説明

絶縁碍子昇降具

【課題】作業員が大型の絶縁碍子に抱きついた状態で昇降する際に、絶縁碍子の傘状部分を利用して身体を安定させ易く、しかも着脱操作性、取扱い性が良好で安全性の高い絶縁碍子昇降具を提供する。
【解決手段】軸方向に沿って複数の傘状の環状凸部51を有した絶縁碍子50に対して着脱自在に取り付けられる絶縁碍子昇降具1であって、弾性材料から構成され、作業員の靴底を載せるステップ部材2と、ステップ部材に設けたベルト挿通穴15に挿通された状態で、隣接する2つの環状凸部間の凹所52内に巻き掛けられるベルト20、及び該ベルトの端部間を締結して環状凸部内に固定する締結具21と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変電所や鉄塔上に設置された大型の絶縁碍子に作業員が登って点検作業等を行う際の安全性を確保することができ、しかも取扱性に優れた絶縁碍子昇降具に関する。
【背景技術】
【0002】
変電所や鉄塔上に設置されている絶縁碍子には、定期的な保守点検、清掃が必要とされている。定期的な保守点検作業においては絶縁碍子全体の外観点検による破損の有無のチェック、電気的接続部等の点検、交換等が実施される。
変電所に設置されている変圧器、遮断器、開閉器等の機器にあっては、機器本体上に全長2〜4m程度の大型、長尺の絶縁碍子が立設されており、絶縁碍子自体の高さが作業員の身長を大幅に上回る場合には、作業員が絶縁碍子に抱きついて登り、姿勢を安定させて保守、点検作業を行っている。具体的には、作業員が腰に装着した柱上安全帯から延びる胴綱を絶縁碍子の傘状部分間の凹所に引っ掛けると共に、両手で絶縁碍子に抱きついた状態で両足の作業靴の先端を絶縁碍子の傘状部分間の凹所に差し込んで体重を掛けて乗る必要がある。両手が塞がるために保守、点検作業の効率が悪い。この際、磁器製の碍子は滑りやすく、しかも傘状部分の上下間隔が狭い場合には作業靴の先端を安定して差込み掛止することが難しく、脱落の虞があった。特に雨水によって碍子が濡れている場合には、脱落する危険が高まる。
【0003】
また、ガス遮断器上に立設される絶縁碍子は、垂直ではなく、水平面に対して約75度程度傾斜しているため、抱きついた状態で姿勢を安定させながら、細部の点検を行うことは難しかった。作業員は安全帯を絶縁碍子に巻き掛けて傾斜した絶縁碍子の下側にぶら下がりながら両手両足を使って絶縁碍子に抱きついて作業を行うため、肉体的労苦が増大する一方で、保守、点検作業性が悪化するという問題があった。
また、鉄塔上に垂直に設置された大型(全長6m〜10m程度)の絶縁碍子を保守点検する際には、専用の梯子を鉄塔上に運び上げて絶縁碍子の一側面に沿って固定し、この梯子を昇降しながら絶縁碍子の保守点検等を行うこととなる。しかし、梯子と対面した側の絶縁碍子の側面については点検作業等を実施し易いが、反対側の側面については絶縁碍子に乗り移って作業を行う必要がある。この際にも地上に設置された絶縁碍子に登って行う点検と同様の危険があった。
【0004】
変電所等に設置される大型の絶縁碍子のように地上に設置した機器上に立設されている場合には、特許文献1(実公平07−15283号公報)に開示された如き保守点検作業用の昇降架台を用いることができる。しかし、この昇降架台は、大型、高重量であるために取扱い性が悪く、設置、移動、撤去に多大な時間と労力(人員)を要する。特に、複数の絶縁碍子を保守点検するために次々と移動する必要がある場合には、更に手数と時間を要することとなる。電路を停電させた上での保守点検作業には時間的制約を伴うため、この種の昇降架台は作業の迅速化という要請に反する。また、高コストである。また、鉄塔上の絶縁碍子の保守、点検、清掃には不向きである。
