説明

絶縁樹脂組成物、絶縁電線、光ファイバケーブル

【課題】難燃性、耐熱性、耐候性に優れ、強度を保ちつつ、浸水後における絶縁体の体積固有抵抗の低下を抑制した絶縁樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体及び/又はアクリルゴムを主成分とする樹脂成分より形成され、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、および不飽和力ルボン酸の成分の合計が樹脂成分中、31〜66質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、リン酸エステル化合物とビニル基及び/又はエポキシ基を有するシランカップリング剤との両方で表面処理された水酸化マグネシウムを70〜320質量部含有する絶縁樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁樹脂組成物、および絶縁電線等に関し、詳しくは電気・電子機器の内部および外部配線に使用され、埋立、燃焼などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない絶縁電線、ケーブル、光ファイバケーブル、および光コード、並びに、それらに好適に用いられる絶縁樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線、光ファイバケーブル等の被覆材料には、ポリ塩化ビニルコンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したエチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物を使用することがよく知られている。
近年、これらを適切な処理をせずに廃棄した場合、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤が溶出したり、多量の腐食性ガスが発生したり、ダイオキシンの発生などという問題が議論されており、有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料を被覆する検討が活発におこなわれはじめている。
【0003】
ところで電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスには安全性の面から非常に厳しい難燃性規格:UL1581(Reference Standard for Electrical Wires, Cableds, and Flexible Cords)などに規定されるVertical Flame Test:VW−1規格やJIS C 3005に規定される60度傾斜難燃特性が求められている。またさらにULや電気用品取締規格などから伸び100%、力学的強度10MPa以上の高い力学的強度が要求されている。
【0004】
そこで金属水和物を多量に加える系が検討されているが、これを大量に加えると強度の低下が生じる。そこで水酸化マグネシウムの表面に種々の表面処理を施すことにより、伸び及び強度を改善している。例えば、表面処理材料としてステアリン酸を使用することにより伸び特性を向上することが知られている。またシランカップ剤を無処理の水酸化マグネシウムに混練り時に加えることにより、表面処理を行い強度を保持する提案もなされている(特許文献1参照)。
しかしこれらのものでは水酸化マグネシウムを非常に大量に加えたときには、強度、伸びの低下を引き起こし、上記の特性を満足することが不可能である。
【0005】
一方電線の必要特性として絶縁抵抗すなわち絶縁材の体積固有抵抗を高く保持しなければならない。また電線は例えば洗濯機のような水のかかる部分で使用される場合があるが大量の水酸化マグネシウムを加えた材料や電線は体積固有抵抗や絶縁抵抗が大きく低下してしまい使用することが出来なかった。
【0006】
またこれを改善するためシランカップリング剤の処理量を変えたり、ステアリン酸やオレイン酸などの脂肪酸を用いたり、シランカップリング剤とこれらの処理剤を併用する方法も考えられるが、しかしながらいずれの場合も、耐熱性、耐候性の維持や浸水後において材料組成物の体積固有抵抗が保持できなかったり、所定の強度が得られなかったり、さらに傷が付きやすくなったりする問題がある。
【0007】
また、水酸化マグネシウムを大量に加えられたノンハロゲン材料及びこれを被覆された電線等は耐熱性や耐候性に乏しく、高温度下でさらされたり、紫外線に当たると物性が大幅に低下してしまい、光が当たる分野や高温度下では使用することが出来なかった。
