説明

絶縁塗料及び絶縁電線

【課題】耐熱性を有すると共に導体への密着性が高く、誘電率が低い絶縁被膜を形成できる絶縁塗料、及び当該絶縁塗料からなる絶縁電線を提供する。
【解決手段】絶縁塗料は、導体を被覆する絶縁被膜を形成する絶縁塗料であって、下記一般式(1)で表される、4価の芳香族エーテル及び又は芳香族基とポリフェニンエーテル基を含有する繰り返し単位を有するポリイミド樹脂からなる絶縁塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁塗料及び絶縁電線に関する。特に、本発明は、ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料及びポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を用いた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化、高性能化に伴い、高電圧のインバータ制御を用いる電気機器が開発されている。電気機器をインバータ制御する場合、インバータ制御により発生するインバータサージ電圧が高いので、発生したインバータサージ電圧が電気機器に侵入する。この場合、電気機器に用いられている絶縁電線に部分放電が発生して、絶縁被膜が劣化することがある。
【0003】
そこで、従来、導体表面に塗布焼付して形成される絶縁被膜用の絶縁塗料であって、フッ素系ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の絶縁塗料によれば、特定のフッ素系ポリイミド樹脂から絶縁塗料を形成することにより比誘電率を低くできるので、大きな高周波電圧が印加された場合であっても絶縁被膜の耐劣化性を向上させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−56720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の絶縁塗料は、フッ素系ポリイミド樹脂から形成されるので絶縁被膜の誘電率を低くすることができるが、フッ素系ポリイミド樹脂から形成した絶縁被膜の導体への密着性が低いので、絶縁被膜が導体から剥離して導体と絶縁被膜との間で被膜浮きが発生することがあり、この場合、絶縁破壊が発生する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、耐熱性を有すると共に導体への密着性が高く、誘電率が低い絶縁被膜を形成できる絶縁塗料、及び当該絶縁塗料からなる絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、導体を被覆する絶縁被膜を形成する絶縁塗料であって、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド樹脂からなる絶縁塗料が提供される。
【化11】

【化12】

[一般式(1)において、Xは下記式(3)で表される芳香族エーテル構造を有する4価の芳香族基であり、一般式(2)において、Xは下記式(4)で表される4価の芳香族基であり、一般式(1)及び(2)において、Yは下記式(5)で表され、1≦p≦5(但し、pは正の整数)である芳香族エーテル構造を有する2価の芳香族基であり、m、nは繰り返し数であって、それぞれ正の整数である。]
【化13】

【化14】

【化15】

【0008】
また、上記絶縁塗料は、ポリイミド樹脂は、一般式(2)で表される繰り返し単位の数nに対する一般式(1)で表される繰り返し単位の数mの比が、1≦m/n≦9であってもよい。
【0009】
また、上記目的を達成するため、導体と、下記一般式(1)及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を導体上に塗布焼付けして形成される絶縁被膜とを備える絶縁電線が提供される。
【化16】

【化17】

[一般式(1)において、X1は下記式(3)で表される芳香族エーテル構造を有する4価の芳香族基であり、一般式(2)において、X2は下記式(4)で表される4価の芳香族基であり、一般式(1)及び(2)において、Yは下記式(5)で表され、1≦p≦5(但し、pは正の整数)である芳香族エーテル構造を有する2価の芳香族基であり、m、nは繰り返し数であって、それぞれ正の整数である。]
【化18】

【化19】

【化20】

【0010】
また、上記絶縁電線は、導体と絶縁被膜との間に中間絶縁被膜を更に備えることもできる。
【0011】
また、上記絶縁電線は、中間絶縁被膜は、導体の表面にシランカップリング剤を塗布焼付することにより形成されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る絶縁塗料及び絶縁電線によれば、耐熱性を有すると共に導体への密着性が高く、誘電率が低い絶縁被膜を形成できる絶縁塗料、及び当該絶縁塗料からなる絶縁電線を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[実施の形態]
(絶縁塗料)
本発明の実施の形態に係る絶縁塗料は、無酸素銅、銅等の金属材料からなる導体を被覆する絶縁被膜を形成する絶縁塗料であって、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド樹脂から形成される。
【化21】

