説明

絶縁体樹脂組成物、電線及びケーブル

【課題】優れた機械特性及び柔軟性を有しながら各種燃料に対して耐性を有する絶縁体を形成できる絶縁体樹脂組成物、電線及びケーブルを提供すること。
【解決手段】反応基を有するシリコーンゴムと、シリカと、1分子中に、シリコーンゴムの反応基と反応可能な3個以上の二重結合を有する有機系の架橋助剤と、架橋剤とを含み、シリコーンゴム100質量部に対し、シリカが10〜30質量部、架橋助剤が0.1〜1質量部、架橋剤が0.5〜1.5質量部の割合で配合されていることを特徴とする絶縁体樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体樹脂組成物、電線及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに搭載されるケーブルに含まれる電線被覆やシースなどの絶縁体として、高耐熱性、耐脆性、高柔軟性をケーブルに付与し得ることから、シリコーンゴムを用いて形成される絶縁体が知られており、汎用的に用いられている。
【0003】
しかし、シリコーンゴムは、耐燃料性に劣ることが知られている。このため、シリカなどの無機充填剤を絶縁体に配合することによってシリコーンゴムへの燃料の浸漬の抑制が図られている。例えば特許文献1には、フッ素ゴムとシリコーンゴムとの混和物100重量部に対し、200m/g以上の平均比表面積を有するシリカ粉末5〜20重量部を配合することにより、機械的強度、耐熱性、耐油性及び耐寒性をバランス良く兼ね備えた電気絶縁組成物を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−266371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車の燃料には、ガソリンのみならず、ディーゼル等もある。このため、各種の燃料に対して耐性を有することが、ケーブルの汎用性を向上させる観点から望まれる。またケーブルには、その引き回しに際して、過大な引張応力が加えられることもあるため、優れた機械特性を有することが望まれる。さらにケーブルは、自動車内の狭い場所に配置されることが多いため、高い柔軟性も要求される。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の電気絶縁組成物は以下の課題を有していた。
【0007】
即ち上記電気絶縁組成物を用いてケーブルの絶縁体を製造すると、そのケーブルは、ガソリンに対しては耐性を有しても、ディーゼルに対しては耐性を有しない場合があった。このため、上記特許文献1記載の電気絶縁組成物は、汎用性の点で改善の余地を有していた。
【0008】
ここで、シリカの配合量を増加させることによってシリコーンゴムへの燃料の浸漬を抑制することも考えられる。しかし、その場合、ケーブルの機械特性及び柔軟性が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた機械特性及び柔軟性を有しながら各種燃料に対して耐性を有する絶縁体を形成できる絶縁体用樹脂組成物、電線及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、シリコーンゴム、シリカ及び架橋剤を含む樹脂組成物に、特定の架橋助剤をシリコーンゴムに対して所定の割合で配合することで、シリカの量を増大させずに、各種の燃料に対して耐性を有する絶縁体が実現され得ることを見出した。すなわち上記架橋助剤を所定の割合で上記樹脂組成物に配合すれば、電線やケーブルの柔軟性及び機械特性を低下させることなく、各種の燃料に対して耐性を有する絶縁体が実現され得ることを本発明者らは見出した。そして、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0011】
即ち本発明は、反応基を有するシリコーンゴムと、シリカと、1分子中に、前記シリコーンゴムの反応基と反応可能な3個以上の二重結合を有する有機系の架橋助剤と、架橋剤とを含み、前記シリコーンゴム100質量部に対し、前記シリカが10〜30質量部、前記架橋助剤が0.1〜1質量部、前記架橋剤が0.5〜1.5質量部の割合で配合されていることを特徴とする絶縁体樹脂組成物である。
【0012】