【特許文献1】特許第2525982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は難燃性、耐熱性、耐候性に優れ、被覆材の強度を保ちつつ、しかも上述の問題点である浸水後における絶縁体の体積固有抵抗の低下を抑制した絶縁樹脂組成物、並びに絶縁電線、コード、光ファイバケーブル、及び光ファイバコードを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、特定のエステル、酸、或いは酢酸ビニル量を含有するベース材料に対して水酸化マグネシウムの表面処理としてリン酸エステルによる表面処理と特定のシランカップリング剤による表面処理の両方の表面処理を特定の範囲で併用することにより、難燃性、耐熱性、耐候性に優れ、しかも浸水後に比較的高い体積固有抵抗が保持できるノンハロゲン被覆材料及び絶縁電線等が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体及び/又はアクリルゴムを主成分とする樹脂成分より形成され、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、および不飽和カルボン酸の成分の合計が樹脂成分中、31〜66質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、リン酸エステル化合物とビニル基及び/又はエポキシ基を有するシランカップリング剤との両方で表面処理なされた水酸化マグネシウムを70〜320質量部含有することを特徴とする絶縁組成物、
(2)前記水酸化マグネシウムが、水酸化マグネシウム量に対して0.6〜3質量%のリン酸エステル化合物と0.15〜2質量%のシランカップリング剤により表面処理なされた水酸化マグネシウムであることを特徴とする(1)項記載の絶縁樹脂組成物、
(3)前記樹脂成分100質量部に対して、ヒンダートフェノール老化防止剤0.5〜6質量部、および銅害防止剤0.2質量部以上を含有することを特徴とする(1)または(2)項記載の絶縁樹脂組成物、および、
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物を導体または光ファイバの周りに被覆してなること特徴とする絶縁電線もしくはケーブル、または光ファイバケーブルもしくは光コード
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、浸水時に絶縁抵抗の低下が少なく、しかも耐熱性、耐候性、難燃性、強度に優れた絶縁樹脂組成物並びに絶縁電線、ケーブル、光ファイバケーブル、光コードが得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の絶縁樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体及び/又はアクリルゴムを主成分とする樹脂成分より形成され、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、および不飽和力ルボン酸の成分の合計が樹脂成分中、31〜66質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、リン酸エステル化合物とビニル基及び/又はエポキシ基を有するシランカップリング剤との両方で表面処理された水酸化マグネシウムを70〜320質量部含有するものである。
本発明においては、ベース材料として特定の酸、エステル、酢酸含有量を有するエチレン共重合体を主体とする材料を用い、水酸化マグネシウムに特定量のリン酸エステルと特定のシランカップリング剤の両方で表面処理を施した水酸化マグネシウムを用いることにより、浸水時に絶縁抵抗の低下が少なく、しかも耐熱性、耐候性に優れた組成物及び絶縁電線等が得られた。
以下に、本発明の絶縁樹脂組成物の各成分を詳細に説明する。
【0013】
(A−1)ポリオレフィン樹脂
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂としてはポリプロピレン樹脂、エチレン−αオレフィン樹脂等が挙げられる。
本発明に用いることのできるポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体、またポリプロピセンとエチレン−プロピレンゴムの共重合体等が挙げられる。
【0014】
エチレン・α−オレフィン樹脂としては、LLDPE、LDPE、VLDPE、EPR、EBR、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等がある。このなかでも、メタロセン触媒で合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。本発明において用いられるメタロセン触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体としては、Dow Chemical社から、「AFFINITY」「ENGAGE」(商品名)が、日本ポリエチレン社から「カーネル」(商品名)が、プライムポリマー社から「エボリュー」「タフマー」(商品名)、UBE丸善石油(株)から「ユメリット」(商品名)が上市されている。
ポリオレフィン樹脂の量は特には限定しないが、好ましくは樹脂成分中0〜60質量%、さらに好ましくは0〜40質量%である。
【0015】
(A−2)エチレン系共重合体
本発明に用いられるエチレン系共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキル系アクリルゴム、エチレン−アクリル酸アルキル−アクリル酸系アクリルゴムなどが挙げられる。またエチレン系共重合体の中で難燃性や耐候性を向上させるためにはエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用するのがよい。
エチレン系共重合体の量は特には限定しないが、好ましくは樹脂成分中100〜30質量%、さらに好ましくは90〜50質量%である。