【化22】

【0014】
具体的に、本発明の実施の形態に係る絶縁塗料は、一般式(1)及び一般式(2)とを含む、下記一般式(6)で表されるポリイミド樹脂から形成することができる。
【化23】

【0015】
一般式(6)は、一般式(1)からなる繰り返し単位と一般式(2)からなる繰り返し単位とがブロック共重合体として含まれるポリイミド樹脂である。なお、本発明の実施の形態に係る絶縁塗料は、一般式(1)からなる繰り返し単位と一般式(2)からなる繰り返し単位とが交互共重合体、又はランダム共重合体として含まれるポリイミド樹脂とすることもできる。
【0016】
ここで、一般式(1)において、Xは下記式(3)で表される芳香族エーテル構造を有する4価の芳香族基である。そして、一般式(2)において、Xは下記式(4)で表される4価の芳香族基であり、一般式(1)及び(2)において、Yは下記式(5)で表され、1≦p≦5(但し、pは正の整数)である芳香族エーテル構造を有する2価の芳香族基である。なお、m、nは繰り返し単位数であって、それぞれ正の整数である。
【化24】

【化25】

【化26】

【0017】
一般式(3)で表される基は、芳香族基が架橋員により相互に連結した非縮合多環式芳香族基である芳香族エーテル構造を有する4価の芳香族基である。したがって、共役系のπ電子の存在確率が酸素原子の部分で低いので、一般式(4)で表される芳香族構造を有する4価の芳香族基に比べて、電子の流れが遮断されやすい。これにより、一般式(3)で表される基を一般式(1)のXに導入することにより、一般式(1)及び一般式(2)からなる化合物における電荷の偏りが低減され、本実施の形態に係る絶縁被膜の誘電率を低下させることができる。
【0018】
なお、絶縁塗料からなる絶縁被膜の弾性率が250℃以上の高温において低下することに起因して、絶縁被膜の耐熱性が低下することを抑制すべく、一般式(1)及び一般式(2)からなる化合物中に導入する芳香族エーテル構造(すなわち、一般式(3)で表される基)の量は、所定量以下にすることが好ましい。
【0019】
一方、一般式(1)及び一般式(2)からなる化合物中に導入される一般式(4)で表される4価の芳香族基の量が増加すると、電子の流れが多くなり、π電子共役系によって誘電率が増加するものの、一般式(1)及び一般式(2)からなる化合物の耐熱性を向上させることができる。そして、一般式(3)からなる化合物の量の増加、すなわち、繰り返し単位数mの増加により、一般式(6)からなる化合物の耐熱性が低下する。一方、一般式(4)からなる化合物の量の増加、すなわち、繰り返し単位数nの増加により、一般式(6)からなる化合物の誘電率が増加する。斯かる知見から、本発明者は、一般式(6)において、繰り返し単位数m及びnの比m/nが、1≦m/n≦9の範囲となるように一般式(3)及び一般式(4)それぞれの量を規定することで、耐熱性と低誘電率とを両立できるという知見を得たものである。
【0020】
一般式(5)で表される基は、構造中に芳香族エーテル構造を有することに起因して、一般式(3)の場合と同様に、電子の流れが遮断されやすい。したがって、一般式(1)及び一般式(2)からなる化合物中における一般式(5)で表される基の量が増加すると、電荷の偏りが低減され、本実施の形態に係る絶縁被膜の誘電率を低下させることができる。特に、一般式(5)の繰り返し単位pを1≦p≦5の範囲に設定した場合、耐熱性と低誘電率特性とを両立できる絶縁塗料を提供できる。なお、芳香族エーテル構造を有さない基を一般式(5)で表される基の代わりに用いた場合、十分な低誘電率特性を有する絶縁塗料が得られない。また、繰り返し単位pが5を超える基を有する絶縁塗料の場合、250℃領域での弾性率が極端に低下することに伴い流動性のある熱可塑性樹脂として振る舞うため、十分な耐熱性を有する絶縁塗料が得られない場合がある。
【0021】
ここで、芳香族エーテル構造を有する4価の芳香族基である一般式(3)で表される基としては、例えば、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等に由来する基を用いることができる。また、4価の芳香族基である一般式(4)で表される基としては、ピロリメット酸二無水物(PMDA)等に由来する基を用いることができる。更に、芳香族エーテル構造を有する2価の芳香族基である一般式(5)で表される基としては、1,4−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,4−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)等に由来する基を用いることができる。
【0022】
(絶縁塗料の製造方法)
本実施の形態に係る絶縁塗料は、溶剤中に複数の出発物質を添加して、所定の条件下で反応させて合成することができる。なお、樹脂塗料は、樹脂と溶剤とから構成される。
【0023】
溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン、アニソール、ジオキソラン、ブチルセルソルブアセテート、ラクトン系等の有機溶剤を単独で用いるか、又は2種類以上の混合溶剤として用いることができる。
【0024】
(絶縁電線)
図1Aは、本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面を示す。
【0025】
