説明

絶縁膜の製造方法

【課題】質量密度の高い絶縁膜の製造方法を提案すること。
【解決手段】絶縁膜の製造方法は、基板の上に絶縁膜を形成するステップと、その絶縁膜を処理するステップとを備えている。絶縁膜は、SiとOとを含んでおり、たとえばSiO2膜である。第2のステップでは、絶縁膜の温度を551℃以上574℃以下として、活性状態の希ガスと活性状態の酸素とを絶縁膜に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiおよびOを含む絶縁膜(以下では、この絶縁膜を単に「絶縁膜」と記すことがある)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、ゲート絶縁膜の絶縁特性を維持または向上させながらその薄膜化を図ることにより、集積度の向上または性能の向上を実現している。ゲート絶縁膜の製造方法としては、従来、Si基板を酸化することによりSi基板の上に絶縁膜を形成する方法が用いられていたが、昨今では、後述の理由から基板の上に絶縁膜を堆積させる方法が採用されている。
【0003】
なお、上記「堆積」には、「塗布」および「印刷」だけでなく、SiとOとの両方の元素を供給して基板の上に絶縁膜を形成する全ての方法が含まれている。ここでは、堆積法の一例として化学気相成長(Chemical Vapor Deposition、以下では「CVD」と記すことがある)法を挙げて説明する。
【0004】
また、「絶縁膜」には、ゲート絶縁膜の代表的な材料であるSiO2膜だけでなく、SiOx膜(0<x<2)も含まれており、さらには第三元素が添加されたSiO2膜もしくはSiOx膜(第三元素はたとえばN、C、Hf、Al、La、Sr、ZrまたはPrである)も含まれている。ここでは、絶縁膜の一例としてSiO2膜を挙げて説明する。
【0005】
Si基板を酸化してSiO2膜を形成する従来の方法としては、主に熱酸化とラジカル酸化とが知られている。どちらの方法で形成されたSiO2膜も、CVD法により形成されたSiO2膜(以下では「CVD−SiO2膜」と記すことがある)に比べて絶縁特性に優れている。その理由は、酸化により形成されたSiO2膜では、ダングリングボンドなどの欠陥(以下では「欠陥」と記すことがある)が少なく、かつ質量密度が高いからである。
【0006】
しかし、熱酸化では、約700℃以上の高温処理が必要である。また、Si基板とは異なる材料からなる基板の上にSiO2膜を形成することができない。たとえば、多結晶Si基板を酸化してSiO2膜を形成すると、酸化レートが結晶粒の面方位に依存するために、SiO2膜とSi基板との界面の平坦性が大幅に低下することがある。また、アモルファスSi基板を酸化してSiO2膜を形成すると、熱酸化時の熱によりアモルファスSiが多結晶化するため、上記界面の平坦性が大幅に低下することがある。それだけでなく、Hfなどの第三元素(M)の添加が難しいため、第三元素が添加されたSiO2膜の形成が難しい。
【0007】
ラジカル酸化では、低温で、単結晶Si基板、多結晶Si基板、およびアモルファスSi基板のいずれの基板を酸化してもSiO2膜を形成できる。しかし、Hfなどの第三元素(M)の添加が難しいため、第三元素が添加されたSiO2膜の形成が難しい。また、比較的厚い膜(具体的には約10nm以上の膜)を形成する場合には、絶縁膜の形成に非常に長い時間を要する。そのため、ラジカル酸化による絶縁膜の形成は、比較的薄い膜を形成する場合に用いられる。
【0008】
これらに対して、CVD法では、室温を含む低温でSiO2膜を形成することができ、また、基板の材料に限定されることなくSiO2膜を形成することができる。さらには、CVD法では、基板の表面の上に供給するガスの組成を変更すれば、Hfなどの第三元素が添加されたSiO2膜を比較的容易に形成することができる。その上、比較的短時間で、膜厚が1nm以下である薄膜だけでなく膜厚が1000nmを超える分厚い膜も形成することができる。しかし、CVD−SiO2膜には、欠陥が多く存在する。そのため、CVD−SiO2膜の質量密度は低く、よって、熱酸化またはラジカル酸化により形成されたSiO2膜よりも絶縁特性に劣るという不具合がある。
【0009】
ところで、高速処理が必要なロジックデバイスなどでは、HfなどのHigh−kと呼ばれる高誘電率材料が添加された絶縁膜をゲート絶縁膜として用いることが望まれている。よって、熱酸化法によりゲート絶縁膜を形成できず、CVD法によりゲート絶縁膜を形成している。
【0010】
また、液晶ディスプレイおよびイメージセンサなどでは、ガラス基板、プラスチック基板または有機フィルムなどの透光性基板の上にゲート絶縁膜が形成される。ここで、この透光性基板の耐熱温度は700℃よりも低い。そのため、熱酸化法によりゲート絶縁膜を形成できない。
【0011】
また、多結晶Si薄膜トランジスタ(poly-Si thin film transistor(「PS−TFT」と記す)では、多結晶Si基板の上にSiO2膜を形成するために、熱酸化法によりSiO2膜を形成することはできない。それだけでなく、膜厚が10nm以上である比較的厚いSiO2膜を形成するため、ラジカル酸化法によりSiO2膜を形成すると多結晶Si薄膜トランジスタの量産化が難しい。そのため、PS−TFTでは、CVD法によりゲート絶縁膜を形成している。
【0012】
また、SiCパワーデバイスでは、熱酸化法によりSiO2膜を形成すると、SiO2膜とSi基板との界面にCが残留する恐れがあり、そのため、キャリア移動度の低下または絶縁膜の絶縁特性の劣化を招くことがある。よって、CVD法によりSiO2膜を形成することが検討されている。
【0013】
以上の理由から、CVD法などの堆積法による絶縁膜の形成が望まれており、そのため堆積法により形成された絶縁膜の絶縁特性の改善が強く要求されている。たとえば特許文献1では、基板の上に形成された絶縁膜を原子状酸素に曝す方法が提案されている。この文献には、原子状酸素がウィークボンドまたはダングリングボンドに効率良く達してシリコン−酸素の新たな結合をつくると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第01/069665号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に記載の技術では、SiO2膜中にOを供給することによりSiO2膜中の欠陥を低減させている。しかし、550℃以下で処理されるこの技術を用いた場合、Si原子およびO原子の熱運動が充分でないため、SiO2膜などの絶縁膜の質量密度を増加させることは難しい。
【0016】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、質量密度が高く、かつ欠陥の少ない絶縁膜の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る絶縁膜の製造方法は、基板の上にSiおよびOを含む絶縁膜を形成する第1のステップと、該絶縁膜を処理する第2のステップとを備え、該第2のステップは、該絶縁膜の温度を551℃以上574℃以下として活性状態の希ガスと活性状態の酸素とを該絶縁膜に供給するものである。
