説明

絶縁樹脂組成物および絶縁電線

【課題】絶縁電線に要求される優れた機械特性を有し、高い耐摩耗性を有し、しかもPVC電線と同時に使用しても高い耐熱性が得られ、かつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題のない絶縁樹脂組成物及びこの組成物を使用した絶縁電線を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の絶縁樹脂組成物は少なくとも、エチレン系共重合体、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂を主成分とする樹脂成分と、無処理及び/又はビニル基及び/又はメタクロキシ基を末端に有するシランカップリング剤で処理された水酸化アルミニウムを主成分とする水酸化アルミニウム、若しくは、ビニル基及び/又はメタクロキシ基を有するシランカップリング剤と無処理及び/又は任意の処理がなされた水酸化アルミニウムからなる難燃剤で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない絶縁樹脂組成物および電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線には、難燃性、引張特性、耐熱性など種々の特性が要求される。このため、これら絶縁電線の被覆材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合した、エチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物を使用することがよく知られている。
【0003】
近年、このような被覆材料を用いた絶縁電線を適切な処理をせずに廃棄した場合の種々の問題が提起されている。例えば、埋立により廃棄した場合には、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤の溶出、また焼却した場合には、多量の腐食性ガスの発生、ダイオキシンの発生などという問題が起こる。
このため、有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術の検討が盛んに行われている。
【0004】
従来のノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させたものであり、このような被覆材料の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が、また、樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体などが用いられている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−204072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで自動車等として使用されるワイヤハーネスには、安全性の面から高い強度、摩耗性、耐油性が要求される。
また過渡期においてPVC電線と共に束ねられて使用されるため、PVCの劣化によりノンハロゲン電線も劣化を生じ、著しく耐熱性が低下する問題があった。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決し、絶縁電線に要求される優れた機械特性を有し、高い耐摩耗性を有し、しかもPVC電線と同時に使用しても高い耐熱性が得られ、かつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題のない絶縁樹脂組成物及びこの組成物を使用した絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前述した課題を解決すべく、耐外傷性と耐酸性の改善について検討を行った結果、ベース材料としてエチレン系共重合体、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン、必要によりポリプロピレン樹脂を主成分として使用し、さらに特定量の水酸化アルミニウムを添加することにより、優れた機械強度を保持しつつ、高い摩耗性を有し、PVCと併用しても高い耐熱性を維持できる絶縁樹脂組成物及び絶縁電線を見出すことに成功した。本発明はこの知見に基づき完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、
(1)エチレン系共重合体95〜40質量%、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂2〜45質量%、及びポリプロピレン樹脂0〜25質量%を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対して、水酸化アルミニウムを60〜150質量部含有することを特徴とする絶縁樹脂組成物、
(2)前記水酸化アルミニウムが、無処理及び/又はビニル基及び/又はメタクロキシ基を末端に有するシランカップリング剤で処理された水酸化アルミニウムを主成分とする水酸化アルミニウムであることを特徴とする(1)に記載の絶縁樹脂組成物、
(3)エチレン系共重合体95〜40質量%、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂2〜45質量%、及びポリプロピレン樹脂0〜25質量%を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対して、ビニル基及び/又はメタクロキシ基を有するシランカップリング剤を0.1〜4質量部、水酸化アルミニウムを60〜150質量部含有することを特徴とする絶縁樹脂組成物、
(4)前記エチレン系重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を35〜85質量%、メタロセン触媒で合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体を0〜50質量%含有することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の絶縁樹脂組成物、
