説明

絶縁材料部品

【課題】改定IEC60335−1規格のグローワイヤ性やトラッキング性などの電気安全性を満足し、ハロゲン系難燃剤を含めなくても、難燃剤のブリードアウトの抑制されたポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物よりなる絶縁材料部品を提供する。
【解決手段】(A)下記構成比の樹脂成分100重量部に対して、
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂 99〜50重量%
(A−2)ポリスチレン系樹脂 1〜40重量%
(A−3)相溶化剤 0〜10重量%
(B)下記難燃剤コンビネーション成分の合計量が50〜130重量部と
(B−1)リン酸エステル系難燃剤 25〜55重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩からなる窒素系難燃剤 30〜70重量部
(B−3)硼酸金属塩 1〜20重量部
(B−4)フッ素樹脂 0.5〜10重量部
(C)無機充填剤0〜200重量部と
を少なくとも配合してなり、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール系樹脂および赤燐のいずれの含有量も1重量%以下であるポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成された樹脂成形部を有し、該樹脂成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にあることを特徴とする絶縁材料部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂を主成分とし、難燃性および電気安全性に優れた絶縁材料部品に関する。詳しくは、非ハロゲン系難燃剤を使用した樹脂組成物であって、難燃性、耐トラッキング性に加えて、グローワイヤ特性に優れたポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形された、高温度下においても難燃剤のブリードアウトのない絶縁材料部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子部品における電気安全性に対する要求が、以前にも増して高くなりつつある。例えば、最近改定された国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission、略称IEC)のIEC60335−1規格によると、冷蔵庫、全自動洗濯機などの家庭用電気製品において、オペレータが付かない状態で動作する機器の部品のうち、通常の動作中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している絶縁材料部品、およびこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁材料部品(プリント回路基板、端子台、プラグなど)の材料は、赤熱棒燃焼指数(Glow-wire Flammability Index、略称:GWFI値)が1.5mm厚みで850℃以上であること、かつ赤熱棒着火温度(Glow-wire Ignition Temperature、略称:GWIT値)が0.8〜3mm厚みで775℃以上であることを満足させねばならなくなった。さらに望ましくは、GWFI値は960℃以上、GWIT値は0.8〜3mm厚みで800℃以上であることを満足することである。
【0003】
勿論これらの部品は、既に同様の電気電子部品には必要であるとされているアンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriter's Laboratories Inc.)のUL−94規格の難燃性やトラッキング指数(Comparative Tracking Index、略称CTI)、または保証トラッキング指数(Proof Tracking Index、略称PTI)等の要求事項をも同時に満たさねばならない。即ち、0.8mm厚みにてV−2以上の難燃性、またPTI(またはCTI)で550V以上を満足する必要がある。好ましくは、V−0であり、600V以上である。
【0004】
このように、難燃性や耐トラッキング性に加えて、着火および炎の伝播に対しての耐性、即ち電気安全性についても厳しい規定が設けられ、全てをバランスよく満たす部品が求められている。
【0005】
ところで、ポリエステル樹脂、中でもポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」と略称することがある。)や、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET樹脂」と略称することがある。)は機械的性質、電気的性質、耐熱性などに優れているため、近年、電気機器部品、機械部品等の多くの用途に使用されている。特に、優れた難燃性が容易に得られ、同時に機械的性質も優れている点から、上述のオペレータが付かない状態で動作する電気電子機器の部品の絶縁材料としても使用されるようになってきた。
【0006】
PBT樹脂などのポリエステル樹脂に、ハロゲン系難燃剤を配合するとUL−94規格で最高評価であるV−0に到達可能であることはよく知られている。ここで、難燃性の評価として知られているUL−94規格の難燃性(以下、単に「難燃性」と称す)とは、トラッキング特性やグローワイヤ特性などの耐性(以下、「電気安全性」と称す)とは、全く異なる方法で評価される指標である。すなわち、UL−94の難燃性が、バーナーの炎を接触させた場合の「燃えにくさ」を示すのに対し、GWFI値やGWIT値は、改正IEC 60335−1規格に定義され、グローワイヤによる高温での着火性を評する指標であって、全く別異な性質を示す。しかも、UL−94規格で最高評価であるV−0であっても、電気安全性は不十分な場合があり、逆に、V−0より難燃性が低いV−2であっても、高い電気安全性を示す場合があるため、UL−94の難燃性の評価だけが示されている既存の技術内容からは、電気安全性を予測することはできない。
【0007】
特許文献1および2には、ハロゲン系難燃剤を使用した電気安全性に優れたポリエステル樹脂組成物が開示されている。該文献では、これらのポリエステル樹脂組成物が、3mm厚みにおいてGWFI値やGWIT値については、IEC 60335−1規格に合格することが示されている。
しかしながら、近年、ハロゲン系難燃剤を使用した成形品の使用後の廃棄のための、例えば焼却処分における環境への悪影響に対する懸念から、ハロゲン系難燃剤を使用しないポリエステル樹脂組成物からなる絶縁材料部品が求められている。ポリエステル樹脂用ハロゲン系難燃剤以外の難燃剤としては、リン酸エステル系難燃剤が広く用いられている。例えば、特許文献3には、(A)ポリエステル樹脂95〜30重量部、(B)ポリフェニレンエーテル樹脂および/または ポリフェニレンスルフィド樹脂5.0〜70重量部を含み、かつ、成分(A)と成分(B)合計100重量部に対して、(C)相溶化剤0.05〜10重量部、(D)リン酸エステル化合物またはホスホニトリル化合物2.0〜45重量部、(E)強化充填剤0〜150重量部、(F)滴下防止剤 0.001〜15重量部、(G)シアヌル酸メラミン0〜45重量部、(H)エポキシ基を含有するポリスチレン系樹脂0〜15重量部(但し、成分(B)が35重量部未満の場合には、成分(G)が0.5〜45重量部である)を含む難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。当該特許文献は、難燃性、耐加水分解性、プレートアウト(成形時に樹脂や添加剤等のガス成分が金型に付着することであり、成形後に添加剤が樹脂成分との相溶性が悪いため、成形品表面に染み出してくるブリードアウトとは異なる)については検討されているが、電気安全性については、何ら記述がない。また、(F)滴下防止剤として種々の化合物、例えば、層状珪酸塩やフッ素含有ポリマーなどが開示されているが、実施例に記載されている30例のうち、28例が層状ケイ酸塩を使用したものであり、1例のみがフッ素含有ポリマーを使用したものである。そのフッ素含有ポリマーの配合量は、PBTとPPEの合計量100重量部に対して0.05重量部と極少量である。さらに、当該発明の(H)成分のポリスチレン系樹脂の一種であるエポキシ基を含有するポリスチレン系樹脂の配合目的については、明確な記述は認められないが、実施例1と実施例28〜30の比較から、機械的強度ならびに耐加水分解性の向上に効果があるものと判断される。即ち、当該文献にはトラッキング性やグローワイヤ性などの向上を図ることについて、何ら記載も示唆も無い。
【0008】
さらに、特許文献4には、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部またはポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100重量部に対して、(B)エポキシ変性スチレン系樹脂1〜100重量部、(C)燐酸エステル1〜100重量部および(D)トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩1〜150重量部を配合してなる組成物であり、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィドを5重量部以上含まない難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。また、該文献には、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィドの配合は機械的強度ならびに色調の低下をもたらすため、配合量が5重量部未満であることが記載されている。特に、該文献の実施例においては、これらの成分は、ポリエステル樹脂成分100重量部に対して1.5重量部の割合で配合されている。当該発明においては、グローワイヤ性についての記述はないが、トラッキング性について、該文献の段落番号0143に、「実施例15〜16のエチレン共重合体あるいはタルクを配合することによって、耐トラッキング性(IEC Publication112規格に示されている試験方法に従い、成形品の絶縁が破壊される破壊電圧(V)であり、破壊電圧が大きい程優れる。)が破壊電圧600V未満から破壊電圧600V以上に向上し、電気特性に優れる成形品が得られることがわかった。ただし、エチレン共重合体の場合は難燃性が若干低下した。」との記述がある。これは、エチレン共重合体あるいはタルクを配合したもののみが、トラッキング性が600V以上であったことを示しており、エチレン共重合体あるいはタルクが電気特性を調整する要因であることを示している。さらに、エチレン共重合体は、難燃性が低下するとの記述があるが、タルクを配合した実施例16とタルク等を配合してない実施例6と比較すると、機械的強度の低下が認められる。すなわち、該文献に記載の技術では、機械的強度を維持しつつ、トラッキング性の望ましい目標である600Vを達成することは、かなり困難であることを示している。
