説明

絶縁性保護被膜材料

【課題】サーマルプリントヘッドに代表される電子材料基板開発で、絶縁保護被膜を単層で形成でき、電極反応泡が抑制され、かつ平坦性および耐磨耗性の優れた絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料が望まれている。
【解決手段】 重量%でSiOを0〜12、Bを10〜32、ZnOを22〜42、Biを10〜30、RO(MgO+CaO+SrO+BaO)を17〜40、Alを0〜5含むことを特徴とする絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料。0.1wt%〜4.5wt%のフィラーを含有することが可能であり、30℃〜300℃における熱膨張係数が(65〜90)×10−7/℃、軟化点が500℃以上620℃以下である特徴も有す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリントヘッド等に代表される電子材料基板用の絶縁性被膜材料及び封着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱記録(サーマル)方式の画像記録装置は、装置の構成がシンプルで小型化・低価格化・軽量化・低消費電力化に有利であり、各種のプリンタなどを始めとして様々な記録用途に幅広く使用されている。
【0003】
この感熱記録方式に用いられるサーマルプリントヘッドは、例えばラインヘッドであれば、抵抗発熱体を絶縁性基板上にライン状形成した発熱部と、電極とを有している。そして記録紙またはインクリボンなどを介した記録紙に発熱部を接触させ、各抵抗発熱体に記録情報を電気信号として順次入力して主走査方向の記録を行い、それとともに記録紙を走行させて副走査方向の記録を行なうことで2次元の記録画像を得ている。
【0004】
サーマルヘッドにおいて、絶縁性基板上にはグレーズ層と酸化物から成る抵抗発熱体、アルミニウム(Al)などから成る電極が、各層の成膜工程を経て形成されている。このように抵抗発熱体上に形成された電極パターンにより、それら電極間の抵抗発熱体を微細に発熱させることができる。そしてそれらの上に、抵抗発熱体および電極を覆うように保護層が形成されている。
【0005】
上記のような構成のサーマルプリントヘッドにおける保護層については、記録紙への高精細画像を得る目的で、保護層表面の高平滑性、すなわち表面粗度が小さいことが要求され、また記録紙との摺動に対する高い耐磨耗性が要求される。
【0006】
従来そのような保護層として、例えばCVD法やスパッタリング法などの薄膜作製技術による保護層が使用されているが、所望の厚さの厚膜を得るためには成膜速度が遅いため層形成に長時間を要し、また成膜装置も高価で多大な製造コストがかかるという問題点があった。
【0007】
これに対して低コストの保護層として、印刷・焼成などの厚膜作製技術で形成されたガラスから成る保護層も多用されている。この保護層のガラス中には、耐磨耗性を高め、さらに熱伝導性も良好なものとするために、アルミナ(Al)やジルコニア(ZrO)などの微結晶粒子のフィラーを含有させている。
【0008】
このようなガラスからなる保護層に関して、熱抵抗層・電極・発熱抵抗体層・保護層を絶縁物基板上に順次積層した厚膜型感熱記録ヘッドにおいて、保護層が発熱抵抗体層に面するアルミナフィラー含有ガラス層の下層と、その上層に形成したアルミナフィラー含有量がゼロないしは前記ガラス層中よりも少量である非晶質ガラス層を含む2層タイプのものが提案されている(特許文献1参照)。これにより上層の表面平滑度を小さくできる。
【0009】
また、絶縁基板上に抵抗発熱体と該抵抗発熱体に電力を供給する電極とを形成すると共に前記発熱抵抗体及び電極を覆うようにフィラー含有ガラスからなる保護膜を成したサーマルヘッドにおいて、前記保護膜に低比重で平均粒径の非常に小さい0.5μm以下のフィラーを含有させ、保護層表面にフィラーを突出させるものが提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
さらにまたグレーズ基板と、このグレーズ基板上に設けられた発熱体部分および導電層部分と、これらの上に形成された耐磨耗ガラス層とからなるサーマルヘッドにおいて、発熱体部分および導電層部分上に、少なくとも 300Aの厚さの酸化シリコン・アルミナなどの酸化物薄膜を介して耐磨耗ガラス層を設けることが提案されている。そして酸化物薄膜はCVD法、スパッタリング法で形成し、耐磨耗ガラスにはホウケイ酸鉛ガラス(SiO−B −PbO)に少量のアルミナや酸化カリウムを加えたものを印刷・焼成することが開示されている(特許文献3参照)。
