説明

絶縁層付電極板の補修装置及び電池の製造方法

【課題】電極板と絶縁層とが一体化した絶縁層付電極板から、電極体を作成する際の歩留まりを向上させることができる絶縁層付電極板の補修装置を提供すること。
【解決手段】絶縁層付電極板の補修装置は、絶縁層形成部100と、塗布欠点検出部200と、加熱補修部300とを備える。絶縁層形成部100は、ポリオレフィンの塗工液TOを負極板40の上に塗布して絶縁層付負極板30を作成するものであり、グラビア塗工装置110を有する。塗布欠点検出部200は、絶縁層付負極板30の絶縁層ZEに生じた塗布欠点TKを検出するものであり、CCDカメラ220を有する。加熱補修部300は、検出された塗布欠点TKの位置に基づいて塗布欠点TKの周りを溶融させるものであり、CO2レーザを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極板の上に絶縁層が形成された絶縁層付電極板の補修装置、及び電池の製造方法に関し、特に、絶縁層に生じた塗布欠点を補修する絶縁層付電極板の補修装置、及び電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両等、多岐にわたる分野で利用されている。この二次電池には、例えばリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池では、エネルギー密度が高く、メモリ効果がない。従って、各種の機器に搭載する上で好適である。
【0003】
ここで、従来のリチウムイオン二次電池は、正極板と負極板との間にフィルム状のセパレータを介在させて積層又は捲回した電極体を備えていることが多い。これらの正極板及び負極板(以下、「電極板」と呼ぶ)は、それぞれ正極芯材及び負極芯材(以下、「電極芯材」と呼ぶ)に正極用ペースト及び負極用ペースト(以下、「ペースト」と呼ぶ)を塗布して乾燥させることで作成される。乾燥された塗工層(以下、「合材層」と呼ぶ)は、それぞれ正極活物質及び負極活物質を含む層である。
【0004】
しかし、電極芯材にペーストを塗布する際に、塗工ムラが生じることがある。この塗工ムラは、ポンプの圧力やペーストの粘度等の様々な条件にばらつきがあるため生じる。この塗工ムラにより、合材層間のピッチや相対位置のずれ、非塗工部の幅のばらつきといった不具合を生じることがある。これは、電池性能のばらつきや電池性能そのものの低下の原因となる。
【0005】
このため、合材層の良否判定を行う検査技術が開発されてきている。例えば、下記特許文献1には、合材層の位置情報を測定して、合材層の塗工の良否を判定する検査装置が開示されている(下記特許文献1の段落0009及び図2等参照)。この検査装置では、センサにより検出される電極板の移送速度を管理するとともに、間欠塗工ピッチ、非塗工部の幅、表裏面の相対位置のずれを算出して、これらの値が許容範囲内であるか否かを判別することとしている(下記特許文献1の段落0028参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−323886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1では、合材層の塗工の良否を判定するだけであり、不良部分があると判断された電極板は、数mに渡って廃棄されることがある。このため、電極体を作成する際の歩留まりが悪い。従って、電極体(電池)を安価に作成できることが望まれている。
【0008】
ところで、本出願人は、電極体を作成する際、正極板と負極板との間にフィルム状のセパレータを介在させる替わりに、ポリオレフィン粒子の塗工液を電極板の上に塗布して絶縁層付電極板を作成することを提案している。例えば、図16に示したような絶縁層付電極板ZF(絶縁層付負極板ZF)では、ポリオレフィン粒子の塗工液が乾燥して形成された絶縁層ZZが、負極板FBの両面(負極合材層FGの表面)に接合されている。なお、負極板FBは、負極芯材FSの両面に負極合材層FGが形成されたものである。このような絶縁層付電極板を作成するのは、以下の理由に基づく。
【0009】
フィルム状のセパレータを用いる場合には、イオンが透過する穴を形成するために延伸させる必要がある。そして、引っ張られたフィルム状のセパレータでは、熱が作用すると収縮して寸法が変わり、正極板と負極板との間で短絡するおそれがあった。これに対して、絶縁層付電極板は、粒子状のセパレータと電極板とが一体化したものである。この絶縁層付電極板を用いる場合、延伸されるフィルム状のセパレータを用いる必要がなく、非常に簡単に捲回又は積層することができるとともに、熱収縮に基づく短絡の問題がないというメリットがある。
【0010】
しかしながら、上述したような絶縁層付電極板を用いる場合、以下の問題点があった。即ち、ポリオレフィン粒子の塗工液を電極板の上に塗布した後、絶縁層に約100μm程度の穴である塗布欠点(図6参照)が生じる場合があった。この塗布欠点は、塗工液の粒子状の塊である凝集物が部分的に形成されること(液由来)によって生じる。また、電極板(合材層)の表面は完全なフラットではなくて凹凸を有し、塗工液を電極板の表面に的確に塗布できないこと(基材由来)によっても生じる。このような塗布欠点が生じていると、電気絶縁性が確保されずに短絡することになり、電池の品質が維持できなくなる。
【0011】
このため、従来においては、塗布欠点を画像で検出し、塗布欠点が生じている絶縁層付電極板の端部にインクジェットマーカーでマーキングしている。その後、絶縁層付電極板を捲回して電極体を作成し、マーキング箇所が画像で検出された場合には、電極体を1セル分廃棄することにしていた。こうして、絶縁層の一部分に塗布欠点が生じると、絶縁層付電極板のうち塗布欠点が生じていないその他の良品部分も廃棄することになり、絶縁層付電極板から電極体を作成する際の歩留まりが悪かった。