尚、当該発明においては、1例を除いて、ポリエステル樹脂100重量部に対して、ポリスチレン系樹脂が25重量部、リン酸エステルが40重量部、シアヌル酸メラミンが40重量部配合されており、特別な1例(実施例10)において、シアヌル酸メラミンが50重量部に増量されている。また、当該文献においては、フッ素樹脂は必須成分ではないが、多数の実施例において用いられている。また、該文献の段落番号0084には、フッ素樹脂以外の難燃剤あるいは難燃助剤についての記載があるが、種々なものが列挙されているのみで、その具体的な効果等については何ら記載されていない。
【0009】
また、特許文献5には、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂20〜60重量%、(B)ビニル系樹脂(ポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂)1.0〜30重量%、(C)有機リン系難燃剤0.5〜20重量%、(D)ガラス繊維5〜50重量%、(E)メラミン・シアヌル酸付加物4〜20重量%からなる組成物が示されている。なお、当該発明においては、難燃性のさらなる改良のため、赤燐等の難燃剤や難燃助剤を配合しても良いとの記載があり、該文献の実施例においては、5例中3例にて赤燐が配合されている。また、これらのデータは、有機リン系難燃剤とメラミン・シアヌル酸付加物だけでは、ビニル系樹脂が配合されたポリエステル樹脂の難燃化が困難であることを示しており、当該発明においては難燃性の評価は厚み1.6mm(1/16インチ)でされており、0.8mm(1/32インチ)でV−0を達成するのが困難と予測される。また、(B)ビニル系樹脂は、組成物の熱伝導率を低減させる目的、および組成物が高温・高湿下における成形品の外観・成形品の表面性の変化を抑える目的のために用いられるが、このほか組成物の流動性向上等の効果も得られると説明されている。しかし、当該発明の比較例5においては、ポリスチレンが配合されているにもかかわらず、液状ブリードアウト物が発生しており、成形品の表面性の変化というのがブリードアウトの抑制なのか否か不明である。
【0010】
上述のようにポリスチレン系樹脂の配合ついては、難燃性、機械的強度、耐加水分解性、成形品表面性の改善のために行われており、特に難燃剤のブリードアウトの抑制効果があるとの記述は認められない。
【0011】
【特許文献1】特開2005−232410号公報
【特許文献2】特開2006−45544号公報
【特許文献3】特開平10−77396号公報
【特許文献4】特開2002−294049号公報
【特許文献5】特開2000−212412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特許文献1および特許文献2に記載のポリエステル樹脂組成物では、1.5mm厚み以下においてGWIT値が合格しないことが判明した。また、特許文献3および特許文献4に記載の樹脂組成物においては、ポリフェニレンエーテル樹脂および/または ポリフェニレンスルフィド樹脂を必須の成分とするが、本発明者らの検討によれば、トラッキング特性を著しく低下させることが分かった。さらに、特許文献5に記載されているような、赤燐の配合は、トラッキング特性ならびに色調を低下させる問題を有することが分かった。また、リン系難燃剤の難燃性の向上を図るため、ポリフェニレンエーテル樹脂やフェノール樹脂が配合された例が多数見られるが、本願発明者らが検討した結果、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂や赤燐を配合するとトラッキング特性が急激に低下することを見出した。すなわち、これらを配合した樹脂組成物は、絶縁材料部品として不適格であり、実質的にポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂や赤燐を含有しない絶縁材料部品の開発が必要であることが分かった。加えて、赤燐を配合した成形品の色調は赤色に限定されるなど、成形部品の組み立ての際に部品の識別においても、問題を有している。
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決することであって、改定IEC60335−1規格のグローワイヤ性やトラッキング性などの電気安全性を満足し、ハロゲン系難燃剤を含めなくても、難燃剤のブリードアウトの抑制されたポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物よりなる絶縁材料部品を提供することにある。さらには、有接点電気電子部品に使用可能である絶縁材料部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題のもと、本発明者らが鋭意検討を行った結果、難燃性効果の少ないといわれているリン系難燃剤と窒素系難燃剤を特定量配合し、同時にポリスチレン系樹脂を配合することにより得られるポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物の成形体が、意外なことに、GWIT値、GWFI値、PTI等の電気用品関連の厳しい規格(改定IEC60335−1規格)の要求特性を具備し、また難燃剤のブリードアウトが抑制された絶縁材料部品として使用可能であることを見出した。また、特定の末端カルボキシル基、残存テトラヒドロフラン量のPBTをベースの主成分とすることにより有接点電気電子部品に使用可能であることを見出したものである。具体的には、以下の手段により達成された。
【0015】
(1)(A)下記構成比の樹脂成分100重量部に対して、
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂 99〜50重量%
(A−2)ポリスチレン系樹脂 1〜40重量%
(A−3)相溶化剤 0〜10重量%
(B)下記難燃剤コンビネーション成分の合計量が50〜130重量部と
(B−1)リン酸エステル系難燃剤 25〜55重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩からなる窒素系難燃剤 30〜70重量部
(B−3)硼酸金属塩 1〜20重量部
(B−4)フッ素樹脂 0.5〜10重量部
(C)無機充填剤0〜200重量部と
を少なくとも配合してなり、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール系樹脂および赤燐のいずれの含有量も1重量%以下であるポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成された樹脂成形部を有し、該樹脂成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にあることを特徴とする絶縁材料部品。
(2)(B)難燃剤コンビネーションにおいて、(B−1)リン酸エステル系難燃剤と(B−2)窒素系難燃剤の構成比率(重量比)が(B−1)/(B−2)=0.14〜1.1の範囲であることを特徴とする(1)に記載の絶縁材料部品。
(3)(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の主成分が、ポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の絶縁材料部品。
(4)(A−2)ポリスチレン系樹脂が、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
(5)(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の主成分が、末端カルボキシル基量が30eq/t以下で、かつ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
(6)樹脂成形部が厚さ2mm以下の肉薄部分を有することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
(7)樹脂成形部が厚さ2mm以下の肉薄部分を有し、該樹脂形成部に接して、前記接続部を有する絶縁材料部品が配置されている、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
(8)前記絶縁材料部品の形状が板状であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
(9)接続部が接点であることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
(10)(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の主成分が、末端カルボキシル基量が30eq/t以下で、かつ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、(9)に記載の絶縁材料部品。
(11)絶縁材料部品が、リレー、スイッチ、コネクター、センサー、アクチュエーター、マイクロスイッチ、マイクロセンサーおよびマイクロアクチュエーターからなる群から選ばれる有接点電気電子部品である、(1)〜(10)のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気電子機器用の絶縁材料部品は、動作中の着火および炎の伝播に対し、耐性の向上が図られており、オペレータが付かない状態で動作する機器の部品で、通常の動作中に0.2Aを超える電流が流れる、即ち、定格電流が0.2Aを超える接続部を支持している絶縁材料部品、およびこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁材料部品における安全性が向上し、幅広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。本明細書において、アルキル基等の「基」は、特に述べない限り、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。さらに、炭素数が限定されている基の場合、該炭素数は、置換基が有する炭素数を含めた数を意味している。
【0018】
本発明の(A)樹脂成分は、後述の(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂、(A−2)ポリスチレン系樹脂、(A−3)相溶化剤から構成される。
【0019】
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂
本発明における、(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、エチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールが全ジオールの50重量%以上を占める樹脂をいう。テレフタル酸は全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上占めることがさらに好ましい。エチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールは全ジオール成分の80モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上占めることがさらに好ましい。なお本発明においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂単独重合体、ポリエチレンテレフタレート樹脂単独重合体あるいはこれらの混合物が好ましく使用される。
