説明

絶縁性樹脂組成物、その製造方法及び電子部品

【課題】無機質フィラーを用いてガラス転移温度以上の温度領域における熱膨張率の上昇を充分に抑制した樹脂成形部を与える絶縁性樹脂組成物を提供する。また、当該絶縁性樹脂組成物を製造する方法、及び、当該絶縁性樹脂組成物を用いて樹脂部分を形成した電子部品を提供する。
【解決手段】本発明の絶縁性樹脂組成物は、平均粒径が1〜50μm、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmである多孔質無機微粒子、及び、絶縁性樹脂を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性樹脂組成物に関し、更に詳しくは、絶縁性材料として用いられ、特に回路基板や半導体装置などの電子部品に好適に用いられる絶縁性樹脂組成物に関するものである。
さらに本発明は、当該絶縁性樹脂組成物の製造方法、及び、当該樹脂組成物を用いて作製される電子部品にも関する。
【背景技術】
【0002】
多層配線板や集積回路のような回路基板や半導体装置などの電子部品は、金属等の高導電材料やシリコンのような半導体により形成された導電性部位と共に、当該導電性部位に隣接して絶縁層や封止層などの絶縁性部分を有している。電子部品の絶縁性部分は、絶縁性と共に耐熱性や耐湿性等の他の物性にも優れた絶縁性樹脂、例えばエポキシ樹脂などにより形成される。
【0003】
一般に樹脂の熱膨張率は、金属やシリコンのそれよりも低いため、電子部品内の樹脂からなる部分(主に絶縁性部分)と金属やシリコンからなる部分(主に導電性部分)とが接合した界面又はその近傍が、双方の熱膨張率の違いにより発生する応力によって破壊されてしまう恐れがある。そのため、電子部品の高い信頼性を得るためには、樹脂の熱膨張率をシリコン及び金属に近い領域まで低減することが望まれる。
樹脂の熱膨張率を低減させるためには、低熱膨張率である無機質フィラーを樹脂組成物に充填する方法が従来から知られており、なかでも熱膨張率がシリコンチップ程度の値であるシリカ粒子は、熱膨張率低減を目的とする充填材として好適に用いられている。
【0004】
しかし、一般に、ガラス転移温度以上の温度領域における樹脂の熱膨張率は、ガラス転移温度よりも低い温度領域におけるそれと比べて非常に大きな値を持ち、無機質フィラーを充填する方法ではガラス転移温度以上の温度領域における樹脂の熱膨張率を充分に低減することが難しい。
このため、製造プロセスの途中段階や電子部品を電子機器に実装し稼動させる段階で、電子部品内の樹脂で形成されている部分が当該樹脂のガラス転移温度以上に加熱される場合には、その樹脂に無機質フィラーが添加されていても樹脂の熱膨張によって電子部品内部に大きな応力が発生する。特に、製造プロセス途中の半田工程では、接続及び実装用半田の選択されたリフロー温度が、電子部品に用いられている樹脂のガラス転移温度を上回ることが多いため、樹脂の熱膨張による電子部品又はその中間製品の破壊が重要な問題となる。
【0005】
さらに近年、高密度集積化や高密度実装化などの電子部品の高密度化に伴い、電子部品内の隣接配線相互間でのノイズの影響を抑えるために、電子部品内の樹脂で形成される部分を低誘電率化することが強く求められている。しかし、樹脂の熱膨張率を低減するために無機質フィラーを樹脂に多量に充填すると、その樹脂の誘電率が高くなる。従って、樹脂の低熱膨張率化に加えて低誘電率化が強く求められる場合には、無機質フィラーの充填量をあまり増やすことができないという問題がある。
【0006】
特許文献1には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化物、硬化促進剤、及び、耐圧強度50kgf/cm2以上、且つ真比重0.25〜1.5の無機系中空フィラーからなる半導体封止用エポキシ樹脂組成物が記載されている。この特許文献1に記載されたエポキシ樹脂組成物は、特定の無機系中空フィラーを用いることにより低誘電率化されたものであるが、硬化後のガラス転移温度以上の温度領域における樹脂の熱膨張率を低減することについては何も記載されていない。
【0007】
特許文献2には、金属、金属塩、無機化合物から選択される添加剤を担持した無機多孔質体を、樹脂と混練成形して無機多孔質体が粉砕され、粒径が10nm〜100nmの粒子とし、前記添加剤が樹脂中に分散されることを特徴とする樹脂複合組成物の製造方法と当該方法により得られた樹脂複合組成物が記載されている。この特許文献2に記載された樹脂複合組成物の適用分野としては、前記添加剤として難燃剤を分散させた難燃材料として用いることが記載されているが、電子部品の樹脂からなる部分を構成する絶縁性樹脂として用いることは何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−298407号公報
