説明

絶縁組成物

【課題】協調性を維持しつつコストを低下させた絶縁組成物を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂を含有するポリマーに炭酸カルシウムからなる充填剤を配合することにより、コストを低下させる。ポリオレフィン系樹脂を含むポリマーに硫化亜鉛、酸化亜鉛及びラジカル安定剤を組み合わせて配合することにより、充填剤を配合することによる協調性の低下を防止し、協調性を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂を含有するポリマーを主成分とする絶縁被覆で導線を被覆した被覆電線のコストを低下させるためには、炭酸カルシウムからなる安価な充填剤をポリマーに配合することが有効である。
【0003】
特許文献1は、本願発明と関連する文献公知発明が記載された先行技術文献である。特許文献1は、硫化亜鉛及び酸化亜鉛のポリマーへの配合に言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第02/073631号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、炭酸カルシウムからなる充填剤をポリマーに配合すると、絶縁被覆が他の部材、例えば、テープ、ワイヤーハーネスのチューブ等と接触したときの耐熱寿命(以下では、「協調性」という)が低下する。逆に、炭酸カルシウムからなる充填剤をポリマーに配合しても協調性が低下しないようにするために臭素系難燃剤、イオウ系酸化防止剤等をポリマーに配合すると、コストが上昇し、安価な充填剤をポリマーに配合することの意義が失われる。
【0006】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、協調性を維持しつつコストを低下させた絶縁組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、ポリオレフィン系樹脂を含有するポリマーに、炭酸カルシウムからなる充填剤を配合するとともに、硫化亜鉛、酸化亜鉛及びラジカル安定剤を組み合わせて配合する。充填剤の含有量は100重量部のポリマーに対して10重量部以上20重量部以下であり、硫化亜鉛の含有量は100重量部のポリマーに対して10重量部以上20重量部以下であり、酸化亜鉛の含有量は100重量部のポリマーに対して5重量部以上10重量部以下であり、ラジカル安定剤の含有量は100重量部のポリマーに対して5重量部以上10重量部以下であることが望ましい。ラジカル安定剤は、アミノトリアゾール化合物及びヒドラジド化合物からなる群より選択される1種類以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コストが低く協調性が良好な絶縁被覆が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
望ましい実施形態の絶縁組成物では、ポリオレフィン系樹脂を含有するポリマーに、炭酸カルシウムからなる充填剤を配合することにより、コストを低下させる。また、当該絶縁組成物では、ポリオレフィン系樹脂を含むポリマーに、硫化亜鉛、酸化亜鉛及びラジカル安定剤を組み合わせて配合することにより、充填剤を配合することによる協調性の低下を防止し、充填剤を配合しない場合よりも協調性を向上する。当該絶縁組成物は、被覆導線において導線を被覆する絶縁被覆の電気絶縁用の樹脂材料となる。
【0010】
ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンをモノマーとする重合体又は共重合体であるが、オレフィン以外のモノマーを含んでいてもよい。ただし、ポリオレフィン系樹脂は、環境に対する配慮から、ハロゲンを含まないことが望ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィンの重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル等のエチレンと他のモノマーとの共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル等のプロピレンと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0011】
ポリマーが熱可塑性エラストマー(TPE)を含有していてもよい。これにより、絶縁被覆の柔軟性、加工性が向上する。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TBS)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)等が挙げられる。
【0012】
熱可塑性エラストマーは、酸変性されていてもよい。酸としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸等があり、その誘導体としては、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル等がある。
【0013】
ポリマーにTPEを含有させる場合、その含有量は、100重量部のポリオレフィン系樹脂に対して、50重量部以上200重量部以下であることが望ましい。
【0014】
充填剤の含有量は、100重量部のポリマーに対して、10重量部以上20重量部以下であることが望ましい。充填剤の含有量がこの範囲を下回ると、コストを低下させる効果が不十分になる傾向があり、充填剤の含有量がこの範囲を上回ると、硫化亜鉛、酸化亜鉛及びラジカル安定剤を組み合わせて含有させることによる協調性の向上が困難になる傾向があるからである。
【0015】
充填剤は、平均粒径が0.1μm以上20μm以下の粉末であることが望ましい。充填剤の平均粒径がこの範囲を下回ると、2次凝集が起こりやすくなる傾向があり、充填剤の平均粒径がこの範囲を上回ると、絶縁被覆の外観不良が発生しやすくなる傾向があるからである。
【0016】
硫化亜鉛の含有量は、100重量部のポリマーに対して、10重量部以上20重量部以下であることが望ましく、酸化亜鉛の含有量は、100重量部のポリマーに対して、5重量部以上10重量部以下であることが望ましい。硫化亜鉛及び酸化亜鉛の含有量がこの範囲を下回ると、協調性が低下する傾向があり、硫化亜鉛及び酸化亜鉛の含有量がこの範囲を上回ると、被覆電線の巻きつけ性が低下する傾向があるあるからである。