【0020】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した場合、通常、0.50以上であり、好ましくは0.6以上である。一方、上限は、通常、3.0以下、好ましくは1.5以下である。固有粘度を、0.50以上とすることにより機械的強度を向上させることができ、3.0以下とすることにより、より大きいと成形が可能になる。本発明で用いるポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、固有粘度を異にする2種類以上のポリアルキレンテレフタレート樹脂を併用してもよい。
【0021】
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、これらの低級アルキルあるいはグリコールのエステルなどの1種または2種以上を併用しても良い。
【0022】
エチレングリコールまたは1,4−ブタンジオール以外のジオール成分としては、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等の1種または2種以上を併用しても良い。
【0023】
本発明においては、さらに、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを共重合成分として使用することができる。
【0024】
上記ジカルボン酸またはその誘導体とジオールとからなるポリアルキレンテレフタレートを製造するには、任意の方法が採用される。例えば、テレフタル酸とグリコールを直接エステル化反応させる直接重合法と、テレフタル酸ジメチルを主原料として使用するエステル交換法とに大別される。前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがある。直接エステル化反応は原料コスト面から有利である。
【0025】
また、ポリアルキレンテレフタレートの製造方法は、原料供給またはポリマーの払い出し形態から回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行ったりする方法もある。
【0026】
本発明に使用される(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の好ましい態様はポリブチレンテレフタレート樹脂単独またはポリブチレンテレフタレート樹脂を主成分とする、具体的には(A−1)ポリアルキレンテレフタレートにおいて50重量%以上をポリブチレンテレフタレートとする、ポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物である。また、本発明に使用される(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂は、好ましくは末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下である。
特に、(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の主成分が、末端カルボキシル基量が30eq/t以下で、かつ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂である場合であって、樹脂形成部が支持している接続部が接点の場合に、接点部分の腐食、接点部分への炭化物の蓄積を防止でき、好ましい。
【0027】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、PBTを有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。本発明は末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、PBTの耐加水分解性を高めることができる。PBT中のカルボキシル基は、ポリブチレンテレフタレートの加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、さらに生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、PBTの重合度が急速に低下する場合があるが、末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解をより効果的に抑制することができる。
【0028】
本発明に好ましく使用される、(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂中の残存テトラヒドロフラン量は、300ppm(重量比)以下であり、より好ましくは200ppm(重量比)以下である。残存テトラヒドロフラン量は、PBTペレットを水に浸漬して120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィーで定量することにより、求めることができる。PBT中の残存テトラヒドロフラン量を300ppm(重量比)以下とすることにより、本発明の絶縁材料部品を高温で使用した場合の、有機ガスの発生が少なく、電気的接点の腐食のおそれがより減少する傾向がある。残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)を超えると、成形品を高温で使用した際の有機ガスの発生が多くなり、金属の腐食を引き起こすおそれがある。残存テトラヒドロフラン量の下限は、特に限定されるものではないが、通常、50ppm(重量比)程度である。残存テトラヒドロフラン量が少ない方が、有機ガスの発生が少なくなる傾向はあるものの、残存量とガス発生量は必ずしも比例するものではなく、50ppm程度のテトラヒドロフランの存在は、通常の使用に問題とならない。むしろ少量のジオールの存在が、電気接点の腐食を抑制することが知られており(特開平8−20900号公報)、テトラヒドロフランにも同様の効果が期待される。
【0029】
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂は、(A)樹脂成分中に、50〜99重量%含み、好ましくは55〜99重量%含み、より好ましくは60〜99重量%含む。
【0030】
(A−2)ポリスチレン系樹脂
本発明の(A−2)ポリスチレン系樹脂としては、芳香族ビニル単量体の単独または共重合体、芳香族ビニル単量体と、シアン化ビニル単量体およびゴム成分から選択された少なくとも1種とで構成された共重合体(例えば、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との共重合体、ゴム成分に芳香族ビニル単量体がグラフト共重合した重合体、ゴム成分に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体がグラフト共重合した非結晶性ゴム状重合体等)が使用される。
【0031】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、アルキルスチレン(例えば、o−、m−、p−メチルスチレン等のビニルトルエン類、2,4−ジメチルスチレンなどのビニルキシレン類、エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等のアルキル置換スチレン類)、α−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等)が例示できる。これらのスチレン系単量体は、単独でまたは二種以上組合せて使用できる。これらのスチレン系単量体のうち、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等、特にスチレンが好ましい。
【0032】
シアン化ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリルなどで例示できる。シアン化ビニル単量体も単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。好ましいシアン化ビニル単量体はアクリロニトリルである。
【0033】
ゴム成分としては、共役ジエン系ゴム(ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体等)、オレフィン系ゴム(エチレン−プロピレンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン(塩素化ポリエチレンなど))、アクリルゴム等が例示でき、これらのゴム成分は水素添加物であってもよい。これらのゴム成分は、単独でまたは二種以上組合わせて使用できる。これらのゴム成分のうち、共役ジエン系ゴムが好ましい。なお、共役ジエン系ゴムなどのゴム成分において、ゲル含有量は何ら制限されない。また、ゴム成分は、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、溶液−塊状重合、塊状−懸濁重合等の方法で製造できる。
【0034】
芳香族ビニル単量体は、さらに、他の共重合性単量体を併用してもよい。共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等)、カルボキシル基含有単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、マレイン酸モノエステル(マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル等のマレイン酸モノ炭素数1〜10のアルキルエステル)やこれらに対応するフマル酸モノエステルなどの不飽和ジカルボン酸モノエステルなど)、マレイミド系単量体(例えば、マレイミド、N−メチルマレイミドなどのN−アルキルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど)が挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でまたは二種以上組合わせて使用できる。好ましい共重合性単量体には、(メタ)アクリル酸エステル(特にメチルメタクリレート)、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、マレイミド系単量体等が含まれる。
【0035】
他の共重合性単量体を用いる場合、芳香族ビニル単量体と他の重合性単量体との割合(重量比)は、芳香族ビニル単量体/他の共重合性単量体で、通常100/0〜10/90、好ましくは95/5〜10/90、さらに好ましくは80/20〜20/80である。芳香族ビニル単量体が多いほうが、難燃剤のブリードアウト抑制効果は大きい。一方、ポリスチレン系樹脂の分散の度合いとも関係するが、芳香族ビニル単量体が多いと、炭化し易く、トラッキング性やグローワイヤ特性が低下する傾向にあるので、好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下である。
【0036】
より具体的には、シアン化ビニル単量体を共重合成分として用いる場合、前記芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との場合(重量比)は、例えば、芳香族ビニル単量体/シアン化ビニル単量体で、通常、10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20である。
【0037】