【0011】
これによりガラス層と発熱抵抗体部分との密着強度を上げることができるとともに、ガラス層は発熱抵抗体部分の酸化防止膜及び不純物の発熱抵抗体部分へ拡散防止機能も有するというものである。
【特許文献1】特開昭63−216760号公報
【特許文献2】特許第3477194号公報
【特許文献3】特開昭61−229570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の各公報に記載された構成によっても以下のような問題点があることが判明した。
【0013】
すなわち上記特開昭63−216760号公報、特開昭61−229570号公報のように保護層を2層構造にする場合は、保護層表面の平滑性は良好にできるものの、保護層の作製工程が増加して材料および作製コストが増加してしまうという問題点があった。さらに、CVD法やスパッタリング法による積層も作製コストを上昇させる要因である。
【0014】
また、PbO系のガラスでは、耐磨耗性が低く、印刷紙の摺動に耐えることが出来ない。そのため、特許第3477194号公報のようにセラミックスフィラーを多量に含有させた複合系ガラスセラミックスを用いて、耐磨耗性を向上させようとするが、セラミックスフィラーが保護層上部に偏析して平坦性を劣化させ、印刷紙に傷が入る不具合があった。また、粒径の非常に小さなフィラーは凝集しやすく2次粒子となるために、表層で異常突起物となりやすく、かつ非常に高価でコストアップになる。
【0015】
また、アルカリ含有系のガラスを用いた場合では、被覆した電極との反応が顕著なために、反応泡が発生し、サーマルプリントヘッドの性能を劣化させるという問題点もあった。
【0016】
さらに軟化点の高いガラスにより電極の反応抑制を試みると、焼成温度が高温なため、電極の劣化、及び発熱体の抵抗値が大きく変化するために、構成材料に制約が生じる。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みて本発明者等が鋭意研究を進めた結果完成されたものであり、その目的は、ガラスから成る保護層を単層で形成したサーマルヘッドにおいて、保護層表面の平滑性を確保しつつ耐磨耗性を高め、電極との反応を抑制した保護被膜用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、サーマルプリントヘッド等に代表される電子材料基板用の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料において、該ガラス材料の組成が、重量%でSiOを0〜12、Bを10〜32、ZnOを22〜42、Biを10〜30、RO(MgO+CaO+SrO+BaO)を17〜40、Alを0〜5含むことを特徴とする絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料である。
【0019】
また、0.1wt%〜4.5wt%のフィラーを含有することを特徴とする、上記の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料である。
【0020】
さらに、30℃〜300℃における熱膨張係数が(65〜90)×10−7/℃、軟化点が500℃以上620℃以下であることを特徴とする上記の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料である。
【0021】
さらに、上記の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料を使用していることを特徴とする電子材料用基板である。
【0022】
さらにまた、上記の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料を使用していることを特徴とするサーマルプリントヘッド用基板である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、サーマルプリントヘッド等に代表される電子材料基板用の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料において、該ガラス材料の組成が、重量%でSiOを0〜12、Bを10〜32、ZnOを22〜42、Biを10〜30、RO(MgO+CaO+SrO+BaO)を17〜40、Alを0〜5含むことを特徴とする絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料である。
