説明

絶縁ワニス及びこれを用いた絶縁電線

【課題】 加熱処理後であっても導体との密着性、高負荷条件下での耐軟化性を有する絶縁被膜を形成できる絶縁ワニス、及びこれを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】 フェノキシ樹脂50〜99質量%及びポリエステルイミド樹脂50〜1質量%のベース樹脂、並びに前記フェノキシ樹脂100質量部に対して硬化剤0〜50質量部を含有する。前記硬化剤は、ブロックイソシアネート化合物であることが好ましい。このような組成を有する絶縁ワニスをプライマー層として用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワニス含浸処理等の高温処理後も優れた導体との密着性を保持した絶縁被膜を形成することができる絶縁ワニス、及び当該ワニスでプライマー層を形成した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの巻線やトランスの巻線の絶縁電線で、耐熱性の要求が高い用途については、ポリエステルイミド樹脂を主成分とした絶縁ワニスが用いられている。
【0003】
巻線加工工程の自動化、高速化の発展に従い、巻線の絶縁被膜に対する耐摩耗性、耐熱性、可とう性の要求については年々厳しくなり、さらに、各種電気機器の高出力化、または小型化、省電力化への要請に伴う高占積率化も進み、巻線に加えられる加工負荷が厳しくなっている。このような事情下、ポリエスエルイミド樹脂絶縁被膜の耐摩耗性、可とう性、密着性を改善する提案が種々なされている。
【0004】
例えば、特許第3766447号では、アセチレン類、アルキノール類、アルデヒド類、アミン類、メルカプタン類、およびチオ尿素類等の金属不活性剤と、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の硬化性樹脂を配合することにより、絶縁被膜の耐熱性、導体に対する密着性を改善することが提案されている。そして、実施例において、ポリエステルイミド系塗料に、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオールとメラミン樹脂とを添加した絶縁被膜が、180°剥離試験による密着力、ヒートショック試験後の可とう性に優れていることを開示している。
【0005】
【特許文献1】特許第3766447号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ワニス含浸処理などが行われれる仕様では、常温での密着性やヒートショック試験後の可とう性の改善だけでは十分でない。加熱処理後の密着性、高負荷条件下での耐軟化性なども充足する必要がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加熱処理後であっても導体との密着性、高負荷条件下での耐軟化性を有する絶縁被膜を形成できる絶縁ワニスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、加熱処理後も導体との密着性を保持できる絶縁被膜として、プライマー層にエポキシ樹脂、特にフェノキシ樹脂を用いた絶縁電線を提案している(特願2007−266405)。しかしながら、従来のポリエステルイミドワニスの代替えとして、さらに他の特性についても検討し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の絶縁ワニスは、フェノキシ樹脂50〜99質量%及びポリエステルイミド樹脂50〜1質量%のベース樹脂、並びに前記フェノキシ樹脂100質量部に対して硬化剤0〜50質量部を含有する。前記硬化剤は、ブロックイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0010】
本発明の絶縁電線は、上記本発明の絶縁ワニスを、導体上に塗布、焼付けてなるプライマー層を有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の絶縁ワニスは、被膜構成のベース樹脂として、フェノキシ樹脂とポリエステルイミド樹脂とのブレンド樹脂を用いているので、高温処理後の密着性、高負荷条件下での耐軟化性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
〔絶縁ワニス〕
本発明の絶縁ワニスは、ベース樹脂として、特定割合でフェノキシ樹脂とポリエステルイミド樹脂をブレンドしたブレンド樹脂を使用することを特徴としている。
【0014】
<ベース樹脂>
本発明の絶縁ワニスに用いられるベース樹脂は、フェノキシ樹脂およびポリエステルイミド樹脂のブレンド樹脂である。
フェノキシ樹脂とは、ビスフェノール化合物とエピハロヒドリンとを強アルカリ存在下で反応させて得られるエポキシ樹脂のうち、重合度が大きいものをいう。
