説明

絶縁塗料及びその製造方法並びにそれを用いた絶縁電線及びその製造方法

【課題】従来と同等の部分放電開始電圧を有するとともに圧延加工時やコイル成形時等に亀裂等が発生しない機械的強度を有する絶縁被膜を形成することが可能な絶縁塗料を提供する。
【解決手段】3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類からなるジアミン成分及び酸成分を共沸溶剤の存在下で合成反応させて得られる樹脂成分(X)と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるジイソシアネート成分(Y)と、を合成反応させて得られる下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を含有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁塗料及びその製造方法並びにそれを用いた絶縁電線及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、絶縁電線に用いられる絶縁塗料及びその製造方法、並びにその絶縁塗料を導体表面に塗布等することによって形成された絶縁被膜を有する絶縁電線及びその製造方法に関し、特に、モーターや変圧器等の電気機器のコイル用として好適な絶縁塗料及びその製造方法並びにそれを用いた絶縁電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転電機や変圧器等の電気機器のコイルとして、絶縁電線(エナメル線)が広く用いられている。この絶縁電線は、コイルの用途・形状に対応した断面形状(例えば、円形形状、長方形状)を有する金属導体(導体)の周囲に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の樹脂を有機溶剤に溶解させて調製した絶縁塗料を塗布・焼付け等することによって形成した1層又は2層以上の絶縁被膜からなる絶縁被覆層を備えている。
【0003】
近年、回転電機や変圧器等の電気機器は、インバータ制御にて駆動されるようになってきており、このようなインバータ制御を用いた電気機器では、インバータ制御により発生するインバータサージ電圧が高い場合、発生したインバータサージ電圧が電気機器に侵入することがある。このようにインバータサージ電圧が電気機器に侵入した場合、このインバータサージ電圧に起因して、電気機器のコイルを構成する絶縁電線に部分放電が発生し、絶縁被膜を劣化・損傷させることがある。
【0004】
このようなインバータサージ電圧に起因した部分放電による絶縁被膜の劣化を防ぐための方法として、例えば、オルガノシリカゾルをポリアミドイミド樹脂等からなる樹脂溶液中に分散させて得られる絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けして絶縁被膜を形成した絶縁電線を用いることで、部分放電に対する絶縁被膜の寿命(耐サージ性)を向上させて、部分放電が発生しても絶縁被膜を劣化・損傷させないようにする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、インバータサージ電圧に起因した部分放電による絶縁被膜の劣化を防ぐための別の方法として、例えば、3つ以上の芳香環を有するジアミン成分と、酸成分とを反応させた樹脂組成物に、ジイソシアネート成分を反応させて得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を、導体上に塗布、焼付けして絶縁被膜を形成した絶縁電線が知られている(特許文献2参照)。特許文献2では、上記の絶縁塗料を用いて絶縁被膜を形成することにより、部分放電開始電圧を高くして(900Vp以上)、絶縁電線に部分放電を発生させないようにしている。
【0006】
さらに、最近では、上述したような高い部分放電開始電圧(900Vp以上の部分放電開始電圧)を有する絶縁電線が要求される一方で、モーターや変圧器の高電圧化、高効率化に伴う絶縁電線の占積率の向上に起因して、従来よりも過酷な条件でコイル成形等が行われるようになり、このような過酷な条件であっても絶縁被膜に亀裂等が発生しない機械的強度を有する絶縁電線も要求されるようになっている。
【0007】
このような過酷な条件を強いられる場合としては、例えば、占積率の向上のために、断面が円形の導体上に絶縁被膜を形成した絶縁電線を圧延加工して断面が平角の絶縁電線とする場合や、この平角の絶縁電線をステータ内に高密度で配置させてコイル成形する場合等が挙げられ、このような場合、絶縁被膜に亀裂が生じて、部分放電開始電圧等の絶縁特性が低下するという問題が生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−251295号公報
【特許文献2】特開2009−161683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、従来と同等の部分放電開始電圧を有するとともに圧延加工時やコイル成形時等に亀裂等が発生しない機械的強度を有する絶縁被膜を形成することが可能な絶縁塗料及びその製造方法並びにそれを用いた絶縁電線及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の絶縁塗料及びその製造方法並びにそれを用いた絶縁電線及びその製造方法が提供される。
【0011】
[1]3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類からなるジアミン成分及び酸成分を共沸溶剤の存在下で合成反応させて得られる樹脂成分(X)と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるジイソシアネート成分(Y)と、を合成反応させて得られる下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を含有する絶縁塗料。
【0012】
【化1】

【0013】
式(1)中、Rは、前記の、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基を示し、m、nは、1〜99の整数を示す。
【0014】
[2]前記ジイソシアネート成分(Y)を構成する、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)との配合割合は、モル百分率[{Y1/(Y1+Y2)}×100]で、10〜90%である前記[1]に記載の絶縁塗料。
【0015】
[3]前記3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及びこれらの異性体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である前記[1]又は[2]に記載の絶縁塗料。
【0016】
[4]前記共沸溶剤は、キシレンである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の絶縁塗料。
