説明

絶縁性樹脂組成物およびその用途

【課題】電気・電子用部品として好適な電気絶縁性と高熱伝導性とを有する絶縁性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】成分(A)熱可塑性樹脂、(B)アルミナを主成分とする数平均繊維径1〜50μmの繊維を造粒せしめて得られる数平均粒径が0.5〜5mmである粒状物および(C)300Kでの電気抵抗率が102Ωm以下である材質からなるフィラーを含む絶縁性樹脂組成物。該絶縁性樹脂組成物においては、成分(A)100重量部に対して成分(C)が1〜50重量部であると好ましい。該熱伝導性樹脂組成物は電気・電子部品として好適な電気絶縁性を維持しつつ、極めて優れた高熱伝導性を発現することができるので、電装部品絶縁板等の電気・電子部品や自動車・車両関連部品などの放熱部材等に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性で熱伝導性に優れた成形体を与える絶縁性樹脂組成物およびそれを用いてなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品の分野では、その小型化、高性能化にともない、当該部品内での発熱が問題視されている。かかる発熱に対して放熱対策が不十分であると、熱の蓄積による電気・電子部品の性能低下が生じることが懸念され、このような問題を解消することに加え、発熱に伴う安全性を確保する観点からも、電気・電子部品に使用される部材には、高い熱伝導性を有することが重要視されてきている。
これまで、高い熱伝導性を必要とする部品には、主として金属材料が用いられてきたが、金属材料は部品の小型化に適合する上で、軽量性や成形加工性の面で難があり、樹脂材料への代替が進んでいる。
【0003】
しかしながら、樹脂材料は一般に熱伝導性が低く、樹脂材料自体の高熱伝導化は困難であることから、高熱伝導率性を有する充填剤(以下、「熱伝導性フィラー」と呼ぶことがある。)を添加してなる熱伝導性樹脂組成物が種々検討されている。成形体に良好な熱伝導性を発現させるには、前記熱伝導性フィラーによって成形体中に、熱伝導に係る経路(熱伝導経路)を効率よく生成させることが必要である。このような観点から繊維状の熱伝導性フィラー(繊維状熱伝導性フィラー)を用い、繊維状である点を生かして、熱伝導経路を成形体中に生成させるといった試みが散見されている。例えば、特定の繊維長の炭素繊維を集束させてなる熱伝導性フィラーを熱可塑性樹脂に配合した組成物(特許文献1参照)や、窒化アルミニウム繊維と高熱伝導性無機粉末とを熱可塑性樹脂に配合した組成物(特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−157403号公報(段落[0023]〜[0026])
【特許文献2】特開平8−283456号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の組成物から得られる成形体は、主として炭素繊維から熱伝導経路が生成する。炭素繊維から生成する熱伝導経路は、熱伝導性を発現するとともに、導電性を発現するので、電気絶縁性を必要とする電気・電子部品に適用するには不向きである。一方、前記特許文献2に開示された組成物から得られる成形体は、その熱伝導性は十分といえるものではなかった。
かかる状況下、本発明の目的は、電気・電子部品に適用する上で十分な電気絶縁性を有しつつ、これまで開示されている組成物を用いてなる成形体に比して、極めて優れた熱伝導性を有する成形体、該成形体を形成し得る絶縁性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1]下記の成分(A)、(B)および(C)を含む絶縁性樹脂組成物。
(A)熱可塑性樹脂
(B)アルミナを主成分とする数平均繊維径1〜50μmの繊維を造粒せしめて得られる数平均粒径が0.5〜5mmである粒状物
(C)300Kでの電気抵抗率が102Ωm以下の材質からなるフィラー
を提供するものである。
【0007】
ここで、「粒状」の定義は、その粒子の長径と短径の比率から求められるアスペクト比(長径/短径)が1〜2の範囲であることを示す。また、「数平均粒径」とは、該粒状物の走査型電子顕微鏡もしくは光学顕微鏡による外観観察において、測定個数100個以上の粒状物について長径、短径を測定し、その算術平均で求められた値を示すものである。また、使用する繊維フィラーの「数平均繊維径」は繊維を測定個数1000個以上撮影し画像処理装置によって二値化して求められるものである。
また、「絶縁性樹脂組成物」とは、当該樹脂組成物を通常の手段を用いて成形体を得たとき、該成形体が電気絶縁性を発現することを意味する。一般的には、成形体の電気抵抗率が1012Ωm以上であれば、電気・電子部品用途として十分な電気絶縁性を有するといえる。
【0008】
また、本発明は前記[1]の各成分に係る好適な実施形態として、下記の[2]〜[9]を提供する。
[2]成分(A)100重量部に対して、成分(C)が1〜50重量部である、[1]の絶縁性樹脂組成物。
[3]成分(C)が炭化ケイ素粒子、グラファイトからなるフィラーおよび炭素繊維から選ばれるフィラーである、[1]または[2]の絶縁性樹脂組成物。
[4]成分(B)が、アルミナを主成分とする嵩密度0.2〜1.0g/cm3の繊維を造粒せしめて得られる粒状物である、[1]〜[3]のいずれかの絶縁性樹脂組成物。
[5]成分(B)が、アルミナを主成分とする繊維を攪拌造粒せしめて得られる粒状物である、[1]〜[4]のいずれかの絶縁性樹脂組成物。
[6]成分(A)100重量部に対して、成分(B)が10〜400重量部である、[1]〜[5]のいずれかの絶縁性樹脂組成物。
[7]成分(A)がポリフェニレンサルファイドを含む、[1]〜[6]のいずれかの熱伝導性樹脂組成物。
[8]成分(A)が液晶ポリエステルを含む、[1]〜[6]のいずれかの絶縁性樹脂組成物。
[9]前記液晶ポリエステルが、下記に定義される流動開始温度が280℃以上の液晶ポリエステルである、[8]の絶縁性樹脂組成物。
流動開始温度:内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、100kg/cm2の荷重下において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が48000ポイズを示す温度