ゴム成分を用いる場合、ゴム成分と芳香族ビニル単量体との割合(重量比)は、例えば、ゴム成分/芳香族ビニル単量体=5/95〜80/20、好ましくはゴム成分/芳香族ビニル単量体=10/90〜70/30である。ゴム成分の割合が少なすぎると、樹脂組成物の耐衝撃性が低下し、多すぎると、分散不良となり外観を損ないやすくなる。
【0038】
好ましいスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、グラフト重合体[アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレンゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(ABSM樹脂)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)等]、ブロック共重合体[例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)共重合体など)、スチレン−アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体(AES)等]、またはこれらの水添物などが挙げられる。特に好ましいスチレン系樹脂には、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)共重合体等が含まれ、さらに好ましくはポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)である。これらのスチレン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
樹脂成分において、スチレン系樹脂の割合は、(A)樹脂成分中に、1〜40重量%であり、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜35重量%、さらに好ましくは12〜30重量%である。1重量%未満であると、難燃剤のブリードアウト抑制効果が低下するし、40重量%以上なら、難燃性の確保が困難になり、さらに機械的強度などが低下する。
【0040】
本発明における(A−2)ポリスチレン系樹脂のなかでも、分散性が良好で、耐加水分解性も同時に向上するポリスチレン系樹脂として、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂が好ましく使用される。エポキシ変性ポリスチレン系樹脂は、スチレン系樹脂にエポキシ基を導入したものである。エポキシ基の導入方法は、従来公知の任意の方法を用いることができる。具体的には、エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合もしくは共重合したスチレン系樹脂が好ましく用いられる。エポキシ基含有ビニル系単量体は、一分子中にラジカル重合可能なビニル基とエポキシ基の両者を共有する化合物であり、具体例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどの不飽和有機酸のグリシジルエステル類、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類および2−メチルグリシジルメタクリレートなどの上記の誘導体類が挙げられ、中でもアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用できる。またこれらは単独ないし2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
そしてエポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合もしくは共重合したスチレン系樹脂を製造する方法としては、通常公知の方法が採用できるが、特にスチレン、または、スチレンおよびこれと共重合可能なその他の単量体とエポキシ基含有ビニル系単量体とを共重合する方法、スチレン、または、スチレンおよびこれと共重合可能なその他の単量体を共重合して得られる(共)重合体にエポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合する方法が挙げられる。さらには、エポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体をポリスチレンとブロック共重合またはグラフト共重合した構造を有する高分子化合物、エポキシ基を付加した櫛型ポリスチレン、エポキシ基を付加したポリスチレン等を挙げることができる。かかる共重合、グラフト重合も公知の方法により行うことができる。
【0042】
上記スチレンと共重合可能なその他の単量体としては、スチレン以外の芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド系単量体等が挙げられる。上記スチレン以外の芳香族ビニル化合物としては、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、および、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、シアン化ビニル化合物としてはアクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどが挙げられ、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、およびアクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられ、マレイミド系単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、およびその誘導体などのN−置換マレイミドなどが挙げられる。その他、ジエン化合物、マレイン酸ジアルキルエステル、アリルアルキルエーテル、不飽和アミノ化合物、およびビニルアルキルエーテルなども挙げられる。これらは1種または2種以上で用いることができる。
【0043】
ポリスチレン系樹脂にラジカル発生剤などにより、エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合または共重合する際の、ベースとなるスチレン系樹脂の好ましい具体例としては、ポリスチレン樹脂、ハイインパクト−ポリスチレン樹脂などの主としてポリスチレンからなる樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル、スチレン/ブタジエン樹脂等のスチレン系共重合体、スチレン/ブタジエン/スチレン樹脂、スチレン/イソプレン/スチレン樹脂、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン樹脂などのスチレンを含有するブロック共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/メタクリル酸メチル/スチレン樹脂等のABS系樹脂等が挙げられる。これらの中で、主としてポリスチレンからなる樹脂、スチレン系共重合体が好ましく、特にアクリロニトリル/スチレン共重合体が最も好ましい。
【0044】
また、エポキシ基を有するポリマーとポリスチレン系ポリマーとの共重合構造は特に限定されるものではないが、例としては、主鎖にエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体であって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、エポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体とポリスチレンをブロック共重合した直鎖状構造の高分子化合物、主鎖がポリスチレンであって側鎖がエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体である櫛型構造の高分子化合物、主鎖にエポキシ基を含有するポリスチレンであって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、少量のエポキシ基を付加したポリスチレン等を挙げることができる。中でも、主鎖にエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体であって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、主鎖にエポキシ基を含有するポリスチレンであって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、少量のエポキシ基を付加した変性ポリスチレンが好ましく、特に、主鎖にエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体であって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物が好ましい。これらのエポキシ基を含有するポリスチレン系樹脂は複数種のブレンドであっても良い。
【0045】
エポキシ変性ポリスチレン系樹脂中のエポキシ基含有量は、(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂とエポキシ変性スチレン系樹脂の相溶性を向上させるのに有効であれば特に限定されるものではないが、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂に対して、エポキシ基含有単量体が0.05重量%以上であることが好ましい。多量に共重合すると流動性低下やゲル化の傾向があり、エポキシ基含有単量体の含有量によるが、(A)樹脂成分中、好ましくは40重量%以下、より好ましくは35重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0046】
これらのエポキシ変性ポリスチレン系樹脂は1種以上用いることができる。また、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂とエポキシ基を含有してないポリスチレン系樹脂との混合もエポキシ基の含有量、分子量などの調整のために有効な手段である。
【0047】
なお、本発明において、エポキシ変性スチレン系樹脂の、スチレン成分(スチレン残基)含有量は上述のスチレンを主とするポリスチレン系樹脂の場合は、50重量%以上が好ましく、さらに好ましくは70重量%以上であり、スチレン系共重合体の場合は、30重量%以上が好ましく、さらに好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上であり、ABS系樹脂の場合は、30重量%以上が好ましく、より好ましくは40重量%以上であり、ブロック共重合体の場合は、10重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。
【0048】
上記エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合もしくは共重合したエポキシ変性ポリスチレン系樹脂としては、スチレン、もしくはスチレンおよびこれと共重合可能なその他の単量体とエポキシ基含有ビニル系単量体を共重合した重合体が好ましく用いられる。
【0049】
