説明

絶縁シート、積層構造体及び積層構造体の製造方法

【課題】未硬化状態でのハンドリング性が高く、比誘電率が低い硬化物を得ることができる絶縁シート及び積層構造体を提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁シートは、重量平均分子量が1万以上であるポリマーと、エポキシ基又はオキセタン基を有する硬化性化合物と、シアネート当量が50〜200であり、かつシアナト基を有するシアネート化合物と、硬化剤と、フィラーとを含有する。本発明に係る積層構造体1は、少なくとも一方の面に第1の導体層2bを有し、かつ貫通孔又は一方の面に凹部を有する基板2と、基板2の一方の面又は両方の面に積層された絶縁層3,4と、絶縁層3,4の基板2が積層された面とは反対側の面に積層された第2の導体層5,8又は回路基板とを備える。絶縁層3,4が上記絶縁シートを硬化させることにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、多層基板などの積層構造体の絶縁層を形成するために用いることができる絶縁シート、並びに該絶縁シートを用いた積層構造体及び積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器及び通信機器では、絶縁層を有するプリント配線板が用いられている。該絶縁層は、ペースト状又はシート状の絶縁材料を用いて形成されている。
【0003】
上記プリント配線板の一例として、例えば、下記の特許文献1には、樹脂層、及び該樹脂層の両側の表面に配線回路が形成された回路基板と、該回路基板の両側の表面に形成された絶縁層とを備える多層配線板が開示されている。この回路基板には、ビアホールが形成されている。上記ビアホールの内周面には、導通膜が形成されている。導通膜により、上記樹脂層の両側の表面に形成された配線回路が接続されている。ビアホール内には、第1の絶縁材料を充填し、硬化させることにより、絶縁部分が形成されている。この第1の絶縁材料は、高い熱伝導性を有する電気絶縁性フィラーと、上記導通膜の金属と同等以下の低い熱膨張特性を有する樹脂とを含有する。また、上記絶縁部分が形成された後、回路基板の配線回路上に、第2の絶縁材料を塗布し、硬化させることにより、絶縁層が形成されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、上面に凹部を有する回路基板と、該回路基板の上面に積層された絶縁層とを備える多層配線板が開示されている。回路基板の上面の凹部に、該凹部を埋めるように第1の絶縁材料を充填し、硬化させることにより、第1の絶縁層が形成されている。この第1の絶縁材料は、高い熱伝導率を有する無機フィラーを含有する。また、第1の絶縁層が形成された後、回路基板上に、シート状の第2の絶縁材料を積層し、硬化させることにより、第2の絶縁層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−163594号公報
【特許文献2】特開平07−226583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上記電子機器及び通信機器の小型化及び情報処理の高速化が進行している。このため、上記電子機器に用いられるプリント多層配線板では、多層化及び薄膜化が進行しており、かつ電子部品の実装密度が高くなっている。これに伴って、電子部品から大きな熱量が発生しやすくなっており、発生した熱を放散させる必要が高まっている。熱を放散させるために、プリント多層配線板内の絶縁層は、高い熱伝導率を有する必要がある。
【0007】
また、上記プリント多層配線板では、誘電損失が比較的大きく、電気信号の信頼性が低いことがある。電気信号の信頼性を高めるために、絶縁層は低い比誘電率を有する必要がある。
【0008】
しかしながら、従来の絶縁材料を用いてプリント多層配線板の絶縁層を形成した場合には、絶縁層の比誘電率が充分に低くならないことある。
【0009】
さらに、特許文献1,2に記載の絶縁層を形成するための絶縁材料は、未硬化状態ではそれ自体が自立性を有するシートではないので、ハンドリング性が低い。
【0010】
また、従来のシート状の絶縁材料を用いた場合でも、該絶縁材料のハンドリング性が低かったり、絶縁層の比誘電率が比較的高かったりすることがある。特に、絶縁層の放熱性を高めるために、フィラーを高密度で充填した場合には、シート状の絶縁材料が硬くかつ脆くなり、シート状の絶縁材料のハンドリング性が低くなることがある。
【0011】
本発明の目的は、未硬化状態でのハンドリング性が高く、比誘電率が低い硬化物を得ることができる絶縁シート、並びに該絶縁シートを用いた積層構造体及び積層構造体の製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の限定的な目的は、硬化物の放熱性を高めることができる絶縁シート、並びに該絶縁シートを用いた積層構造体及び積層構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の広い局面によれば、重量平均分子量が1万以上であるポリマーと、エポキシ基又はオキセタン基を有する硬化性化合物と、シアネート当量が50〜200であり、かつシアナト基を有するシアネート化合物と、硬化剤と、フィラーとを含有する、絶縁シートが提供される。
【0014】
本発明に係る絶縁シートのある特定の局面では、上記ポリマーは、上記シアネート化合物のシアナト基と反応可能な官能基を有する。
【0015】
本発明に係る絶縁シートの他の特定の局面では、上記ポリマーは、フェノキシ樹脂である。
【0016】
本発明に係る絶縁シートのさらに他の特定の局面では、上記フェノキシ樹脂のガラス転移温度は95℃以上である。
【0017】
本発明に係る絶縁シートの別の特定の局面では、上記硬化性化合物100重量部に対して、上記シアネート化合物の含有量が33〜300重量部の範囲内である。
【0018】
本発明に係る絶縁シートが硬化されたときに、硬化物の熱伝導率が0.5W/m・K以上、硬化物の25〜100℃での平均熱線膨張係数が20ppm/℃以下、硬化物の1GHz比誘電率が5以下であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る絶縁シートの他の特定の局面では、上記硬化剤は、フェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物である。
【0020】
本発明に係る絶縁シートのさらに他の特定の局面では、上記硬化剤は、多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られた脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物である。
【0021】
本発明に係る絶縁シートのさらに他の特定の局面では、上記硬化剤は、下記式(1)〜(4)の内のいずれかで表される酸無水物である。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
上記式(4)中、R1及びR2はそれぞれ水素、炭素数1〜5のアルキル基又は水酸基を示す。
【0027】
本発明に係る絶縁シートのさらに他の特定の局面では、上記硬化剤は、メラミン骨格もしくはトリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂である。
【0028】
上記フィラーは、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛、マグネサイト及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。絶縁シート100体積%中、上記フィラーの含有量は、30〜90体積%の範囲内であることが好ましい。上記フィラーは球状であることが好ましい。上記フィラーはカップリング剤により処理されていることが好ましい。
【0029】
本発明に係る積層構造体は、少なくとも一方の面に第1の導体層を有し、かつ貫通孔又は上記一方の面に凹部を有する基板と、上記基板の上記一方の面又は両方の面に積層された絶縁層と、上記絶縁層の上記基板が積層された面とは反対側の面に積層された第2の導体層又は回路基板とを備え、上記絶縁層が、本発明に従って構成された絶縁シートを硬化させることにより形成されている。