[10]前記液晶ポリエステルが、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が全構造単位の合計に対して30〜80モル%、
ヒドロキノンに由来する構造単位および4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位の合計が、全構造単位の合計に対して10〜35モル%、
テレフタル酸に由来する構造単位、イソフタル酸に由来する構造単位および2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の合計が、全構造単位の合計に対して10〜35モル%、
からなる液晶ポリエステルである、[8]または[9]の絶縁性樹脂組成物。
【0009】
さらに本発明は、より高水準の熱伝導性を発現する観点から、下記の[11]〜[13]を提供する。
[11]さらに下記の成分(D)を含む、[1]〜[10]のいずれかの絶縁性樹脂組成物。
(D)アルミナ微粒子
[12]成分(D)が、数平均粒径0.1〜100μmのアルミナ微粒子である、[11]の絶縁性樹脂組成物。
[13]成分(A)100重量部に対して、成分(D)が5〜250重量部である、[11]または[12]の絶縁性樹脂組成物
【0010】
前記いずれかの絶縁性樹脂組成物から得られる成形体は、熱伝導性および電気絶縁性を高水準で両立することを可能とする。したがって、本発明は下記の[14]および[15]を提供する。
[14][1]〜[13]のいずれかの絶縁性樹脂組成物を成形して得られる成形体
[15]300Kでの電気抵抗率が1012Ωm以上であり、かつ1mmtの絶縁破壊電圧が2kV/mm以上である、[14]の成形体
【発明の効果】
【0011】
本発明の絶縁性樹脂組成物によれば、高度の熱伝導性を有し、電気・電子部品として極めて優れた電気絶縁性を有する成形体を得ることができる。特に、該成形体は電気・電子部品に係る部材として好適であることから、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態に関して詳細に説明する。
【0013】
<成分(C)>
まず、成分(C)について説明する。本発明において使用される成分(C)は、300Kでの電気抵抗率が102Ωm以下の材質からなるフィラーである。
【0014】
より具体的には、Au(3×10-8Ωm)、Ag(2×10-8Ωm)、Cu(2×10-8Ωm)等の金属、炭化ケイ素(1×10-6Ωm)、グラファイト(1×10-5Ωm)等の材料からなるフィラー、炭素繊維(3×10-6Ωm)を挙げることができ、これらの群より選ばれるフィラーが好ましく用いられる。特に炭化ケイ素からなるフィラー、グラファイトからなるフィラーまたは炭素繊維が好ましい。ここで、括弧内の数値は、各々の、300Kでの電気抵抗率を示す。
【0015】
炭化ケイ素からなるフィラーは、数平均粒径が0.1〜30μm、好ましくは、0.5〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmの粒子状のフィラー(炭化ケイ素粒子)がよい。数平均粒径がこの範囲であれば、得られる成形体の表面を著しく悪化させることがないので、外観に優れた成形体が得られ易く、熱伝導性の向上効果も十分となる。また数平均粒径がこの範囲であれば、絶縁性樹脂組成物の成形性も良好になるという利点もある。
このような炭化ケイ素粒子としては、例えばOYシリーズ(屋久島電工(株)製)が挙げられる。
【0016】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維が好ましい。該炭素繊維は、測定温度300Kにおける熱伝導率が、通常100W/mK以上のものであるが、120W/mK以上が好ましく、200W/mK以上であることが、さらに好ましい。繊維径は1〜20μmが好ましく、5〜15μmが、さらに好ましい。
このような炭素繊維としては、例えばダイアリード(三菱化学産資(株)製)、またはグラノック(日本グラファイトファイバー(株)製)が挙げられる。
【0017】
グラファイトは、天然グラファイト、人造グラファイトのいずれも入手可能であり、どちらを使用してもよいが、とりわけ天然グラファイトが好ましい。このようなグラファイトからなるフィラー(グラファイトフィラー)の形状については、鱗片状および球状のいずれでもよい。また、グラファイトフィラーの数平均粒径は30〜300μmであれば、十分使用可能であるが、とりわけ30〜100μmであると好ましい。グラファイトフィラーの数平均粒径がこの範囲にあると、熱可塑性樹脂、特に後述する液晶ポリエステルに配合した際の、高熱伝導率化と成形加工性のバランスが良いため好ましい。また、グラファイトフィラーの数平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定法を用いて、容易に求めることが可能であり、レーザー回折式粒度分布測定法を用いて求められた数平均粒径から、本発明に適用する上で好ましいグラファイトフィラーを選択することができる。
なお、市場から容易に入手できるグラファイトフィラーとしては、鱗片状黒鉛粉末あるいは球状化黒鉛粉末(日本黒鉛工業(株)製)、または鱗状黒鉛(西村黒鉛(株)製)等がある。
これらグラファイトフィラーの例示の中でも、鱗片状グラファイトであると、絶縁性樹脂組成物の成形性がより良好となるので好ましい。また、鱗片状グラファイトは粒子状グラファイトよりも安価であるという利点もある。
【0018】
一般に物質の熱伝導率と電気抵抗率は反比例することが知られており、前記背景技術に記したように、高熱伝導性フィラーとして、金属材料や炭素繊維といった電気抵抗率の低い材料(低電気抵抗率材料)を用いると、得られる成形体の電気絶縁性は損なわれる傾向がある。したがって、これまでの電気絶縁性を必要とする電気・電子部品には、そのような低電気抵抗率材料の使用は制限されていた。本発明者らは、このような低電気抵抗率材料からなるフィラーの高い熱伝導性を活かしつつ、且つ十分な電気絶縁性が維持される成形体を生成し得る樹脂組成物に関して検討したところ、低電気抵抗率材料からなるフィラーと後述する成分(B)とを併用することにより、電気絶縁性と熱伝導性とを高水準で両立できる成形体が得られることを見出した。