この絶縁体樹脂組成物によれば、熱又は光によって架橋処理すると、架橋助剤の二重結合がシリコーンゴムの反応基と反応し、架橋助剤がシリコーンゴムの反応基同士間に介在することが可能となる。しかも、架橋助剤は、シリコーンゴムの反応基と反応可能な二重結合を1分子中に3個以上有するため、架橋助剤を介して立体的な架橋を行うことも可能となる。このため、得られる絶縁体において、網目鎖密度を向上させることができる。すなわち網目を小さくすることができる。この網目鎖密度の向上は、各種燃料がシリコーンゴムに浸漬することを十分に阻害するとともに、各種燃料がシリコーンゴムに浸漬しても、ゴム弾性により、浸漬した各種燃料を排出させることも可能となる。このため、各種燃料に対する耐性を絶縁体に付与することができる。このため、シリコーンゴムに対するシリカの配合量を増加させる必要がなくなり、電線やケーブルの機械特性の低下を十分に抑制することができる。また、架橋助剤が、シリコーンゴムの反応基同士間に介在するため、シリコーンゴムの反応基同士が結合する場合に比べて柔軟性を改善することもできる。
【0013】
上記絶縁体樹脂組成物においては、前記シリカがアルキルシランで表面処理されていることが好ましい。
【0014】
この場合、アルキルシランによってシリコーンゴムへのシリカの分散性を高めることが可能となり、均質な絶縁体を形成することができる。
【0015】
上記絶縁体樹脂組成物において、前記反応基がビニル基であり、前記シリコーンゴムが前記ビニル基を0.3〜5モル%の割合で含有することが好ましい。
【0016】
この場合、ビニル基の割合が0.3モル%未満である場合に比べて、機械特性がより向上する。一方、ビニル基の割合が5モル%を超える場合に比べて、柔軟性をより向上させることができる。
【0017】
また本発明は、導体と、前記導体を被覆する電線被覆とを備えており、前記電線被覆が上記絶縁体樹脂組成物を架橋処理してなることを特徴とする電線であってもよい。
【0018】
さらに本発明は、少なくとも1本の電線と、前記電線を包囲する導体とを備え、前記電線が上述した電線であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた機械特性及び柔軟性を有しながら各種燃料に対して耐性を有する絶縁体を形成できる絶縁体樹脂組成物、電線及びケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のケーブルの一実施形態を示す部分側面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】実施例1、比較例1及びフッ素ゴムの電線被覆の絶縁特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0022】
[ケーブル] 図1は、本発明に係るケーブルの一実施形態を示す部分側面図、図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図1及び図2に示すように、ケーブル10は、電線1と、電線1を包囲する編組2と、編組2を被覆するシース3とを備えている。そして、電線1は、導体4と、導体4を被覆する電線被覆5とを有している。なお、電線1は、編組2の内側において、1本に限らず、2本以上設けられていてもよい。
【0023】
ここで、電線被覆5及びシース3はいずれも絶縁体樹脂組成物を架橋処理してなるものであり、この絶縁体樹脂組成物は、反応基を有するシリコーンゴムと、シリカと、1分子中に、シリコーンゴムの反応基と反応可能な3個以上の二重結合を有する有機系の架橋助剤と、架橋剤とを含んでいる。そして、上記絶縁体樹脂組成物においては、シリコーンゴム100質量部に対し、シリカが10〜30質量部、架橋助剤が0.1〜1質量部、架橋剤が0.5〜1.5質量部の割合で配合されている。
【0024】
この絶縁体樹脂組成物によれば、熱又は光によって架橋処理すると、架橋助剤の二重結合がシリコーンゴムの反応基と反応し、架橋助剤がシリコーンゴムの反応基同士間に介在することが可能となる。しかも、架橋助剤は、シリコーンゴムの反応基と反応可能な二重結合を1分子中に3個以上有するため、架橋助剤を介して立体的な架橋を行うことも可能となる。このため、電線被覆5及びシース3において網目鎖密度を向上させることができる。すなわち網目を小さくすることができる。この網目鎖密度の向上は、各種燃料がシリコーンゴムに浸漬することを十分に阻害するとともに、各種燃料がシリコーンゴムに浸漬しても、ゴム弾性により、浸漬した各種燃料を排出させることも可能となる。このため、各種燃料に対する耐性を電線1に付与することができる。
【0025】
