説明

絶縁膜形成方法、絶縁膜形成装置及び半導体装置

【課題】半導体基板に対し簡易な手法により均質な絶縁膜を高速に形成できるようにする。
【解決手段】絶縁膜形成装置1は、堆積部10の電子ビーム蒸着源12からハフニウム金属の原子線を照射して、基板70のシリコン酸化膜72上に液体状のハフニウム微粒子73を堆積させて堆積状態とし、照射部20のプラズマ源22から窒素原子、活性窒素分子及び窒素イオンでなる活性粒子74を照射することにより、表面に窒化ハフニウムシリケート膜76を形成すると共にシリコン酸化膜72をシリコン酸窒化膜75に変化させ、基板70を成膜状態とする。この結果絶縁膜形成装置1は、基板70へのハフニウム微粒子73の堆積処理及び窒素プラズマでなる活性粒子74の照射処理を行うことにより、高誘電率ゲート絶縁膜として機能し得る窒化ハフニウムシリケート膜76を短時間で容易に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜形成方法、絶縁膜形成装置及び半導体装置に関し、例えばMIS(Metal Insulater Semi-Conductor)FET又はMISキャパシタに含まれる高誘電率ゲート絶縁膜の製造方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体のゲート絶縁膜として一般的なシリコン酸化膜を形成する場合、シリコンウェハ(基板)を直接酸化させる手法が広く用いられていた。
【0003】
しかしながら、高誘電率ゲート絶縁膜を形成する場合、高誘電率膜を構成する金属材料がシリコン基板中に含まれていないため、当該シリコン基板を酸化させるという単純な方法を用いることはできない。そこで、基板上に高誘電率膜を堆積する手法として、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法、原子線蒸着法又はレーザーアブレー ション法等が用いられている。
【0004】
特に原子線蒸着法を用いる場合、高純度の高誘電率膜を得ることができる。具体的に原子線蒸着法では、原料として単体の金属蒸着源を使用し、高真空環境で蒸着を行うようになされている。このため原子線蒸着法を用いる場合、CVD法を用いた場合と比べて、有機物や水等の不純物が堆積膜中へ混入することを抑制できると共に、漏れ電流を低減できるという利点がある(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
原子線蒸着法による高誘電率膜形成法は、非特許文献1にも記載されているように、金属薄膜を蒸着後に酸素プラズマ等に照射して高誘電率膜とするプラズマ酸化法と、蒸着後に基板を加熱し、下地となるシリコン酸化膜と金属薄膜とを熱拡散により反応させて高誘電率膜とする熱拡散法に分かれる。
【0006】
プラズマ酸化法では金属シリケート膜を形成でないものの、熱拡散法では当該金属シリケート膜を形成することができる。シリコン原子を導入された金属シリケート膜は、MISFETの動作に必要となる、シリコン基板およびゲート電極に対するエネルギーバンドギャップの確保に用いられる。
【0007】
一方、MISFET製造中に行われるアニール工程では、金属シリケート膜が金属酸化物及びシリコン酸化物へ相分離し、膜質が面内で不均一となる問題が存在する。この問題の解決手法として、膜中に窒素原子を導入した窒化金属シリケート膜を利用することが考えられる。
【0008】
金属シリケート膜への窒素原子の導入としては、プラズマ窒化法が提案されている。このプラズマ窒化法では、シリコン基板上へスパッタ法により金属シリケート膜を堆積した後、窒素プラズマを膜上面から照射するようになされている(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】渡辺平司他、物理蒸着されたHfと下地SiO2の固相界面反応により作製される高品質HfSixOy ゲート絶縁膜 (High-quality HfSixOy gate dielectrics fabricated by solid phase interface reaction between physical-vapor-deposited metal?Hf and SiO2 underlayer)、応用物理レター(Applied Physics Letters)、米国、米国物理学会、85 449-451(2004)
【0010】