【0012】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、絶縁層付電極板から電極体を作成する際の歩留まりを向上させることができる絶縁層付電極板の補修装置、及び電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の第一態様における絶縁層付電極板の補修装置は、ポリオレフィン粒子の塗工液を電極板の上に塗布して絶縁層付電極板を作成する絶縁層形成部と、前記絶縁層付電極板の絶縁層に生じた塗布欠点を検出する塗布欠点検出部と、前記検出された塗布欠点の位置に基づいて前記塗布欠点の周りを溶融させる加熱補修部と、を備えることを特徴とする。ここで、ポリオレフィン粒子とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの誘導体から成る粒子を含むものである。
【0014】
(2)また、本発明の上記態様における絶縁層付電極板の補修装置において、前記加熱補修部は、レーザ装置を用いて前記塗布欠点の周りを溶融させることが好ましい。
【0015】
(3)また、本発明の上記態様における絶縁層付電極板の補修装置において、前記レーザ装置は、CO2レーザであることが好ましい。
【0016】
(4)また、本発明の上記態様における絶縁層付電極板の補修装置において、前記加熱部より下流の位置に、前記塗布欠点において補修されていない未補修部分の有無を検出する未補修検出部を備えることが好ましい。
【0017】
(5)本発明の第二態様における電池の製造方法は、活物質を含むペーストを電極芯材の上に塗布して正極板又は負極板の一方である電極板を作成する電極板作成工程と、ポリオレフィン粒子の塗工液を前記電極板の上に塗布して絶縁層付電極板を作成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層付電極板の絶縁層に生じた塗布欠点を検出する塗布欠点検出工程と、前記検出された塗布欠点の位置に基づいて前記塗布欠点の周りを溶融させて前記絶縁層付電極板を補修する塗布欠点補修工程と、前記補修された絶縁層付電極板と正極板又は負極板の他方を積層又は捲回して電極体を作成する電極体作成工程と、を備えることを特徴とする。ここで、ポリオレフィン粒子とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの誘導体から成る粒子を含むものである。
【0018】
(6)また、本発明の上記態様における電池の製造方法において、前記塗布欠点補修工程では、レーザ装置を用いて前記塗布欠点の周りを溶融させることが好ましい。
【0019】
(7)また、本発明の上記態様における電池の製造方法において、前記レーザ装置は、CO2レーザであることが好ましい。
【0020】
(8)また、本発明の上記態様における電池の製造方法において、前記塗布欠点補修工程と前記電極体作成工程との間に、前記塗布欠点において補修されていない未補修部分の有無を検出する未補修検出工程を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明における絶縁層付電極板の補修装置の作用効果について説明する。
上記した構成(1)では、加熱補修部が、絶縁層に生じた塗布欠点の位置に基づいて、塗布欠点の周りを溶融させる。これにより、塗布欠点を塞いで電気絶縁性を確保でき、絶縁層付電極板を補修することができる。従って、絶縁層に塗布欠点が生じたとき、絶縁層付電極板のうち塗布欠点が生じていないその他の良品部分を廃棄する必要がなくて、絶縁層付電極板から電極体を作成する際の歩留まりを向上させることができる。
【0022】
また、上記した構成(2)では、レーザ装置を用いることで、加熱対象である塗布欠点の周りを非接触で溶融させることができるため、絶縁層の表面でポリオレフィン粒子が剥離することがない。また、レーザ光はスポット径が小さく熱の拡散を抑えることができるため、溶融長さを短くすることができる。これにより、補修箇所を小さくすることができて、電池特性に生じる悪影響を極めて小さくすることができる。更に、レーザ光を高速且つ高精度で広範囲に走査できるため、絶縁層付電極板の搬送速度が大きくても、塗布欠点の周りを素早く且つ的確に溶融させることができる。
【0023】
また、上記した構成(3)では、CO2レーザを用いることで、レーザ光の波長が絶縁層のポリオレフィン粒子を溶かし易い波長になる。このため、塗布欠点の周りをより素早く加熱して確実に溶融させることができる。
【0024】
また、上記した構成(4)では、補修されていない未補修部分を検出することで、補修できなかった絶縁層付電極板に対して再び補修処理を行う又は廃棄する等、その後の処理を行うことができる。これにより、電池の品質をより確実に保証することができる。
【0025】
本発明における電池の製造方法の作用効果について説明する。
上記した製造方法(5)では、絶縁層付電極板を用いて電極体を作成するため、延伸されるフィルム状のセパレータを用いる必要がなくて、非常に簡単に捲回又は積層することができるとともに、熱収縮に基づく短絡の問題がない。更に、塗布欠点補修工程では、検出された塗布欠点の位置に基づいて塗布欠点の周りを溶融させる。これにより、塗布欠点を塞いで電気絶縁性を確保することができ、絶縁層付電極板を補修することができる。従って、絶縁層に塗布欠点が生じたとき、絶縁層付電極板のうち塗布欠点が生じていないその他の良品部分を廃棄する必要がなくて、絶縁層付電極板から電極体を作成する際の歩留まりを向上させることができる。この結果、電極体(電池)を安価に作成することができる。
【0026】
また、上記した製造方法(6)では、レーザ装置を用いることで、加熱対象である塗布欠点の周りを非接触で溶融させることができるため、絶縁層の表面でポリオレフィン粒子が剥離することがない。また、レーザ光はスポット径が小さく熱の拡散を抑えることができるため、溶融長さを短くすることができる。これにより、補修箇所を小さくすることができて、電池特性に生じる悪影響を極めて小さくすることができる。更に、レーザ光を高速且つ高精度で広範囲に走査できるため、絶縁層付電極板の搬送速度が大きくても、塗布欠点の周りを素早く且つ的確に溶融させることができる。
【0027】
