説明

絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維

【課題】絶縁性と優れた熱伝導性を併せ持つ熱伝導剤を提供すること。
【解決手段】表面にフッ化グラファイト層を有する絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にフッ化グラファイト層を有する絶縁化したピッチ系黒鉛化短繊維に関わるものであり、電子部品の放熱部材に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、産業用ロボット、スポーツ・レジャー用途など広く用いられている。また、PAN系炭素繊維は、主として、その強度を利用する分野に、そしてピッチ系炭素繊維は、弾性率を利用する分野に用いられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が重篤な問題として認識されつつある。また、電子注入を発光原理とするエレクトロルミネッセンス素子においても同様に重篤な問題として顕在化している。一方、各種素子を形成するプロセスに目を向けると環境配慮型プロセスが求められており、その対策として鉛が添加されていない所謂鉛フリー半田への切り替えがなされている。鉛フリー半田は融点が通常の鉛含有半田に比較して高いため、プロセスの熱の効率的な使用が要求されている。そして、このような製品・プロセスが内包する熱に由来する問題を解決するためには、熱の効率的な処理(サーマルマネジメント)を達成する必要がある。
【0004】
一般に炭素繊維は、他の合成高分子に比較して熱伝導率が高いと言われているが、サーマルマネジメント用途に向けた、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さい。これは、PAN系炭素繊維が所謂難黒鉛化炭素繊維であり、熱伝導を担う黒鉛性を高めることが非常に困難なことに由来している。これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
【0005】
次にサーマルマネジメントに用いる成形体の特徴について考察する。一般的に炭素繊維は電気伝導性を示す。そのため、炭素繊維をマトリクスと複合した組成物は導電性を示す。しかし、前述のCPUや電子回路は絶縁性の基盤などに取り付けることが多い。そのため、炭素繊維を用いた組成物を電子基盤等に用いることが困難である。
【0006】
特許文献1、2には、熱伝導性組成物に絶縁層を被覆する方法が提案されている。しかし、この様な方法では複雑な形状に対応するのが困難である。また、特許文献3には、酸化ケイ素からなる絶縁層で、特許文献4には、シリカもしくは炭化ケイ素からなる絶縁層で熱伝導性充填材を被覆する方法が提案されている。しかし、被覆による絶縁層は、樹脂との混練の際に絶縁性が剥離する可能性があり、絶縁性の維持が困難になることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−208316号公報
【特許文献2】特開2008−205453号公報
【特許文献3】特開2007−128986号公報
【特許文献4】特開2007−107151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、マトリックス中でのネットワーク形成能に優れ、高い熱伝導性と絶縁性を併せ持つ絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維を提供することにある。また本発明の目的は絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなる熱伝導性組成物、さらにそれからの成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高い熱伝導性を示し、かつ絶縁性を示す熱伝導剤を得ようと鋭意検討を重ねた結果、熱伝導性に優れるピッチ系黒鉛化短繊維を核とし、その表面をフッ素ガス処理することにより、高い熱伝導性と絶縁性を併せ持つ熱伝導剤を得ることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、表面にフッ化グラファイト層を有する絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維は、熱伝導性に優れるピッチ系黒鉛化短繊維の表面を、絶縁性物質であるフッ化グラファイトに変化させることにより、高い熱伝導性と絶縁性を併せ持つピッチ系黒鉛化短繊維を得ることを可能にせしめている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維は、表面にフッ化グラファイト層を有するピッチ系黒鉛化短繊維であることを特徴とする。黒鉛化短繊維を絶縁する目的では、黒鉛化短繊維の表面は、ほぼ完全にフッ化グラファイト層で覆われていることが好ましい。
【0012】
ピッチ系黒鉛化短繊維の比抵抗は通常10−4Ω・cmオーダーで、導電性を示す。また、樹脂と混合して成形品にする場合も、その成形品は導電性を示す。そのため、電子基盤の封止剤の様な導電性が望まれないような部分の熱対策に使用するのは困難である。それに対し、金属酸化物、金属窒化物、金属ハロゲン化物などの無機化合物の比抵抗は1014Ω・cm以上であり、高い絶縁性を示す。そのため、ピッチ系黒鉛化短繊維一本一本の表面をこれら無機化合物に変換することで、ピッチ系黒鉛化短繊維の絶縁化を図ることができる。しかし、無機化合物でコーティングする場合、コーティングにより絶縁化したピッチ系黒鉛化短繊維とマトリクスを混合させて成形体を作成する際に、絶縁用無機化合物がピッチ系黒鉛化短繊維から剥離することがあり、必ずしも成形体の絶縁性を維持することができない。それに対し、ピッチ系黒鉛化短繊維の表面を無機化合物などの絶縁性物質に変化させた場合、樹脂と混練しても絶縁層が剥離することが無く、絶縁性を維持することができる。
【0013】
炭素化合物を除く無機化合物の多くはピッチ系黒鉛化短繊維より熱伝導性に劣る。そのため、無機化合物によりピッチ系黒鉛化短繊維を絶縁化する際には、少量の無機化合物による絶縁表面を形成する必要がある。そのため、絶縁表面を形成する際に、温度など反応条件が容易である物が好ましい。
【0014】
これらの要件、ピッチ系黒鉛化短繊維と反応により絶縁表面を形成できる物質として、フッ素ガス処理によるピッチ系黒鉛化短繊維表面のフッ化グラファイト化が挙げられる。
本発明の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維は、該ピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し、フッ素の含有量が0.1〜10重量部であることが好ましい。フッ素の含有量が0.1重量部以下だと、ピッチ系黒鉛化短繊維の表面全体をフッ化グラファイトにできず、絶縁性が期待できない。逆にフッ素の含有量が10重量部以上だと、フッ化グラファイト層が厚すぎて、成形品にする際に高い熱伝導性を得るのが困難になりやすい。好ましくは1〜7重量部である。
