説明

絶縁性フィラー

【課題】電気絶縁材料の誘電損失を小さくすると共に、加熱処理されたときに電気絶縁材料が熱膨張するのを抑制することができる絶縁性フィラーを提供する。
【解決手段】比誘電率および誘電正接の小さいポリマー粒子101と、ポリマー粒子101の表面を覆う絶縁体層102とにより形成される絶縁性フィラー100を含有して電気絶縁材料が形成されることで、絶縁性フィラー100は比誘電率および誘電正接の小さいポリマー粒子101を含んでいるため、電気絶縁材料の誘電損失を小さくすることができる。また、ポリマー粒子101を覆う絶縁体層102を形成する無機絶縁物の熱膨張率がポリマー粒子101よりも小さいため、絶縁性フィラー100が加熱されたときにポリマー粒子101の表面を覆う絶縁体層102によりポリマー粒子101の熱膨張が抑制されるため、加熱処理されたときに電気絶縁材料が熱膨張するのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気絶縁材料に含有される絶縁性フィラーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板を形成する樹脂材料、電子部品を封止するための樹脂材料、セラミック基板を形成するためのセラミック材料、基板や電子部品などを接着するための絶縁性の接着フィルムなどの電気絶縁材料には絶縁性フィラーが充填剤として含有されている。
【0003】
例えば、シリカやマイカ、ホウ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナなどの絶縁性フィラーが、ポリビニルブチラール樹脂や、エポキシ樹脂、メラニン樹脂などの接着剤材料に含有されて絶縁性の接着フィルムが形成される(例えば、特許文献1参照)。また、例えば、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、マグネシア、アルミナなどの絶縁性フィラーが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、BT樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂基材に含有されて絶縁性の樹脂フィルムや樹脂ペーストなどが形成される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−229674号公報(段落0004〜0018、表1など)
【特許文献2】特開平10−163594号公報(段落0015〜0029など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯電話などの携帯端末や携帯用音楽プレイヤーなどの携帯用電子機器が普及するのに伴い、携帯用電子機器の小型化、薄型化、高速処理化が進み、電子機器に内蔵される各種基板に形成される配線パターンの狭ピッチ化が進むと共に、電子機器の駆動周波数の高周波数化(1MHzから10GHz、またはそれ以上)が進んでいる。そのため、基板の配線パターンに寄生する微小な容量成分などの大きさが無視できなくなっており、上記した樹脂材料やセラミック材料、接着フィルムなどの電気絶縁材料の低誘電損失化が要望されている。
【0006】
そこで、例えば、誘電率および誘電正接の小さいポリマーを絶縁性フィラーとして含有する電気絶縁材料を形成することが考えられる。このようにすれば、電気絶縁材料の誘電損失を小さくすることができ、誘電損失の小さい電気絶縁材料により電子機器に内蔵される各種基板を形成することができる。ところが、この場合、絶縁性フィラーとして電気絶縁材料に含有されるポリマーの熱膨張率は、例えば金属薄膜により基板に形成される配線パターンなど、基板を形成する金属部分の熱膨張率と比較すると非常に大きい。したがって、電子機器を構成する各種電子部品が搭載される基板が形成される過程で加熱処理されたときに、熱膨張率の差に起因して基板を形成する各種電子材料間に応力が生じ、これにより、基板に反りやクラック、はがれなどが発生するおそれがある。また、基板に反りやクラック、はがれなどが生じると、基板内部への水分吸収を招来する。
【0007】
