説明

絶縁層の製造方法、絶縁層、有機薄膜素子、薄膜コンデンサ、液晶素子および有機光記憶素子

【発明の詳細な説明】
[発明の目的]
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は薄膜コンデンサ、液晶素子、EL素子などの有機薄膜素子に関し、特にこれらの素子に用いられる絶縁層の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、種々の素子の絶縁性保護膜や、液晶配向膜、コンデンサの誘電体薄膜として使用される絶縁性ポリマー超薄膜が注目を集めている。
【0003】従来より、極めて薄くしかも均一な絶縁性ポリマー超薄膜の製造方法として、ラングミュア・ブロジェット(LB法)が知られている。一般に、LB膜はその膜厚が均一であり、しかも膜面欠陥が少なく、かつ膜厚を単分子膜の厚さ(約1nm)の単位で制御できるという利点がある。しかし、従来のLB膜は耐熱性、機械的強度が小さく、このようなLB膜を各種デバイスに応用しても実用性を満足できないという致命的な欠陥を有する。このため、最近では、LB膜の耐熱性、機械的強度の向上に関する研究が盛んに進められている。
【0004】例えば、膜形成有機物として耐熱性に優れた縮合環化合物を含有させた例[エレクトロニクス・レターズ誌、第20巻、12号、489頁、1984年(Electronics Letters,20(12),489(1984))]、高分子化合物に非重合性の低分子化合物を並存させた例[ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス誌、第79巻、268頁、1981年(Journal of Colloidand Interface Science,79,268(1981))]、重合性低分子化合物を用いて成膜した後、重合させた例[シン・ソリッド・フィルムズ誌、第99巻、249頁、1983年(Thin Solid Films, 99,249(1983)]、ビニルポリマーを成膜した例[高分子学会予稿集、第36巻、10号、3218頁、1987年。同3221頁]、などが知られている。更に、LB法を用いてポリイミド薄膜を得る方法が開発されている[例えば、高分子学会予稿集、第36巻、10号、3215頁、1987年]。ポリイミドは耐熱温度、機械的強度に関して有機物のなかでは最高の値を有する。以上のように、LB法を用いて、耐熱性があり、極めて薄く、かつ均一な絶縁性ポリマーが得られるようになってきている。
【0005】一方、電圧で駆動するコンデンサ、液晶素子、その他の種々の素子においては、絶縁性薄膜が必要である。絶縁性薄膜については、絶縁膜部分での電圧降下を少なくでき、素子全体の駆動電圧を低くできるという観点から、誘電率が高いことが好ましい。しかし、前述したLB法で超薄膜化できる絶縁性ポリマーは、いずれも比誘電率が5以下であるため、それを用いた素子の駆動電圧が高くなるという欠点があった。
【0006】現在、比誘電率が15以上の高誘電性ポリマーとしては、セルロースやプルランなどの多糖類の水酸基の大部分をシアノエチル化したものが知られている。これらのポリマーでは、シアノ基の大きな分極のために、比誘電率が極めて大きくなる。これらのポリマーは、耐熱性が良好、無色透明、高誘電性、極性構造に基づき高密着性であることから、分散型EL表示素子のバインダーポリマーとして用いられている。
【0007】しかし、これらの高誘電性ポリマーを薄膜化する方法は溶媒キャスト法しか知られていない。この溶媒キャスト法は極めて簡便な方法であり、μmオーダーの膜を得るには有効であるが、μmオーダーの膜厚では膜が不均一になりやすい欠点がある。一方、これらの高誘電性ポリマーにLB法を適用しても、このようなポリマーでは水面上での単分子膜は得られるが、固体基板上に均一に累積できず均一なLB膜の形成は困難であった。また、これらの高誘電性ポリマーでは吸湿性が非常に大きいという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上のように従来の高誘電性ポリマーには、LB法により均一に成膜できず、吸湿性が大きいという問題があった。また、上述したような絶縁性ポリマーのLB膜を有する有機薄膜素子は、絶縁性ポリマーのLB膜により構成される絶縁層の誘電率が小さく、駆動電圧が高くなるという問題があった。