【0018】
上記第2のステップは、上記活性状態の希ガスと上記活性状態の酸素とを交互に上記絶縁膜に供給するものであることが好ましい。
【0019】
上記活性状態の希ガスは、1価の希ガス原子正イオン、2価の希ガス原子正イオン、および励起状態の希ガス原子のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
上記活性状態の希ガスは、Heガス、Neガス、Arガス、Krガス、およびXeガスのうちの少なくとも1つのガスを用いて生成されることが好ましい。
【0021】
上記活性状態の酸素は、原子状酸素、酸素ラジカル、1価の酸素原子正イオン、2価の酸素原子正イオン、励起状態の酸素原子、1価の酸素分子イオン、2価の酸素分子イオン、一重項酸素分子、励起状態の酸素分子、およびオゾンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0022】
上記活性状態の酸素は、第1のガスおよび第2のガスの少なくとも一方のガスを用いて生成されることが好ましく、該第1のガスは、酸素ガス、オゾンガス、およびH2Oガスのうちの少なくとも1つであれば良く、該第2のガスは、NOガスおよびN2Oガスの少なくとも1つであれば良い。
【0023】
上記活性状態の希ガスは、マイクロ波照射により生じたプラズマ中において希ガスと電子との衝突により生成されることが好ましく、上記活性状態の酸素は、上記プラズマ中において酸素を含むガスと活性状態の希ガスもしくは電子との衝突により生成されることが好ましい。
【0024】
上記基板は、無機材料からなるフィルム、有機材料からなるフィルム、またはガラス板であることが好ましく、該無機材料は、単結晶Si、多結晶Si、微結晶Si、アモルファスSi、SiC、サファイア、Al23、セラミック、GaAs、およびInPのうちの少なくとも1つであれば良く、該有機材料は、プラスチックであれば良い。
【0025】
上記絶縁膜は、SiO2膜、またはSiOx膜(1.8<x<2)、またはSiOst膜(MはN、C、H、Cl、Hf、Al、La、SrおよびPrの少なくとも1つであり、1.8<s≦2.4であり、0<t<0.2である)であれば良い。
【0026】
なお、本明細書では、原則として、基板の上に絶縁膜を設ける動作を説明するときには「形成する」を用い、基板の上に設けられた絶縁膜に対して一定の処理を施して質量密度の高い絶縁膜を得る動作を説明するときには「製造する」を用いている。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、質量密度が高く、かつ欠陥の少ない絶縁膜を製造することができるので、絶縁膜の絶縁特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の絶縁膜の製造方法を工程順に示す絶縁膜の断面図である。
【図2】SiO2の相図である。
【図3】SiO2の質量密度とSi−O−Si結合角との関係を示すグラフである。
【図4】融剤の不存在下において溶融シリカを冷却したときの質量密度と温度との関係を示すグラフである。
【図5】融剤の存在下において溶融シリカを徐冷したときの質量密度と温度との関係を示すグラフである。
【図6】SiO2膜に対してプラズマ照射および加熱処理を20分間行なったときの質量密度と温度との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係る絶縁膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態において絶縁膜に所定の処理を施すための装置の模式断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る絶縁膜の製造方法の概念図である。
【図10】本発明の別の実施形態に係る絶縁膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図11】本発明の別の実施形態において絶縁膜に所定の処理を施すための装置の模式断面図である。
【図12】本発明の別の実施形態に係る絶縁膜の製造方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る絶縁膜の製造方法を説明する。図1は、本発明の絶縁膜の製造方法を工程順に示す絶縁膜の断面図である。
【0030】
<絶縁膜の製造方法>
本発明に係る絶縁膜の製造方法は、基板1の上にSiとOとを含む絶縁膜2を形成する第1のステップと、絶縁膜2を処理する第2のステップとを備えている。
【0031】
<第1のステップ>
第1のステップでは、図1(a)に示すように、基板1の上に、SiとOとを含む絶縁膜2を形成する。
【0032】
本発明に係る基板1は、たとえば、無機材料からなるフィルムであっても良いし、プラスチックなどの有機材料からなるフィルムであっても良いし、ガラス板であっても良い。無機材料としては、単結晶Si、多結晶Si、微結晶Si、アモルファスSi、SiC、Al23、セラミック、GaAs、およびInPの少なくとも1つを用いることができる。なお、Al23としては、サファイア(α−Al23)を用いることが好ましい。
【0033】
本発明に係る絶縁膜2は、SiO2膜であっても良いし、SiOx膜(ここで、1.8<x<2である。以下ではこの膜を単に「SiOx膜」と記すことがある。)であっても良いし、SiOst膜(MはN、C、H、Cl、Hf、Al、La、SrおよびPrの少なくとも1つであり、1.8<s≦2.4であり、0<t<0.2である。以下ではこの膜を単に「SiOM膜」と記すことがある。)であっても良い。
【0034】
絶縁膜2を基板1の上に形成する方法は、堆積法であることが好ましく、たとえばCVD法、ローラを用いた塗布方法または印刷方法などである。これにより、基板1の構成に限定されることなく絶縁膜2を形成することができるので、上述のように単結晶Si以外の材料からなる基板を基板1として用いることができる。
【0035】
また、堆積法により絶縁膜2を形成するので、絶縁膜2としてSiO2膜およびSiOx膜だけでなくSiOM膜も形成することができる。
【0036】
さらに、堆積法により絶縁膜2を形成するので、膜厚が比較的大きな絶縁膜2を短時間で形成できる。よって、質量密度の高い絶縁膜を備えた半導体装置などの量産を実現可能である。
【0037】
<第2のステップ>
第2のステップでは、図1(b)に示すように、絶縁膜2の温度を551℃以上573℃以下として、活性状態の希ガス(Xactive)および活性状態の酸素(Oactive)を絶縁膜2に照射する。
【0038】