(5)前記樹脂成分(A)100質量部中に対して、ヒンダートフェノール老化防止剤を0.5〜8質量部、重金属不活性剤を0.3〜6質量部含有していることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の絶縁用樹脂組成物、
(6)前記樹脂成分(A)100質量部中に対して、ヒンダートフェノール老化防止剤を0.5〜8質量部、重金属不活性剤を0.3〜6質量部、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を0.2〜8質量部含有していることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の絶縁用樹脂組成物、
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の絶縁樹脂組成物が導体の周りに被覆されていることを特徴とする絶縁電線、
(8)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の絶縁樹脂組成物が導体の周りに被覆されることにより被覆体が形成され、該被覆体が架橋されていることを特徴とする絶縁電線、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の絶縁樹脂組成物及びこの組成物を使用した絶縁電線は、優れた機械特性及び高い耐摩耗性を有しており、PVC電線と同時に使用しても高い耐熱性が得られ、かつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の絶縁樹脂組成物は少なくとも、エチレン系共重合体、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂を主成分とする樹脂成分と、無処理及び/又はビニル基及び/又はメタクロキシ基を末端に有するシランカップリング剤で処理された水酸化アルミニウムを主成分とする水酸化アルミニウム、若しくは、ビニル基及び/又はメタクロキシ基を有するシランカップリング剤と無処理及び/又は任意の処理がなされた水酸化アルミニウムからなる難燃剤で構成される。
【0011】
本発明の絶縁樹脂組成物は水酸化アルミニウムの表面若しくは水酸化アルミニウムの表面のシランカップリング剤とエチレン系共重合体並びに不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂が結合し、高い力学的強度及び高い摩耗性を得ることができる。さらに特定の老化防止剤及び銅害防止剤の添加により、PVC樹脂や電線と接触させても耐熱性を低下させること無く、耐熱性を維持することができる。機構については明確になっていないものの、同様の老化防止剤、銅害防止剤を使用しても難燃剤としてシランカップリング剤処理水酸化マグネシウムを使用した場合、耐熱性を維持することができない。また異種の表面処理剤例えば脂肪酸等で表面処理された水酸化マグネシウムの場合においても、PVC樹脂と接触させると耐熱性が低下してしまう。
【0012】
以下、本発明の絶縁樹脂組成物に含まれる成分について説明する。
(a)エチレン系共重合体
本発明に用いることのできるエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体ゴム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体ゴム(アクリルゴム)、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレンゴムなどが挙げられる。
【0013】
本発明に用いることのできるエチレン系共重合体のうち、エチレン・α−オレフィン共重合体は、好ましくは、エチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体であり、α−オレフィンの具体例としては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、EBR(エチレン・ブタジエンゴム)、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等が挙げられる。このなかでも、シングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。
【0014】
本発明において用いられるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体としては、前記成形加工性を改良したものが好ましく、このようなものとしては、Dow Chemical社から、「AFFINITY」「ENGAGE」(商品名)が、日本ポリケム社から、「カーネル」(商品名)が上市されている。
【0015】
また特には限定しないが、シングルサイト触媒存在下で合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体は樹脂成分(A)100質量%中0〜50質量%、好ましくは5〜45質量%、さらに好ましくは10〜45質量%であることが好ましく、またエチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体ゴム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体ゴム(アクリルゴム)から選ばれた樹脂成分が35〜85質量%、好ましくは40〜85質量%、さらに好ましくは45〜80質量%である。
【0016】
シングルサイト触媒存在下で合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体があまりに多いとPVCと接着することにより耐熱性の低下が大きくなり、またこれが少なすぎると耐摩耗性や力学的強度が著しく低下するためである。
【0017】
エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、0.880g/cm以上が好ましく、さらに好ましくは0.900g/cm以上、特に好ましくは0.910g/cm以上である。この密度が低くなると、耐摩耗性や力学的強度が低いためである。この密度の上限には特に制限はないが、通常0.945g/cm程度を上限とする。
また、エチレン・α−オレフィン共重合体としては、メルトフローインデックス(ASTM D−1238)が0.5〜30g/10分のものが好ましい。
【0018】
また、本発明に用いることのできるエチレン系共重合体のうち、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPM)はエチレンとプロピレンのゴム状共重合体である。ここでエチレン・プロピレン共重合体ゴムとはエチレン成分含量が通常40〜75重量%程度のものをいう。エチレン、プロピレン以外の第三成分として不飽和基を有する繰返し単位を重合体にもたせたエチレン−プロピレンターポリマー(EPDM)も含まれる
【0019】
エチレン系共重合体は樹脂成分100質量%中95〜40質量%で無ければならない。95質量%より多い場合、力学的強度が低下したり、耐摩耗性が著しく低下することがある。
【0020】
(b)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂
本発明に用いることのできる不飽和カルボン酸またはその誘導体(以下、これらを併せて不飽和カルボン酸等という)で変性されるポリオレフィン樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂やエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン系エラストマーが挙げられる。
【0021】
変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。
【0022】
ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。マレイン酸による変性量は通常0.1〜7重量%程度である。
またこの不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂の一部又はすべてをエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を使用してもよい。
【0023】
この不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂を加えることにより、得られる樹脂組成物の耐摩耗性や力学的強度が向上する。またシランカップリング剤処理水酸化アルミニウムと結合することでPVC樹脂と接着させても高い耐熱性を維持することが可能となる。
【0024】
(c)ポリプロピレン樹脂
本発明において、必要により、ポリプロピレン樹脂を添加しても良い。本発明に用いることのできるポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンや、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体が挙げられる。
ここでランダムポリプロピレンはエチレン成分含量が1〜4重量%程度のエチレン・プロピレンランダム共重合体をいい、ブロックポリプロピレンはエチレン成分含量が5〜20重量%程度のエチレン・プロピレンブロック共重合体をいう。
このポリプロピレンの量は樹脂成分(A)100質量%中、0〜25質量%に限定される。この量が25質量%より多いと、PVCと接着させた場合の耐熱性が著しく低下するためである。
【0025】
(d)水酸化アルミニウム
本発明において難燃剤としては、水酸化アルミニウムを使用しなければならない。水酸化アルミニウムは無処理のもの及び/又はビニル基及び/又はメタクロキシ基を有するシランカップリング剤で処理されているものを使用するか、ビニル基及び/又はメタクロキシ基を有するシランカップリング剤を混練り時或いは成型時に加える必要がある。水酸化アルミニウムとしては、無処理のもの及び/又はビニル基及び/又はメタクロキシ基を有するシランカップリング剤で処理されているものが好ましい。
【0026】
加えられるシランカップリング剤の量は樹脂成分(A)100質量部に対し、0.1〜4質量部、好ましくは0.2〜3質量部、さらに好ましくは0.4〜2.5質量部である。
【0027】
表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上併用して使用してもよい。
好ましくはビニル基、メタクロキシ基を有するシランカップリング剤を0.1〜4質量部及び無処理の水酸化アルミニウムを併用するか、ビニル基、メタクロキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理された水酸化アルミニウムを使用した方が良い。
【0028】
この機構についてははっきりと解明されていないが、水酸化アルミニウムと樹脂が直接又はシランカップリング剤を介して結合することにより、強度や摩耗性が向上するのみならず、PVCと接着させた特の耐熱性も向上させる働きがある。
【0029】
水酸化アルミニウムをシランカップリング剤で処理する場合には、予めシランカップリング剤を金属水和物に対してブレンドしておくか、混練り時に同時投入することによっても行うことができる。
【0030】
水酸化アルミニウムの配合量は、本発明の樹脂組成物中、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、60〜150質量部である。
これが60質量部より少ないと難燃性が著しく低下し、これが150質量部より多いと力学的強度、耐摩耗性が著しく低下するのみならずPVCに接着した際の耐熱性は著しく低下する。
【0031】
(e)ヒンダートフェノール系酸化防止剤
