説明

絶縁構造材料

【課題】多湿下においても絶縁性能が良好で適応範囲の広い木質資源由来の有機フィラーを含んだ絶縁構造材料を提供する。
【解決手段】木質資源に超臨界水もしくは亜臨界水処理した後、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのうち少なくとも1種類以上の溶媒中に浸漬し、乾燥して得られたセルロース誘導体及びヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーが充填された絶縁構造材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁構造材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、ガス遮断器等の電力機器・受配電機器に用いるブッシング、絶縁スペーサや樹脂モールドコイル、モールドバルブ等の高電圧用エポキシ樹脂注型品、不飽和ポリエステル樹脂成形品等を製造する際に用いられる熱硬化性樹脂を成分とする絶縁構造材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は、絶縁性が高く熱機械特性や耐候性、耐薬品性に優れるため、重電分野、半導体分野等の電気・電子機器絶縁材料や強化プラスチック素材として用いられてきた。たとえば、エポキシ系熱硬化樹脂においては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂からなるエポキシ樹脂配合主剤に酸無水物やアミン類に代表される硬化剤を加え一定時間加熱することで液状樹脂は硬化し、注型品を得ることができる。このとき、シリカ粒子の充填による熱膨張係数の低減や、シリコーンゴム粒子の充填による破壊靭性の向上などの機能付加が可能である。
【0003】
このような、エポキシ系熱硬化性樹脂は優れた耐久性能を有するため、長年の使用に耐えた後も性能に変化が見られないため、かかる樹脂を処分する段階における再利用や分解が難しく、廃棄物の処理が社会的な問題となってくる。
【0004】
また現在の社会的な動向では、特に地球環境との協調の面で石油に依存してきた社会から脱却し、極力石油に依存しない新しい機能が求められており、これは絶縁構造材料に対しても同様である。
【0005】
以上のように説明した電機部品用の絶縁構造材料は高電圧ストレスと発熱による機器環境に耐え20年を越える長期間の使用に耐えうる信頼性が求められている。このため、熱硬化性樹脂により注型された絶縁構造材料は優れた耐久性能を有するため、長年の使用に耐えた後も十分な機械的・電気的な強度を有するために該樹脂を処分する段階では該樹脂の再利用や分解が難しく、廃棄物の処理が社会的な問題となってくる。現在の社会的な動向では、特に地球環境との協調の面で石油に依存してきた社会から脱却し、極力石油に依存しない新しい機能が求められており、これは絶縁構造材料に対しても同様である。
【0006】
このような要求に対して、たとえば特許文献1に記載されているような絶縁構造材料が考案されている。すなわち、無機充填材のほかに木質資源を出発原料として高圧水熱処理したセルロース誘導体若しくはヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーを充填したものである。しかしながら、木質資源からなるバイオマス材料では素材中には、イオン性・吸湿性の物質が多く含まれ、水熱処理において不純物の除去が不十分な場合、材料が吸湿すると絶縁特性が低下する恐れがあるため、使用範囲が限られてしまうなどの欠点があった。本発明においては、このような問題を解決すること目的とした。
【0007】
木質資源からなるバイオマス材料では素材中に、たとえば酢酸やアルコール類などの低分子物質や、分解により生成した糖類などのイオン性・吸湿性の物質が多く含まれる。このようなバイオマス材料は吸湿すると絶縁特性が低下する恐れがあるため、この点に留意し、多湿条件での使用を避けるなどの考慮が必要となっていた。
【特許文献1】特開2004−171799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、多湿下においても絶縁性能が良好で適応範囲の広い木質資源由来の有機フィラーを含む絶縁構造材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、木質資源に超臨界水もしくは亜臨界水処理した後、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのうち少なくとも1種類以上の溶媒中に浸漬し、乾燥して得られたセルロース誘導体及びヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーが充填された絶縁構造材料を要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多湿下においても絶縁性能が良好で適応範囲の広い木質資源由来の有機フィラーを含む絶縁構造材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。尚、図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0012】
