説明

絶縁膜および絶縁膜の形成方法

(1)少なくともフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン及び/又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンを含むシリコンレジンから成ることを特徴とする絶縁膜。
(2)230℃以下の温度で任意の粘度に調整したペースト状の前駆体の後、200℃〜500℃の温度で熱硬化することを特徴とする(1)記載の絶縁膜。
(3)前記前駆体と前記絶縁膜は、少なくとも一回、前記絶縁膜が硬化する温度以下で真空加熱処理を行うことを特徴とする(1)記載の絶縁膜。
(4)少なくともフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン及び/又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンを含むシリコンレジンを230℃以下の温度で数cpsから数万cpsの間で任意の粘度に調整する工程および200℃〜500℃の温度で熱硬化させる工程を実施することを特徴とする絶縁膜の形成方法。
(5)前記絶縁膜を形成する工程において、少なくとも一回は、前記絶縁膜が硬化する温度以下で真空加熱処理を行うことを特徴とする絶縁膜の形成方法。
(6)真空加熱処理は、230℃以下の温度で行うことを特徴とする(4)又は(5)記載の絶縁膜の形成方法。
以上により、層間割れや,ひび割れ,反り、剥離等が無く、絶縁性が良好で所望の膜厚を有する絶縁膜を提供すると共に基板上に、所望の膜厚を有しかつ、高抵抗で絶縁性良好な絶縁膜および絶縁膜を容易に形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にガラス部材、その上に配置された配線、金属およびセラミックス等をコーティングすることができる絶縁膜および絶縁膜の形成方法に関するものである。
【技術背景】
【0002】
従来、絶縁膜として、例えば、鉛を含有したガラスペーストを基板等に塗布し、600℃前後で焼成し、膜厚20〜50μm、比誘電率10〜30のものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。また、スパッタリング法、プラズマCVD法及びイオンプレーティング法等の真空成膜法で作製した膜厚1μm程度のSiO膜等も知られている(例えば、特許文献2、特許文献3及び特許文献4等)。そしてまた、ゾルゲル液を使用したものもある(例えば、特許文献5参照)。これら市販のゾルゲル液としては、例えば、商品名:アトロン 日本曹達株式会社製品、商品名:トスガード 東芝シリコーン株式会社製品等が実用に供されている。更に、テトラエトキシラン等のシラン化合物をエタノール等の有機溶媒に溶解した調整品等をディップ法、スプレー法およびスピンコーティング法等の手法により基板上に塗布し、300〜550℃で焼成した膜厚が厚いもので数μm程度、比誘電率3〜15の絶縁膜が知られている。(例えば、特許文献6、特許文献7参照)
【特許文献1】特開平10−242623号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平10−135206号公報(第2頁〜第5頁)
【特許文献3】特開平11−26449号公報(第2頁〜第6頁)
【特許文献4】特開平10−148824号公報(第2頁〜第6頁)
【特許文献5】特開2000−243920号公報(第2頁〜第3頁)
【特許文献6】特開平9−51035号公報(第2頁〜第3頁)
【特許文献7】特開平11−251311号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の絶縁膜およびその形成方法においては、それぞれ以下のような問題を有している。
すなわち、印刷法では、ガラスペーストを用いるため、膜厚が数十μm以上の厚いものしか形成できず、またPbOなどの成分が多いために比誘電率が大きくなり、絶縁特性が悪くなるという欠陥があった。
【0004】
また、プラズマCVD法では、高真空を必要とするため、基板の大面積化が難しく、スループットが良くないという欠点があった。
また、ゾルゲル法では、厚膜化が必要な場合でも、数nmからせいぜい数μmまでしか厚くできないという欠点があった。
【0005】
さらに、従来の成形方法では基板と成形しようとする絶縁層とが異種材料である場合、熱膨張率の違いから、基板と絶縁層との間に応力が発生し、冷却後にひび割れ,剥離、反り等が生じるという欠陥があった。
【0006】