【0009】本発明の目的は、LB法で均一に成膜でき、吸湿性が低く、高い誘電率を有するポリマーを用い、駆動電圧を低減でき優れた特性を有する有機薄膜素子を提供することにある。
[発明の構成]
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の有機薄膜素子は、絶縁層として、繰り返し単位に水酸基を含むポリマーの水酸基の60〜95%がシアノエチル化され、残りの水酸基が疎水化され、残存水酸基が3%以下である高誘電性ポリマーを用いたことを特徴とするものである。
【0011】本発明者らは高誘電性ポリマーの超薄膜化について研究を進めたところ、上述したような従来の高誘電性ポリマーでは、親水性が大きすぎるため固体基板上への均一な累積が困難であり、均一なLB膜が形成できないという知見を得た。更に、このような知見に基づき、前記高誘電性ポリマーの残存水酸基を疎水化することにより、均一なLB膜の形成が可能となり、さらには吸湿性が低減されることがわかった。
【0012】本発明において、絶縁層を構成する高誘電性ポリマーの原料となる、繰り返し単位に水酸基を含むポリマーとしては、多糖類、合成ポリマーなどが用いられる。多糖類としては、例えば、セルロース、プルラン、アミロース、でんぷん、グリコーゲンなどが挙げられる。合成ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。これらのポリマーのうちでは、耐熱性の面から多糖類が好ましく、そのなかでもセルロースが最も好ましい。
【0013】原料ポリマーのシアノエチル化率を60〜95%と規定したのは以下のような理由による。シアノエチル化率が60%未満では誘電率が低くなる。一方、合成的に95%を超えて水酸基をシアノエチル基で置換することは困難である。また、シアノエチル化率が95%を超えると、残りの水酸基が全て疎水化されても親水性が強すぎてLB膜の成膜には適さない。更に、シアノエチル化率は80〜90%であることが好ましい。
【0014】原料ポリマーをシアノエチル化した後、残存する水酸基を疎水化するには、水酸基にアルキルシリル基、アルキル基などの疎水基を導入する。このような疎水基を原料ポリマーの水酸基に導入する方法としては、トリアルキルクロロシラン、アルキルカルボン酸クロリド、アルキルスルホン酸クロリド、ジアルコキシスルホン、N,N−ビス(トリアルキルシラノ)アミンなどの化合物を用いて置換反応を起こすことが好ましい。累積のためだけであれば、水酸基を長鎖アルキル基で置換して疎水化することも考えられる。しかし、この場合ポリマー膜の膜厚が厚くなるため、誘電率が低下する。
【0015】同様の理由で前述した置換反応に用いられる化合物のアルキル基は、炭素数の少ないメチル基、エチル基などが好ましい。特に、このような化合物としてトリメチルクロロシランを用い、水酸基をトリメチルシリル化すれば、少量の置換で膜厚を増加させずに疎水性を増すことができる。しかも、トリメチルシリル化は、ガスクロマトグラフィでの水酸基の疎水化やガラス基板の疎水化などでよく使用されている反応であり、極めて簡便で高収率であり、市販の安価な試薬を用いることができる。
【0016】高誘電性ポリマーの残存水酸基を3%以下と規定したのは、残存水酸基が3%を超えると親水性及び吸湿性が高くなるためである。残存水酸基は1%以下であることが好ましく、できるだけ少ないことが好ましい。
【0017】以上のように原料ポリマーの水酸基をシアノエチル化した後、残存する水酸基を疎水化することにより、水面上で展開されるポリマー膜の親水性が低下するので、LB法によりポリマー膜を水面上から固体基板上へ累積できる。なお、ポリマーの疎水化処理後にシアノエチル化することも可能であるが、反応性の観点からシアノエチル化を先に行うことが好ましい。