また、ポリマーと比較すると熱膨張率の小さいシリカやアルミナなどの無機絶縁物を絶縁性フィラーとして含有する電気絶縁材料を形成することも考えられる。このようにすれば、電気絶縁材料の熱膨張率を小さくすることができ、熱膨張率の小さい電気絶縁材料により各種基板を形成することができる。したがって、基板が形成過程において加熱処理されても、基板を形成する各種電子材料の熱膨張率の差に起因して基板が損傷することが抑制される。しかしながら、シリカやアルミナなどの無機絶縁物は、ポリマーと比較すると誘電率が高く、誘電損失が大きいため、携帯用の電子機器の更なる小型化、薄型化、高速処理化が阻害される。
【0008】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、電気絶縁材料の誘電損失を小さくすると共に、加熱処理されたときに電気絶縁材料が熱膨張するのを抑制することができる絶縁性フィラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の絶縁性フィラーは、電気絶縁材料に含有される絶縁性フィラーであって、1MHzから10GHzの周波数のいすれかの周波数において比誘電率が1.5以上4以下であり、誘電正接が0.0001以上0.01以下であるポリマー粒子と、前記ポリマー粒子の表面を覆う絶縁体層とを備え、前記絶縁体層は、熱膨張率が前記ポリマー粒子よりも小さい無機絶縁物により形成されていることを特徴としている(請求項1)。
【0010】
また、前記無機絶縁物は、金属酸化物、金属窒化物、半導体酸化物、半導体窒化物のいずれかであるとよい(請求項2)。
【0011】
また、前記ポリマー粒子は、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂、オレフィン類との付加共重合型樹脂、ポリフェニレンエーテル、ビスマレイミド・トリアジン・レジン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、液晶ポリマー、ゴム・エラストマーのいずれかであるとよい(請求項3)。
【0012】
また、前記ポリマー粒子は、粒径が0.0005ミクロン以上100ミクロン以下であり、前記絶縁体層は、層厚が0.0005ミクロン以上10ミクロン以下であるのが望ましい(請求項4)。
【0013】
また、前記ポリマー粒子の表面と前記絶縁体層との間に金属層をさらに備えていてもよい(請求項5)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、1MHzから10GHzの周波数のいすれかの周波数において比誘電率が1.5以上4以下であり、誘電正接が0.0001以上0.01以下であるポリマー粒子と、ポリマー粒子の表面を覆う絶縁体層とを備えた本発明の絶縁性フィラーの絶縁体層は、熱膨張率がポリマー粒子よりも小さい無機絶縁物により形成されているため、当該絶縁性フィラーを含有して電気絶縁材料が形成されることにより、無機絶縁物のみにより形成された従来の絶縁性フィラーを含有する電気絶縁材料と比較すると、本発明の絶縁性フィラーは比誘電率および誘電正接の小さいポリマー粒子を含んでいるため、電気絶縁材料の誘電損失を小さくすることができる。また、ポリマー粒子を覆う絶縁体層を形成する無機絶縁物の熱膨張率がポリマー粒子の熱膨張率よりも小さいため、絶縁性フィラーが加熱されたときにポリマー粒子の表面を覆う絶縁体層によりポリマー粒子の熱膨張が抑制される。したがって、ポリマー粒子のみにより形成された従来の絶縁性フィラーを含有する電気絶縁材料と比較すると、本発明の絶縁性フィラーを含有して電気絶縁材料が形成されることにより、加熱処理されたときに電気絶縁材料が熱膨張するのを抑制することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、金属酸化物、金属窒化物、半導体酸化物、半導体窒化物のいずれである無機絶縁物により、絶縁体層を簡単に形成することができる。
【0016】
請求項3の発明よれば、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂、オレフィン類との付加共重合型樹脂、ポリフェニレンエーテル、ビスマレイミド・トリアジン・レジン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、液晶ポリマー、ゴム・エラストマーのいずれかにより、前記ポリマー粒子を簡単に形成することができる。さらに、これらのポリマー粒子を構成するポリマーが水酸基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、硫酸基、硝酸基等を含むモノマー等の共重合体、または、ポリマー粒子表面をプラズマ処理、コロナ放電処理、化学処理等により、ポリマー粒子表面に水酸基、カルボン酸基等を生じさせることにより無機絶縁物の膜形成を容易にし、ポリマー粒子と無機絶縁物の密着力を向上させる絶縁性フィラーを得ることが可能である。