(有機フィラーの製造方法)
実施形態にかかる絶縁構造材料に用いられる有機フィラーの製造方法について、図1のフローチャートを参照しながら説明する。
【0013】
(イ)ステップ101で木質資源を超臨界水もしくは亜臨界水で処理してセルロース誘導体を得る。
【0014】
(ロ)ステップ102で、セルロース誘導体を乾燥した後、粉砕し分級を行う。セルロース誘導体の粒径は、数μm程度とすることが好ましい。
【0015】
(ハ)ステップ103でセルロース誘導体を溶媒である水中に浸漬する。浸漬の際、セルロース誘導体と溶媒とからなる懸濁液を180℃〜210℃、好ましくは190℃で加熱する。熱処理を加えることによりリグニンなど有機成分の溶解性が向上するからである。
【0016】
(ニ)ステップ105で溶媒中の沈殿物をろ別して粉体を得る。
【0017】
(ホ)ステップ108で溶媒の上澄み液を分析しイオン性物質が分画されているかを確認する。具体的には溶媒の上澄み液の糖度がBrix%で5%以下であるかを確認する。溶媒の上澄み液の糖度がBrix%で5%を超えるセルロース誘導体を絶縁構造材料に用いた場合、吸湿が加速的に(1〜2桁)進み、絶縁抵抗が違ってくる結果、漏れ電流が増大してしまうからである。糖度はBrix%で0%が最も好ましいが、5%以下であれば絶縁抵抗が桁まで違ってくることはなく、絶縁物として使用可能となる。そして溶媒の上澄み液の糖度がBrix%で5%を超える場合は、5%以下になるまでステップ103(浸漬工程)、ステップ105(ろ過工程)を繰り返す。糖度はBrix%を低くするほど好ましいものの、繰り返し回数が増加するので、工業的には好ましくない。生産性を考慮すれば、繰り返し回数は3〜5回が好ましい。このように不純物を除去して有機フィラーを精製し純度を向上させたものは、特に絶縁抵抗の低下を防ぐことができる。
【0018】
(ヘ)ステップ110で粉体を乾燥させて有機フィラーを得る。
【0019】
ステップ101における木質資源としては廃材等を用いることができる。
【0020】
ステップ103で溶媒として水を用いたが、水の他にも、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドを用いることができる。なかでも水が好ましい。
【0021】
ステップ108における「糖度のBrix%」とは、不純物を含んだ濃度である。
【0022】
ステップ108におけるセルロース誘導体の精製度の確認は、洗浄液の残留糖度の他にも、pH測定で管理することも可能である。その際、溶媒の上澄み液のpHを4〜9とすることが好ましい。pHが9を超える場合、絶縁構造材料を調製する際に、予備充填エポキシ樹脂が自己重合するためポットライフが確保できず作業性を著しく低下させる恐れがあるからである。一方、溶媒の上澄み液のpHが4を下回るセルロース誘導体を絶縁構造材料に用いた場合、得られる絶縁構造材料は高湿条件下での水分の吸着を抑えることができなくなる。溶媒の上澄み液のpHは7程度が好ましく、所謂中性に近づくほど好ましい。溶媒の上澄み液のpHの調整は、ステップ103、ステップ105を繰り返すことの他に、ステップ103で溶媒に電解質を添加することによっても構わない。
【0023】
実施形態によれば、木質資源を出発原料として転換精製したセルロース誘導体と吸湿性の不純物を分画できる。吸湿性が低減されたバイオマス材料由来の有機フィラーが製造される。有機フィラーを絶縁構造材料に用いることで、多湿下においても絶縁性能が良好で適応範囲の広い絶縁構造材料が提供される。
【0024】
(絶縁構造材料)
図2に示す実施形態にかかる絶縁構造材料1は、熱硬化性マトリックス樹脂2と、木質資源由来の有機フィラー3と、を含む。
【0025】
熱硬化性マトリックス樹脂2としては、電気絶縁材料として通常用いられるエポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等を使用できる。また熱可塑性樹脂にも使用できる。有機フィラーとしては、上述の有機フィラーの製造方法により製造される木質資源を出発原料とする有機フィラーを用いることができる。即ち実施形態にかかる絶縁構造材料1は、木質資源に超臨界水もしくは亜臨界水処理した後、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのうち少なくとも1種類以上の溶媒中に浸漬し、乾燥して得られたセルロース誘導体及びヘミセルロース誘導体からなる有機フィラー3が熱硬化性マトリックス樹脂2に充填されている構成を備える。この場合、有機フィラー3の調製時において、溶媒の浸漬時の上澄み液の糖度がBrix%で5%以下であることが好ましい。溶媒の浸漬時の上澄み液のpHが4〜9であることが好ましい。セルロース誘導体及びヘミセルロース誘導体と溶媒からなる懸濁液が加熱されていることが好ましい。