【0030】
本発明に係る積層構造体のある特定の局面では、上記第1の導体層及び上記第2の導体層の内の少なくとも一方は配線回路である。
【0031】
本発明に係る積層構造体は、導体層を2層以上有する多層回路基板であることが好ましい。さらに、本発明に係る積層構造体は、チップサイズパッケージに用いられる多層回路基板であることが好ましい。
【0032】
本発明に係る積層構造体の製造方法は、少なくとも一方の面に第1の導体層を有し、かつ貫通孔又は上記一方の面に凹部を有する基板の上記一方の面又は両方の面に、本発明に従って構成された絶縁シートを、該絶縁シートの一部が上記貫通孔又は上記凹部に充填されるようにラミネートする工程と、上記ラミネートされた絶縁シートの上記基板が配置された面とは反対側の面に、導体層又は回路基板を積層する工程と、上記絶縁シートを硬化させる工程とを備える。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る絶縁シートは、重量平均分子量が1万以上であるポリマーと、エポキシ基又はオキセタン基を有する硬化性化合物と、シアネート当量が50〜200であり、かつシアナト基を有するシアネート化合物と、硬化剤と、フィラーとを含有するので、未硬化状態でのハンドリング性が高い。さらに、絶縁シートの硬化物の比誘電率を低くすることができる。
【0034】
さらに、本発明に係る絶縁シートは、硬化物の放熱性を高めるためにフィラーが高密度で充填されていても、未硬化状態でのハンドリング性が高い。従って、絶縁シートの硬化物の放熱性を高めることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【図2】図2は、本発明の他の実施形態に係る積層構造体を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0037】
本発明に係る絶縁シートは、重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A)と、エポキシ基又はオキセタン基を有する硬化性化合物(B)と、シアネート当量が50〜200であり、かつシアナト基を有するシアネート化合物(C)と、硬化剤(D)と、フィラー(E)とを含有する。上記組成の採用により、絶縁シートの未硬化状態でのハンドリング性を高めることができ、更に硬化物の比誘電率を低くすることができる。
【0038】
シアネート化合物はシアナト基を有する。熱硬化によってシアナト基からS−トリアジン環を生成する反応を充分に進行させるためには、高温で長時間、例えば230℃で2時間以上熱硬化しなければならない。しかし、本発明では、シアネート化合物(C)とともに、エポキシ基又はオキセタン基を有する硬化性化合物(B)が用いられているため、硬化温度を比較的低くすることができる。さらに、本発明に係る絶縁シートでは、硬化性化合物(B)のエポキシ基又はオキセタン基がシアネート化合物(C)のシアナト基と反応し、オキサゾリン環を生成する反応が主反応として進行する。この結果、熱硬化後に比誘電率を高くする官能基が残存し難くなり、比誘電率が低い絶縁シートの硬化物を得ることができる。
【0039】
また、上記組成の採用により、絶縁シートの硬化物の熱伝導率を0.5W/m・K以上、硬化物の25〜100℃での平均熱線膨張係数を20ppm/℃以下、かつ硬化物の1GHzでの比誘電率を5以下にすることができる。
【0040】
さらに、上記組成を有する絶縁シートにおいて、絶縁シート100体積%中のフィラー(E)の含有量を1体積%以上にしたり、熱伝導率が10W/m・K以上のフィラー(E)を用いたりすることにより、絶縁シートの硬化物の放熱性を高くすることができる。また、本発明に係る絶縁シートは上記組成を有するので、フィラー(E)を高密度で充填できる。
【0041】
(ポリマー(A))
本発明に係る絶縁シートに含まれているポリマー(A)は、重量平均分子量が1万以上であれば特に限定されない。ポリマー(A)は、芳香族骨格を有することが好ましい。この場合には、絶縁シートの硬化物の耐熱性をより一層高めることができる。ポリマー(A)が芳香族骨格を有する場合には、芳香族骨格をポリマー全体の中に有していればよく、主鎖骨格内に有していてもよく、側鎖中に有していてもよい。ポリマー(A)は、芳香族骨格を主鎖骨格内に有することが好ましい。この場合には、絶縁シートの硬化物の耐熱性をさらに一層高めることができる。ポリマー(A)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
上記芳香族骨格は特に限定されない。上記芳香族骨格の具体例としては、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びビスフェノールA型骨格等が挙げられる。なかでも、ビフェニル骨格又はフルオレン骨格が好ましい。この場合には、絶縁シートの硬化物の耐熱性をより一層高めることができる。
【0043】
ポリマー(A)として、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等を用いることができる。上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、特に限定されない。上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルケトン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂として、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、ベンゾオキサジン、及びポリベンゾオキサゾールとベンゾオキサジンとの反応物などのスーパーエンプラと呼ばれている耐熱性樹脂群等を使用できる。
【0044】
ポリマー(A)は、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体又はフェノキシ樹脂であることが好ましく、フェノキシ樹脂であることがより好ましい。この場合には、絶縁シートの硬化物の酸化劣化を防止でき、かつ耐熱性をより一層高めることができる。特に、フェノキシ樹脂の使用により、絶縁シートの硬化物の耐熱性をより一層高めることができる。
【0045】
上記スチレン系重合体として、スチレン系モノマーの単独重合体、又はスチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合体等を用いることができる。中でも、スチレン−メタクリル酸グリシジルの構造を有するスチレン系重合体が好ましい。
【0046】
上記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン及び3,4−ジクロロスチレン等が挙げられる。
【0047】
上記アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル及びメタクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。
【0048】
上記フェノキシ樹脂は、具体的には、例えばエピハロヒドリンと2価フェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂である。
【0049】
上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有することが好ましい。中でも、上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格及びビフェニル骨格からなる群から選択された少なくとも1種の骨格を有することがより好ましく、フルオレン骨格及びビフェニル骨格の内の少なくとも1種を有することが更に好ましい。これらの好ましい骨格を有するフェノキシ樹脂の使用により、絶縁シートの硬化物の耐熱性をさらに一層高めることができる。
【0050】
上記フェノキシ樹脂は、主鎖中に多環式芳香族骨格を有することが好ましい。また、上記フェノキシ樹脂は、下記式(11)〜(16)で表される骨格の内の少なくとも1つの骨格を主鎖中に有することがより好ましい。
【0051】
【化5】

