説明

絶縁油の電気特性測定方法および更新要否判定方法

【課題】 油の評価に好適な絶縁油の電気特性測定方法および更新要否判定方法を提供する。
【解決手段】 油入電気機器より絶縁油を採取し、液体電極1内に封入する。液体電極1は恒温恒湿槽22内に収容されている。液体電極1と測定器24はケーブルにより接続されている。加熱槽18により絶縁油を加熱する。恒温恒湿槽22内は低温低湿度に維持されている。絶縁油の温度と恒温恒湿槽22内温度間の温度差による水分平衡を利用して、絶縁油から油中水分のみ除去する。電気特性に影響する油中水分を極力減少させることにより、絶縁油の真の電気特性を測定し油の評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油の計画的なメンテナンスを目的として、絶縁油の電気特性から劣化の程度を正確に測定する方法と、絶縁油の更新要否を判定する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器は、タンク内に充填される絶縁油によって、タンク内に収容される巻線および鉄心を冷却し、また、絶縁耐力の確保を実現している。該絶縁油は経年により劣化(熱、水、酸素による劣化)し、電気的特性が低下するため計画的なメンテナンス、定期的な更新(交換)が必要となる。
【0003】
よって、絶縁油の交換時期を適切に判断することが油入変圧器の品質を維持する上で非常に重要になる。絶縁油の交換時期を適切に評価することにより、一方では劣化した絶縁油が継続使用されることを防止し、他方では劣化した絶縁油の使用継続に起因して発生する機器の不具合を未然に防止することで、当該機器の寿命を全うすることに繋がる。
【0004】
絶縁油が劣化した時の特性低下に関しては、非特許文献1に記載されており、絶縁油は劣化することにより有機酸を始め種々の極性物質を生成し体積抵抗率が低下する。したがって、絶縁油の劣化状態を調べるには、体積抵抗率を測定すれば良いことがわかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気協同研究 第54巻第5号 油入変圧器の保守管理
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然るに、前記体積抵抗率は油中水分の影響を受けて変化するため、低水分に保たれている新油の場合は体積抵抗率の値を正しく評価できるが、実機油の場合、負荷の変動や使用環境における気温の変動により、変圧器内部の絶縁物と絶縁油の間の平衡状態が変化し、油中水分が増減する。
【0007】
このため、同じ絶縁油でも採取時期によっては油中水分量が相違するため、測定した電気特性が大きく変動してしまう。このような場合、健全な絶縁油であっても変動する油中水分量の影響により劣化していると判定されることがあり、必要でない油の交換を誘発してしまい、不経済である。
【0008】
前記油中水分を除去する方法としては、絶縁油を真空脱気処理したり、乾燥剤を添加する等、種々の方法が考えられるが、真空脱気処理する方法は、その処理過程における濾過工程により絶縁油中の夾雑物が除去されてしまい、実機に使用された状態の絶縁油と性質が変化してしまう。
【0009】
一方、乾燥剤を添加する方法は、乾燥剤の添加自体が異物の添加であり、油中微粒子の増加を防ぐための別途の濾過処理が必要となる。したがって、上記2つの方法によっては、絶縁油を実機に使用している状態と同一に保つことは不可能であり、同一性を喪失した絶縁油を用いて該絶縁油の電気特性を測定したとしても、実機油の真の電気特性を測定することはできないといった問題点があった。
【0010】
そこで、本発明は、斯かる問題点を解決するために、油中水分以外の絶縁油の状態を変化させることなく、絶縁油中の油中水分量のみ低下させて、当該絶縁油の電気特性を測定することにより、実機油と同一の絶縁油における真の電気特性を測定することを可能とし、当該測定を定期的に実行することにより実機油の劣化トレンドを把握し、計画的なメンテナンスを実現するものである。