本発明の目的は、基板上に、所望の膜厚を有し、かつ、高抵抗で絶縁性良好な絶縁膜および絶縁膜を容易に形成できる方法を提供するものである。また、本発明の目的は、層間割れ、ひび割れ、反り、剥離等を少なくし、良好な絶縁性と所望の膜厚とを有する絶縁膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記した問題点を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、主に金属基板またはガラス部材、その上に配置された配線、金属,セラミックス等をコーティングすることができる絶縁膜として少なくともフェニル基を有するシロキサン化合物を用いることにより、熱処理温度200〜500℃の焼成工程で300℃以上の耐熱性皮膜であって、かつ、絶縁性に優れた絶縁膜を得られることを発見し本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
(1)少なくともフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン及び/又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンを含むシリコンレジンから成ることを特徴とする絶縁膜である。
(2)230℃以下の温度で任意の粘度に調整したペースト状の前駆体の後、200℃〜500℃の温度で熱硬化することを特徴とする請求項1記載の絶縁膜である。
(3)前記前駆体と前記絶縁膜は、少なくとも一回、前記絶縁膜が硬化する温度以下で真空加熱処理を行うことを特徴とする請求項1記載の絶縁膜である。
(4)少なくともフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン及び/又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンを含むシリコンレジンを230℃以下の温度で任意の粘度に調整する工程および200℃〜500℃の温度で熱硬化させる工程を実施することを特徴とする絶縁膜の形成方法である。粘度としては、数cpsから数万cpsの間で、適宜選択することが可能である。
(5)前記絶縁膜を形成する工程において、少なくとも一回は、前記絶縁膜が硬化する温度以下で真空加熱処理を行うことを特徴とする絶縁膜の形成方法である。
(6)真空加熱処理は、230℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項4乃至請求項5記載の絶縁膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0008】
上記の説明から明らかなように、本発明によれば、少なくともフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン及び/又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンを含むシリコンレジンから成る絶縁材料を用いることにより、1μm以下〜数mm程度の所望の膜厚を有し、高抵抗で絶縁性の良好な絶縁膜を、各種基板に容易に形成できる。
また、本発明によれば、230℃以下の温度で任意の粘度に調整してペースト状にした後、200℃〜500℃の温度で熱硬化され、少なくとも一回は、前記絶縁膜が硬化する温度以下で真空加熱処理を行った後、絶縁材料を塗布することによって、ひび割れ、反り、層間剥離などが生じない絶縁膜を作成することができる。
本発明の絶縁膜はPbOなどの鉛を含有しないため環境保護上有用である。さらに本発明によれば、温度と時間で粘度を適宜選択・設定することによって、絶縁性に必要な均一性を有した絶縁膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いる基板としては、例えば、銅、SUS等の金属、珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス基板、アルミナ等のセラミックス基板およびシリコーン等から適宜選択される。
【0010】
本発明で使用する絶縁膜は、原料として特にフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン及び/又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンおよびシリコンレジンを用いる。これを原液とし、そのまま用いるか或いはトルエン、キシレン等の有機溶媒に溶解し、使用する膜厚およびコーティング方法に合わせて粘度を調整し前駆体を作成する。数μm以下の膜厚の場合は、数cps〜100cpsの状態でスプレー法やディッピング法を用いて塗工する。また、数μm以上の膜厚の場合は、ディスペンサーやスクリーン印刷等の公知のコーティング方法を用いる。上記の方法で塗工した塗膜は更に60℃〜150℃で2〜5時間加熱し、溶媒を蒸発させながら縮合反応させ、さらに真空チャンバー中で真空排気しながら100Pa〜1Pa範囲の減圧下で脱泡処理し、反応生成物の粘度を100cps〜10000cpsに調整し、ペースト状の前駆体とする。
