の部分については第1の実施の形態と同様であるため、詳細は省略する。
【0054】
図3における振動体10は、発振器のための第1の振動部13と、信号伝達のための第2の振動部14に加えて、図1における結合容量であるキャパシタを振動体10の表面上
に形成している。すなわち、第1の結合容量51および第2の結合容量52を振動体10の表面上に形成する。ここでの第1の結合容量51を形成する電極が第5の電極対に相当し、第2の結合容量52を形成する電極が第6の電極対に相当する。
【0055】
振動体10は、圧電体である水晶で形成するものとしたが、圧電体は誘電体でもある。よって水晶の表面上に対向する電極を形成することで、集積回路上に形成するキャパシタと比較して耐圧の高いキャパシタを得ることができる。また、表面に電界が印加されても圧電特性が生じない方向に沿って電極を形成することで、キャパシタに交流信号が印加された際の機械的な振動の発生を抑えることができる。このキャパシタを結合容量として利用することで、変調および復調に必要な信号を、直流成分を遮断しつつ伝達することが可能となる。
【0056】
本発明の第2の実施の形態に従えば、前述の第1の実施の形態のような外付けのキャパシタが不要となるという効果が得られる。このキャパシタは、同一の誘電体表面上に、同一の電極形成プロセスによって形成されるので、容量値の製造誤差や温度等の変化による容量値の変動などが高精度で一致する。
【0057】
(第3の実施の形態:図4、図5)
次に、図4および図5を用いて、本発明の第3の実施の形態の絶縁アンプの構成について説明する。
第3の実施の形態は、上述までの実施の形態と比較して、絶縁耐性の更なる向上を目的としたものである。上述の実施の形態で用いた結合容量はキャパシタで構成していたが、一般的にキャパシタの電極間ギャップが狭ければ、信号伝達がし易くなるものの絶縁耐性は弱まる。本実施の形態では、キャパシタではなく振動体を用いて復調のための同期信号を伝達するようにしている。
【0058】
図4および図5に示した第3の実施の形態の絶縁アンプの構成は、第1の実施の形態とほぼ同じであるが、振動体10上の発振部15に形成した電極まわりの結線が異なる。また、第1の結合容量51および第2の結合容量52とを削除する代わりに、同期信号生成回路60とを備えたところが異なる。基本的な動作等は上述までの実施の形態と同様であるため、主に異なる部分についてのみ説明する。
【0059】
振動体10上の発振部15の一方の脚は第1の実施の形態と同様に発振器の側に接続するが、他方の脚は発振器の側から独立し、一方の脚とは絶縁された励振電流モニタ用の脚とする。この他方の脚上に形成された電極対から出力される信号は絶縁モニタ信号S12とする。絶縁モニタ信号S12は同期信号生成回路60で増幅する。
【0060】
なお、発振部15の発振器側に接続した一方の脚が第3の振動部11に相当し、他方の振動電流モニタ用の脚が第4の振動部12に相当する。第3の振動部11上に設けられた第3の電極対に相当する信号はモニタ信号S11Aと発振駆動信号S11Bの組である。また、第4の振動部12上に設けられた第4の電極対に相当する信号は絶縁モニタ信号S12である。
【0061】
同期信号生成回路60は、第2のモニタ回路61で構成する。第2のモニタ回路61は、モニタ回路21と同様のI−V変換回路であり、この第2のモニタ回路61の出力信号S61を用いて復調回路30で復調を行う。すなわち、復調乗算回路32に第2のモニタ回路61の出力信号S61を入力する。図5に示したように、同期信号生成回路60は、復調回路30と同一の集積回路チップ上に形成するものとする。また、発振回路20と変調回路40は、復調回路30とは別の同一の集積回路チップ上に形成するものとする。第3の実施の形態は、発振回路20と発振部15と同期信号生成回路60とが発振器を構成
している。
【0062】
発振回路20が発振動作を行うと、音叉形状である発振部15の両方の脚には、AGC制御によって等しい励振電流が発生する。すなわち、絶縁モニタ信号S12は発振部15のインピーダンスによらない一定振幅の交流信号となる。これを用いて復調回路30が復調動作を行うため、復調される信号レベルも一定となる。
【0063】