【特許文献2】特開2001−152030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第一の目的は、無機質フィラーを用いてガラス転移温度以上の温度領域における熱膨張率の上昇を充分に抑制した樹脂成形部を与える絶縁性樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の第二の目的は、無機質フィラーを用いてガラス転移温度以上の温度領域における熱膨張率の上昇を充分に抑制し、且つ、誘電率を低く抑えた樹脂成形部を与える絶縁性樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の第三の目的は、上記本発明の絶縁性樹脂組成物を製造する方法、及び、上記本発明の絶縁性樹脂組成物を用いて、樹脂部分を形成した電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、平均粒径が1〜50μm、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmである多孔質無機微粒子、及び、絶縁性樹脂を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の樹脂組成物を用いて形成した製品の樹脂部分又は樹脂成形体を加熱すると、ガラス転移温度に達するまでは線熱膨張係数が漸増するが、ガラス転移温度以上になると、線熱膨張係数の増加傾向が頭打ちとなり、好ましい場合には、むしろ線熱膨張係数が減少傾向に変わる。
従って、本発明の樹脂組成物を用いることで、無機質フィラーを用いてガラス転移温度以上の温度領域における熱膨張率の上昇を充分に抑制した絶縁性の樹脂部又は成形体を形成することができる。
【0012】
さらに、本発明の樹脂組成物を用いて製品の樹脂部分又は樹脂成形体を形成する場合は、樹脂組成物に添加される多孔質無機微粒子内の空孔が気体を含んでいるために、フィラー充填により誘電率が増加する傾向を抑制する効果が高い。
従って、本発明の樹脂組成物を用いることで、誘電率が低い絶縁性の樹脂部又は成形体を形成することができる。
【0013】
多孔質無機微粒子として好ましいものの一つとして、平均粒径が100nm以下の無機微粒子(「無機ナノ微粒子」という)の凝集体が挙げられる。
このような凝集体の一つとしては、溶剤中に前記無機ナノ微粒子を分散させ、且つ溶質を溶解させてなる無機ナノ微粒子の分散液を乾燥焼成し、得られた焼成体から前記溶質を溶剤で溶出することにより得られたもの(すなわち、無機ナノ微粒子を擬分相させた凝集体)が挙げられる。
前記凝集体として好ましいものとしては、前記無機ナノ微粒子を無機塩の水溶液中に分散、乾燥し焼成して得られた焼成体から無機塩を水で溶出することにより得られたものが挙げられる。
【0014】
前記多孔質無機微粒子は、絶縁性樹脂組成物中に固形分比で10〜90質量%の割合で含有されていることが好ましい。
本発明の絶縁性樹脂組成物は、ガラス転移温度以上の温度領域での熱膨張率が、ガラス転移温度未満の温度領域での熱膨張率より低いものであることが特に好ましい。
本発明に係る絶縁性樹脂組成物の製造方法は、平均粒径が50μm超、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmである粗粒子又は塊状の多孔質無機材料を、絶縁性樹脂と混練して、前記粗粒子を平均粒径が1〜50μmの多孔質無機微粒子に粉砕し、前記絶縁性樹脂中に分散させることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る電子部品は、上記本発明の絶縁性樹脂組成物で形成されている部分を含むことを特徴とする。
本発明の絶縁性樹脂組成物で形成されている樹脂部分が、半導体又は金属で形成された部分に隣接して設けられている場合には、樹脂部分の熱膨張率とシリコン又は金属からなる部分の熱膨張率の値が近いので、これらが接合した界面又はその近傍は破壊されにくい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂組成物の硬化物又は固化物は、上記したような優れた特性を有しているので、さまざまな製品の樹脂部分又は樹脂成形体を形成するための成形材料として用いられ、特に絶縁性が要求される部分や部品等の材料として用いられる。
本発明の樹脂組成物は、例えば、絶縁層や封止層等の電子部品内に設けられる絶縁性樹脂部分、或いは、絶縁板等の電子部品に隣接する絶縁性樹脂部品の材料として特に好適に用いられる。
【0017】
本発明の樹脂組成物を用いて電子部品内の絶縁層や封止層を形成する場合には、その電子部品が樹脂のガラス転移温度以上に加熱されたとしても、樹脂部分とシリコン又は金属からなる部分とが接合した界面又はその近傍は破壊されにくい。
さらに、本発明によれば、電子部品が樹脂のガラス転移温度以上に加熱された場合に破壊されにくいだけでなく、誘電率を低く抑えることができる。
従って、本発明の樹脂組成物を用いることで、電子部品の高い信頼性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に用いる多孔質無機微粒子の作製手順を説明する図である。
【図2】本発明の樹脂組成物を用いて形成した製品の樹脂部分の温度−線熱膨張係数推移モデル(線A、線B、線C)と、従来の無機質フィラー添加樹脂の温度−線熱膨張係数推移モデル(線D)を対比する図である。
【図3】実施例1で測定された温度−線熱膨張係数推移データを示す図である。
【図4】実施例2で測定された温度−線熱膨張係数推移データを示す図である。
【図5】比較例1で測定された温度−線熱膨張係数推移データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、必須成分として多孔質無機微粒子と絶縁性樹脂を含有し、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。