【0017】
請求項4の発明によれば、電気絶縁材料の使用目的に応じて、ポリマー粒子を、粒径が0.0005ミクロン以上100ミクロン以下に形成し、縁体層の層厚を0.0005ミクロン以上10ミクロン以下に形成すればよく、実用的である。
【0018】
請求項5の発明によれば、電気絶縁材料が、ポリマー粒子の表面と絶縁体層との間に金属層をさらに備える絶縁性フィラーを含有することで、電気絶縁材料を電磁シールドとして機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態たる絶縁性フィラーを含有する絶縁体材料により形成された部品内蔵モジュールを示す断面図である。
【図2】絶縁性フィラーを示す断面図である。
【図3】本発明の絶縁性フィラーの第2実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
本発明の絶縁性フィラーの第1実施形態について図1および図2を参照して説明する。図1は本発明の第1実施形態たる絶縁性フィラーを含有する電気絶縁材料により形成された部品内蔵モジュールを示す断面図である。図2は絶縁性フィラーを示す断面図である。
【0021】
(部品内蔵モジュール)
部品内蔵モジュール1は、絶縁性フィラー100を含有する電気絶縁材料により形成されており、図1に示すように、配線層2,4,7と、コア基板3と、部品内蔵層5と、接続層6とが積層され一体化されて形成されている。また、配線層2にはICなどの電子部品が実装されて、配線層7が例えばマザー基板の配線パターンに接続されて部品内蔵モジュール1がマザー基板に実装される。
【0022】
部品内蔵層5は、封止用の樹脂層51に各種電子部品52が埋設されて形成される。また、部品内蔵層5には、必要に応じて部品内蔵層5を挟む層を電気的に接続するためのビアホール53が形成される。樹脂層51は、例えば電気絶縁材料としての熱硬化性の樹脂に絶縁性フィラー100が混合されて形成される。また、電子部品52は、コンデンサ、コイル、トランジスタなどの電子回路素子のチップであり左右端部に電極(外部電極)52aが設けられている。熱硬化性の樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂などがある。
【0023】
接続層6は、樹脂層51と同様の樹脂層61を有し、樹脂層61の必要な箇所にビアホール62が設けられて形成されており、硬化した部品内蔵層5に接続層6を介して配線層7が貼り付けられる。また、コア基板3は、絶縁性フィラー100を含有する樹脂やセラミックなどで形成されており、必要な箇所にビアホール31が設けられて形成される。
【0024】
配線層2,4,7は、例えば銅箔を配線パターンにしたがってレーザ加工やエッチング加工などして形成される。そして、配線層2,4、7として形成されたランドやパッドなどにビアホール31,53,62の端面が、合金や金属間化合物を形成することによって、あるいは、物理的に接触することによって接合することにより、配線層2,4,7が電気的に接続される。
【0025】
次に、図1の部品内蔵モジュール1の製造方法の一例についてその概略を説明する。まず、両面に配線層2,4が設けられたコア基板3に部品52が実装される。そして、部品52が埋まるように未硬化の樹脂層51が充填されて加熱硬化された後、硬化した樹脂層51にビア孔が形成される。
【0026】
次に、未硬化の接続層6が用意され、接続層6にもビア孔が形成される。そして、樹脂層51(部品内蔵層5)および接続層6のビア孔に導電性ペーストが充填されたり、ビアフィルめっきが施されたりしてビアホール53,62が形成される。
【0027】
続いて、接続層6に銅箔が貼り付けられ、エッチング加工などによって配線層7が形成される。そして、コア基板3の配線層2にはんだバンプなどを介してICなどの電子部品が実装されて部品内蔵モジュール1が完成する。
【0028】
(絶縁性フィラー)