【0026】
(絶縁構造材料の製造例)
絶縁構造材料1は、熱硬化性マトリックス樹脂2、木質資源を出発原料とする上述の有機フィラー3を混合した後、加熱硬化することにより製造することができる。以下に絶縁構造材料の製造例を以下に挙げる。尚、製造例中有機フィラー3の調製例については特に言及されていないがイオン性物質が分画されたことを確認した上で製造されたものである。
【0027】
製造例1:木質資源を出発原料として分解精製したセルロースの構造式を式(1)に示す。式(1)中のnは正の整数を示す。式(1)において、セルロースはブドウ糖をユニットとして(1→4)−β−グルコシド結合したものである。セルロース直鎖中にはブドウ糖骨格由来の水酸基が多量にあり、隣接するセルロース鎖間で水素結合を発生し結晶状態で存在する。
【化1】

【0028】
セルロース結晶中の残留水酸基は熱硬化性マトリックス樹脂2と反応するという性質を利用して有機フィラー3を、電気・電子部品を構成する絶縁構造材料の樹脂成分に対して5〜100質量%を含有させた。熱硬化性マトリックス樹脂2として、下式(2)にその構造式を示すビスフェノールA型エポキシ樹脂とメチルテトラヒドロ無水フタル酸を使用した。式(2)中のnは正の整数を示す。エポキシ樹脂の構造末端にはエポキシ基があり、アミン等の適当な触媒存在下で加熱するとメチルテトラヒドロ無水フタル酸との間で開環重合を開始する。エポキシ樹脂中に存在する水酸基は樹脂の架橋構造に影響を与える。同様にセルロース誘導体の糖骨格中の水酸基も樹脂の硬化反応に介在することができる。
【化2】

【0029】
木質資源を分解するという方法で転換精製して得られる材料は、セルロースの他にヘミセルロースの主要成分キシランがあり、この場合セルロースの上記構造式のブドウ糖ユニットがD−キシロースとなる。このようなヘミセルロース誘導体であっても熱硬化性樹脂への導入は容易である。これらの構成を採ることにより、植物の細胞壁を形成するセルロースやヘミセルロースの構造を熱硬化性樹脂に導入することができる。
【0030】
製造例2:有機フィラー3として、上記セルロース誘導体にパルプを酸で部分的に加水分解し精製した高純度の結晶性セルロースを用いた。結晶性セルロースは式(1)のセルロースの構造式においてn=150〜200と非常に大きなものである。エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性マトリックス樹脂2に対し結晶性セルロースを有機フィラー3として、分散・硬化させた。このような構成を採ることにより、純粋で安定的なセルロース誘導体の熱硬化性マトリックス樹脂2への導入が可能となり、熱硬化性マトリックス樹脂2成分に対し50質量%までの添加では極端な粘度上昇は無く、樹脂成形プロセスに用いられる温度範囲である150℃以内で使用しても熱変性もなく安定で、無機充填材同様に加熱乾燥や混合を行うことができる。
【0031】
製造例3:キノコの栽培で使用したコーンコブ廃材を出発原料として、200℃、10hPaの亜臨界水処理をした後、水溶解性成分を抽出乾燥させたものを有機フィラー3として用いた。水溶解性成分は重合度(以下、DPという。)6以下のセロオリゴ糖とDP13以下のキシロオリゴ糖が主成分である。この構成を採ることにより、純度が高く熱的に安定なセルロース誘導体又はヘミセルロース誘導体の熱硬化性マトリックス樹脂2への導入が可能であることが分かった。
【0032】
製造例4:製造例3で亜臨界水処理をして得られた水溶性成分に、担糸菌由来のセルラーゼ、キシラナーゼ等の酵素を作用し低分子量化した後、乾燥した低分子量のオリゴマーを有機フィラー3として用いた。酵素処理により得られた有機フィラー3は、DP2〜6のセロオリゴ糖とDP2〜10のキシロオリゴ糖が主成分である。この構成を採ることにより、任意の分子量のオリゴマーを導入することができることが分かった。
【0033】
製造例5:ブドウ糖を出発原料とし、これを微生物(Agrobacterium biovar1)により発酵法による製造される多糖類でブドウ糖をユニットとして(1→3)−β−グルコシド結合したオリゴマー(武田薬品工業社製、商品名:カードラン)及びブドウ糖を出発原料とした。これをクエン酸によって重縮合した(1→4)−β−グルコシド結合の他に下式(3)に示した(1→4)−α−グルコシド結合を含むα・βランダムオリゴ糖(ダニスコカルターフード社製、商品名:ポリデキストロース)をそれぞれ有機フィラー3として用いた。式(3)中のnは正の整数を示す。このような構成を採ることにより、生化学手法によって、ブドウ糖から生化学合成されるセルロース誘導体類似物質も熱硬化性マトリックス樹脂2に導入が可能となる。
