説明

絶縁層被覆電線

【課題】電気的特性と機械的特性が共に良好な、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線を提供する。
【解決手段】導線、および当該導線を被覆する、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定した際に、327℃以上335℃以下の範囲に吸熱ピークを示し、かつ335℃超380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いた絶縁層を有する被覆電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導線がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を用いた絶縁層で被覆されてなる電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信ケーブルの広帯域化の要求により、通信ケーブルの低損失化が極めて重要な技術的課題となっている。
【0003】
この為、従来より一般的に通信ケーブルとして使用されている、絶縁層で導線を被覆してなる絶縁層被覆電線においては、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、および発泡ポリスチレン等の発泡樹脂からなるフィルムで導線を被覆することが行われていた。発泡樹脂フィルム、すなわち多孔質体の樹脂フィルムは、空隙を有するため誘電率が低く、これにより絶縁層被覆電線の誘電損失を小さくできるためである。
【0004】
近年、絶縁層被覆電線の誘電損失をより小さくするために、より誘電率の低い材料であるPTFE多孔質膜を絶縁層に用いることが増加している(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−260161号公報
【特許文献2】特開2000−11764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PTFE多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線においては、その誘電損失をより小さくするためには、PTFE多孔質膜の気孔率(空隙率)がより大きいことが望ましい。しかしながら、従来用いられているPTFE多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線においては、機械的強度が小さいという問題があった。絶縁層の機械的強度が小さい場合には、張力やラップの関係で厚み方向に圧力がかかり、結果的にその気孔率が小さくなる。このため、絶縁層の気孔率が小さくなるにつれてその誘電率が上昇し、電線の電気的特性も悪化してしまう。したがって、従来用いられているPTFE多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線は、電気的特性と機械的特性の両方を十分に満足できるものではなかった。
【0007】
そこで本発明は、電気的特性と機械的特性が共に良好な、PTFE多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成した本発明は、導線、および
当該導線を被覆する、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定した際に、327℃以上335℃以下の範囲に吸熱ピークを示し、かつ335℃超380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いた絶縁層を有する被覆電線である。
【0009】
本発明においては、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定した際に、327℃以上332℃未満の範囲に吸熱ピークを示し、かつ332℃以上380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないことが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が、焼成しながら一軸延伸されたものであることが好ましい。
【0011】
本発明は、好ましくは、前記導線に、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いた絶縁層が巻回されてなる被覆電線である。ここで絶縁層が、1枚の前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜より形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気的特性と機械的特性が共に良好な、PTFE多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
PTFEは327℃に融点を示す結晶性ポリマーである。このPTFEを多孔質膜にする場合には、加熱、延伸等の操作により、熱と応力が加えられる。PTFE多孔質膜を示差走査熱量測定にかけた場合に、PTFE多孔質膜作製時の熱履歴と機械的履歴によって、吸熱ピークの位置が327℃からシフトするという現象が見られる。本発明者らが検討した結果、従来のPTFE多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線においては、そのPTFE多孔質膜は、340℃前後に吸熱ピークを有するものであることがわかった。そして、327℃以上335℃以下の範囲に吸熱ピークを示し、かつ335℃超380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を被覆電線の絶縁層に用いた場合には、電気的特性と機械的特性が共に良好な被覆電線を提供できることを見出した。
【0014】
本発明の被覆電線の導線としては、公知の導線を用いることができ、例えば、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、すずメッキ銅(合金)線、銀メッキ銅(合金)線等の金属線を用いることができる。
【0015】
本発明の被覆電線の絶縁層には、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定した際に、327℃以上335℃以下の範囲に吸熱ピークを示し、かつ335℃超380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないPTFE多孔質膜を用いる。当該PTFE多孔質膜は、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定した際に、327℃以上332℃未満の範囲に吸熱ピークを示し、かつ332℃以上380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないことが好ましく、327℃以上331℃以下の範囲に吸熱ピークを示し、かつ331℃超380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないことがより好ましい。なお、本発明においては、「ある温度範囲に吸熱ピークを示す」とは、吸熱ピークのピークトップがある温度範囲内にあることをいう。