ここで、活性状態の希ガスは、1価の希ガス原子正イオン、2価の希ガス原子正イオン、および励起状態の希ガス原子のうちの少なくとも1つであれば良い。このような活性状態の希ガスは、Heガス、Neガス、Arガス、Krガス、およびXeガスのうちの少なくとも1つのガスを用いて生成されることが好ましく、マイクロ波照射により生じたプラズマ中において希ガスと電子との衝突により生成されたものであればさらに好ましい。マイクロ波を用いてプラズマを生成すると、生成されるプラズマの電子温度を低く抑えることができるので、プラズマによる基板1へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0039】
また、活性状態の酸素は、原子状酸素、酸素ラジカル、1価の酸素原子正イオン、2価の酸素原子正イオン、励起状態の酸素原子、1価の酸素分子イオン、2価の酸素分子イオン、一重項酸素分子、励起状態の酸素分子、およびオゾンのうちの少なくとも1つであれば良い。このような活性状態の酸素は、第1のガスおよび第2のガスの少なくとも一方のガスを用いて生成されることが好ましく、第1のガスは、酸素ガス、オゾンガス、およびH2Oガスのうちの少なくとも1つであれば良く、第2のガスは、NOガスおよびN2Oガスの少なくとも1つであれば良い。さらに、このような活性状態の酸素は、マイクロ波照射により生じたプラズマ中において第1のガスおよび第2のガスの少なくとも1つのガスと活性状態の希ガスもしくは電子との衝突により生成されたものであればさらに好ましい。これにより、プラズマによる基板1へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0040】
活性状態の希ガスおよび活性状態の酸素は、非常に高いエネルギーを有している。よって、活性状態の希ガスおよび活性状態の酸素が絶縁膜2に照射されると、絶縁膜2中のSiとOとの結合が切断される。以下では、このようなSiおよびOをそれぞれ「未結合Si」および「未結合O」と記すことがある。また、絶縁膜2の温度が551℃以上573℃以下であるので、未結合Siおよび未結合Oは熱エネルギーを得て熱運動する(熱による擾乱)。そして、後述するように、絶縁膜2の温度を573℃以下にすれば、処理後の絶縁膜3(図1(c)参照)は大気圧下において質量密度が最も高い結晶形に近づく。ここで、「質量密度が最も高い結晶形に近づく」とは、絶縁膜3におけるSi−O−Si結合角の大きさが質量密度の最も高い結晶形におけるSi−O−Si結合角の大きさに近づくことである。これにより、絶縁特性に優れた絶縁膜(処理後の絶縁膜3)を製造することができる。
【0041】
それだけでなく、活性状態の酸素が絶縁膜2に照射されると、この酸素は絶縁膜2中の未結合Siを酸化する。よって、絶縁膜2中の欠陥が低減されるので、処理後の絶縁膜3の質量密度がさらに高くなる。
【0042】
第2のステップでは、活性状態の希ガスの照射と活性状態の酸素の照射とを同時に行なっても良いし、活性状態の希ガスの照射と活性状態の酸素の照射とを交互に行なっても良い。しかし、次に示す理由から、同時に照射するよりも交互に照射した方が好ましい。活性状態の希ガスには、SiとOとの結合を切断する能力がある。SiO2には、熱擾乱により自ら高密度な構造に変化しようとする性質がある。また、活性状態の酸素には、SiとSiとの間に入ることによりSi−O−Si結合を形成する能力がある。ここで、活性状態の酸素によるSi−O−Si結合の形成は、絶縁膜の高密度化を抑制する方向で作用する。そのため、活性状態の希ガスによるSiとOとの結合の切断と熱擾乱による絶縁膜の高密度化とを充分起こしたあとで、Siダングリングボンドなどの欠陥を活性状態の酸素により酸化してSi−O−Si結合を形成して、絶縁膜中の欠陥を低減することが好ましい。すなわち、SiとOとの結合の切断、絶縁膜の高密度化、およびSi−O−Si結合の形成がこの順番に行なわれれば、効率良く絶縁膜を高密度化できる。このことから、交互に照射した方が、絶縁膜2の高密度化と絶縁膜2中の欠陥の低減とを図り易く、よって、質量密度が高く、かつ欠陥の少ない絶縁膜3が得られる。
【0043】
それだけでなく、交互に照射した方が、同時に照射した場合に比べて、プラズマの電子温度を低く保つことが容易になる。プラズマ中には、加速され続けて運動エネルギーが極めて大きくなった電子が僅かに存在する。この電子が絶縁膜の下地(つまり基板)にまで到達すると、その下地に欠陥を生成する場合がある。絶縁膜の下地がトランジスタのチャネルとなるデバイスなどのように絶縁膜の下地に欠陥が生成されることが好ましくない場合、このような極めて運動エネルギーが高くなるまで加速され続けた電子は絶縁膜の下地へ到達しないほうが好ましい。一般に、希ガスだけで生成されたプラズマよりも酸素だけで生成されたプラズマの方が電子温度が低く、希ガスプラズマ中で運動エネルギーが極めて大きくなった電子は酸素プラズマ中で減速される。これらのことから、交互に照射した方が、極めて高い運動エネルギーまで加速された電子が絶縁膜の下地へ到達しにくくなるという長所がある。
【0044】
ここで、活性状態の希ガスの照射と活性状態の酸素の照射とを切り替えるタイミングであるが、希ガスまたは酸素を含むガスの供給量、基板1上に形成された絶縁膜2の質量密度、または、基板1上に形成された絶縁膜2の組成などにも依存するため一概には言えないが、たとえば5〜30秒ごとに切り替えれば良く、たとえば10秒ごとに切り替えれば良い。
【0045】
なお、絶縁膜の質量密度は、たとえば放射光を利用したX線反射率法などにしたがって測定される。また、絶縁膜中の欠陥量は、たとえばX線光電子分光時間依存測定などにしたがって調べることができる。
【0046】
以下では、絶縁膜の一例としてSiO2膜を挙げ、第2のステップを行うことによりSiO2膜の質量密度が高くなる理由を示す。
【0047】
図2は、SiO2の相図である。図3は、SiO2の質量密度とSi−O−Si結合角との関係を示すグラフである。図4は、融剤の不存在下において溶融シリカを冷却したときの質量密度と温度との関係を示すグラフである。図5は、融剤の存在下において溶融シリカを徐冷したときの質量密度と温度との関係を示すグラフである。図6は、SiO2膜に対してプラズマ照射および加熱処理を20分間施したときの質量密度と温度との関係を示すグラフである。ここで、融剤とは、SiとOとの結合を解離させるための材料であり、本発明では活性状態の希ガスおよび活性状態の酸素である。
【0048】
図2、図3および以下の表1から、SiO2膜の温度および圧力を制御すれば、SiO2膜の結晶形を制御でき、よって、SiO2膜の質量密度を制御できることが分かる。
【0049】
【表1】

【0050】
ところで、天然のSiO2は、地中に存在しており、マグマ中の溶融SiO2が冷えるときに熱水が融剤として作用して形成されたものである。融剤が存在していない状態で溶融SiO2(Melt)を冷却すると、SiとOとの結合が解離されることなくSiO2が冷却される。そのため、溶融SiO2は、図4に示すように、結晶に相転移を起こすことなく冷却されてGlassすなわちアモルファスSiO2となる。表1および図3に示すように、SiO2はSi−O−Si結合角を小さくすることにより緻密なネットワーク構造を形成し、密度の高い結晶形に転移する。MeltからGlassに転移する際、Si−O−Si結合角は、2つのSiがOを挟んで互いに反対側にある状態である180°から変化しない。よって、融剤が存在していない状態では、SiO2の質量密度を高めることができない。