【0015】
フッ素ガス処理の条件に特に限定は無いが、反応は温度が高いほどより進行するため、目的のフッ素含有量を得るには300〜500℃の条件下にフッ素ガスで処理することが好ましい。また、フッ素分圧が高い程、反応はより進行するため、目的のフッ素含有量を得るにはフッ素分圧が1/10気圧〜1気圧(0.01013〜0.1013Mpa)であることが好ましい。フッ素ガス処理は、耐圧容器内にピッチ系黒鉛化短繊維を入れ、フッ素ガスを充填させ、加温することで達成することができる。一般的にピッチ系黒鉛化短繊維を含むグラファイト化合物は化学的に安定であるため、反応の速度が比較的遅く、フッ素含有量を制御しやすい。このため、熱伝導率と絶縁性を両立させうる絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維を好適に得ることができる。
【0016】
本発明における絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維は、充填させたときの成形性や熱伝導性の発現等の観点から、特定の形状のピッチ系黒鉛化短繊維を用いることが好ましい。
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)が2〜20μmであることが好ましい。D1が2μmを下回る場合、樹脂と複合する際に当該短繊維の本数が多くなるため、樹脂/短繊維混合物の粘度が高くなり、成形が困難になることがある。逆にD1が20μmを超えると、樹脂と複合する際に短繊維の本数が少なくなるため、当該短繊維同士が接触しにくくなり、複合材とした時に効果的な熱伝導を発揮しにくくなることがある。D1の好ましい範囲は5〜15μmであり、より好ましくは7〜13μmである。
【0017】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測したピッチ系黒鉛化短繊維における繊維径分散(S1)の平均繊維径(D1)に対する百分率(CV値)は3〜15%が好ましい。CV値は繊維径のバラツキの指標であり、小さい程、工程安定性が高く、製品のバラツキが小さいことを意味している。CV値が3%より小さい時、繊維径が極めて揃っているため、ピッチ系黒鉛化短繊維の間隙に入るサイズの小さな短繊維の量が少なくなり、ピッチ系黒鉛化短繊維をより密に充填するのが困難になり、結果として高性能の複合材を得にくくなることがある。逆にCV値が15%より大きい場合、樹脂と複合する際に、分散性が悪くなり、均一な性能を有する複合材を得ることが困難になることがある。CV値は好ましくは、5〜13%である。CV値は、紡糸時の溶融メソフェーズピッチの粘度を調節すること、具体的には、メルトブロー法にて紡糸する際は、紡糸時のノズル孔での溶融粘度を5.0〜25.0Pa・Sに調整することで実現できる。
【0018】
ピッチ系黒鉛化短繊維は、一般的には平均繊維長1mm未満からなるミルドファイバーと平均繊維長1mm以上10mm未満からなるカットファイバーの2種類がある。ミルドファイバーの外観は粉状のため分散性に優れ、カットファイバーの外観は繊維状に近いため、繊維同士の接触が得られやすい特徴がある。
【0019】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維はミルドファイバーに該当し、その平均繊維長(L1)は、20〜500μmであることが好ましい。ここで、平均繊維長は個数平均繊維長とし、光学顕微鏡下で測長器を用い、複数の視野において所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。L1が20μmより小さい場合、当該短繊維同士が接触しにくくなり、効果的な熱伝導が期待しにくくなる。逆に平均繊維長が500μmより大きくなる場合、樹脂と混合する際にマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり、成形性が低くなる傾向にある。より好ましくは、20〜300μmの範囲である。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法として特に制限はないがミリングの条件、すなわちカッター等で粉砕する際の、カッターの回転速度、ボールミルの回転数、ジェットミルの気流速度、クラッシャーの衝突回数、ミリング装置中の滞留時間を調節することにより平均繊維長を制御することができる。また、ミリング後のピッチ系炭素短繊維から、篩等の分級操作を行って、短い繊維長または、長い繊維長のピッチ系炭素短繊維を除去することにより調整することができる。
【0020】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、黒鉛結晶からなり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であることが好ましい。結晶子サイズは六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化度に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めることができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては学振法が好適に用いられる。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて求めることができる。
【0021】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、透過型電子顕微鏡による繊維末端観察において、グラフェンシートの端面が閉じていることが好ましい。グラフェンシートの端面が閉じている場合、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こり難い。このため、ピッチ系黒鉛化短繊維に活性点が生じず、フッ素ガス処理する際に、ピッチ系黒鉛化短繊維表面全体の活性を抑制することができ、フッ素含有量のコントロールが簡単になる傾向がある。また、水などの吸着も低減でき、例えばポリエステルのような加水分解を伴う樹脂との混練においても、著しい湿熱耐久性能向上をもたらすことが出来る。50万〜400万倍に拡大した透過型電子顕微鏡による視野範囲で、グラフェンシートの端面は80%閉じていることが好ましい。80%以下であると余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化を引き起こし、他材料との反応を促進する可能性があるため好ましくない。グラフェンシート端面の閉鎖率は90%以上が好ましく、更には95%以上が更に好ましい。
【0022】