【0016】
(A−3)アクリルゴム
本発明においては、樹脂成分中にアクリルゴムを使用することができる。
アクリルゴムは単量体成分としてはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと各種官能基を有する単量体を少量共重合させて得られるゴム弾性体であり、共重合させる単量体としては、2−クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等を適宜使用することができる。具体的には、Nipol AR(商品名、日本ゼオン社製)、JSR AR(商品名、JSR社製)等を使用することができる。
特に単量体成分としてはアクリル酸メチルを使用するのが好ましく、その場合には、エチレンとの2元共重合体や、これにさらにカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素をモノマーとして共重合させた3元共重合体を特に好適に使用することができる。具体的には、2元共重合体の場合にはベイマックDPを、3元共重合体の場合にはベイマックG、ベイマックHG、ベイマックGLS(商品名、いずれもデュポン社製)を使用することができる。
【0017】
これらのアクリルゴムを配合することにより、皮むきの際にひげ状に被覆材を伸ばすことなく皮むき性が良好になる。またアクリルゴムの配合により著しく難燃性が向上する。エチレン系共重合体にアクリルゴムを併用することにより、難燃性を保ちつつ、比較的高い絶縁特性を有することが可能になる。
このアクリルゴムの量は特には限定しないが樹脂成分中好ましくは0〜60質量%であり、50質量%以下がさらに好ましい。この量が多すぎると、押出負荷が高くなる。
【0018】
ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体及び/又はアクリルゴムを主成分とする樹脂成分中、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、不飽和カルボン酸の成分の合計が31〜66質量%であり、好ましくは33〜60質量%である。
この量が31質量%より小さいと耐熱性、耐候性は著しく低下し、66質量%を超えると浸水下における体積固有抵抗や絶縁抵抗が著しく低下する。
【0019】
酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、および不飽和力ルボン酸の成分の合計が樹脂成分中で31〜66質量%の場合、樹脂組成物の耐熱性、耐候性が極めて良好となる。この原因についてはまだ明確に解明はなされていないものの、水酸化マグネシウムの無処理部分による塩基性が樹脂成分の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、不飽和カルボン酸により緩和されるためであると考えられる。この塩基性が緩和されることにより樹脂の熱及び紫外線等の光による連鎖的な劣化が大幅に抑えられると考えられる。
【0020】
本発明に用いられる樹脂成分としては、上記の(A−1)〜(A−3)で示される主成分以外に、スチレン系エラストマーなどの副成分を本発明の目的を害しない範囲で加えることが出来る。これら副成分の量は好ましくは樹脂成分中30質量%以下である。
【0021】
(B)水酸化マグネシウム
本発明においては、樹脂組成物、絶縁電線等に難燃性を付与することを目的として、前記樹脂成分に所定量の水酸化マグネシウム(B)を配合する。水酸化マグネシムの配合量は樹脂成分100質量部に対し、70〜320質量部であり、100〜300質量部であることが好ましい。
【0022】
水酸化マグネシウムとしてはリン酸エステルとビニル基及び/又はエポキシ基を有するシランカップリング剤の両方で表面処理されている必要がある。
リン酸エステルは下記式(2)のものが挙げられ、好ましくはステアリルアルコールリン酸エステルやその金属塩やラウリルアルコールリン酸エステルやその金属塩等が挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
[式(2)中、Rは炭素原子数1〜24のアルキル基またはアルケニル基、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基、Mはアルカリ金属または炭素原子数1〜4のアルキルアミンのカチオンまたは式(3)
【0025】
【化2】

【0026】
(ただし式(3)中、R’は水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基、Bは炭素原子数2〜4のアルキレン基、rは1〜3の整数を示す)で示されるアルカノールアミンのカチオンを表し、nは0〜6の整数、mは1または2を表す。]
【0027】
リン酸エステルの処理量は、水酸化マグネシウムとリン酸エステル化合物とシランカップリング剤の合計量において好ましくは0.6〜3質量%、より好ましくは0.8〜2.5質量%、さらに好ましくは1.0〜2.5質量%の量で水酸化マグネシウムを表面処理したものである。
【0028】
シランカップリング剤としては末端にビニル基(アクリル基、メタクリロキシル基等の不飽和結合を有するものを含む)、及び/又はエポキシ基を有するシランカップリング剤を用いなければならない。