【0051】
一方、融剤が存在していれば、溶融SiO2(Melt)中のSiとOとの結合が切断される。よって、溶融SiO2は、図5に示すように、相転移しながら冷却される。
【0052】
たとえば融剤の存在下において温度が1470℃よりも高く1713℃以下となるまでSiO2を冷却すると、融剤の作用によって生じた未結合Siと未結合Oとが熱運動してβ-Cristobalite結晶を形成する。このとき、Si−O−Si結合角は180°のままであり、SiO2の質量密度は変化せず、2.2g/cm3のままである。
【0053】
また、融剤の存在下において温度が867℃よりも高く1470℃以下となるまでSiO2を冷却すると、融剤の作用によって生じた未結合Siと未結合Oとが熱運動して、SiO2の結晶形はβ-Cristobaliteからβ-Tridymiteへ転移する。この転移においても、Si−O−Si結合角は180°のままであり、SiO2の質量密度は変化せず、2.2g/cm3のままである。
【0054】
また、融剤の存在下において温度が573℃よりも高く867℃以下となるまでSiO2を冷却すると、融剤の作用によって生じた未結合Siと未結合Oとが熱運動して、SiO2の結晶形はβ-Tridymiteからβ-Quartzへ転移する。この転移において、Si−O−Si結合角は180°から155°に低下し、これによりSiO2の質量密度は、2.2g/cm3から2.5g/cm3まで急激に増加する。
【0055】
また、融剤の存在下において温度が573℃以下となるまでSiO2を冷却すると、未結合Siと未結合Oとが熱運動して、SiO2の結晶形はβ-Quartzからα-Quartzへ転移する。この転移では、Si−O−Si結合角は155°から146.5°に低下し、これによりSiO2の質量密度は2.7g/cm3に急激に増加する。したがって、所定の時間が経過してから融剤の供給を停止して室温まで冷却すれば、質量密度が2.7g/cm3である絶縁膜が製造される。本願において絶縁膜の加熱温度の上限値を573℃とした理由はこの点にある。なお、SiO2の結晶形としては、上述の結晶形以外にCoesiteおよびStishoviteなどが知られているが、図2および表1に示すように、大気圧下において質量密度が最も大きな結晶形はα-Quartzである。
【0056】
以上説明した理由から、SiO2膜の温度を573℃以下にして且つそのSiO2膜に活性状態の希ガスおよび活性状態の酸素を照射すれば、質量密度が2.7g/cm3であるSiO2膜が製造される。一般に、CVD−SiO2膜の質量密度は2.0〜2.15g/cm3程度であり、熱酸化により形成されたSiO2膜の質量密度は約2.24g/cm3である。よって、SiO2膜に対して上記処理を行なえば、そのSiO2膜の質量密度が増大する。
【0057】
ところで、実際の半導体デバイスの量産過程では、SiO2膜に対する処理時間を20分程度に抑えることが好ましい。処理時間がこのように短い場合、未結合Siと未結合Oとが激しく熱運動しなければ、SiO2膜の結晶形をα-Quartzとすることは難しい。実際、図6中の線51に示すように、処理時間を20分としたときには、SiO2膜の温度が573℃よりも低くなるにつれて処理後のSiO2膜の質量密度が低くなる。具体的には、SiO2膜の温度を551℃以上573℃以下としたときには、図6中の線52に示すように処理後のSiO2膜の質量密度は2.7g/cm3程度にまで上昇する。一方、SiO2膜の温度を400℃としたときには、図6中の線53に示すように処理後のSiO2膜の質量密度は2.5g/cm3程度にまでしか上昇しない。本願において絶縁膜の加熱温度の下限値を551℃とした理由はこの点にある。
【0058】
このようにSiO2膜の温度を551℃以上573℃以下にして且つそのSiO2膜に活性状態の希ガスおよび活性状態の酸素を照射すれば、製造時間の長期化を招くことなく質量密度が2.7g/cm3程度のSiO2膜が製造される。よって、絶縁特性に優れたSiO2膜を備えた半導体装置などの量産化を図ることができる。
【0059】
なお、図6中の線54は、融剤の不存在下においてCVD−SiO2膜に対して同様の処理を20分程度行なったときの結果を示しており、図4に示す挙動と同一の挙動を示している。
【0060】
以上、SiO2膜について説明したが、SiOx膜であってもSiOM膜であっても、同様に考えることができる。詳細には、SiO2膜とSiOx膜およびSiOM膜とでは、組成が異なるため、相図が異なると考えられる。しかし、SiOx膜は、SiO2膜よりも酸素の組成比が低い膜であり、SiOM膜は、SiO2膜に第三元素Mが添加された膜である。そのため、SiO2膜とSiOx膜およびSiOM膜とでは相図はそれほど大きく変わらない。特に、SiOx中のxが1.8<x<2であるときには、そのSiOxの相図を図1に示すSiO2の相図とみなすことができ、またSiOst中のMの組成比tが0<t<0.2であるときには、そのSiOMの相図を図1に示すSiO2の相図とみなすことができる。なお、α-Quartz相への相転移温度は、SiO2膜とSiOx膜およびSiOM膜とで異なる場合がある。つまり、「573℃」は、大気圧下において絶縁膜が最大質量密度を有する結晶相への転移温度であり、絶縁膜の組成に依存して若干上下する温度である。たとえば絶縁膜がSiOx(x=1.8)からなる場合には、この温度は573℃であるが、絶縁膜がSiOst(M=N、s=1.9、t=0.1)からなる場合には、この温度は574℃となる。
【0061】
以下では、絶縁膜としてSiO2膜を例に挙げて、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下に示す実施の形態に限定されない。
【0062】
<実施の形態1>
図7は、本発明の実施の形態1に係る絶縁膜の製造方法のフローチャートである。図8は、本実施の形態における絶縁膜の処理装置の概略断面図である。図9は、本実施の形態における絶縁膜の製造方法の概念図である。
【0063】
本実施の形態では、Si基板31の上にCVD−SiO2膜を製造する方法を例に挙げて絶縁膜の製造方法を具体的に説明する。なお、説明の都合上、処理装置100の構成を説明してから、CVD−SiO2膜の製造方法を説明する。
【0064】
<処理装置100の構成>
処理装置100は、処理室110を備えている。処理室110では、Si基板31の上に形成されたCVD−SiO2膜32に対して所定の処理が行なわれる。
【0065】
具体的には、処理室110には、ガス導入管120とガス排出管190とが連通されている。ガス導入管120は、希ガス(本実施形態ではArガス)と酸素を含むガス(本実施形態ではO2ガス)との混合ガスを処理室110内に供給する。ガス排出管190は、排気ポンプ195により処理室110内のガスを排出する。