【0015】
ビスフェノール化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサホスファン−2−オキサイドヒドロキノンなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独又は2種以上混合して用いることができる。エピハロヒドリンの好適な代表例としては、エピクロロヒドリンが挙げられる。
【0016】
好適なフェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとから製造されるビスフェノールA変性フェノキシ樹脂、ビスフェノールSとエピハロヒドリンとから製造されるビスフェノールS変性フェノキシ樹脂などが挙げられる。これらのフェノキシ樹脂は、いずれも商業的に入手しうる化合物であり、具体的には、東都化成(株)製、品番YP−50、YP50S、YP−55、YP−70、YPS007A30Aなどが挙げられるが、本発明はかかる例示に限定されるものではない。
【0017】
本発明に用いられるフェノキシ樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、耐熱性及び密着性を高める観点から、好ましくは30000〜100000、より好ましくは5000〜80000である。
【0018】
ポリエステルイミド樹脂とは、分子内にエステル結合とイミド結合を有する樹脂で、酸無水物とアミンから形成されるイミド、アルコールとカルボン酸から形成されるポリエステル、そして、イミドの遊離酸基または無水基がエステル形成反応に加わることで形成される樹脂である。このようなポリエステルイミド樹脂は、イミド化、エステル化、エステル交換反応が生じるような条件で製造することができる。
【0019】
本発明のワニスに用いられるポリエステルイミド樹脂は、上記のようにイミド化、エステル化、エステル交換反応が生じるような条件で製造されたポリエステルイミド樹脂の他、硬化剤や潤滑剤などを含んだ市販のポリエステルイミド樹脂を用いてもよいし、さらには、市販のポリエステルイミド樹脂ワニスを用いることもできる。市販のポリエステルイミド樹脂ワニスとしては、日立化成工業製のIsomid40SM45、大日精化社製のEH402−45、FS304、FS201、日触スケネクタディ社のアイソミッド、ゼネラルエレクトリック社製のイミデックス等のエステルイミドワニスなどが挙げられる。
【0020】
本発明の絶縁ワニスのベース樹脂は、上記のようなフェノキシ樹脂およびポリエステルイミド樹脂を、フェノキシ樹脂:ポリエステルイミド樹脂(質量比)で、50:50〜99:1の割合、好ましくは50:50〜95:5、より好ましくは75:25〜95:5でブレンドしたものである。
ベース樹脂におけるフェノキシ樹脂の割合が低くなるにつれて、絶縁被膜の導体に対する密着性が低下し、フェノキシ樹脂の含有割合が50質量%未満になると、フェノキシ樹脂による耐摩耗効果が得られにくくなるからである。一方、フェノキシ樹脂単独では、特に高荷重が負荷されたときの耐軟化温度が、汎用のポリエスエルイミド樹脂ワニスから得られる絶縁被膜よりも劣っているため、ワニス含浸処理や高温条件で用いられる電線の絶縁被膜としては不適当であるが、ポリエステルイミドとのブレンドにより、この点が解消される。
【0021】
なお、ポリエステルイミド樹脂として、市販のポリエステルイミド樹脂ワニスを使用する場合、ワニス中の固形分が、上記割合となるように、フェノキシ樹脂と混合すればよい。
【0022】
<フェノキシ樹脂用硬化剤>
フェノキシ樹脂は、骨格中に、反応性に富むエポキシ基や水酸基を有しているので、これらと反応して架橋構造を形成できる硬化剤を共存させることが好ましい。
【0023】
フェノキシ樹脂用硬化剤としては、メラミン化合物、イソシアネート化合物などを用いることができるが、イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤で保護したブロックイソシアネートが好ましく用いられる。ブロックイソシアネート化合物は、常温で安定であるが、その解離温度以上に加熱すると、遊離のイソシアネート基を再生するものである。イソシアネートの解離温度は、ブロック剤の種類によるが、好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜130℃である。
【0024】
上記イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルへキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロへキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロへキサンジイソシアネート、イソプロピデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメリルシクロへキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物などが挙げられる。