【0018】本発明の有機薄膜素子では、上記高誘電性ポリマーのLB膜を用いることにより、極めて優れた素子機能が得られる。例えば、極めて薄く均一な高誘電性ポリマーのLB膜を用いたコンデンサ素子は大きな電気容量を持つ。また、高誘電性ポリマーのLB膜を用いた素子においては、絶縁膜による電圧降下を小さくできるので、機能部位に印加される電圧を高くでき、素子全体の駆動電圧を低くできる。
【0019】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
実施例1(コンデンサ)
【0020】原料ポリマーとして信越化学製のシアノレジンCR−C(シアノエチル化率87%のセルロース)1gを、乾燥N,N−ジメチルホルムアミド20mlに溶解させ、トリメチルクロロシラン5ml、乾燥ピリジン5mlを加え、窒素中、80℃で5時間撹拌して反応させ、疎水化した。この溶液を1lのメタノール中に滴下し、ポリマーを再沈させた。ポリマーをろ過した後、100℃で真空乾燥した。
【0021】図1に得られたポリマーのプロトンNMRスペクトル、図2に原料ポリマーのプロトンNMRスペクトルを示す。ポリマー主鎖のプロトンは、主鎖が剛直であるため観測されない。図1のピーク面積比から、得られたポリマーのトリメチルシリル化率は13%であり、残存水酸基は1%以下であることがわかった。
【0022】このようなポリマーをクロロホルム/ジメチルスルホキシド(体積比7:3)の混合溶媒に溶解し、0.3mg/mlの展開溶液を調製した。LB膜形成装置としては、ジョイスレーベル社製の垂直引上げ方式のものを用いた。水相にはイオン交換樹脂により精製した純水を用い、水温を18℃に保持した。LBトラフの水面上に展開溶液を滴下し、ポリマー薄膜を形成した。
【0023】図3にモノマー単位当りの水面上での分子占有面積と表面圧との関係を示す。薄膜を表面圧12dyn/cmになるまで圧縮した後、Alを蒸着したSi基板を水面下から5mm/minの速度で引上げ、基板上にポリマー薄膜を1層累積した。このときの累積比は1であった。空気中で10分間放置して乾燥した後、基板を水面下に引き下げたが、このときには膜は累積されなかった。ただし、第1層目の剥離も起こらなかった。次の引上げでは同様に2層目が累積された。10分間放置した後、水面下に引き下げたが、累積も剥離も起こらなかった。以下、同様にして、基板上の分割された領域にそれぞれ15層、30層、45層のポリマー薄膜を階段状に作製した。
【0024】エリプソメータによる測定から、ポリマー薄膜の膜厚は1層当り1.3nmであることがわかった。真空下、100℃で乾燥させた後、真空蒸着装置に設置し、3×10-6torrの真空下で膜厚約50nmのAlドット電極を蒸着した。得られた有機薄膜素子について、相対湿度30%で、1kHz、±10Vの電圧を印加してポリマー薄膜のキャパシタンス(C)を測定したところ、1/Cとポリマー層数との関係は直線となり、傾きから求めた比誘電率は16であった。また、相対湿度90%では比誘電率は19であった。
【0025】比較のために、原料ポリマーであるシアノレジンCR−Cを用い、実施例1と同様に、このポリマーをクロロホルム/ジメチルスルホキシド(体積比7:3)の混合溶媒に溶解し、0.3mg/mlの展開溶液を調製した。LBトラフ中で水温18℃の水面上にこの展開溶液を滴下し、ポリマー薄膜を形成した。
【0026】図4にモノマー単位当りの水面上での分子占有面積と表面圧との関係を示す。図4と図3とを比較してわかるように、このポリマー薄膜は実施例1のポリマー薄膜よりも崩壊圧が低い。
【0027】このポリマー薄膜を表面圧7dyn/cmになるまで圧縮した後、Alを蒸着したSi基板を水面下から5mm/minの速度で引上げ、基板上にポリマー薄膜を1層累積した。このときの累積比は1であった。空気中で10分間放置して乾燥した後、基板を水面下に引き下げると、第1層目の剥離が起こった。次の引上げでは、前記と同様に累積できた。空気中で10分間放置して乾燥した後、基板を水面下に引き下げると、再び剥離が起こり、多層累積膜を作製できなかった。また、上記した単層の累積膜を電子顕微鏡で観察したところ、均一性が不充分であった。