このようなシランカップリング剤としてはビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラシ等が挙げられる。
このようなシランカップリング剤は1種及び2種以上を用いて処理を行って良い。
シランカップリング剤の処理量は、水酸化マグネシウムの量に対して、好ましくは0.15〜2質量%、さらに好ましくは0.2〜1.5質量%、より好ましくは0.25〜1.0質量%の量で水酸化マグネシウムを表面処理したものである。
【0029】
水酸化マグネシウムは合成後に湿式処理においてリン酸エステルと上述のシランカップリング剤の両方で処理しても良いし、未処理の水酸化マグネシウムにリン酸エステルナトリウム等のリン酸エステル化合物と上述のシランカップリング剤を加えブレンドすることにより両者を表面処理しても良いし、部分的に金属水和物の表面を湿式処理においてリン酸エステルで表面処理した金属水和物に架橋性のシランカップリング剤を添加し表面処理を行っても良い。
【0030】
特に湿式処理においてリン酸エステルと架橋性シランカップリング剤を表面処理する方法が強度や浸水後の体積固有抵抗の維持に有効である。この場合処理の順番であるが、リン酸エステルで処埋した後に架稿性シランカッブリング剤で処理しても艮いし、架橋性シランカップリング剤で処理した後にリン酸エステルで処理しても良いが、シランカップリング剤で処理を行った後にリン酸エステル処理を行った方が良い。
【0031】
難燃剤として水酸化マグネシウムはその少なくとも1/2以上はリン酸エステルとシランカップリング剤の両方で処理されているものを使用することが好ましい。併用する金属水和物としては、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムや無処理や他の表面処理が施された水酸化マグネシウムが挙げられる。リン酸エステルとシランカップリング剤の両方で処理されている水酸化マグネシウムが全水酸化マグネシウムの1/2以下になると、著しく耐熱性、耐候性が低下し、さらに浸水後の絶縁抵抗も低下する場合がある。
【0032】
比較的酸、エステル、酢酸ビニル部位の多いベース材料中でリン酸エステルとシランカップリング剤の両方で処理されている水酸化マグネシウムの裸部分による塩基性が樹脂成分の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸不飽和カルボン酸により緩和されるためであると考えられる。さらにリン酸エステルとシランカップリング剤の相互作用により、水酸化マグネシウムによる老化防止剤の分解や吸着を防ぐことが可能となるものと考えられる。さらにリン酸エステルやシラン表面処理材は水酸化マグネシウムの塩基性を緩和することにより、樹脂自体の熱及び紫外線等の光による連鎖的な劣化が大幅に抑えられると考えられる。
【0033】
特に耐熱性の維持、耐候性の維持についてはヒンダートフェノール老化防止剤と銅害防止剤を併用すると非常に大きな効果がある。ヒンダートフェノール老化防止剤は水酸化マグネシウムに吸着されやすく、また銅害防止剤は水酸化マグネシウムにより高温下で分解しやすい。リン酸エステルとシラン処理の両方で処理された水酸化マグネシウムの使用により、この吸着が抑えられ効率的に効果が生じる。さらに本発明に用いられる酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、不飽和力ルボン酸の成分の合計が樹脂成分中、31〜66質量%含有する樹脂成分は水酸化マグネシウムの塩基性をさらに抑える効果があるため、さらに効率的に働くものと考えられる。
【0034】
ヒンダートフェノール老化防止剤としてはペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。ヒンダートフェノール老化防止剤の含有量は樹脂成分100質量部に対して、0.5〜6質量部が好ましく、0.8〜4質量部がさらに好ましい。
【0035】
銅害防止剤としては2’,3−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)プロピオノヒドラジド、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などがあげられる。銅害防止剤の含有量は樹脂成分100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、0.5〜3質量部がさらに好ましい。
【0036】
その他酸化防止剤としては4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などがあげられる。
【0037】
難燃効果を高めるためにスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛やホウ酸亜鉛を上記の系に併用するのが好ましい。これら化合物を併用することにより、燃焼時の殻形成の速度を促進し、殻形成をより強固にする。ホウ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛は平均粒子径が5ミクロン以下が好ましく、3ミクロン程度が特に好ましい。商品名はたとえばアルカネックスFRC−500(2ZnO/3B・3.5H0)、FRC−600(販売元水澤化学)などがある。またスズ酸亜鉛はスズ酸亜鉛(ZnSnO)と水和物を有するヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH))があり、商品名アルカネックスZS、アルカネックスZHS(販売元水澤化学)などがある。