また、別の方法によっては、水を添加した実機油の電気特性を測定することにより、潜在的に危険な絶縁油を見つけ出し絶縁油の更新要否を適切に判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、油入電気機器に使用する絶縁油の電気特性を測定する電気特性測定方法であって、前記油入電気機器より採取した絶縁油を収容した液体電極を恒温恒湿槽内に収容する工程と、前記液体電極内に収容した絶縁油を所定の温度に加熱する工程と、該恒温恒湿槽内を所定の低温低湿度下に維持する工程と、該恒温恒湿槽内において、水分平衡を利用して油中水分量を低下させた状態で、絶縁油の体積抵抗率を測定する工程とからなることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記液体電極を加熱槽に装着し、該加熱槽と前記恒温恒湿槽外に配置した制御装置間をケーブルで接続した状態で、該制御装置を操作することにより、前記加熱槽を利用して液体電極内に封入した絶縁油を所定の温度に加熱することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の何れかの発明において、前記液体電極と恒温恒湿槽外に配置した測定器間をケーブルで接続し、該測定器により体積抵抗率を測定することを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3記載の何れかの発明において、前記所定の低温低湿度が30[℃]以下、30[%RH]以下であることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の発明において、前記低下させた油中水分量が、10[ppm]未満であることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の発明において、前記絶縁油を攪拌機(マグネチックスターラー)によって攪拌することを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、油入電気機器に使用する絶縁油の更新要否を判定する方法であって、油入電気機器から絶縁油を採取する工程と、該絶縁油に水分を添加(調整)する工程と、該絶縁油の体積抵抗率を測定する工程からなり、該体積抵抗率が所定値以下に低下した場合、当該絶縁油の更新が必要であると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、油入電気機器から採取した絶縁油から電気特性に影響を及ぼす油中水分のみ除去することが可能であるので、実機油に含有される夾雑物は除去することなく絶縁油中に残存させることができるので、実機に使用されている絶縁油の真の電気特性を正確に測定することが可能となる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、恒温恒湿槽内に収容した液体電極内の絶縁油を、恒温恒湿槽外に配置した制御装置を操作することにより、恒温恒湿槽内を略気密状態としたまま所定の温度に加熱することができ、恒温恒湿槽内を容易に水分平衡状態に移行させることができる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、絶縁油を封入した液体電極を恒温恒湿槽内に配置し、恒温恒湿槽外に設置した測定器との間を、恒温恒湿槽に予め設けられているケーブル孔を利用して接続することにより、前記液体電極内に封入した絶縁油の体積抵抗率を簡易かつ迅速に測定することが可能となる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、液体電極内に封入した絶縁油に含有される油中水分量を、該絶縁油の体積抵抗率が安定する上限の温度と湿度に設定することによって、恒温恒湿槽内を極度(無用)に低温低湿度状態に保持することがなくなり、恒温恒湿槽の使用電力量を削減することができ経済的である。
【0022】
請求項5記載の発明によれば、液体電極内に封入した絶縁油の油中水分量を10[ppm]未満に減らすことにより、油中水分が電気特性に与える影響を極力除去することが可能となり、実機に使用されている絶縁油の体積抵抗率を正確に測定することができる。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、恒温恒湿槽内で絶縁油の油中水分量を水分平衡を利用して減少させる際に、該絶縁油をマグネチックスターラー等の攪拌機により予め攪拌することにより、短時間で上記水分平衡に到達させることが可能となる。
【0024】