本実施の形態に係る絶縁電線1は、無酸素銅、銅等の金属材料からなる導体10と、導体10を被覆する絶縁被膜20とを備える。絶縁被膜20は、本実施の形態に係る絶縁塗料から形成される。具体的には、合成した樹脂塗料を導体10の周囲に塗布、焼付けすることにより、本実施の形態に係る絶縁被膜20を形成して、絶縁被膜20を備える絶縁電線1を製造することができる。なお、絶縁電線1は、その最外層に自己潤滑性絶縁被膜を更に備えることもできる。自己潤滑性絶縁被膜は、例えば、ポリアミドイミド樹脂に、カルナバロウ等の潤滑剤を添加した絶縁塗料から形成することができる。
【0026】
図1Bは、本発明の実施の形態の変形例に係る絶縁電線の断面を示す。
【0027】
本実施の形態の変形例に係る絶縁電線1aは、図1Aに示す絶縁電線1の外周に、更に他の絶縁被膜を1層又は複数層形成することにより構成される。例えば、絶縁被膜の耐熱性を向上させることを目的として、絶縁被膜20の外周にポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等からなる絶縁被膜を、1層、又は2層以上形成することができる。例えば、図1Bに示す絶縁電線1aは、絶縁被膜20の外周に第1の外部絶縁被膜22が形成され、第1の外部絶縁被膜22の外周に第2の外部絶縁被膜24が形成されて構成される。なお、第1の外部絶縁被膜22及び第2の外部絶縁被膜24はそれぞれ、1層又は複数層の絶縁被膜を含んで形成することもできる。
【0028】
また、図示は省略するが、潤滑性を向上させることを目的として、絶縁被膜20の外周に潤滑性を有する絶縁被膜を更に形成することもできる。また、絶縁電線1aの最外周に、潤滑性を有する絶縁被膜を更に形成することもできる。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態の他の変形例に係る絶縁電線の断面を示す。
【0030】
実施の形態の他の変形例に係る絶縁電線2を製造するに際して、導体10と絶縁被膜20との密着性を更に向上させることを目的として、導体10と絶縁被膜20との間にシランカップリング剤からなる中間絶縁被膜30を設けることもできる。例えば、導体10表面にシランカップリング剤を塗布後、加熱することで、導体10表面にシランカップリング剤から形成される中間絶縁被膜30を形成できる。そして、中間絶縁被膜30上に本実施の形態に係る絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより、絶縁電線2を製造することができる。また、絶縁電線1と同様に絶縁電線2は、その最外層に自己潤滑性絶縁被膜を更に備えることもできる。
【0031】
シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることができる。
【0032】
なお、本実施の形態に係る絶縁電線1、1a、2は、電気機器に用いられるコイルに適用できる。例えば、絶縁電線1、1a、2は、複数の絶縁電線の端末同士を溶接等によって接合してつなぎ合わせることによって形成されるコイルに適用できる。
【0033】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る絶縁塗料によれば、一般式(1)及び一般式(2)を有すると共に、一般式(3)乃至(5)で表される基を有する絶縁塗料を提供できるので、ポリイミド樹脂の耐熱性を維持しつつ、導体に対する密着性が高く、誘電率が低い絶縁被膜を形成することができる。したがって、本実施の形態に係る絶縁塗料によれば、絶縁被膜の部分放電開始電圧の高い絶縁被膜を形成できるので、部分放電による絶縁被膜の劣化を抑制することができ、例えば、インバータ制御される電気機器(一例として、モータのコイル等)の寿命を長くすることができる。
【0034】
以下、実施例により本発明の実施の形態を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
実施例1に係る絶縁塗料は、以下の手順により合成した。まず、攪拌機を取り付けた5lのセパラブル3つ口フラスコに、シリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を装着した。続いて、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(分子量:310.21)217.1gと、ピロメリット酸二無水物(分子量:218.1)65.4gと、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(分子量:292.3)292.3gと、N−メチル−2−ピロリドン(分子量:99.1)2299gとをそれぞれ秤量した。そして、秤量した各材料をフラスコ中に添加した。その後、攪拌機の回転数を180rpmに設定して、室温下で5時間反応させた。続いて、無水マレイン酸20gを更にフラスコ中に添加して、室温下で5時間反応させることにより、実施例1に係る絶縁塗料としてのポリイミド前駆体樹脂を合成した。
【0036】
次に、断面が丸形状の銅からなる導体の表面に、塗出ダイスを通すことにより実施例1に係るポリイミド前駆体樹脂を塗布した(塗布工程)。続いて、240℃の温度で1分間の焼成処理(第1の焼成工程)と、340℃の温度で1分間の焼成処理(第2の焼成工程)とを続けて実施することにより、導体の表面にポリイミド樹脂からなる被膜を形成した。更に、塗布工程、第1の焼成工程、及び第2の焼成工程を14回繰り返した。これにより、導体の表面に厚さが31μmの絶縁被膜が設けられた実施例1に係るエナメル線としての絶縁電線を作製した。