【0025】
これらのイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロックするブロック剤としては、アルコール類、フェノール類、ε−カプロラクタム、ブチルセロソルブ類などが挙げられる。
【0026】
ブロックイソシアネート化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば住友バイウレタン社のCT stable、BL−3175、TPLS−2759、BL−4165、日本ポリウレタン工業社製のMS−50などを用いることができる。
【0027】
フェノキシ樹脂用硬化剤は、フェノキシ樹脂100質量部あたり0〜50質量部の割合で用いることが好ましく、より好ましくは5〜30質量部である。
【0028】
<有機溶剤>
本発明の絶縁ワニスは、上記のようなベース樹脂およびフェノキシ樹脂用硬化剤を、有機溶剤に溶解したものである。
本発明で用いられる有機溶剤としては、ベース樹脂を溶解できるものであればよく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロへキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類;ジエチルエステル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物;ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素化合物;クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類;ピリジンなどの第三級アミンなどが挙げられ、これらの有機溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0029】
有機溶剤は、通常、ワニスにおける固形分含有率30〜60質量%程度となるように用いられる。
ポリエステルイミド樹脂として市販のポリエステルイミド樹脂ワニスを用いた場合、そのワニスに用いられている有機溶剤で代用することもできる。
【0030】
<その他の成分>
本発明の絶縁ワニスは、上記ベース樹脂、フェノキシ樹脂用硬化剤、有機溶剤の他に、下記成分が含まれ得る。
例えば、ポリエステルイミドの硬化剤が含まれていてもよい。市販のポリエスエルイミド樹脂あるいはポリエステルイミド樹脂ワニスを用いた場合、イソシアネート系硬化剤、メチレン化合物、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤などが含有され得る。
【0031】
本発明の絶縁ワニスは、さらに必要に応じて、本発明の目的が阻害されない範囲で、顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、酸化防止剤、レべリング剤等の各種添加剤が含有されていてもよい。
【0032】
<絶縁ワニスの調製>
本発明の絶縁ワニスは、以上のようなベース樹脂および硬化剤、その他必要に応じて添加される成分を含有するものであり、各成分を適宜混合、攪拌して調製してもよいし、まずフェノキシ樹脂、フェノキシ樹脂用硬化剤、及び有機溶剤を混合、攪拌してフェノキシ樹脂―硬化剤混合溶液を調製し、このフェノキシ樹脂―硬化剤混合溶液と、エステルイミド樹脂(又はこれを有機溶剤に溶解した溶液)、さらには必要に応じて添加される成分を混合、攪拌してもよい。予めフェノキシ樹脂と硬化剤とを混合しておくことにより、フェノキシ樹脂硬化体による耐摩耗性効果が得られやすい。
【0033】
本発明の絶縁ワニスは、耐熱性、可とう性、耐摩耗性に優れた絶縁被膜を形成できるだけでなく、ストレスが負荷した状態でも導体に対する密着性が優れているので、絶縁電線のプライマー層用塗料として用いることもできる。
【0034】
本発明の絶縁ワニスを、導体に直接塗布した後、焼付けて硬化することにより絶縁被膜を形成できる。焼付温度としては、フェノキシ樹脂が硬化剤と反応して熱硬化できる温度であることが好ましい。
【0035】
〔絶縁電線〕
本発明の絶縁電線は、導体表面に、上記本発明の絶縁ワニスの硬化物で形成されるプライマー層を有するものである。
【0036】
導体としては、通常、電線導体に用いられる公知の導体で、銅線、アルミニウム線などの金属導体が用いられる。
【0037】
本発明の絶縁ワニスを、350〜500℃程度の炉内を、1パスあたり10秒〜30秒間(10回引きなら100秒〜300秒間)、通過させることにより行うことが好ましい。