特許文献2(特開平09−239684号公報)には、碍子チャッキング装置、及びこれを用いた碍子清掃装置が開示されているが、装置構成が大がかりであり、設置、移動、撤去に手数がかかるばかりでなく、高コストである。また特許文献1と同様に鉄塔上の絶縁碍子の保守、点検、清掃には不向きである。
特許文献3(特開2010−22106公報)は、気中ケーブルヘッドの土台部に直接的に組み付けることのできる、気中ケーブルヘッド用の簡易足場に関するものであり、気中ケーブルヘッドの土台部に乗せる複数の縦型鋼材と、この複数の縦型鋼材を連結する湾曲した複数の横型鋼材により構成される。複数の縦型鋼材は、ナットを取り外して土台部から上向きに突出している架台のボルト軸を挿通させる孔を有する水平板片を下端部に固定している。この簡易足場を介して作業員が気中ケーブルヘッドに登り、種々の作業を実施すると共に、鉄塔上等に設置されている気中ケーブルヘッドにも簡易足場を容易に組み付けて、作業員が種々の作業を実施する。
【0005】
しかし、気中ケーブルヘッドの土台部に直接、梯子状の足場を立設するものであり、設備が大がかりとなる。また、足場を設置可能な条件を備えた土台部の存在が必須であり、碍子に直接取り付けて碍子を昇降するためのものではないため、汎用性に乏しい。特に、鉄塔上の絶縁碍子の保守、点検、清掃には不向きである。
特許文献4(特開昭58−107001号公報)に係る電気工事における作業台は、碍子の一つの傘部を挟み込む2つの支持杆の一端を台盤により開閉自在に支持し、一方の支持杆の先端には側杆を回動自在に軸支し、他方の支持杆の先端と係止可能に構成している。2つの支持杆の内側には傘部の外形と整合する凹所が形成されている。しかし、構造が大がかりとなり、取付け対象となる碍子の周辺に十分な設置、作業スペースがないと適用できなくなるという問題がある。従って、鉄塔上の絶縁碍子の保守、点検、清掃には不向きである。
特許文献5(特開2006−104796公報)は、立設状態の絶縁碍子に取り付け可能な簡易足場であって、半割れ状に形成されて開閉自在かつ閉状態でロック可能な一対の足場板の内面に、閉状態にて、絶縁碍子のフランジ状部に掛止可能な掛止部を設けている。しかし、軸方向に直線状に連接された2つの碍子の連結箇所(非碍子部)に一対の足場板を取り付けるものであり、碍子の任意の高さ位置(傘状部)に直接取り付けることはできないため、適用可能な場面が狭く極限されており、汎用性に欠けるという問題がある。従って、鉄塔上の絶縁碍子の保守、点検、清掃には不向きである。
特許文献6(特開2006−288370公報)には、枝打ちに際して使用する木登り器が開示されているが、傘状の部材を連接した構造の絶縁碍子にこの木登り器を適用して昇降することはできない。
特許文献7(実開平2−102263号公報)には、樹木の幹を2つのゴムパッドで挟みながら木を登る補助具が開示されている。この木登り補助具は、コ字状のアームの対向する2つの腕の内側にゴムパッドを取付け、ゴムパッドで幹を挟んだ状態で木登りするものである。
しかし、ゴムパッド以外の構成部品が多々あり、大型化し、取扱い性が悪いため、これを碍子昇降用に転用することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平07−15283号公報
【特許文献2】特開平09−239684号公報
【特許文献3】特開2010−22106公報
【特許文献4】特開昭58−107001号公報
【特許文献5】特開2006−104796公報
【特許文献6】特開2006−288370公報
【特許文献7】実開平02−102263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように従来作業員が大型の絶縁碍子に抱きついた状態で登ったり、体勢を維持する際には、作業靴の先端を傘状部分の間に差し込んで身体を安定させる必要があったが、磁器製の碍子は滑りやすく、しかも傘状部分の上下間隔が狭い場合には作業靴の先端を安定して差込み掛止することが難しく、脱落や墜落の虞があった。