かかる効果が発現する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者等は次のように推定している。すなわち、低電気抵抗率材料からなるフィラーを、フィラー同士が接触し導電パスが形成される濃度(パーコレーション濃度)以下の割合で充填し、低電気抵抗率材料からなるフィラー同士の間に、成分(B)が効率的に配されると、熱伝導経路が複数の材料で構成されることとなる。その結果として、当該熱伝導経路は電気絶縁性が保持されたまま、高度の熱伝導性を発現すると推定される。
【0019】
また、低電気抵抗率材料からなるフィラー同士を、適当な電気絶縁体で連結するようにして熱伝導経路が生成したとしても、低電気抵抗率材料からなるフィラー同士の間で、いわゆるトリー絶縁破壊が生じて、得られる成形体の絶縁耐圧は著しく低くなる恐れがある。しかしながら、本発明の絶縁性樹脂組成物から得られる成形体は、驚くべきことに、このような絶縁破壊が極めて十分に抑制され、電気・電子部品に必要とされる絶縁耐圧(絶縁破壊電圧1kV/mm以上)を容易に達成できるという、優れた効果を発現することができる。
【0020】
前記成分(C)の配合量は、上述のように、得られる成形体中のパーコレーション濃度以下になるようにして選択することが好ましく、このようなパーコレーション濃度以下に制御するには成分(A)の種類によって成分(C)の配合量を最適化する必要がある。成分(A)に対する成分(C)の好ましい配合量を示すと、成分(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して、成分(C)は1〜50重量部であると好ましく、1〜40重量部であると、より好ましく、5〜40重量部であると、さらに好ましい。成分(C)の配合量が前記の範囲であると、電気絶縁性が十分維持され、一層高度の熱伝導性を有する成形体を得ることができる。
【0021】
<成分(B)>
次に、成分(B)の粒状物に関して説明する。該粒状物は前記のとおり、特定の数平均繊維径を有する、アルミナを主成分とする繊維(アルミナ繊維)を造粒して得られるものである。このような粒状物が前記成分(C)との相乗効果により、電気絶縁性および熱伝導性を高水準で両立できる。
ここで、「アルミナを主成分とする繊維」とは、アルミナ、すなわち酸化アルミニウム(Al23)を50重量%以上含有する繊維を意味する。ここで、酸化アルミニウムの含量は、当該繊維中70重量%以上であるとより好ましく、90重量%以上であると、特に好ましい。
また、酸化アルミニウム以外の成分としては、通常シリカ(SiO2)分である。
【0022】
この粒状物に使用するアルミナ繊維の数平均繊維径は1〜50μmであり、好ましくは、1〜30μm、さらに好ましくは1〜20μmである。該数平均繊維径が前記の範囲であると、粒状物を得るうえでの造粒加工性が良好であり、造粒加工時に繊維自体が切断されにくいという利点がある。著しく切断されたアルミナ繊維からなる粒状物を成分(B)として用いると、熱伝導性の向上効果に劣る傾向がある。
【0023】
また、前記アルミナ繊維の繊維長は特に限定されないが、通常市場から入手しうるアルミナ繊維の繊維長としては100μm〜100mmのものが入手しやすく、この範囲で使用することができる。より好ましくは、100μm〜80mm、さらに好ましくは150μm〜60mmである。該繊維長が前記の範囲であると、後述する樹脂組成物の成形加工性が良好となるため好ましく、本発明の目的である熱伝導性がより向上することからも好ましい。
【0024】
具体的に市場から容易に入手できるアルミナ繊維を例示すると、例えばアルテックス(住友化学(株)製)、デンカアルセン(電気化学工業(株)製)、マフテックバルクファイバー(三菱化学産資(株)製)、もしくはサフィルアルミナファイバー((株)サフィルジャパン)等が挙げられる。
【0025】
さらに、前記アルミナ繊維はJISK5101−12で求められる嵩密度が0.2〜1.0g/cm3の繊維であると好ましい。このような繊維を用いると、粒状物の製造が、より容易になることに加え、後述する樹脂組成物から得られる成形体の熱伝導性がより向上する。該嵩密度は0.2〜0.5g/cm3であると、さらに好ましく、0.2〜0.4g/cm3であると一層好ましく、0.2〜0.35g/cm3であると特に好ましい。また、かかる嵩密度のアルミナ繊維は、綿状の形態となり得る場合もあるが、後述する造粒によって、本発明の樹脂組成物を調製する際に、より操作性に優れる粒状物とすることができる。
前記のアルミナ繊維を造粒することで、成分(B)粒状物が得られる。造粒方法としては、攪拌造粒、振動造粒あるいは解砕造粒等の公知の方法を用いることができるが、とりわけ、攪拌造粒が好ましい。なお、攪拌造粒に適用する攪拌機としては、タンブラー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダーあるいはヘンシェルミキサーなどを用いることができ、短時間で処理できる点でヘンシェルミキサーが好適である。
【0026】
該粒状物の数平均粒径としては0.5mm〜5mm、さらに好ましくは1mm〜2mm、特に好ましくは、1mm〜1.5mmとするのがよい。該数平均粒径が0.5mm以上であると、作業性、とりわけ後述の樹脂組成物を得る際に作業性が良好であり、5mm以下であると、該樹脂組成物を溶融して成形体を得るうえで、溶融樹脂中の粒状物の分散性が良好となり、いずれも成形加工性が良好となるため好ましい。このような数平均粒径の粒状物を得るには、前記の攪拌機によって処理条件が異なるが、通常、攪拌速度と攪拌時間でコントロールすることができ、予備実験を経て最適条件を求めることができる。また、このようにして造粒した後、分級操作によって微粒粒子、粗大粒子を除去して、数平均粒子径0.5〜5mmの粒状物を得ることもできる。該分級操作としては、湿式分級操作として、ドルコサイザー、サイホンサイザー、レーキ分級機、スパイラル分級機などを使用した分級操作、乾式分級操作として、遠心分級機、慣性分級機、篩などを使用した分級操作を挙げることができる。