【0017】
ラジカル安定剤は、主に銅からなる導線から生成し絶縁被覆を劣化させる銅イオンを捕捉し安定化する添加剤である。ラジカル安定剤は、「銅害防止剤」「金属害防止剤」「銅不活性化剤」「金属不活性化剤」等とも呼ばれる。ラジカル安定化剤は、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール(株式会社ADEKA製の「CDA−1」として入手可能)等のアミノトリアゾール化合物、及び、2′,3−ビス[[3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド(チバ・ジャパン社製の「IRGANOX MD 1024」として入手可能)等のヒドラジド化合物等からなる群より選択される1種類以上であることが望ましい。
【0018】
ラジカル安定剤の含有量は、100重量部のポリマーに対して、5重量部以上10重量部以下であることが望ましい。ラジカル安定剤の含有量がこの範囲を下回ると、協調性が低下する傾向があり、ラジカル安定剤の含有量がこの範囲を上回ると、被覆電線の巻きつけ性が低下する傾向があるからである。
【0019】
公知の難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、加工助剤等をポリマーに配合することも望ましい。
【0020】
難燃剤は、環境に対する配慮から、ハロゲンを含まないことが望ましく、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物が望ましく、水酸化マグネシウムが特に望ましい。難燃剤の含有量は、100重量部のポリマーに対して、5重量部以上30重量部以下であることが望ましい。
【0021】
難燃助剤は、ホウ酸亜鉛、シリコーン系、窒素系が望ましい。難燃助剤の含有量は、100重量部のポリマーに対して、5重量部以上20重量部以下であることが望ましい。
【0022】
酸化防止剤は、フェノール系、硫黄系、リン系等が望ましい。酸化防止剤の含有量は、100重量部のポリマーに対して、1重量部以上5重量部以下であることが望ましい。
【0023】
加工助剤は、滑剤、ワックス等である。加工助剤の含有量は、100重量部のポリマーに対して、0.1重量部以上3重量部以下であることが望ましい。
【0024】
なお、上述した添加剤以外の添加剤、例えば、着色剤をさらに配合することも許される。
【実施例】
【0025】
以下では、表1に示す組成を有する絶縁組成物からなる絶縁被覆で銅からなる導線が被覆された絶縁電線を製造し協調性を評価した結果を説明する。絶縁電線は、混練機により混練された絶縁被覆の材料を押出し成形機を用いて導線の外周に押出すことにより製造した。使用したポリマーはポリプロピレン(PP)とオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)との混合物である。難燃剤は、水酸化マグネシウムである。難燃助剤は、ホウ酸亜鉛、酸化防止剤は、フェノール系を用いた。加工助剤としては、滑剤を配合した。表1における組成は、各成分の重量部であらわされている。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示す協調性は、絶縁被覆と塩化ビニル製テープとを接触させた状態で絶縁電線を150℃の試験環境においた場合に絶縁被覆にひびが生じるまでの時間を指標としている。協調性の評価にあたっては、試験環境から取り出した絶縁電線を室温まで冷却し、直径の約4倍のマンドレル巻きつけを行ったときにひびを生じなかった場合に「合格」とした。このように絶縁被覆にひびが生じるまでの時間を指標とする場合、ワイヤーハーネス等の自動車用電気配線に絶縁電線を使用するためには、240時間以上で「合格」となることが必要である。
【0028】
表1を参照して、硫化亜鉛、酸化亜鉛及びラジカル安定剤を組み合わせて配合しておらず充填剤の配合の有無が異なる試料2と試料3,4とを比較すると、充填剤の配合により協調性が低下していることがわかる。
【0029】
また、硫化亜鉛、酸化亜鉛及びラジカル安定剤のいずれかの含有量が、それぞれ、10重量部、5重量部及び5重量部を下回る試料1−10では、充填剤の配合の有無にかかわらず、240時間以上で「合格」となることはなかった。しかし、硫化亜鉛、酸化亜鉛及びラジカル安定剤の全てを配合し、その含有量が、それぞれ、10重量部以上20重量部以下、5重量部以上10重量部以下及び5重量部以上10重量部以下である試料11−13では、充填剤を配合しているにもかかわらず、240時間で「合格」となった。このことから、ポリオレフィン系樹脂を含有する100重量部のポリマーに対して、10重量部以上20重量部以下の硫化亜鉛と、5重量部以上10重量部以下の酸化亜鉛と、5重量部以上10重量部以下のラジカル安定剤と、を配合することにより、炭酸カルシウムからなる充填剤の配合による協調性の低下が相殺され、充填剤を配合しない場合よりも協調性が向上し、求められる協調性が実現可能であることがわかる。
【0030】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例がこの発明の範囲から外れることなく想定されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含有する100重量部のポリマーに、10重量部以上20重量部以下の炭酸カルシウムからなる充填材、10重量部以上20重量部以下の硫化亜鉛、5重量部以上10重量部以下の酸化亜鉛及び5重量部以上10重量部以下のラジカル安定剤を配合した絶縁組成物。
【請求項2】
前記ラジカル安定剤は、アミノトリアゾール化合物及びヒドラジド化合物からなる群より選択される1種類以上である請求項1の絶縁組成物。

【公開番号】特開2010−254886(P2010−254886A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108966(P2009−108966)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】