グラフェンシート端面構造は、黒鉛化の前に粉砕を実施するか、黒鉛化の後に粉砕を実施するかにより、大きく異なる。すなわち、黒鉛化後に粉砕処理を行った場合、黒鉛化で成長したグラフェンシートが切断破断され、グラフェンシート端面が開いた状態になり易い。一方、黒鉛化前に粉砕処理を行った場合、黒鉛の成長過程でグラフェンシート端面がU字上に湾曲し、湾曲部分がピッチ系黒鉛化短繊維端部に露出した構造になり易い。このため、グラフェンシート端面閉鎖率が80%を超えるようなピッチ系黒鉛化短繊維を得るためには、粉砕を行った後に黒鉛化処理することが好ましい。
【0023】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は走査型電子顕微鏡での側面の観察表面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸をピッチ系黒鉛化短繊維に有しないことを意味する。ピッチ系黒鉛化短繊維の表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクス樹脂との混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法としては、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。
【0024】
以下本発明の組成物を構成するピッチ系炭素短繊維の好ましい製造法について述べる。
本発明で用いられるピッチ系炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認出来る。
【0025】
更に、原料ピッチの軟化点としては、230℃以上340℃以下が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、紡糸に340℃を超える高温が必要となり、ピッチの熱分解を引き起こし、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上320℃以下、更に好ましくは260℃以上310℃以下である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。原料ピッチは、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃以上340℃以下であることが好ましい。
【0026】
メソフェーズピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、炭化、粉砕、黒鉛化によってピッチ系黒鉛化短繊維となる。場合によっては、粉砕の後、分級工程を入れることもある。
【0027】
以下各工程の好ましい態様について説明する。
紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を適応することができる。具体的には、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ系炭素繊維前駆体の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維の製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0028】
ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)としては、2〜20の範囲が好ましい。LN/DNが20を超えると、ノズルを通過するメソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造が発現する。ラジアル構造の発現は、黒鉛化の過程で繊維断面に割れを生じさせることがあり、機械特性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。一方、LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することが出来ず、結果として黒鉛の配向が低いピッチ系炭素繊維前駆体となる。このため、黒鉛化しても黒鉛化度を十分に上げることが出来ず、熱伝導性を向上させ難く好ましくない。機械強度と熱伝導性の両立を達成するには、メソフェーズピッチに適度のせん断を付与する必要がある。このため、ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)は2〜20の範囲が好ましく、更には3〜12の範囲が特に好ましい。
【0029】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲にあれば良い。
【0030】
ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度が1Pa・s未満の場合、溶融粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、メソフェーズピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、メソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造を形成するため好ましくない。メソフェーズピッチに付与するせん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度を制御する必要がある。このため、メソフェーズピッチの溶融粘度を1〜100Pa・sの範囲にするのが好ましく、更には3〜30Pa・sの範囲にすることが好ましく、5〜25Pa・sの範囲にすることが更に好ましい。
【0031】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径(D1)が2〜20μm以下であることを特徴とするが、ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径の制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0032】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
【0033】
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、公知の方法で不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0034】
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0035】