【0066】
処理室110内には、試料ステージ130と整流板140とが設けられている。試料ステージ130は、載置される被処理基板(図9に示す被処理基板34)の温度を制御するための手段を備えていることが好ましく、その手段はたとえば誘導加熱(IH)手段または赤外線加熱手段であれば良い。整流板140は、試料ステージ130よりもガス導入管120側に設けられており、試料ステージ130の面内方向(図8の横方向)において互いに間隔をあけて配置されている。
【0067】
処理装置100は、さらに、マイクロ波発生器150、マイクロ波導波管160、マイクロ波アンテナ170および誘電体板180を備えている。誘電体板180は、整流板140の上に設けられており、マイクロ波を透過可能である。マイクロ波アンテナ170は誘電体板180の上に設けられており、マイクロ波発生器150はマイクロ波導波管160を介してマイクロ波アンテナ170に接続されている。
【0068】
<絶縁膜の第1の製造方法>
まず、ステップS101において、Si基板31の表面を洗浄する。この洗浄方法は特に限定されず、たとえばRCA洗浄である。
【0069】
次に、ステップS102において、たとえばCVD法によりSi基板31の上にSiO2膜32を形成する。これにより、図9に示す被処理基板34が得られる。
【0070】
続いて、ステップS103において、被処理基板34を処理装置100の処理室110内に導入して、処理室110内の試料ステージ130の上に設置する。
【0071】
続いて、ステップS104において、排気ポンプ195を運転させて、処理室110の内圧が1×10-3Pa以下になるまで処理室110内のガスを排出させる。
【0072】
続いて、ステップS105において、試料ステージ130が備える加熱手段により被処理基板34を551℃以上573℃以下に加熱する。これにより、SiO2膜32の温度が551℃以上573℃以下となる。
【0073】
続いて、ステップS106において、ArガスとO2ガスとの混合ガスをガス導入管120から処理室110内に供給する。これにより、この混合ガスが誘電体板180の下側に供給される。
【0074】
続いて、ステップS107において、ArガスおよびO2ガスの各供給量と排気ポンプ195による排気速度とを制御する。これにより、処理室110の内圧を10Pa以上1000Pa以下とする。
【0075】
続いて、ステップS108において、活性状態のArと活性状態の酸素とを発生させる。具体的には、まず、マイクロ波発生器150においてマイクロ波を発生させる。このマイクロ波は、マイクロ波導波管160内を通ってマイクロ波アンテナ170まで導かれて誘電体板180を透過して処理室110の上部に供給される。処理室110の上部に存在するArガスは、宇宙線や紫外線により極僅かであるがイオン化されており、処理室110の上部には、極僅かであるが自由電子も存在する。上記マイクロ波によりこの自由電子は加速され、高い運動エネルギーを持つようになり、Arのイオン化エネルギー(15.8eV)よりも大きなエネルギーを持つようになる。このような自由電子がArと衝突すると、このArはイオン化され、新たに自由電子が発生する。このようにマイクロ波による自由電子の加速と、自由電子とArとの衝突による新たな自由電子の発生とが繰り返されることにより、プラズマが発生する。このプラズマ中には、いろんな大きさの運動エネルギーを持った自由電子が存在するが、運動エネルギーがArの励起エネルギー(11.5eV)よりも大きくArのイオン化エネルギーよりも小さい自由電子も存在する。これらの自由電子とArとが衝突すると、Arは励起されて、励起状態のArが発生する。また、このプラズマ中に供給されたO2ガスは、自由電子、励起状態のAr、もしくはArイオンとの衝突により、励起、イオン化、もしくは解離され、これにより、原子状酸素、酸素ラジカル、酸素イオン、励起状態の酸素などの活性状態の酸素が発生する。
【0076】
続いて、ステップS109において、活性状態のArと活性状態の酸素とが被処理基板34の上面(つまりSiO2膜32の上面)に供給される。このとき、活性状態のArと活性状態の酸素とは、隣り合う整流板140の間を通ってSiO2膜32の上面に供給されるので、SiO2膜32の上面に均一に供給される。
【0077】
続いて、ステップS110では、ステップS109でSiO2膜32の上面に照射された活性状態のArおよび活性状態の酸素により、SiO2膜32中のSiとOとの結合が切断される。
【0078】
このとき、ステップS105においてSiO2膜32の温度が551℃以上573℃以下に保持されているので、SiO2膜32のSi−O−Si結合角がα-QuartzのSi−O−Si結合角である146.5°に近づくようにSiとOとが再配置されて再結合されると考えられる。しかし、Si−O−Si結合角が146.5°となるように全てのSiおよびOが再配置されることは難しいと考えられ、よって、α-Quartzの形成までには至らないと予想される。このため、4本の結合手のうち1本〜3本の未結合手を持ったSi(未結合Si)と、2本の結合手のうち1本の未結合手を持ったO(未結合O)とが僅かに残留している。ここに活性状態の酸素が供給されると、その酸素がSiの未結合手とSiの未結合手との間に入ってSi−O−Si結合を形成し、SiO2膜32中の欠陥を減少させる。これによりSi−O−Si結合角がさらに146.5°に近づいて安定な位置へのSiおよびOの配置が進むと考えられる。これは結果的に未結合手を持ったOと未結合手を持ったSiとの再結合をも進めることになり、さらに絶縁膜中の欠陥を減少させる。このようにSi−O−Si結合角が小さくなることにより、SiO2膜の質量密度は増加する。その上、ステップS109では、活性状態のArと活性状態の酸素とがSiO2膜32の上面に均一に供給されているので、SiとOとの結合ネットワークの再構築がSiO2膜32内において均一に行なわれる。
【0079】
所定の時間(たとえば20分)が経過すると、ステップS111へ進む。ステップS111では、マイクロ波発生器150への電力供給を停止し、マイクロ波の発生を停止させる。これにより、プラズマの発生が停止されるため、活性状態のArと活性状態の酸素との発生が止まり、よって、SiO2膜32に対する処理が終了する。
【0080】
続いて、ステップS112においてArガスおよびO2ガスの供給を停止し、ステップS113において被処理基板34を処理室110から取り出す。これにより、質量密度の高いSiO2膜が製造される。
【0081】
<実施の形態2>
図10は、実施の形態2に係る絶縁膜の製造方法のフローチャートである。図11は、本実施の形態における絶縁膜の処理装置の概略断面図である。図12は、本実施の形態における絶縁膜の製造方法の概念図である。
【0082】
本実施の形態では、SiO2膜の製造方法と処理装置の構成とが上記実施の形態1とは異なる。以下では、上記実施の形態1とは異なる点を主に説明する。なお、上記実施の形態1と同じく、処理装置200の構成を説明してから、絶縁膜の製造方法を説明する。