【0038】
プライマー層の厚みは、特に限定しないが、1〜20μmが好ましく、より好ましくは1〜10μmである。プライマー層としては、この程度の厚みで十分だからである。
【0039】
本発明の絶縁電線は、上記のようなプライマー層上に、少なくとも1層以上の上塗り層を有している。
上塗り層の組成としては特に限定せず、従来より絶縁被膜に用いられているポリエステルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノキシ系樹脂などを用いることができる。上塗り層構成樹脂は、プライマー層構成樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよく、絶縁電線の用途に応じて適宜選択される。
【0040】
上塗り層が2層以上で構成される場合、絶縁電線の最表層の上塗り層は、潤滑性を有する被膜、例えば、高潤滑ポリイミド樹脂、高潤滑ポリアミドイミド樹脂などで構成されることが好ましい。
【実施例】
【0041】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
〔測定評価方法〕
はじめに、本実施例で行なった評価方法について説明する。
【0043】
(1)可とう性
絶縁電線を、初期長さに対して20%伸長し、伸長後、JIS C3003 7.1.1可とう性試験に準拠して試験した。具体的には、絶縁電線の自己径(1d)、2倍(2d)を有する丸棒に沿って電線を、電線と電線とが接触するように30回巻き付けた後、亀裂の有無を観察し、亀裂が発生しなかったときの丸棒の径(1d又は2d)を調べた。1dでも亀裂を生じない場合は、可とう性に優れているといえる。
【0044】
(2)ヒートショック試験
絶縁電線を、初期長さに対して20%伸長し、伸長後、JIS C3003 20の耐衝撃試験に準拠して試験した。具体的には、200℃で30分間加熱した後、絶縁電線の自己径(1d)、2倍(2d)を有する丸棒に沿って電線を、電線と電線とが接触するように30回巻き付けた後、亀裂の有無を観察し、亀裂が発生しなかったときの丸棒の径を調べた。丸棒の径が小さいほど、可とう性が高温処理によっても保持できていることを意味し、耐熱性に優れているといえる。
【0045】
(3)耐摩耗性
JIS C3003−1999に記載の耐摩耗試験に準拠し、一方向摩耗値(g)を測定した。どの程度の力が加わったときに被膜が破損するかを調べるもので、捲線時のストレスに対する被膜強度の指標となる。
なお、各絶縁電線について、9本ずつ測定した結果の平均値を示す。
【0046】
(4)密着性
JIS−C3003「8.1a)急激伸長」に準じて、膜浮(2箇所測定したときの平均値)を測定した。
測定は、室温、160℃で6時間放置後、および180℃で6時間放置後について行った。
【0047】
(5)軟化温度
JIS C3003「エナメル銅線及びエナメルアルミニウム線試験方法」に準じて、軟化温度(℃)を測定した。JISに規定する荷重(700g)、及び2倍荷重(1400g)のそれぞれについて、電線が導通したときの温度(軟化温度)を測定した。
なお、各絶縁電線について、4本ずつ測定した結果の最大値と最小値の平均値を示す。
【0048】
〔絶縁ワニス調製用溶液〕
(1)フェノキシ樹脂溶液
ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを反応させてなるビスフェノールA型フェノキシ樹脂(東都化成株式会社の「YP−50」)をクレゾールに溶解して、フェノキシ樹脂含有率30質量%溶液を調製した。
【0049】
(2)汎用エステルイミド樹脂溶液
日立化成製のエステルイミドワニスである「Isomid40SM45」(固形分含有率:45質量%)をクレゾールで希釈して、汎用エステルイミド樹脂含有率30質量%溶液を調製した。
(3)高密着エステルイミド樹脂溶液
大日精化製のエステルイミドワニスである「EH402No.3−45」(固形分含有率:45質量%)をクレゾールで希釈して、エステルイミド樹脂含有率30質量%溶液を調製した。
【0050】
(4)硬化剤溶液
硬化剤として日本ポリウレタン株式会社製のブロックイソシアネート「MS50」をクレゾールに溶解して、硬化剤含有率30質量%溶液を調製した。
【0051】
〔絶縁電線No.1の作製〕
フェノキシ樹脂溶液100質量部と硬化剤溶液20質量部とを混合し、室温で1時間攪拌して絶縁ワニスNo.1を製造した。この絶縁ワニスを、径1.0mmの銅線に塗布、焼付し、3μmのプライマー層(1層目)を形成した。
ついで、汎用エステルイミドワニス(日立化成製のエステルイミドワニスである「Isomid40SM45」)、汎用ポリアミドイミドワニス(日立化成工業製の「HI−406E−34」)、自己潤滑ポリアミドイミドワニス(住友電工ウインテック社製)を順次塗布し、2層目(25μm)、3層目(5μm)、4層目(2μm)からなる4層構造の膜厚35μmの絶縁被膜を形成した。