本発明に使用されるヒンダートフェノール酸化防止剤としてはペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、3、3‘3“、5、5’、5”−ヘキサ−tert−ブチル-a、a‘,a“―(メシチレン−2,4,6トリイル)トリ−p−クレゾール、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4、6(1H、3H、5H)−トリオン等が挙げられる。
【0032】
このヒンダートフェノールの量は樹脂成分(A)100質量部に対し0.5〜8質量部、好ましくは1〜7質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部である。
この量が少ないとPVCに接着した際の耐熱性が下がり、多いと耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0033】
(f)重金属不活性剤
本発明に使用される重金属不活性剤としては、N, N’−ビス(3−(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1, 2, 4−トリアゾール、2, 2' −オキサミドビス−(エチル3−(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
【0034】
これらの重金属樹脂成分100質量部に対し0.3〜6質量部、好ましくは0.5〜6質量部、さらに好ましくは0.8〜5質量部である。
この量が少ないとPVCに接着した際の耐熱性が下がり、多すぎると力学的強度、耐摩耗性が低下だけでなくPVCに接着した際の耐熱性が下がる傾向がある。
【0035】
(g)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤
本発明においてはPVCとの接着による耐熱性の低下を助ける役割として、必要に応じてベンゾイミダゾール系酸化防止剤を配合することができる。本酸化防止剤を加えることにより耐熱性の低下が抑えられる仕組みについてはよくわかっていないが、併用する酸化防止剤や特に銅害防止剤のPVCへの移行を抑えたり、これらの効果を助長させる働きがあるものと考えられる。
【0036】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤としては、2―メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、4−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、5−メルカプトメチルベンゾイミダゾールやこれらの亜鉛塩等がある。効果としては特に亜鉛塩を用いた方が効果が大きい。
【0037】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の量は樹脂成分100質量部に対し、0.2〜8質量部含有していることが好ましい。0.2質量部以下であると実質的に効果がなく、8質量部を超えると接着させるPVCを劣化させ、この劣化により本樹脂組成物が逆に劣化を生じるためである。
【0038】
本発明の絶縁樹脂組成物には、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を配合することができ、さらに難燃性を向上することができる。これらの化合物を用いることにより、燃焼時の殻形成の速度が増大し、殻形成がより強固になる。従って、燃焼時に内部よりガスを発生するメラミンシアヌレート化合物とともに、難燃性を飛躍的に向上させることができる。
【0039】
本発明の絶縁樹脂組成物には、電線・ケ−ブルにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられる。
【0040】
本発明の絶縁樹脂組成物は、上記の各成分を、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど、通常用いられる混練装置で溶融混練して得ることができる。
【0041】
次に本発明の絶縁電線について説明する。
本発明の絶縁電線は、導体が、上記の本発明の絶縁樹脂組成物の架橋体により被覆されたものであり、本発明の絶縁樹脂組成物を通常の電線製造用押出成形機を用いて導体周囲に押出被覆し、その後、その被覆層を架橋することにより製造することができる。被覆層を架橋体とすることにより、耐熱性の向上のみならず、難燃性も向上する。架橋の方法は特に制限はなく、電子線架橋法や化学架橋法で行うことができる。
【0042】
電子線架橋法で行う場合、電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
【0043】
化学架橋法の場合は樹脂組成物に、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシエステル、ケトンペルオキシドなどの有機過酸化物を架橋剤として配合し、押出成形被覆後に加熱処理により架橋をおこなう。
【0044】
本発明の絶縁電線の導体径や導体の材質などは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。導体の周りに形成される絶縁樹脂組成物の被覆層の肉厚も特に制限はないが、0.10〜1mmが好ましい。また、絶縁層が多層構造であってもよく、本発明の絶縁樹脂組成物で形成した被覆層のほかに中間層などを有するものでもよい。
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1〜8及び比較例1〜3
まず、表1及び2に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各絶縁樹脂組成物を製造した。
また一部の材料については温度を220℃まであげて混練りを行った。
得られたコンパウンドを用い、1mm厚のシートを作成した。加速試験を行うためにシートは10Mradで架橋を行った。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径0.9mmφの錫メッキ軟銅撚線 構成:19本/0. 19mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各々絶縁電線を製造した。外径は1.5mm(被覆層の肉厚0.25mm)とし、一部の電線については被覆後、10Mradで電子線照射して架橋を行った。