【0027】
攪拌造粒する方法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、粉体の造粒に使われている前記の攪拌機を用いる方法や、適当な溶媒中にアルミナ繊維を混入し、攪拌、乾燥する方法や、適当な溶媒を噴霧しながらミキサー等で攪拌し、乾燥する方法が挙げられる。さらに、アルミナ繊維の凝集体に適当な溶剤を噴霧しながらミキサー等で攪拌し、乾燥する方法でもよい。ここで、使用する溶媒としては、水、有機溶剤あるいはその混合物を使用することができるが、好ましくは水または水を主成分とする水/有機溶媒混合物を溶媒として用いると好ましく、水を用いると特に好ましい。
【0028】
さらに、本発明の攪拌造粒は、前記溶媒中に収束剤を含んでいてもよい。
収束剤としては、特に制限はなく各種のものを用いることができるが、具体例としてはシラン系およびチタネート系カップリング剤を挙げることができる。
シラン系カップリング剤としては、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−スチリルエチルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン等が挙げられ、これらを単独、あるいは二種以上を混合して使用することができる。
チタネート系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N,N−ジアミノエチル)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルフォスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジドデシルフォスフェート)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)フォスフェートチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)エチレンチタネート等が挙げられ、これらを単独、あるいは2種以上を混合して使用することができる。また、シラン系カップリング剤とチタネート系カップリング剤を併用することもできる。
【0029】
カップリング剤の処理量としては、アルミナ繊維の合計量100重量部に対して5重量部以下、好ましくは2重量部以下でよい。本発明に使用する粒状物は、カップリング剤のような収束剤による熱伝導性の向上はほとんど認められず、逆に処理量が多すぎると、得られる成形体の熱伝導率や機械物性を低下させる傾向があり好ましくないが、少量のカップリング剤にて処理した繊維フィラーから得られる粒状物は、混合する樹脂との親和性を高め、後述する樹脂組成物を成形する際のフィード性を向上するという利点もある。
かくして、成分(B)粒状物を得ることができるが、さらに必要に応じて、前記の分級操作によって粒状物の数平均粒径を、本発明の範囲に調整することもできる。
【0030】
前記成分(B)の配合量は、前記成分(C)と併用され、高水準の熱伝導性と電気絶縁性を発現する範囲において設定される。具体的には、成分(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して、成分(B)が10〜400重量部であると好ましく、10〜300重量部であると、さらに好ましい。成分(C)の配合量が前記の範囲であると、電気絶縁性および熱伝導性をより高水準で両立させることができる。
【0031】
<成分(A)>
本発明に適用する成分(A)熱可塑性樹脂は、成形温度(溶融温度)が200〜450℃で成形できるものが好ましく、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール、飽和ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリールスルホン、ポリアリールケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイドスルフォン、ポリアリレート、ポリアミド、液晶ポリエステル、フッ素樹脂等が挙げられ、これらはいずれも、電気絶縁体に相当する。かかる群から選ばれる熱可塑性樹脂を単独で用いることもでき、または二種以上の熱可塑性樹脂を組み合わせてポリマーアロイとして用いることもできる。
【0032】
前記の熱可塑性樹脂の中でも、液晶ポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド4/6またはポリアミド6Tが、より耐熱性に優れていることから好ましい。これらの中でも耐熱性等に優れる点で、ポリフェニレンサルファイドや液晶ポリエステルがとりわけ好ましく、さらに薄肉成形性に優れるという点からは液晶ポリエステルが好ましい。このように、薄肉成形性に優れている液晶ポリエステルは、複雑な形状を有する電気・電子部品を成形する上で特に好適である。
【0033】
以下、好適な熱可塑性樹脂である、ポリフェニレンサルファイドおよび液晶ポリエステルについて説明する。
ポリフェニレンサルファイドは典型的には、下記式(10)で表される構造単位を主として含む樹脂である。かかるポリフェニレンサルファイドの製造方法としては、米国特許第2513188号公報、特公昭44-27671号公報に開示されているハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとの反応、米国特許第3274165号公報に開示されているチオフェノール類の、アルカリ触媒または銅塩等の共存下での縮合反応、あるいは特公昭46-27255号公報に開示されている、芳香族化合物と塩化硫黄とのルイス酸触媒下での縮合反応が挙げられる。また、市場から容易に入手可能なポリフェニレンサルファイド(例えば、大日本インキ化学工業(株)から入手できるポリフェニレンサルファイド)を用いてもよい。

【0034】
次に、液晶ポリエステルについて説明する。
該液晶ポリエステルとは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、450℃以下で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。例えば、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの、