【0052】
上記式(11)中、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Xは単結合、炭素数1〜7の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−、又は−CO−である。
【0053】
【化6】

【0054】
上記式(12)中、R1aは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、mは0〜5の整数である。
【0055】
【化7】

【0056】
上記式(13)中、R1bは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、lは0〜4の整数である。
【0057】
【化8】

【0058】
【化9】

【0059】
上記式(15)中、R及びRは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、Xは−SO−、−CH−、−C(CH−、又は−O−であり、kは0又は1である。
【0060】
【化10】

【0061】
ポリマー(A)として、例えば、下記式(17)又は式(18)で表されるフェノキシ樹脂が好適に用いられる。
【0062】
【化11】

【0063】
上記式(17)中、Aは上記式(11)〜(13)の内のいずれかで表される構造を有し、かつその構成は上記式(11)で表される構造が0〜60モル%、上記式(12)で表される構造が5〜95モル%、及び上記式(13)で表される構造が5〜95モル%であり、Aは水素原子、又は上記式(14)で表される基であり、nは平均値で25〜500の数である。なお、上記式(11)で表される構造が0モル%の場合、ポリマー(A)は、上記式(11)で表される構造を有さない。
【0064】
【化12】

【0065】
上記式(18)中、Aは上記式(15)又は上記式(16)で表される構造を有し、nは少なくとも21以上の値である。
【0066】
ポリマー(A)は、シアネート化合物(C)のシアナト基と反応可能な官能基を有することが好ましい。ポリマー(A)のシアネート化合物(C)のシアナト基と反応可能な官能基としては、水酸基、エポキシ基、アミノ基及びカルボキシル基等が挙げられる。比誘電率がより一層低い絶縁シートの硬化物を得る観点からは、シアネート化合物(C)のシアナト基と反応可能な官能基は、エポキシ基であることが好ましい。
【0067】
ポリマー(A)のガラス転移温度Tgの好ましい下限は60℃、より好ましい下限は90℃、好ましい上限は200℃、より好ましい上限は180℃である。ポリマー(A)がフェノキシ樹脂である場合には、フェノキシ樹脂のガラス転移温度Tgの好ましい下限は95℃、より好ましい下限は110℃、好ましい上限は200℃、より好ましい上限は180℃である。ポリマー(A)及びフェノキシ樹脂のTgが上記好ましい下限を満たすと、樹脂が熱劣化し難くなる。ポリマー(A)及びフェノキシ樹脂のTgが上記好ましい上限を満たすと、ポリマー(A)及びフェノキシ樹脂と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性、並びに絶縁シートの硬化物の耐熱性をより一層高めることができる。
【0068】
ポリマー(A)の重量平均分子量は1万以上である。ポリマー(A)の重量平均分子量の好ましい下限は3万、より好ましい下限は4万、好ましい上限は100万、より好ましい上限は25万ある。ポリマー(A)の重量平均分子量が上記好ましい下限を満たすと、絶縁シートが熱劣化し難くなる。ポリマー(A)の重量平均分子量が上記好ましい上限を満たすと、ポリマー(A)と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性、並びに絶縁シートの硬化物の耐熱性をより一層高めることができる。
【0069】
ポリマー(A)と、硬化性化合物(B)と、シアネート化合物(C)と、硬化剤(D)とを含む絶縁シートに含まれている全樹脂成分(以下、全樹脂成分Xと略記することがある)の合計100重量%中、ポリマー(A)の含有量は20〜60重量%の範囲内であることが好ましい。全樹脂成分Xの合計100重量%中のポリマー(A)の含有量のより好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は50重量%である。ポリマー(A)の含有量が上記好ましい下限を満たすと、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性をより一層高めることができる。ポリマー(A)の含有量が上記好ましい上限を満たすと、フィラー(E)の分散が容易になる。なお、全樹脂成分Xとは、ポリマー(A)、硬化性化合物(B)、シアネート化合物(C)、硬化剤(D)及び必要に応じて添加される他の樹脂成分の総和をいう。全樹脂成分Xには、フィラー(E)は含まれない。
【0070】
(硬化性化合物(B))
本発明に係る絶縁シートに含まれている上記硬化性化合物(B)は、エポキシ基又はオキセタン基を有するものであれば特に限定されない。硬化性化合物(B)は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0071】
硬化性化合物(B)は、エポキシ基を有する硬化性化合物(B1)であってもよく、オキセタン基を有する硬化性化合物(B2)であってもよい。
【0072】
絶縁シートの硬化物の平均熱線膨張係数をより一層低くする観点からは、硬化性化合物(B)は、エポキシ基又はオキセタン基を2個以上有することが好ましく、3個以上有することがより好ましい。
【0073】
絶縁シートの硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性をより一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、芳香族骨格を有することが好ましい。
【0074】
エポキシ基を有する硬化性化合物(B1)は特に限定されない。硬化性化合物(B1)として、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1b)が好適に用いられる。
【0075】
エポキシ基を有する硬化性化合物(B1)の具体例としては、ビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマー、ナフタレン骨格を有するエポキシモノマー、アダマンテン骨格を有するエポキシモノマー、フルオレン骨格を有するエポキシモノマー、ビフェニル骨格を有するエポキシモノマー、バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマー、キサンテン骨格を有するエポキシモノマー、アントラセン骨格を有するエポキシモノマー、及びピレン骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。硬化性化合物(B1)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0076】
上記ビスフェノール骨格を有するエポキシモノマーとしては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型又はビスフェノールS型のビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。
【0077】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマーとしては、ジシクロペンタジエンジオキシド、及びジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシモノマー等が挙げられる。
【0078】
上記ナフタレン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1−グリシジルナフタレン、2−グリシジルナフタレン、1,2−ジグリシジルナフタレン、1,5−ジグリシジルナフタレン、1,6−ジグリシジルナフタレン、1,7−ジグリシジルナフタレン、2,7−ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、及び1,2,5,6−テトラグリシジルナフタレン等が挙げられる。
【0079】
上記アダマンテン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,3−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンテン、及び2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンテン等が挙げられる。
【0080】
上記フルオレン骨格を有するエポキシモノマーとしては、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジクロロフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジブロモフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0081】
上記ビフェニル骨格を有するエポキシモノマーとしては、4,4’−ジグリシジルビフェニル、及び4,4’−ジグリシジル−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル等が挙げられる。
【0082】
上記バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,1’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、及び1,2’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン等が挙げられる。
【0083】
上記キサンテン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,3,4,5,6,8−ヘキサメチル−2,7−ビス−オキシラニルメトキシ−9−フェニル−9H−キサンテン等が挙げられる。
【0084】
オキセタン基を有する硬化性化合物(B2)は特に限定されない。硬化性化合物(B2)として、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(B2b)が好適に用いられる。
【0085】
オキセタン基を有する硬化性化合物(B2)の具体例としては、例えば、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エステル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、及びオキセタン化フェノールノボラック等が挙げられる。硬化性化合物(B2)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0086】
