説明

絶縁フィルム

【課題】耐熱性および耐放電劣化性に優れ、絶縁寿命が長い絶縁フィルムを提供すること。
【解決手段】耐熱性樹脂と該耐熱性樹脂中に分散した絶縁性微粒子とを含み、該絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径が80〜900nmである、絶縁フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および耐放電劣化性に優れた絶縁フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用モーター、産業用モーター、大型機器のインバータ等においては使用電圧が高くなる傾向があり、それらに使用される絶縁材料に対しても高い耐熱性および耐電圧性が求められている。
【0003】
絶縁材料の耐電圧性は、熱劣化や放電劣化の影響で経年低下する。具体的には、放電劣化においては、絶縁材料に小さな空隙、クラック、傷等の欠陥が存在すると、電圧の印加によって、該欠陥において微弱な放電すなわち部分放電(コロナ放電)が発生する。この部分放電の繰り返しによって、局部破壊が起こり、徐々にそれが樹枝状に進展し、最終的に絶縁破壊に至ると考えられている。また、このときの樹枝状の破壊痕跡を電気トリーという。
【0004】
上記放電劣化への対策として、樹脂と該樹脂中に分散した絶縁性微粒子とを含む絶縁材料が知られている(特許文献1)。このような絶縁材料で被覆された絶縁電線は、その被覆層において絶縁性微粒子が電気トリーの進展を抑制するので放電劣化に対する耐性を示す。
【0005】
しかしながら、熱劣化および放電劣化への耐性が高く、絶縁寿命が長い絶縁材料に対するさらなる要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3496636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、耐熱性および耐放電劣化性に優れ、絶縁寿命が長い絶縁フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、耐熱性樹脂中の絶縁性微粒子の分散状態を調節することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の絶縁フィルムは、耐熱性樹脂と該耐熱性樹脂中に分散した絶縁性微粒子とを含み、該絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径が80〜900nmである。
好ましい実施形態によれば、上記耐熱性樹脂が、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を含む。
好ましい実施形態によれば、上記絶縁性微粒子の平均一次粒子径が200nm以下である。
好ましい実施形態によれば、上記絶縁性微粒子が、シリカ、アルミナ、およびチタニアから選択される少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性および耐放電劣化性に優れ、絶縁寿命が長い絶縁フィルムが得られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径を求める際の画像処理を説明する図である。
【図2】絶縁寿命時間の測定における回路の概略図である。
【図3】絶縁寿命時間の測定における電極の配置を説明する概略図である。
【図4】絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径と平均絶縁寿命時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[絶縁フィルム]
本発明の絶縁フィルムは、耐熱性樹脂と該耐熱性樹脂中に分散した絶縁性微粒子とを含む。本発明の絶縁フィルムにおいて、該絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径は900nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは600nm以下、さらに好ましくは500nm以下、特に好ましくは400nm以下である。絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径が900nm以下であると、絶縁性微粒子による放電劣化への耐性が良好に発揮されるので、フィルムが絶縁破壊されるまでの時間(「絶縁寿命時間」ともいう)を十分に長くすることができる。なお、該内接円の平均直径の好ましい下限値は、得られる絶縁フィルムの機械特性等を考慮して適切に設定され得る。具体的には、該内接円の平均直径は、80nm以上、好ましくは90nm以上である。平均直径が80nm未満の場合、フィルムにマイクロクラック等の欠陥が生じるために、絶縁性が低下する。
【0013】
本発明においては、上記「絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径」は、次のようにして決定される。すなわち、絶縁フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して画像データを得る。該画像データのマトリクス部(樹脂部)から任意の1点の画素を選び、その点を中心とした円を描く。円周がその点から最も近くにある絶縁性微粒子に接するまでこの円の径を大きくしていき、該絶縁性微粒子と接したときの円を「絶縁性微粒子を含まない領域の内接円」として画像データ上に上書きする。この操作をマトリクスの全画素について行う。ただし、新たに描いた内接円が既に描かれた1つ以上の内接円と重なる場合は次のように処理する;(1)同径以下の既存の内接円と重なる場合には、新たな内接円を画像データ上に上書きし、(2)同径より大きな既存の内接円と重なる場合には、上書きしない。