【0024】
SiOはガラス形成成分であり、安定したガラスを形成することができるもので、0〜12%(重量%、以下においても同様である)で含有させる。12%を越えると、ガラスの軟化点が上昇し焼成温度が高くなるために、構成材料である電極が劣化したり、発熱体の抵抗値が大きく変化する。より好ましくは、1〜7%の範囲である。
【0025】
はSiO同様のガラス形成成分であり、ガラス溶融を容易とし、ガラスの熱膨張係数において過度の上昇を抑え、かつ、焼付け時にガラスに適度の流動性を与えるものである。ガラス中に10〜32%で含有させるのが好ましい。10%未満ではガラスの流動性が不充分となり、焼結性が損なわれる。他方32%を越えるとガラスの安定性を低下させる。より好ましくは13〜27%の範囲である。
【0026】
ZnOはガラスの軟化点を下げ、熱膨張係数を適宜範囲に調整する成分で、ガラス中に22〜42%の範囲で含有させるのが好ましい。22%未満ではその作用を発揮し得ず、42%を超えると安定性が劣化する。より好ましくは23〜35%の範囲である。
【0027】
Biはガラスの軟化点を下げ、熱膨張係数を適宜範囲に調整する成分で、ガラス中に10〜30%の範囲で含有させるのが好ましい。10%未満ではその作用を発揮し得ず、30%を超えるとガラスの耐磨耗性が劣化する。より好ましくは13〜28%の範囲である。
【0028】
RO(CaO,SrO,BaO)はガラスの軟化点を下げ、焼結性を向上させる。ガラス中に17〜40%で含有させるのが好ましい。17%未満ではガラスの軟化点の低下が不十分で、焼結性が損なわれる。他方40%を越えるとガラスの熱膨張係数が高くなりすぎる。より好ましくは20〜35%の範囲である。
【0029】
Alはガラスの安定性を向上させる成分で、0〜5%の範囲で含有させることが好ましい。5%を越えると軟化点が高くなりすぎる。より好ましくは0〜4%の範囲である。
【0030】
O(LiO、NaO、KO)はガラスの軟化点を下げ、適度に流動性を与え、熱膨張係数を適宜範囲に調整するものであり、0〜1%の範囲で含有させても良い。1%を越えると電極との反応泡が発生する。
【0031】
この他にも、一般的な酸化物で表すCuO,TiO、V、MnO、CoO、NiO、CeO,La、In、SnO、TeO、Fe、ZrOなどを、熱膨張係数および軟化点を変化させない範囲で0〜1%加えてもよい。
【0032】
実質的にPbOを含まないことにより、人体や環境に与える影響を皆無とすることができる。ここで、実質的にPbOを含まないとは、PbOがガラス原料中に不純物として混入する程度の量を意味する。例えば、低融点ガラス中における0.3wt%以下の範囲であれば、先述した弊害、すなわち人体、環境に対する影響、絶縁特性等に与える影響は殆どなく、実質的にPbOの影響を受けないことになる。
【0033】
さらに上記ガラスに、0.1wt%〜4.5wt%のフィラーを含有することもでき、4.5%以上ではフィラーの突出により平坦性が劣化したり、ガラスとの分離が生じる。好ましくは2〜4%の範囲である。フィラーには、一般的なAl、ZrOなどが使用できる。
【0034】
30℃〜300℃における熱膨張係数が(65〜90)×10−7/℃、軟化点が500℃以上650℃以下であるのが良い。熱膨張係数が(65〜90)×10−7/℃を外れると厚膜形成時に被膜の剥離、基板の反り等の問題が発生する。また、軟化点が620℃を越えると保護膜形成時の焼成により電極が劣化するなどの問題が発生する。軟化点が500℃より低い場合、発熱抵抗体層の抵抗値が大きく変化する。好ましくは、500℃以上600℃以下である。
【0035】
この絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料は、電子材料用基板やサーマルプリント用基板などに好適である。
【0036】
さらにまた、上記の絶縁性被膜材料と有機ビヒクルとからなるガラスペーストである。有機ビヒクルとしては一般にガラスペーストなどに用いられているものであればいずれでもよく、エチルセルロースなどの樹脂をαテルピネオールやブチルカルビトールアセテートなどの有機溶剤に溶かしたものに代表される。有機ビヒクルと混合し、ガラスペーストとして提供することで様々な分野における材料として使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0038】
(低融点ガラス混合ペーストの作製)