なかでも、とくにスチレン、アクリロニトリルおよびグリシジルメタクリレートを共重合したエポキシ変性AS樹脂が好ましく用いられる。かかるエポキシ変性AS樹脂におけるグリシジルメタクリレートの共重合量は、(A)成分との相溶性を向上させるのに有効であれば特に限定されるものではないが、エポキシ変性AS樹脂中0.05重量%以上であることが好ましい。多量に共重合すると流動性低下やゲル化の傾向があり、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。また、スチレンおよびアクリロニトリルの共重合量は特に制限はないが、スチレン50〜99.9重量%、アクリロニトリル0.05〜49.95重量%であることが好ましく、スチレン70〜99.9重量%、アクリロニトリル0.05〜29.95重量%であることが好ましい。
【0050】
また、上記のエポキシ変性ポリスチレン系樹脂の添加量は、得られる難燃性樹脂組成物の成形品外観と難燃性の点から(A)樹脂成分中、5〜40重量部が好ましく、とくに好ましくは10〜35重量部である。
【0051】
(A−3)相溶化剤
本発明では、相溶化剤を添加してもよい。本発明の樹脂成分において、ポリスチレン系樹脂のポリアルキレンテレフタレート樹脂等は、難燃性やトラッキング特性に微妙な影響を与え、微粒子に分散する方が好ましいが、エポキシ基などのポリアルキレンテレフタレート樹脂との反応基を有しないポリエステル系樹脂の場合においては良好な分散を行うのが困難になる場合がある。そこで、樹脂組成物を製造する際に、機械的に強せん断により分散すると発熱などで、難燃剤の分解などのトラブルが発生するので、相溶化剤を少量配合するのが好ましい。好ましい相溶化剤として、エポキシ化合物が挙げられる。本発明で用いられるエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環化合物型ジエポキシ化合物、グリシジルエーテル類、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ変性熱可塑性樹脂、エポキシ系難燃剤などが挙げられる。さらに具体的には、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシドなどの脂環化合物型エポキシ化合物、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマーがいずれも好ましく用いられる。本発明で用いられるエポキシ化合物としては、耐加水分解性と樹脂への分散の観点からエポキシ当量150〜280g/eqのノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。より好ましくはエポキシ当量180〜250g/eqで分子量1000〜6000のノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000g/eqで分子量1200〜6000のビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0052】
エポキシ化合物の配合量は、(A)樹脂成分中、0〜10重量%であり、より好ましくは0.2〜8重量%である。エポキシ化合物を添加することにより、分散性が改善される傾向にあり好ましい。10重量%より多くなると、流動性が低下し、難燃性が低下する。
【0053】
(B)難燃剤コンビネーション
本発明においては、難燃剤コンビネーションは、後述の(B−1)リン酸エステル系難燃剤、(B−2)窒素系難燃剤、(B−3)硼酸金属塩および(B−4)フッ素樹脂の組み合わせである。リン系難燃剤の含量は、難燃剤コンビネーション中、25〜55重量部、好ましくは15〜30重量部である。この範内とすることにより、UL94試験にてV−0が発現することが可能になる。窒素系難燃剤の含量は、難燃剤コンビネーション中、30〜70重量部、好ましくは35〜60重量部である。70重量部以上では、機械的強度が低下してしまう。硼酸金属塩の含量は、難燃剤コンビネーション中、1〜20重量部、好ましくは1〜18重量部である。この範内とすることにより、UL94試験にてV−0が発現することが可能になる。フッ素樹脂の含量は、難燃剤コンビネーション中、0.5〜10重量部、好ましくは0.5〜8重量部から構成される。この範内とすることにより、UL94試験にてV−0が発現することが可能になる。
本発明における樹脂組成物において、難燃剤コンビネーションは、(A)樹脂成分100重量部に対して、50〜130重量部の割合で含まれ、より好ましくは50〜100重量部の割合で含まれる。130重量部を超えるとCTIやグローワイヤ特性が低下し、さらにはガスの発生が多くなる。50重量部未満であると難燃性、トラッキング特性、グローワイヤ性を満足できない。
さらに、(B−1)リン系難燃剤と(B−2)窒素系難燃剤の配合比率が0.14〜1.1の範囲内であることが好ましく、0.14〜1.0の範囲であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、CTIやグローワイヤ特性をさらに向上させることができる。
また、本発明では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の難燃剤を含んでいてよいが、ハロゲン系難燃剤の含量は、難燃剤コンビネーションの含量の5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましい。尚、本発明でいうハロゲン系難燃剤とは、(B−4)フッ素樹脂以外のハロゲンを含んでいる難燃剤をいい、通常は、臭素系難燃剤である。
【0054】
(B−1)リン酸エステル化合物
本発明に使用される成分(B−1)リン酸エステル化合物としては、広範囲のリン酸エステルが包含され、具体例に、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等が挙げられるが、中でも下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0055】
【化1】

【0056】
式中、R1〜R8は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは0または1〜4の整数である。R9は、p−フェニレン基、m−フェニレン基、4,4'−ビフェニレン基または以下から選ばれる2価の基である。
【0057】
【化2】

【0058】
一般式(1)において、R1〜R8は、本発明で用いる樹脂組成物の耐加水分解性を向上させるためには、炭素数6以下のアルキル基が好ましく、中でも炭素数2以下のアルキル基、特にメチル基が好ましい。mは好ましくは1〜3の整数であり、1がより好ましい。mが2以上のとき、それぞれの、−O−R9−O−P−部分は同一であっても良いし、異なっていても良い。R9は、p−フェニレン基、m−フェニレン基が好ましく、特に、m−フェニレン基がより好ましい。
【0059】
このようなリン酸エステル化合物のなかでも下記化合物(3)、(4)が好ましく、特に化合物(3)が好ましい。
【0060】
【化3】

【0061】
【化4】

このようなリン酸エステル化合物の市販品としては、大八化学社製PX−200、PX−201、PX−130、CR−733S、TPP、CR−741、CR747、TCP、TXP、CDPから選ばれる1種または2種以上が使用することができ、好ましくはPX−200、TPP、CR−733S、CR−741、CR747から選ばれる1種または2種以上、特に好ましくはPX−200、CR−733S、CR−741を使用することができるが、この中で特に好ましくはPX−200である。
また、下記式(5)で表される芳香族ホスフェート化合物も好ましく使用できる。
【0062】
【化5】

(式中、R1、R2、R4、R5は、それぞれ、水素原子または炭素数30以下の、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基を表し、R3は、2官能基を有するナフタレン環を表し、nは、1〜5の整数を表す。)
式(5)で表される芳香族ホスフェート化合物の中でも1, 5−ナフタレンビスジフェニルリン酸エステルが好ましい。
【0063】
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩
窒素系難燃剤であるアミノ基含有トリアジン類の塩において、アミノ基含有トリアジン類(アミノ基を有するトリアジン類)としては、通常、アミノ基含有1,3,5−トリアジン類が使用され、例えば、メラミン、置換メラミン(2−メチルメラミン、グアニルメラミンなど)、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロンなど)、メラミンの共縮合樹脂(メラミン−ホルムアルデヒド樹脂樹脂など)、シアヌル酸アミド類(アンメリン、アンメリドなど)、グアナミンまたはその誘導体(グアナミン、メチルグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、フタログアナミン、CTU−グアナミンなど)などが挙げられる。
【0064】
塩としては、前記トリアジン類と、無機酸や有機酸との塩とが例示できる。無機酸には、硝酸、塩素酸(塩素酸、次亜塩素酸など)、リン酸(前記リン酸金属水素塩の項で例示のリン酸など)、硫酸(硫酸や亜硫酸などの非縮合硫酸、ペルオクソ二硫酸やピロ硫酸などの縮合硫酸など)、ホウ酸、クロム酸、アンチモン酸、モリブデン酸、タングステン酸などが含まれる。これらのうち、リン酸や硫酸が好ましい。有機酸には、有機スルホン酸(メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、トルエンスルホン酸やベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸など)、環状尿素類(尿酸、バルビツル酸、シアヌル酸、アセチレン尿素など)などが挙げられる。これらのうち、メタンスルホン酸などの炭素数1〜4のアルカンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの炭素数1〜3のアルキル基を有する炭素数6〜12のアレーンスルホン酸、シアヌル酸が好ましい。
【0065】
アミノ基含有トリアジン類の塩としては、例えば、リン酸メラミン類(ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)、硫酸メラミン類(硫酸メラミン、硫酸ジメラミン、ピロ硫酸ジメラムなど)、スルホン酸メラミン類(メタンスルホン酸メラミン、メタンスルホン酸メラム、メタンスルホン酸メレム、メタンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩、トルエンスルホン酸メラミン、トルエンスルホン酸メラム、トルエンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)などが挙げられる。これらのアミノ基含有トリアジン類の塩は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