また、上記絶縁体樹脂組成物が各種燃料に対する耐性を電線1に付与することができるため、シリコーンゴムに対するシリカの配合量を増加させる必要がなくなり、電線1の機械特性の低下を十分に抑制することができる。
【0026】
さらに、架橋助剤をシリコーンゴムの反応基同士間に介在させることが可能となるため、シリコーンゴムの反応基同士が直接結合する場合に比べて柔軟性を改善することもできる。
【0027】
したがって、電線1は、車載用電線、特にエンジンの周辺で燃料が漏れる可能性がある場所に配置される車載用電線として極めて有用である。
【0028】
[ケーブルの製造方法]
次に、上述したケーブル10の製造方法について説明する。
【0029】
(導体)
まず導体4を準備する。導体4は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を撚って構成された撚線導体であってもよい。また導体4は、複数本の撚線導体をさらに撚って構成されたものであってもよい。また、導体4は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
【0030】
(絶縁体樹脂組成物)
一方、上記絶縁体樹脂組成物を準備する。絶縁体樹脂組成物は、上述したように、反応基を有するシリコーンゴムと、シリカと、1分子中に、シリコーンゴムの反応基と反応可能な3個以上の二重結合を有する有機系の架橋助剤と、架橋剤とを含んでいる。
【0031】
(シリコーンゴム)
シリコーンゴムは、反応基を含むオルガノシロキサン単位を含有するゴムであり、以下の平均組成式(1):
SiO(4−n)/2 (1)
(式中、nは1.8〜2.3を表す。またRは、反応基又は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を表す)
で表される。
【0032】
ここで、反応基としては、例えばビニル基及びアリル基などが挙げられるが、中でもビニル基が好ましい。
【0033】
反応基として、ビニル基が用いられる場合、シリコーンゴムに含まれるRのうちビニル基の割合は、0.3〜5モル%であることが好ましい。この場合、ビニル基の割合が0.3モル%未満である場合に比べて、機械特性がより向上する。一方、ビニル基の割合が5モル%を超える場合に比べて、柔軟性をより向上させることができる。またビニル基は1分子中に二個以上含まれることが好ましい。
【0034】
上記シリコーンゴムとしては、例えばビニルメチルシリコーンゴム及びビニルフェニルシリコーンゴムなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ビニルメチルシリコーンゴムが好ましい。
【0035】
なお、上記絶縁体樹脂組成物は、ゴムとしてシリコーンゴムのみを含む場合に有用である。すなわち、例えば上記絶縁体組成物がゴムとしてフッ素ゴム又はフロロシリコーンゴムを含まない場合に有用である。これは以下の理由によるものである。すなわち、フッ素ゴム等のハロゲン含有ゴムは一般に各種燃料に対して耐性を有するものの廃棄の際に環境に対して悪影響を及ぼす。このため、ゴムがフッ素ゴム等を含む場合には上記絶縁体樹脂組成物を使用する意義が薄れるおそれがある。
【0036】
(シリカ)
シリカは、シリコーンゴムに各種燃料が浸漬することを阻害するためのものである。シリカは通常粒子状である。シリカの平均粒径は通常、1〜20μmであり、好ましくは5〜15μmであり、より好ましくは5〜10μmである。
【0037】
シリカとしては、吸着水分が少なければ乾式シリカ及び湿式シリカのいずれでもよい。具体的には、105℃で2時間乾燥させたときの減量(乾燥減量)が1質量%以下のシリカが好ましい。湿式シリカを用いる場合であっても、乾燥処理が施されており上記の乾燥減量の範囲にあれば好適に用いることができる、
【0038】
シリカの比表面積は通常は200〜350m/gである。シリカの比表面積は好ましくは200〜250m/gである。シリカの比表面積が200〜350m/gの範囲内にあると、比表面積が200m/g未満である場合に比べて補強効果がより大きくなり、350m/gを超える場合に比べて、補強効果が大きくなりすぎない。
【0039】
シリカは、シリコーンゴム100質量部に対し10〜30質量部の割合で配合されている。シリカの配合割合が10質量部未満であると、燃料によっては、そのシリコーンゴムへの浸漬を阻害することができなくなり、電線1の汎用性が低くなる。一方、シリカの配合割合が30質量部を超えると、機械特性及び柔軟性が低下する。