炭化処理されたピッチ系炭素繊維ウェブは、所望の繊維長にするために、切断、破砕・粉砕等の処理が実施される。また、場合によっては、分級処理が実施される。処理方式は所望の繊維長に応じて選定されるが、切断にはギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式等のカッターが好適に使用され、破砕、粉砕には衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュー式等の破砕機・粉砕機等が好適に使用される。所望の繊維長を得るために、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成してもよい。処理雰囲気は湿式、乾式のどちらでもよい。分級処理には、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の分級装置等が好適に使用される。所望の繊維長は、機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。また、分級処理を用いる場合には、所望の繊維長は篩い網孔径等を調整することによっても得ることができる。
【0036】
上記の切断、破砕・粉砕処理、場合によっては分級処理を併用して作成したピッチ系炭素短繊維は、2000〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系黒鉛化短繊維とする。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。
【0037】
本発明の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維は、マトリクスと複合してコンパウンド、シート、グリース、接着剤等の成形材料や熱伝導性成形体を得ることができる。この際、絶縁化ピッチ系炭素短繊維は、マトリクス100重量部に対して3〜300重量部を添加させる。3重量部より少ない添加量では、熱伝導性を十分に確保することが難しい。一方、300重量部より多い絶縁化ピッチ系炭素短繊維のマトリクスへの添加は困難であることが多い。
【0038】
マトリクスは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種である。複合成形体に所望の物性を発現させるために熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を適宜混合して用いることもできる。
【0039】
マトリクスに用いることができる熱可塑性樹脂としてポリオレフィン類及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリメタクリル酸類及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステルなど)、ポリアクリル酸類及びその共重合体、ポリアセタール類及びその共重合体、フッ素樹脂類及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル類及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、液晶性ポリマーなど)、ポリスチレン類及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂など)、ポリアクリロニトリル類及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)類及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、ポリサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルニトリル類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリケトン類及びその共重合体、エラストマー、液晶性ポリマー等が挙げられる。これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0040】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類、ポリブタジエン系ゴム及びその共重合体などが挙げられ、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0041】
ゴムとしては特に限定は無いが天然ゴム(NR)、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBRゴム)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム及びその共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴムなどがある。
【0042】
これらに該当しない樹脂として、芳香族ポリアミド類及びその共重合体、芳香族ポリイミド類及びその共重合体、芳香族ポリアミドイミド類及びその共重合体などがあるが、これらをマトリクスとして使用しても構わない。
【0043】
本発明の組成物は、絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維とマトリクスとを混合して作製するが、混合の際には、ニーダー、各種ミキサー、ブレンダー、ロール、押出機、ミリング機、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。
【0044】
本発明の熱伝導性組成物の熱伝導率をより高めるために、絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維以外のフィラーを必要に応じて添加してもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。これらを機能に応じて適宜添加してもよい。また、2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度が絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。また、導電性フィラーを添加する場合、絶縁性の維持が達成できなくなるので、気を配る必要がある。
【0045】
さらに、成形性、機械物性などのその他特性をより高めるために、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼化アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素ウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石膏繊維などの繊維状フィラーを必要な機能に応じて適宜添加してもよい。これらを2種類以上併用することも可能である。ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク及びセラミックビーズなどの非繊維状フィラーも必要に応じて適宜添加することが可能である。これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度が絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