【0028】誘電率に対する湿度の影響を調べるため、Alを蒸着したSi基板上にキャスト膜を作製し、比誘電率を測定した。このポリマー薄膜の比誘電率は、相対湿度30%では16であり、相対湿度90%では20であった。実施例1と比較して湿度変化による比誘電率の変化が大きいことから、このポリマー薄膜は吸湿性が高いことがわかった。
実施例2(コンデンサ)
【0029】信越化学製のシアノレジンCR−C1gを、乾燥N,N−ジメチルホルムアミド20mlに溶解させ、2,2−ジメチルプロピオン酸クロリド5ml、乾燥ピリジン5mlを加え、窒素中、80℃で24時間撹拌して反応させ、疎水化した。この溶液を1lのメタノール中に滴下し、ポリマーを再沈させた。ポリマーをろ過した後、100℃で真空乾燥した。得られたポリマーのプロトンNMRスペクトルからトリメチルシリル化率は12%であり、残存水酸基は1%であることがわかった。
【0030】得られたポリマーを実施例1と同様にして、Alを蒸着したSi基板上に累積した。累積性は実施例1のポリマーと同様であった。このポリマー薄膜の比誘電率は18であった。
実施例3(コンデンサ)
【0031】信越化学製のシアノレジンCR−C1gを、乾燥N,N−ジメチルホルムアミド20mlに溶解させ、2,2−ジメチルプロパンスルホン酸クロリド5ml、乾燥ピリジン5mlを加え、窒素中、80℃で24時間撹拌して反応させ、疎水化した。この溶液を1lのメタノール中に滴下し、ポリマーを再沈させた。ポリマーをろ過した後、100℃で真空乾燥した。得られたポリマーのプロトンNMRスペクトルからトリメチルシリル化率は12%であり、残存水酸基は1%であることがわかった。
【0032】得られたポリマーを実施例1と同様にして、Alを蒸着したSi基板上に累積した。累積性は実施例1のポリマーと同様であった。このポリマー薄膜の比誘電率は18であった。
実施例4(コンデンサ)
【0033】信越化学製のシアノレジンCR−C1gを、乾燥N,N−ジメチルホルムアミド20mlに溶解させ、デカン酸クロリド5ml、乾燥ピリジン5mlを加え、窒素中、80℃で24時間撹拌して反応させ、疎水化した。この溶液を1lのメタノール中に滴下し、ポリマーを再沈させた。ポリマーをろ過した後、100℃で真空乾燥した。得られたポリマーのプロトンNMRスペクトルからトリメチルシリル化率は11%であり、残存水酸基は2%であることがわかった。
【0034】得られたポリマーを実施例1と同様にして、Alを蒸着したSi基板上に累積した。累積性は実施例1のポリマーと同様であった。このポリマー薄膜の比誘電率は17であった。
実施例5(コンデンサ)
【0035】信越化学製のシアノレジンCR−S(シアノエチル化率90%のプルラン)を実施例1と同様にしてトリメチルシリル化した。トリメチルシリル化率は10%であり、残存水酸基は1%以下であった。このポリマーを、実施例1と同様にしてAlを蒸着したSi基板上に累積した。累積性は実施例1のポリマーと同様であった。得られたポリマー薄膜の比誘電率は18であった。
【0036】比較のために、原料ポリマーであるシアノレジンCR−Sを用い、LB膜の成膜性を調べた。この場合にも、比較例1と同様に多層累積膜を作製することができなかった。
実施例6(液晶素子)
【0037】図5は本実施例において作製された液晶素子の断面図である。この液晶素子は以下のようにして製造された。まず、ガラス基板1上に透明電極(ネサパターン)2を形成した。その後、この基板1上に、実施例1と同様の方法により実施例1で得られたポリマーの10層累積膜からなる液晶配向膜3を作製した。次いで、シール剤4を用いて液晶セルを組み込み、チッソ社製の強誘電性液晶CS1011を注入し液晶層5を形成した後、注入口を封止した。このとき、2枚の基板について成膜時の引上げ方向が平行又は反平行となるようにした。
【0038】クロスニコルした2枚の偏光板の間にこのセルを挟んで回転させると、偏光板の偏光方向と成膜時の基板の引上げ方向とが平行又は90度の角度をなすときは暗く、45度の角度のときは明るくなった。このことから、強誘電性液晶の分子がLB膜の累積方向にほぼ配向していることがわかった。上下基板の電極間に±10Vの電圧を印加すると、電極部の液晶は一様に応答した。20℃における応答時間は約1msであった。