【0017】
[5]3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類からなるジアミン成分及び酸成分を共沸溶剤の存在下で合成反応させて樹脂成分(X)を得る工程と、得られた前記樹脂成分(X)と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるジイソシアネート成分(Y)とを合成反応させて下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を得る工程と、を含む絶縁塗料の製造方法。
【0018】
【化2】

【0019】
式(1)中、Rは、前記の、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基を示し、m、nは、1〜99の整数を示す。
【0020】
[6]前記ジイソシアネート成分(Y)を構成する、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)との配合割合は、モル百分率[{Y1/(Y1+Y2)}×100]で、10〜90%である前記[5]に記載の絶縁塗料の製造方法。
【0021】
[7]前記3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及びこれらの異性体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である前記[5]又は[6]に記載の絶縁塗料の製造方法。
【0022】
[8]前記共沸溶剤は、キシレンである前記[5]〜[7]に記載の絶縁塗料の製造方法。
【0023】
[9]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の絶縁塗料を、導体又は他の絶縁被膜上に塗布、焼付けすることによって形成された絶縁被膜を有する絶縁電線。
【0024】
[10]長方形状の断面を有する前記[9]に記載の絶縁電線。
【0025】
[11]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の絶縁塗料を、円形形状の断面を有する導体上に塗布、焼付けすることによって絶縁被膜を形成する工程と、前記導体と前記絶縁被膜とを圧延加工して、長方形状の断面を有する絶縁電線とする工程とを含む絶縁電線の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来と同等の部分放電開始電圧を有するとともに圧延加工時やコイル成形時等に亀裂等が発生しない機械的強度を有する絶縁被膜を形成することが可能な絶縁塗料及びその製造方法並びにそれを用いた絶縁電線及びその製造方法を提供することができる。
【0027】
また、本発明の絶縁電線の製造方法によれば、占積率の向上等のために、長方形状の断面を有する絶縁電線を形成する場合、平角導体上に絶縁塗料を直接塗布する場合よりも、均一な被膜を容易に形成することができる。すなわち、長方形状の断面を有する平角導体上にポリアミドイミド絶縁塗料を直接塗布すると、塗料の表面張力等が原因となり均一に形成することが困難であったが、本発明のように、塗料の表面張力の影響の少ない円形形状の断面を有する円形導体上に塗布・焼付けした後に、圧延加工して平角導体とすることによって、均一な被膜を容易に形成することが可能となったものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る円形形状の断面を有する絶縁電線を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る長方形状の断面を有する絶縁電線を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の絶縁塗料及びその製造方法並びにそれを用いた絶縁電線及びその製造方法の実施の形態を説明する。
【0030】
[I:絶縁塗料及びその製造方法]
本実施の形態に係る絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類からなるジアミン成分及び酸成分を共沸溶剤の存在下で合成反応(一段目合成反応)させて得られる樹脂成分(X)と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるジイソシアネート成分(Y)と、を合成反応(二段目合成反応)させて得られる前記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を含有して構成される。
【0031】
また、本実施の形態に係る絶縁塗料の製造方法は、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類からなるジアミン成分及び酸成分を共沸溶剤の存在下で合成反応させて樹脂成分(X)を得る工程と、得られた前記樹脂成分(X)と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるジイソシアネート成分(Y)とを合成反応させて前記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を得る工程と、を含んで構成される。
【0032】
すなわち、本実施の形態に係る絶縁塗料は、樹脂成分(X)と、ジイソシアネート成分(Y)とを合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂を含有して構成される。ここで、樹脂成分(X)とジイソシアネート成(Y)分との配合割合は、効率よくポリアミドイミド樹脂を得られるものであれば特に制限はない。以下、樹脂成分(X)及びジイソシアネート成分(Y)について具体的に説明する。
【0033】
[I−1:樹脂成分(X)の合成]
樹脂成分(X)は、ジアミン成分と酸成分とを共沸溶剤の存在下で合成反応(一段目合成反応)させて得られる。
【0034】
(ジアミン成分)
樹脂成分(X)を得るための一の合成反応成分であるジアミン成分は、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類である。このような3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類としては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及びこれらの異性体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を挙げることができる。なお、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)は、上述の芳香族ジアミン類から2つのアミノ基を取り除いた残基(2価の芳香族基)が、それに相当する。また、ジアミン成分として3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類を用いるのは、このような構成のものを用いることによって、最終的に得られるポリアミドイミド樹脂中におけるアミド基及びイミド基の存在比率を低下させることができ、これによって、ポリアミドイミド樹脂の誘電率を低下させて、部分放電電圧を高くすることができるからである。