本発明で用いる多孔質無機微粒子とは、表面に空孔を有する無機物微粒子のうち、平均粒径が1〜50μm、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmの範囲内のものである。
【0020】
当該多孔質無機微粒子の平均粒径は、1〜50μmの範囲内であればよいが、例えば、回路基板などの絶縁層に用いる場合には、1〜10μmが好ましく、さらに2〜8μmであることが好ましい。
平均粒径が上記下限値より小さい場合には、少数の前記無機ナノ微粒子により当該多孔質無機微粒子が構成されるため、多孔質無機微粒子としての性質が劣る可能性がある。また、平均粒径が上記上限値より大きい場合には、当該多孔質無機微粒子の表面に露出する空孔の数が少ないため、ガラス転移温度より高温領域での熱膨張率の低減を充分に達成できない。
【0021】
多孔質無機微粒子の空隙率は、0.2以上であればよいが、さらに0.4以上であることが好ましい。空隙率が0.2より小さい場合には、微粒子の表面に存在する空孔数が少ないため、ガラス転移温度より高温領域での熱膨張率の低減を十分に達成できない。空隙率が大きいほどガラス転移温度より高温領域での樹脂の熱膨張率を低減できるが、この値が大きすぎると多孔質無機微粒子の強度が確保できず、樹脂へ配合する際に破壊が起こり、粒径を制御することが難しい場合がある。このため、空隙率は0.8以下、特に0.7以下であることが好ましい。あるいは、多孔質無機微粒子の強度を所望の多孔質無機微粒子の粒径にコントロール可能な限度内で空隙率を大きくすることが好ましい。
【0022】
多孔質無機微粒子の平均空孔径は10〜100nmの範囲内であればよいが、さらに20〜50nmであることが好ましい。平均空孔径が10nmより小さい場合には、毛細管現象により空孔を十分に利用できず、ガラス転移温度より高温領域での熱膨張率の低減を十分に達成できない。また、平均空孔径が100nmより大きい場合には、樹脂組成物の調製時に樹脂が空孔に侵入し、空孔が樹脂で満たされ、熱膨張率の低減を十分に達成できない。
【0023】
多孔質無機微粒子としては、上記特定範囲内の平均粒径、空隙率、及び、平均空孔径を有していれば、無機フィラーとして従来用いられているものと公知の材質からなるものを用いることができる。具体的には、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、ゼオライト、酸化チタン(TiO)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、ほう酸アルミニウム、ボロンナイト、炭酸カルシウム、酸化鉛、酸化すず、酸化セリウム、酸化カルシウム、四酸化三マンガン、酸化マグネシウム、セリウムジルコネイト、カルシウムシリケート、ジルコニウムシリケート、ITO、チタンシリケート等の多孔体を、単独又は組み合わせて使用することができる。
線熱膨張係数が小さいものとしては、溶融SiO、溶融SiC、溶融Siが挙げられる。これらのなかでも溶融SiOが最も小さい線熱膨張係数を持ち、電子デバイス分野におけるフィラーとしての実績も豊富である。
【0024】
多孔質無機微粒子の材質としては、多孔質ガラスを用いてもよい。具体的には、例えば、コーニング系SiO−B−NaO、PRG系SiO−B−NaO、シラス系SiO−Al−B−CaO、SiO−P−NaO系、SiO−B−CaO−MgO−Al−TiO系、SiO−B−NaO−GeO系、SiO−B−ZrO−RO(Rはアルカリ土類金属、又は、Zn)系、希土類系、NaO−B−CeO・3Nb系、重金属酸化物含有多孔質ガラス、NiO、CuOやV等の金属酸化物をNaO−B−SiO系に混合し、分相させた多孔質ガラスなど、全ての多孔質ガラスを用いることができる。
また、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機材料粉末を焼結した多孔質体を用いてもよい。
【0025】
多孔質無機微粒子として好ましいものの一つとして、平均粒径が100nm以下の無機微粒子(「無機ナノ微粒子」という)の凝集体が挙げられる。凝集体の空隙率と平均空孔径を、本発明で用い得る範囲内に調整する観点から、凝集させる無機微粒子としては平均粒径が100nm以下のものを用いる。
無機ナノ微粒子は、必要に応じてシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、オルガノシロキサン等の反応性化合物により表面処理してもよい。このような表面処理を行った無機ナノ微粒子を用いることにより、当該無機ナノ微粒子を凝集させた多孔質無機微粒子と樹脂マトリックスとの界面密着性をコントロールすることで、機械的強度の向上が期待できる。
凝集体を構成する各無機ナノ微粒子は一体化して凝集体としての塊を形成しているかぎり、隣接し合う無機ナノ微粒子の相互間で、いかなる状態で接合していてもよく、例えば、焼成工程を経て融着していてもよいし、接着性成分を介して接着していてもよく、或いは、無機ナノ微粒子そのものの表面特性により直接接着していてもよい。
【0026】
このような凝集体としては、上記無機ナノ微粒子を擬分相させた凝集体が挙げられる。
ここで、「擬分相させた凝集体」とは、溶剤中に前記無機ナノ微粒子を分散させ、且つ、溶質を溶解させてなる無機ナノ微粒子の分散液を乾燥して固化物とし、この固化物を焼成し、得られた焼成体から、前記溶質を溶剤で溶出することにより得られる凝集体である。
【0027】
無機ナノ微粒子の分散液を調製するための溶剤と、焼成体から溶質を溶出させるための溶剤は、同じであっても異なるものであってもよいが、無機ナノ微粒子に対して不活性な溶剤であることが好ましい。