【0083】
<処理装置200の構成>
処理装置200では、処理室210内に整流板が設けられておらず、その代わりに、試料ステージ230が所定の方向に移動可能に構成されている。また、処理装置200では、希ガス(本実施形態ではHeガス)と酸素を含むガス(本実施形態ではO2ガス)とは別々のガス導入管から処理室210内へ供給される。
【0084】
具体的には、処理装置200の処理室210では、基板41の上に形成されたSiO2膜42に対して所定の処理が行なわれる。処理室210には、導入用バルブ210Aと排出用バルブ210Bとが設けられている。導入用バルブ210Aは被処理基板44を処理室210内に導入するときに開かれ、排出用バルブ210Bは被処理基板44を処理室210から取り出すときに開かれる。
【0085】
また、処理室210には、プラズマ導入管240とガス排出管190とが連通されている。プラズマ導入管240は、活性状態のHeと活性状態の酸素とを処理室210内に供給する。ガス排出管190は、排気ポンプ195により処理室210内のガスを排出する。
【0086】
処理室210内には、被処理基板44が載置される試料ステージ230が設けられている。試料ステージ230は、プラズマ導入管240の下流端とガス排出管190との間に設けられており、上記実施の形態1における加熱手段だけでなく上述の移動手段を備えている。具体的には、試料ステージ230は、活性状態の希ガスおよび活性状態の酸素がプラズマ導入管240内を通って被処理基板44へ向かって照射される方向(以下では「照射方向」と記すことがある)に対して垂直な方向に移動可能である。なお、試料ステージ230の移動速度は特に限定されないが、たとえば0.1m/分以上10m/分以下であれば良い。
【0087】
プラズマ導入管240の上流端には、第1のガス導入管220Aと第2のガス導入管220Bと高周波導波管260とが連通されている。第1のガス導入管220AはHeガスを処理室210内に供給し、第2のガス導入管220BはO2ガスを処理室210内に供給する。ここで、Heガスの導入量は第1のマスフローコントローラ221Aで制御され、O2ガスの導入量は第2のマスフローコントローラ221Bで制御される。高周波導波管260には高周波発生器250が接続されており、高周波導波管260とプラズマ導入管240の上流端との間には誘電体板280が設けられている。また、プラズマ導入管240の上流端の周囲には、電磁石290が設けられている。なお、高周波は、上記実施の形態1における、例えば2.45GHzなどのマイクロ波(300MHz〜300GHz)であっても良いし、例えば13.56MHzなどのマイクロ波よりも低い周波数(1〜300MHz)であっても良い。
【0088】
このように、本実施の形態における処理装置200では、Heガスは第1のガス導入管220Aから処理室210内へ供給され、O2ガスは第2のガス導入管220Bから処理室210内へ供給される。そのため、以下に示す方法にしたがってSiO2膜を製造することができるので、上記実施の形態1よりも質量密度の高いSiO2膜が製造される。
【0089】
<絶縁膜の第2の製造方法>
本実施の形態に係る絶縁膜の製造方法では、上記実施の形態1におけるステップS101〜S105に準じて被処理基板44を加熱する工程まで実施してから、図10に示すステップS201〜S211を行ない、その後、上記実施の形態1におけるステップS111およびステップS113に準じてSiO2膜の製造を終了する。なお、本実施の形態では、基板として多結晶SiまたはInGaZnO(IGZO)からなる基板41を用い、塗布法または印刷法にしたがってSiO2膜42を形成する。
【0090】
まず、上記実施の形態1におけるステップS101に準じて、多結晶SiまたはInGaZnOからなる基板41の表面を洗浄する。次に、上記実施の形態1におけるステップS102に準じて、塗布法または印刷法を用いて基板41の上にSiO2膜42を形成する。これにより、図12に示す被処理基板44が得られる。続いて、上記実施の形態1におけるステップS103に準じて、導入用バルブ210Aを開いて被処理基板44を処理室210内に導入し、その被処理基板44を処理室210内の試料ステージ230の上に設置する。続いて、上記実施の形態1におけるステップS104に準じて、処理室210の内圧が1×10-3Pa以下になるまで処理室210内のガスを排出させる。そして、上記実施の形態1におけるステップS105に準じて、被処理基板44を551℃以上573℃以下に加熱する。
【0091】
続いて、ステップS201に進む。ステップS201では、Heガスを第1のガス導入管220Aから処理室210内に供給する。これにより、Heガスがプラズマ導入管240の上流端に供給される。
【0092】
続いて、ステップS202において、上記実施の形態1におけるステップS107での制御方法にしたがって処理室210の内圧を10Pa以上1000Pa以下に維持する。
【0093】
続いて、ステップS203において、活性状態のHeを発生させる。具体的には、高周波発生器250において高周波を発生させる。この高周波は、高周波導波管260内を通って誘電体板280を透過してプラズマ導入管240内に供給される。このとき、プラズマ導入管240内は減圧されており、プラズマ導入管240の上流端の周囲には電磁石290が設けられている。よって、プラズマ導入管240の上流端付近では、Heガスプラズマが発生する。このプラズマ中では、Heイオンや励起状態のHeなどの活性状態のHeが発生する。
【0094】
続いて、ステップS204において、発生した活性状態のHeがプラズマ導入管240内を通って処理室210内に導入される。
【0095】
続いて、ステップS205において、試料ステージ230を照射方向に対して垂直な方向に移動させて活性状態のHeを被処理基板44の上面(つまりSiO2膜42の上面)全体に均一に供給する。
【0096】
続いて、ステップS206では、ステップS205でSiO2膜42の上面に照射された活性状態のHeにより、SiO2膜42中のSiとOとの結合が切断される。このとき、ステップS205では、活性状態のHeがSiO2膜42の上面に均一に供給されているので、SiとOとの結合の切断がSiO2膜42内において均一に行なわれる。また、SiO2膜42の温度が551℃以上573℃以下に保持されているので、SiO2膜42のSi−O−Si結合角がα-QuartzのSi−O−Si結合角である146.5°に近づくようにSiとOとが再配置されて再結合されると考えられる。しかし、Si−O−Si結合角が146.5°となるように全てのSiおよびOが再配置されることは難しいと考えられ、よって、α-Quartzの形成までには至らないと予想される。このため、4本の結合手のうち1本〜3本の未結合手を持ったSiと、2本の結合手のうち1本の未結合手を持ったOとが僅かに残留している。
【0097】