【0035】
(酸成分)
樹脂成分(X)を得るための他の合成反応成分である酸成分としては、上述のジアミン成分と共沸溶剤の存在下で合成反応して樹脂成分(X)を合成するものであれば、特に制限はないが、例えば、芳香族トリカルボン酸無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。具体的には、トリメリット酸無水物(TMA)、ベンゾフェノントリカルボン酸無水物等を挙げることができる。中でも、コストの面から、トリメリット酸無水物(TMA)が好ましい。なお、ジアミン成分と酸成分との配合割合は、効率よく樹脂成分(X)を得ることができるものであれば特に制限はない。
【0036】
(共沸溶剤)
樹脂成分(X)の合成反応(一段目合成反応)は、通常の溶媒、例えば、N−メチル−2−ピロリドン等に加えて、共沸溶剤の存在下で行う。これは、合成反応に伴う水を除去し易くして、イミド化率等の合成反応の効率を上昇させるためである。これによって、最終的に得られるポリアミドイミド樹脂を含有する絶縁塗料として絶縁電線等における被膜の形成に用いられる場合、30%伸長後の可とう性に優れた部分放電開始電圧の高い被膜を得ることができる。共沸溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン等を挙げることができるが、中でも、危険・有害性の観点、及び本発明の特性をより効果的に発揮させる観点から、キシレンが好ましい。
【0037】
[I−2:ジイソシアネート成分(Y)の構成]
本実施の形態の絶縁塗料に含有されるポリアミドイミド樹脂を最終的に得るために、上述の樹脂成分(X)と合成反応(二段目合成反応)させるジイソシアネート成分(Y)は、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるものである。
【0038】
(Y1とY2との配合割合)
ジイソシアネート成分(Y)を構成する、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)との配合割合は、モル百分率[{Y1/(Y1+Y2)}×100]で、10〜90%であることが好ましく、25〜90%であることがさらに好ましく、40〜80%であることが最も好ましい。10〜90%の配合割合とすることによって、最終的に得られるポリアミドイミド樹脂を含有する絶縁塗料として絶縁電線等における被膜の形成に用いられる場合、高い部分放電開始電圧や優れた機械的強度(30%伸長後の可とう性)を効果的に得ることができる。特に、25〜90モル%の配合割合とすることによって、これらの特性に加え、導体との密着性(ピール試験や捻回試験)に優れた絶縁被膜を形成することができる。
【0039】
[I−3:樹脂成分(X)とジイソシアネート成分(Y)との合成反応(二段目合成反応)]
一段目合成反応で得られた樹脂成分(X)と、ジイソシアネート成分(Y)との二段目合成反応の方法については、最終的にポリアミドイミド樹脂が効率よく得られるものであれば特に制限はない。例えば、ジイソシアネート成分(Y)を樹脂成分(X)に添加する場合、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)とを予め混合して混合物としてから樹脂成分(X)に添加してもよく、混合することなく単体のまま別々に樹脂成分(X)に添加してもよい。ただし、後者の場合は反応性を考慮する必要がある。また、ポリアミドイミド樹脂を得るための二段目合成反応時においては、塗料の安定性を阻害しないものであれば、アミン類、イミダゾール類、イミダゾリン類等の反応触媒を用いてもよい。また、二段目合成反応停止時にはアルコール等の停止剤を用いてもよい。このようにして、最終的に上記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を得ることができる。
【0040】
[I−4:絶縁塗料の調製]
上述の二段目合成反応によって得られたポリアミドイミド樹脂を最終的な絶縁塗料に調製する方法としては、汎用の方法を用いることができる。
【0041】
[II:絶縁電線及びその製造方法]
図1及び図2に示すように、本実施の形態に係る絶縁電線10は、上述の絶縁塗料を、導体1又は他の絶縁被膜(図示せず)上に塗布、焼付けすることによって形成された絶縁被膜2を有して構成される。なお、図1においては、円形形状の断面を有する絶縁電線10を、また図2においては、長方形状の断面を有する絶縁電線10をそれぞれ示す。
【0042】
また、本実施の形態に係る絶縁電線の製造方法は、上述の絶縁塗料を、円形形状の断面を有する導体上に塗布、焼付けすることによって絶縁被膜を形成する工程と、前記導体と前記絶縁被膜とを圧延加工して、長方形状の断面を有する絶縁電線とする工程とを含んで構成される。
【0043】
絶縁塗料を、導体又は他の絶縁被膜上に塗布、焼付けする方法については特に制限はない。例えば、導体としては、通常、銅が用いられるが、銅の周囲にニッケル等の金属めっきを施したものであっても、他の絶縁被膜を形成したものであってもよい。また、絶縁電線に滑性を付与したい場合は、最外層に、潤滑油を塗布するか、潤滑性樹脂塗料を塗布、焼付けするか、又はベースエナメル線用塗料の中に潤滑剤、例えば、固形パラフィン、低分子ポリエチレン、脂環式エステル系ワックス、シリコン樹脂の1種以上、を混合したものを導体上に塗布、焼付けすることが好ましい。なお、上述のように、本実施の形態に係る絶縁電線の製造方法は、占積率の向上等のために、長方形状の断面を有する絶縁電線を
形成する場合に、特に有用である。
【0044】
[III:本実施の形態の効果]
本実施の形態で得られた絶縁塗料を用いて絶縁電線の絶縁被膜を形成することにより、絶縁電線の30%伸長後の可とう性が1d(最小巻き付け倍径d)となり、圧延加工時やコイル成形時等に絶縁被膜に亀裂発生が発生することがない、すなわち、圧延加工時やコイル成形時等に絶縁被膜に亀裂等が発生することのない優れた機械的強度を有するとともに、従来と同じように高い部分放電開始電圧(970Vp以上の部分放電開始電圧)を有する絶縁電線を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の絶縁塗料及びその製造方法並びに絶縁電線及びその製造方法を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって、いかなる制限を受けるものではない。
【0046】
(実施例1)
