説明

絶縁用樹脂組成物および絶縁性被覆材料を製造する方法

【課題】不飽和ポリエステル樹脂と反応性希釈剤および硬化剤とを含む絶縁用樹脂組成物であって、硬化反応を従来の組成物と比べてより低温で行うことができ、硬化後において優れた機械的特性を示すことができる絶縁用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】絶縁用樹脂組成物は、(a)不飽和ポリエステル樹脂が20〜90重量%、(b)ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマーから選択されるジアリルフタレートモノマーの少なくとも一種が10〜80重量%よりなる組成100重量部に対して、1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物0.8〜5重量部を硬化剤として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルフタレートモノマーを含有する絶縁用樹脂組成物に関する。本発明は、前記絶縁用樹脂組成物を加熱硬化させることによって絶縁性被覆材料を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転機、トランス等の電気機器コイルを含む電装品は絶縁材料で充填処理して製造されているが、この充填処理は、電気絶縁、振動の吸収、構成材料の固着等その求められる機能は多岐にわたる。
【0003】
このような機能を発揮することが出来る絶縁材料としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が主として用いられている。特に、不飽和ポリエステル樹脂は、安価であって、構成成分およびその組成の変更を行いやすいこと、また、変性成分を添加することによって要求される多様な特性を持つ樹脂を合成することが出来ること等の理由から、需要が増加している。
【0004】
一般的な不飽和ポリエステル樹脂の反応性希釈剤としては主にスチレンが使用されている。しかしながら、スチレンは揮発性が高く、独特の強い臭気を有する環境負荷物質である。従って、作業安全衛生面および無公害化のためには規模の大きな排気処理装置および焼却設備などの導入が必要である。このことから、スチレンに代わる揮発性の低い、低臭気の反応性希釈剤が求められており、その候補としてジアリルフタレートモノマーがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−91033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反応性希釈剤としてのジアリルフタレートモノマーは揮発性が低く、臭気が少ないという長所はあるものの、スチレンに比べると反応性が低い。このため、ジアリルフタレートモノマーを反応性希釈剤として用いた不飽和ポリエステル樹脂を、通常使用される硬化剤であるジクミルパーオキサイドやターシャリーブチルパーオキシベンゾエート等を用いて硬化させるためには、150℃付近の高温条件で硬化させる必要がある。しかしながら、硬化温度を高くすることは、生産性や省エネルギー等の観点からあまり好ましくない。また、反応性希釈剤としてスチレンを用いていた従来の設備は、約120〜130℃程度の温度にて操作することを前提としていたため、従来の設備を使用してジアリルフタレートモノマーを反応性希釈剤として用いる方法を実施する場合には、設備条件を変更する必要があった。その他、電装品の耐熱性があまり高くない場合には、高温条件で硬化させる組成物の系を使用することができない。
【0007】
そこで、本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、比較的低温にて硬化させることができる絶縁用樹脂組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、硬化後において、機械的特性に優れた絶縁性被覆材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、不飽和ポリエステル樹脂とジアリルフタレートモノマーを含む絶縁用樹脂組成物において、特定のパーオキシカーボネートを硬化剤として用いることにより、比較的低温にて硬化させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。更に、その絶縁用樹脂組成物は硬化後において、機械的特性に優れた絶縁性被覆材料を提供し得ることも見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(a)不飽和ポリエステル樹脂が20〜90重量%、
(b)ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマーから選択されるジアリルフタレートモノマーの少なくとも一種が10〜80重量%
よりなる組成100重量部に対して、
1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物0.8〜5重量部を硬化剤として含むことを特徴とする絶縁用樹脂組成物を提供する。
【0010】
1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物は、一般式(1):
【0011】
【化1】

[式中RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子と0〜2個のヘテロ原子とを骨格原子として有する有機置換基であって、ヘテロ原子と炭素原子との総和が4〜12の範囲である有機置換基であり、nは1〜10の整数である。]
で示される化合物であってよい。