溶質は孔形成剤である。溶質としては、無機ナノ微粒子に対して不活性であり、且つ、分散液の調製後に引き続き行われる焼成段階の焼成温度では実質的に変化しないものが好ましい。ここで「焼成温度では実質的に変化しない」とは、焼成温度では全く変化しないか、或いは、変化するとしても、焼成体から溶出させて除去できるものを意味する。
孔形成剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどのハロゲン化アルカリ金属塩などが上げられる。
【0028】
擬分相させた凝集体として好ましいものとしては、無機ナノ微粒子としてシリカゾル、アルミナゾル及び/又はゼオライトゾルから選ばれる少なくとも一種を用い、孔形成剤として水溶性の無機塩を用い、溶剤として水を用いて形成したものがある。水溶性の無機塩としては、モリブデン酸アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化銅、硝酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム等から一種のみ又は二種以上を選んで用いることができる。この場合、無機ナノ微粒子としてシリカゾルを用いたもの(ヒュームドシリカ)が特に好ましい。
【0029】
この凝集体の具体的な調製手順の一例を図1に示す。先ず、図1Aに示すように、シリカゾル、アルミナゾル及びゼオライトゾルから選ばれる少なくとも一種の無機ナノ微粒子2(平均粒子径:10nm〜20nm)を、無機塩の水溶液3に分散させて、無機ナノ微粒子の水分散液1を調製する。この分散液中には、無機ナノ微粒子のための分散剤など、他の成分を含有していてもよい。分散液中の各成分の割合は、通常、無機ナノ微粒子が1質量%〜5質量%、水溶性無機塩が15質量%〜20質量%、水が75質量%〜84質量%とする。
次に、この分散液を乾燥させて固化物4とする。乾燥条件は、通常、100℃〜120℃で6時間以上、特に12時間とする。この固化物は、図1Bに示すように、乾燥により密集した無機ナノ微粒子2の間隙に無機塩の析出体5が密に充填され、該無機塩の析出体を介して無機ナノ微粒子が相互に結合した構造を持つ。
【0030】
次に、この固化物を焼成する。焼成条件は、通常、500℃〜700℃で1〜3時間とする。この方法は焼成工程を含むため、凝集体を構成する無機ナノ微粒子の一部又は全ては、隣接する他の無機ナノ微粒子との接触点で融着することにより一体化する。
次に、得られた焼成体を必要に応じて粗く粉砕し、水と接触させて、無機塩を溶出、除去すると、図1Cに示すように、無機ナノ微粒子2の間隙の無機塩が存在していた部分が中空7となった多孔質体である凝集体6が得られる。焼成体を水と接触させる方法としては、例えば湯洗を行えばよい。
以上の手順により、本発明で用い得る空隙率と平均空孔径を有する凝集体が得られる。
この凝集体は、必要に応じて粉砕して、本発明で用い得る平均粒径の範囲内に調整する。
【0031】
前記多孔質無機微粒子は、本発明の絶縁性樹脂組成物中に固形分比で10〜90質量%の割合で含有させることが好ましく、例えば、電子部品の回路基板などの絶縁層に用いる場合は、10〜70質量%が好ましく、特に30〜50質量%が好ましい。
多孔質無機微粒子の含有量が上記下限値よりも少ないと、ガラス転移温度より高温領域での熱膨張率の低減を十分に達成できない場合がある。また、この含有量が上記上限値よりも大きいと、本発明の樹脂組成物を用いて形成した成形物又は製品中の部分の誘電率が大きくなって、製品に応じて求められる誘電率の許容値を超えてしまう場合がある。
【0032】
本発明で用いる絶縁性樹脂は、導電性樹脂以外の樹脂であればよく、例えば、10Ω・cm以上の体積抵抗率を有する樹脂が挙げられ、より好ましくは、1013Ω・cm以上の体積抵抗率を有する樹脂である。
具体的には、従来から電子機器或いは他の分野で用いられている絶縁性樹脂を広く用いることができ、例えば、エポキシ系樹脂、ノルボルネン系樹脂、エステル系樹脂、ケトン系樹脂、イミド系樹脂、ポリベンゾオキサゾール、ポリエーテルニトリル、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、及びポリアリレート樹脂等の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を単独で又は二種以上を組み合わせて用いる。絶縁性樹脂の分子量については特に限定されない。
耐熱性の点からは,絶縁性樹脂のガラス転移温度が180℃以上、特に200℃以上であることが好ましい。また、誘電特性の点からは、誘電率が3.5以下、特に3以下であることが好ましい。
絶縁性樹脂の耐熱性や、誘電特性、特に低誘電率が要求される用途においては、ノルボルネン系樹脂、ポリベンゾオキサゾール、ポリイミドが好ましい。前記ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン付加共重合体が耐熱性において好ましく、さらに前記ノルボルネン付加共重合体は、その主鎖骨格が1種又は2種以上のノルボルネンモノマーのみからなる重合体であることが好ましい。さらには、前記ノルボルネン系樹脂の主鎖又は側鎖に直接又は他の基を介して結合するペンダント基として、炭化水素基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、アクリル基、エポキシ基及びシリル基などの極性基を有するものが好ましい。また、前記ポリイミドにおいては、フッ素化ポリイミドが低誘電率を得るうえで好ましい。