(ポリアミドイミド樹脂Aの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.2gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9g、共沸溶剤として、キシレン252gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させた。脱水反応中に生成された水及びキシレンを随時系外に排出しながら反応させて、樹脂成分(X)を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が50/50(Y1のモル百分率が50%)になるように混合したジイソシアネート成分313.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Aを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Aを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0047】
(実施例2)
(ポリアミドイミド樹脂Bの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.2gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9g、共沸溶剤として、キシレン252gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させた。脱水反応中に生成された水及びキシレンを随時系外に排出しながら反応させて、樹脂成分(X)を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が40/60(Y1のモル百分率が40%)になるように混合したジイソシアネート成分316.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Bを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Bを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0048】
(実施例3)
(ポリアミドイミド樹脂Cの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.2gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9g、共沸溶剤として、キシレン252gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させた。脱水反応中に生成された水及びキシレンを随時系外に排出しながら反応させて、樹脂成分(X)を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が25/75(Y1のモル百分率が25%)になるように混合したジイソシアネート316.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Cを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Cを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0049】
(実施例4)
(ポリアミドイミド樹脂Dの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.2gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9g、共沸溶剤として、キシレン252gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させた。脱水反応中に生成された水及びキシレンを随時系外に排出しながら反応させて、樹脂成分(X)を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が80/20(Y1のモル百分率が80%)になるように混合したジイソシアネート316.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Dを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Dを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0050】
(実施例5)
(ポリアミドイミド樹脂Eの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.2gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9g、共沸溶剤として、キシレン252gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させた。脱水反応中に生成された水及びキシレンを随時系外に排出しながら反応させて、樹脂成分(X)を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が90/10(Y1のモル百分率が90%)になるように混合したジイソシアネート316.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Eを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Eを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0051】
(実施例6)
(ポリアミドイミド樹脂Fの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.2gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9g、共沸溶剤として、キシレン252gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させた。脱水反応中に生成された水及びキシレンを随時系外に排出しながら反応させて、樹脂成分(X)を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が10/90(Y1のモル百分率が10%)になるように混合したジイソシアネート316.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Fを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Fを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0052】
[特性試験]
(部分放電開始電圧(PDIV))