更に、1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物は、上記一般式(1)において、nが3〜7の整数で示される化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明は、更に、前記一般式(1)において、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、4〜12個の骨格炭素原子を有する鎖式、脂環式若しくは芳香環式の炭化水素基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とする絶縁用樹脂組成物を提供する。
【0013】
本発明は、更に、前記一般式(1)において、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、炭素数4〜7のアルキル基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とする絶縁用樹脂組成物を提供する。
【0014】
本発明は、更に、前記一般式(1)において、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、炭素数4〜7の第3級アルキル基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とする絶縁用樹脂組成物を提供する。
【0015】
本発明は、更に、前記一般式(1)で示される化合物が1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンであることを特徴とする絶縁用樹脂組成物を提供する。
【0016】
本発明は、更に、ジアリルフタレートモノマーが、ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマーおよびこれらの少なくとも2種の混合物の群から選択されることを特徴とする絶縁用樹脂組成物を提供する。
【0017】
本発明は、更に、上述したいずれかの絶縁用樹脂組成物を、80〜130℃の範囲の温度にて加熱および硬化させることによって絶縁性被覆材料を製造する方法を提供する。
【0018】
本発明は、更に、上述したいずれかの絶縁用樹脂組成物を硬化させることによって得られる絶縁材料を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の絶縁用樹脂組成物は、反応性希釈剤として環境負荷の高いスチレンに代えてジアリルフタレートモノマーを使用する一方で、約80℃〜約130℃の比較的低い温度範囲にて硬化反応を行うことができる。従来は、反応性希釈剤としてジアリルフタレートモノマーを使用する場合には、約150℃程度まで加熱することが必要とされていたが、本発明によれば加熱温度の上限を約20℃降下させることができる。約130℃以下の硬化温度は、スチレンを反応性希釈剤として使用して不飽和ポリエステル樹脂を硬化させていた従来の方法における硬化温度と実質的に同程度の温度である。従って、従来の方法に使用していた製造設備をほとんどそのまま本発明の絶縁用樹脂組成物の硬化反応に使用することができる。また、硬化反応の上限温度が従来のスチレンと同等であるので、耐熱性があまり高くない電装品に対しても、本発明の樹脂組成物を適用することができる。従って、本発明は、絶縁用樹脂組成物としての環境負荷を、反応性希釈剤としてスチレンを用いる系と比べてより低減する一方で、絶縁用樹脂組成物の硬化反応に用いるエネルギーを、スチレンを用いる系と同等程度に抑制し得る絶縁用樹脂組成物を提供することができる。
【0020】
また、本発明の絶縁用樹脂組成物を使用して絶縁性被覆材料を製造する場合には、反応性希釈剤としてスチレンを用いる系において必要とされていた大規模な排気処理装置および焼却設備などを同時に運転する必要性を排除することができる。従って、加熱硬化に用いるエネルギーだけでなく、製造設備を運転するためのエネルギーも低減させることができる。
【0021】
本発明の絶縁用樹脂組成物を加熱および硬化させることによって得られるポリマーは、固着力に優れており、絶縁性被覆材料として優れた機械的特性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
絶縁用樹脂組成物
本発明の絶縁用樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂、反応性希釈剤としてのジアリルフタレートモノマー、および硬化剤としての、1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物を少なくとも含有する。
【0024】
不飽和ポリエステル樹脂
本発明で用いられる不飽和ポリエステル樹脂とは、酸成分とアルコール成分とを混合し、反応させて得られるものであって、一般的に絶縁材料に用いられる不飽和ポリエステル樹脂を用いることができる。変性不飽和ポリエステル樹脂を用いることもできる。
【0025】
ここで用いる酸成分としては、α,β−不飽和多塩基酸、飽和多塩基酸等が挙げられ、α,β−不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸およびその無水物等が挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラブロモフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セパシン酸およびその無水物等が挙げられ、これらは単独または2種類以上を混合して使用することができる。
【0026】