【0046】
また、必要に応じて他の添加剤を複数、組成物に添加しても構わない。他の添加剤としては離型剤、難燃剤、乳化剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤を挙げることができる。
より具体的に、組成物の用途について説明する。当該組成物は、電子機器等において半導体素子や電源、光源などの電子部品が発生する熱を効果的に外部へ放散させるための放熱部材、伝熱部材あるいはそれらの構成材料等として用いることができる。
【0047】
マトリクスが熱可塑性樹脂からなる熱伝導性組成物の場合は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、およびブロー成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して、成形体を得ることができる。そして、シート状成形体は、ロールによる押し出しや、ダイによる押し出しなど押出成形法にて、成形することが可能である。成形条件は、成形手法とマトリクスに依存し、当該樹脂の溶融粘度より温度を上げた状態で成形を実施する。
【0048】
マトリクスが熱硬化性樹脂からなる熱伝導性組成物の場合は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法および注型成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して、成形体を得ることができる。成形条件は、成形方法とマトリクスに依存し、適切な型において、当該樹脂の硬化温度を付与するといった方法を挙げることができる。
【0049】
マトリクスがゴムからなる熱伝導性組成物の場合は、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法からなる郡より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して、成形体を得ることができる。成形条件は、成形手法とマトリクスに依存し、当該ゴムの加硫温度を付与するといった方法を挙げることができる。
本発明はこのように上記熱伝導性組成物を成形して得られる成形体を包含する。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維長は、セイシン企業製PITA1を用いて1500本測定し、その平均値から求めた。
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維の表面は走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(6)絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維のフッ素含有量は、フッ素ガス処理前後の重量差から算出した。
(7)絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維の表面について、フッ化グラファイト層の確認
サーモニコーレー製Magna750を用いて赤外分光分析を実施し、C−F結合に由来する1200cm−1付近のピークを検出する事で、確認した。
(8)絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維の比抵抗は、三菱化学アナリテック製MCP−PD51を用いて求めた。
(9)熱伝導性組成物の比抵抗は、三菱化学アナリテック製ハイレスタUPを用いて求めた。
(10)熱伝導性組成物の熱伝導率は、京都電子工業製QTM−500を用いて求めた。
【0051】
[参考例1]
縮合多環炭化水素化合物より主としてなるピッチを原料とした。原料ピッチの光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径11.2μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は325℃であり、溶融粘度は17.5Pa・S(175poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付350g/mのピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から300℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブをカッター(ターボ工業製)を用いて900rpmで粉砕し、3000℃で黒鉛化した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は11%であった。個数平均繊維長は100μm、六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは80nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の比抵抗は2.5×10−4Ω・cmであった。
【0052】
[実施例1]
参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維をフッ素ガスで、380℃、フッ素分圧1/3気圧で30分処理し絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維を得た。
フッ素含有量は黒鉛化短繊維100重量部に対し3重量部であった。絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維の比抵抗は5.0×1010Ω・cmであった。また、表面にフッ化グラファイト層がある事を確認した。
絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は12%であった。個数平均繊維長は100μmであった。
【0053】
[実施例2]
参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維をフッ素ガスで、380℃、フッ素分圧1/3気圧で1時間処理し絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維を得た。
フッ素含有量は黒鉛化短繊維100重量部に対し8重量部であった。絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維の比抵抗は3.0×1011Ω・cmであった。また、表面にフッ化グラファイト層がある事を確認した。
絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は12%であった。個数平均繊維長は100μmであった。