図2に示すように、樹脂層51,61を形成する樹脂、コア基板3を形成する樹脂やセラミック、配線層4の配線パターン間に充填される絶縁性樹脂などの電気絶縁材料に含有される絶縁性フィラー100は、各種基板を形成する樹脂材料、各種基板に実装された電子部品を封止するための樹脂材料、セラミック基板を形成するためのセラミック材料、基板や電子部品どうしを接着するための絶縁性の接着フィルムなどの電気絶縁材料に充填剤として含有されるものであって、1MHzから10GHzの周波数のいすれかの周波数において比誘電率が1.5以上4以下であり、誘電正接が0.0001以上0.01以下であるポリマー粒子101と、ポリマー粒子101の表面を覆う絶縁体層102とを備えている。そして、絶縁体層102は、熱膨張率がポリマー粒子101よりも小さい無機絶縁物により形成されている。
【0029】
ポリマー粒子101は、(a)フッ素樹脂、(b)ポリエチレン類、(c)ポリスチレン、(d)ポリカーボネート、(e)ノルボルネン系樹脂、(f)ポリフェニレンエーテル、(g)BTレジン、(h)ポリエーテルイミド、(i)ポリイミド、(j)ポリエーテルエーテルケトン、(k)液晶ポリマー、(l)ゴム・エラストマーなどの材質で、使用目的に応じて0.001ミクロン以上100ミクロン以下の大きさに形成される。このような材質および形状のポリマー粒子101としては、以下に示すように種々のものが知られており、上記した特性および形状を有するものであればどのようなものをポリマー粒子101として採用してもよい。
【0030】
(a)フッ素樹脂
例えば一般的に製造されているPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)によるポリマー粒子101(比誘電率約2.1、誘電正接約0.001、吸水率約0.01%)を採用することができる。また、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、FEP(パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PVF(ポリビニルフルオライド)、ECTFE(エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー)などのフッ素樹脂、およびフッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン・テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・プロピレン、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・プロピレンなどのフッ素ゴムをポリマー粒子101として採用してもよい。
【0031】
(b)ポリエチレン類
例えば一般的に製造されているポリエチレンによるポリマー粒子101(比誘電率約2.3、誘電正接約0.0002)を採用することができる。また、三井化学(株)製の商品名「ミペロン(登録商標)」、一般的なポリプロピレン(比誘電率約2.1、誘電正接0.0002)などをポリマー粒子101として採用してもよい。また、エチレンやプロピレンなどのオレフィン類との付加共重合型樹脂をポリマー粒子101として採用してもよい。
【0032】
(c)ポリスチレン
例えば一般的に製造されているポリスチレンを微粉体化したポリマー粒子101(比誘電率約2.5、誘電正接約0.0004、吸水率約0.05%)を採用することができる。
【0033】
(d)ポリカーボネート
例えば一般的に製造されているポリカーボネートを微粉体化したポリマー粒子101(比誘電率約2.9、誘電正接約0.0009)を採用することができる。
【0034】
(e)ノルボルネン系樹脂
例えば日本ゼオン(株)製の商品名「ZEONEX(登録商標)」によるポリマー粒子101(比誘電率約2.3、誘電正接約0.0002、吸水率約0.01%)を採用することができる。また、日本ゼオン(株)製の商品名「ZEONOR(登録商標)」、JSR(株)製の商品名「ARTON(登録商標)」などの開環重合型のノルボルネン系樹脂、三井化学(株)製の商品名「アベル(登録商標)」や、トパス・アドヴァンスト・ポリマーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング社(TOPAS ADVANCED POLYMERS GmbH)製の商品名「TOPAS(登録商標)」などのオレフィン類との付加共重合型のノルボルネン系樹脂などをポリマー粒子101として採用してもよい。
【0035】
(f)ポリフェニレンエーテル