碍子の高い箇所に対する保守、点検作業を実施するための足場装置、昇降装置は種々提案されているが、何れも大型であったり、移動時の取扱い性が悪い等の欠点を有していた。特に、鉄塔上に設置された碍子に対して各種作業を行うための昇降手段としては不向きなものが大半であった。
また、樹木を登るための道具は、外面に傘状の突起があり、且つ破損し易い絶縁碍子には適用できないものが多い。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、作業員が大型の絶縁碍子に抱きついた状態で昇降する際に、絶縁碍子の傘状部分を利用して身体を安定させ易く、しかも着脱操作性、取扱い性が良好で安全性の高い絶縁碍子昇降具を提供するものである。
また、鉄塔上に設置された絶縁碍子にも適用することにより、保守、点検作業の効率を高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る絶縁碍子昇降具は、軸方向に沿って複数の傘状の環状凸部を有した絶縁碍子に対して着脱自在に取り付けられる絶縁碍子昇降具であって、弾性材料から構成され、作業員の靴底を載せるステップ部材と、前記ステップ部材に設けたベルト挿通穴に挿通された状態で、隣接する2つの前記環状凸部間の凹所内に巻き掛けられるベルト、及び該ベルトの端部間を締結して前記環状凸部内に固定する締結具と、を備えたことを特徴とする。
作業員が絶縁碍子に登る際に踏み台となるステップ部材を、ベルト、締結具を用いて碍子の任意の高さ位置、周方向位置に任意の個数取り付けることにより、足場が確実となり、両手を自由にすることができるので、保守、点検作業を効率的に実施することが可能となる。
請求項2の発明は、前記ステップ部材は、内側面に前記絶縁碍子の環状凸部間の凹所内に嵌合してステップ部材の上下位置を決める嵌合突起を有すると共に、その上面には靴底を載せるステップ面を有していることを特徴とする。
嵌合突起を碍子の凹所内に嵌合することにより、位置決めが確実となる。広いステップ面を足場として利用できるので姿勢が安定する。
【0009】
請求項3の発明は、前記ステップ面よりも下方に位置する前記ステップ部材の外周面には、前記靴の一部を差し込む係止凹所が形成されていることを特徴とする。
ステップ面の下方に、靴を係止する係止凹所を設けたので、作業者の身体の高さ位置を調整できる。
請求項4の発明は、前記嵌合突起は、厚肉の第1の嵌合突起と、該第1の嵌合突起の上下位置に複数個配置された薄肉の第2の嵌合突起と、から構成されていることを特徴とする。
第1の嵌合突起を碍子の凹所内に強固に結合することによりステップ部材の脱落を防止し、第2の嵌合突起によりステップ部材の姿勢を安定させることができる。
請求項5の発明は、前記第1の嵌合突起、又は/及び、前記第2の嵌合突起の上面、又は/及び、下面に楔形状の突条を設けたことを特徴とする。
突条の楔作用により各嵌合突起を凹所内壁に安定して固定することができる。
【0010】
請求項6の発明は、前記嵌合突起は、周方向に沿って断続的に配置された複数の部分から構成されていることを特徴とする。
嵌合突起を周方向に連続した構成とするのではなく、断続的に複数の部分を配置した構成とする。この場合、作業者から加わる荷重に対応して個々の部分が個別に変形して絶縁碍子の凹所内壁と密着することができる。
請求項7の発明は、前記ステップ面に高さ調整部材を着脱自在に取付けたことを特徴とする。
ステップ部材を取り外して高さを変える等の手間を掛けることなく、既設のステップ部材の上面に高さ調整部材を組み付けることにより、ステップ面をより高い位置にすることができる。
請求項8の発明は、前記ステップ面、又は前記高さ調整部材に、手摺部を設けたことを特徴とする。