また、上記した製造方法(7)では、CO2レーザを用いることで、レーザ光の波長が絶縁層のポリオレフィン粒子を溶かし易い波長になる。このため、塗布欠点の周りをより素早く加熱して確実に溶融させることができる。
【0028】
また、上記した製造方法(8)では、補修されていない未補修部分を検出することで、補修できなかった絶縁性付電極板に対して再び補修処理を行う又は廃棄する等、その後の処理を行うことができる。これにより、電池の品質をより確実に保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係るバッテリパックの構成を説明するための概略的な斜視図である。
【図2】図1のX−Xに沿った断面図である。
【図3】図2に示した捲回電極体の概略的な斜視図である。
【図4】図3に示した捲回電極体のうち正極板を展開した斜視図である。
【図5】図3に示した捲回電極体のうち絶縁層付負極板を展開した斜視図である。
【図6】(A)絶縁層に塗布欠点が生じている場合の絶縁層付負極板の模式的な断面図である。(B)絶縁層に塗布欠点が生じている場合の絶縁層付負極板の模式的な平面図である。
【図7】グラビア塗工装置の構成を示した概略図である。
【図8】塗布されたポリエチレン粒子の塗工液が乾燥される状態を示した図である。
【図9】塗布欠点検出部と加熱補修部を説明するための概略的な構成図である。
【図10】CO2レーザによって塗布欠点を補修する状態を示した図である。
【図11】(A)補修箇所を有する絶縁層付負極板の模式的な断面図である。(B)補修箇所を有する絶縁層付負極板の模式的な平面図である。
【図12】走査型顕微鏡を用いて塗布欠点を観察したときの図である。
【図13】走査型顕微鏡を用いて補修箇所を観察したときの図である。
【図14】本実施形態と熱風を用いた場合と熱ロールを用いた場合との比較において、溶融方法、処理条件、トラバース機構の有無、絶縁層の剥離の有無、溶融長さ、絶縁層付負極板の最大搬送速度を示した表である。
【図15】実施例の電池と比較例1の電池と比較例2の電池において、実験結果を示した表である。
【図16】絶縁層付電極板の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
1.電池の構造
1−1.バッテリパック
本発明に係る絶縁層付電極板の補修装置、及び電池の製造方法について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態に係るバッテリパックBPの構成を説明するための概略的な斜視図である。バッテリパックBPは、図1に示したように、バッテリ(バッテリセル)1を直列に接続した組電池である。バッテリパックBPでは、バッテリ1の正極端子と、そのバッテリ1に隣り合うバッテリ1の負極端子とが、バスバーBUを介して締結されている。この締結は、ボルトとナットによりなされている。ここで、図2は、図1に示したX−X線に沿った断面図である。
【0031】
1−2.バッテリセル
バッテリ1は、リチウムイオン二次電池であり、図2に示したように、電池容器2の中に捲回電極体10を備えるものである。電池容器2は、電池容器本体3と、封口板4とを有する。封口板4は、電池容器本体3の開口部を塞ぐものであり、電池容器本体3の上側縁部に接合されている。
【0032】
電池容器2の内部には、電解液が注入されている。この電解液は、有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,1−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の非水系溶媒又はこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。
【0033】
また、電解質である塩として、過塩素酸リチウム(LiClO4)やホウフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、六フッ化砒酸リチウム(LiAsF6)、LiCF3SO3、LiC49SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiIなどのリチウム塩を用いることができる。
【0034】
また、バッテリ1は、図2に示したように、正極端子5と、負極端子6と、正極絶縁部材7と、負極絶縁部材8とを有している。正極絶縁部材7は、正極端子5と封口板4とを絶縁するための部材である。負極絶縁部材8は、負極端子6と封口板4とを絶縁するための部材である。封口板4には、電解液を内部に注入するための注液孔4aが設けられていて、注入孔4aには、蓋体9が取付けられている。蓋体9は、封口板4の外側から封口板4にシーム溶接されている。
【0035】
1−3.電極体の構造
図3は、図2に示した捲回電極体10の概略的な斜視図である。捲回電極体10は、図3に示したように、扁平形状をしている。捲回電極体10の一方の端部には、正極端部11が突出している。正極端部11は、後述するように、正極板20(図4参照)の正極芯材21が突出している箇所である。また、捲回電極体10の他方の端部には、負極端部12が突出している。負極端部12は、後述するように、絶縁層付負極板30(図5参照)の負極芯材41が突出している箇所である。この捲回電極体10は、正極板20と絶縁層付負極板30を順に積み重ねた状態で捲回したものである。
【0036】
1−4.正極板の構造
図4は、図3に示した捲回電極体10のうち正極板20を展開した斜視図である。正極板20は、アルミ箔である正極芯材21にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む正極用ペーストを塗布したものである。この正極板20は、図4に示したように、帯状の正極芯材21と、この正極芯材21の両面の一部に形成された正極合材層22とを有する。正極芯材21のうち図4の右側には、正極合材層22が形成されておらず、正極芯材21が突出した状態になっている。
【0037】
正極合材層22は、正極芯材21に塗布された正極用ペーストが乾燥して形成された層である。正極用ペーストは、正極活物質の他に、導電材、結着材、増粘材を含むものである。正極活物質として、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNi1/3Co1/3Mn1/32等のリチウム複合酸化物等が用いられる。