このような窒素系難燃剤のなかで本発明において好ましく使用されるのは、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とトリアジン系化合物との付加物が好ましく、通常は1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)の組成を有する付加物である。より具体的にはシアヌル酸メラミン、シアヌル酸ベンゾグアミン、シアヌル酸アセトグアナミンであり、さらにはシアヌル酸メラミンである。これらの塩は、公知の方法で製造されるが、例えば、トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸の混合物を水スラリーとし、良く混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、乾燥後に一般には粉末状で得られる。また、上記の塩は完全に純粋である必要は無く、多少未反応のトリアジン系化合物ないしシアヌル酸、イソシアヌル酸が残存していても良い。また、樹脂に配合される前の塩の平均粒子サイズは、成形品の難燃性、機械的強度や耐湿熱特性、滞留安定性、表面性の点から100〜0.01μmが好ましく、さらに好ましくは80〜1μmである。また、上記の塩の分散性が悪い場合には、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤や公知の表面処理剤などを併用してもかまわない。
【0067】
なお(B)難燃剤コンビネーションにおいて、前記(B−1)リン系難燃剤と(B−2)窒素系難燃剤の構成比率(重量比)は、好ましくは(B−1)/(B−2)=0.14〜1.1の範囲であり、より好ましくは0.2〜1.0の範囲であり、さらには好ましくは0.3〜0.95の範囲である。構成比率を0.14以上とすることにより難燃性がより向上する傾向にあり、1.1以下とすることにより、GWIT値をより向上させることができる。
【0068】
(B−3)硼酸金属塩
本発明のポリエステル樹脂組成物は(B−3)硼酸金属塩を含有することが好ましい。本発明に用いられる成分(B−3)硼酸金属塩とは、通常用いる処理条件下で安定であり、揮発成分のないものが好ましい。硼酸金属塩としては硼酸のアルカリ金属塩(例えば四硼酸ナトリウム、メタ硼酸カリウム等)あるいはアルカリ土類金属塩(例えば硼酸カルシウム、オルト硼酸マグネシウム、オルト硼酸バリウム、硼酸亜鉛等)等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、硼酸亜鉛である。硼酸亜鉛は、一般に、2ZnO・3B23・xH2O(x=3.3〜3.7)で示される。水和硼酸亜鉛としては好ましくは、2ZnO・3B23・3.5H2Oの式をもつものであり、かつ260℃またはそれより高い温度まで安定なものである。
【0069】
硼酸金属塩の量は、成分(A)100重量部に対して1〜20重量部であり、好ましくは2〜15重量部である。硼酸金属塩の配合量が20重量部を越えると機械的物性が低下しやすい。
【0070】
(B−4)フッ素樹脂
フッ素樹脂は難燃助剤の効果と同時に滴下防止剤として配合され、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、フッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素化ポリオレフィンが好ましく、中でもポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体がより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体がさらに好ましい。
【0071】
フッ素樹脂は、350℃における溶融粘度が、1.0×102〜1.0×1015(Pa・s)のものが好ましく、中でも1.0×103〜1.0×1014(Pa・s)、特には1.0×1010〜1.0×1012(Pa・s)のものが好適に用いられる。溶融粘度を1.0×102(Pa・s)以上とすることにより、燃焼時の滴下防止能が向上する傾向にあり、1.0×1015(Pa・s)以下とすることにより、組成物の流動性が低下する傾向にある。
【0072】
フッ素樹脂の量は、成分(A)100重量部に対し、0.5〜10重量部であり、好ましくは0.7〜8重量部であり、さらに好ましくは1〜7重量部である。フッ素樹脂の添加量が0.5重量部より少ないと燃焼中の滴下防止効果が不充分であり、10重量部より多いと流動性や機械的物性が低下する。
【0073】
(C)無機充填剤
本発明で用いる樹脂組成物は、(C)無機充填剤を含有することが好ましい。充填剤としては、繊維状充填剤(ガラス繊維、カーボン繊維、玄武岩繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維等)、粉粒状充填剤(カオリン、タルク、ワラストナイト等のケイ酸塩;炭酸カルシウムなどの金属の炭酸塩;酸化チタンなどの金属酸化物等)、板状充填剤(マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔等)等が例示できる。これらの充填剤のうち、高い強度・剛性を有する点で、繊維状充填剤、特にガラス繊維(チョップドストランドなど)が好ましい。これらの充填剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0074】
これらの充填剤は、収束剤または表面処理剤と組み合わせて使用してもよい。このような収束剤または表面処理剤としては、官能性化合物が含まれる。前記官能性化合物としては、例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等が挙げられる。無機充填剤の量は、(A)樹脂成分100重量部に対して、0〜200重量部であり、好ましくは5〜150重量部である。このような範囲とすることにより、高強度な繊維物性を発現するという効果がある。
【0075】
本発明で用いる樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール系樹脂および赤燐のいずれの含有量も1重量%以下であり、0.8重量%以下であることがより好ましい。これらの成分のいずれかが1重量%より多いと、CTIが低下するという問題がある。
【0076】
本発明で用いるポリアルキレンレフタレート樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、上記成分の他に、慣用の添加剤などを配合することができる。配合する添加剤に特に制限はなく、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤などの添加剤は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂の重合途中あるいは重合後に添加することができる。また、耐加水分解性をさらに向上させるべくエポキシ化合物、カルボジイミド、オキサゾリン等を添加できる。さらに、ポリアルキレンテレフタレートに、所望の性能を付与するために、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することができる。
【0077】
さらに、本発明で用いるポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、必要に応じて、ポリアルキレンテレフタレート樹脂以外の樹脂を配合することができる。しかし、前述のようにポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール樹脂の配合は、トラッキング特性を低下するので好ましくなく、全樹脂組成物中で1重量%以内の含有量に抑制する必要がある。ここで、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂については特許文献8に、フェノール樹脂については特許文献6に開示されているものを本発明においては適用する。
なお、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂はトラッキング特性を向上する効果があるが、難燃性を著しく低下する。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0078】
本発明の難燃性ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物の製造法は特に限定されるものではなく、公知の方法により各成分を混合することにより容易に達成することができる。例えば、ブレンダーやミキサーなどを使用してドライブレンドする方法、押出機を使用して溶融混合する方法などが挙げられるが、通常スクリュー押出機を使用して溶融混合してストランドの押し出し、ペレット化する方法が適している。具体的には、各成分を一括して溶融混練する方法、特定成分を先に溶融混合する方法等が挙げられるが、中でも機械的物性の観点から、樹脂成分(A)と難燃剤コンビネーション成分(B)を先に溶融混合した後に、残りの成分を混合する製造方法が好ましい。
【0079】
各成分の混合方法は、特に制限されることはなく、二軸スクリュー押出機を用いて成分を一括して溶融混練する一括ブレンド方法、および強化充填材等を他の供給口から添加する分割ブレンド方法などが挙げられる。
【0080】
本発明のポリアルキレンテレフタレート成形品の成形加工方法に特に制限はなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形法を適用することができ、特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。
【0081】
本発明の絶縁材料部品は、上記ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成された樹脂成形部を有するものであって、該樹脂成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にあることを特徴とする。ここで「該樹脂成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持している」とは、接点が接続部であることを意味する。また、「樹脂成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部から3mm以内の距離にある」とは、例えばリレー部品などの場合、樹脂成形部の内側に接続部(接点)が内接して直接支持しているのではなく、接点と樹脂成形部との間に数ミリの空間を設ける場合を表す。このような場合にも、やはり高い電気安全性は必要であり、本発明が有効である。
【0082】
また、本発明の絶縁材料部品における樹脂形成部の厚さは、該絶縁材料部品の用途等に応じて適宜定めることができる。例えば、本発明の絶縁材料部品は、厚さ2mm以下の肉薄部分を有していても良い。また、樹脂形成部の形状も特に定めるものではなく、板状、球面状等の形状を広く採用できる。
【0083】
本発明の絶縁材料部品は、難燃性、機械的物性等に優れ、腐食性ガス発生による金型腐食がなく、さらに低比重、流動性に優れることから薄肉あるいは複雑な形状を必要とする用途にも広く採用することができる。例えば、電気機器、電子機器あるいはそれ等の部品を製造する材料が挙げられる。
【0084】
本発明の絶縁材料部品は、高い電気安全性を求められる部品であっても、高GWFI値(例えば、1.5mm厚みで850℃以上)、高GWIT値(例えば、0.8〜3mm厚みで775℃以上)を実現し、かつ従来から必要とされている、UL規格の難燃性(例えば、V−0)や、高PTI(例えば、550V以上)等の要求事項をも満たすことができるため好ましい。
【0085】
