説明

絶縁物付非磁性シールド

【課題】静止誘導電器の騒音を低減すると共に、タンク内で高電圧が印加される部位の絶縁耐圧を向上させ、絶縁距離を短くしてタンクを小型化する。
【解決手段】鉄心1と巻線2で構成された静止誘導電器本体を、冷却絶縁媒体3とともにタンク7内部に収納して、前記タンク7内壁側面6には非磁性シールド8を配置した静止誘導電器に適用するものである。前記巻線2の充電部5と前記非磁性シールド8の間で、非磁性シールド8表面の、少なくとも前記巻線充電部5に対向する範囲に、絶縁物9を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静止誘導電器の騒音の低減に関するものであり、更にとコンパクト化を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に変圧器やリアクトル等の静止誘導電器は、タンク内に鉄心と巻線とを設置し、それらを冷却絶縁媒体に浸している。そして、運転中には巻線に電流が流れる事によって生じる電磁力による巻線の振動と、同様に巻線に電流が流れる事によってタンク側へ流れ込む磁束によるタンクの振動が発せられる。所謂これらの磁気振動が、冷却絶縁媒体やタンクの底板、側面を通してタンクから大気中へ放射され騒音となるのである。これが通電騒音と呼ばれ、鉄心の励磁振動と並び近年低減が望まれている。
【0003】
特許文献1や特許文献2のように、一般的に発熱を抑える為タンク内壁側面に非磁性シールドを配置し、その非磁性シールドで発生する渦電流を利用して、タンクへ流れ込もうとする磁束を低減する方法も考えられている。これは同時にタンクの磁気振動を低減し、タンクから発せられる騒音を低減することになる。
【0004】
また一方では近年、変電設備の設置場所の確保が難しく、そのためできるだけ変電設備の小型化の要求も高まっている。変電設備の1つである、静止誘導電器もその例外ではない。つまり静止誘導電器の場合は、そのタンクを小さくすることが小型化の大きな要素となる。
【0005】
そのために、タンク内の高電圧が印加される課電部分の絶縁耐圧を向上させて絶縁距離を短くし、タンクを小型化する方法が考えられる。例えば、高電圧が印加される巻線充電部とタンク側壁の間に、巻線充電部を覆うように絶縁バリアを配置して、絶縁耐圧を向上させる方法である。
【0006】
以上のようなことから、静止誘導電器の通電時に対する騒音を低減しながら、同電器のタンクをも小型化する為には、特許文献1、特許文献2で述べられているような非磁性シールド8をタンク内壁側面に配置し、また高電圧が印加される巻線充電部5と非磁性シールド8間には、巻線充電部5を覆うように絶縁バリア4を配置した構成にすれば、効果があると考えられる。この絶縁バリア4は、図示しない支持部材で支えられているとする。これを図6に示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−89409号公報
【特許文献2】特開平9−180946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに、図6の様な構成にすると、ある程度の騒音低減とタンクの小型化は可能である。しかし、絶縁物の配置方法によっては、更なるコンパクト化の可能性がある。
【0009】
図6に示した構成は、絶縁バリア4によって巻線充電部5と接地構造物(例えばタンク7や非磁性シールド8)の間にある絶縁油3を細分化することにより、絶縁油3の絶縁耐力が増加する。一方では、タンク7や非磁性シールド8は裸電極であるため、被覆電極に比べ絶縁耐圧のバラツキが大きく、絶縁耐力を確保するためにより大きな絶縁距離を確保する必要がある。
【0010】
本発明では以上のような問題点を鑑み、静止誘導電器の通電による騒音の低減と更なるコンパクト化を実現する、静止誘導電器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、鉄心および巻線よりなる静止誘導電器本体を冷却絶縁媒体とともにタンク内部に収納し、前記タンク内壁側面全面には非磁性シールドを配置した静止誘導電器において、巻線の充電部と前記非磁性シールド間であって、非磁性シールド表面の少なくとも前記巻線充電部に対向する範囲において、絶縁物が配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記非磁性シールドとしてアルミを使用し、絶縁物としてプレスボードを使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タンクと巻線充電部間で、タンク内壁側面に配置された非磁性シールド表面に絶縁物が配置されているので、前記非磁性シールド表面が絶縁物で覆われることにより、被覆効果で電界が緩和され、絶縁耐圧を向上させることができる。つまり、タンクと巻線充電部間の絶縁距離を縮めることができるので、更なるタンクのコンパクト化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第1の実施例を示す図である。
【図2】図2は、第1の実施例のタンク部斜視図である。
【図3】図3は、本発明で使用する非磁性板の詳細図である。
【図4】図4は、本発明で使用する非磁性板の取り付け部詳細図である。
【図5】図5は、図1のA部詳細図である。
【図6】図6は、従来の技術を適用した騒音低減とコンパクト化を実現した静止誘導電器の概略図である。