(2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られるもの、
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの、
(4)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの等
を具体的に挙げることができる。
【0035】
なお、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールの代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用することにより、液晶ポリエステルを製造することが容易になるため好ましい。
ここで、エステル形成性誘導体とは、分子内にカルボキシル基を有する、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸の場合は、当該カルボキシル基を、高反応性の酸ハロゲン基や酸無水物などの基に転化したもの、あるいは当該カルボキシル基を、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。また、分子内にフェノール性水酸基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールの場合は、当該フェノール性水酸基を、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基が低級カルボン酸類とエステルを形成しているもの等も挙げることができる。
【0036】
さらに、エステル形成性を阻害しない程度であれば、前記の、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールは、その芳香環に、塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基を置換基として有していてもよい。
【0037】
本発明の液晶ポリエステルの、構造単位としては、下記のものを例示することができる。
【0038】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:

前記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0039】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:

前記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0040】
芳香族ジオールに由来する構造単位:

前記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0041】
具体的に液晶ポリエステルを構成する構造単位の組み合わせが、下記(a)〜(f)のものが挙げられる。
(a):(A1)、(B1)、および(C1)からなる組み合わせ、または、(A1)、(B1)、(B2)、および(C1)からなる組み合わせ
(b):(A2)、(B3)、および(C2)からなる組み合わせ、または(A2)、(B1)、(B3)、および(C2)からなる組み合わせ
(c):(A1)および(A2)からなる組み合わせ。
(d):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(A1)の一部または全部を(A2)で置きかえたもの
(e):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(B1)の一部または全部を(B3)で置きかえたもの
(f):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(C1)の一部または全部を(C3)で置きかえたもの
(g):(b)の構造単位の組み合わせにおいて、(A2)の一部または全部を(A1)で置きかえたもの
(h):(c)の構造単位の組み合わせに、(B1)と(C2)とを加えたもの
【0042】
なお、耐熱性、機械的特性、加工性のバランスから特に好ましい液晶ポリエステルは、前記(A1)で表される構造単位を、全構造単位の合計に対して、少なくとも30モル%含むものである。
【0043】
最も基本的な構造となる(a)、(b)の液晶ポリエステルについては、それぞれ、特公昭47−47870号公報、特公昭63−3888号公報等に例示されている。
また、このような液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載の方法など、公知の方法を用いてもよい。すなわち、前記のモノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールまたはこれらのエステル形成用誘導体)を溶融重合せしめ、比較的低分子量の芳香族液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより固相重合するといった方法が挙げられる。このような固相重合を用いると、重合がより進行して、高分子量の液晶ポリエステルを得ることができる。また、このように溶融重合と固相重合とを組合わせてなる液晶ポリエステルの製造方法は、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度を比較的容易に向上させることができる。特に、固相重合の重合条件を適宜最適化することにより、所望の流動開始温度を有する液晶ポリエステルを容易に製造することができる。
【0044】
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、液晶性発現の観点からは、
p―ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が全構造単位の合計に対して30〜80mol%、
ヒドロキノンに由来する構造単位および4,4‘―ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位の合計が全構造単位の合計に対して10〜35mol%、