ステップ面、或いは高さ調整部材に作業員の手掛かりとなる手摺部を設けることにより、手を使って身体を安定させたり、昇降することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、作業員が大型の絶縁碍子に抱きついた状態で昇降する際に、絶縁碍子に登る際に踏み台となるステップ部材をベルトを用いて碍子の任意の高さ位置に任意の個数取り付けることにより、足場が確実となり、両手を自由にすることができるので、保守、点検作業を効率的に実施することが可能となる。
また、鉄塔上に設置された絶縁碍子にも適用することにより、保守、点検作業の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る絶縁碍子昇降具の構成を示す斜視図である。
【図2】(a)乃至(d)は絶縁碍子昇降具の外面図、側面図、内面図、及び平面図である。
【図3】(a)及び(b)は絶縁碍子昇降具を絶縁碍子に組み付けた状態を示す説明図である。
【図4】ベルトと締結具の構成を示す平面図である。
【図5】(a)及び(b)は第1の嵌合突起の変形例を示す断面図、及び外観斜視図である。
【図6】(a)は一方の締結片の構成を示す正面図、平面図、右側面図、及び左側面図であり、(b)は他方の締結片の平面図であり、(c)は両締結片の着脱操作手順を示す説明図である。
【図7】(a)は緩衝材の構成説明図であり、(b)は緩衝材を介して絶縁碍子に締結された締結具を示した図である。
【図8】(a)及び(b)は本発明の変形実施形態の構成を示す側面図、及び平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る絶縁碍子昇降具の構成を示す斜視図であり、図2(a)乃至(d)は絶縁碍子昇降具の外面図、側面図、内面図、及び平面図であり、図3(a)及び(b)は絶縁碍子昇降具を絶縁碍子に組み付けた状態を示す説明図であり、図4はベルトと締結具の構成を示す平面図である。
【0014】
絶縁碍子昇降具1は、軸方向へ沿って複数の傘状の環状凸部51を外面に有した磁器製の絶縁碍子50に対して着脱自在に取り付けられて、作業員が碍子を昇降する際の踏み台(足場)となる。
絶縁碍子昇降具1は、硬質ゴム等の弾性材料から構成され、作業員の靴底を載せるステップ部材2と、ステップ部材2に設けたベルト挿通穴15に挿通された状態で、絶縁碍子外周の隣接する2つの環状凸部51間の凹所52内に巻き掛けられるベルト20と、ベルトの端部間を着脱自在に締結して環状凸部内に固定する締結具21と、を概略備えている。
【0015】
ステップ部材2は、内側面に絶縁碍子の環状凸部間の凹所52内に嵌合してステップ部材の上下位置を決める嵌合突起3を有すると共に、その上面には靴底を安定して載せるのに十分な面積を有したステップ面5を有している。嵌合突起3は、軸方向略中央部に配置された断面形状が矩形、且つ厚肉の第1の嵌合突起3aと、第1の嵌合突起3aの上下に夫々配置された断面形状が三角形、且つ薄肉の第2の嵌合突起3bとから構成されている。
ステップ部材2としては、硬質ゴムの他にも、十分な強度を備えた絶縁性の樹脂材料、カーボングラファイト、カーボンファイバー、グラスファイバー、各種の繊維強化プラスチック等を使用することができる。基材の硬度が高すぎる場合には、碍子と接触する基材部分に軟質なゴム、樹脂等から成る緩衝膜を積層、被覆する等してもよい。
ステップ部材2は、摩擦抵抗の大きな材質により構成することにより、絶縁碍子との接触面の滑り、作業員の靴との滑りを防止することができる。或いは、碍子との接触面や靴が接触する部位に滑り止め処理を施すようにしてもよい。
【0016】