【非特許文献2】関根克行他、プラズマ窒化法により窒素分布制御した多結晶シリコンゲートHfSiON CMOSFETの優れた界面特性と極低減化漏れ電流 (Nitrogen profile control by plasma nitridation technique for poly-Si gate HfSiON CMOSFET with excellent interface property and ultra-low leakage current)、国際電子デバイス会議ダイジェスト(International Electron Devices Meeting Digest) 米国、電気電子工学会、4.6.1 - 4.6.4 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高誘電率膜の堆積過程においてプラズマ窒化法は高誘電率膜への窒素原子の導入に有用である。しかしながら、前述の金属シリケート膜を窒化する方法は、安定化された金属シリケート膜の形成後に窒素を供給するため、金属シリケート膜中を窒素原子およびイオンが拡散する速度に成膜過程が支配されることから、処理速度が比較的低い。
【0012】
また金属シリケート膜を窒化する方法は、金属シリケート膜上面から窒素原子及びイオンが照射され、プラズマに接する最上面層からシリコン基板方向へと原子が拡散するため、膜深さ方向に関して窒素原子の分布に不均一性が生じてしまう。従って、絶縁膜製造工程の高速化と膜の均一化の観点から、高誘電率膜が安定化する前段階で窒素を導入することが望ましい。
【0013】
また前述の下地シリコン酸化膜と金属薄膜を熱拡散により反応させて高誘電率膜とする熱拡散方法は、スパッタ法に較べ、荷電粒子による膜中の残存電荷などのプラズマに起因した損傷を低減できる。しかしながら、加熱によるシリコン酸化膜と金属薄膜の界面反応は長時間にわたる処理を必要とし、現実の半導体製造工程には適用しにくい。
【0014】
また、高誘電率膜と反応性の低い窒素原子を導入するには、成膜後にプラズマなどによる窒化工程が必要となり、工程の複雑化を招く。従って、界面反応を加熱以外の原理により生じさせ、同時に窒素原子を高誘電率膜中に導入することが望ましい。
【0015】
以上のように、スパッタ法、プラズマ窒化法、熱拡散法等を互いに組み合わせることにより、最終的に窒化金属シリケート膜を形成することが可能となる。しかしながら、いずれの組み合わせであっても、膜質の均一化、工程の簡潔化及び所要時間の短縮を同時に実現することが難しいという問題があった。
【0016】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、半導体基板に対し簡易な手法により均質な絶縁膜を高速に形成し得る絶縁膜形成方法及び絶縁膜形成装置並びに絶縁特性の高い半導体装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するための、本発明の第1の態様は絶縁膜形成方法である。この絶縁膜形成方法は、所定の半導体材料でなり表面に当該半導体材料の酸化膜が形成された半導体基板上に、高誘電率絶縁膜原料となる金属原子を照射し、数ナノメートル径の微粒子の形成を伴って堆積させる堆積ステップと、上記金属が堆積された上記半導体基板に対し、所定の均質化材料を活性化した活性粒子を照射することにより、上記均質化材料、上記金属、上記半導体材料及び酸素を含む絶縁膜を形成する照射ステップとを有することを特徴としている。
【0018】
第1の態様において、上記堆積ステップは、上記金属を上記半導体基板上に液体状で堆積させるものであってもよい。
【0019】
上記堆積ステップは、上記半導体基板上で上記金属を複数の粒子に分離させるものであってもよい。
【0020】
上記堆積ステップは、上記基板の温度を制御することにより、上記半導体基板上に形成される上記金属の粒子直径を調整し、又は上記金属を層状に平坦化するよう堆積させるものであってもよい。
【0021】
上記堆積ステップは、上記半導体基板上に原子単位の上記金属を散布するものであってもよい。
【0022】
第1の態様において、上記堆積ステップは、上記酸化膜に対し反応活性を有する上記金属を上記半導体基板上に堆積させることにより、上記酸化膜を還元させるものであってもよい。
【0023】
第1の態様において、上記堆積ステップは、上記金属に加え、他の金属を微粒子化して上記半導体基板上に堆積させるものであってもよい。
【0024】
上記他の金属は、上記金属原子の表面拡散を抑制する性質を有するものであってもよい。
【0025】
第1の態様において、上記活性粒子は、上記均質化材料がプラズマ化されてなるものであってもよい。
【0026】
第1の態様において、上記照射ステップは、上記半導体基板上に上記活性粒子を照射することにより、上記均質化材料を上記酸化膜に浸透させるものであってもよい。