テレフタル酸に由来する構造単位、イソフタル酸に由来する構造単位および2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の合計が全構造単位の合計に対して10〜35mol%、
である液晶ポリエステルが好ましい。
【0045】
<成分(D)>
本発明の絶縁性樹脂組成物は、上述の成分(A)、(B)および(C)[以下、「成分(A)〜(C)」のようにいうことがある。]を有することで電気絶縁性と高度の熱伝導性とを有する成形体を得ることができるが、熱伝導性フィラーとして、成分(B)および(C)に加えて、成分(D)アルミナ微粒子を共存させると、より一層の熱伝導性の向上が発現されるため好ましい。また、成分(A)熱可塑性樹脂として液晶ポリエステルを適用したとき、得られる成形体が、その熱伝導性に異方性を発現することがある。熱伝導性フィラーとして成分(D)を含有させることにより、このような熱伝導性の異方性の発現を良好に低減することができる。以下、このように、成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)を用いてなる樹脂組成物を、「成分(A)〜(D)を用いてなる樹脂組成物」と略記する。
【0046】
成分(D)として使用される「アルミナ微粒子」としては、αアルミナからなる微粒子が好ましく、酸化アルミニウム(Al23)の含量が95重量%以上であり、数平均粒径が0.1〜100μmであるものが適用されると好ましい。酸化アルミニウムの含量は高い方が熱伝導性の面から有利であり、99重量%以上であると好ましく、99.5重量%以上であるとさらに好ましい。また、平均粒径が前記の範囲であれば、成形加工性に優れるのは、前記成分(B)と同様の理由であり、かかる平均粒径は、0.1〜70μmであるとより好ましく、0.1〜50μmであると、さらに好ましく、0.1〜20μmであると特に好ましい。ここで、数平均粒径とは、走査型電子顕微鏡を使用して粉末微粒子の写真を撮影し、その写真から50〜100個の粒子を選択して画像解析を行って得られた平均値である。また、該アルミナ微粒子は、その累積粒度分布を求めたとき、微粒側からの累積10%、累積90%の粒径をそれぞれD10、D90としたとき、D90/D10が7以下の狭い粒度分布を有していることが好ましい。D10およびD90は、例えば、マスターサイザー(マルバーン社製)を使用し、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される。
【0047】
アルミナ微粒子は、前記の酸化アルミニウム含量と数平均粒径を満足するものであれば、形状としては特に限定されるものではなく、球状、略球状あるいは多面体状のいずれも使用可能である。さらに、アルミナ微粒子の長軸長をL(μm)、短軸長をS(μm)としたときに、L/S比が1.0〜3.0であると好ましい。
【0048】
このようなアルミナ微粒子としては市場から容易に入手できるものを用いることができ、例えば、住友化学(株)製のスミコランダム等が挙げられる。また、昭和電工(株)のアルミナ微粒子もしくは日本軽金属(株)製のアルミナ微粒子等の市販品を成分(D)として用いることもできる。
【0049】
このように、成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)を使用する場合は、成分(A)100重量部に対して、成分(D)が5〜250重量部であると好ましく、10〜200重量部であると、さらに好ましく、20〜150重量部であると特に好ましい。
成分(D)がこの範囲において、熱伝導性の向上効果が極めて優れ、さらに成形性を著しく損なわないという利点がある。
【0050】
<絶縁性樹脂組成物の調製方法および成形体>
成分(B)および成分(C)の組み合わせ、または成分(B)、成分(C)および成分(D)の組み合わせは、成分(A)と配合することで、高熱伝導性を発現する成形体を得ることができる。
【0051】
成形体の製造方法としては、押出成形、射出成形、プレス成形、インフレーション成形等、種々の公知の手段を用いることができる。
【0052】
また、本発明の絶縁性樹脂組成物においては、本発明の企図する効果を損なわない範囲で、ガラス繊維などの充填材、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤、染料,顔料などの着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収材、帯電防止剤、界面活性剤などの通常の添加剤を1種以上添加して用いてもよい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有するものを1種以上添加して用いてもよい。
【0053】
本発明の絶縁性樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、成分(A)〜(C)の組み合わせ、または成分(A)〜(D)の組み合わせを、ヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練する方法が挙げられる。また、押出機による溶融混練時に、成分(A)を第一フィードから、その他の成分をヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて混合した後サイドフィードから供給し、溶融混練する方法が挙げられる。
【0054】
このようにして得られた絶縁性樹脂組成物は目的とする部品の形状によって好適な成形方法を選択することができるが、とりわけ射出成形が好ましい。射出成形を用いると、薄肉部を有するような複雑な形状の成形体を得ることが可能である。
【0055】
このようにして得られる成形体は、300Kでの電気抵抗率が1012Ωm以上であり、かつ1mmtの絶縁破壊電圧が2kV/mm以上の成形体となり得る。かかる成形体は高水準の熱伝導性を有し、成分(C)のように電気抵抗性の低いフィラーを使用しながらも、優れた電気絶縁性と、電気・電子用部品として十分な絶縁破壊電圧を発現するので、電気・電子部品に係る用途に極めて有用である。