各嵌合突起3a、3bを夫々異なった凹所52内に嵌合させることにより、ステップ部材に加わる作業者の体重を各環状凸部51(凹所内壁)に対して分散させることができる。また、第1の嵌合突起3aは厚肉であり、これを凹所52内に嵌合させ、内壁に食い込ませることによりステップ部材に加わる作業者の体重を環状凸部51によって支持させることができる。第1の嵌合突起は厚肉であるため、十分な強度を維持することができる。一方、第2の嵌合突起3bは薄肉であり、第1の嵌合突起よりも弾性変形し易いため、第1の嵌合突起が嵌合した凹所52以外の凹所52内に入り込んで環状凸部51と密着することによりステップ部材の捻れ、位置ずれを防止して姿勢を維持する。
なお、第1の嵌合突起3aの断面形状を四角形としたが、これは一例であり、凹所52内に嵌合し易いように先端に向かう程薄肉となるように構成してもよい。また、第1の嵌合突起3aは周方向全長に渡って連続して延在している必要はなく、図2(c)に示すように周方向に沿って断続的に配置された複数の部分から第1の嵌合突起を形成しても良い。このように複数の部分を断続的に構成することにより、凹所52内に嵌合させた時に個々の部分が独自に変形しながら環状凸部51に密着して結合強度を高めることができる。
第2の嵌合突起3bについても周方向に分割した構成とすることにより、個々の部分が個別、且つ柔軟に変形して凹所内壁と密着することができる。
また、第1の嵌合突起3aは一個に限らず、高さ位置を異ならせてステップ部材内面に2個以上設け、夫々が異なった凹所52内に嵌合するようにしてもよい。
【0017】
図5(a)及び(b)は第1の嵌合突起の変形例を示す断面図、及び外観斜視図であり、第1の嵌合突起の上面及び下面に夫々楔形状の突条3a’をその長手方向に沿って所定のピッチで突設している。
このため、凹所52内に第1の嵌合突起3aを嵌合させる際に、凹所内壁と接する突条3a’が楔作用によって凹所内壁との結合力を強化して凹所からの第1の嵌合突起の脱落を防止することができる。
従って、凹所2の上下幅が異なる他種の絶縁碍子に同一のステップ部材を取り付ける場合にも、突条3a’を利用することによって凹所内壁との結合力を高めて位置ずれ、脱落を防止できる。
【0018】
突条3a’は、第1の嵌合突起の上面、又は下面の何れか一方に設けても良い。また、上下両面に設ける場合には、各突条の位置をずらすようにしてもよい。
上記と同様の楔形状の突条は、第2の嵌合突起3bの上面、又は/及び、下面に設けても良い。
なお、絶縁碍子の直径、環状凸部51や凹所52の寸法は碍子の種類毎に異なっているが、硬質ゴム等から成る第1の嵌合突起3aは多少の弾性を有しているため、ベルト20による締め付け力との協働により、環状凸部や凹所の寸法の違いに追随して取り付けることができる。
更に、ステップ面5よりも下方に位置するステップ部材の外周面には、靴先等の靴の一部を差し込む係止凹所7が形成されている。係止凹所7の形状、上下幅、奥行き寸法は、普通サイズの作業靴を安定して引っ掛けることができる程度に設定する。
ステップ面5の他に係止凹所7を設けたことにより、ステップ部材の取付け高さを変更せずに、任意の係止凹所を足場として利用して絶縁碍子の任意の高さ位置に対する保守、点検作業を行うことが可能となる。
【0019】
図示の例では、ベルト挿通穴15と係止凹所7を同じ高さ位置に配置したが、高さ位置をずらしても良い。両者の高さ位置をずらした場合には、係止凹所7の内面にベルトを巻き掛けて碍子外周面に締結することが可能となる。また、係止凹所7をベルト巻掛け部として兼用することにより、ベルト挿通穴15を省略してもよい。
ベルト20としては、柔軟で、大きな引っ張り強度、耐剪断強度を有した帯状の樹脂ベルトを用いる。
締結具21は、ベルト20の両端部に夫々取り付けられ、十分な強度を有したプラスチック製の着脱自在な締結片22、23から成る。締結片22、23のうちの少なくとも一方は、ベルト端部に対する取付け位置をスライド調整可能に構成されている。また、締結具21は、着脱操作が容易である一方で、締結時には容易に外れないものが好ましい。