【実施例2】
【0037】
実施例2に係る絶縁塗料は、実施例1に係る絶縁塗料とは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物の量が279.2gであり、ピロメリット酸二無水物の量が21.8gであり、N−メチル−2−ピロリドンの量が2373gである点を除き、実施例1と同様にして合成した。また、実施例2に係る絶縁電線は、実施例2に係る絶縁塗料を用いて実施例1に係る絶縁電線と同様にして作製した。
【実施例3】
【0038】
実施例3に係る絶縁塗料は、実施例1に係る絶縁塗料とは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物の量が155.1gであり、ピロメリット酸二無水物の量が109.1gであり、N−メチル−2−ピロリドンの量が2226gである点を除き、実施例1と同様にして合成した。また、実施例3に係る絶縁電線は、実施例3に係る絶縁塗料を用いて実施例1に係る絶縁電線と同様にして作製した。
【0039】
(比較例1)
比較例1に係る絶縁塗料は、以下の手順により合成した。まず、攪拌機を取り付けた5lのセパラブル3つ口フラスコに、シリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を装着した。続いて、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(分子量:310.21)217.1gと、ピロメリット酸二無水物(分子量:218.1)65.4gと、パラフェニレンジアミン(PPD)(分子量108.1)108.1gと、N−メチル−2−ピロリドン(分子量:99.1)1489gとをそれぞれ秤量した。そして、秤量した各材料をフラスコ中に添加した。その後、攪拌機の回転数を180rpmに設定して、室温下で5時間反応させた。続いて、無水マレイン酸20gを更にフラスコ中に添加して、室温下で5時間反応させることにより、比較例1に係る絶縁塗料としてのポリイミド前駆体樹脂を合成した。
【0040】
次に、実施例1の場合と同様にして、厚さが31μmであり、比較例1に係る絶縁塗料からなる絶縁被膜が設けられた比較例1に係る絶縁電線を作成した。
【0041】
(比較例2)
比較例2に係る絶縁塗料は、比較例1に係る絶縁塗料とは、ピロリメット酸二無水物の量を17.4gに変更し、パラフェニレンジアミンの代わりに1,4−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼン(TPE−Q)(分子量292.3)を292.3g添加すると共に、N−メチル−2−ピロリドンの量を2107.2gに変更した点を除き、比較例1と同様にして合成した。また、比較例2に係る絶縁塗料を用いて、実施例1と同様にして比較例2に係る絶縁電線を作成した。
【0042】
(比較例3)
比較例3に係る絶縁塗料は、比較例1に係る絶縁塗料とは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物の量を124.0gに変更し、ピロリメット酸二無水物の量を130.8gに変更して、パラフェニレンジアミンの代わりに1,4−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼン(TPE−Q)を292.3g添加すると共に、N−メチル−2−ピロリドンの量を2188gに変更した点を除き、比較例1と同様にして合成した。また、比較例3に係る絶縁塗料を用いて、実施例1と同様にして比較例3に係る絶縁電線を作成した。
【0043】
(比較例4)
比較例4に係る絶縁塗料は、比較例1に係る絶縁塗料とは、パラフェニレンジアミンの代わりに2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(m−BAPS)(分子量432.5)を432.5g添加すると共に、N−メチル−2−ピロリドンの量を2860gに変更した点を除き、比較例1と同様にして合成した。また、比較例4に係る絶縁塗料を用いて、実施例1と同様にして比較例4に係る絶縁電線を作成した。
【0044】
(比較例5)
比較例5に係る絶縁塗料は、比較例1に係る絶縁塗料とは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物の量を294.7gに変更し、ピロリメット酸二無水物の量を10.9gに変更し、パラフェニレンジアミンの代わりに1,4−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼン(TPE−Q)を292.3g添加すると共に、N−メチル−2−ピロリドンの量を2392gに変更した点を除き、比較例1と同様にして合成した。また、比較例5に係る絶縁塗料を用いて、実施例1と同様にして比較例5に係る絶縁電線を作成した。
【0045】
(比較例6)
比較例6に係る絶縁塗料は、比較例1に係る絶縁塗料とは、4,4’−オキシジフタル酸二無水物の量を124.1gに変更し、ピロリメット酸二無水物の量を130.1gに変更し、パラフェニレンジアミンの代わりに1,4−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼン(TPE−Q)を292.3g添加すると共に、N−メチル−2−ピロリドンの量を2186gに変更した点を除き、比較例1と同様にして合成した。また、比較例6に係る絶縁塗料を用いて、実施例1と同様にして比較例6に係る絶縁電線を作成した。