硬化性化合物(B)の重量平均分子量は1万未満であることが好ましい。硬化性化合物(B)の重量平均分子量は、600以下であることが好ましい。硬化性化合物(B)の重量平均分子量の好ましい下限は200、より好ましい上限は550である。硬化性化合物(B)の重量平均分子量が上記好ましい下限を満たすと、硬化性化合物(B)の揮発性が低くなり、絶縁シートの取扱い性がより一層高くなる。硬化性化合物(B)の重量平均分子量が上記好ましい上限を満たすと、絶縁シートが固くかつ脆くなり難く、絶縁シートの硬化物の接着性をより一層高めることができる。
【0087】
(シアネート化合物(C))
本発明に係る絶縁シートに含まれている上記シアネート化合物(C)は、シアネート当量が50〜200であり、かつシアナト基を有するものであれば特に限定されない。シアネート化合物(C)は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0088】
シアネート化合物(C)は、シアナト基を有する。比誘電率がより一層低い絶縁シートの硬化物を得る観点からは、シアネート化合物(B)は、シアナト基を2個以上有することが好ましく、3個以上有することがより好ましい。
【0089】
シアネート化合物(C)の具体例としては、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート[オリゴ(3−メチレン−1,5−フェニレンシアネート)]、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェニルシアネート)、4,4’−エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2−ビス(4−シアネート)フェニルプロパン、1,1−ビス(4−シアネートフェニルメタン)、ビス(4−シアネート−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,3−ビス[4−シアネートフェニル−1−(メチルエチリデン)]ベンゼン、ビス(4−シアネートフェニル)チオエーテル及びビス(4−シアネートフェニル)エーテル等の単官能又は2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック又はクレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、並びにこれらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマー等が挙げられる。
【0090】
シアネート化合物(C)のシアネート当量は50〜200の範囲内である。シアネート化合物(C)のシアネート当量が200以下であると、硬化物の半田耐熱性を充分に高めることができる。シアネート当量が小さすぎると、ポットライフが極端に悪くなる。シアネート当量が大きすぎると、架橋密度が小さくなり、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性及び硬化物の耐熱性が低くなる。シアネート化合物(C)のシアネート当量のより好ましい下限は100、より好ましい上限は150である。
【0091】
シアネート化合物(C)の重量平均分子量は1万未満であることが好ましい。シアネート化合物(C)の重量平均分子量の好ましい下限は100、より好ましい下限は500、好ましい上限は1000である。シアネート化合物(C)の重量平均分子量が上記好ましい下限を満たすと、絶縁シートの硬化物の半田耐熱性などの耐熱性をより一層高めることができる。シアネート化合物(C)の重量平均分子量が上記好ましい上限を満たすと、絶縁シートの硬化物の長期信頼性をより一層高めることができる。
【0092】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化性化合物(B)とシアネート化合物(C)との合計の含有量は10〜70重量%の範囲内であることが好ましい。全樹脂成分Xの合計100重量%中の硬化性化合物(B)とシアネート化合物(C)との合計の含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は60重量%、更に好ましい上限は50重量%である。硬化性化合物(B)とシアネート化合物(C)とは上記範囲内でポリマー(A)と硬化性化合物(B)とシアネート化合物(C)との合計の含有量が100重量%未満であるように含まれていることが好ましい。硬化性化合物(B)とシアネート化合物(C)との合計の含有量が上記好ましい下限を満たすと、絶縁シートの硬化物の接着性及び耐熱性をより一層高めることができる。硬化性化合物(B)の含有量が上記好ましい上限を満たすと、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性をより一層高めることができる。
【0093】
硬化性化合物(B)100重量部に対して、シアネート化合物(C)の含有量は33〜300重量部の範囲内であることが好ましい。硬化性化合物(B)100重量部に対して、シアネート化合物(C)の含有量は33〜150重量部の範囲内であることがより好ましい。硬化性化合物(B)100重量部に対して、シアネート化合物(C)の含有量の更に好ましい下限は50重量部、特に好ましい下限は100重量部、更に好ましい上限は125重量部である。シアネート化合物(C)の含有量が上記好ましい下限及び上限を満たすと、比誘電率がより一層低い絶縁シートの硬化物を得ることができる。
【0094】
(硬化剤(D))
本発明に係る絶縁シートに含まれている硬化剤(D)は絶縁シートを硬化させるものであれば特に限定されない。硬化剤(D)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0095】
硬化剤(D)は、フェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物であることが好ましい。この好ましい硬化剤(D)の使用により、耐熱性、耐湿性及び電気物性のバランスに優れた絶縁シートの硬化物を得ることができる。
【0096】
上記フェノール樹脂は特に限定されない。上記フェノール樹脂の具体例としては、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ−o−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−m−ヒドロキシフェニル)メタン、及びポリ(ジ−p−ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。なかでも、絶縁シートの柔軟性及び難燃性をより一層高めることができるので、メラミン骨格を有するフェノール樹脂、トリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0097】
上記フェノール樹脂の市販品としては、MEH−8005、MEH−8010及びNEH−8015(以上いずれも明和化成社製)、YLH903(ジャパンエポキシレジン社製)、LA―7052、LA−7054、LA−7751、LA−1356及びLA−3018−50P(以上いずれもDIC社製)、並びにPS6313及びPS6492(群栄化学社製)等が挙げられる。
【0098】
芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、特に限定されない。芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物としては、例えば、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、グリセロールビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、及びトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。なかでも、メチルナジック酸無水物又はトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸が好ましい。メチルナジック酸無水物又はトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸の使用により、絶縁シートの硬化物の耐水性を高めることができる。
【0099】
上記芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物の市販品としては、SMAレジンEF30、SMAレジンEF40、SMAレジンEF60及びSMAレジンEF80(以上いずれもサートマー・ジャパン社製)、ODPA−M及びPEPA(以上いずれもマナック社製)、リカジットMTA−10、リカジットMTA−15、リカジットTMTA、リカジットTMEG−100、リカジットTMEG−200、リカジットTMEG−300、リカジットTMEG−500、リカジットTMEG−S、リカジットTH、リカジットHT−1A、リカジットHH、リカジットMH−700、リカジットMT−500、リカジットDSDA及びリカジットTDA−100(以上いずれも新日本理化社製)、並びにEPICLON B4400、EPICLON B650、及びEPICLON B570(以上いずれもDIC社製)等が挙げられる。
【0100】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物であることが好ましい。この場合には、絶縁シートの柔軟性、耐湿性又は接着性をより一層高めることができる。また、上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物としては、メチルナジック酸無水物、ジシクロペンタジエン骨格を有する酸無水物又は該酸無水物の変性物等も挙げられる。
【0101】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物の市販品としては、リカジットHNA及びリカジットHNA−100(以上いずれも新日本理化社製)、並びにエピキュアYH306、エピキュアYH307、エピキュアYH308H及びエピキュアYH309(以上いずれもジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。
【0102】
硬化剤(D)は、下記式(1)〜(4)の内のいずれかで表される酸無水物であることがより好ましい。この好ましい硬化剤(D)の使用により、絶縁シートの柔軟性、耐湿性又は接着性をより一層高めることができる。
【0103】
【化13】