【0040】
シリカは、シリコーンゴム100質量部に対し、10〜20質量部の割合で配合されることがより好ましい。
【0041】
シリカは、疎水性材料で表面処理されたものであることが好ましい。この場合、シリコーンゴムに対するシリカの分散性を高めることができる。具体的には、このような疎水性材料としては、アルキルシラン及びアルキルシラザンなどが挙げられる。中でも、シリコーンゴムへのシランの分散性をより高めることができることから、アルキルシランが好ましい。アルキルシランは置換又は無置換のアルキル基を含有するシラン化合物であり、このようなアルキルシランとしては、例えばジメチルシラン及びトリメチルシランなどが挙げられる。
【0042】
(架橋剤)
架橋剤は、シリコーンゴムの反応基の間に介在せず、シリコーンゴムの反応基同士の反応を仲介する物質である。このような架橋剤としては、公知の有機過酸化物などを用いることが可能であり、このような有機過酸化物としては、例えばヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジアルキル(アリル)パーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンビドロパーオキサイド、ジプロピオニルパーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド(商品名:C−23、信越化学工業株式会社製)、パーオキシ琥珀酸、パーオキシケタール、2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名:TC−8、モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製)、t−ブチルオキシアセテート及びt−ブチルパーオキシイソブチレート等が挙げられる。また、公知の白金触媒(商品名:C−25A/B、信越化学工業株式会社製)を架橋剤として用いてもよい。
【0043】
架橋剤は、シリコーンゴム100質量部に対し0.5〜1.5質量部の割合で配合されている。架橋剤の配合割合が0.5質量部未満であると、架橋が不十分となり、機械特性が低下する。一方、架橋剤の配合割合が1.5質量部を超えると、柔軟性が低下する。
【0044】
架橋剤は、シリコーンゴム100質量部に対し、0.5〜1質量部の割合で配合されることがより好ましく、0.5〜0.8質量部の割合で配合されることがさらに好ましい。
【0045】
(架橋助剤)
架橋助剤は、1分子中に、シリコーンゴムの反応基と反応可能な3個以上の二重結合を有する物質であればよい。この場合、架橋助剤の二重結合とシリコーンゴムの反応基とが反応して結合するため、シリコーンゴムの反応基同士間に架橋助剤が介在することが可能となる。しかも、架橋助剤は、シリコーンゴムの反応基と反応可能な二重結合を1分子中に3個以上有するため、架橋助剤を介して立体的な架橋を行うことも可能となる。このため、電線被覆5において網目鎖密度を効果的に向上させることができ、ゴム弾性を向上させることができる。すなわち網目を効果的に小さくすることができる。そして、この網目鎖密度の向上は、各種燃料がシリコーンゴムに浸漬することを十分に阻害するとともに、各種燃料がシリコーンゴムに浸漬してもゴム弾性により浸漬した各種燃料を排出させることも可能となる。このため、各種燃料に対する耐性を電線1に付与することができる。
【0046】
このような架橋助剤としては、例えばアリル基又はビニル基などの不飽和炭素結合を有する物質が用いられる。
【0047】
架橋助剤としては、具体的には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレートなどが挙げられる。トリアリルイソシアヌレートとしては、例えば日本化成社製TAIC(商品名)が用いられる。
【0048】
架橋助剤は、シリコーンゴム100質量部に対し0.1〜1質量部の割合で配合されている。架橋助剤の配合割合が0.1質量部未満であると、各種燃料に対する耐性を有する電線被覆5を得ることができなくなり、電線1の汎用性が低下する。一方、架橋助剤の配合割合が1質量部を超えると、機械特性が低下する。
【0049】
架橋助剤は、シリコーンゴム100質量部に対し、0.1〜0.5質量部の割合で配合されることが好ましい。
【0050】