【0033】
絶縁性樹脂は、本発明の樹脂組成物を用いて形成した成形物又は製品中の部分が製品に応じて求められる絶縁性、耐熱性、強度、成形性、接着性等の物性を満たす限り、重合反応により硬化するものであっても、乾燥又は冷却により単に固化する非反応性のものであってもよい。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、主として上記特定の多孔質無機微粒子と上記絶縁性樹脂からなるが、必要に応じてエラストマー、表面処理剤、レーザー吸収剤、硬化剤、架橋剤、消泡剤、上記特定の平均粒径、空隙率及び平均空孔径を有する多孔質無機微粒子以外の無機質フィラー、カップリング剤、レベリング剤等の他の成分を含有していてもよい。
【0035】
本発明の樹脂組成物を製造するには、多孔質無機微粒子と絶縁性樹脂に、必要に応じて他の成分を加え、さらに必要に応じて溶剤と均一に混合すればよい。また、溶剤を用いずに溶融混練を行ってもよい。
多孔質無機微粒子は、あらかじめ平均粒径を本発明で用い得る範囲内に調整してから絶縁性樹脂と混合してもよいが、空隙率と平均空孔径が本発明で用い得る範囲内であるが、平均粒径が本発明で用い得る範囲よりも大きい粗粒子又は塊状の多孔質無機材料を、そのまま絶縁性樹脂に添加し、樹脂を混練する工程で粗粒子を所定の平均粒径となるまで粉砕してもよい。この方法によれば、粗粒子の粉砕と樹脂中への分散を同時に行うことができる。
例えば、前述した擬分相させた凝集体を用いる場合には、溶剤溶出を行うと、通常は大粒径の粗粒子又は塊状の凝集体が得られるので、これをそのまま絶縁性樹脂中に投入し、樹脂と混練することにより、樹脂組成物を効率良く生産することができる。溶剤溶出を行うと、通常は大粒径の粗粒子又は塊状の凝集体が大きすぎる場合には、混練による平均粒子径の最終調整を補助するために、あらかじめ平均粒径が50μm超〜200μmの範囲内、或いは、粒径分布が10〜500μmの範囲内となるように予備粉砕と分級を行ったものを樹脂と混練することが好ましい。
【0036】
図2に、本発明の樹脂組成物を用いて形成した製品の樹脂部分又は樹脂成形体の温度と線熱膨張係数の関係を概念的に説明する図であり、図中、線Aは、本発明の樹脂組成物を用いる場合の典型的な温度−線熱膨張係数推移モデルであり、線B及び線Cは本発明の樹脂組成物を用いる場合の温度−線熱膨張係数推移モデルの他の例であり、線Dは電子部品用途で従来から用いられている無機質フィラー添加樹脂の温度−線熱膨張係数推移モデルである。
従来の無機質フィラー添加樹脂を加熱すると、線Dに示すように、ガラス転移温度に達するまで線熱膨張係数が漸増し、ガラス転移温度を超えると、線熱膨張係数の増加率が急峻となる。
【0037】
これに対して、本発明の樹脂組成物を用いて形成した製品の樹脂部分又は樹脂成形体を加熱すると、線A、線B及び線Cに示すように、ガラス転移温度に達するまでは従来の無機質フィラー添加樹脂を用いる場合と同様に線熱膨張係数が漸増するが、ガラス転移温度以上になると、線熱膨張係数の増加傾向が頭打ちとなり、好ましい場合には、むしろ線熱膨張係数が減少傾向に変わる。
すなわち、本発明の樹脂組成物を硬化又は固化させた樹脂のガラス転移温度以上の温度領域における熱膨張率は、ガラス転移温度よりも低い温度領域における熱膨張率と比べて大きい場合でも極端に大きな差ではなく、線Cのようにグラフの傾きが緩くなるか、線Bのようにグラフの傾きがほとんどなくなって平坦化するか、好ましい場合には、線Aのようにガラス転移温度よりも低い温度領域における熱膨張率と比べて熱膨張率の値が小さくなり、グラフの傾きが逆転する。
【0038】
本発明の樹脂組成物の硬化物又は固化物が上記したような熱膨張抑制の効果を有する原理は、次のように推測される。
本発明の樹脂組成物を硬化又は固化させて形成した樹脂部分は、樹脂成分と共に特定範囲の平均粒径、空隙率及び平均空孔径を有する多孔質無機微粒子が含有している。このような樹脂部分がガラス転移温度以上に加熱されると、多孔質無機微粒子の空孔近傍の樹脂成分が微視的に液状又は流動性の挙動を示し、熱膨張した容積分の一部又は全て、さらに好ましくは膨張した容積分を超える量の樹脂成分が、空孔内に入り込む。
また、加熱された樹脂が再びガラス転移温度よりも低い温度に戻る場合には、冷却により収縮した容積分の樹脂成分が、その流動性を残しているうちに空孔から外部へ出て行く。
このような多孔質無機微粒子による樹脂成分の吸蔵、放出作用によって、ガラス転移温度以上の温度領域における熱膨張率が十分に低減されると考えられる。
【0039】
また、本発明の樹脂組成物は、ガラス転移温度よりも低い温度領域においても、従来の無機質フィラー添加樹脂と比べて、温度上昇に依存して熱膨張率が増加する傾向を抑制する効果が高い。このような効果は、樹脂組成物中の樹脂成分が、ガラス転移温度よりも低い温度領域においても微視的な流動性の挙動を僅かながら示し、熱膨張した容積分の一部又は全てが空孔内に入り込むためと推測される。
【0040】
本発明の樹脂組成物の硬化物又は固化物は、空間的に拘束された方向の熱膨張抑制の効果が高いが、空間的に拘束されていない方向の熱膨張抑制の効果は、拘束されている方向のそれと比べると弱い。これは、樹脂が空間的に拘束された方向では、微視的に流動性を持った樹脂成分の熱膨張した分が、多孔質無機微粒子の空孔内に逃げるためと考えられる。