【0038】
正極用の導電材として、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、グラファイト粉末等のカーボン粉末である。
【0039】
正極用の結着材は、電解液に不溶性(又は難溶性)であって、正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであると良い。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴムを用いることができる。又は、これらの組み合わせを用いても良い。但し、結着材は、必ずしも上記のポリマーに限定されるものではない。
【0040】
正極用の増粘材として、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースを用いることができる。但し、増粘材は、必ずしも上記したセルロースに限定されるものではない。正極用の溶媒として、水が挙げられる。その他に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いても良い。また、その他の低級アルコールや低級ケトンを用いても良い。
【0041】
1−5.絶縁層付負極板の構造
図5は、図3に示した捲回電極体10のうち絶縁層付負極板30を展開した斜視図である。この絶縁層付負極板30は、負極板40の両面に塗工液を塗布して絶縁層ZEが形成されたものである。即ち、絶縁層付負極板30は、負極板40と絶縁層ZEとが一体化したものである。ここで、絶縁層ZEの構成を説明する前に、負極板40の構成を説明する。
【0042】
負極板40は、銅箔である負極芯材41にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む負極用ペーストを塗布したものである。この負極板40は、図5に示したように、帯状の負極芯材41と、この負極芯材41の両面の一部に形成された負極合材層42とを有する。負極芯材41のうち図5の左側には、負極合材層42が形成されておらず、負極芯材41が突出した状態になっている。
【0043】
負極合材層42は、負極芯材41に塗布された負極用ペーストが乾燥して形成された層である。負極用ペーストは、負極活物質の他に、結着材、増粘材を含むものである。負極活物質として、少なくとも一部にグラファイト構造を含む炭素系物質が用いられる。例えば、非晶質炭素、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、天然黒鉛、人造黒鉛、又はこれらを組み合わせた構造を有する炭素系物質を用いることができる。負極用の結着材、増粘材、溶媒として、上記した正極用の結着材、増粘材、溶媒として示したものを用いることができる。
【0044】
絶縁層ZEは、正極板20と負極板40との間を電気的に絶縁状態にするためのものである。図5の上側の絶縁層ZEは、図5の上側の負極合材層42の上面42a全体と、負極合材層42から突出している負極芯材41の上面41aとを覆うように形成されている。これは、図5の上側の負極合材層42が露出しないようにするためである。また、図5の下側の絶縁層ZEは、図5の下側の負極合材層42の下面42b全体と、負極合材層42から突出している負極芯材41の下面41bとを覆うように形成されている。これは、図5の下側の負極合材層42が露出しないようにするためである。
【0045】
これらの絶縁層ZEは、ポリオレフィン粒子の塗工液が塗布されて乾燥した樹脂層である。ポリオレフィン粒子の塗工液は、例えばポリエチレン粒子が水に分散した懸濁液(三井化学株式会社の商品名「ケミパール」)と、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを混合したものである。なお、ポリオレフィン粒子として、ポリエチレン粒子に替えてポリプロピレン粒子を用いても良い。また、ポリエチレン、ポリプロピレンの誘導体から成る粒子であっても良く、適宜変更可能である。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等から成る粒子であっても良い。
【0046】
ここで、図6(A)は、絶縁層ZEに塗布欠点TKが生じている場合の絶縁層付負極板30の模式的な断面図であり、図6(B)は、絶縁層ZEに塗布欠点TKが生じている場合の絶縁層付負極板30の模式的な平面図である。絶縁層ZEには、図6(A)(B)に示したように、平面方向の最大長さL1が約100μm前後(20μm〜200μm程度)の穴である塗布欠点TKが生じる場合がある。この塗布欠点TKは、ポリエチレン粒子が粒子状の塊である凝集物になって、塗工ムラによって生じたものである。なお、塗布欠点TKは、負極板40(負極合材層42)の表面が完全なフラットではなくて凹凸を有し、塗工液を負極板40の表面に的確に塗布できないことによって、生じる場合もある。このような塗布欠点TKが生じていると、電気絶縁性が確保されずに短絡することになり、バッテリ1(捲回電極体10)の品質が維持できなくなる。そこで、本実施形態では、塗布欠点TKが生じた場合に、絶縁層付負極板30を補修する点に特徴がある。
【0047】
2.絶縁層付電極板の補修装置
本実施形態に係る絶縁層付電極板の補修装置は、絶縁層形成部100(図7及び図8参照)と、塗布欠点検出部200(図9参照)と、加熱補修部300(図9及び図10参照)とを備えている。
【0048】
先ず、絶縁層形成部100について説明する。絶縁層形成部100は、絶縁層付負極板30を作成するためのものであり、グラビア塗工装置110と乾燥炉120とを有する。ここで、図7は、グラビア塗工装置110の構成を示した概略図であり、図8は、塗布されたポリエチレン粒子(ポリオレフィン粒子)の塗工液TOが乾燥される状態を示した図である。
【0049】