【0027】
本発明の第2の態様は絶縁膜形成装置である。この絶縁膜形成装置は、所定の半導体材料でなり表面に当該半導体材料の酸化膜が形成された半導体基板上に、高誘電率絶縁膜原料となる金属原子を照射し、数ナノメートル径の微粒子の形成を伴って堆積させる堆積部と、上記金属が堆積された上記半導体基板に対し、所定の均質化材料を活性化した活性粒子を照射することにより、上記均質化材料、上記金属、上記半導体材料及び酸素を含む絶縁膜を形成する照射部とを有することを特徴としている。
【0028】
本発明の第3の態様は半導体装置である。この半導体装置は、所定の半導体材料でなる半導体基板と、上記半導体基板上に形成された上記半導体材料の酸窒化膜と、上記半導体材料の上記酸窒化膜上に形成され、ハフニウム、チタン若しくはジルコニウムの少なくともいずれか、上記半導体材料、酸素及び窒素が所定の濃度で混在する絶縁膜とを有し、前記絶縁膜は、前記ハフニウムの上に前記チタン、ないしは前記ジルコニウムを堆積させた後、窒素を含む所定の均質化材料を活性化した活性粒子を照射することで形成されていることを特徴としている。
【0029】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、活性化された均質化材料を、微粒子化され半導体基板上に堆積された金属と反応させると共に、半導体基板中の半導体材料を絶縁膜内に拡散させることができるので、均質化材料、金属、半導体材料及び酸素を一様に含む絶縁膜を短時間で形成することができる。かくして本発明は、半導体基板に対し簡易な手法により均質な絶縁膜を高速に形成し得る絶縁膜形成方法及び絶縁膜形成装置を実現できる。
【0031】
また本発明によれば、絶縁膜における誘電率を高めることができ、電気的な容量を高めることができる。かくして本発明は、絶縁特性の高い半導体装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】絶縁膜形成装置の構成を示す略線図である。
【図2】基板の構成を示す略線図である。
【図3】ハフニウム微粒子堆積後の基板表面分析結果を示す略線図である。
【図4】基板とカンチレバーとの間における距離−力関係を示す略線図である。
【図5】金粒子における粒子径と融点との関係を示す略線図である。
【図6】ハフニウム微粒子を蒸着させたときのX線光電子分光結果を示す略線図である。
【図7】窒化ハフニウムシリケート膜の元素組成比を示す略線図である。
【図8】プラズマを照射したときのX線光電子分光結果(1)を示す略線図である。
【図9】プラズマを照射したときのX線光電子分光結果(2)を示す略線図である。
【図10】窒化ハフニウムシリケート膜におけるSi2pスペクトルの角度分解測定結果を示す略線図である。
【図11】窒化ハフニウムシリケート膜の表面画像を示す略線図である。
【図12】窒化ハフニウム−チタニウムシリケート膜の表面画像を示す略線図である。
【図13】絶縁膜形成処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0034】
(1)絶縁膜形成装置の構成
図1に示すように、絶縁膜形成装置1は、大きく分けて堆積部10、照射部20及び観察部30により構成されており、全体としてシリコン基板等でなる基板70に絶縁膜を形成するようになされている。
【0035】
堆積部10は、内部に基板70を設置し得ると共に密閉状態を維持し得る真空容器11を中心に構成されている。真空容器11は、ターボ分子ポンプないしイオンゲッターポンプにより真空排気されることにより、内部を真空状態にすることができるようになされている。また堆積部10は、真空容器11内の基板70を加熱し得るようにもなされている。
【0036】
また堆積部10には、電子銃12A及びハフニウム金属棒12Bを有する電子ビーム蒸着源12が設けられている。電子ビーム蒸着源12は、電子銃12Aからハフニウム金属棒12Bに熱電子を衝突させることによりハフニウム金属(Hf)を昇華させ、これを原子線として真空容器11内の基板70に照射する。つまり、ハフニウム金属を原子単位で基板70に散布する。これにより電子ビーム蒸着源12は、ハフニウム金属の微粒子を基板70に堆積させ得るようになされている。
【0037】
照射部20は、真空容器11と同様、内部に基板70を設置し得ると共に密閉状態を維持し得る真空容器21を中心に構成されている。真空容器21は、ターボ分子ポンプ等により真空排気されることにより、真空容器11と同様に内部を真空状態とすることができるようになされている。
【0038】