請求項7記載の発明によれば、採取した絶縁油に水を添加した状態で絶縁油の体積抵抗率を測定することにより、測定した体積抵抗率が予め設定した所定値以下であった場合、該絶縁油の交換が必要であると判定するので、潜在的に危険な絶縁油を見つけ出すことが可能となり、一方では、劣化した絶縁油の使用を継続することにより、電気機器の品質を低下させることを確実に防止でき、他方では、絶縁油の適切な交換時期を把握することができるので、メンテナンスを経済的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る絶縁油の電気特性測定方法に使用する液体電極の構成を示す正面図である。
【図2】前記液体電極の構造図である。
【図3】前記液体電極に封入した絶縁油を所定温度に加熱する方法を示す側面図である。
【図4】前記液体電極とこれを装着する加熱槽を恒温恒湿槽内に収容して、恒温恒湿槽外に配置した測定器および制御装置と接続した状態を示す側面図である。
【図5】電気機器から採取した絶縁油を短時間で平衡状態に到達させる方法を示す側面図である。
【図6】油中水分量と体積抵抗率との関係を表すグラフである。
【図7】種々の劣化度にある絶縁油の油中水分量と体積抵抗率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図7を用いて説明する。図1は本発明に係る絶縁油の電気特性測定方法および更新要否判定方法に利用する液体電極1を示しており、2は該液体電極1の外枠を構成する有低中空筒状に形成されたケースである。
【0027】
3は前記ケース2の上開口部を閉塞する上蓋であり、3aは当該上蓋3に複数個開口した小孔を示している。4は前記上蓋3を貫通して固定される後述する主電極端子に接続される第1のコネクタであり、5は第1のケーブル端子4同様、前記上蓋3を貫通してこれに固定される後述する対電極端子に接続される第2のコネクタを示している。6は前記第1のケーブル端子4および第2のケーブル端子5と同様、前記上蓋3を貫通してこれに固定される後述するガード電極端子に接続される第3のコネクタを示している。
【0028】
7〜9は、前記第1〜第3のコネクタ4〜6を一方端に取り付けて構成される第1〜3の接続ケーブルであり、該接続ケーブル7〜9の他方端には、後述する測定器が接続される。
【0029】
図2は、前記液体電極1の構造を簡易的に示したものである。液体電極1のケース2内には、使用状態にある油入変圧器等の実機から採取した絶縁油10が充填される。上蓋3には、これを貫通して主電極端子11と対電極端子12が揺動不能に固定され、また、これを貫通することなくガード電極端子13が取り付けられている。
【0030】
前記主電極端子11には、前述の如く、第1のコネクタ4が接続され、対電極端子12には、前記第2のコネクタ5が接続され、ガード電極端子13には、第3のコネクタ6が接続されている。
【0031】
前記第1の接続ケーブル7は、前述の測定器の検出部(図示せず)に接続され、第2の接続ケーブル8と第3の接続ケーブル9は、該測定器を介して図2に示すように定電圧電源(例えば、250[V])14に接続される。
【0032】
また、液体電極1のケース2内には、有低円筒形状の主電極15と、該主電極15の外側に同心状に配置した円筒形状(上下端は開口している)の対電極16が収容されており、該主電極15と対電極16間の隙間には、前記絶縁油10が満たされた状態となっている。
【0033】
前記主電極15と主電極端子11は電気的・物理的に接続されており、対電極16と対電極端子12も同様に電気的・物理的に接続され、液体電極1は概略構成されている。
【0034】
次に、図1乃至図4を用いて、油入変圧器等(図示せず)より採取した絶縁油(実機油)の電気特性、特に、体積抵抗率を測定する方法について説明する。まず、図1に示す液体電極1のケース2から上蓋3を取り外した状態で、当該ケース2内に油入変圧器等(図示せず)から採取した絶縁油10を図2に示すように充填する。
【0035】
このとき、前記ケース2内には、前述した有底円筒形状の主電極15と上下端を開口した円筒形状の対電極16が同心状に配置されており、該主電極15とケース2の間、および、主電極15と対電極16の間には、前記絶縁油10が満たされた状態になる。
【0036】
この状態で、液体電極1の上蓋3を閉じてケース2内を簡易的に封止(上蓋3に開口した小穴3aの存在により気密状態とはなっていない)する。この際、上蓋3には、主電極端子11と対電極端子12がこれを貫通した状態で固定されているので、主電極端子11は、ケース2内に配置した主電極15と電気的、物理的に接続され、かつ、対電極端子12も、同じくケース2内に配置した対電極16と電気的、物理的に接続される。