【0104】
【化14】

【0105】
【化15】

【0106】
【化16】

【0107】
上記式(4)中、R1及びR2はそれぞれ水素、炭素数1〜5のアルキル基又は水酸基を示す。
【0108】
硬化速度又は硬化物の物性などを調整するために、上記硬化剤と硬化促進剤とを併用してもよい。
【0109】
上記硬化促進剤は特に限定されない。硬化促進剤の具体例としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、イミダゾリン類、トリアジン類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類及び有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類等が挙げられる。また、上記硬化促進剤としては、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。上記有機金属化合物類としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫及びアルミニウムアセチルアセトン錯体等が挙げられる。
【0110】
上記硬化促進剤として、高融点のイミダゾール硬化促進剤、高融点の分散型潜在性硬化促進剤、マイクロカプセル型潜在性硬化促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、及び高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等を使用できる。上記硬化促進剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0111】
上記高融点の分散型潜在性促進剤としては、ジシアンジアミド、及びアミンがエポキシモノマー等に付加されたアミン付加型促進剤等が挙げられる。上記マイクロカプセル型潜在性促進剤としては、イミダゾール系、リン系又はホスフィン系の促進剤の表面がポリマーにより被覆されたマイクロカプセル型潜在性促進剤が挙げられる。上記高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤としては、ルイス酸塩又はブレンステッド酸塩等が挙げられる。
【0112】
上記硬化促進剤は、高融点のイミダゾール系硬化促進剤であることが好ましい。高融点のイミダゾール系硬化促進剤の使用により、反応系を容易に制御でき、かつ絶縁シートの硬化速度、及び絶縁シートの硬化物の物性などをより一層容易に調整できる。融点100℃以上の高融点の硬化促進剤は、取扱性に優れている。従って、硬化促進剤の融点は100℃以上であることが好ましい。
【0113】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化剤(D)の含有量は10〜40重量%の範囲内であることが好ましい。全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化剤(D)の含有量のより好ましい下限は12重量%、より好ましい上限は25重量%である。硬化剤(D)の含有量が上記好ましい下限を満たすと、絶縁シートを充分に硬化させることが容易である。硬化剤(D)の含有量が上記好ましい上限を満たすと、硬化に関与しない余剰な硬化剤が発生し難くなり、硬化物の架橋を充分に進行させることができる。このため、絶縁シートの硬化物の耐熱性及び接着性をより一層高めることができる。
【0114】
(フィラー(E))
本発明に係る絶縁シートにフィラー(E)が含まれていることにより、絶縁シートの硬化物の熱伝導性を高めることができる。この結果、絶縁シートの硬化物の放熱性が高くなる。フィラー(E)は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0115】
フィラー(E)は、無機フィラーであってもよく、有機フィラーであってもよい。硬化物の放熱性をより一層高める観点からは、フィラー(E)は、無機フィラーであることが好ましい。硬化物の放熱性をさらに一層高める観点からは、フィラー(E)は、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛、マグネサイト及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0116】
絶縁シートの硬化物の放熱性をより一層高める観点からは、フィラー(E)の熱伝導率は10W/m・K以上であることが好ましい。硬化物の放熱性をさらに一層高める観点からは、フィラー(E)の熱伝導率の好ましい下限は15W/m・K、より好ましい下限は20W/m・Kである。フィラー(E)の熱伝導率の上限は特に限定されない。熱伝導率300W/m・K程度の無機フィラーは広く知られており、また熱伝導率200W/m・K程度の無機フィラーは容易に入手できる。
【0117】
フィラー(E)は、球状であることが特に好ましい。球状フィラーの場合には、フィラー(E)を高密度で充填させることができるため、絶縁シートの硬化物の放熱性をより一層高めることができる。
【0118】
フィラー(E)の平均粒子径は、0.1〜40μmの範囲内であることが好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であると、フィラー(E)を高密度で充填することが容易になる。平均粒子径が40μm以下であると、絶縁シートの硬化物の絶縁破壊特性をより一層高めることができる。
【0119】
上記「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積平均での粒度分布測定結果から求められる平均粒子径である。
【0120】
フィラー(E)の分散性を高めて、絶縁シートの硬化物の放熱性をより一層高める観点からは、フィラー(E)は、カップリング剤により処理されていることが好ましい。
【0121】
上記カップリング剤として、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。なかでも、シランカップリング剤が好ましい。上記シランカップリング剤として、アミノ基を有するシラン化合物、メルカプト基を有するシラン化合物、イソシアネート基を有するシラン化合物、酸無水物基を有するシラン化合物及びイソシアヌル酸基を有するシラン化合物などが挙げられる。
【0122】
絶縁シート100体積%中、フィラー(E)の含有量は20〜90体積%の範囲内であることが好ましい。フィラー(E)の含有量が上記範囲内にあることにより、絶縁シートの硬化物の放熱性を高くすることができる。絶縁シート100体積%中のフィラー(E)の含有量のより好ましい下限は30体積%、さらに好ましい下限は35体積%、より好ましい上限は85体積%、さらに好ましい上限は80体積%である。フィラー(E)の含有量が上記好ましい下限を満たすと、硬化物の放熱性をより一層高めることができ、さらに硬化物の熱線膨張係数をより一層低くすることができる。フィラー(E)の含有量が上記好ましい上限を満たすと、絶縁シートがより一層適度な流動性を有し、絶縁シートを回路又はビアホールに充分に充填させることが容易になる。さらに、絶縁シートの接着性を充分に高めることができる。
【0123】
(他の成分)
本発明に係る絶縁シートは、ゴム粒子を含んでいてもよい。該ゴム粒子の使用により、絶縁シートの硬化物の応力緩和性及び柔軟性を高めることができる。
【0124】
本発明に係る絶縁シートは、分散剤を含んでいてもよい。該分散剤の使用により、絶縁シートの硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性をより一層高めることができる。
【0125】
上記分散剤は、水素結合性を有する水素原子を含む官能基を有することが好ましい。上記分散剤が水素結合性を有する水素原子を含む官能基を有することで、絶縁シートの硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性をより一層高めることができる。上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基としては、例えば、カルボキシル基(pKa=4)、リン酸基(pKa=7)、又はフェノール基(pKa=10)等が挙げられる。
【0126】
上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基のpKaの好ましい下限は2、より好ましい下限は3、好ましい上限は10、より好ましい上限は9である。上記官能基のpKaが上記好ましい下限を満たすと、上記分散剤の酸性度が高くなりすぎない。従って、絶縁シートの貯蔵安定性をより一層高めることができる。上記官能基のpKaが上記好ましい上限を満たすと、上記分散剤としての機能が充分に果たされ、絶縁シートの硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性をより一層高めることができる。
【0127】
上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基は、カルボキシル基又はリン酸基であることが好ましい。この場合には、絶縁シートの硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性をさらに一層高めることができる。
【0128】
上記分散剤としては、具体的には、例えば、ポリエステル系カルボン酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリアクリル系カルボン酸、脂肪族系カルボン酸、ポリシロキサン系カルボン酸、ポリエステル系リン酸、ポリエーテル系リン酸、ポリアクリル系リン酸、脂肪族系リン酸、ポリシロキサン系リン酸、ポリエステル系フェノール、ポリエーテル系フェノール、ポリアクリル系フェノール、脂肪族系フェノール、及びポリシロキサン系フェノール等が挙げられる。上記分散剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0129】