グラビア塗工装置110は、図7に示したように、ポリエチレン粒子の塗工液TO(以下、単に「塗工液TO」と呼ぶ)を負極板40の上に塗布するものである。このグラビア塗工装置110は、グラビアロール111、ドクターブレード112、塗工液容器113、ポンプ114、フィルタ115等を有している。塗工液容器113には、塗工液TOが収容されている。図7は、塗工動作中の状態を示すものであり、被塗工材である負極板40は、2つのニアロール116の回転によって送り出されている。そして、負極板40は、2つのニアロール116の間の位置で、グラビアロール111の表面に押し付けられている。なお、塗工動作中には、塗工液TOは、ポンプ114によって送り出され、塗工液容器113内に適宜補充されている。その経路上には、塗工液TOから不純物を除くフィルタ115が配置されている。
【0050】
乾燥炉120は、図8に示したように、塗布された塗工液TOを乾燥させるものであり、グラビア塗工装置110より下流の位置に配置されている。乾燥炉120には、熱風を噴き付ける熱風ノズルが設けられている。熱風ノズルは、一定速度で搬送される負極板40に向けて熱風を噴出する。これにより、負極板40の上に塗布された塗工液TOは、熱風ノズルから噴き付けられる熱風と、炉内の雰囲気とによって乾燥される。こうして、絶縁層ZEが形成され、絶縁層付負極板30が作成される。ここで、図8には、乾燥炉120より下流の位置で、絶縁層ZEに生じた二個の塗布欠点TKが誇張して示されている。
【0051】
次に、塗布欠点検出部200について説明する。塗布欠点検出部200は、絶縁層付負極板30の絶縁層ZEに生じた塗布欠点TKを検出するためのものであり、図9に示したように、照明装置210とCCDカメラ220とを有する。図9は、塗布欠点検出部200と後述する加熱補修部300を説明するための概略的な構成図である。
【0052】
照明装置210は、絶縁層付負極板30の絶縁層ZEに向けて光を発するものである。ここで、乾燥炉120から送り込まれた絶縁層付負極板30は、ローラ230で支持された状態で、図9の矢印で示した方向に搬送される。そして、照明装置210から発せられた光は、随時搬送される絶縁層付負極板30の絶縁層ZEに対して乱反射して、CCDカメラ220の受光素子に送り込まれるようになっている。
【0053】
CCDカメラ220は、絶縁層ZEに塗布欠点TKが生じているか否かを検出するためのものであり、上述した乾燥炉120より下流の位置に配置されている。このCCDカメラ220は、絶縁層ZEを反射して送り込まれた光の光量に基づいて、絶縁層ZEの各位置の輝度値を検出するようになっている。検出された輝度値は、後述する制御装置310に入力される。なお、CCDカメラ220の設置台数は、適宜変更可能であり、例えばCCDカメラ220の分解能が高ければ1台設置すれば良く、CCDカメラ220の分解能が低ければ複数台設置すれば良い。
【0054】
続いて、加熱補修部300について説明する。加熱補修部300は、検出された塗布欠点TKの位置に基づいて、塗布欠点TKの周りを溶融させるものであり、図9に示したように、制御装置310とCO2レーザ320とを有する。
【0055】
制御装置310は、検出された絶縁層ZEの各位置の輝度値に基づいて、塗布欠点TKの位置及び範囲を特定するものである。ところで、図6(A)(B)に示した負極合材層42は黒く、図6(A)(B)に示した絶縁層ZEは白くなっている。このため、絶縁層ZEのうち、塗布欠点TKが生じている箇所は、黒色又は黒色に近い灰色になっている。即ち、塗布欠点TKが生じている箇所の輝度値は、塗布欠点が生じていない箇所の輝度値に比べて低い。こうして、制御装置310は、絶縁層ZEの各位置の輝度値が予め設定された基準値より低い場合に、塗布欠点TKの位置及び範囲を特定し、CO2レーザ320にレーザ光を照射するための駆動信号を出力するようになっている。
【0056】
CO2レーザ320は、塗布欠点TKの周りを加熱して溶融させるものであり、CCDカメラ220より下流の位置に配置されている。CO2レーザ320は、レーザ光源(図示省略)からのレーザ光を複数のハーフミラー(図示省略)を用いて分岐させて、分岐させた複数のレーザ光を揺動ミラー(図示省略)を用いて一点に収束させるようになっている。このCO2レーザ320では、ガルバノスキャナ制御によって、レーザ光を高速且つ高精度で広範囲に走査できる。このため、CO2レーザ320は、制御装置310から入力される駆動信号に基づいて、図10に示したように、搬送される絶縁層付負極板30の絶縁層ZEに生じた塗布欠点TKの周りを確実に加熱して溶融できるようになっている。図10は、CO2レーザ320によって塗布欠点TKを補修する状態を示した図である。このCO2レーザ320のレーザ光の波長は、絶縁層ZEのポリエチレン粒子がレーザ光を吸収し易い波長である10.9μmに設定されている。なお、CO2レーザ320のレーザ光の波長帯は、一般的に約9〜11μmである。
【0057】
図10では、CO2レーザ320の右側に、仮想線で補修前の塗布欠点TKが示されていて、CO2レーザ320の左側に、補修後の塗布欠点TKが示されている。塗布欠点TKの周りは、CO2レーザ320によって加熱されて溶融し、図10に示したように、補修箇所HOになる。なお、図10では、塗布欠点TK及び補修箇所HOの大きさが誇張されて示されている。図11(A)は、補修箇所HOを有する絶縁層付負極板30の模式的な断面図であり、図11(B)は、補修箇所HOを有する絶縁層付負極板30の模式的な平面図である。図11(A)(B)に示したように、補修箇所HOでは、塗布欠点TKの開口部分が埋まっていて、電気絶縁性が確保できるようになっている。補修箇所HOの大きさは、塗布欠点TKの大きさより僅かに大きく、補修箇所HOの平面方向の長さL2は約200μm前後である。ここで、図12は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて塗布欠点TKを観察したときの図であり、図13は、走査型電子顕微鏡を用いて補修箇所HOを観察したときの図である。
【0058】
3.電池の製造方法