したがって、同径以下の内接円と同径より大きな内接円との両方と重なる場合には、同径より大きな内接円との重複領域以外が上書きされる。以下、具体例として、図1(a)に示す画像の処理を説明する。なお、図1(a)中の黒点は絶縁性微粒子を示す。まず、図1(b)に示すように、任意に1点を選んで絶縁性微粒子を含まない領域の内接円Aを描く。次いで、図1(c)に示すように、別の1点を選んで内接円Bを描く。この場合、既存の円Aの方が円Bよりも大きいので、円Bは画像データ上に上書きされない。同様に、図1(d)に示すように、また別の1点を選んで内接円Cを描く。この場合、既存の円Aよりも円Cの方が大きいので、円Cは画像データ上に上書きされる。同様に、図1(e)に示すように、また別の1点を選んで内接円Dを描く。この場合、円C>円D>円Aなので、円Dは円Cとの重複領域を除いて画像データ上に上書きされる。よって、上記処理後の画像データは図1(f)のようになる。このような処理を繰り返して最終的に得られた画像について、各々の大きさの内接円が画像中に占める割合を求め、ヒストグラム化および平均直径を算出する。このような画像解析は、ImageJ等の画像解析ソフトを用いて行うことができる。
【0014】
上記領域およびその内接円の大きさは、絶縁性微粒子の添加量、粒子径、表面処理および分散方法等を選択することにより調節することができる。具体的には、例えば、絶縁性微粒子の添加量を多くすること、粒子径を小さくすること、表面処理を施して凝集を抑制すること等により上記領域およびその内接円の大きさを小さくすることができる。
【0015】
本発明の絶縁フィルムの厚みは、好ましくは10μm〜150μmである。
【0016】
[耐熱性樹脂]
上記耐熱性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂等が挙げられる。なかでも、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂が好ましい。耐熱性、機械的強度、および絶縁性に優れるからである。本発明においては、耐熱性樹脂を一種のみ用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
上記ポリイミド樹脂は、代表的には、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物とを重合させてポリアミド酸を調製し、次いで、該ポリアミド酸を加熱してイミド化反応を進めることによって得られ得る。
【0018】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0019】
上記ジアミン化合物の具体例としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。
【0020】
上記ポリアミドイミド樹脂は、任意の適切な合成方法によって得られ得る。例えば、無水トリメリット酸クロライドとジアミンとを反応させる酸クロライド法、トリメリット酸無水物とジイソシアネートとを反応させるイソシアネート法、トリメリット酸無水物とジアミンとを反応させる直接重合法が挙げられる。なかでも、作業の効率性に優れるという点から、イソシアネート法が好ましい。
【0021】
上記イソシアネート法を採用する場合に用いられるジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネートの芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。なかでも、コスト面に優れることから、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびジシクロへキシルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0022】
上記ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量は、好ましくは35,000〜75,000であり、より好ましくは40,000〜75,000であり、さらに好ましくは50,000〜70,000であり、特に好ましくは55,000〜67,000である。重量平均分子量が35,000未満であると、得られるフィルムの機械特性が不十分となる場合がある。また、重量平均分子量が75,000を超えると、粘度が大きくなって作業性および絶縁性微粒子の分散性が低下する場合がある。
【0023】
[絶縁性微粒子]
上記絶縁性微粒子は、上記耐熱性樹脂中に分散して存在することによって、絶縁フィルムおける電気トリーの進展等を抑制する。これにより、放電劣化が抑制されるので、絶縁寿命時間を長くすることができる。
【0024】
上記絶縁性微粒子の平均一次粒子径は、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは3〜150nm、さらに好ましくは5〜100nmであり、特に好ましくは8〜50nmである。平均一次粒子径が200nmを超えると、放電劣化を抑制する効果が低下し、十分な絶縁寿命時間が得られない場合がある。ここで、該平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡観察によって得られたフィルム断面の画像において、絶縁性微粒子の一次粒子50個の長径を測定し、その平均値を算出することによって得られ得る。
【0025】
上記絶縁性微粒子としては、特に制限は無く、シリカ、アルミナ、チタニア、窒化ホウ素、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、層状ケイ酸塩(クレイ)等が挙げられる。なかでも、分散性および絶縁性に優れることから、シリカ、アルミナ、およびチタニアが好ましく、シリカがより好ましい。
【0026】
上記シリカとしてはフュームドシリカ、コロイダルシリカ等が好ましく用いられ得る。シリカは、種々の粒子径のものが市販されているので、目的に応じて選択して用いることができる。