アルコール成分としては多価アルコールが挙げられ、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、水素化ビスフェノールA等が挙げられ、これらは単独または2種類以上を混合して使用することができる。
【0027】
また、この不飽和ポリエステル樹脂には、必要に応じて変性成分(例えば、アマニ油、ヤシ油、大豆油、トール油、キシレン樹脂、エポキシ樹脂等)、無機充填剤(例えば炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維、カーボン等)、顔料、乾燥剤等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。
【0028】
ジアリルフタレートモノマー
本発明で用いられるジアリルフタレートモノマーは、主に反応性希釈剤として用いられる。ジアリルフタレートモノマーは、ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマーから選択される少なくとも1種の化合物、またはこれらの少なくとも2種の混合物の群から選択される化合物である。尚、費用および入手のしやすさの観点から、ジアリルフタレートモノマーは、ジアリルオルソフタレートモノマーまたはジアリルイソフタレートモノマーであることが好ましい。更に、本発明で用いられるジアリルフタレートモノマーは、ジアリルフタレートオリゴマーとの混合物として用いてもよい。
【0029】
本発明の絶縁用樹脂組成物において、不飽和ポリエステル樹脂とジアリルフタレートモノマーとの割合は、不飽和ポリエステル樹脂が20〜90重量%の範囲で配合され、ジアリルフタレートモノマーが10〜80重量%の範囲で配合されていることが好ましい。不飽和ポリエステル樹脂の配合量が20重量%未満、即ちジアリルフタレートモノマーの配合量が80重量%を超えると、十分な機械的特性が得られなくなる。また、不飽和ポリエステル樹脂の配合量が90重量%を超えると、即ちジアリルフタレートモノマーの配合量が10重量%未満であると、粘度が高くなり、作業性、含浸性が低下する。
【0030】
硬化剤
本発明で用いられる硬化剤は、1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物である。
前記1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物は、一般式(1):
【0031】
【化2】

[式中RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子と0〜2個のヘテロ原子とを骨格原子として有する有機置換基であって、ヘテロ原子と炭素原子との総和が4〜12の範囲である有機置換基であり、nは1〜10の整数である。]
で示される化合物であることが好ましい。
【0032】
そのような有機置換基としては、アルキル基、フェニル基、アルコキシアルキル基(エーテル基)、アラルキル基等を例示することができる。また、有機置換基は、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、アルコキシ基、オキシカルボニル基、エーテル基、エステル基、アミノ基等を含んでいてもよい。
【0033】
本発明では、上記一般式(1)中、有機置換基RおよびRが、それぞれ独立して、1〜12個の骨格炭素原子を有する鎖式、脂環式若しくは芳香環式の炭化水素基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とすることができる。
【0034】
そのような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n-ペンタン基、2−メチル−ブチル基、3−メチル−ブチル基、2,2−ジメチループロピル基、n−ヘキサン基、2−メチル−ペンタン基、3−メチル−ペンタン基、4−メチル−ペンタン基、2−エチル−ブチル基、3−エチル−ブチル基、2−プロピル−プロピル基、フェニル基、シクロヘキサン基、シクロペンタン基、シクロオクタン基等を例示することができる。
【0035】
本発明では、上記一般式(1)中、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、炭素数4〜7のアルキル基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とすることができる。
【0036】
そのようなアルキル基としては、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n-ペンチル基、2−メチル−ブチル基、3−メチル−ブチル基、2,2−ジメチループロピル基、n−ヘキシル基、2−メチル−ペンチル基、3−メチル−ペンチル基、4−メチル−ペンチル基、2−エチル−ブチル基、3−エチル−ブチル基、2−プロピル−プロピル基、2,2−ジメチル−ブチル基、2,3−ジメチル−ブチル基、2,4−ジメチル−ブチル基、2−エチル−2−メチル−プロピル基、n−ヘプチル基、2−メチル−ヘキシル基、3−メチル−ヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチル−ヘキシル基、2,2−ジメチル−ヘプチル基、2,3−ジメチル−ヘプチル基、2,4−ジメチルーヘプチル基、2,5−ジメチル−ヘプチル基、2,2−ジエチル−プロピル基、1,1−ジメチループロピル基等を例示することができる。
【0037】
本発明では、上記一般式(1)中、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、炭素数4〜7の第3級アルキル基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とすることができる。