【0046】
(特性評価)
実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁電線用の絶縁塗料の特性を、以下の各項目について評価した。
【0047】
(1)可撓性評価(180°耐折性)
実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁塗料を用いてフィルム状の試験短冊片をそれぞれ作成した。試験短冊片のサイズは、2mm×100mmとした。そして、試験短冊片を180°折り曲げ、10回の折り曲げを繰り返した後の割れの発生の有無を評価した。割れの発生がある場合を「×」(不合格)、割れの発生がない場合を「○」(合格)とした。
【0048】
(2)ガラス転移温度の評価
実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁塗料から30mm×5mmサイズのフィルムをそれぞれ作成した。そして、作成した各フィルムについて、動的粘弾性装置(アイティー計測制御(株)製DVA−200)を用い、周波数10Hz、昇温速度3℃/分の条件で室温から400℃までの温度領域において弾性率を測定した。そして、測定した弾性率の変曲点をガラス転移温度とした。
【0049】
(3)5%重量減少温度の評価
実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁塗料から重量が10mgのフィルムをそれぞれ作成した。そして、作製した各フィルムをプラチナ製のサンプルパンに搭載した。次に、示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツル(株)製TG/DTA320)を用いて、空気中、100ml/分流量、昇温速度10℃/分の条件で室温から800℃まで昇温させて熱分析を実施した。そして、フィルムの重量が5%減少した時点の温度を、5%重量減少温度とした。
【0050】
(4)銅密着力評価
密着力評価用の銅基板を準備した。そして、準備した銅基板に実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁塗料をそれぞれ塗布、焼き付けて、幅10mmの短冊状試験片を作成した。そして、各短冊状試験片についてテンシロン測定機を用いて引張強さを測定することにより密着力を評価した。
【0051】
(5)誘電率評価
実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁塗料のそれぞれからフィルム状に成型した2mm×100mmの試験短冊片を空洞共振器摂動法(アジレント社製、S−パラメータネットワークアナライザ8720ES)を用い、周波数10GHzの誘電率を測定した。
【0052】
(6)絶縁破壊電圧評価
実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁塗料のそれぞれから作成した絶縁電線用被膜を黄銅製の平行平板電極30mmφで挟み、初期1kV荷電から0.5kV/minで昇圧して課電し、絶縁破壊時の電圧を測定した。
【0053】
(7)400kV/m課電後の外観評価
実施例1〜3、及び比較例1〜6に係る絶縁塗料を用いて製造した絶縁電線のそれぞれを黄銅製の平行平板電極30mmφで挟み、初期1kV荷電から0.5kV/minで12.4kVの電圧まで昇圧させた後、絶縁被膜の外観を走査型電子顕微鏡で観察して、亀裂の有無を観察することにより評価した。亀裂がある場合を「×」(不合格)、亀裂がない場合を「○」(合格)とした。
【0054】
以上の各評価の結果を、表1乃至表3に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
以上、実施例1乃至3によれば、各特性評価の全てにおいて良好な絶縁被膜が得られることが示された。特に、絶縁被膜の熱溶融に影響を与えるガラス転移温度が275℃以上であり、絶縁被膜の劣化に影響する5%重量減少温度が482℃以上であると共に、銅密着力が2.4N/cm以上であることから、実施例1乃至3に係る絶縁被膜は、良好な耐熱性を有すると共に、良好な密着力を維持していることが示された。更に、実施例1乃至3に係る絶縁被膜は、耐熱性の向上、密着力の向上と共に、誘電率を低くすることができるので、部分放電開始電圧を高くすることができる。したがって、高いインバータサージ電圧が実施例1乃至3に係る絶縁被膜を備える絶縁電線に侵入したとしても、部分放電の発生を抑制できるので、絶縁被膜の劣化を抑制できる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図である。
【図1B】本発明の実施の形態の変形例に係る絶縁電線の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の変形例に係る絶縁電線の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1、2 絶縁電線
10 導体
20 絶縁被膜
22 第1の外部絶縁被膜
24 第2の外部絶縁被膜
30 中間絶縁被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を被覆する絶縁被膜を形成する絶縁塗料であって、
下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有するポリイミド樹脂からなる絶縁塗料。
【化1】