SiO源として微粉珪砂を、B源としてほう酸を、ZnO源として亜鉛華を、LiO源として炭酸リチウムを、NaO源として炭酸ナトリウムを、KO源として炭酸カリウムを、CuO源として酸化第二銅を、MnO源として二酸化マンガンを、MgO源として炭酸マグネシウムを、CaO源として炭酸カルシウムを、SrO源として炭酸ストロンチウムを、BaO源として炭酸バリウムを、Bi源として酸化ビスマスを要した。これらを所望の低融点ガラス組成となるべく調合したうえで、白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1000〜1300℃、1〜2時間で加熱溶融して表1の実施例1〜8、表2の比較例1〜5に示す組成のガラスを得た。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
ガラスの一部は型に流し込み、ブロック状にして熱物性(熱膨張係数、軟化点)測定用に供した。残余のガラスは急冷双ロール成形機にてフレーク状とし、粉砕装置で平均粒径0.5〜4μm、最大粒径15μm未満の粉末状に整粒した。
【0042】
次いで、αテルピネオールとブチルカルビトールアセテートからなるペーストオイルにバインダーとしてのエチルセルロースと上記ガラス粉およびフィラーを混合し、粘度、300±50ポイズ程度のペーストを調製した。なお、フィラーはZrOおよびSiOで、平均粒系2〜5μmのものを使用した。
【0043】
(絶縁性被膜の形成)
厚み2〜3mm、サイズ100mm角のアルミナ基板に、焼付け後の膜厚が約10μmとなるべく勘案して、アプリケーターを用いて前記ペーストを塗布し、塗布層を形成した。 次いで、乾燥後、650℃以下で10〜60分間焼成することにより、絶縁保護被膜層を形成させた。
【0044】
平坦性は、触針式表面走査計により算出された表面粗さRa値が0.3μm以下をOKとした。
【0045】
耐磨耗性は、形成された絶縁保護被膜上を、研磨紙#4000;荷重100g/cmの条件下で10000回摺動させたときの膜厚の減少が20%以下のものはOKと判定した。
【0046】
電極反応抑制は、絶縁保護被膜と電極界面の顕微鏡観察、もしくは断面SEM観察から判定した。
【0047】
(結果)
低融点ガラス組成および、各種試験結果を表に示す。
【0048】
表1における実施例1〜8に示すように、本発明の組成範囲内においては、平坦性、耐磨耗性、電極反応泡の抑制が従来と比べて格段に優れていた。
【0049】
他方、本発明の組成範囲を外れる表2における比較例1〜5は、従来と同様、電極反応泡が顕著である、或いは、好ましい物性値を示さず、サーマルプリントヘッド等の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料として適用し得ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子材料基板用の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料において、該ガラス材料の組成が、重量%でSiOを0〜12、Bを10〜32、ZnOを22〜42、Biを10〜30、RO(MgO+CaO+SrO+BaO)を17〜40、Alを0〜5含むことを特徴とする絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料。
【請求項2】
0.1wt%〜4.5wt%のフィラーを含有することを特徴とする、請求項1に記載の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料。
【請求項3】
30℃〜300℃における熱膨張係数が(65〜90)×10−7/℃、軟化点が500℃以上620℃以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料を使用することを特徴とする電子材料用基板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の絶縁性被膜ガラス材料及び封着ガラス材料を使用することを特徴とするサーマルプリントヘッド用基板。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の絶縁性被膜材料と有機ビヒクルとからなることを特徴とするガラスペースト。


【公開番号】特開2008−303077(P2008−303077A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149023(P2007−149023)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】