絶縁脂シート100重量%中、上記分散剤の含有量の好ましい下限は0.01重量%、より好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は20重量%、より好ましい上限は10重量%である。上記分散剤の含有量が上記好ましい下限及び上限を満たすと、フィラー(E)の凝集を抑制でき、かつ絶縁シートの硬化物の放熱性及び絶縁破壊特性をより一層高めることができる。
【0130】
本発明に係る絶縁シートは、ハンドリング性をより一層高めるために、ガラスクロス、ガラス不織布、アラミド不織布等の基材物質を含んでいてもよい。ただし、上記基材物質を含まなくても、本発明に係る絶縁シートは室温(23℃)において自立性を有し、かつ優れたハンドリング性を有する。よって、絶縁シートは基材物質を含まないことが好ましく、特にガラスクロスを含まないことが好ましい。絶縁シートが上記基材物質を含まない場合には、絶縁シートの厚みを薄くすることができ、かつ絶縁シートの硬化物の熱伝導性をより一層高めることができる。さらに、絶縁シートが上記基材物質を含まない場合には、必要に応じて絶縁シートの硬化物にレーザー加工又はドリル穴開け加工等の各種加工を容易に行うこともできる。なお、自立性とは、PETフィルム又は銅箔といった支持体が存在しなくても、シートの形状を保持し、シートとして取扱うことができることをいう。
【0131】
また、本発明に係る絶縁シートは、必要に応じて、粘着性付与剤、可塑剤、硬化剤、カップリング剤、チキソ性付与剤、難燃剤及び着色剤などを含んでいてもよい。
【0132】
(絶縁シート)
本発明に係る絶縁シートの製造方法は特に限定されない。絶縁シートは、例えば、上述した材料を混合した混合物を溶剤キャスト法又は押し出し成膜法等の方法でシート状に成形することにより得ることができる。シート状に成形する際に、脱泡することが好ましい。
【0133】
絶縁シートの厚みは特に限定されない。絶縁シートの厚みは、10〜300μmの範囲内にあることが好ましい。絶縁シートの厚みのより好ましい下限は50μm、さらに好ましい下限は70μm、より好ましい上限は200μm、さらに好ましい上限は120μmである。絶縁シートの厚みが上記好ましい下限を満たすと、絶縁シートの硬化物の絶縁性が高くなる。絶縁シートの厚みが上記好ましい上限を満たすと、絶縁シートの硬化物の放熱性がより一層高くなる。
【0134】
絶縁シートのガラス転移温度Tgは、25℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が25℃以下であると、絶縁シートが室温において固く、かつ脆くなり難い。このため、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性をより一層高めることができる。
【0135】
絶縁シートの硬化物の熱伝導率は、0.5W/m・K以上であることが好ましい。絶縁シートの硬化物の熱伝導率は、1.0W/m・K以上であることが好ましく、1.5W/m・K以上であることがより好ましく、2.0W/m・K以上であることが更に好ましい。熱伝導率が高いほど、絶縁シートの硬化物の放熱性が高くなる。
【0136】
絶縁シートの硬化物の25〜100℃での平均熱線膨張係数は、20ppm/℃以下であることが好ましい。絶縁シートの硬化物の25〜100℃での平均熱線膨張係数は、15ppm/℃以下であることが好ましく、10ppm/℃以下であることがより好ましい。上記平均熱線膨張係数が低いほど、絶縁シートの硬化物と基板又は半導体チップとの熱線膨張係数差が小さくなり、絶縁シートの硬化物に積層された基板又は半導体チップが反り難くなる。さらに、はんだリフロー時又は耐冷熱サイクルテスト時に、絶縁層、導体層又は接合に用いられたはんだ部分でのクラック又は剥離が生じ難くなる。
【0137】
絶縁シートの硬化物の1GHzでの比誘電率は5以下であることが好ましい。絶縁シートの硬化物の1GHzでの比誘電率は4以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましい。比誘電率が小さいほど、伝送損失が低くなり、電気信号の信頼性が高くなる。
【0138】
絶縁シートの硬化物の絶縁破壊電圧は、30kV/mm以上であることが好ましく、40kV/mm以上であることがより好ましく、50kV/mm以上であることがさらに好ましく、80kV/mm以上であることがさらに好ましく、100kV/mm以上であることがさらに好ましい。絶縁破壊電圧が高いほど、絶縁シートの硬化物が例えば電力素子用のような大電流用途に用いられた場合に、絶縁性が高くなる。
【0139】
(絶縁シートの用途)
本発明に係る絶縁シートは、貫通孔又は表面に凹部を有する基板の表面に、絶縁層を形成するのに用いられる。本発明に係る絶縁シートは、貫通孔を有する基板の表面に、絶縁層を形成するのに好適に用いられる。上記基板の表面に絶縁層を形成する際に、基板の表面に絶縁シートがラミネートされる。このとき、絶縁シートの一部が、貫通孔又は凹部に充填される。
【0140】
本発明に係る絶縁シートは、少なくとも一方の面に第1の導体層を有し、かつ貫通孔又は一方の面に凹部を有する基板と、基板の一方の面又は両方の面に積層された絶縁層と、絶縁層の基板が積層された面とは反対側の面に積層された第2の導体層又は回路基板とを備える積層構造体を構成するのに好適に用いられる。上記積層構造体の絶縁層は、本発明に従って構成された絶縁シートを硬化させることにより形成される。
【0141】
図1に、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に部分切欠正面断面図で示す。
【0142】
図1に示す積層構造体1は、貫通孔としてのビアホール2aを有する基板2を備える。基板2の表面には、導体層2bが形成されている。導体層2bは、基板2の上面2c及び下面2dと、ビアホール2aの内周面に形成されている。また、基板2の上面2c及び下面2dには、絶縁層3,4が積層されている。絶縁層3,4は、基板2のビアホール2a内に充填されている。絶縁層3の上面3aには、導体層5を介して絶縁層6が積層されている。絶縁層6上には、導体層7が積層されている。絶縁層4の下面4aには、導体層8が積層されている。
【0143】
導体層2b、導体層5及び導体層7は、図示しないビアホール接続により接続されている。導体層2b及び導体層8は、図示しないビアホール接続により接続されている。絶縁層又は導体層にビアホールを形成するために、穴あけ加工又はめっき加工など多層回路基板の形成に必要な各種の作業が行われてもよい。
【0144】
基板2の上面2c及び下面2dに絶縁シートを、該絶縁シートの一部がビアホール2a内に充填されるようにラミネートすることにより、積層構造体1が形成され得る。また、基板2の表面に絶縁シートをラミネートした後、該絶縁シート上に必要に応じて導体層が形成される。さらに、該導体層上に必要に応じて絶縁層が形成される。
【0145】
図2に、本発明の他の実施形態に係る積層構造体を模式的に部分切欠正面断面図で示す。
【0146】
図2に示す積層構造体11では、基板12の上面12aに、複数の絶縁層13〜15が積層されている。基板12は、上面12aの一部の領域に導体層12bを有する。基板12の上面12aには、導体層12bにより凹部12cが形成されている。最上層の絶縁層15以外の絶縁層13,14は、上面13a,14aの一部の領域に導体層13b,14bを有する。絶縁層13,14の上面13a,14aには、導体層13b,14bにより凹部13c,14cが形成されている。絶縁層13〜15は、凹部12c〜14c内に充填されている。また、導体層12b〜14bは、図示しないビアホール接続により接続されている。
【0147】
基板12の上面12aに絶縁シートを、該絶縁シートの一部が凹部12c内に充填されるようにラミネートすることにより、積層構造体11が形成され得る。また、基板12の上面12aに絶縁シートをラミネートした後、該絶縁シート上に必要に応じて導体層が形成される。さらに、該導体層上に必要に応じて絶縁層が形成される。
【0148】
上記基板は、少なくとも一方の面に第1の導体層を有し、かつ貫通孔を有する基板であることが好ましい。本発明に係る絶縁シートが用いられた場合、貫通孔を有する基板に絶縁シートをラミネートする際に、絶縁シートの一部を基板の貫通孔に充分に充填させることができる。上記貫通孔は、ビアホールであることが好ましい。
【0149】
上記第1の導体層及び上記第2の導体層の内の少なくとも一方は、配線回路であることが好ましい。第1,第2の導体層が配線回路である場合、基板の表面には複数の凹部が形成される。上記凹部は、回路の凹部であることが好ましい。本発明に係る絶縁シートが用いられた場合、表面に凹部を有する基板に絶縁シートをラミネートする際に、絶縁シートの一部を基板の凹部内に充分に充填させることができる。また、絶縁層の平均熱線膨張係数が低く、導体層と絶縁層との熱膨張率差が小さいため、クラックの発生を抑制できる。
【0150】
本発明に係る積層構造体は、導体層を2層以上有する多層回路基板であることが好ましい。本発明に係る積層構造体は、チップサイズパッケージに用いられる多層回路基板であることが好ましい。絶縁層の平均熱線膨張係数が低いため、上記多層回路基板がチップサイズパッケージに用いられる回路基板であっても、絶縁層、導体層又は接合に用いられたはんだ部分でのクラックの発生を抑制できる。
【0151】
半導体の実装方式が、チップサイズパッケージである場合、配線回路の高密度化及び回路の薄型化が要求される。このような場合に、本発明に係る絶縁シートは好適に用いられる。
【0152】
上記積層構造体は、例えば以下のようにして製造され得る。
【0153】
少なくとも一方の面に第1の導体層を有し、かつ貫通孔又は一方の面に凹部を有する基板の一方の面又は両方の面に、絶縁シートを、該絶縁シートの一部が貫通孔又は凹部に充填されるようにラミネートする。次に、絶縁シートの基板が積層された面とは反対側の面に、第2の導体層又は回路基板を積層する。その後、絶縁シートを硬化させる。
【0154】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0155】
以下の材料を用意した。
【0156】
[ポリマー(A)]