【化3】

【0034】
製造例1〜製造例5では、調製された材料硬化物には、強度、熱機械特性、耐電圧特性など絶縁構造材料の基本特性を極端に低下させる現象は見られなかった。
【0035】
製造例6:製造例4で亜臨界水処理を行い、酵素を作用して低分子量化したものを脱水濃縮し、水溶液のまま熱硬化性マトリックス樹脂2に添加し、120℃で、1hPaの減圧下乾燥することにより結晶化を制御できる。これによって、低分子オリゴマーである有機フィラー3の粒径が0.1μm以下のナノサイズになるよう分散させることができる。このような構成を採ることにより、ナノサイズに分散した低分子オリゴマーが熱硬化性樹脂のネットワークに影響を与える作用があり、樹脂の熱変形温度が10℃程度上昇する。
【0036】
製造例7:製造例2の結晶性セルロース微粉末からなる有機フィラー3の粒径を制御したものを用いた。すなわち、結晶性セルロースの粒径が0.1〜1.0μmになるようにふるいによって選別し、これをエポキシ樹脂成分に対して10質量%充填した。有機フィラー3の粒径を制御することにより、材料の耐クラック性が向上し、破壊靭性値を20%上昇させる作用があることが分かった。
【0037】
製造例8:結晶性セルロースからなる有機フィラー3の粒径及び形状を制御したものを用いた。すなわち、結晶性セルロースの粒径が1.0〜500μmであり、その形状が球形の造粒物を用い、これをエポキシ樹脂成分に対して20質量%充填した。このような構成を採ることにより、マトリックス樹脂2の重量を10質量%低減することができる。
【0038】
熱硬化性マトリック樹脂2に添加した有機フィラー3は乾燥状態では安定であるが、植物の細胞壁を起源とした自然界に最も普遍的に存在する骨格を持つため、微生物に作用され易い。
【0039】
上記製造例で調製された材料硬化物を機械的に粉砕した後、腐葉土と混合し、適宜湿度を与えながら35℃で長期間のインキュベーションを与えた。1ヶ月の経過観察で、腐葉土中の土壌細菌により有機フィラー3成分が分解離脱し、結果として添加した有機フィラー3の添加量を超える材料の重量減少が認められた。更に、約1年間の経過観察で樹脂成分はほぼ分解され、無機充填材であるシリカ粒子だけが残留した。
【0040】
以上、上記の製造例で得られた絶縁構造材料は、熱的、機械的、電気的強度を損なうことなく長年の使用に耐えられるだけでなく、使用後は簡単な機械的粉砕処理を与えれば土壌細菌によって長期的に微生物分解される機能が得られ、従来難分解性とされる熱硬化性樹脂材料に環境負荷要因を低減させる効果が与えられる。
【0041】
熱硬化性マトリックス樹脂2に各種セルロース誘導体及びヘミセルロース誘導体を有機フィラー3として導入して用いたが、それらの誘導体に限定されるものではなく、用途に合わせて上記誘導体をメチル化やニトロ化等の化学変性して、熱硬化性マトリックス樹脂2に積極的に種々の反応基を関与さても良い。又、セルロース誘導体に対して、式(3)に示した(1→4)−α−グルコシド結合によって構成されるデンプン又はそのデンプンを分解して得られるデンプン糖若しくはその変性物を使用すれば高い生分解性が期待できるが、素材自体が熱変性を受け易いため、絶縁構造材料に導入する場合、60℃以上の高温での工程処理や硬化物の使用環境には十分注意が必要である。
【0042】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。実施態様において、簡素化のために熱硬化性マトリックス樹脂2及び有機フィラー3のみ充填した系を説明したが、実施形態にかかる絶縁構造材料1は、熱硬化性マトリックス樹脂2及び有機フィラー3に加えて、さらに無機充填材やゴム粒子を添加することができる。無機充填材としては、シリカ、アルミナ、マイカ、酸化チタン等の電気絶縁材料の無機充填材として通常用いられるものを挙げることができる。また通常絶縁材料に含有されている界面活性剤、消泡剤、硬化促進剤等の添加剤を添加することができる。熱硬化性マトリックス樹脂2が、エポキシ樹脂の場合は、上記添加剤が添加されるか添加されないエポキシ樹脂配合主剤及び上記添加剤が添加されるか添加されない硬化剤配合剤をそれぞれ別に分けて調製し、絶縁部品を製造する注型工程時に両配合物を混ぜ合わせて使用される。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
(有機フィラーの調製)
図1を参照しながら説明する。
【0044】
ステップ101で木質資源を亜臨界水で処理してセルロース誘導体を得た。
【0045】
ステップ102で、セルロース誘導体を乾燥し、粉砕した後、ふるいで分級を行った。
【0046】
ステップ103でセルロース誘導体粉体2をビーカーに移し精製水を加え攪拌した。
【0047】
ステップ105で水中の沈殿物をフィルターでろ別した。