特に、発振回路20の発振動作によって、発振部15の両方の脚である第3の振動部11と第4の振動部12は等しく一定の振幅で振動をする。絶縁モニタ信号S12は、この機械的な振動が圧電材料に加わって生じる圧電効果によって発生する信号であり、発振回路20と第2のモニタ回路61との間には電流経路がなく、電気的には絶縁であることは明らかである。
【0064】
この第3の実施の形態によれば、復調動作のための同期信号は、発振回路20側からキャパシタを使わずに振動を介して伝達することが可能なため、第2の結合容量52の代わりに発振部15の他方の脚を利用することが可能となる。キャパシタを用いないことから、絶縁アンプの1次側と2次側との間の絶縁耐性がさらに向上するという効果が得られる。
【0065】
(第4の実施の形態:図6)
次に、図6を用いて、本発明の第4の実施の形態の絶縁アンプの構成について説明する。
第4の実施の形態の絶縁アンプの構成は、第3の実施の形態と比べて、同一の集積回路チップ上に形成する回路要素のみが異なるだけであり、第3の実施の形態と類似しているため、特に異なる部分についてのみ説明する。
【0066】
前述の第3の実施の形態では、発振回路20は変調回路40と同一の集積回路チップ上に形成するものとしたが、第4の実施の形態では、図6に示したように、発振回路20を復調回路30と同一の集積回路チップ上に形成し、同期信号生成回路60を変調回路40と同一の集積回路チップ上に形成する。第4の実施の形態も、発振回路20と発振部15と同期信号生成回路60とが発振器を構成している。
【0067】
変調回路40では、変調のための信号としては、第2のモニタ回路61の出力信号S61を用いる。また復調回路30では、復調のための信号としては、発振駆動信号S11Bを用いる。
【0068】
第4の実施の形態では、変調乗算回路43には第2のモニタ回路61の出力信号S61を入力することにより変調をし、復調乗算回路32には発振駆動信号S11Bを入力することにより復調することになる。発振部15の振動振幅は発振部15のインピーダンス変化によらず一定に制御されるため、変調回路40での変調レベルは一定であるが、絶縁用振動子のインピーダンス変化によって、第2の振動部14から得られる信号の大きさは変化してしまう。しかしながら、復調回路30側では、この変化を打ち消す変化をする発振駆動信号S11Bが2次側信号S14と乗算されるため、結果としては発振用振動子と絶縁用振動子のインピーダンス変化は全て相殺され、第3の実施の形態と同様の効果が得られる。本発明の絶縁アンプは、変調回路40と復調回路30との間が絶縁されていればよく、各集積回路チップの面積配分などの設計上の都合で、これらの組み合わせのいずれかを選ぶことができる。
【0069】
以上までの説明から分かるように、本発明の絶縁アンプによれば、水晶のようなQ値の高い圧電材料を使った振動体でも、変調レベルが安定であり、かつアンプとしての周波数
応答性も備えた、高精度な絶縁アンプを実現することが可能になる。
【0070】
また、Q値の高い振動体を用いた、AGC振幅制御機能付き発振器を備えている。この出力信号を元に入力信号に変調をかけられるため、1次側での変調レベルが安定し、絶縁アンプとしての精度を高くすることができる。
【0071】
そのうえ、絶縁用振動子を上記発振器の発振部と同一材質かつ同一部材上に形成することで、固有振動数の差はほぼ一定となり、周囲温度の変化などによる振動伝達比率の変化を極小にできる。
【0072】
また、上記の実施形態は、振動体と集積回路チップを気密性パッケージに封入したものであり、従来からあるVCXOやTCXOといった水晶発振器と類似した、簡単な構成になっている。特に振動体10に用いる水晶は、エッチングによって加工ができるため生産性が高く、物性的にも安定なため信頼性も高い。このため、例えばトランスを用いて磁気的に信号伝達をするものや、受発光素子を用いて光学的に信号伝達する他の方式の絶縁アンプと比べて高信頼性でかつ小型化、低価格化が可能である。
【0073】
なお、振動体10には水晶を用いるものとしたが、材質はこれに限定されない。タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムといった圧電単結晶材料なども同様に用いることができる。
【0074】
また、上記までの実施の形態では、発振用振動子と絶縁用振動子とは同一の振動体上に形成するものとしたが、これに限定されない。製造誤差が小さい加工プロセスが利用できるのであれば、発振用振動子である発振部15は第1の振動部13、第2の振動部14と独立した振動体でもよい。