従って、本発明の樹脂組成物を硬化又は固化させた樹脂部分が積層構造の中間に配置されているような状態においては、樹脂部分は上下方向が拘束されているため、上下方向の熱膨張が十分に低減される。
また、本発明の樹脂組成物を硬化又は固化させた樹脂フィルムが、他の構造体によって拘束されていない場合でも、フィルムの平面方向は隣接しあうポリマー分子相互の体積排除作用によって、フィルムの鉛直方向と比べて空間的に拘束されているので、フィルムの平面方向の熱膨張が十分に低減される。
【0041】
本発明による熱膨張抑制の効果は、以上に述べたような原理によると推測されるので、本発明の樹脂組成物を用いる場合には、当該樹脂組成物により形成される樹脂部分の少なくとも熱膨張を抑制したい方向を拘束できる構造体とすることが好ましい。
例えば、本発明の樹脂組成物を用いて電子部品内の絶縁層を形成する場合には、絶縁層を多層構造体の中間層として用いるか、或いは、絶縁層の周囲を封止剤により封止することが好ましい。絶縁層を含む多層構造体を作る方法としては、例えば、以下に示す2つの製造方法が挙げられる。
第一の製造方法:
a. コア基板の表面に導電体からなる所望の回路パターンを形成する工程、
b. 本発明の絶縁性樹脂組成物を銅箔に塗布して、銅箔付き樹脂層(絶縁層)を形成する工程、
c. 上記コア基板付き回路パターンの回路パターンと、上記銅箔付き樹脂層の樹脂層(絶縁層)とが接するように貼り合わせてプレス積層する工程、
d. 前工程で得た構造体の銅箔上に、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成する工程、
e. 化学エッチングによりレジスト被覆部分以外の銅箔を除去する工程、
f. レジストを除去して、上記樹脂層(絶縁層)上に回路パターンを形成する工程、
g. 前工程で得た構造体の樹脂層(絶縁層)において、コア基板の回路パターン上で、前記樹脂層(絶縁層)の回路パターン以外の部位に、レーザー照射により貫通孔をあけてビアホールを形成した後、デスミア処理する工程、
h. ビアホールに無電解銅めっき処理した後、パネルめっき法により、上記樹脂層(絶縁層)上に回路パターンを形成する工程、
i. その後、上記b工程からh工程を繰り返して多層構造体を得る。
第二の製造方法:
a. 支持基材(金属板)の表面に導電体からなる所望の回路パターンを形成する工程、
b. 本発明の樹脂組成物を銅箔に塗布して樹脂層(絶縁層)を形成する工程、
c. 上記支持基材(金属板)付き回路パターンの回路パターンと、上記銅箔付き樹脂層の樹脂層(絶縁層)とが接するように貼り合わせ、プレス積層する工程、
d. 前工程で得た積層体の銅箔をエッチングにより除去する工程、
e. 前工程で得た積層体の樹脂層(絶縁層)の層間接続用導体を形成する位置に、レーザー穴あけによりビアホールを形成する工程、
f. ビアホールに無電解銅めっきにより層間接続用導体を形成する工程、
g. 上記支持基材(金属板)をエッチングにより除去して、回路パターンと層間接続用導体と絶縁層を有する構造体を得る工程、
h. 上記工程で得られる構造体を複数枚積層し、プレスして多層構造体を得る。
【0042】
さらに、本発明の樹脂組成物を用いて製品の樹脂部分又は樹脂成形体を形成する場合は、フィラー充填により誘電率が増加する傾向を抑制する効果が高い。一般に、従来の無機質フィラーを用いる場合には、樹脂中の充填量が大きいほど誘電率が増加する。これに対し本発明においては、樹脂組成物に添加される多孔質無機微粒子内の空孔が気体を含んでいるために、このような誘電率を低く抑える効果が得られる。
【0043】
本発明の樹脂組成物の硬化物又は固化物は、上記したような優れた特性を有しているので、さまざまな製品の樹脂部分又は樹脂成形体を形成するための成形材料として用いられ、特に絶縁性が要求される部分や部品等の材料として用いられる。
本発明の樹脂組成物は、例えば、多層配線板や集積回路のような回路基板や半導体装置などの電子部品の絶縁層や封止層、或いは電子部品に隣接配置される絶縁板をはじめとし、電子部品内の構成部分を接合、保護し、或いは、構成部分そのものを形成し、或いは、構成部分相互のスペーサーとなる材料として特に好適に用いられる。
【0044】
本発明の樹脂組成物により形成されている樹脂部分が、電子部品内において半導体又は金属で形成された部分に隣接して設けられる場合には、樹脂部分の熱膨張率とシリコン又は金属からなる部分の熱膨張率の値が近い。
従って、例えば、本発明の樹脂組成物を用いて電子部品内の絶縁層や封止層を形成する場合には、その電子部品が樹脂のガラス転移温度以上に加熱されたとしても、樹脂部分とシリコン又は金属からなる部分とが接合した界面又はその近傍は破壊されにくいため、電子部品の高い信頼性が得られる。
【0045】
さらに、本発明によれば、電子部品が樹脂のガラス転移温度以上に加熱された場合に破壊されにくいだけでなく、誘電率を低く抑えた、信頼性の高い電子部品が得られる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
(1)多孔質無機粗粒子の作製
本実施例では、無機ナノ微粒子としてシリカゾル、及び、孔形成剤としてKBrを使用した。