そのような第3級アルキル基としては、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、1−エチル−1−メチル−エチル基、1−エチル−1−メチル−プロピル基、1,1−ジエチル−エチル基、1,1,2−トリメチル−プロピル基、1−ブチル−1−エチル−エチル基、1,1−ジエチル−プロピル基、1−エチル−1−メチル−ブチル基、1−エチル−1,2−ジメチル−プロピル基、1,1,2,2−テトラメチル−ブチル基、1,1,2,3−テトラメチル−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチル−ブチル基等を例示することができる。
【0038】
上記一般式(1)において、nが1〜10の整数である化合物としては、4-クロロブチルパーオキシジカーボネート、o,o-t-ブチル-o-イソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ビス(3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ビス-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ビスイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス-メトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビスセチルパーオキシジカーボネート、およびメトキシブチルパーオキシジカーボネートの群から選ばれる化合物を例示することができる。これらの化合物は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
上記一般式(1)において、nが3〜7の整数である化合物がより好ましい。そのような化合物としては、1,6−ビス(t−アミルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,6−ビス(t−ヘキシルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1−t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ−6−t−アミルパーオキシカルボニルオキシ−ヘキサン、1−t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ−6−t−ヘキシルパーオキシカルボニルオキシ−ヘキサン、1,6−ビス(t−アミルパーオキシカルボニルオキシ)ヘプタン、1,6−ビス(t−アミルパーオキシカルボニルオキシ)ペンタン、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘプタン、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)オクタン等を例示することができる。これらの化合物は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
絶縁用樹脂組成物を硬化させた後に得られる絶縁性被覆材料に望まれる固着力の観点から、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘプタン、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)オクタンが好ましく、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンがより好ましい。これらの化合物は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
本発明において、パーオキシカーボネート化合物の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂およびジアリルオルソフタレートモノマーからなる組成100重量部に対して、0.8重量部以上、好ましくは0.9重量部以上、より好ましくは1重量部以上であって、5重量部以下、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。不飽和ポリエステル樹脂およびジアリルオルソフタレートモノマーからなる組成100重量部に対して、パーオキシカーボネート化合物の配合量が0.8重量部未満の場合には、硬化が不十分であり、配合量が5重量部を超える場合には、硬化前の樹脂組成物の保存安定性が悪くなる、即ちポットライフが短くなるので好ましくない。
【0042】
その他の添加剤
本発明の絶縁用樹脂組成物には、本発明の目的に反しない範囲において、上記の他に当該技術分野で用いられる種々の添加剤を任意に配合することができる。具体的には例えばナフテン酸またはオクチル酸の金属塩(コバルト、亜鉛、ジルコニウム、マンガン等)等の硬化促進剤、ハイドロキノン、パラターシャリーブチルカテコール、ピロガロール等の重合禁止剤、着色剤、消泡剤、レベリング剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂およびジアリルオルソフタレートモノマーからなる組成100重量部に対して、20重量部以下、18重量部以下、16重量部以下、14重量部以下、12重量部以下、10重量部以下、又はそれ以下の割合であっても好ましい場合がある。また、添加剤は、その種類、用途、目的等に応じて、好ましい範囲は大きく変動し得る。添加剤によっては、極微量、例えば0.01重量部、0.05重量部、0.1重量部程度の量を添加すれば所望する効果を発揮するものもあるため、配合する割合の下限値を特に数値として挙げることは適切ではない。