【0075】
さらに、上記までの実施の形態では、発振用振動子と絶縁用振動子とは音叉形状の振動体を用いるものとしたが、これに限定されない。ATカット振動子に代表される厚みすべり振動を応用した振動体でもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 振動体

11 第3の振動部
12 第4の振動部
13 第1の振動部
14 第2の振動部
15 発振部
20 発振回路
30 復調回路
40 変調回路
51 第1の結合容量
52 第2の結合容量
60 同期信号生成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号と出力信号とが絶縁された絶縁アンプにおいて、
第1の振動数の信号を出力する発振器と、
圧電材料からなり、第1の電極対及び第2の電極対が設けられ、固有振動数が第2の振動数である絶縁用振動子と、
前記発振器からの信号に基づき、前記第1の電極対を介して前記絶縁用振動子を他励振動させる変調回路と、
前記他励振動による前記絶縁用振動子の振動に基づいた前記第2の電極対からの信号を、前記発振器からの信号に基づいて復調し、前記出力信号として出力する復調回路と、を備え、
前記変調回路は、前記入力信号に基づいて前記他励振動による前記絶縁用振動子の振動振幅を変化させる変調機能を有し、
前記第1の振動数と前記第2の振動数とは、所定の差を有する
ことを特徴とする絶縁アンプ。
【請求項2】
前記発振器は、圧電材料からなる発振用振動子と、前記発振用振動子を発振させる発振回路と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁アンプ。
【請求項3】
前記絶縁用振動子と前記発振用振動子とは一体に形成された
ことを特徴とする請求項2に記載の絶縁アンプ。
【請求項4】
前記絶縁用振動子は、前記第1の電極対が設けられた第1の振動部と、前記第2の電極対が設けられた第2の振動部とを有し、
前記第1の振動部と前記第2の振動部とは、互いに等しい固有振動数を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の絶縁アンプ。
【請求項5】
第1のキャパシタを介して、前記発振器からの信号を前記変調回路に入力し、
第2のキャパシタを介して、前記発振器からの信号を前記復調回路に入力する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の絶縁アンプ。
【請求項6】
前記発振用振動子は、第3の電極対が設けられた第3の振動部と、第4の電極対が設けられた第4の振動部とを有し、
前記第3の振動部と前記第4の振動部とは、互いに等しい固有振動数を有し、
前記第3の電極対は、前記発振回路と接続され、
前記第4の電極対の信号は、前記変調回路又は前記復調回路に入力する
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の絶縁アンプ。
【請求項7】
前記振動体上に第5の電極対を設け、前記第5の電極対により前記振動体に前記第1のキャパシタを形成し、
前記振動体上に第6の電極対を設け、前記第6の電極対により前記振動体に前記第2のキャパシタを形成する
ことを特徴とする請求項5に記載の絶縁アンプ。
【請求項8】
前記復調回路が形成された回路チップ、前記変調回路が形成された回路チップ、前記発振回路が形成された回路チップ、前記発振用振動子及び前記絶縁用振動子が気密性パッケージ内に封入された
ことを特徴とする請求項2から7のいずれか一項に記載の絶縁アンプ。
【請求項9】
前記発振用振動子は水晶からなる
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の絶縁アンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−106052(P2013−106052A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246168(P2011−246168)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】