【0027】
上記絶縁性微粒子には、必要に応じて、任意の適切な表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、アミノシラン化合物を用いたアミノ基の導入、トリメチルシラン等を用いた疎水化処理等が挙げられる。表面処理は単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0028】
本発明の絶縁フィルム中における絶縁性微粒子の含有量は、上記耐熱性樹脂の樹脂固形分100重量部に対して好ましくは1〜18重量部、より好ましくは2〜15重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。含有量がこのような範囲であれば、機械特性および絶縁寿命に優れた絶縁フィルムが得られ得る。一方、含有量が18重量部を超えると、上記絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径が80nm未満となる場合がある。
【0029】
[絶縁フィルムの作製方法]
本発明の絶縁フィルムは、例えば、上記耐熱性樹脂のワニス(ポリイミド樹脂の場合は、その前駆体のポリアミド酸溶液)に上記絶縁性微粒子を加えて分散させること、得られた絶縁性微粒子分散ワニスを基板に塗布し乾燥させること、および、得られた乾燥フィルム(「半硬化フィルム」と称する場合がある)を基板から離型して加熱硬化させること、によって作製され得る。
【0030】
上記耐熱性樹脂のワニスの樹脂濃度は、目的等に応じて任意の適切な値に設定され得る。該樹脂濃度は、通常10〜40重量%である。上記絶縁性微粒子の分散方法および絶縁性微粒子分散ワニスの塗布方法としては、それぞれ任意の適切な方法が採用され得る。例えば、分散は、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、ナノマイザー等の任意の適切な分散機を用いて行うことができる。
【0031】
上記絶縁性微粒子分散ワニスの乾燥温度および時間は、塗布厚み等に応じて適切に設定され得る。例えば、耐熱性樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いる場合、乾燥温度は、50℃〜200℃であり得る。また、乾燥時間は、10分〜60分であり得る。乾燥温度は一定でもよく、段階的に変化させてもよい。
【0032】
上記乾燥フィルムの加熱硬化温度および時間は、乾燥フィルムの厚み等に応じて適切に設定され得る。例えば、耐熱性樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いる場合、硬化温度は250℃〜400℃であり得る。また、硬化時間は、5分〜60分であり得る。乾燥フィルムを加熱硬化する際には、フィルムが収縮しないように固定しておくことが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例等における測定方法は以下のとおりである。
【0034】
(1)重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリエチレンオキシド(PEO)換算により測定した。GPC条件は以下の通りである。
GPC装置:製品名「HLC−8120GPC」(東ソー製)
カラム:「TSKgel superAWM−H」+「TSKgel superAW4000」+「TSKgel superAW2500」(東ソー製)
流量:0.4ml/min
濃度:1.0g/l
注入量:20μl
カラム温度:40℃
溶離液:10mM−LiBr+10mM−リン酸/DMF
(2)絶縁寿命時間
耐圧試験機(製品名「5051A」、鶴賀電機製)を用い、印加電圧をAC3kVとして常温気中下で絶縁破壊に至る時間を測定した。測定回路および電極配置をそれぞれ図2および図3に示す。測定試料上の20点を測定後、破壊時間のワイブル分布を作成し、累積発生確率が63.2%になる時間を平均絶縁寿命時間とした。
(3)絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径の算出
絶縁フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(製品番号「H−7650」、日立ハイテクノロジーズ製)で観察して得た画像データを、画像解析ソフト(製品名「ImageJ」)を用いて解析することによって絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径を算出した。
(4)平均一次粒子径
透過型電子顕微鏡(製品番号「H−7650」、日立ハイテクノロジーズ製)を用い、100kVの加速電圧でフィルム断面の観察を行った。得られた観察画像から、絶縁性微粒子の一次粒子50個について長径を測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0035】
[合成例1]
撹拌翼付きメカニカルスターラーを取り付けた4つ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1.00モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1.00モル、およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)1063gを仕込み、120℃で2時間反応させた。その後、180℃に昇温して3時間反応させた。これにより、ポリアミドイミドワニスを得た。得られたポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量は65,500であった。また、得られたポリアミドイミドワニスの樹脂固形分を25重量%に調整し、調整後のワニス(溶媒:NMP)の25℃における粘度をデジタル粘度計HBDV−I Prime(ブルックフィールド社製)を用いて測定したところ、66.4Pa・sであった。