ここで、本実施形態に係る電池の製造方法について説明する。本実施形態の電池の製造方法は、電極板作成工程と、絶縁層形成工程と、塗布欠点検出工程と、塗布欠点補修工程と、電極体作成工程と、電池組立工程とを備える方法である。
【0059】
3−1.電極板作成工程
先ず、正極芯材21であるアルミニウム箔に正極用ペーストを塗工して乾燥させ、正極芯材21の両面の一部に正極合材層22を形成する。こうして、図4に示したような正極板20を作成する。また、負極芯材41である銅箔に負極用ペーストを塗工して乾燥させ、負極芯材41の両面の一部に負極合材層42を形成する。こうして、負極板40(図5参照)を作成する。
【0060】
3−2.絶縁層形成工程
続いて、作成された負極板40に対しては、図7に示したように、グラビア塗工装置110を用いて両面上にポリオレフィン粒子の塗工液TOを塗布する。その後、図8に示したように、負極板40を乾燥炉120を用いて乾燥させて、絶縁層ZEを形成する。こうして、図5に示したような絶縁層ZEと負極板40とが一体化した絶縁層付負極板30を作成する。ここで、以下の工程では、絶縁層ZEに塗布欠点TKが生じた場合について説明する。なお、図5に示した絶縁層付負極板30は、図8に示した絶縁層ZEが形成された負極板30を幅方向(図8の上下方向)で二等分に切断したものである。
【0061】
3−3.塗布欠点検出工程
次に、図9に示したように、照明装置210及びCCDカメラ220を用いて、搬送される絶縁層付負極板30の絶縁層ZEに生じた塗布欠点TKを検出する。具体的に、CCDカメラ220は、絶縁層ZEの各位置の輝度値を検出し、制御装置310に出力する。
【0062】
3−4.塗布欠点補修工程
続いて、制御装置310は塗布欠点TKの位置及び範囲を特定し、CO2レーザ320にレーザ光を照射するための駆動信号を出力する。これにより、CO2レーザ320は、図10に示したように、塗布欠点TKの周りを加熱して溶融させ、補修箇所HOを形成する。こうして、塗布欠点TKの開口部分を埋めることによって、絶縁層付負極板30が補修される。
【0063】
3−5.電極体作成工程
その後、正極板20と補修した絶縁層付負極板30とを交互に重ねて捲回する。これにより、正極板20、絶縁層ZE、負極板40、絶縁層ZEが順番に積層された円筒状の捲回電極体が作成される。そして、この円筒形状の捲回電極体を円筒の径方向から圧縮することで、図3に示したような扁平形状の捲回電極体10が作成される。
【0064】
3−6.電池組立工程
最後に、捲回電極体10を電池容器本体3に収容する。また、封口板4を電池容器本体3に接合する。そして、注液孔4aから電池容器本体3の内部に電解液を注入する。次に、蓋体9を封口板4に接合する。これにより、図2に示したようなバッテリ1が組立てられる。なお、電池容器2の内部に電解液を注入した後、電解液は捲回電極体10の正極合材層22及び負極合材層42に徐々に含浸していく。この電解液の含浸後に、初期充電工程や高温エージング工程等を施すと良い。また、その他の各種の検査工程を行っても良い。
【0065】
4.絶縁層付電極板の補修装置、及び電池の製造方法の作用効果
次に本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態では、CO2レーザ320が、絶縁層ZEに生じた塗布欠点TKの位置に基づいて、塗布欠点TKの周りを溶融させる。これにより、図10に示したように、塗布欠点TKを塞いで電気絶縁性を確保することができ、絶縁層付負極板30を補修することができる。従って、絶縁層ZEに塗布欠点TKが生じたとき、絶縁層付負極板30のうち塗布欠点TKが生じていないその他の良品部分を廃棄する必要がなくて、絶縁層付負極板30から捲回電極体10を作成する際の歩留まりを向上させることができる。この結果、捲回電極体10(バッテリ1)を安価に作成することができる。
【0066】
ここで、塗布欠点TKが塞がれた補修箇所HOは、電気絶縁性を確保できるが、電解液を保持できなくなる。このため、この補修箇所HOでは、リチウムイオンが移動できなくなり、電池反応に寄与しなくなる。しかし、上述したように、塗布欠点TKは、平面方向の最大長さL1(図6参照)が約100μm前後(20μm〜200μm程度)の穴であって非常に小さいものであるため、塗布欠点TKが塞がれた補修箇所HOも、非常に小さいものである。従って、補修箇所HOが電池反応に寄与しないことによって電池特性に生じる悪影響は、無視することができる。
【0067】
また、本実施形態では、CO2レーザ320が、レーザ光で塗布欠点TKの周りを加熱して溶融させるため、以下の効果を奏する。即ち、第1に、CO2レーザ320を用いることで、加熱対象である塗布欠点TKの周りを非接触で溶融させることができるため、絶縁層ZEの表面でポリエチレン粒子が剥離することがない。
【0068】
第2に、溶融長さ(塗布欠点TKの周りで溶融した箇所(補修箇所HO)の長さ)を短くすることができ、補修箇所HOを小さくすることができて、電池特性に生じる悪影響を極めて小さくすることができる。これは、レーザ光によって出力を連続的に可変させて、溶融具合を微調整できるためである。更に、レーザ光はスポット径が小さく、熱の拡散を抑えることができるためである。
【0069】
第3に、CO2レーザ320は、ガルバノスキャナ制御によって、レーザ光を高速且つ高精度で広範囲に走査できるため、応答性が極めて早い。即ち、CO2レーザ320は、装置自体を動かすことがなく揺動ミラーを動かすことによって、レーザ光の照射位置を高速且つ高精度に変えることができる。このため、絶縁層付負極板30の搬送速度が大きくても、塗布欠点TKの周囲を素早く且つ的確に溶融させることができる。
【0070】
ここで、本実施形態と、熱風を用いて塗布欠点TKの周囲を溶融させた場合と、熱ロールを用いて塗布欠点TKの周囲を溶融させた場合とについて、比較して説明する。図14は、本実施形態と熱風を用いた場合と熱ロールを用いた場合との比較において、溶融方法、処理条件、トラバース機構の有無、絶縁層の剥離の有無、溶融長さ、絶縁層付負極板の最大搬送速度を示した表である。
【0071】