なお、電気抵抗率は、本発明の絶縁樹脂組成物から、寸法64mm×64mm×3mmtの成形体を得た後、該成形体をASTMD257に基づいて測定されるものである。
また、絶縁破壊電圧は本発明の絶縁樹脂組成物から、寸法64mm×64mm×1mmtの成形体を得た後、該成形体をJISC2110に記載されている短時間破壊試験を用いて測定されるものである。
【0056】
<絶縁性樹脂成形体の用途>
以下、本発明の絶縁性樹脂組成物からなる成形体の好適な用途について、具体例を示す。
本発明の絶縁性樹脂組成物から得られる成形体の用途としては、電気・電子機器用の筐体や発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネット、ソケット、リレーケース等の電気機器部品用途に適している。また、センサー、LEDランプ、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、コネクター、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハードディスクドライブ部品(ハードディスクドライブハブ、アクチュエーター、ハードディスク基板等)、DVD部品(光ピックアップ等)、コンピューター関連部品等に代表される、稼動によって発熱が生じる電子部品に好適である。
また、半導体素子、コイルなどの封止用樹脂、カメラなどの光学機器用部品、軸受けなどの高い摩擦熱が発生する部品、自動車・車両関連部品などの放熱部材や電装部品絶縁板に適用できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。
【0058】
成分(C)としては下記のものを使用した。
炭化ケイ素1(OY−3、屋久島電工(株)製)
炭素繊維1(ダイアリードK223HG、三菱化学産資(株)製)
グラファイト1(CB−150、日本黒鉛工業(株)製)
【0059】
成分(D)としては下記のものを使用した。
アルミナ微粒子1(アドバンスドアルミナAA−18、住友化学(株)製、数平均粒径18μm、アルミナ含量99.6重量%)
アルミナ微粒子2(アドバンスドアルミナAA−1.5、住友化学(株)製、数平均粒径1.5μm、アルミナ含量99.6重量%)
アルミナ微粒子3(低ソーダアルミナALM−41、住友化学(株)製、数平均粒径1.5μm、アルミナ含量99.9重量%)
アルミナ微粒子4(アドバンスドアルミナAA−03、住友化学(株)製、数平均粒径0.3μm、アルミナ含量99.6重量%)
【0060】
製造例1[粒状物1の製造法]
アルミナ繊維(デンカアルセン、電気化学工業(株)製、アルミナ含量100重量%、数平均繊維径3.2μm、嵩密度0.28g/cm3)を、ヘンシェルミキサー((株)カワタ製スーパーミキサーG100)に投入し、攪拌造粒することにより粒状物1を得た。粒状物3の光学顕微鏡によって求められた数平均粒子径は1.0mmであった。
【0061】
製造例2[液晶ポリエステルの製造]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸 994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 446.9g(2.4モル)、テレフタル酸 299.0g(1.8モル)、イソフタル酸 99.7g(0.6モル)および無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーは室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、さらに250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持して、固相重合を行った。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。このようにして得られた液晶ポリエステルをLCP1とする。
【0062】
実施例1〜7、比較例1〜4
製造例1で得られた粒状物1、製造例2で得られた液晶ポリエステル、アルミナ微粒子1〜4および炭化ケイ素1、炭素繊維1もしくはグラファイト1から選ばれる1種を表1に示す組成で、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用い、340℃で混練しペレット化した。得られたペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で射出成形し、成形体1:126mm×12mm×6mm、成形体2:64mm×64mm×3mmt、成形体3:64mm×64mm×1mmtの成形体を得た。得られた成形体1の長軸方向に対して垂直(MD)に厚み1mmの平板状に切り出し、熱伝導率評価用サンプルとした。このサンプルを用いて、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(アルバック理工株式会社製 TC−7000)により熱拡散率を測定した。比熱はDSC(PERKIN ELMER製DSC7)、比重は自動比重測定装置(関東メジャー株式会社 ASG−320K)により測定した。熱伝導率は、熱拡散率と比熱と比重の積から求めた。
300Kでの電気抵抗率はASTMD257に基づいて成形体2を用いて測定した。
絶縁破壊電圧は、JISC2110に記載されている短時間破壊試験で成形体3を用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例1〜7の絶縁性樹脂組成物は、得られる成形体のMD方向の熱伝導率が5W/mK以上と極めて良好な熱伝導性を発現することが判明した。また、電気抵抗率はいずれも1012Ωm以上であり電気・電子部品に使用する絶縁部材として十分な電気抵抗を示し、絶縁破壊電圧はいずれも2kV/mm以上と極めて良好であった。
炭化ケイ素フィラーや炭素繊維を用いた比較例1、2の樹脂組成物では得られる成形体の熱伝導率が十分ではなく、炭素繊維およびグラファイトの配合量を多くした比較例3、4の樹脂組成物では得られる成形体の電気抵抗率が小さくなって電気絶縁性が不十分であった。
【0065】
実施例8