試料ステージ230の移動により被処理基板44の全面に対してHeガスが供給されたあと、Heガスの供給を停止する。その後、ステップS207では、O2ガスを第2のガス導入管220Bから処理室210内に供給する。これにより、O2ガスがプラズマ導入管240の上流端に供給される。
【0098】
続いて、ステップS208では、ステップS203と同様の方法にしたがって活性状態の酸素を発生させる。
【0099】
続いて、ステップS209では、ステップS208で発生した活性状態の酸素がプラズマ導入管240内を通って処理室210内に導入される。
【0100】
続いて、ステップS210では、ステップS205と同様の方法にしたがって試料ステージ230を移動させる。これにより、活性状態の酸素がSiO2膜42の上面全体に均一に供給される。
【0101】
続いて、ステップS211では、ステップS210でSiO2膜42の上面に照射された活性状態の酸素により、SiO2膜42中の未結合Siが酸化される。このとき、ステップS210では、活性状態の酸素がSiO2膜42の上面に均一に供給されているので、未結合Siの酸化がSiO2膜42内において均一に行なわれる。ここに活性状態の酸素が供給されると、活性状態の酸素がSiの未結合手とSiの未結合手との間に入ってSi−O−Si結合を形成し、SiO2膜42中の欠陥を減少させる。これによりSi−O−Si結合はさらに146.5°に近づいて安定な位置へのSiおよびOの配置が進むと考えられる。これは結果的に未結合手を持ったOと未結合手を持ったSiとの再結合をも進めることになり、さらに絶縁膜中の欠陥を減少させる。このようにSi−O−Si結合角が小さくなることにより、SiO2膜の質量密度は増加する。
【0102】
試料ステージ230の移動により被処理基板44の全面に対してO2ガスが供給されたあと、酸素ガスの供給を停止し、高周波発生器250への電力供給を停止する。その後、ステップS201へ戻る。そして、ステップS201〜S211を行なう。この繰り返しを何回か行なってから、上記実施の形態1におけるステップS111に準じて高周波発生器250の電源を切る。その後、上記実施の形態1におけるステップS113に準じて、排出用バルブ210Bを開けて被処理基板44を処理室210から取り出す。これにより、上記実施の形態1よりも質量密度の高いSiO2膜が製造される。
【0103】
<その他の実施の形態>
上記実施の形態1に示す絶縁膜の製造方法にしたがって、SiOx膜を製造しても良いし、SiOM膜を製造しても良い。上記実施の形態2に示す絶縁膜の製造方法にしたがって、SiOx膜を製造しても良いし、SiOM膜を製造しても良い。
【0104】
絶縁膜の処理装置は、上記実施の形態1における処理装置100のに限定されず、上記実施の形態2における処理装置200に限定されない。
【0105】
上記実施の形態1では、上記実施の形態2における処理装置200を用いて絶縁膜を製造しても良い。また、上記実施の形態2では、上記実施の形態1における処理装置100を用いて絶縁膜を製造しても良い。
【実施例】
【0106】
以下では、絶縁膜の製造方法として上記実施の形態1に係る絶縁膜の製造方法を例に挙げ、また絶縁膜としてSiO2膜、SiOx膜(1.8<x<2.0)およびSiOst膜(M=N、s=1.9、t=0.1)、本実施例では「SiON膜」と記すことがある)を例に挙げて、本発明の実施例を示す。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されない。
【0107】
<実施例1〜5および比較例1〜3>
実施例1〜5および比較例1〜3では、Si基板の上にSiO2膜を形成し、そのSiO2膜に対して所定の処理を行なって絶縁膜を製造した。
【0108】
<実施例1>
<絶縁膜の製造方法>
まず、厚みが0.5mmのSi基板を用意し、RCA洗浄法を用いてSi基板の上面を洗浄した。その後、シラン(SiH4)ガスおよびN2Oガスを用いた熱CVD法により、膜厚が5nmのSiO2膜(CVD−SiO2膜)をSi基板の上に形成した。形成されたCVD−SiO2膜の質量密度を測定したところ約2.1g/cm3であり、また、その状態は完全なアモルファスであった。なお、質量密度は後述の方法にしたがって測定された。
【0109】
次に、このCVD−SiO2膜が形成されたSi基板(被処理基板)を図1に示す処理装置100の処理室110内の試料ステージ130の上に設置した。その後、排気ポンプ195を運転させて、処理室110の内圧が1×10-3Paになるまで処理室110内の空気を排出した。その後、試料ステージ130の加熱手段を駆動させて被処理基板の温度を551℃に保持した。これにより、CVD−SiO2膜の温度が551℃に保持された。
【0110】
続いて、Arガスと酸素ガスとの混合ガスをガス導入管120から処理室110内へ導入した。このとき、Arガスの供給量を1000SCCM(standard cc/min)とし、酸素ガスの供給量を10SCCMとし、反応室110内の圧力を1×10-2Paに維持した。その後、マイクロ波発生器150の電源を入れ、周波数が2.45GHzのマイクロ波を発生させた。これにより、Arイオンまたは励起状態のArが発生し、原子状酸素、酸素ラジカル、酸素イオンまたは励起状態の酸素が発生した。発生したArイオンまたは励起状態のArと原子状酸素、酸素ラジカル、酸素イオンまたは励起状態の酸素とが整流板140の間を通ってCVD−SiO2膜の上面に供給された。
【0111】
20分が経過した後、マイクロ波発生器150の電源を切り、Arガスおよび酸素ガスの供給を停止した。これにより、Si基板の上にSiO2膜が製造された。そして、SiO2膜が製造されたSi基板を処理室11から取り出し、そのSiO2膜に対して質量密度を測定した。
【0112】
<質量密度の測定方法>
アンジュレータ(SPring-8のBL16XU)からのX線を光源とし回折計(HUBER社製、8軸回折計)を用いて、SiO2膜の質量密度を測定した。
【0113】
<実施例2〜5および比較例1〜3>
被処理基板の加熱温度以外を除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、実施例2〜実施例5および比較例1〜3の絶縁膜を製造した。被処理基板の各加熱温度は表2に示す通りである。
【0114】
<結果と考察>
結果を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
表2に示す結果から、比較例1および2では、SiO2膜の質量密度は2.7g/cm3未満であった。その理由として、処理時間の短さが考えられる。
【0117】
また、比較例3では、被処理基板の加熱温度が573℃を超えているので、SiO2膜の質量密度は2.5g/cm3未満であった。その理由として、573℃はSiO2膜がα-Quartzからβ-Quartzへ相転移する温度であるためと考えられる。
【0118】
一方、実施例1〜5では、SiO2膜の質量密度は、比較例1〜3よりも低い値を示した。その理由は、上述の通りである。