例えば一般的に製造されているポリフェニレンエーテルによるポリマー粒子101(比誘電率約2.5、誘電正接約0.0007、吸水率約0.05%)を採用することができる。また、ジェネラル・エレクトリック社(General Electric)製の商品名「Noryl(登録商標)」、旭化成(株)製の商品名「ザイロン(登録商標)」、三菱ガス化学(株)製の商品名「ユピエース(登録商標)」などをポリマー粒子101として採用してもよい。
【0036】
(g)BTレジン
例えば一般的に製造されているBT(ビスマレイミド・トリアジン)レジンによるポリマー粒子(比誘電率約3.8、誘電正接約0.002)を採用することができる。
【0037】
(h)ポリエーテルイミド
例えば一般的に製造されているポリエーテルイミドを微粉体化したポリマー粒子101(比誘電率約3.1、誘電正接約0.0063)を採用することができる。ジェネラル・エレクトリック社(General Electric)製の商品名「Ultem(登録商標)」、三菱樹脂(株)製の商品名「スぺリオ(登録商標)」が例示される。
【0038】
(i)ポリイミド
例えば一般的に製造されているポリイミドを微粉体化したポリマー粒子101(比誘電率約3.5、誘電正接約0.007)を採用することができる。東レ製の商品名「カプトン(登録商標)」が例示される。
【0039】
(j)ポリエーテルエーテルケトン
例えば一般的に製造されているポリエーテルエーテルケトンを微粉体化したポリマー粒子101(比誘電率約3.1、誘電正接約0.0022)を採用することができる。Victrex plc製の商品名「VICTREX(登録商標)」、日本ポリペンコ(株)製の商品名「ポリペンコ(登録商標)」が例示される。
【0040】
(k)液晶ポリマー
例えば一般的に製造されている液晶ポリマーを微粉体化したポリマー粒子101(比誘電率約2.8、誘電正接約0.0019)を採用することができる。新日本石油(株)製の商品名「ザイダ―(登録商標)」が例示される。
【0041】
(l)ゴム・エラストマー
例えば、スチレンブタジエンゴム(比誘電率約3.0、誘電正接約0.006)、ブチルゴム(比誘電率約2.1、誘電正接0.005)、エチレンプロピレンゴム(比誘電率約2.0、誘電正接約0.0015)、シリコンゴム(比誘電率約3.3、誘電正接約0.001)等およびこれら未架橋のエラストマーを採用することができる。JSR(株)製の商品名「EP、SBR、SBRラテックス(登録商標)」、信越シリコン(株)製の商品名「RTVゴム(登録商標)」が例示される。
【0042】
絶縁体層102は、金属酸化物、金属窒化物、半導体酸化物、半導体窒化物などの無機絶縁物により、ポリマー粒子101の大きさに応じて0.005ミクロン以上10ミクロン以下の厚さに形成される。無機絶縁物としては種々の材質を採用することができるが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化鉄、酸化亜鉛などの金属酸化物、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、シリカなどの半導体酸化物、窒化ホウ素、窒化ケイ素などの半導体窒化物などを適宜無機絶縁物として採用することで絶縁体層102を形成すればよい。また、層状鉱物クレイ類であるカオリナイト(化学式Al2Si2O5(OH)4で表示されるもの)、ハロイサイト(化学式Al2Si2O5(OH)4・2H2Oで表示されるもの)、タルク(化学式Mg3Si4O10(OH)2で表示されるもの)、モンモリロナイト(化学式は一般的に(Al2−yMg)Si10(OH)・(M,M1/22+nH2Oで表示されるもの。y=0.2〜0.6、M:交換性陽イオンNa, K, Ca, Mg, Hなど、n :層間水の量で表示されるもの)、マイカ(化学式は一般的に I M2-31-0 T4 O10 A2 で表される。I には主として K、Na、Ca が入るが、Ba、Rb、Cs、NH4 が入ることもある。M には主として Al、Mg、Fe、Li、Ti が入るが、Mn、Cr、Zn、V が入ることもある。□は空孔。T には主として Si、Al、Fe3+ が入るが、Be、B が入ることもある。A には主として OH、F が入るが、Cl、O、S が入ることもある。)誘電損失の小さい水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミ、誘電損失の大きなチタン酸バリウムなどの無機絶縁物により絶縁体層102を形成してもよい。