【0020】
図6(a)は一方の締結片の構成を示す正面図、平面図、右側面図、及び左側面図であり、(b)は他方の締結片の平面図であり、(c)は両締結片の着脱操作手順を示す説明図である。
一方の締結片22の右側部開口22a内にはベルト20を挿通して折り返すことによりベルトを係止する。締結片22の左側開口部22bには他方の締結片23の弾性締結片23aを差し込んで着脱自在に取り付ける。締結片22から締結片23を取り外す場合には、締結片22の前後端縁の切欠き部から露出した弾性締結片23aを押圧して取り外すことができる。
ベルト20をベルト挿通穴15内に挿通させた状態でステップ部材2を絶縁碍子の外周面に取り付ける場合には、両締結片を締結状態にしてから何れか一方の締結片に取り付けられたベルト端部を引くことにより絶縁碍子に対するベルトの巻き付き張力を高めることができる。
【0021】
以上のような構成を備えた絶縁碍子昇降具1は、図3(a)(b)に示すように複数の絶縁碍子昇降具を高さ位置を変えて碍子外面に取り付けられる。2個の絶縁碍子昇降具を取り付けただけでは絶縁碍子の上部にある箇所に手が届かない場合には、更に上方に3個目以降の絶縁碍子昇降具を取り付ける。
また、図示しないが、複数個の絶縁碍子昇降具を、同じ絶縁碍子の同一高さレベルに周方向位置を異ならせて取り付けることにより、同レベルにある足場の面積を広くして絶縁碍子の全外周面に対する作業性を高めることが可能となる。
なお、図7(a)は締結具と絶縁碍子との接触部に介在することによって締結具が絶縁碍子を損傷することを防止するための緩衝材30を示し、(b)は緩衝材を介して絶縁碍子に締結された締結具を示している。この緩衝材30は、皮革、合成皮革、ゴム、絶縁樹脂等々の弾性を有した絶縁材料から構成する。緩衝材30は、締結具と碍子との間に介在する本体31と、ベルトに挿通されるベルト挿通部32と、から構成される。
なお、締結具は、図示したタイプに限定される訳ではなく、市販されている種々の締結具を利用することができる。
また、締結具21を図3(b)に示したようにステップ部材2に近づけて締結することにより、締結具と絶縁碍子との強い接触を回避することができる。即ち、ベルト挿通穴15から引き出された直後の位置にあるベルトと絶縁碍子との間には略三角形の空間が形成されるため、この空間を利用して締結具21を配置することにより、絶縁碍子外面との干渉を回避することができる。或いは、ステップ部材2側に締結具21を収容する凹所を形成し、この凹所内に締結具を位置させるようにしてもよい。
【0022】
図8(a)及び(b)は本発明の変形実施形態の構成を示す側面図、及び平面図である。
このステップ部材2は、ステップ面5上に高さ調整部材40を着脱自在に取付け可能に構成した点が特徴的である。
本例では、ステップ面5の形状と整合した形状を有した高さ調整部材40をステップ面にボルト等の固定具41により固定することにより、ステップ面の高さを調整するようにしている。
この高さ調整部材40を用いることにより、作業者が足場とするステップ面の位置を高くすることが可能となり、絶縁碍子に対するステップ部材の取付け位置を高い位置に変更することなく、絶縁碍子のより高い部位に対する保守、点検作業が可能となる。
【0023】
また、図8(b)に示すように高さ調整部材の外周縁に沿って手摺となるスリット、又は凹所45を形成することにより手摺としてのスリット、又は凹所45に指を掛けて昇降したり、姿勢を安定させることが可能となる。
また、スリット、又は凹所45を利用して図示しない工具袋を引っ掛けて吊り下げることにより、ボルト、ナット、工具等の資機材を一時保管することが可能となり、作業性を向上できる。
なお、手摺としてのスリット又は凹所45は、ステップ面に設けても良い。