粘度調整した前駆体をディスペンサー塗布、ディッピング、スプレー及びスクリーン印刷等の公知の塗工方法により基板にコーティングし、大気中で300℃に加熱し、硬化させて絶縁膜を形成する。上記脱泡処理の際の真空度は、数Pa程度が好ましいが、減圧であれば数千Paでも10〜3Pa以下の高真空下でもよい。また、温度は安全性の面から120℃前後が好ましいが、絶縁膜が硬化しない温度であればよい。
【実施例】
【0011】
以下、好ましい実施例を挙げて、本発明を更に詳述するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される範囲内での各要素の置換や設計変更、工程順の変更がなされたものをも包含する。
[実施例1]
【0012】
フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン1gとシリコンレジン59gをトルエン40gに溶解した。この液を銅板にディッピングで塗布し、焼成炉に入れ大気下300℃で焼成し、0.8μm厚の絶縁膜を得た。
[実施例2]
【0013】
フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン1gとシリコンレジン59gをトルエン40gに溶解し、100℃に加熱しながらトルエンを蒸発させ、約2時間縮合反応させる。
次いで、この反応生成物を真空チャンバー中のホットプレート上に移し、ホットプレートを加熱しながら真空排気を行う。真空チャンバーの真空度が100Pa程度、ホットプレートの温度140℃で10分間、脱泡処理を行う。次いで、ホットプレートを冷却しながら雰囲気を大気に戻し、粘度数百cpsのペースト状前駆体にした。このペースト状の前駆体をSUS板上にスクリーン印刷により塗布する。次いで、このSUS板を焼成炉に入れ大気中で300℃で焼成し、厚さ20μmの絶縁膜を得た。
[実施例3]
【0014】
フェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン0.1gと2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン0.1g及びシリコンレジン59.8gをトルエン40gに溶解した。この液を銅板にスプレー法で塗布し、焼成炉に入れて大気中350℃で焼成し、厚さ0.7μmの絶縁膜を得た。
[実施例4]
【0015】
フェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン0.1gと2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン0.1g及びシリコンレジン59.8gをトルエン40gに溶解し、120℃に加熱しながらトルエンを蒸発させ、約3時間縮合反応させ前駆体を作成する。次いで、この反応生成物である前駆体を真空チャンバー中のホットプレート上に移し、ホットプレートを加熱しながら真空排気を行う。真空チャンバーの真空度が1Pa程度、ホットプレートの温度140℃で60分間、脱泡処理を行う。次いで、ホットプレートを冷却しながら雰囲気を大気に戻し、粘度数百cpsのペースト状前駆体を得た。このペースト状前駆体を100℃に再加熱し、ディスペンサーに入れ、銅板のうえに数mm幅、長さ約100mm、厚さ100μmにした後、焼成炉に入れ大気中で350℃で焼成し厚さ100μmのひび割れのない線状の絶縁膜を得た。
[実施例5]
【0016】
フェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン0.1gと2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン0.1g及びシリコンレジン59.8gをトルエン40gに溶解し、120℃に加熱しながらトルエンを蒸発させ、約3時間縮合反応させ前駆体を作成する。次いで、この反応生成物である前駆体を真空チャンバー中のホットプレート上に移し、ホットプレートを加熱しながら真空排気を行う。真空チャンバーの真空度が1Pa程度、ホットプレートの温度140℃で60分間、脱泡処理を行う。次いで、ホットプレートを冷却しながら雰囲気を大気に戻し、粘度数百cpsのペースト状前駆体を得た。 このペースト状前駆体をテフロンシート(テフロンは登録商標、以下同様)上にべた印刷し、その印刷面にテフロンシートをのせ、230℃の電気炉に入れ、印刷面をフラットに成形した。次いで、上面と下面のテフロンシートを剥離し、平滑に成形された印刷シートを更に350℃で熱硬化させ厚さ1mmのシート状絶縁膜を成形した。