上記絶縁体樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線劣化防止剤、帯電防止剤、加工助剤、顔料、色素、滑剤などの添加剤を含んでもよい。
【0051】
上記絶縁体樹脂組成物は、例えば上記シリコーンゴム、シリカ、架橋剤及び架橋助剤等を混練することにより得ることができる。混練は、例えばバンバリーミキサ、タンブラ、加圧ニーダ、混練押出機、二軸押出機、ミキシングロール等の混練機で行うことができる。
【0052】
上記の絶縁体樹脂組成物を準備した後は、上記絶縁体樹脂組成物で導体4を被覆し、導体4上に電線被覆5を形成する。上記絶縁体樹脂組成物の被覆は、例えば上記絶縁体樹脂組成物を押出成形によりチューブ状に押し出して導体4の表面に密着させたり、上記絶縁体樹脂組成物を収容したダイスに導体4を通したりすることによって行うことができる。
【0053】
(編組)
次に、上記電線1を編組2で包囲する。編組2は外部導体又は遮蔽層として機能し、例えば軟銅線などの金属で構成される。
【0054】
(シース)
最後に、編組2を、上記絶縁体樹脂組成物で被覆し、この絶縁体樹脂組成物を架橋処理する。こうして、編組2を被覆するシース3が得られる。シース3は、被覆を物理的又は化学的な損傷から保護するものである。
【0055】
以上のようにしてケーブル10が得られる。
【0056】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、電線1の電線被覆5及びシース3が上記の絶縁体樹脂組成物で構成されているが、電線被覆5が通常の絶縁樹脂で構成され、シース3のみが、電線被覆5を構成する絶縁体樹脂組成物で構成されてもよく、また電線被覆5のみが上記絶縁体樹脂組成物で構成されてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1〜9及び比較例1〜8)
シリコーンゴム、シリカ、架橋助剤及び架橋剤を表1及び2に示す配合割合(単位は質量部)で配合し、バンバリーミキサによって100℃にて30分間混練し、絶縁体樹脂組成物を得た。
【0059】
上記シリコーンゴム、シリカ、架橋助剤及び架橋剤としてはそれぞれ以下のものを用いた。
(1)シリコーンゴム
TSE2425U(商品名、モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製)
(2)シリカ(乾式シリカ)
アエロジル R812(商品名、日本アエロジル社製)
(3)シリカ(湿式シリカ)
カープレックス CS−7(商品名、塩野義製薬社製)
(4)架橋助剤
TAIC(商品名、日本化成社製)
(5)架橋剤
TC−8(商品名、モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製 2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン50%含有、表1及び2に示す架橋剤の配合割合は、希釈前の原液量に換算して表記)
【0060】
次に、素線径が0.32mmの13本の素線を撚り合わせた撚線導体を19本用意し、これら19本の撚線導体を更に撚り合せて導体を準備した。
【0061】
そして、押出機にて上記の絶縁体樹脂組成物をチューブ状に押し出し、このチューブ状の絶縁体樹脂組成物で導体を被覆した。このとき、絶縁体樹脂組成物の厚さが1mmとなるようにした。そして、上記絶縁体樹脂組成物を200℃で10分間加熱することにより架橋処理を行った。こうして外径11mmの電線を得た。
【表1】

【表2】

【0062】
[特性評価]
上記のようにして得られた実施例1〜9及び比較例1〜8の電線について、以下の特性を評価した。
【0063】
(機械特性)
機械特性は、実施例1〜9及び比較例1〜8の電線の電線被覆を、JIS3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験法)に準拠しJIS3号ダンベルで打ち抜いて得られたサンプルについて、引張速度500mm/min、標線間距離20mmの試験条件で行った引張試験により測定される引張強度及び引張伸びに基づいて評価した。結果を表1及び2に示す。なお、合格基準は、引張強度が8.0MPa以上且つ引張伸びが200%以上であることとした。
【0064】
(各種燃料に対する耐性)