先ず、ビーカーに水(HO)を50cc、平均粒子径12nmのシリカ粒子を水溶液中に分散させたシリカゾル(日産化学工業(株)製スノーテック30)を11g、孔形成剤としてKBrを10g、シリカゾルのゲル化防止のために硝酸をpH4.0程度となるように順に加え、攪拌した。次に、攪拌した試料をシャーレに移し、ホットプレートで100℃〜120℃で乾燥した。乾燥した試料を粉砕し、70〜300メッシュの粒度に分級を行った。そして、分級後の試料を焼成皿に載せ、全自動開閉式管状路(ISUZU製EKRO−23)にて600℃で2時間焼成した。昇温過程は、20℃から3℃/minの速さで昇温し、600℃で2時間ホールドし、そこから20℃まで5℃/minの速さで冷却した。
焼成した試料を80℃の熱水中で湯洗し、焼成体中のKBrを溶解、除去した。湯洗が終了した試料を真空乾燥し、SiO骨格の多孔質材料のみからなる、平均粒径100μm、空孔径が20nm程度、密度が0.725g/ccの粗粒子(多孔質無機粗粒子)が得られた。
【0048】
(2)多孔質無機粗粒子含有ワニスの作製
ノルボルネン樹脂(プロメラス(株)製Avatrel EMP)溶液50gに、上記(1)の手順で作製した多孔質無機粗粒子を11.65g添加し、フィラー(多孔質無機粗粒子)充填率50質量%のワニスを調製した。このワニスを三本ロールで、50μm、10μmのギャップにて混練、粉砕し、平均粒径5μmの多孔質無機微粒子を含有するワニスを得た。
【0049】
(3)多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムの作製
離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、上記(2)の手順で作製した多孔質無機粗粒子含有ワニスをアプリケーターで塗布し、80℃で10分間、引き続き140℃で10分間、乾燥することで、膜厚100μm程度の多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムを得た。
【0050】
(4)線熱膨張率の測定
上記(3)の手順で作製した多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムについて、TMA(熱機械的分析:Thermal Mechanical Analysis)により線熱膨張率を測定した。得られた温度−線熱膨張係数推移データのグラフを図3に示す。
【0051】
(5)誘電率の測定
上記(3)の手順で作製した多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムの誘電率を測定した。測定は、円筒空洞共振機を用いた摂動法で行い、マイクロ波ネットワークアナライザHP8510B(Agilent Technologies社)を用い、周波数1GHz及び10GHzにおける誘電率を測定した。得られたデータを表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例2)
(1)多孔質無機粗粒子含有ワニスの作製
ノルボルネン樹脂(プロメラス(株)製Avatrel 2000P)のメシチレン溶液に、実施例1の手順(1)で作製した多孔質無機粗粒子を添加し、フィラー(多孔質無機粗粒子)充填率50質量%のワニスを調製した。このワニスを三本ロールで、50μm、10μmのギャップにて混練、粉砕し、平均粒径5μmの多孔質無機微粒子を含有するワニスを得た。
【0054】
(2)多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムの作製
上記(1)の手順で作製した多孔質無機粗粒子含有ワニスを用いたこと以外は、実施例1の手順(3)と同様に行って、膜厚100μm程度の多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムを得た。
【0055】
(3)線熱膨張率の測定
上記(2)の手順で作製した多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムについて、実施例1の手順(4)と同様に線熱膨張率を測定した。得られたデータを図4に示す。
【0056】
(比較例1)
ノルボルネン樹脂(プロメラス(株)製Avatrel EMP)溶液50gに、球状シリカフィラー(ADMATEC(株)製SE-2100, 500nm)を11.65g添加し、フィラー充填率50質量%のワニスを調製した。このワニスを三本ロールで、50μm、10μmのギャップにて混練し、球状シリカフィラー含有ワニスを得た。
上記球状シリカフィラー含有ワニスを用いたこと以外は、実施例1の手順(3)と同様に行って、膜厚100μm程度の球状シリカフィラー含有樹脂フィルムを得た。
得られた球状シリカフィラー含有樹脂フィルムについて、実施例1の手順(4)と同様に線熱膨張率を測定した。得られたデータを図5に示す。
また、球状シリカフィラー含有樹脂フィルムについて、実施例1の手順(5)と同様に誘電率を測定した。得られたデータを表1に示す。
【0057】
(結果のまとめ)
比較例1の球状シリカフィラー含有樹脂フィルムのガラス転移温度は246℃であり、その線熱膨張率は、ガラス転移温度よりも低い温度領域からガラス転移温度以上の温度領域にかけて漸増した。特に、グラフの傾きがガラス転移温度を超えてから急峻化し、ガラス転移温度以上の温度領域における線熱膨張率の増加率が、ガラス転移温度よりも低い温度領域における線熱膨張率の増加率と比べて大きいことが認められた。
【0058】