【比較例1】
【0017】
A4版サイズのソーダ石灰ガラスをディップコーティング(引き上げ速度500mm/分)により、ゾルゲル溶液(商品名:アトロン 日本曹達(株)製品)を焼成後の膜厚が5μmとなるようアルミナ基板へ塗布し、190℃で1時間焼成した。
得られた膜を観察すると、膜厚は約5μmであった。また、膜質が柔らかく、密着力に劣っていた。そのため、比誘電率は測定不能であった。
【比較例2】
【0018】
A4版サイズのソーダ石灰ガラスに、ガラスペースト(商品名:ガラスペースト7723B ノリタケカンパニーレミテッド社製品)をスクリーン印刷によりアルミナ基板へ塗布し、次いで500℃で1時間焼成した。この絶縁膜を観察すると、膜厚は約21μmで、表面に凹凸やポアが非常に多く観察された。また,比誘電率は17であった。
【比較例3】
【0019】
A4版サイズのソーダ石灰ガラスをディップコーティング(引き上げ速度500mm/分)の手法を用いて、ゾルゲル溶液(商品名:アトロン 日本曹達(株)製品)を焼成後の膜厚が5μmとなるようアルミナ基板へ塗布し、140℃で15分間仮焼成した。続いて膜厚を厚くするためにもう一度同じゾルゲルを塗布し、15分間仮焼成した。続いて、膜厚を厚くするためにもう一度同じゾルゲル液を塗布し、15分間仮焼成した後、450℃で一時間本焼成した。焼成後の膜表面を観察したところ、膜厚はほぼ10μmであり、また、外周部では膜は完全にはがれており、全面では第1層および第2層の膜ともに細かいひび割れが観察された。また第1層と第2層の膜は接着不良で所々に層間剥離が観察された。そのため、比誘電率は測定不能であった。
【0020】
上記の実施例1〜5および比較例1〜3の評価結果を表1にまとめた。
膜厚および膜質
電子顕微鏡(商品名:FE−SEM S−4000)を用いて観察した。
膜厚自由度
絶縁層を形成するプロセス方法に対応し、粘性などの要素を変化させることによって、広範囲に膜厚を制御できる場合を○、制御できる範囲が狭い場合を×とした。
絶縁特性
成膜使用とする基板に予め10mm幅にアルミを蒸着しておき、該基板に絶縁膜を形成後、下配線に直行するように上配線としてアルミを蒸着した。LFインピーダンス・アナライザー(ヒューレット・パッカード社製品 HP4192)を用いてインピーダンスを求め、計算によって容量、誘電率等を求めた。なお、実施例のうち、パターンニングを行ったものについては、同様の組成、同様の膜厚を持ったべた塗の膜について評価し、カッコ内に示した。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンのいずれか一方を含むシリコンレジンから成ることを特徴とする絶縁膜。
【請求項2】
230℃以下の温度で任意の粘度に調整したペースト状の前駆体を形成した後に、200℃〜500℃の温度で熱硬化されたことを特徴とする請求項1記載の絶縁膜。
【請求項3】
前記前駆体と前記絶縁膜とは、少なくとも一回、前記絶縁膜が硬化する温度以下で真空加熱処理が行われていることを特徴とする請求項1記載の絶縁膜。
【請求項4】
少なくともフェニルへプタメチルシクロテトラシロキサン又は2,6−シス−ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサンのいずれか一方を含むシリコンレジンを形成する工程と、
該シリコンレジンを230℃以下の温度で数cpsから数万cpsの間で任意の粘度に調整する工程と、
200℃〜500℃の温度で熱硬化させる工程と
を有することを特徴とする絶縁膜の形成方法。
【請求項5】
前記絶縁膜を形成する工程において、少なくとも一回は、前記絶縁膜が硬化する温度以下で真空加熱処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項6】
前記真空加熱処理は、230℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項5に記載の絶縁膜の形成方法。

【国際公開番号】WO2005/069313
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517000(P2005−517000)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000007
【国際出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(500357552)株式会社エス・エフ・シー (20)
【Fターム(参考)】