【0043】
なお、基材の表面に上記した無機絶縁物による薄膜を形成する種々の方法が知られており、それらの周知の方法と同様の手法により、ポリマー粒子101の表面を覆う絶縁体層102を形成することで絶縁性フィラー100を形成することができる。
【0044】
次に、図2の絶縁性フィラー100の製造方法例についてその概略を説明する。まず、上記した材質および形状のポリマー粒子101が使用目的に応じて適宜選択されて準備される。そして、アルコキシシラン溶液が、ディッピングやスピニングなどによりポリマー粒子101の表面に塗布され、ポリマー粒子101表面上で加水分解重合反応を行わせることにより、ポリマー粒子101の表面を覆うシリカ膜による絶縁体層102が形成されて絶縁性フィラー100が製造される。
【0045】
また、テトラエトキシシランをアルコール中でアンモニア等のアルカリを触媒として加水分解することにより100℃以下でシリカ薄膜をポリマー粒子101の表面に形成し、300℃程度で乾燥処理することにより、ポリマー粒子101の表面を覆うシリカ膜による絶縁体層102を形成してもよい。
【0046】
また、ポリマー粒子101の表面に、スパッタ法、真空蒸着法、無電解めっき法等により任意の金属、例えばアルミニウムの薄膜が形成された後、アルミニウムの薄膜が過酸化水素と炭酸水素アンモニウムで酸化(100℃以下)されることによりアルミナの薄膜により絶縁体層102が形成される。同様にして、任意の金属酸化膜による絶縁体層102を形成することができる。
【0047】
また、ポリマー粒子101の表面に、CVD法により窒化ケイ素の薄膜による絶縁体層102を形成することができる。また、ポリマー粒子101の表面に、CVD法やPVD法により窒化アルミ二ウムの薄膜による絶縁体層102を形成することができる。さらに、窒化アルミ二ウム微粉体のコロイダルシリカ溶液をポリマー粒子101の表面に塗布し、400℃程度で焼成することにより窒化アルミ二ウムによる絶縁体層102が形成された絶縁性フィラー100を得ることもできる。
【0048】
以上のように、上記した実施形態では、絶縁性フィラー100は、1MHzから10GHzの周波数のいすれかの周波数において比誘電率が1.5以上4以下であり、誘電正接が0.0001以上0.01以下であるポリマー粒子101と、ポリマー粒子101の表面を覆う絶縁体層102とにより形成されている。したがって、絶縁性フィラー100を含有して電気絶縁材料が形成されることにより、無機絶縁物のみにより形成された従来の絶縁性フィラーを含有する電気絶縁材料と比較すると、絶縁性フィラー100は比誘電率および誘電正接の小さいポリマー粒子101を含んでいるため、電気絶縁材料の誘電損失を小さくすることができる。
【0049】
また、ポリマー粒子101を覆う絶縁体層102を形成する無機絶縁物の熱膨張率がポリマー粒子101よりも小さいため、絶縁性フィラー100が加熱されたときにポリマー粒子101の表面を覆う絶縁体層102によりポリマー粒子101の熱膨張が抑制される。したがって、ポリマー粒子101のみにより形成された従来の絶縁性フィラーを含有する電気絶縁材料と比較すると、絶縁性フィラー100を含有して電気絶縁材料が形成されることにより、加熱処理されたときに電気絶縁材料が熱膨張するのを抑制することができる。
【0050】
また、金属酸化物、金属窒化物、半導体酸化物、半導体窒化物のいずれである無機絶縁物により、ポリマー粒子101の表面を覆う絶縁体層102を従来の手法で簡単に形成することができる。
【0051】
また、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂、オレフィン類との付加共重合型樹脂、ポリフェニレンエーテル、ビスマレイミド・トリアジン・レジン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、液晶ポリマー、ゴム・エラストマーなどの従来より知られているポリマーにより、絶縁性フィラー100を形成するポリマー粒子101を簡単に形成することができる。
【0052】
また、多層基板の樹脂層を形成するための電気絶縁材料や、電子部品を封止する樹脂層を形成するための電気絶縁材料、配線パターン間の絶縁を行うための電気絶縁材料、インターポーザの電気絶縁材料などの使用目的に応じて、ポリマー粒子101を、粒径が0.0005ミクロン以上100ミクロン以下に形成し、絶縁体層102の層厚を0.0005ミクロン以上10ミクロン以下に形成することで絶縁性フィラー100の粒径を適宜調整すればよく、実用的である。