【0037】
次に、液体電極1を図3に示すように、液体電極用加熱器17に装着する。該液体電極用加熱器17は、液体電極1を装着(セット)する加熱槽18と、該加熱槽18の温度制御を行う制御装置19から概略構成されている。
【0038】
前記加熱槽18と制御装置19は、所定長さを有する制御コード20で接続されており、操作者は制御装置19に備えた温度調節ボリューム21を手動操作することにより、液体電極1の加熱温度を適宜変更することができる。
【0039】
次に、液体電極1を加熱槽18にセットした状態で、図4に示すように、恒温恒湿槽22内に収容するとともに、制御装置19を、恒温恒湿槽22外に配置する。そして、液体電極1の第1〜3の接続ケーブル7〜9と制御コード20を、恒温恒湿槽22の上部に開口するケーブル孔23を介して外部へ引き出し、恒温恒湿槽22外に配置した測定器24および制御装置19に接続する。
【0040】
前記測定器24は、液体電極1を接続するだけで簡単にJIS規格に準じた測定を行うことができるものであり、機種によっては外部PCとの連携による自動測定も可能である。
【0041】
なお、制御装置19の電源ケーブル25と測定器24の電源ケーブル26は、ともに図示しない商用電源に接続される。
【0042】
以上のようにセッティングしたら、液体電極1のケース2内に充填した絶縁油10を制御装置19に備えた温度調節用ボリューム21を手動操作することにより、加熱槽18によって、例えば、80[℃](JISC2101に準じる場合)に加熱する。この加熱槽18による加熱は液体電極1内に充填した絶縁油10を外部に飛散、蒸発させることなく、かつ、局部加熱を生じることなく良好に加熱できる。
【0043】
この状態で、恒温恒湿槽22の開閉扉27表面に配置した操作パネル28を手動操作することにより、恒温恒湿槽22内を、例えば、30[℃]以下、30[RH]以下の低温低湿度に設定する。これにより、恒温恒湿槽22内が設定した低温低湿度に達することにより、前述したように、液体電極用加熱器17の加熱槽18によって80[℃]に加熱された絶縁油10との間には水分平衡が生じることとなる。
【0044】
このとき、各種ケーブル7〜9,20を挿通するケーブル孔23は恒温恒湿槽22内の温度・湿度管理に影響を及ぼすことのないようケーブル孔23と各種ケーブル7〜9,20間をゴム栓(図示せず)等により密封すると有効である。
【0045】
前記水分平衡により、液体電極1のケース2内に充填した絶縁油10中の水分は蒸発し、図2に示す液体電極1のケース2と上蓋3間の隙間や当該上蓋3に開口した小孔3aからケース2外部(恒温恒湿槽22内)に排出される。つまり、高温に加熱された絶縁油10と低温低湿度に維持された恒温恒湿槽22内との間の水分平衡により、液体電極10内に充填した絶縁油10の油中水分量を減少させる。
【0046】
この結果、油入変圧器等(実機)から採取して、液体電極1のケース2内に充填した絶縁油10から、実機油に含まれる夾雑物を除去することなく、含有水分のみ除去することが可能となる。このことは、絶縁油の電気特性に影響を与える油中水分のみを除去できることを意味しており、油中水分以外の夾雑物は、実機の絶縁油に本来含まれているものであってこれを除去する必要はなく、実機油の真の電気特性を測定することが可能となる。
【0047】
なお、前記絶縁油10の油中水分量は少ない程良いが、本発明の電気特性の測定方法を実現するために必要な油中水分量を設定する必要がある。そこで、油中水分の減少量を設定するために、油中水分量が絶縁油の電気特性、特に体積抵抗率に与える影響について本願出願人が調査した結果を図6に表す。
【0048】
図6のグラフによれば、絶縁油中の油中水分量は、およそ10[ppm]未満であれば、体積抵抗率はほとんど変化しなくなることがわかる。そこで、本件発明においては、絶縁油中の油中水分量を上記水分平衡により10[ppm]未満まで減少させることとした。
【0049】
そして、絶縁油10の油中水分量を上記の如く水分平衡を利用して予め設定した10[ppm]未満に減少させたら、図4に示すように、恒温恒湿槽22内の液体電極1と第1〜3の接続ケーブル7〜9と接続され、恒温恒湿槽22外に設置した測定器24を利用して、液体電極1内に充填した絶縁油10の電気特性、特に体積抵抗率を測定する。