また、JIS規格の絶縁碍子強度は、引張破壊荷重=80[kN]、曲げ破壊荷重=7[kN]であるのに対して、絶縁碍子に登る作業者の全体重は100kg以下であるため、絶縁碍子の耐久性は十分である。
【0024】
上記構成を備えた絶縁碍子昇降具1を垂直、或いは傾斜して設置された絶縁碍子50に取り付けるには、絶縁碍子50が設置された遮断器等の機器上面、或いは周辺の適当な足場を利用して複数個の絶縁碍子昇降具1を絶縁碍子50の任意の高さ位置に夫々取り付ける。
取付けに際しては、事前にステップ部材2のベルト挿通穴15にベルトを挿通した状態としておき、ステップ部材の内側面を絶縁碍子の外面に添設する。この際、第1の嵌合突起3aを一つの凹所52内に押し込み、第1の嵌合突起の上下に位置する第2の嵌合突起3bは、上記凹所の上下位置にある他の凹所52内に弾性変形させながら押し込む。この状態でベルト20を対応する凹所52内に押し込みながら当該凹所全周に渡って巻掛け、ベルト両端部にある締結片22、23を締結状態にする。最後に、締結具21から延びるベルト端部(余長部分)を適度に引き出すことによってベルトが凹所52内に巻き付く強度を調整する。
この操作を各ベルトについて行うことにより、ステップ部材2は碍子外面に対して強固に固定される。
第1及び第2の嵌合突起3a、3bは、夫々の上面、下面が、凹所52の内壁面と面接触した状態で固定されるため、安定した接触状態を維持することができる。
一個目のステップ部材2の取付けを終わったら、次のステップ部材2についても同様に取付けを行う。
【0025】
図3(a)(b)に示したように各ステップ部材2の取り付けを完了することにより、作業員は絶縁碍子に登ることが可能となる。各ステップ部材のステップ面5は面積が広いため靴底を載せることができ、足場としては良好である。また、ステップ面5よりも低い足場を必要とする場合には何れかの係止凹所7に靴を引っ掛けて作業を行うことができる。
絶縁碍子に登っての作業は、作業員が腰に装着した柱上安全帯から延びる胴綱を絶縁碍子の傘状部分間の凹所に引っ掛けながら実施することになるが、靴をステップ部材に載せることにより足場が確実に安定しているため、両手が自由となり、作業の自由度が高まる。また、図3(a)(b)のようにステップ部材を絶縁碍子の外面に180度間隔で、且つ高さ位置をずらして取り付けることにより、周方向への移動が可能となり、絶縁碍子の外周面全体をくまなく保守、点検することができる。
ステップ部材を絶縁碍子から取り外す際には、締結具21を解除することにより、ベルトを絶縁碍子から離脱させればよい。
垂直ではなく75度程度傾斜して立設された絶縁碍子にこの昇降具を取り付けて碍子に登る場合であっても、ステップ部材を足場として有効利用できるため、両手が自由となり、保守、点検作業を効率的に実施することが可能となる。
鉄塔上の絶縁碍子に本発明の絶縁碍子昇降具を取り付ける場合の操作も上記と全く同様である。絶縁碍子昇降具1は、軽量であり、取扱い性がよいため、鉄塔上に運び上げてから取り付ける作業が容易となる。取り外してからの取扱い性にも問題はない。
【0026】
以上のように本発明では、作業員が身長を超えた長尺の絶縁碍子に登る際に踏み台となるステップ部材を、ベルト、締結具を用いて絶縁碍子の任意の高さ位置、周方向位置に任意の個数取り付けることにより、足場上の姿勢の安定が確実となり、両手を自由にすることができるので、保守、点検作業を効率的に実施することが可能となる。
嵌合突起を絶縁碍子の凹所内に嵌合することにより、ステップ部材の位置決めが確実となる。広いステップ面を足場として利用できるので姿勢が安定する。
ステップ面の下方に、靴を係止する係止凹所を設けたので、作業者の身体の高さ位置を調整できる。
第1の嵌合突起を碍子の凹所内に強固に結合することによりステップ部材の脱落を防止し、第2の嵌合突起によりステップ部材の姿勢を安定させることができる。