【0016】
PTFE多孔質膜の気孔率は、特に限定されないが、誘電率の観点から60〜80%が好ましい。
【0017】
PTFE多孔質膜の引張強度は、特に限定されないが、40〜70MPaが好ましい。また、PTFE多孔質膜は、20MPaの圧力を印加して圧縮した際の変形率が40%以下であることが好ましい。
【0018】
PTFE多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、50〜200μmが好ましい。
【0019】
PTFE多孔質膜は、焼成しながら一軸延伸されたものであることが好ましい。
【0020】
上記の特徴を有するPTFE多孔質膜は、例えば、PTFEファインパウダーに液状潤滑剤を加えて混合し、この混合物を、未焼成状態でシート状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、340〜380℃で60〜80秒間焼成しながら4〜10倍の延伸倍率で一軸延伸することにより得ることができる。
【0021】
本発明の被覆電線は、例えば、導線に、上記のPTFE多孔質膜を用いた絶縁層が巻回されてなる構成とすることができる。本発明においては、絶縁層が、1枚の上記のPTFE多孔質膜より形成されていても、電気的特性と機械的特性が共に良好な被覆電線を構成することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンF−104、ダイキン工業製」)100重量部に対して、液状潤滑剤として炭化水素油(商品名「アイソパーM」、エッソ石油社製)25重量部を均一に混合した混合物を、圧力20kg/cm2で圧縮予備成形し、次にこれをロッド状に押出成形し、さらにこのロッド状物を1対の金属製圧延ロール間に通し、厚さ0.2mm、幅150mmの長尺シートを得た。次いでこの成形物を220℃に加熱して液状潤滑剤を除去した。次いでこのシートを360℃で60秒間焼成しながら5倍に縦延伸してPTFE多孔質膜を得た。
【0024】
実施例2
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンF−104、ダイキン工業製」)100重量部に対して、液状潤滑剤として炭化水素油(商品名「アイソパーM」、エッソ石油社製)25重量部を均一に混合した混合物を、圧力20kg/cm2で圧縮予備成形し、次にこれをロッド状に押出成形し、さらにこのロッド状物を1対の金属製圧延ロール間に通し、厚さ0.2mm、幅150mmの長尺シートを得た。次いでこの成形物を220℃に加熱して液状潤滑剤を除去した。次いでこのシートを360℃で80秒間焼成しながら10倍に縦延伸してPTFE多孔質膜を得た。
【0025】
比較例1
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンF−104、ダイキン工業製」)100重量部に対して、液状潤滑剤として炭化水素油(商品名「アイソパーM」、エッソ石油社製)25重量部を均一に混合した混合物を、圧力20kg/cm2で圧縮予備成形し、次にこれをロッド状に押出成形し、さらにこのロッド状物を1対の金属製圧延ロール間に通し、厚さ0.2mm、幅150mmの長尺シートを得た。次いでこの成形物を220℃に加熱して液状潤滑剤を除去した。次いでこのシートを焼成することなく10倍に縦延伸してPTFE多孔質膜を得た。
【0026】
実施例および比較例で得られたPTFE多孔質膜の特性を以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0027】
〔示差走査熱量分析〕
示差走査熱量計(DSC6200、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、50〜400℃の温度範囲において、昇温速度10℃/分、窒素導入量100mL/分でDSC曲線を測定し、吸熱ピーク温度を求めた。
【0028】
〔厚み測定〕
ダイヤルゲージを用いてPTFE多孔質膜の厚みを、1/1000mmの精度で読み取った。
【0029】
〔気孔率〕
PTFE多孔質膜の重量と厚みを求め、PTFEの比重値2.18g/cm3を用いて計算した。
【0030】
〔引張強度〕
JIS K7161に準じてオートグラフを用いて測定した。
【0031】
〔変形率〕
熱機械分析装置(BRUKER AXS製 TMA4000SA、検出棒:φ5mm、石英製)を使用し、25℃で厚み方向に1kPaの荷重をかけたときの変形率を、下記式より求めた。
変形率[%]=(1kPa荷重時の変形量[mm]/荷重を掛ける前の厚み[mm])×100
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、実施例1および2のPTFE多孔質膜は、比較例1のPTFE多孔質膜に比べ、引張強度が高く、変形率が小さい。したがって、実施例1および2のPTFE多孔質膜(絶縁層)を絶縁層に用いた場合には、気孔率の減少が起こりにくく、誘電率の上昇が抑制されている。したがって、本発明によれば、電気的特性と機械的特性が共に良好な、PTFE多孔質膜を絶縁層に用いた被覆電線が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線、および
当該導線を被覆する、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定した際に、327℃以上335℃以下の範囲に吸熱ピークを示し、かつ335℃超380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さないポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いた絶縁層を有する被覆電線。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定した際に、327℃以上332℃未満の範囲に吸熱ピークを示し、かつ332℃以上380℃以下の範囲に吸熱ピークを示さない請求項1に記載の被覆電線。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が、焼成しながら一軸延伸されたものである請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項4】
前記導線に、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いた絶縁層が巻回されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆電線。
【請求項5】
前記絶縁層が、1枚の前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜より形成されている請求項4に記載の被覆電線。

【公開番号】特開2013−101776(P2013−101776A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243718(P2011−243718)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)