【0119】
<実施例6〜10および比較例4〜6>
実施例6〜10および比較例4〜6では、Si基板の上にSiOx膜(x=1.9)を形成し、そのSiOx膜に対して所定の処理を行なって絶縁膜を製造した。
【0120】
<実施例6>
シラン(SiH4)ガスおよびO2ガスを用いたプラズマCVD(PECVD)法により、膜厚が5nmのSiOx膜(PECVD−SiOx膜)(x=1.9)をSi基板の上に形成した。上記実施例1では(シランガス):(N2O)=1:10(流量比)としたが、本実施例では(シランガス):(酸素ガス)=1:1.9(流量比)とした。
【0121】
<実施例7〜10および比較例4〜6>
被処理基板の加熱温度以外を除いては上記実施例6と同様の方法にしたがって、実施例7〜10および比較例4〜6の絶縁膜を製造した。被処理基板の各加熱温度は表3に示す通りである。
【0122】
<結果と考察>
結果を表3に示す。なお、処理装置に導入する前のSiOx膜(x=1.9)の質量密度は2.04g/cm3であった。
【0123】
【表3】

【0124】
表3に示すように、表2と同一の傾向を示す結果が得られた。これにより、SiO2膜に対する処理と同様の処理をSiOx膜(x=1.9)に対して行なえば、SiOx膜(x=1.9)の質量密度が高くなることが分かった。
【0125】
<実施例11〜15および比較例7〜9>
実施例11〜15および比較例7〜9では、Si基板の上にSiON膜を形成し、そのSiON膜に対して所定の処理を行なった。
【0126】
<実施例11>
SiON膜をSi基板の上に形成したことを除いては、上記実施例1と同様の方法にしたがって絶縁膜を製造した。SiON膜をSi基板の上に形成する方法を以下に示す。
【0127】
上記実施例1に記載の方法にしたがってSi基板の上にSiO2膜を形成してから、そのSiO2膜をラジカル窒化させた。これにより、Si基板の上にSiON膜が形成された。
【0128】
<実施例12〜15および比較例7〜9>
被処理基板の加熱温度以外を除いては上記実施例11と同様の方法にしたがって、実施例12〜15および比較例7〜9の絶縁膜を製造した。被処理基板の各加熱温度は表4に示す通りである。
【0129】
<結果と考察>
結果を表4に示す。なお、処理装置に導入する前のSiON膜の質量密度は2.15g/cm3である。
【0130】
【表4】

【0131】
表4に示すように、表2と同一の傾向を示す結果が得られた。これにより、SiO2膜に対する処理と同様の処理をSiON膜に対して行なえば、SiON膜の質量密度が高くなることが分かった。
【0132】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0133】
1 基板、2 絶縁膜、3 処理後の絶縁膜、31 Si基板、32 CVD−SiO2膜、34 被処理基板、41 基板、42 SiO2膜、44 被処理基板、100 処理装置、110 処理室、120 ガス導入管、130 試料ステージ、140 整流板、150 マイクロ波発生器、160 マイクロ波導波管、170 マイクロ波アンテナ、180 誘電体板、190 ガス排気管、195 排気ポンプ、200 処理装置、210 処理室、210A 導入用バルブ、210B 導出用バルブ、220A 第1のガス導入管、220B 第2のガス導入管、221A 第1のマスフローコントローラー、221B 第2のマスフローコントローラー、230 試料ステージ、240 プラズマ導入管、250 高周波発生器、260 高周波導波管、280 誘電体板、290 電磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、SiおよびOを含む絶縁膜を形成する第1のステップと、
前記絶縁膜を処理する第2のステップとを備え、
前記第2のステップは、前記絶縁膜の温度を551℃以上574℃以下として、活性状態の希ガスと活性状態の酸素とを前記絶縁膜に供給するものである、絶縁膜の製造方法。
【請求項2】
前記第2のステップは、前記活性状態の希ガスと前記活性状態の酸素とを交互に前記絶縁膜に供給するものである、請求項1に記載の絶縁膜の製造方法。
【請求項3】
前記活性状態の希ガスは、1価の希ガス原子正イオン、2価の希ガス原子正イオン、および励起状態の希ガス原子のうちの少なくとも1つである、請求項1または2に記載の絶縁膜の製造方法。
【請求項4】
前記活性状態の希ガスは、Heガス、Neガス、Arガス、Krガス、およびXeガスのうちの少なくとも1つのガスを用いて生成される、請求項3に記載の絶縁膜の製造方法。
【請求項5】
前記活性状態の酸素は、原子状酸素、酸素ラジカル、1価の酸素原子正イオン、2価の酸素原子正イオン、励起状態の酸素原子、1価の酸素分子イオン、2価の酸素分子イオン、一重項酸素分子、励起状態の酸素分子、およびオゾンのうちの少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁膜の製造方法。
【請求項6】
前記活性状態の酸素は、第1のガスおよび第2のガスの少なくとも一方のガスを用いて生成され、
前記第1のガスは、酸素ガス、オゾンガス、およびH2Oガスのうちの少なくとも1つであり、
前記第2のガスは、NOガスおよびN2Oガスの少なくとも1つである、請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁膜の製造方法。
【請求項7】
前記活性状態の希ガスは、マイクロ波照射により生じたプラズマ中において、希ガスと電子とが衝突することにより生成され、
前記活性状態の酸素は、マイクロ波照射により生じたプラズマ中において、酸素を含むガスと活性状態の希ガスまたは電子とが衝突することにより生成される、請求項1〜6のいずれかに記載の絶縁膜の製造方法。
【請求項8】
前記基板は、無機材料からなるフィルム、有機材料からなるフィルム、またはガラス板であり、
前記無機材料は、単結晶Si、多結晶Si、微結晶Si、アモルファスSi、SiC、サファイア、Al23、セラミック、GaAs、およびInPのうちの少なくとも1つであり、
前記有機材料は、プラスチックである、請求項1〜7のいずれかに記載の絶縁膜の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁膜は、SiO2膜、SiOx膜(1.8<x<2)またはSiOst膜(MはN、C、H、Cl、Hf、Al、La、SrおよびPrの少なくとも1つであり、1.8<s≦2.4であり、0<t<0.2である)である、請求項1〜8のいずれかに記載の絶縁膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−227336(P2012−227336A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93123(P2011−93123)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】