【0054】
[実施例3]
実施例1で得られた絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維集合体45重量部とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング製、SE1740)100重量部を真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて3分間混合し、複合スラリーとした。このスラリーを真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得、130℃で2時間硬化することで、熱伝導性組成物を作成した。熱伝導性組成物の比抵抗は8.5×1010Ω・cmであった。熱伝導性組成物の熱伝導率は5.5W/(m・K)であった。
【0055】
[実施例4]
実施例2で得られた絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維集合体45重量部とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング製、SE1740)100重量部を真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて3分間混合し、複合スラリーとした。このスラリーを真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得、130℃で2時間硬化することで、熱伝導性組成物を作成した。熱伝導性組成物の比抵抗は1.0×1011Ω・cmであった。熱伝導性組成物の熱伝導率は、5.1W/(m・K)であった。
【0056】
[比較例1]
参考例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維45重量部とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング製、SE1740)100重量部を真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて3分間混合し、複合スラリーとした。このスラリーを真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得、130℃で2時間硬化することで、熱伝導性組成物を作成した。熱伝導性組成物の比抵抗は5.0×10Ω・cmであった。熱伝導性組成物の熱伝導率は、5.4W/(m・K)であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維は、熱伝導率に優れるピッチ系黒鉛化短繊維の表面をフッ化グラファイトにすることで、高い熱伝導性を示しつつ絶縁性を付与することを可能にせしめている。これにより、高い放熱特性が要求される電子機器に幅広く用いることが可能になり、サーマルマネージメントを確実なものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にフッ化グラファイト層を有する絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維。
【請求項2】
該ピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し、フッ素を0.1〜10重量部含有している請求項1に記載の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維。
【請求項3】
該ピッチ系黒鉛化短繊維が、メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が2〜20μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が3〜15であり、個数平均繊維長が20〜500μmであり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、かつ走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦である請求項1〜2のいずれか1項に記載の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維。
【請求項4】
該ピッチ系黒鉛化短繊維を300〜500℃の条件下にフッ素ガスで処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維の製造法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに1項に記載の絶縁化ピッチ系黒鉛化短繊維と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなり、マトリクス成分100重量部に対して3〜300重量部のピッチ系黒鉛化短繊維を含有する熱伝導性組成物。
【請求項6】
該熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン−2、6−ナフタレート類、脂肪族ポリアミド類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項5に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
該熱硬化性樹脂が、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、及び熱硬化型PPE類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項5に記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
該ゴム成分が、天然ゴム(NR)、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBRゴム)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、およびブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項5に記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の熱伝導性組成物を、成形してなる熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2011−17111(P2011−17111A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163946(P2009−163946)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】