図14に示したように、熱風を用いた場合には、ノズルから塗布欠点TKの周りに向けて熱風を吹き付けた。このとき、熱風の温度は300度で、風速は30m/sで、ノズルのスリット幅は3mmとした。また、熱ロールを用いた場合には、熱ロールを加熱して塗布欠点TKの周りに押し付けた。このとき、熱ロールの加熱温度は300度で、熱ロールが絶縁層ZEを押し付けるロール幅は5mmとした。
【0072】
熱風を用いる場合、ノズルを絶縁層ZEの幅方向(図10の上下方向)に移動させる機構が必要である。このため、ノズルの追従性が悪く、塗布欠点TKの周りを素早く加熱することが難しい。従って、絶縁層付負極板30の搬送速度が大きいと、的確に溶融させることができなくなる。こうして、絶縁層付負極板の最大搬送速度は、約10m/s程度になっている。なお、図14に示したトラバース機構の有無は、装置の構成部材を移動させる機構が必要か否かを意味している。また、熱風は非接触で絶縁層ZEを加熱するため、絶縁層ZEの表面でポリエチレン粒子が剥離することは無いが、溶融長さが10mm以上になり、補修箇所HOによって電池反応に寄与しない部分が大きくなる。
【0073】
一方、熱ロールを用いる場合、熱ロールを絶縁層ZEの幅方向に移動させるとともに、絶縁層ZEの平面方向に直交する方向(図10の紙面に直交する方向)に移動させる機構が必要である。このため、熱ロールの追従性が悪く、塗布欠点TKの周りを素早く加熱することが難しい。従って、絶縁層付負極板30の搬送速度が大きいと、的確に溶融させることができなくなる。こうして、絶縁層付負極板の最大搬送速度は、約2m/s程度になっている。また、熱ロールは絶縁層ZEに対して接触して加熱するため、絶縁層ZEの表面でポリエチレン粒子が剥離するおそれがある。つまり、熱ロールの表面に絶縁層ZEの溶融物が付着するおそれがある。更に、熱ロールを用いる場合、溶融長さが5mm以上になり、補修箇所HOによって電池反応に寄与しない部分が比較的大きくなる。
【0074】
これに対して、本実施形態のようにレーザ装置(CO2レーザ320)を用いる場合、上述したように、溶融処理時に絶縁層ZEの表面でポリエチレン粒子が剥離することがない。更に、レーザ光はスポット径が小さいため、溶融長さを短くすることができ、補修箇所HOによって電池特性に生じる悪影響を極めて小さくすることができる。加えて、応答性が極めて良いため、搬送速度が大きい絶縁層付負極板30に対して補修を行うことができる。
【0075】
特に、本実施形態では、CO2レーザ320を用いることで、レーザ光の波長が絶縁層ZEのポリエチレン粒子が溶け易い波長(10.9μm)になる。このため、塗布欠点TKの周りをより素早く加熱して的確に溶融させることができる。
【0076】
5.変形例
5−1.絶縁層電極板
本実施形態では、負極板40の両面に塗工液TOを塗工して絶縁層付負極板30を作成した。しかしながら、正極板20の両面に塗工液TOを塗工して絶縁層付正極板を作成しても良い。また、負極板40の片面及び正極板20の片面に塗工液TOを塗工して、絶縁層付負極板及び絶縁層付正極板を作成しても良い。
【0077】
5−2.絶縁層形成部
本実施形態では、グラビア塗工装置110を用いて負極板40の上に塗工液TOを塗布した。しかしながら、ダイ塗工装置やスプレー装置を用いて負極板40の上に塗工液TOを塗布しても良い。なお、グラビア塗工装置110を用いて転写方式によって塗工する場合には、負極板40が負極芯材41と負極合材層42とによって段差を有するものであるため、ダイ塗工装置やスプレー装置を用いる場合に比べて、均一な膜厚で塗工することができる。
【0078】
また、本実施形態では、熱風ノズルを用いて塗工液TOを乾燥させた。しかしながら、塗工液TOを乾燥させる手段は、熱風ノズルに限定されるものではなく、例えば赤外線加熱(IR)や誘導加熱(IH)であっても良い。
【0079】
5−3.塗布欠点検出部
本実施形態では、CCDカメラ220を用いて絶縁層ZEに塗布欠点TKが生じているか否かを検出した。しかしながら、塗布欠点TKが生じているか否かを検出する手段は、CCDカメラ220に限定されるものではなく、例えば量子型光検出器であっても良い。
【0080】
5−4.レーザ装置
本実施形態では、レーザ装置としてCO2レーザを用いて塗布欠点TKの周りを溶融した。しかしながら、レーザ装置はCO2レーザに限定さるものではなく、例えばYAGレーザを用いても良い。
【0081】
5−5.多段加熱補修
本実施形態では、加熱補修部300を1個だけ設けた。しかしながら、複数の加熱補修部を設けても良い。これにより、塗布欠点TKの個数が多い場合であっても、確実に補修することができるためである。また、1段目の加熱補修部で大きい塗布欠点TKを補修し、2段目の加熱補修部で小さい塗布欠点TKを補修する等、使い分けても良い。
【0082】
5−6.未補修検出部
本実施形態では、加熱補修部300が塗布欠点TKの周りを溶融させることで、補修箇所HOを形成した。これにより、ほとんどの場合には、絶縁層付負極板30を補修することができる。しかし、場合によっては、補修が好適になされないこともありうる。従って、補修が好適になされた否かを検査すると良い。そして、補修が好適になされていない場合には、再度補修しても良い。また、補修がなされていない箇所や補修が十分でない箇所を検出した場合には不良品と判断して、捲回電極体10の作成に用いないこととしても良い。
【0083】
補修が好適になされているか否かを判断するために、加熱補修部300より下流の位置に、塗布欠点検出部200と同様の構成である未補修検出部を設ける。即ち、塗布欠点補修工程より後であって且つ電極体作成工程の前に、塗布欠点TKにおいて補修されていない未補修部分の有無を検出することとする。
【0084】
5−7.電極体の形状
本実施形態では、扁平形状の捲回電極体10を作成した。しかしながら、電極体は、扁平形状の捲回電極体10に限定されるものではなく、例えば円筒形状の捲回電極体であっても良い。また、正極板20と絶縁層付負極板30とを交互に積層して捲回しない積層電極体であっても良い。
【0085】
5−8.電池