楔状の突条を嵌合突起に設けることにより、突条の楔作用により各嵌合突起を凹所内壁に安定して固定することができる。
嵌合突起を周方向に連続した構成とするのではなく、断続的に複数の部分を配置した構成とする。この場合、作業者から加わる荷重に対応して個々の部分が個別に変形して絶縁碍子の凹所内壁と密着することができる。
ステップ部材を取り外して高さを変える等の手間を掛けることなく、既設のステップ部材の上面に高さ調整部材を組み付けることにより、ステップ面をより高い位置にすることができる。
ステップ面、或いは高さ調整部材に作業員の手掛かりとなる手摺部を設けることにより、手を使って身体を安定させたり、昇降することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1…絶縁碍子昇降具、2…ステップ部材、3…嵌合突起、3a…嵌合突起、3b…嵌合突起、7…係止凹所、15…ベルト挿通穴、20…ベルト、21…締結具、22、23…締結片、22a…右側部開口、22b…左側開口部、23a…弾性締結片、30…緩衝材、31…本体、32…ベルト挿通部、40…調整部材、41…固定具、45…凹所、50…絶縁碍子、51…環状凸部、52…凹所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って複数の傘状の環状凸部を有した絶縁碍子に対して着脱自在に取り付けられる絶縁碍子昇降具であって、
弾性材料から構成され、作業員の靴底を載せるステップ部材と、
前記ステップ部材に設けたベルト挿通穴に挿通された状態で、隣接する2つの前記環状凸部間の凹所内に巻き掛けられるベルト、及び該ベルトの端部間を締結して前記環状凸部内に固定する締結具と、
を備えたことを特徴とする絶縁碍子昇降具。
【請求項2】
前記ステップ部材は、内側面に前記絶縁碍子の環状凸部間の凹所内に嵌合してステップ部材の上下位置を決める嵌合突起を有すると共に、その上面には靴底を載せるステップ面を有していることを特徴とする請求項1に記載の絶縁碍子昇降具。
【請求項3】
前記ステップ面よりも下方に位置する前記ステップ部材の外周面には、前記靴の一部を差し込む係止凹所が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁碍子昇降具。
【請求項4】
前記嵌合突起は、厚肉の第1の嵌合突起と、該第1の嵌合突起の上下位置に複数個配置された薄肉の第2の嵌合突起と、から構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の絶縁碍子昇降具。
【請求項5】
前記第1の嵌合突起、又は/及び、前記第2の嵌合突起の上面、又は/及び、下面に楔形状の突条を設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の絶縁碍子昇降具。
【請求項6】
前記嵌合突起は、周方向に沿って断続的に配置された複数の部分から構成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の絶縁碍子昇降具。
【請求項7】
前記ステップ面に高さ調整部材を着脱自在に取付けたことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の絶縁碍子昇降具。
【請求項8】
前記ステップ面、又は前記高さ調整部材に、手摺部を設けたことを特徴とする請求項7に記載の絶縁碍子昇降具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−57187(P2013−57187A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195551(P2011−195551)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)