実施例1〜6で得られた各絶縁電線の部分放電開始電圧(PDIV)の測定を行なった。ツイストペアのエナメル線試料を10個作製し、アビソフィックス装置で端部から10mm被覆樹脂を削った。その後、被覆樹脂乾燥のため、恒温槽にて125℃で30分間熱処理し、デシケータ中で室温になるまで18時間放置した。測定は、部分放電自動試験システム(総研電気(株)社製 DAC−PD−3)を用いて、23℃、湿度50%の雰囲気で、50Hzの電圧を10〜30V/sの割合で昇圧させ、エナメル線試料に100pCの放電が50回/秒で発生したときの電圧を部分放電開始電圧として測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
(可とう性)
実施例1〜6で得られた各絶縁電線を30%伸長した後に、表面が滑らかで、導体径の1〜10倍の丸棒(巻き付け棒)に5巻分を1コイルとして、5コイル分巻き付けた。この巻き付け時に、絶縁被膜に亀裂発生が見られない最小巻き付け倍径(d)を可とう性とした。その結果を表1に示す。
【0054】
(捻回試験)
実施例1〜6で得られた各絶縁電線の捻回試験を行なった。直線状試料電線を同軸上の250mm離れた2つのクランプに固定し、一方のクランプを回転させ、被膜が浮いた時点の回転角(回数;360°を1回とする)を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
(ピール試験)
実施例1〜6で得られた各絶縁電線のピール試験を行なった。直線状試料電線を同軸上の250mm離れた2つのクランプに固定し、サンプルの長さ方向に平行な2辺の被膜を導体に達するまで取り除いた。その後、一方のクランプを回転させ、被膜が浮いた時点の
回転角(回数;360°を1回とする)を測定した。その結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
(汎用ポリアミドイミド樹脂Gの合成)
攪拌棒、N2ライン、及びジムロート冷却管を取り付けた5Lの3つ口フラスコに、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート375.5g、トリメリット酸無水物(TMA)634.5gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2375gを添加した後、150rpm、N21L/min、系中温度120℃で、30min攪拌した後に、155℃まで昇温し、3時間攪拌し、一段目合成反応の反応中間体を得た。その後、60℃まで冷却した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)375.5gを添加し150rpm、N2ライン、系中温度120℃で約1時間反応させた。その後、メタノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Gを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Gを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0057】
(比較例2)
(従来法による従来ポリアミドイミド樹脂Hの合成)
攪拌機、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.3gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2542.1g、を添加した後、180rpm、N21L/min、系中温度160℃で4時間反応させ、一段目合成反応の反応中間体を合成した。その後、90℃まで冷却した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)319.7gを配合し、150rpm、N20.1L/min、系中温度120℃で1時間反応させた。その後、ベンジルアルコール89.3g、N,N−ジメチルホルムアミド635.4gを配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Hを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Hを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0058】
(比較例3)
(ポリアミドイミド樹脂Iの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.3gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させて、一段目合成反応の反応中間体を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が5/95(Y1のモル百分率が5%)になるように混合したジイソシアネート成分313.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約2000〜3000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Iを得た。次いで、導体径0.82mmの銅線の外周にポリアミドイミド樹脂Iを塗布・焼付けし、45μmの絶縁被膜層からなる絶縁電線を作製した。
【0059】
(比較例4)
(ポリアミドイミド樹脂Jの合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)446.5g、トリメリット酸無水物(TMA)449.3gを配合し、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン2515.9gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で、6時間反応させて、一段目合成反応の反応中間体を得た。90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(Y)として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)が95/5(Y1のモル百分率が95%)になるように混合したジイソシアネート成分313.4g配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、ベンジルアルコール88.4g、N,N−ジメチルホルムアミドを628.9g配合して停止反応を行い、E型粘度計で測定した粘度が約1000mPa・sのポリアミドイミド樹脂Jを得た。しかし、粘度が低かったため、絶縁電線を作製するには至らなかった。
【0060】
[特性試験]
(部分放電開始電圧(PDIV))
比較例1〜4で得られた各絶縁電線に関して、実施例における場合と同様にして部分放電開始電圧(PDIV)の測定を行なった。結果を表2に示す。
【0061】
(可とう性)
比較例1〜4で得られた各絶縁電線に関して、実施例に示す方法と同様にして可とう性を評価した。
【0062】
(捻回試験)
比較例1〜4で得られた各絶縁電線に関して、実施例に示す方法と同様にして捻回試験を行なった。
【0063】
(ピール試験)