本発明の絶縁材料部品は、金属接点、銅版などと組み合わせることにより、リレー、スイッチ、コネクター、センサー、アクチュエーター、マイクロスイッチ、マイクロセンサーおよびマイクロアクチュエーターからなる群から選ばれる有接点電気電子部品として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0087】
実施例および比較例において、樹脂の物性の測定の評価は下記の方法により行った。
【0088】
(1)末端カルボキシル基量;
ポリブチレンテレフタレート0.1gをベンジルアルコール3mlに溶解し、水酸化ナトリウムの0.1モル/リットル−ベンジルアルコール溶液を用いて滴定した。
【0089】
(2)降温結晶化温度;
示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式1B]を用い、ポリブチレンテレフタレートを、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/分で80℃まで降温した場合の、発熱ピークの温度を測定し、降温結晶化温度とした。
【0090】
(3)残存テトラヒドロフラン量;
ポリブチレンテレフタレートのペレット5gを水10gに浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフランをガスクロマトグラフィーにより定量した。
【0091】
(4)固有粘度;
ウベローデ型粘度計とフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用い、30℃において、濃度1.0g/dl、0.6g/dlおよび0.3g/dl溶液の粘度を測定し、粘度数を濃度0に外挿した。
【0092】
実施例および比較例で使用した各成分は下記の通りである。
[原材料]
(A−1a)PBT−1樹脂:下記の連続重合法により製造されたポリブチレンテレフタレート樹脂で、末端カルボキシル基量は20eq/tであり、降温結晶化温度は178℃、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)、固有粘度は0.85dl/gであった。
〔PBT−1製造法〕
テレフタル酸1.0モルに対して1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽に供給し、攪拌装置で混合して調製したスラリー2,972重量部(テレフタル酸9.06モル部、1,4−ブタンジオール16.31モル部)を、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaに調整し、第一エステル化反応槽に移送するとともに、テトラブチルチタネート3.14重量部を供給し、滞留時間2時間で、攪拌下にエステル化反応させてオリゴマーを得た。第一エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽に移送し、滞留時間1時間で、撹拌下にエステル化反応をさらに進めた。第二エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽に移送し、滞留時間2時間で、攪拌下に重縮合反応させ、プレポリマーを得た。第一重縮合反応槽から、プレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽に移送し、滞留時間3時間で、攪拌下に重縮合反応をさらに進めて、ポリマーを得た。このポリマーを第二重縮合槽から抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出して、ペレタイザーで切断することにより、ベレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。
【0093】
(A−1b)PBT樹脂:下記の回分重合法により製造されたポリブチレンテレフタレート樹脂で、末端カルボキシル基量は41eq/tであり、降温結晶化温度は170℃、残存テトラヒドロフラン量は680ppm(重量比)、固有粘度は0.85dl/gであった。
〔PBT−2製造法〕
回分式装置を用いて、重合反応を行った。テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して、1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で、合計3,226重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、3時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、窒素圧をかけてストランド状に抜き出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。
【0094】
(A−1c)PET樹脂:ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学(株)製、商品名ノバペットPBK1)。
【0095】
(A−2a)エポキシ変性AS樹脂:AS樹脂(テクノポリマー(株)製、サンレックスSAN−C、メルトマスフローレート25g/10min PS/AN=75/25(重量比))100重量部に対して、メタクリル酸グリシジル3重量部および2.5−ジメチル−2.5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシンの0.015重量部をブレンドし、30mmの二軸押出機を使用して210℃にて混練した後ペレット化した。未反応のメタクリル酸グリシジルをアセトン抽出した後、紫外線吸収スペクトル測定からメタクリル酸グリシジルの定量を行い、1.7重量%反応していることを確認した。
【0096】
(A−2b)EGMA−g−PS:エポキシ変性ポリスチレン樹脂、日本油脂(株)製、商品名モディパーA4100(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にポリスチレンをグラフトした櫛型構造ポリマー。EGMA/PS=70/30重量%)。
【0097】
(A−2c)AS樹脂:スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、テクノポリマー(株)製、サンレックスSAN−C、メルトマスフローレート25g/10min、PS/AN=75/25。
【0098】
(A−2d)PS樹脂:GPPS樹脂、PSジャパン(株)製、商品名HF77、メルトフローレイト7.5g/10min。
【0099】
(A−3)エポキシ化合物:相溶化剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂、旭電化工業(株)製、商品名アデカサイザーEP17
【0100】
(B−1)リン酸エステル化合物:大八化学社製、商品名PX200
下式(6)で示されるリン酸エステル。
【化6】

【0101】
(B−2)トリアジン環含有化合物:シアヌル酸メラミン(三菱化学(株)製、商品名MX44)。
【0102】
(B−3)硼酸亜鉛:ボラックス・ジャパン(株)製、商品名ファイヤーブレイクZB)。
(B−4)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製、四フッ化エチレン樹脂、ポリフロンF201)。
【0103】
(C)GF:ガラス繊維(日本電気硝子(株)製、エポキシシラン処理品、3mmチョップドストランド 銘柄名:T−187H)。
【0104】
(D−1)臭素系難燃剤:臭素化ポリスチレン(アルベマール日本(株)製、商品名Saytex HP−7010)。
(D−2)アンチモン化合物:三酸化アンチモン(森六(株)製、商品名MIC−3)。
(D−3)エポキシシラン処理ME100:ME100(コープケミカル(株)、膨潤性合成雲母)にエポキシ基付与処理したもの。
(D−4)水酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製、商品名KISUMA 120。
【0105】
(E)安定剤:ヒンダードフェノール系化合物(チバ・スペシャリティー・ジャパン(株)製、商品名イルガノックス1010)。
(F)離型剤:モンタン酸カルシウム(クラリアントジャパン(株)製、商品名CaV102)。
【0106】
(G−1)PPE樹脂:ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製、商品名ユピエース、固有粘度0.36)。
(G−2)フェノール樹脂:ノボラックフェノール樹脂(住友デュレズ(株)製、商品名スミライトレジンPR−53195)。
(G−3)赤燐:フェノール樹脂で表面コートした赤燐(燐化学工業株式会社製、商品名ノーバエクセル140:赤リン含有量95%)。
【0107】
[性能評価法]
(1)難燃性試験
UL試験片(厚み1/32インチ)について、アンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriter's Laboratories Inc.)のUL−94規格垂直燃焼試験により実施した。難燃性レベルは該規格に従い、V−0>V−1>V−2>HBの順で評価し、V−2以上の難燃性が要求され、好ましくはV−0である。
【0108】
(2)保証トラッキング指数(Proof Tracking Index)試験(略称:PTI試験)
試験片(厚み3mmの平板)について、国際規格 IEC60112に定める試験法によりPTIを決定した。このPTIは、25V刻みの保証電圧の数値である。PTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、600Vから100Vの間の電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものであり、通常、550V以上が要求され、好ましくは600V以上である。
【0109】
(3)赤熱棒燃焼指数(Glow-wire Flammability Index)試験(略称:GWFI試験)
試験片(厚み3mmの平板)について、IEC60695−2−12に定める試験法に従った。即ち、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、その後引き離す。この間に着火しないか、着火しても引き離し後30秒以内に火が消える先端の最高温度として定義され、最高で960℃まで試験する。難燃用途には850℃以上が求められる。本発明においては、960℃で合格するかを判定した。
【0110】
(4)赤熱棒着火温度(Glow-wire Ignition Temperature)試験(略称:GWIT試験)
厚み0.75mm、1.5mm、3mmの3種類の平板試験片について、IEC60695−2−13に定める試験法に従った。即ち、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、着火しない先端の最高温度より25℃高い温度として定義される。難燃用途には、0.8〜3mm厚みのGWIT値として775℃以上が求められる。さらに好ましくは800℃以上が求められる。
【0111】
(5)難燃剤ブリードアウト試験
10cm角、厚み3mmの平板を試料とし、150℃に温調された熱風乾燥機内で、48時間の熱処理を行った後、試験片の表面を目視観察により、難燃剤の染み出しを次の4段階に分類した。◎および○が実用上使用可能なレベルである。
◎:染み出しなし
○:染み出し極僅かに認められる
△:染み出しあり
× :染み出し多い。