【化2】

[一般式(1)において、Xは下記式(3)で表される芳香族エーテル構造を有する4価の芳香族基であり、一般式(2)において、Xは下記式(4)で表される4価の芳香族基であり、一般式(1)及び(2)において、Yは下記式(5)で表され、1≦p≦5(但し、pは正の整数)である芳香族エーテル構造を有する2価の芳香族基であり、m、nは繰り返し数であって、それぞれ正の整数である。]
【化3】

【化4】

【化5】

【請求項2】
前記ポリイミド樹脂は、前記一般式(2)で表される繰り返し単位の数nに対する前記一般式(1)で表される繰り返し単位の数mの比が、1≦m/n≦9である請求項1に記載の絶縁塗料。
【請求項3】
導体と、
下記一般式(1)及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を前記導体上に塗布焼付けして形成される絶縁被膜と
を備える絶縁電線。
【化6】

【化7】

[一般式(1)において、X1は下記式(3)で表される芳香族エーテル構造を有する4価の芳香族基であり、一般式(2)において、X2は下記式(4)で表される4価の芳香族基であり、一般式(1)及び(2)において、Yは下記式(5)で表され、1≦p≦5(但し、pは正の整数)である芳香族エーテル構造を有する2価の芳香族基であり、m、nは繰り返し数であって、それぞれ正の整数である。]
【化8】

【化9】

【化10】

【請求項4】
前記導体と前記絶縁被膜との間に中間絶縁被膜を更に備える請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記中間絶縁被膜は、前記導体の表面にシランカップリング剤を塗布焼付することにより形成される請求項4に記載の絶縁電線。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−132725(P2010−132725A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307376(P2008−307376)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】