【0046】
なお、表1、2に示す各成分は下記のものを使用した。
(01)エチレン−酢酸ビニル共重合体
VA含有量=17質量%
(02)エチレン−エチルアクリレート共重合体
EA含有量=18質量%
(03)シングルサイト触媒存在下で合成されたポリエチレン、密度=925kg/m
(04)無水マレイン酸変性ポリエチレン
(05)無水マレイン酸変性SEBS
(06)ブロックポリプロピレン、MI=0.5
(07)末端にビニル基を有するシランカップリング剤
TSL8311(商品名、東芝シリコーン社製)、ビニルトリエトキシシラン
(08)末端にビニル基を有するシランカップリング剤
TSL8370(商品名、東芝シリコーン社製)、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
(09)水酸化アルミニウム
(10)シランカップリング剤処理水酸化アルミニウム
(11)水酸化マグネシウム
(12)シランカップリング剤処理水酸化マグネシウム
(13)滑剤
ACポリエチレンNo.6、ヘキスト合成株式会社製
(14)ヒンダートフェノール系酸化防止剤
Irgnox1010(商品名、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)
(15)ベンズイミダゾール系酸化防止剤
ノクラックMBZ(商品名、大内親興化学株式会社製)
(16)重金属不活性剤
CDA−1(商品名、旭電化工業株式会社製)
【0047】
得られた各絶縁電線について、以下の試験を行った。結果を表3〜4に示した。
伸び、抗張力
樹脂組成物の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)はJIS K 6723に基づき評価した。
各絶縁電線の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間25mm、引張速度500mm/分の条件で測定した。
伸びおよび抗張力の要求特性はそれぞれ、各々100%以上、10MPa以上である。
難燃性
各絶縁電線について、UL1581の水平燃焼試験をおこない、合格数を示した(合格数/N数)。
PVCとの接触性
表5で示すPVC材料の1mm厚シートを作成して当該電線及び架橋された樹脂組成物のシート(引っ張り試験用ダンベル片)を挟み込み、150℃70Hr時間及び100時間放置した。
取り出し後、PVCシートを取り除き、電線については自己径で、シートについては180度折り曲げを行い、クラックの有無を確認した。
150℃70Hrでクラックが生じなかったものが合格である。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系共重合体95〜40質量%、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂2〜45質量%、及びポリプロピレン樹脂0〜25質量%を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対して、水酸化アルミニウムを60〜150質量部含有することを特徴とする絶縁樹脂組成物。
【請求項2】
前記水酸化アルミニウムが、無処理及び/又はビニル基及び/又はメタクロキシ基を末端に有するシランカップリング剤で処理された水酸化アルミニウムを主成分とする水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン系共重合体95〜40質量%、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂2〜45質量%、及びポリプロピレン樹脂0〜25質量%を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対して、ビニル基及び/又はメタクロキシ基を有するシランカップリング剤を0.1〜4質量部、水酸化アルミニウムを60〜150質量部含有することを特徴とする絶縁樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン系重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を35〜85質量%、メタロセン触媒で合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体を0〜50質量%含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂成分(A)100質量部中に対して、ヒンダートフェノール老化防止剤を0.5〜8質量部、重金属不活性剤を0.3〜6質量部含有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂成分(A)100質量部中に対して、ヒンダートフェノール老化防止剤を0.5〜8質量部、重金属不活性剤を0.3〜6質量部、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を0.2〜8質量部含有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物が導体の周りに被覆されていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物が導体の周りに被覆されることにより被覆体が形成され、該被覆体が架橋されていることを特徴とする絶縁電線。


【公開番号】特開2006−241182(P2006−241182A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54425(P2005−54425)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】