各種燃料に対する耐性は以下のようにして評価した。まず実施例1〜9及び比較例1〜8の電線の電線被覆を、JIS3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験法)に準拠しJIS3号ダンベルで打ち抜いて得られたサンプルについて、ガソリン及びディーゼルの各々に20時間浸漬した後、取出して30分放置した。そして、このサンプルについて引張試験を行い、測定された引張強度の残率、及び、引張伸びの残率に基づいて各種燃料に対する耐性を評価した。結果を表1及び2に示す。なお、合格基準は、引張強度の残率、及び、引張伸びの残率がいずれも60%以上であることとした。
【0065】
(柔軟性)
柔軟性は、実施例1〜9及び比較例1〜8の電線に対して硬度計(高分子計器株式会社製 自動ゴム硬度計)を用いて測定した硬度に基づいて評価した。結果を表1及び2に示す。合格基準は、硬度が85度以下であることとした。
【0066】
表1及び2に示す結果より、実施例1〜9の電線は、機械特性、各種燃料に対する耐性および柔軟性の全てにおいて合格基準に達していた。これに対し、比較例1〜8の電線は、機械特性、各種燃料に対する耐性および柔軟性のうち少なくともいずれか1つについて合格基準に達していなかった。
【0067】
(絶縁特性)
絶縁特性は、実施例1及び比較例1の電線の電線被覆を、JIS3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験法)に準拠しJIS3号ダンベルで打ち抜いて得られたサンプルについて、JIS K6271に準拠して、円形電極の間で絶縁抵抗計(製品名 TERAOHMMETER、川口電気製作所社製)により電気抵抗を測定し、電極形状から体積抵抗率を求めることで評価した。このとき、電気抵抗は、50℃、100℃、150℃、200℃のそれぞれの雰囲気温度で、電極間に500Vの電圧を印加し、1分後の抵抗値とした。抵抗値と雰囲気温度との関係を図3に示す。なお、比較のために、フッ素ゴム(商品名 AFLAS150CS、旭硝子社製)の電線被覆についても同様の手順でサンプルを作成し、抵抗値と雰囲気温度とを関係を求めた。結果を図3に示す。
【0068】
図3に示す結果より、実施例1の電線被覆は、比較例1及びフッ素樹脂の電線被覆に比べて高温における絶縁特性が良好であった。
【0069】
このことから、本発明の絶縁体樹脂組成物によれば、優れた機械特性及び柔軟性を有しながら各種燃料に対して耐性を有する絶縁体を形成できることが確認された。更に、本発明の絶縁体樹脂組成物によれば、高温での絶縁特性の良好な絶縁体を形成できることも確認された。
【符号の説明】
【0070】
1…電線、2…編粗、3…シース、4…導体、5…電線被覆、10…ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応基を有するシリコーンゴムと、
シリカと、
1分子中に、前記シリコーンゴムの反応基と反応可能な3個以上の二重結合を有する有機系の架橋助剤と、
架橋剤とを含み、
前記シリコーンゴム100質量部に対し、前記シリカが10〜30質量部、前記架橋助剤が0.1〜1質量部、前記架橋剤が0.5〜1.5質量部の割合で配合されていること、
を特徴とする絶縁体樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリカがアルキルシランで表面処理されていること、
を特徴とする請求項1に記載の絶縁体樹脂組成物。
【請求項3】
前記反応基がビニル基であり、前記シリコーンゴムが前記ビニル基を0.3〜5モル%の割合で含有すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁体樹脂組成物。
【請求項4】
導体と、
前記導体を被覆する電線被覆と、
を備えており、
前記電線被覆が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁体樹脂組成物を架橋処理してなること、
を特徴とする電線。
【請求項5】
少なくとも1本の電線と、
前記電線を包囲する導体とを備え、
前記電線が、請求項4記載の電線であることを特徴とするケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−28694(P2013−28694A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165010(P2011−165010)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】