【0112】
(6)引張試験
ISO引張試験片(ISO3167)を用い、ISO527に準拠して測定した。
【0113】
(7)耐加水分解性試験
上記ISO引張試験片を温度121℃の飽和水蒸気中40時間湿熱処理をした。処理前後のISO試験片について、ISO527に準拠し引張試験を行い、引張強度保持率を測定した。
【0114】
(8)発生ガス
樹脂組成物ペレット5gを内容量26mlのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱した後、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。クロマトグラムのピーク面積を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量を樹脂に対する比(ppm)として表した。
【0115】
[実施例1〜8および比較例1〜16]
表1または表2に示すガラス繊維以外の成分を一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合し、L/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、(C)ガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、バレル温度260℃の条件下で押出してポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
その樹脂組成物ペレットについて、射出成型機(住友重機械社製、型式SH−100)を使用して、シリンダ温度270℃、金型温度80℃の条件で上記(1)〜(5)の試験片(縦横がそれぞれ10cmであって、厚さ0.75mm、1.5mmおよび3mmの3種類の平板試験片、および厚さ1/32インチのUL−94規格の試験片)を製造した。また、上記(6)引張試験および(7)耐加水分解性試験の試験片としては、射出成形機(住友重機械(株)製 型式S−75 MIII)を用い、265℃にて、ISO引張試験片(ISO3167)を成形した。以上の試験片を用いて、上記の評価を実施した。また上述の樹脂組成物のペレットを120℃にて8時間熱風乾燥後、(8)発生ガス量の測定を行った。評価結果を表1または表2に示す。
【0116】
【表1】

【表2】

【0117】
表1および表2より次のことが明らかである。
(1)臭素系難燃剤とアンチモン化合物を配合した比較例1は、PTIが低く、また1GWIT値の0.75mm、1.5mmの厚みにおいて775Vを到達せず、部品の使用範囲に非常な制約が存在することが確認された。
(2)難燃剤コンビネーションを通常通り配合し、(A−2)成分のポリスチレン系樹脂を配合しなかった比較例3は、難燃性のブリードアウトが著しかった。一方、ポリスチレン系樹脂の配合量が過剰な比較例6、ならびに難燃剤コンビネーションの添加量が少ない比較例7においては、難燃性、電気安全性が低下することが分かった。
(3)難燃剤コンビネーションの配合量が過剰である比較例8は、難燃性は高いが、初期物性が低いことが分かった。また、難燃剤コンビネーションの構成比率が本発明の範囲内に入らない比較例9は、難燃性、電気安全性が低いことが分かった。
(4)特許文献5の実施例3ならびに特許文献4の実施例10の組成に類似している比較例4および比較例5は、難燃剤によるブリードアウトは認められないものの、難燃性を確保するため難燃剤の配合量が多くなるため、トラッキング、グローワイヤ性がやや低下することが分かった。
(5)本発明の範囲内の実施例1〜8は、難燃性もV−0であり、PTIは550V、960℃のGWFI値は合格で、GWIT値も0.75〜3.0mm厚みの範囲内ですべて775V以上と極めて電気安全性が高いことが証明された。加えて、難燃剤によるブリードアウトが少なく、機械的強度も実用的に十分に使用可能な範囲であり、耐加水分解性も良好であることが分かった。
(5)末端カルボキシル基および残存テトラヒドロフラン量が少ないPBT樹脂をベースにした実施例1は、両特性が多いPBT樹脂を使用した実施例8と比較すると、発生ガス量が著しく減少しており、リレーなどの有接点部品にも実用上極めて有用であることが分かった。
(6)実施例1と実施例7との比較より、リン系難燃剤と窒素系難燃剤の配合比率を本発明のより好ましい範囲とすることにより、GWIT値および発生ガス量がより向上することが確認された。
(7)実施例1の組成にさらにPPE樹脂またはフェノール樹脂を配合した比較例14および比較例15は、難燃性、ブリードアウト性は良好であるが、トラッキング性が著しく低下し、本発明の目的には不適合であることが分かった。また、実施例1の組成にさらに赤燐を配合した比較例16は、難燃性、ブリードアウト性、トラッキング性が良好であるが、成形品が赤みを帯びており着色していた。
(8)各種ポリスチレン系樹脂を配合した実施例1〜6の比較において、芳香族ビニル単量体の含有量が少ない成分A−2bのみを配合した実施例2の難燃剤ブリードアウトが、他の実施例に比較して多いことが確認された。一方、芳香族ビニル単量体のみの成分A−2dを配合した実施例4のトラッキング性が、ほかに比べやや低下することが確認された。
(9)エポキシ基を含有してないポリスチレン系樹脂のみを配合した実施例3および4は、実施例1、2、5および6に比較してややグローワイヤ性、耐加水分解性がやや悪化しているのと同時に、難燃性はV−0を保持しているが、燃焼時間がやや長めであった。
【0118】
以上の結果より、表1の実施例1〜8は、IEC60335−1規格、通常の作動中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している絶縁材料部品およびこれらの接続部から3mm以内にある絶縁材料部品の規定に適合したものであることが確認された。従って、本発明に係る絶縁材料部品は、難燃剤のブリードアウトが抑制され、難燃性、PTI、GWFI値、GWIT値および機械的特性が総合的に良好であり、さらに、末端カルボキシル基および残存テトラヒドロフラン量の少ないPBT樹脂をベースにすると、発生ガス量が少なくリレーなどの有接点の部品にも有用なものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の成形品は、冷蔵庫、全自動洗濯機などの家庭用電気製品において、オペレータが付かない状態で動作する機器の部品で、動作中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している絶縁材料部品およびこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁材料部品(プリント回路基板、端子台、プラグなど)に適応し、電気的安全性が向上している。さらに、末端カルボキシル基および残存テトラヒドロフラン量の少ないPBT樹脂をベースにすると、発生ガス量が少なくリレーなどの有接点の部品にも有用なものであることがわかる。本発明の成形品は難燃性に優れ、電気的安全性が向上しているので、他の電気・電子機器分野、自動車分野、機械分野等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記構成比の樹脂成分100重量部に対して、
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂 99〜50重量%
(A−2)ポリスチレン系樹脂 1〜40重量%
(A−3)相溶化剤 0〜10重量%
(B)下記難燃剤コンビネーション成分の合計量が50〜130重量部と
(B−1)リン酸エステル系難燃剤 25〜55重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩からなる窒素系難燃剤 30〜70重量部
(B−3)硼酸金属塩 1〜20重量部
(B−4)フッ素樹脂 0.5〜10重量部
(C)無機充填剤0〜200重量部と
を少なくとも配合してなり、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール系樹脂および赤燐のいずれの含有量も1重量%以下であるポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を用いて形成された樹脂成形部を有し、該樹脂成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にあることを特徴とする絶縁材料部品。
【請求項2】
(B)難燃剤コンビネーションにおいて、(B−1)リン酸エステル系難燃剤と(B−2)窒素系難燃剤の構成比率(重量比)が(B−1)/(B−2)=0.14〜1.1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁材料部品。
【請求項3】
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の主成分が、ポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載の絶縁材料部品。
【請求項4】
(A−2)ポリスチレン系樹脂が、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
【請求項5】
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の主成分が、末端カルボキシル基量が30eq/t以下で、かつ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
【請求項6】
樹脂成形部が厚さ2mm以下の肉薄部分を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
【請求項7】
樹脂成形部が厚さ2mm以下の肉薄部分を有し、該樹脂形成部に接して、前記接続部を有する絶縁材料部品が配置されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
【請求項8】
前記絶縁材料部品の形状が板状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
【請求項9】
接続部が接点であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。
【請求項10】
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の主成分が、末端カルボキシル基量が30eq/t以下で、かつ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、請求項9に記載の絶縁材料部品。
【請求項11】
絶縁材料部品が、リレー、スイッチ、コネクター、センサー、アクチュエーター、マイクロスイッチ、マイクロセンサーおよびマイクロアクチュエーターからなる群から選ばれる有接点電気電子部品である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の絶縁材料部品。

【公開番号】特開2010−27346(P2010−27346A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186247(P2008−186247)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】