また照射部20には、誘導結合型のプラズマ源22が設けられている。誘導結合型のプラズマ源22は高周波電源からの高周波出力をマッチング・ネットワーク(Matching Network)を介してアンテナに供給して誘導結合型プラズマ(IPC)を真空容器21内に発生させるものである。このプラズマ源22は、真空容器21内に設置された基板70に対し、均質化材料を活性化した活性粒子、具体的には窒素原子、活性窒素分子及び窒素イオンからなる活性粒子を照射し得るようになされている。
【0039】
観察部30は、真空容器11及び21と同様、内部に基板70を設置し得ると共に密閉状態を維持し得る真空容器31を中心に構成されている。また観察部30は、原子間力顕微鏡(AFM)及び走査型トンネル顕微鏡(STM)により基板70の表面の状態を表す像を生成し得るようになされている。
【0040】
また絶縁膜形成装置1は、堆積部10の真空容器11、照射部20の真空容器21及び観察部30の真空容器31の間で、真空状態を保ったまま基板70を移動させ得るようにもなされている。
【0041】
(2)成膜工程
次に、絶縁膜形成装置1により基板70に絶縁膜を形成する工程について説明する。図2(A)に断面図を示すように、基板70は、シリコン(Si)層71の表面にシリコン酸化膜(SiO)72が設けられている。
【0042】
因みにシリコン酸化膜72は、シリコン層71の表面が空気中の酸素(O)によって酸化されることにより形成されており、その厚さd2は約0.5〜1[nm]となっている。また以下の説明では、基板70においてシリコン層71の表面にシリコン酸化膜72が形成された状態を初期状態と呼ぶ。
【0043】
(2−1)準備
まず、初期状態の基板70(図2(A))が堆積部10の真空容器11内に設置される。絶縁膜形成装置1の堆積部10は、真空容器11内を1×10−9[Torr]程度の真空度に調整すると共に、基板70を300[℃]程度に加熱し、その表面に付着したガス分子を放出させる。所定時間の経過後、堆積部10は、基板70の温度を常温に戻す。
【0044】
(2−2)ハフニウム金属の堆積
次に堆積部10は、電子ビーム蒸着源12によってハフニウム金属の原子線を基板70の表面に照射することにより、ハフニウム金属を基板70の表面に2〜3[nm]程度の厚さとなるように堆積させる。
【0045】
これにより基板70は、図2(B)に示すように、シリコン酸化膜72の表面に、ハフニウム金属の微粒子でなるハフニウム微粒子73が複数形成された状態となる(詳しくは後述する)。因みにハフニウム微粒子73は、直径r3が約6[nm]、高さd3が約2[nm]であった。以下では、基板70においてシリコン酸化膜72上にハフニウム微粒子73が堆積された状態を堆積状態と呼ぶ。
【0046】
因みに堆積部10は、電子ビーム蒸着源12のハフニウム金属棒12Bをチタン金属(Ti)やジルコニウム金属(Zr)等の他の金属でなる金属棒に置き換えることにより、基板70に堆積されたハフニウム微粒子73の上に、さらにチタン金属やジルコニウム金属等を堆積させ、金属積層構造とすることも可能である。
【0047】
(2−3)堆積状態の検証
ここで、観察部30等を用い、堆積状態の基板70に堆積されているハフニウム微粒子73を種々の測定手法により測定した。
【0048】
まず、接触型の原子間力顕微鏡により基板70の表面を走査したところ、図3(A)に示すような画像が得られた。因みに図3(A)は、直交するXY方向の一辺の長さが約250[nm]を表している。XY方向に垂直なZ方向の高さのレンジは100.1[nm]であり、明度で高さが表されている。この図3(A)では、ハフニウム微粒子73の膜厚(2〜3[nm])以上の振幅が得られ、不安定な分布形状となっており、いわゆるナノ構造は検出されなかった。
【0049】
次に、非接触型の原子間力顕微鏡により基板70の表面を走査したところ、図3(B)に示すような画像が得られた。因みに図3(B)は、直交するXY方向の一辺の長さが約100[nm]を表している。XY方向に垂直なZ方向の高さのレンジは4.422[nm]であり、明度で高さが表されている。この図3(B)では、膜厚(2〜3[nm])に相当する振幅となっており、また多数の独立した粒子(すなわちハフニウム微粒子73)が形成されていることが示されている。この粒子は、直径が約6[nm]であり、また密度が約3.2×1012[1/cm]であった。
【0050】