これに対し、実施例1は球状シリカフィラーを用いたのか或いは多孔質無機微粒子を用いたかだけの相違であり、同じ絶縁性樹脂を用い、フィラー充填率も同じである。この実施例1の多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムの樹脂フィルムのガラス転移温度は230℃であり、その線熱膨張率は、ガラス転移温度よりも低い温度領域において漸増したが、グラフの傾きがガラス転移温度を超えてから逆転し、ガラス転移温度以上の温度領域においては温度上昇に伴って線熱膨張率が減少した。
【0059】
また、実施例1の多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムは、ガラス転移温度よりも低い温度領域においても、同温度での線熱膨張率、及び、線熱膨張率の増加率が比較例1と比べて小さいことが認められた。
【0060】
また、比較例1の球状シリカフィラー含有樹脂フィルムの誘電率は、1GHzにおいて2.7であり、10GHzにおいて2.5であった。これに対し、実施例1の多孔質無機微粒子含有樹脂フィルムの誘電率は、1GHzにおいて2.2であり、10GHzにおいて2.0であった。この結果から、多孔質無機微粒子そのものが絶縁性樹脂を用いた樹脂組成物の誘電率を低くする作用があることが分かる。
【0061】
実施例2の多孔質無機微粒子含有樹脂フィルム(Tg:228℃)の線熱膨張率の温度推移も、実施例1と同様の挙動を示した。
【符号の説明】
【0062】
1 無機ナノ微粒子の水分散液
2 無機ナノ微粒子
3 無機塩の水溶液
4 固化物
5 無機塩の析出体
6 凝集体
7 中空部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1〜50μm、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmである多孔質無機微粒子、及び、絶縁性樹脂を含有することを特徴とする絶縁性樹脂組成物。
【請求項2】
前記多孔質無機微粒子は、平均粒径が100nm以下の無機微粒子(以下、特許請求の範囲において「無機ナノ微粒子」という)の凝集体からなるものである請求項1に記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項3】
前記凝集体は、溶剤中に前記無機ナノ微粒子を分散させ、且つ溶質を溶解させてなる無機ナノ微粒子の分散液を乾燥焼成し、得られた焼成体から前記溶質を溶剤で溶出することにより得られたものである請求項2に記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項4】
前記凝集体は、前記無機ナノ微粒子を無機塩の水溶液中に分散、乾燥し焼成して得られた焼成体から無機塩を水で溶出することにより得られたものである請求項2又は3に記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項5】
前記多孔質無機微粒子を固形分比で10〜90質量%の割合で含有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項6】
ガラス転移温度以上の温度領域での熱膨張率が、ガラス転移温度未満の温度領域での熱膨張率より低い、請求項1乃至5のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項7】
平均粒径が50μm超、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmである粗粒子又は塊状の多孔質無機材料を、絶縁性樹脂と混練して、前記粗粒子を平均粒径が1〜50μmの多孔質無機微粒子に粉砕し、前記絶縁性樹脂中に分散させることを特徴とする、絶縁性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質無機材料及び前記多孔質無機微粒子は、無機ナノ微粒子の凝集体からなるものである、請求項7に記載の絶縁性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
平均粒径が1〜50μm、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmである多孔質無機微粒子、及び、絶縁性樹脂を含有する絶縁性樹脂組成物で形成されている部分を含むことを特徴とする電子部品。
【請求項10】
前記多孔質無機微粒子は、無機ナノ微粒子の凝集体からなるものである請求項9に記載の電子部品。
【請求項11】
前記絶縁性樹脂組成物で形成されている部分が、半導体又は金属で形成された部分に隣接して設けられている請求項9又は10に記載の電子部品。
【請求項12】
前記絶縁性樹脂組成物で形成されている部分は、ガラス転移温度以上の温度領域での熱膨張率が、ガラス転移温度未満の温度領域での熱膨張率より小さい、請求項9乃至11のいずれかに記載の電子部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−46755(P2012−46755A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209237(P2011−209237)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2004−264216(P2004−264216)の分割
【原出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集1」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】