【0053】
<第2実施形態>
本発明の絶縁性フィラーの第2実施形態について図3を参照して説明する。図3は本発明の絶縁性フィラーの第2実施形態を示す断面図である。
【0054】
この実施形態が上記した第1実施形態と異なる点は、電気絶縁材料に含有される絶縁性フィラー200が、ポリマー粒子201と絶縁体層202との間に金属層203をさらに備えている点である。その他の構成は上記した第1実施形態の構成と同様であるため、相当符号を付すことによりその構成の説明は省略する。
【0055】
図3に示すように、絶縁性フィラー200は、ポリマー粒子201と絶縁体層202との間に金属層203をさらに備えている。この実施形態の絶縁性フィラー200は、ポリマー粒子201の表面に、無電解めっき法により任意の金属による薄膜が形成された後、金属の薄膜が、表面から所定の深さまで過酸化水素および炭酸水素アンモニウムなどで酸化されることにより、金属酸化物による絶縁体層202と、任意の金属による金属層203とが形成されて製造される。
【0056】
以上のようにこの実施形態によれば、上記した第1実施形態と同様の効果を奏することができると共に、電気絶縁材料が、ポリマー粒子201の表面と絶縁体層202との間に金属層203をさらに備える絶縁性フィラー200を含有することで、例えば図1に示す部品内蔵モジュール1において、電気絶縁材料を電磁シールドとして機能させることができる。
【0057】
なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能であり、種々の用途に形成される電気絶縁材料に含有される絶縁性フィラーに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
100,200 絶縁性フィラー
101,201 ポリマー粒子
102,202 絶縁体層
203 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁材料に含有される絶縁性フィラーであって、
1MHzから10GHzの周波数のいすれかの周波数において比誘電率が1.5以上4以下であり、誘電正接が0.0001以上0.01以下であるポリマー粒子と、
前記ポリマー粒子の表面を覆う絶縁体層とを備え、
前記絶縁体層は、熱膨張率が前記ポリマー粒子よりも小さい無機絶縁物により形成されている
ことを特徴とする絶縁性フィラー。
【請求項2】
前記無機絶縁物は、金属酸化物、金属窒化物、半導体酸化物、半導体窒化物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の電気絶縁材料に含有される絶縁性フィラー。
【請求項3】
前記ポリマー粒子は、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂、オレフィン類との付加共重合型樹脂、ポリフェニレンエーテル、ビスマレイミド・トリアジン・レジン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ゴム・エラストマーのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁性フィラー。
【請求項4】
前記ポリマー粒子は、粒径が0.0005ミクロン以上100ミクロン以下であり、前記絶縁体層は、層厚が0.0005ミクロン以上10ミクロン以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の絶縁性フィラー。
【請求項5】
前記ポリマー粒子の表面と前記絶縁体層との間に金属層をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の絶縁性フィラー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−14843(P2012−14843A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147127(P2010−147127)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(595046919)丸善薬品産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】