【0038】
また難燃効果を高める方法としてメラミンシアヌレートを添加しても良い。添加量については特には限定しないが、ベース材料の樹脂成分100質量部に対して2〜80質量程度が好ましい。
【0039】
本発明における絶縁樹脂組成物には、電線・ケーブルにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボンなどがあげられる。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられ、なかでも、「ワックスE」「ワックスOP」(Hoechst社製)などの内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系滑剤が好ましい。
【0040】
本発明の絶縁樹脂組成物は、上記の各成分を例えばバンバリーミキサー、ニーダー、2軸押し出し機により混練りすることにより製造することができる。
【0041】
次に本発明の絶縁電線、ケーブルについて説明する。
本発明の絶縁電線、またはケーブルは、導体の周りに上記の本発明の絶縁樹脂組成物が被覆されたものであり、本発明の絶縁樹脂組成物を通常の押出成形機を用いて常法により導体、または集合絶縁電線等の周囲に押出被覆することにより製造することができる。
【0042】
また、本発明の絶縁電線は、架橋させることが好ましい。架橋させることにより耐熱性の向上のみならず、難燃性も向上する。
架橋する場合、電子線架橋法や化学架橋法が採用できるが、電子線架橋法が一般的に使用される。
電子線架橋法の場合、電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
化学架橋法の場合は、一次被覆層、二次被覆層を構成する樹脂組成物に、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシエステル、ケトンペルオキシドなどの有機過酸化物を架橋剤として配合し、押出成形被覆後に加熱処理により架橋をおこなう。
本発明の絶縁電線は、導体の周りに形成される絶縁樹脂組成物の肉厚は特には限定しないが0.15mm〜1mmが好ましい。また、絶縁層が多層構造であってもよく、本発明の絶縁樹脂組成物で形成した被覆層のほかに中間層などを有するものでもよい。
【0043】
本発明の光ファイバコードまたは光ケーブルは、汎用の押出被覆装置を使用して、本発明の絶縁樹脂組成物を被覆層として、光ファイバ心線の周囲に、または抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた光ファイバコードの周囲に押出被覆することにより、製造される。このときの押出被覆装置の温度は、シリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の光ファイバコードは、用途によってはさらに周囲に被覆層を設けないでそのまま使用される。
また、本発明の光ファイバコードないしは光ケーブルは本発明の絶縁樹脂組成物を被覆層として、光ファイバ心線またはコードの外周に被覆されたものすべてを包含し、特にその構造を制限するものではない。被覆層の厚さ、光ファイバコードに縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、光ファイバケーブルの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
(実施例、比較例、参考例)
まず、表1に示す組成の各成分をバンバリーミキサーに加え、溶融混練して、絶縁樹脂組成物を作成した。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:0.95mmφ錫メッキ軟銅撚線構成:21本/0.18mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各実施例、比較例に対応する絶縁電線を製造した。外径は2.63mmとした。被覆後5Mradで電子線照射を行うことにより架橋を行った。
【0046】
得られた各絶縁電線について、引張特性(伸び、抗張力)、難燃性、電気特性(絶縁抵抗)、耐候性、耐熱性を評価し、その結果を表に示した。得られた各絶縁電線について、以下の試験を行った。結果を表1に示した。
1)伸び、抗張力
各絶縁電線の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で測定した。
伸びおよび抗張力の要求特性はそれぞれ、各々120%以上、10MPa以上である。
2)耐熱性
電線から導体を取り除き、管状片を作成後これを158℃7日間処理した後に、1)の条件で引張り試験を行い、引張り強さ残率、伸び残率を測定した。引張り強さ残率、伸び残率共に70%以上が実用上好ましい。
3)耐候性
電線工業会技資第130号『照明器具用電線・ケーブルの紫外線劣化促進試験』の方法を用い、100℃60日間加熱処理を行った後、各絶縁電線の被覆層の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で測定した。伸び50%以上、抗張力(引張り強さ)残率65%以上が合格である。