実施例7(有機光記憶素子)
【0039】図6は本実施例において作製された有機光記憶素子の断面図である。この有機光記憶素子は、以下のような方法により製造された。まず、ガラス基板11上に厚さ20nmの透明電極(ネサ膜)12、厚さ10nmのSiO2 膜13を順次形成した。なお、このSiO2 膜13の表面をドデシルトリクロロシランで疎水化処理した
【0040】次に、アクセプタ性分子として下記に示すコラニル−TCNQ(1)をトルエンに溶解し、0.5mg/mlのLB膜展開溶液を調製した後、実施例1と同様にして水面上に展開した。分子占有面積−表面圧曲線から、この分子は表面圧12dyn/cmで固体凝縮膜になることがわかった。次いで、ガラス基板11/ネサ膜12/SiO2 膜13をこの分子の固体凝集膜を通して2mm/minの速度で気相から水中に引き下げ、次に引き上げて、コラニル−TCNQ(1)の単分子膜2層からなるアクセプタ性分子膜14を作製した。
【0041】
【化1】


【0042】続いて、感光性分子として下記に示す銅フタロシアニン誘導体(2)をクロロホルムに溶解して0.2mg/mlのLB膜展開溶液を調製した後、水面上に展開した。この分子は表面圧13dyn/cmで固体凝縮膜になった。次いで、前記と同様な方法により、アクセプタ性分子膜14の上に銅フタロシアニン誘導体(2)の2層膜からなる感光性分子膜15を作製した。
【0043】
【化2】


【0044】次いで、ドナー性分子としてパラフェニレンジアミン誘導体(3)をトルエンに溶解して0.5mg/mlのLB膜展開溶液を調製した後、水面上に展開した。この分子は表面圧25dyn/cmで固体凝縮膜になった。次いで、前記と同様な方法により、感光性分子膜15の上にパラフェニレンジアミン誘導体(3)の2層膜からなるドナー性分子膜16を作製した。
【0045】
【化3】


【0046】更に、絶縁性分子として実施例1で得られたポリマーを用い、実施例1と同様の方法によりドナー性分子膜16の上にこのポリマーの30層膜からなる絶縁性分子膜17を作製した。得られた超格子膜を窒素気流下で一晩乾燥した後、真空蒸着装置に設置し、3×10-6torrの真空下で厚さ約50nmのAl電極18を蒸着した。
【0047】このようにして作製された光記憶素子の動作原理を、図7に示す各構成膜のエネルギー準位に基づいて簡単に説明する。光照射により感光性分子の電子は励起され、電子はアクセプタ性分子のLUMOへ、正孔はドナー性分子のHOMOへと遷移する。電荷分離が保たれた状態とそうでない状態とで比較すると、前者の場合には内部電界が存在するため、光照射過渡電流が小さい。したがって、過渡電流の大きさを測定すれば、電荷分離状態を検出できる。
【0048】具体的には、本実施例の光記憶素子に、ネサ電極12側を正としてバイアス電圧を印加しながら、ガラス基板1側からHe−Neレーザ光パルス(波長633nm、5mW/cm2 、パルス幅10msec、スポット径1mm)を照射し、書き込みを行った。感光性分子(2)は波長633nmに強い吸収を持つが、アクセプタ性分子(1)、ドナー性分子(3)は吸収を持たない。室温下、暗所で一定時間放置した後、弱いレーザ光パルス(0.5mW/cm2 )を照射し、過渡電流ピーク値(A)を測定した。ここで、電荷分離をしていない場合のピーク値をA0 とする。
【0049】図8にA=A0 となる時間、すなわち記憶が完全に失われるまでに要する時間とバイアス電圧との関係を示す。このように電圧により記憶の保持時間を制御できる可塑性光記憶素子が得られた。
【0050】比較のために、絶縁性分子膜として実施例1で得られたポリマーの代わりに下記(4)に示す繰り返し単位を有するポリイソブチルメタクリレート(比誘電率3)を用い、展開溶媒としてクロロホルムを用いることを除いては、前記と同様にして有機光記憶素子を作製した。この素子では、記憶の保持に必要な電圧が実施例1で得られたポリマーを用いた場合に比較して0.5V程度高く、より高い駆動電圧が必要であることがわかった。
【0051】
【化4】


実施例8(EL素子)