本実施形態では、リチウムイオン二次電池を製造した。しかしながら、電池はリチウム二次イオン電池に限られるものではなく、絶縁層付電極板を備える電池であれば適宜変更可能である。なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。従って、本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変更が可能である。
【実施例】
【0086】
6.実験方法
この実験は、塗布欠点が生じた場合に絶縁層付負極板を補修した電池(実施例)と、塗布欠点が生じていない電池(比較例1)と、塗布欠点が生じた場合に絶縁層付負極板を補修しない電池(比較例2)とにおいて、各電池の特性の変化を比較したものである。以下の表1に、電池の仕様を示す。
【0087】
[表1]
正極活物質 LiNi1/3Co1/3Mn1/32
負極活物質 天然黒鉛
ポリオレフィン粒子 平均粒径2.5μmのポリエチレン(PE)粒子
塗工液の組成比 PE粒子:CMC=99.7:0.3(wt%)
塗工液の塗布場所 負極板の上
絶縁層の厚さ 30μm
塗布欠点の長さ 100μm(図12参照)
加熱補修装置 CO2レーザ
【0088】
評価項目は、実施例,比較例1,比較例2の電池の電圧低下量(mV)と電池容量(Ah)である。電圧低下量は、各電池をSOC100%(4.1V)に調整して、25度の環境下で7日間放置したときの、初期電圧から7日後の電圧までの差である。電池容量は、SOC0%〜100%(3.0V〜4.1V)を1C(5.4A)で放電して算出したものである。
【0089】
実験結果を図15に示す。図15に示したように、塗布欠点を補修した実施例の電池では、電圧低下量は−24mVであり、塗布欠点が無い比較例1の電池では、電圧降下量は−25mVであった。このように、塗布欠点を補修することで、塗布欠点が無い電池のように電気絶縁性を確保できて、電圧低下を抑えることができた。これに対して、塗布欠点を補修しない比較例2の電池では、電圧降下量は−75mVであった。これは、塗布欠点において電気絶縁性を確保できずに、微短絡が生じたことを意味している。
【0090】
また、図15に示したように、実施例1の電池と比較例1の電池と比較例2の電池とでは、電池容量にほとんど差が無かった。これは、電池容量は電極板(正極板及び負極板)の反応面積に相関があり、塗布欠点(補修箇所)の面積は電極板の面積に比べて非常に小さいためである。言い換えると、電池反応に寄与しない塗布欠点(補修箇所)の面積は非常に小さいため、絶縁層付負極板の補修の有無に拘わらず、電池容量は低下しないことを意味している。
【符号の説明】
【0091】
1 バッテリ
10 捲回電極体
20 正極板
30 絶縁層付負極板
40 負極板
41 負極芯材
42 負極合材層
ZE 絶縁層
TK 塗布欠点
HO 補修箇所
100 絶縁層形成部
110 グラビア塗工装置
120 乾燥炉
200 塗布欠点検出部
210 照明装置
220 CCDカメラ
300 加熱補修部
310 制御装置
320 CO2レーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン粒子の塗工液を電極板の上に塗布して絶縁層付電極板を作成する絶縁層形成部と、
前記絶縁層付電極板の絶縁層に生じた塗布欠点を検出する塗布欠点検出部と、
前記検出された塗布欠点の位置に基づいて前記塗布欠点の周りを溶融させる加熱補修部と、を備えることを特徴とする絶縁層付電極板の補修装置。
【請求項2】
請求項1に記載された絶縁層付電極板の補修装置において、
前記加熱補修部は、レーザ装置を用いて前記塗布欠点の周りを溶融させることを特徴とする絶縁層付電極板の補修装置。
【請求項3】
請求項2に記載された絶縁層付電極板の補修装置において、
前記レーザ装置は、CO2レーザであることを特徴とする絶縁層付電極板の補修装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載された絶縁層付電極板の補修装置において、
前記加熱補修部より下流の位置に、前記塗布欠点において補修されていない未補修部分の有無を検出する未補修検出部を備えることを特徴とする絶縁層付電極板の補修装置。
【請求項5】
活物質を含むペーストを電極芯材の上に塗布して正極板又は負極板の一方である電極板を作成する電極板作成工程と、
ポリオレフィン粒子の塗工液を前記電極板の上に塗布して絶縁層付電極板を作成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層付電極板の絶縁層に生じた塗布欠点を検出する塗布欠点検出工程と、
前記検出された塗布欠点の位置に基づいて前記塗布欠点の周りを溶融させて前記絶縁層付電極板を補修する塗布欠点補修工程と、
前記補修された絶縁層付電極板と正極板又は負極板の他方を積層又は捲回して電極体を作成する電極体作成工程と、を備えることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載された電池の製造方法において、
前記塗布欠点補修工程では、レーザ装置を用いて前記塗布欠点の周りを溶融させることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された電池の製造方法において、
前記レーザ装置は、CO2レーザであることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7の何れかに記載された電池の製造方法において、
前記塗布欠点補修工程と前記電極体作成工程との間に、前記塗布欠点において補修されていない未補修部分の有無を検出する未補修検出工程を備えることを特徴とする電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−80667(P2013−80667A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221142(P2011−221142)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】