【0036】
[実施例1]
合成例1のポリアミドイミドワニスに、樹脂固形分に対するフィラー量が2.5重量部となるようにナノシリカ(製品名「AEROSIL(R)RA200H」、日本アエロジル製)を添加し、ロールミルで分散させた。得られたシリカ分散ワニスを乾燥後の厚みが50μmとなるようにガラス基板上に塗布した。これを80℃で15分、次いで150℃で15分加熱し、室温まで冷却してから、ガラス基板から離型し、これにより、自立性のある半硬化フィルムを得た。該半硬化フィルムの端部を固定し、340℃で15分さらに加熱することにより、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0037】
[実施例2]
ナノシリカ(製品名「AEROSIL(R)RA200H」、日本アエロジル製)を樹脂固形分に対するフィラー量が5重量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0038】
[実施例3]
ナノシリカ(製品名「AEROSIL(R)RA200H」、日本アエロジル製)を樹脂固形分に対するフィラー量が10重量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0039】
[比較例1]
ナノシリカ(製品名「YA010C−SM1」、アドマテックス製)を樹脂固形分に対するフィラー量が5重量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0040】
[比較例2]
ナノシリカ(製品名「アドマファインSC1050−SXT」、アドマテックス製)を樹脂固形分に対するフィラー量が5重量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0041】
[比較例3]
ナノシリカ(製品名「アドマファインSC1050−SXT」、アドマテックス製)を樹脂固形分に対するフィラー量が10重量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0042】
[比較例4]
ナノシリカ(製品名「AEROSIL(R)RA200H」、日本アエロジル製)を樹脂固形分に対するフィラー量が20重量部となるように添加したこと以外は実施例1と同様にして、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0043】
[参考例1]
ナノシリカを添加しないこと以外は実施例1と同様にして、ポリアミドイミドの硬化フィルムを得た。
【0044】
上記実施例および比較例で得られたポリアミドイミドの硬化フィルムについて、絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径および平均絶縁寿命時間を測定した。結果を表1に示す。また、それらの関係を示すグラフを図4に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1および図4に示されるとおり、絶縁フィルム中の絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径が900nm以下である場合、絶縁性微粒子を添加しない参考例の絶縁フィルムに比べて放電劣化への耐性が優れており、該絶縁フィルムより顕著に長い平均絶縁寿命時間が得られ得る。このように長い絶縁寿命が得られる理由としては、以下のように推測される。すなわち、本発明の絶縁フィルムにおいては、絶縁性微粒子が耐熱性樹脂中に均一かつ密な状態で分散しているので、フィルム中で電気トリーの進展を抑制するだけでなく、フィルム表面で保護層として機能して、放電によるフィルム表面の浸食を防ぐと考えられる。一方で、該内接円の平均直径が80nm未満である比較例4ではフィルムにマイクロクラックが生じ、絶縁性が著しく低下した。これらの結果から、絶縁フィルム中の絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径が80〜900nmという特定の分散状態において非常に良好な絶縁性が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の絶縁フィルムは、自動車用モーター、産業用モーター、大型機器のインバータ等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 電極
2 測定試料(絶縁フィルム)
3 フレームグラウンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂と該耐熱性樹脂中に分散した絶縁性微粒子とを含み、該絶縁性微粒子を含まない領域の内接円の平均直径が80〜900nmである、絶縁フィルム。
【請求項2】
前記耐熱性樹脂が、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を含む、請求項1に記載の絶縁フィルム。
【請求項3】
前記絶縁性微粒子の平均一次粒子径が200nm以下である、請求項1または2に記載の絶縁フィルム。
【請求項4】
前記絶縁性微粒子が、シリカ、アルミナ、およびチタニアから選択される少なくとも1つを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の絶縁フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60576(P2013−60576A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−120619(P2012−120619)
【出願日】平成24年5月28日(2012.5.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】