【0052】実施例2で得られたポリマー及びその原料ポリマーを無機蛍光体粉末のバインダーとして用い、常法により分散型ELパネルを作製した。この場合、溶媒キャスト法により薄膜を作製した。
【0053】これらのパネルを相対湿度50%の大気中で連続点灯したところ、実施例2で得られたポリマーを用いた方が、原料ポリマーを用いたものよりも寿命が2割延び、湿度に対してより安定であることがわかった。
【0054】
【発明の効果】以上詳述したように本発明の有機薄膜素子は、LB法で均一に成膜でき、吸湿性が低く、高い誘電率を有するポリマーを用いているので、駆動電圧を低減でき優れた特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるシアノエチル化トリメチルシリル化ポリマーのプロトンNMRスペクトルを示す特性図。
【図2】実施例1における原料ポリマーCR−CのプロトンNMRスペクトルを示す特性図。
【図3】実施例1におけるシアノエチル化トリメチルシリル化ポリマーの表面圧と分子占有面積との関係を示す特性図。
【図4】実施例1における原料ポリマーCR−Cの表面圧と分子占有面積との関係を示す特性図。
【図5】実施例6における液晶素子の断面図。
【図6】実施例7における有機光記憶素子の断面図。
【図7】実施例7における有機光記憶素子の動作原理を各構成膜のエネルギー準位に基づいて説明する特性図。
【図8】実施例7における有機光記憶素子の記憶が完全に失われるまでに要する時間とバイアス電圧との関係を示す特性図。
【符号の説明】
1…ガラス基板、2…透明電極、3…液晶配向膜、4…シール剤、5…液晶層、11…ガラス基板、12…透明電極、13…SiO2 膜、14…アクセプタ性分子膜、15…感光性分子膜、16…ドナー性分子膜、17…絶縁性分子膜、18…Al電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 繰り返し単位に水酸基を含むポリマーの水酸基をシアノエチル化して調製されたシアノエチル化率が60〜95%であるポリマーを用意し、前記ポリマーの残存水酸基が3%以下となるように疎水化して高誘電性ポリマーを調製し、前記高誘電性ポリマーをラングミュア・ブロジェット法により成膜することを特徴とする絶縁層の製造方法。
【請求項2】 繰り返し単位に水酸基を含むポリマーの水酸基をシアノエチル化して調製されたシアノエチル化率が60〜95%であるポリマーから、前記ポリマーの残存水酸基が3%以下となるように疎水化することにより調製された高誘電性ポリマーを用い、ラングミュア・ブロジェット法により成膜されたことを特徴とする絶縁層。
【請求項3】 一対の電極間に絶縁層を有する有機薄膜素子において、前記絶縁層として請求項2記載の絶縁層を用いたことを特徴とする有機薄膜素子。
【請求項4】 一対の電極間に誘電体薄膜を有する薄膜コンデンサにおいて、前記誘電体薄膜として請求項2記載の絶縁層を用いたことを特徴とする薄膜コンデンサ。
【請求項5】 それぞれ電極および液晶配向膜が形成された2対の基板間に液晶層を形成した液晶素子において、前記液晶配向膜として請求項2記載の絶縁層を用いたことを特徴とする液晶素子。
【請求項6】 基板上に、透明電極、絶縁層、アクセプタ性分子膜、感光性分子膜、ドナー性分子膜、絶縁性分子膜および電極を形成した有機光記憶素子において、前記絶縁性分子膜として請求項2記載の絶縁層を用いたことを特徴とする有機光記憶素子。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3228953号(P3228953)
【登録日】平成13年9月7日(2001.9.7)
【発行日】平成13年11月12日(2001.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−88874
【出願日】平成3年4月19日(1991.4.19)
【公開番号】特開平4−320382
【公開日】平成4年11月11日(1992.11.11)
【審査請求日】平成10年2月26日(1998.2.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)