4)難燃性
難撚性はUL1581で規定されている水平難燃試験及び垂直難燃試験を行った。
5)絶縁抵抗
電気特性は絶縁抵抗をJlS C 3005に示される方法で絶縁抵杭を測定した。絶縁抵抗は20℃の水中で測定を行い、1時間後と30日間浸水した後の絶縁抵抗を測定した。絶縁抵抗は1h後が100MΩ・km以上、7日後が30MΩ・km以上が合格である。
【0047】
【表1】

【0048】
なお、表1に示す成分を以下に詳細に示す
(01)エチレン−酢酸ビニル共重合体
VA含有量 33質量%
EV180(三井デュポンポリケミカル)
(02)エチレン−エチルアクリレート共重合体
EA含有量 25質量%
A−714(三井デュポンボリケミカル)
(03)エチレン−酢酸ビニル共重合体
VA含有量 41質量%
V−9000(三井デュポンポリケミカル)
(04)エチレン−酢酸ビニル共重合体
VA含有量 80質量%
レバプレン800HV(ランクセス)
(05)アクリルゴム
MA含有量 70質量%
ベイマックDP(デュポン)
(06)アドテックL6100M(無水マレイン酸変性LLDPE)
日本ポリエチレン(株)
(07)ブロックPP
BC3A(日本ポリプロピレン)
(08)リン酸エステル+シラン処理水酸化マグネシウム(A)
リン酸エステル(ステアリルアルコールリン酸エステルのナトリウム塩)量 0.8質量%
ビニル系シランカップリング剤(TSL8350)の量 0.3質量%
(09)リン酸エステル+シラン処理水酸化マグネシウム(B)
リン酸エステル(ステアリルアルコールリン酸エステルのナトリウム塩)量 1.5質量%
メタクリル系シランカップリング剤(TSL8311)の量 0.6質量%
(10)リン酸エステル+シラン処理水酸化マグネシウム(C)
リン酸エステル(ステアリルアルコールリン酸エステルのナトリウム塩)量 0.6質量%
メタクリル系シランカップリング剤(TSL8370)の量 1.8質量%
(11)リン酸エステル+シラン処理水酸化マグネシウム(D)
リン酸エステル(ステアリルアルコールリン酸エステルのナトリウム塩)量 2.3質量%
メタクリル系シランカップリング剤(TSL8370)の量 0.3質量%
(12)リン酸エステル+シラン処理水酸化マグネシウム(F)
リン酸エステル(ステアリルアルコールリン酸エステルのナトリウム塩)量 1.5質量%
エポキシ系シランカップリング剤(TSL8350)の量 0.6質量%
(13)リン酸エステル処理水酸化マグネシウム
キスマ5J
協和化学工業(株)
(14)ステアリン酸表面処理水酸化マグネシウム
キスマ5A
協和化学工業(株)
(15)シラン表面処理水酸化マグネシウム
キスマ5P
協和化学工業(株)
(16)ステアリン酸力ルシウム(日本油脂)
(17)イルガノックス1076
ヒンダートフェノール系老化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ)
(18)イルガノックスMD1024
銅害防止剤(チバスペシャリティケミカルズ)
なお、表1中、(1)〜(18)の欄の数値の単位は質量部である。
【0049】
表1に示されるとおり、比較例1〜5では、引張特性、電気特性、耐候性、耐熱性のいずれかの項目が合格基準に達していなかったのに対し、実施例1〜7ではいずれも引張特性、難燃性、電気特性、耐候性、耐熱性のすべての項目で合格基準を達成し、あるいは実用上好ましいレベルであった。また、銅害防止剤が含まれない参考例では、実施例に比べ耐熱性、耐候性がやや劣るものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体及び/又はアクリルゴムを主成分とする樹脂成分より形成され、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、および不飽和力ルボン酸の成分の合計が樹脂成分中、31〜66質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、リン酸エステル化合物とビニル基及び/又はエポキシ基を有するシランカップリング剤との両方で表面処理された水酸化マグネシウムを70〜320質量部含有することを特徴とする絶縁樹脂組成物。
【請求項2】
前記水酸化マグネシウムが、水酸化マグネシウム量に対して0.6〜3質量%のリン酸エステル化合物と0.15〜2質量%のシランカップリング剤により表面処理なされた水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分100質量部に対して、ヒンダートフェノール老化防止剤0.5〜6質量部、および銅害防止剤0.2質量部以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物を導体または光ファイバの周りに被覆してなることを特徴とする絶縁電線もしくはケーブル、または光ファイバケーブルもしくは光コード。

【公開番号】特開2009−91497(P2009−91497A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264909(P2007−264909)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】