ポリフェニレンサルファイドPPS1(T−3G、大日本インキ化学工業(株)製)、製造例1で得られた粒状物1、炭素繊維1および前記に示したアルミナ粒子2を表2に示す組成で、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用い、300℃で混練しペレット化した。得られたペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で射出成形し、成形体1:126mm×12mm×6mm、成形体2:64mm×64mm×3mmt、成形体3:64mm×64mm×1mmtの成形体を得た。得られた成形体1の長軸方向に対して垂直(MD)に厚み1mmの平板状に切り出し、熱伝導率評価用サンプルとした。このサンプルを用いて、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(アルバック理工株式会社製 TC−7000)により熱拡散率を測定した。比熱はDSC(PERKIN ELMER製DSC7)、比重は自動比重測定装置(関東メジャー株式会社 ASG−320K)により測定した。熱伝導率は、熱拡散率と比熱と比重の積から求めた。
300Kでの電気抵抗率はASTMD257に基づいて成形体2を用いて測定した。
絶縁破壊電圧は、JISC2110に記載されている短時間破壊試験で成形体3を用いて測定した。
結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
成分(A)としてポリフェニレンサルファイドを用いた実施例8の絶縁性樹脂組成物においても、得られる成形体の熱伝導率が5W/mK以上と極めて良好な熱伝導性を発現し、電気抵抗率および絶縁破壊電圧も良好な結果が得られることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)、(B)および(C)を含む絶縁性樹脂組成物。
(A)熱可塑性樹脂
(B)アルミナを主成分とする数平均繊維径1〜50μmの繊維を造粒せしめて得られる数平均粒径が0.5〜5mmである粒状物
(C)300Kでの電気抵抗率が102Ωm以下の材質からなるフィラー
【請求項2】
成分(A)100重量部に対して、成分(C)が1〜50重量部である、請求項1記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項3】
成分(C)が、炭化ケイ素粒子、グラファイトからなるフィラーおよび炭素繊維から選ばれるフィラーである、請求項1または2に記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項4】
成分(B)が、アルミナを主成分とする嵩密度0.2〜1.0g/cm3の繊維を造粒せしめて得られる粒状物である、請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項5】
成分(B)が、アルミナを主成分とする繊維を攪拌造粒せしめて得られる粒状物である、請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項6】
成分(A)100重量部に対して、成分(B)が10〜400重量部である、請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項7】
成分(A)がポリフェニレンサルファイドを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
成分(A)が、液晶ポリエステルを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項9】
前記液晶ポリエステルが、下記に定義される流動開始温度が280℃以上の液晶ポリエステルである、請求項8記載の絶縁性樹脂組成物。
流動開始温度:内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、100kg/cm2の荷重下において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が48000ポイズを示す温度。
【請求項10】
前記液晶ポリエステルが、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が全構造単位の合計に対して30〜80モル%、
ヒドロキノンに由来する構造単位および4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位の合計が全構造単位の合計に対して10〜35モル%、
テレフタル酸に由来する構造単位、イソフタル酸に由来する構造単位および2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の合計が全構造単位の合計に対して10〜35モル%、
からなる液晶ポリエステルである、請求項8または9に記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項11】
さらに下記の成分(D)を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物。
(D)アルミナ微粒子
【請求項12】
成分(D)が、数平均粒径0.1〜100μmのアルミナ微粒子である、請求項11記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項13】
成分(A)100重量部に対して、成分(D)が5〜250重量部である、請求項11または12に記載の絶縁性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の絶縁性樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項15】
300Kでの電気抵抗率が1012Ωm以上であり、かつ1mmtの絶縁破壊電圧が2kV/mm以上である、請求項14記載の成形体。

【公開番号】特開2009−84551(P2009−84551A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122025(P2008−122025)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】