【0043】
硬化条件
本発明の絶縁用樹脂組成物の硬化条件は特に限定されるものではないが、従来の硬化剤であるジクミルパーオキサイドやターシャリーブチルパーオキシベンゾエートを用いた場合に必要であった150℃程度の比較的高い温度範囲における硬化条件は必ずしも必要ではない。
本発明の絶縁用樹脂組成物は、80℃〜130℃の温度範囲、特に約82.5℃以上、約85℃以上、約90℃以上、約95℃以上、約100℃以上、約105℃以上、約110℃以上、約115℃以上、約120℃以上であって、約130℃以下、約127.5℃以下、約125℃以下、約122.5℃以下の温度範囲にて硬化させることができる。硬化反応を約130℃までの温度にて行うことができるため、スチレンを反応性希釈剤として使用していた従来の方法における製造設備をほとんどそのまま本発明の絶縁用樹脂組成物の硬化反応に使用することができる。また、加熱時間は20〜180分の間で行うのが通常である。
【0044】
以下、本発明の実施例をいくつか挙げ、本発明を具体的に説明する。ただし、これら実施例は本発明を限定するものではない。なお、固着力試験の結果については一括して表1に示した。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
イソフタル酸 5重量部、無水マレイン酸 7重量部、ジエチレングリコール 12重量部を窒素ガス中で210〜230℃に加熱しながら脱水縮合反応させた。酸価20となったところで、ハイドロキノン 0.003重量部とともにジアリルオルソフタレート 20重量部を混合希釈して樹脂(I)を得た。
【0046】
この樹脂(I) 100重量部に、硬化剤として1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン(商品名:カヤレン6−70、化薬アクゾ(株)製)を1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。
【0047】
(固着力試験)
得られた絶縁用樹脂組成物を、JIS C 2103(電気絶縁用ワニス試験方法)のヘリカルコイル法に準じて、評価した。
【0048】
具体的には、マグネットワイヤとしてAI/EI 1種 1mmφ(商品名:AMW−XV、日立電線(株)製)を、6.3mmの直径を有する所定のマンドレルに巻き付けて、長さ約75mmの螺旋状のコイル(ヘリカルコイル)を作成し、これを絶縁用樹脂組成物のバスに60秒間浸漬した。引き上げたヘリカルコイルのサンプルは、その外側および内側表面、ならびにワイヤどうしの間に絶縁用樹脂組成物を含浸していた。このヘリカルコイルのサンプルを加熱炉に入れ、130℃の温度にて30分間の硬化反応を行った。
【0049】
硬化反応後に室温まで放冷したヘリカルコイルのサンプルは、その表面を試験者が指で触り、べたつき感の有無を触覚試験によって判断した。触覚試験にて試験者がべたつき感を感じたサンプルは、硬化が不十分であると認定して(表1において×で示す)、固着力の測定は行わなかった。また、触覚試験にて試験者がべたつき感を感じなかったサンプルは、硬化が十分であると認定して(表1において○で示す)、更に固着力の測定を行った。
【0050】
固着力の測定には、側面視してコ字形状のブリッジを、そのコ字が上方に開いた形態に置いた試験台を用いた。2つの支点間の距離は44mmに設定してあり、サンプルが2つの支点によって水平方向に均等に支えられるように、硬化反応後のサンプルを載置した。2つの支点のほぼ中央部を上方から下方へ2.0mm/分の速度にて移動するヘッドを用いて、硬化反応後のサンプルの中央部に荷重をかけて、サンプル表面の硬化した被覆材料が破壊される際の荷重を測定することによって、各実施例および比較例のサンプルの固着力(N単位)を求めた。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
実施例1で得られた樹脂(I)100重量部に、硬化剤としてジクミルパーオキサイド(商品名:パークミルD、日油(株)製)を1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。実施例1と同様の操作を行ってサンプルを作成して固着力試験を実施したが、触覚試験にて、硬化が不十分であると認定した。
【0052】
[比較例2]
実施例1で得られた樹脂(I)100重量部に、硬化剤としてt−ブチルパーオキシベンゾエート(商品名:パーブチルZ、日油(株)製)を1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。実施例1と同様の操作を行ってサンプルを作成して固着力試験を実施したが、触覚試験にて、硬化が不十分であると認定した。
【0053】
[比較例3]
実施例1で得られた樹脂(I)100重量部に、硬化剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(商品名:パーヘキサC、日油(株)製)を1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。実施例1と同様の操作を行ってサンプルを作成して固着力試験を実施したが、触覚試験にて、硬化が不十分であると認定した。
【0054】
[比較例4]
実施例1で得られた樹脂(I)100重量部に、硬化剤として過酸価ベンゾイルを1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。実施例1と同様の操作を行ってサンプルを作成して固着力試験を実施した。比較例4のサンプルは、触覚試験にて硬化が十分であると認定したので、更に固着力を測定した。
【0055】
[実施例2]