比較例1〜4で得られた各絶縁電線に関して、実施例に示す方法と同様にしてピール試験を行なった。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1及び表2より、実施例1〜6の場合、すなわち、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)の配合割合が10〜90モル%の場合は、可とう性、捻回試験、ピール試験及びPDIVのいずれにおいても優れていた。例えば、可とう性については、いずれの場合も、機械的強度の指標である可とう性の目標とした30%伸長1d(自己径巻き付け)に合格した。
【0067】
比較例1〜4の場合(比較例4の場合は、絶縁電線を作製するには至らなかった)、すなわち、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)の配合割合が0及び5モル%の場合、後述するように、実施例1〜6の場合よりも特性的に劣っていた。例えば、可とう性については、30%伸長1d(自己径巻き付け)に合格せず、4d及び2dであった。他の特性については、比較例1(汎用されているポリアミドイミド樹脂のエナメル線を示すもの)の場合、捻回試験及びピール試験は良好であるものの、折り返し単位あたりの極性が大きく(樹脂中のイミド基及びアミド基の存在比率が他に比べて高く)、PDIVが低かった。比較例2〜3の場合は、捻回試験、ピール試験及びPDIVのいずれにおいても、実施例の場合と遜色のないレベルであったが、柔軟な成分が少ないため可とう性を満足することができなかったものと考えられる。比較例4(2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)の配合割合を95モル%としたもの)の場合、合成の際、粘度、すなわち分子量が増大せず、エナメル線を形成して評価するには至らなかった。
【0068】
なお、実施例1〜6においては、共沸法を用いたが、比較例1〜4の場合は用いていない。共沸法を用いることによって、酸成分(TMA)やイソシアネート成分と反応してしまう水を、系内から除去(留去)することができ、反応性の低下を防止することができたため、PDIV値を低下させることなく、可そう性を効果的に向上させることができたと考えられる。また、最終的に得られた各絶縁電線の外観を目視によって観察したところ、粒や泡の発生もなく良好であり、いずれの実施例及び比較例においても良好であった。
【符号の説明】
【0069】
1 導体
2 絶縁被膜
10 絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類からなるジアミン成分及び酸成分を共沸溶剤の存在下で合成反応させて得られる樹脂成分(X)と、
2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるジイソシアネート成分(Y)と、を合成反応させて得られる下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を含有
する絶縁塗料。
【化1】

式(1)中、Rは、前記の、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基を示し、m、nは、1〜99の整数を示す。
【請求項2】
前記ジイソシアネート成分を構成する、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)との配合割合は、モル百分率[{Y1/(Y1+Y2)}×100]で、10〜90%である請求項1に記載の絶縁塗料。
【請求項3】
前記3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及びこれらの異性体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項1又は2に記載の絶縁塗料。
【請求項4】
前記共沸溶剤は、キシレンである請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁塗料。
【請求項5】
3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類からなるジアミン成分及び酸成分を共沸溶剤の存在下で合成反応させて樹脂成分(X)を得る工程と、
得られた前記樹脂成分(X)と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)からなるジイソシアネート成分(Y)とを合成反応させて下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を得る工程と、を含む絶縁塗料の製造方法。
【化2】

式(1)中、Rは、前記の、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基を示し、m、nは、1〜99の整数を示す。
【請求項6】
前記ジイソシアネート成分を構成する、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y1)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Y2)との配合割合は、モル百分率[{Y1/(Y1+Y2)}×100]で、10〜90%である請求項5に記載の絶縁塗料の製造方法。
【請求項7】
前記3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族基(R)を有する芳香族ジアミン類は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及びこれらの異性体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項5又は6に記載の絶縁塗料の製造方法。
【請求項8】
前記共沸溶剤は、キシレンである請求項5〜7のいずれかに記載の絶縁塗料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁塗料を、導体又は他の絶縁被膜上に塗布、焼付けすることによって形成された絶縁被膜を有する絶縁電線。
【請求項10】
長方形状の断面を有する請求項9に記載の絶縁電線。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁塗料を、円形形状の断面を有する導体上に塗布、焼付けすることによって絶縁被膜を形成する工程と、
前記導体と前記絶縁被膜とを圧延加工して、長方形状の断面を有する絶縁電線とする工程とを含む絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190434(P2011−190434A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26663(P2011−26663)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】