【図7】図7は、図6のB部詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1実施例のタンク断面図である。タンク内壁側面6の全周に非磁性シールド8を配置し、少なくとも巻線充電部5に対向する範囲において、非磁性シールド8の表面には、絶縁物9が配置してある。
【0016】
まず本発明で使用する非磁性シールド8であるが、図3に示したような板状の非磁性板10を加工して、複数枚タンク内壁側面6の全周へ取り付けられ電気的に接続されたものである。この非磁性板10にはタンク内壁側面6への取り付け穴が、複数箇所に空けられている。これらの取り付け穴は、タンクと非磁性板10との材質が異なるため熱膨張係数も異なることから、温度が変化した際、その膨張差を吸収するため長穴に加工してある。
【0017】
次に非磁性板10の垂直方向の高さは、タンク内壁側面6をできるだけ覆うようにし、横幅は前記したようにタンク内壁側面6の形状に合わせて、取り付けし易い大きさに分割加工してある。本実施例のタンク内壁側面6は、直線部分と湾曲した部分があるので、複数枚(例えば非磁性板8a、8b、8c、8d、8e等)に分割して構成した。分割する枚数は、製品によってタンクの大きさが異なるため、適宜調整することが好ましい。
【0018】
図2に、タンク内壁側面6への非磁性板8a、8b、8c、8d、8eの取り付け状態を示した。前記したように非磁性シールド8は複数枚に分割してあるが、向かい合っている面の形状は、ほぼ対称形状としたほうが部品点数の削減になる。しかし、これもタンクの形状によって適宜調節することが好ましい。
【0019】
また非磁性シールド8の熱膨張を考慮した取り付けが必要なので、隣り合う非磁性板間には隙間が設けてある。例えば、図4に示したように、隣り合う非磁性板に隙間をあけて配置する。その後、非磁性板押さえ板と固定用ボルトナットを用いて、前記隙間を跨ぐようにして覆い、非磁性板をタンク内壁側面6に固定する。このようにすれば、非磁性板の熱膨張変形が吸収でき、また非磁性板押さえ板によって隣り合う非磁性板間の切れ目もなくなり、シールド効果が途切れることを防止できる。
【0020】
次に絶縁物9であるが、図1に示したように巻線充電部5と非磁性シールド8の間で、非磁性シールド8の表面に配置している。絶縁物9は、非磁性シールド8の全面に配置しても良いが、実用的には巻線充電部5と非磁性シールド8間の距離が一番短くなるところに配置すれば十分効果が期待できる。
【0021】
その絶縁物9の取り付けであるが、図2に示した非磁性板8aの少なくとも巻線充電部5に対向する範囲において、非磁性板8aの表面に耐熱耐油性の接着剤等で、密着させて貼り付けを行ったり、絶縁強度に問題のない位置で非磁性シールドの固定と同様のボルトで固定を行ったり、また必要な部位のみ小形に非磁性板を分割し絶縁紙を巻くなどして配置する。
【0022】
しかし製品によって巻線の大きさが異なるため絶縁物9の大きさは、適宜調節することが好ましい。また、巻線充電部5がタンクに近接する他の部分においても、同様に絶縁物9を配置すると同様の効果が得られる。
【0023】
以上ような構成すると図5に示したように、非磁性シールド8の表面を絶縁物9で覆うことにより、絶縁強度のバラツキが緩和され、同じ信頼性において絶縁距離を縮小することができる。
【0024】
タンクを小型化する際、従来技術の延長で進めると非磁性シールド8の表面状態が絶縁耐力にバラツキを与え、巻線充電部5と非磁性シールド8間の絶縁耐圧に対して、影響が出てくるのである。つまり従来技術で、タンクと巻線充電部の絶縁距離をそれ以上縮められなくなった場合、本発明を適用することで、更に絶縁距離を短くすることができる。シミュレーションの結果、絶縁距離としては、11%程度の削減が期待できると考えられ、更なるタンクのコンパクト化が図れる。このことにより、静止誘導電器の騒音低減と更なるコンパクト化を実現した静止誘導電器が提供できる。
【0025】
なお、本実施例で使用した非磁性板の材質はアルミである。よって、アルミと同様の特性を持った非磁性体であれば、同様の効果が期待できる。
【0026】
また絶縁物9は、プレスボードである。よって、プレスボードと同様の耐電圧特性をもったものであれば、同様の効果が期待できる。
【0027】
また絶縁物9は、非磁性シールド8へ耐熱耐油性の接着剤等で貼り付けたが、同様に密着して貼り付ける方法であれば同様の効果が期待できる。
【0028】
また、本実施例のように、静止誘導電器のタンクとしてオーバルタンクを使用すると、もともとタンクの内容積が小さく、強度も高いため振動の抑制効果も大きいので、効果的に騒音の低減と小型化が期待できる。
【符号の説明】
【0029】
1 鉄心
2 巻線
3 絶縁油
5 巻線充電部
6 タンク内壁側面
7 タンク
8a、8b、8c、8d、8e 非磁性板
8 非磁性シールド
9 絶縁物
10 非磁性板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心および巻線よりなる静止誘導電器本体を冷却絶縁媒体とともにタンク内部に収納し、前記タンク内壁側面全面には非磁性シールドを配置した静止誘導電器において、巻線の充電部と前記非磁性シールド間であって、非磁性シールド表面の少なくとも前記巻線充電部に対向する範囲に、絶縁物が配置されていることを特徴とする静止誘導電器。
【請求項2】
タンクとしてオーバルタンクを使用した請求項1の静止誘導電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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