イソフタル酸 5重量部、無水マレイン酸 7重量部、ジエチレングリコール 12重量部を窒素ガス中で210〜230℃に加熱しながら脱水縮合反応させた。酸価20となったところで、ハイドロキノン 0.003重量部とともにジアリルイソフタレート 20重量部を混合希釈して樹脂(II)を得た。
【0056】
この樹脂(II) 100重量部に、硬化剤として1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン(商品名:カヤレン6−70、化薬アクゾ(株)製)を1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。実施例1と同様の操作を行ってサンプルを作成して固着力試験を実施した。実施例2のサンプルは、触覚試験にて硬化が十分であると認定し、更に固着力を測定することができた。
【0057】
[比較例5]
実施例2で得られた樹脂(II)100重量部に、硬化剤としてジクミルパーオキサイド(商品名:パークミルD、日油(株)製)を1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。実施例1と同様の操作を行ってサンプルを作成して固着力試験を実施したが、触覚試験にて、硬化が不十分であると認定した。
【0058】
[比較例6]
実施例2で得られた樹脂(II)100重量部に、硬化剤としてt−ブチルパーオキシベンゾエート(商品名:パーブチルZ、日油(株)製)を1重量部加えて撹拌混合し、絶縁用樹脂組成物を得た。実施例1と同様の操作を行ってサンプルを作成して固着力試験を実施したが、触覚試験にて、硬化が不十分であると認定した。
【0059】
【表1】

(*) ○・・・べたつき感無し、×・・・べたつき感有り
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の絶縁用樹脂組成物は液状であるため、含浸、塗布等の一般的な手法によって、種々の電気製品の表面に適用することができる。また、本発明の絶縁用樹脂組成物を硬化させて得られる絶縁性被覆材料は、種々の電子製品、電気製品、電装品、モーターおよびトランス等の絶縁に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)不飽和ポリエステル樹脂が20〜90重量%、
(b)ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマーから選択されるジアリルフタレートモノマーの少なくとも一種が10〜80重量%
よりなる組成100重量部に対して、
1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物0.8〜5重量部を硬化剤として含むことを特徴とする絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
1分子中に少なくとも2つのパーオキシカーボネート基を有する化合物が、一般式(1):
【化1】

[式中RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子と0〜2個のヘテロ原子とを骨格原子として有する有機置換基であって、ヘテロ原子と炭素原子との総和が4〜12の範囲である有機置換基であり、nは1〜10の整数である。]
で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、nが3〜7の整数であることを特徴とする請求項2に記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、4〜12個の骨格炭素原子を有する鎖式、脂環式若しくは芳香環式の炭化水素基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とする請求項2または3に記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)において、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、炭素数4〜7のアルキル基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)において、炭化水素基RおよびRが、それぞれ独立して、炭素数4〜7の第3級アルキル基であり、nは3〜7の整数であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項7】
前記一般式(1)で示される化合物が1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンであることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項8】
ジアリルフタレートモノマーが、ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマーおよびこれらの少なくとも2種の混合物の群から選択されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の絶縁用樹脂組成物を、80〜130℃の範囲の温度にて加熱および硬化させることによって絶縁性被覆材料を製造する方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の絶縁用樹脂組成物を硬化させることによって得られる絶縁性被覆材料。

【公開番号】特開2010−209142(P2010−209142A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53716(P2009−53716)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】