(1)ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:E1256、Mw=51,000、Tg=98℃)
(2)高耐熱フェノキシ樹脂(東都化成社製、商品名:FX−293、Mw=43,700、Tg=163℃)
(3)エポキシ基含有スチレン樹脂(日油社製、商品名:マープルーフG−1010S、Mw=100,000、Tg=93℃)
【0157】
[硬化性化合物(B)]
(1)ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート828US、Mw=370)
(2)ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート806L、Mw=370)
(3)3官能グリシジルジアミン型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート630、Mw=300)
(4)フルオレン骨格エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:オンコートEX1011、Mw=486)
(5)ナフタレン骨格液状エポキシ樹脂(DIC社製、商品名:EPICLON HP−4032D、Mw=304)
(6)ヘキサヒドロフタル酸骨格液状エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名:AK−601、Mw=284)
【0158】
[シアネート化合物(C)]
(1)フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製、商品名:PT30、シアネート当量=124)
(2)2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(三菱ガス化学社製、商品名:CA210、シアネート当量=139)
【0159】
[シアネート化合物(C)以外の他のシアネート化合物]
(1)ビスフェノールA型ジシアネート(ロンザジャパン社製、商品名:BA230、シアネート当量=232)
【0160】
[硬化剤(D)]
(1)脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:MH−700)
(2)芳香族骨格酸無水物(サートマー・ジャパン社製、商品名:SMAレジンEF60)
(3)多脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:HNA−100)
(4)テルペン系骨格酸無水物(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピキュアYH−306)
(5)ビフェニル骨格フェノール樹脂(明和化成社製、商品名:MEH−7851−S)
(6)アリル基含有骨格フェノール樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:YLH−903)
【0161】
[フィラー(E)]
(1)球状アルミナ(デンカ社製、商品名:DAM−10、平均粒子径10μm、熱伝導率36W/m・K)
(2)破砕アルミナ(日本軽金属社製、商品名:LS−242C、平均粒子径2μm、熱伝導率36W/m・K)
(3)合成マグネサイト(神島化学社製、商品名:MSL、平均粒子径6μm、熱伝導率15W/m・K)
(4)結晶シリカ(龍森社製、商品名:クリスタライトCMC−12、平均粒子径5μm、熱伝導率10W/m・K)
(5)アモルファスシリカ(フェニルシランカップリング剤により処理されている、アドマテックス社製、商品名:SE2050 SPE、平均粒子径0.5μm、熱伝導率1.4W/m・K)
【0162】
[分散剤]
(1)アクリル系分散剤(ビックケミージャパン社製、商品名:Disperbyk−2070、pKaが4のカルボキシル基を有する)
(2)ポリエーテル系分散剤(楠本化成社製、商品名:ED151、pKaが7のリン酸基を有する)
【0163】
[添加剤]
(1)エポキシシランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名:KBE403)
【0164】
[溶剤]
(1)メチルエチルケトン
(実施例1〜13及び比較例1〜3)
ホモディスパー型攪拌機を用いて、下記の表1〜2に示す割合(配合単位は重量部)で各原料を配合し、混練し、絶縁材料を調製した。
【0165】
厚み50μmの離型PETシートに、上記絶縁材料を50μmの厚みになるように塗工し、90℃のオーブン内で30分乾燥して、PETシート上に絶縁シートを作製した。
【0166】
(評価)
(1)ハンドリング性
PETシートと、該PETシート上に形成された絶縁シートとを有する積層シートを460mm×610mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを用いて、室温(23℃)でPETシートから未硬化状態で絶縁シートを剥離したときのハンドリング性を下記の基準で評価した。
【0167】
[ハンドリング性の判定基準]
〇:絶縁シートの変形がなく、容易に剥離可能
△:絶縁シートを剥離できるものの、シート伸びや破断が発生する
×:絶縁シートを剥離できない
【0168】
(2)熱伝導率
京都電子工業社製熱伝導率計「迅速熱伝導率計QTM−500」を用いて、絶縁シートの熱伝導率を測定した。
【0169】
(3)平均熱線膨張係数
絶縁シートを3mm×25mmの大きさに切り出し、120℃オーブン内で1時間硬化させた後、200℃オーブン内で1時間硬化させ、テストサンプルを作製した。TMA装置(TMA/SS6000、セイコーインストロメント社製)にて10℃/分の昇温速度で室温から320℃まで1回昇温した後に、0℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で昇温したときの25〜100℃での温度−TMA直線の傾きを測定し、得られた測定値の逆数を平均熱線膨張係数として算出した。
【0170】
(4)比誘電率
絶縁シートを30mm×30mmの大きさに切り出し、120℃オーブン内で1時間硬化させた後、200℃オーブン内で1時間硬化させ、テストサンプルを作製した。インピーダンス測定器(ヒューレットパッカード社製「HP4291B」)を用いて、テストサンプルの周波数1GHzでの比誘電率を測定した。
【0171】
(5)半田耐熱試験
厚み1.5mmのアルミニウム板と厚み35μmの電解銅箔との間に絶縁シートを挟み、真空プレス機で4MPaの圧力を保持しながら120℃で1時間、更に200℃で1時間、絶縁シートをプレス硬化し、銅張り積層板を形成した。得られた銅張り積層板を50mm×60mmの大きさに切り出し、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを288℃の半田浴に銅箔側を下に向けて浮かべ、銅箔の膨れ又は剥がれが発生するまでの時間を測定し、以下の基準で判定した。
【0172】
[半田耐熱試験の判定基準]
◎:10分経過しても膨れ及び剥離の発生なし
〇:3分経過後、かつ10分経過する前に膨れ又は剥離が発生
△:1分経過後、かつ3分経過する前に膨れ又は剥離が発生
×:1分経過する前に膨れ又は剥離が発生
【0173】
(6)絶縁破壊電圧
絶縁シートを100mm×100mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを120℃のオーブン内で1時間、更に200℃のオーブン内で1時間硬化させ、絶縁シートの硬化物を得た。耐電圧試験器(MODEL7473、EXTECH Electronics社製)を用いて、絶縁シートの硬化物間に1kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加した。絶縁シートが破壊した電圧を、絶縁破壊電圧とした。
【0174】
(7)伝送損失
絶縁シートを10枚重ねて、絶縁シートの積層体を得た。得られた積層体の上面及び下面に、厚み17μmの銅箔を配置し、120℃で1時間、更に200℃で1時間、絶縁シートの積層体をプレス硬化し、プレス後の厚みが0.55mmのテストサンプルを作製した。
【0175】
ベクトル方ネットワークアナライザを用いたトリプレート線路共振器法により、得られたテストサンプルの伝送損失を測定し、下記の評価基準により評価した。なお、測定条件はライン幅0.6mm、上下グランド導体間絶縁層距離1.04mm、ライン長200mm、特性インピーダンス50Ω、周波数3GHz及び測定温度25℃の各測定条件とした。
【0176】
[伝送損失の評価基準]
〇:伝送損失が10dB/m以下
×:伝送損失が10dB/mを超える
【0177】
(8)冷熱サイクル信頼性
厚み17μmの銅箔からなる回路が片面に形成されたガラスエポキシ基板を用意した。このガラスエポキシ基板の回路が形成された面に、絶縁シートを配置した。その後、真空ラミネーター(MVLP−500、メイキ製作所製)にて、80℃の条件下で、ガラスエポキシ基板の片面に絶縁シートをラミネートした。その後、120℃で1時間、更に200℃で1時間絶縁シートを硬化させ、テストサンプルを作製した。
【0178】
得られたテストサンプルを用いて、1チャンバー式冷熱サイクル試験機(WINTECH NT510、ETACH社製)にて、−40℃で20分及び125℃で20分を1サイクルとして1000サイクルの冷熱サイクル試験を行った。試験後のテストサンプルの硬化物の表面におけるクラックの有無を、光学顕微鏡(TRANSFORMER−XN、Nikon社製)にて観察した。また、試験後のテストサンプルの硬化物の表面における剥離の有無を、超音波探傷装置(mi−scope hyper、日立建機ファインテック社製)にて観察した。テストサンプル10検体中のクラック又は剥離が発生したテストサンプルの検体数を数え、冷熱サイクル信頼性を下記の評価基準により評価した。
【0179】
[冷熱サイクル信頼性の評価基準]
〇:クラック又は剥離が発生したテストサンプルが10検体中、2検体以下
△:クラック又は剥離が発生したテストサンプルが10検体中、3〜4検体
×:クラック又は剥離が発生したテストサンプルが10検体中、5検体以上
結果を下記の表1〜2に示す。
【0180】
【表1】