【0048】
ステップ108で溶媒の上澄み液の糖度がBrix%で5%以下になるまでステップ103、ステップ105を4回繰り返した。
【0049】
ステップ110で粉体を乾燥させ、乳鉢で粉砕した後、ふるいで分級し、これを恒温槽で十分に乾燥して(不純物を除去するために、溶媒中で繰り返し精製された)有機フィラーを得た。
【0050】
(注型品(絶縁構造材料)の調製)
有機フィラーの調製例で得られた有機フィラー50重量部と、ビスフェノール型エポキシ樹脂100重量部と、酸無水物硬化剤(MCD、日本化薬社製、商品名:カヤハード(MCD))86重量部と、アミン系硬化促進剤0.8重量部とをそれぞれ添加し、自公転式混合攪拌機を用いて混合した。次いで、得られた混合樹脂を加熱脱泡した後、80℃に予熱した金型中に流し込み、80℃で15時間かけて一次硬化した。これを離型した後、150℃の恒温槽で15時間かけて完全に硬化させ注型品を得た。
【0051】
(比較例1)
比較例1として、ステップ108を除いて、実施例1と同様の操作により有機フィラーを調製した。その後、得られた有機フィラーを用いて、実施例1と同様の操作により注型品を調製した。
【0052】
(評価実験)
実施例1による注型品と比較例1による注型品を高湿度条件下に約2ヶ月放置した注型品の電気特性をそれぞれ測定した。その結果、比較例1により作製した注型品では体積抵抗率が1.3×10Ω・mであったのに対し、実施例1では8.9×1010Ω・mとなり、有機フィラー中の糖類やアルコール類、酸類を分画することにより絶縁抵抗を保持することが可能であることがわかった。
【0053】
また、図3(a)(b)に実施例1と比較例1の注型品の周波数-誘電率特性をそれぞれ示す。いずれの周波数においても比較例1よりも実施例1の誘電率が低く、有機フィラー中のイオン性物質が分画されていることがわかる。このことからも、本発明が絶縁物の製造プロセスとして有用であることがわかる。
【0054】
実施例1では、セルロース誘導体の精製度を、洗浄液の残留糖度や、pHで管理することも可能である。すなわち、洗浄液の残留糖度がBrix%で5%を超えるセルロース誘導体を用いた場合、得られる絶縁構造材料は高湿条件下での水分の吸着を抑えることができない。pHが9以上である場合、予備充填エポキシ樹脂が自己重合するためポットライフが確保できず作業性を著しく低下させる。また、pHが4を下回ると注型品の硬化を阻害する恐れがある。また、セルロース誘導体を洗浄する際、熱処理を加えることによりリグニンなど有機成分の溶解性を向上し、結果として注型品の耐熱性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】有機フィラーの製造工程のフローチャートを示す。
【図2】実施形態にかかる絶縁材料の断面模式図を示す。
【図3】(a)は実施例1による周波数-誘電率特性を表わし、(b)は比較例1による周波数-誘電率特性を表わす。
【符号の説明】
【0056】
1:絶縁構造材料
2:熱硬化性樹脂マトリックス
3:有機フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質資源を転換精製して得られたセルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーを電気絶縁材料に充填させた絶縁構造材料において、
前記有機フィラーを、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのうち少なくとも1種類以上の溶媒中で精製し純度を向上させたことを特徴とする絶縁構造材料。
【請求項2】
前記電気絶縁材料は、熱硬化性マトリックス樹脂であることを特徴とする請求項1記載の絶縁構造材料。
【請求項3】
前記溶媒の上澄み液の糖度がBrix%で5%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁構造材料。
【請求項4】
前記溶媒の上澄み液のpHが中性であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の絶縁構造材料。
【請求項5】
前記溶媒を加熱することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の絶縁構造材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−181890(P2009−181890A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21490(P2008−21490)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)」
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】