作製した絶縁電線について、上記評価方法に基づいて、可とう性、ヒートショック試験、耐摩耗性、密着性、軟化温度を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
〔絶縁電線No.2〜8の作製〕
No.1で製造した絶縁ワニス(フェノキシ樹脂100質量部に対して硬化剤20質量部含有)と汎用エステルイミド樹脂溶液を表1に示す割合で混合して室温で1時間攪拌して、絶縁ワニスNo.2〜8を調製した。調製した各絶縁ワニスを用いて、No.1と同様にして4層構造の膜厚35μmの絶縁被膜を有する電線を作製し、上記評価方法に基づいて、可とう性、ヒートショック試験、耐摩耗性、密着性、軟化温度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
〔絶縁電線No.9〜11の作製〕
フェノキシ樹脂溶液80質量部と汎用エステルイミド樹脂溶液20質量部を混合し、室温で1時間攪拌して絶縁ワニスNo.9を調製した。調製した各絶縁ワニスを用いて、No.1と同様にして4層構造の膜厚35μmの絶縁被膜を有する絶縁電線を作製した。
絶縁電線No.10,11については、それぞれ汎用ポリエステルイミド樹脂溶液、高密着ポリエステルイミド溶液を用いて、No.1と同様にして4層構造の膜厚35μmの絶縁被膜を有する絶縁電線を作製した。
【0054】
各絶縁電線について、上記評価方法に基づいて、可とう性、ヒートショック試験、耐摩耗性、密着性、軟化温度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1からわかるように、汎用ポリエステルイミドからなるプライマー層を有する絶縁電線No.10では、可とう性、ヒートショック試験において、自己径(1d)での密着性を充足できず、また耐摩耗性も不十分であった。高密着ポリエステルイミドからなるプライマー層を有する絶縁電線No.11では、可とう性、ヒートショック試験において、自己径(1d)での密着性を充足でき、しかも耐摩耗性も改善されていた。しかしながら、高温処理後の膜浮が大きく、ワニス含浸処理や高温条件で使用される絶縁電線としては不適当である。一方、フェノキシ樹脂単独をベース樹脂とした絶縁ワニスを用いた絶縁電線No.1では、高温処理後の密着性について、汎用エステルイミドと同程度の特性を確保しつつ、可とう性、ヒートショック特性、耐摩耗性を向上させることができたが、高荷重(JIS2倍荷重)下での耐軟化温度が大幅に低下した。
【0057】
しかしながら、ベース樹脂として、フェノキシ樹脂と汎用ポリエステルイミド樹脂のブレンド樹脂を用いた絶縁電線No.2〜9では、可とう性、ヒーショック特性、耐摩耗性を向上させても、高温処理後の膜浮の低下をはじめ、他の特性の大幅な低下は認められなかった。これらのことから、ベース樹脂として、ポリエステルイミド樹脂とフェノキシ樹脂とのブレンド樹脂が有用であることがわかる。
【0058】
ただし、ポリエステルイミド樹脂とフェノキシ樹脂のブレンドを用いる場合、ポリエステルイミド樹脂の含有割合が大きくなりすぎると、耐摩耗性、高温処理後の密着性が低下する傾向にあるため、ベース樹脂におけるポリエステルイミド樹脂の含有割合を、50質量%以下、より具体的には25質量%以下とすることが好ましい。
【0059】
また、No.5とNo.9との比較から、フェノキシ樹脂用硬化剤を含有させた方が、若干、耐摩耗性の改善効果が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の絶縁ワニスは、ベース樹脂としてフェノキシ樹脂とポリエステルイミド樹脂とのブレンド樹脂を用いているので、ワニス含浸処理など、高温処理後の密着性等の機械的特性が要求される絶縁電線の皮膜、とりわけプライマー層の形成に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノキシ樹脂50〜99質量%及びポリエステルイミド樹脂50〜1質量%のベース樹脂、並びに前記フェノキシ樹脂100質量部に対して硬化剤0〜50質量部を含有する絶縁ワニス。
【請求項2】
前記硬化剤は、ブロックイソシアネート化合物である請求項1に記載の絶縁ワニス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁ワニスを、導体上に塗布、焼付けてなるプライマー層を有する絶縁電線。

【公開番号】特開2010−102890(P2010−102890A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272038(P2008−272038)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
【Fターム(参考)】