【0050】
測定した体積抵抗率は、絶縁油10の劣化状態を評価するのに有用な指標の一つであり、このような体積測定率の測定を定期的に行うことにより、絶縁油(実機油)の劣化トレンドの管理を確実に行うことができ、絶縁油(実機油)の状態を明確に把握することができる。また、測定器24を外部PCと連携させることにより、測定したデータの広範な活用が可能となり、変圧器等の電気機器の計画的なメンテナンスが容易となる。
【0051】
なお、上記方法により電気機器より採取した絶縁油10の電気特性を測定する場合、当該絶縁油10を図5に示すように一旦、ビーカー等の別容器29に移した後、これを一般的な攪拌機(マグネチックスターラー等)30によって攪拌することにより、図4に示す恒温恒湿槽22内において、水分平衡に到達する時間を短縮しても良い。
【0052】
なお、前記攪拌機の一例としたマグネチックスターラー30は、マグネットの力で回転子(攪拌子)と呼ばれるフッ素樹脂で被覆した磁石の棒31を容器29内で回転させて、液体を攪拌する装置である。
【0053】
また、前記した実施例では、液体電極1のケース2内に充填した絶縁油10を制御装置19に備えた温度調節用ボリューム21を手動操作することにより、加熱槽18によって、80[℃]に加熱する場合について説明したが、本発明はこれに限定することなく、IEC69247に準じて90[℃]に絶縁油10を加熱したり、その他、IEC60296やIEC60422等、準じる規格の相違に応じて適宜変更可能である。
【0054】
次に、油入変圧器等の電気機器から採取した絶縁油の更新要否を判定する方法について説明する。これは、採取した絶縁油に水分を添加することにより油中水分量を調整し、この状態における絶縁油の体積抵抗率を測定することによって、実機油の更新要否を判定するものである。つまり、測定した体積抵抗率が予め設定した所定値以下であった場合は、測定対象とした絶縁油が使用されている電気機器(図示せず)に使用されている絶縁油の更新が必要であると判断するものである。
【0055】
なお、前記所定値としては、JEM規格(TR155)に絶縁油の更新基準としての体積抵抗率として規定されている1.E+11[Ω・cm]を設定する。
【0056】
図7は、採取した種々の絶縁油に対して、水分を添加(水分量を調整)した場合の添加水分量と絶縁油の体積抵抗率との関係を表すグラフである。つまり、新油を始め、各種劣化度合いの異なる絶縁油に対して、それぞれ所定の水分量で水を添加した場合における各々の絶縁油の体積抵抗率を測定した結果である。
【0057】
図7によれば、新油である(a)と、健全な状態から徐々に劣化した絶縁油(b)および(c)においては、添加する水分量に関係なく、測定した体積抵抗率は、1.E+11[Ω・cm]を下回らない。一方、劣化の程度が進行した絶縁油である(d)および(c)においては、添加する水分量が上昇するに従い、測定する体積抵抗率が1.E+11[Ω・cm]を下回ることがわかる。
【0058】
つまり、水が無添加の状態で測定した体積抵抗率が1.E+11[Ω・cm]を下回らなくても、添加する水分量が上昇すれば当該値を下回る絶縁油(図7(d),(e))が存在することがわかる。このことは、一見、健全な絶縁油であっても、負荷の変動や気温の変動によって油中水分量が増加した場合には、危険と判断される油が存在することを意味している。
【0059】
この結果に鑑みれば、実機から採取した絶縁油に水を添加(油中水分量を調整)した状態で、該絶縁油の体積抵抗率を測定した結果、1.E+11[Ω・cm]以下であれば、採取した絶縁油は相当程度劣化していると判断することができ、実機油の更新時期が到来している判断することが可能となる。
【0060】
この方法によれば、油中水分量が少なく一見健全な絶縁油であるように見える場合であっても、真に劣化した絶縁油であれば、油中水分量を増加させることにより、油の劣化を確実に発見することができる。つまり、潜在的に危険な油をいち早く(油中水分量が増加する前に)発見することができ、油の更新時期の判断材料として有効に活用することが可能となる。
【0061】
以上説明したように、本発明における絶縁油の電気特性測定方法によれば、絶縁油の電気特性に影響を及ぼす油中水分量を、水分平衡を利用して極力減少させた状態で絶縁油の体積抵抗率を測定することにより、負荷変動や気温の変動に起因して油中水分量が変化することにより、測定した電気特性から絶縁油の劣化状態を正確に把握することができないといった問題を確実に解消することができる。