【0181】
【表2】

【符号の説明】
【0182】
1…積層構造体
2…基板
2a…ビアホール
2b…導体層
2c…上面
2d…下面
3,4…絶縁層
3a…上面
4a…下面
5,7,8…導体層
6…絶縁層
11…積層構造体
12…基板
12a…上面
12b…導体層
12c…凹部
13〜15…絶縁層
13a,14a…上面
13b,14b…導体層
13c,14c…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1万以上であるポリマーと、
エポキシ基又はオキセタン基を有する硬化性化合物と、
シアネート当量が50〜200であり、かつシアナト基を有するシアネート化合物と、
硬化剤と、
フィラーとを含有する、絶縁シート。
【請求項2】
前記ポリマーが、前記シアネート化合物のシアナト基と反応可能な官能基を有する、請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記ポリマーが、フェノキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度が95℃以上である、請求項3に記載の絶縁シート。
【請求項5】
前記硬化性化合物100重量部に対して、前記シアネート化合物の含有量が33〜300重量部の範囲内である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項6】
絶縁シートが硬化されたときに、硬化物の熱伝導率が0.5W/m・K以上、硬化物の25〜100℃での平均熱線膨張係数が20ppm/℃以下、硬化物の1GHzでの比誘電率が5以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項7】
前記硬化剤がフェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項8】
前記硬化剤が、多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られた脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物である、請求項7に記載の絶縁シート。
【請求項9】
前記硬化剤が、下記式(1)〜(4)の内のいずれかで表される酸無水物である、請求項8に記載の絶縁シート。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


上記式(4)中、R1及びR2はそれぞれ水素、炭素数1〜5のアルキル基又は水酸基を示す。
【請求項10】
前記硬化剤が、メラミン骨格もしくはトリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂である、請求項7に記載の絶縁シート。
【請求項11】
前記フィラーが、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛、マグネサイト及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項12】
前記フィラーの含有量が30〜90体積%の範囲内である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項13】
前記フィラーが球状である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項14】
前記フィラーがカップリング剤により処理されている、請求項1〜13のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項15】
少なくとも一方の面に第1の導体層を有し、かつ貫通孔又は前記一方の面に凹部を有する基板と、
前記基板の前記一方の面又は両方の面に積層された絶縁層と、
前記絶縁層の前記基板が積層された面とは反対側の面に積層された第2の導体層又は回路基板とを備え、
前記絶縁層が、請求項1〜14のいずれか1項に記載の絶縁シートを硬化させることにより形成されている、積層構造体。
【請求項16】
前記第1の導体層及び前記第2の導体層の内の少なくとも一方が、配線回路である、請求項15に記載の積層構造体。
【請求項17】
導体層を2層以上有する多層回路基板である、請求項15又は16に記載の積層構造体。
【請求項18】
チップサイズパッケージに用いられる多層回路基板である、請求項15〜17のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項19】
少なくとも一方の面に第1の導体層を有し、かつ貫通孔又は前記一方の面に凹部を有する基板の前記一方の面又は両方の面に、請求項1〜14のいずれか1項に記載の絶縁シートを、該絶縁シートの一部が前記貫通孔又は前記凹部に充填されるようにラミネートする工程と、
前記ラミネートされた絶縁シートの前記基板が配置された面とは反対側の面に、導体層又は回路基板を積層する工程と、
前記絶縁シートを硬化させる工程とを備える、積層構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−124075(P2011−124075A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280329(P2009−280329)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】