【0062】
また、採取した絶縁油の電気特性を定期的に測定することにより、実機油の劣化に関するトレンド管理を確実に行うことができ、絶縁油の更新時期等、メンテナンス情報として有効に活用することが可能となる。
【0063】
さらに、本発明における絶縁油の更新要否判定方法によれば、採取した絶縁油の体積抵抗率の測定結果が良好である場合であっても、潜在的に危険な絶縁油を確実に発見することができ、劣化した絶縁油を誤った判断により使用継続することにより生じる問題(品質低下等)を確実に解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
油入電気機器から採取した絶縁油の油劣化の評価をすることができる電気特性の測定方法、および、当該絶縁油の更新要否を判断することのできる絶縁油の更新要否判定方法を提供するものである。
【符号の説明】
【0065】
1 液体電極
2 ケース
3 上蓋
4 第1のコネクタ
5 第2のコネクタ
6 第3のコネクタ
7 第1の接続ケーブル
8 第2の接続ケーブル
9 第3の接続ケーブル
10 絶縁油
11 主電極端子
12 対電極端子
13 ガード電極端子
14 定電圧電源
15 主電極
16 対電極
17 液体電極用加熱器
18 加熱槽
19 制御装置
20 制御コード
21 温度調節用ボリューム
22 恒温恒湿槽
23 ケーブル孔
24 測定器
25,26 電源ケーブル
27 開閉扉
28 操作パネル
29 容器
30 攪拌機(マグネチックスターラー)
31 磁石の棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入電気機器に使用する絶縁油の電気特性を測定する電気特性測定方法であって、前記油入電気機器より採取した絶縁油を収容した液体電極を恒温恒湿槽内に収容する工程と、前記液体電極内に収容した絶縁油を所定の温度に加熱する工程と、前記恒温恒湿槽内を所定の低温低湿度下に維持する工程と、該恒温恒湿槽内において、水分平衡により油中水分量を低下させた状態で、絶縁油の体積抵抗率を測定する工程とからなることを特徴とする絶縁油の電気特性測定方法。
【請求項2】
前記液体電極を加熱槽に装着し、該加熱槽と前記恒温恒湿槽外に配置した制御装置間をケーブルで接続し、該制御装置を操作することにより、前記加熱槽により前記絶縁油を所定の温度に加熱することを特徴とする請求項1記載の絶縁油の電気特性測定方法。
【請求項3】
前記体積抵抗率は、前記液体電極と前記恒温恒湿槽外に配置した測定器間をケーブルで接続し、該測定器により測定することを特徴とする請求項1若しくは請求項2の何れかに記載の絶縁油の電気特性測定方法。
【請求項4】
前記所定の低温低湿度が30[℃]以下、30[%RH]以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の絶縁油の電気特性測定方法。
【請求項5】
前記低下させた油中水分量が、10[ppm]未満であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の絶縁油の電気特性測定方法。
【請求項6】
前記絶縁油を攪拌機により攪拌することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の絶縁油の電気特性測定方法。
【請求項7】
油入電気機器に使用する絶縁油の更新要否を判定する方法であって、油入電気機器から絶縁油を採取する工程と、該絶縁油に水分を添加する工程と、当該絶縁油の体積抵抗率を測定する工程からなり、該体積抵抗率が所定値以下に低下した場合、当該絶縁油の更新が必要であると判定することを特徴とする絶縁油の更新要否判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−7732(P2011−7732A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153745(P2009−153745)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000116666)愛知電機株式会社 (93)
【Fターム(参考)】