さらに、走査型トンネル顕微鏡により基板70の表面を走査したところ、図3(C)のような画像が得られた。因みに図3(C)は、直交するXY方向の一辺の長さが約100[nm]を表している。XY方向に垂直なZ方向の高さのレンジは6.606[nm]であり、明度で高さが表されている。この図3(C)の画像は、撮像原理の違いにより図3(B)の画像とは画質が異なるものの、多数の粒子が形成されていることが示されている。
【0051】
また、観察部30の接触型原子間力顕微鏡を用い、カンチレバーを基板70に近づけ、その後遠ざけたときの、距離と力との関係を測定した。カンチレバーは、表面が酸化されたシリコンからなり、その先端の曲率半径が約20[nm]となっている。
【0052】
まず比較用に、初期状態の基板70(図2(A))について測定したところ、図4(A)のような距離−力特性曲線が得られた。因みに図4(A)では、カンチレバーを基板70に近づけたときの特性曲線Q1を破線で表し、カンチレバーを基板70から遠ざけたときの特性曲線Q2を実線で表している。また図4(A)の横軸は、カンチレバーの先端が基板70の表面に接触するときを値「0」とした相対的な位置を表している。この特性曲線Q2から、基板70の表面がカンチレバーの先端を捕捉する力が−4[nN]程度であることがわかる。
【0053】
次に、堆積状態の基板70(図2(B))について測定したところ、図4(B)のような距離−力特性曲線が得られた。因みに図4(B)では、カンチレバーを基板70に近づけたときの特性曲線Q3を破線で表し、カンチレバーを基板70から遠ざけたときの特性曲線Q4を実線で表している。この特性曲線Q4から、ハフニウム微粒子73が堆積している場合、基板70の表面がカンチレバーの先端を捕捉する力が−100[nN]以上であることがわかる。
【0054】
これらの特性曲線Q1〜Q4から、堆積状態の基板70では、その表面がある程度の粘性を有し、ある程度の捕捉力を有していると推測される。
【0055】
ところで金(Au)については、融点が1336[K]であるものの、結晶を微細化していった場合、図5に特性曲線Q5として示すように、その粒子径が縮小されるに連れて融点が低下することが知られている。特性曲線Q5は、特に粒子径がおよそ10[nm]以下になると融点が極端に低下することを示している。このことから、ハフニウム金属についても、同様に、粒子径を極めて小さくすると融点(2506[K])が極端に低下すると考えられる。
【0056】
そこで、図2(A)及び(B)、図3(A)〜(C)、図4(A)及び(B)並びに粒子の微細化による融点の低下を合わせて考慮すると、堆積状態の基板70におけるハフニウム微粒子73は、液体状であると推察される。
【0057】
次に、電子ビーム蒸着源12によりハフニウム金属の原子線を基板70の表面に照射する時間(以下これを照射時間と呼ぶ)を変化させたときの、シリコン酸化膜72のX線光電子分光を行った。このとき得られた結果を図6に示す。因みに図6には、照射時間を2分間、5分間及び10分間としたときの特性曲線Q6A、Q6B及びQ6Cを表している(光電子の脱出角度(TOA=60度)とした)。また照射時間を10分間とした場合、基板70に堆積されたハフニウム微粒子73の厚さd3(図2(B))は、約2.5[nm]であった。
【0058】
この特性曲線Q6A〜Q6Cから、Si2p(2p:電子軌道)の光電子スペクトルは、図中矢印で示すように、SiOの酸化状態を表す103[eV]からSiOの酸化状態を表す101[eV]に近づいていることがわかる。これは、シリコン酸化膜72内のSiOがハフニウム微粒子73のハフニウム金属により還元され得ること、これに伴い当該ハフニウム金属が酸化され酸化ハフニウムとなり得ることを表している。
【0059】
すなわち堆積状態の基板70は、ハフニウム微粒子73がシリコン酸化膜72に対して高い反応活性を持っていると推察される。またこのことから、化学結合を失ったシリコン(Si)は、ハフニウム微粒子73内へ拡散することも予想される。
【0060】
このように堆積状態の基板70については、シリコン酸化膜72の表面に、液体状のハフニウム微粒子73が複数の微粒子に分離された状態で積層していることが確認された。
【0061】
因みに堆積状態の基板70については、堆積時における基板70の温度を調整(制御)することにより、ハフニウム金属の表面拡散を発生させ、液状であるハフニウム微粒子73の粒径をより大きくすることや、さらには平坦な膜状に変化させることも可能である。
【0062】
(2−4)プラズマ照射
その後絶縁膜形成装置1(図1)は、真空状態を維持したまま、堆積状態の基板70(図2(B))を堆積部10の真空容器11内から照射部20の真空容器21内へ搬送する。照射部20は、真空容器21内を1×10−6[Torr]程度の、すなわち残存する酸素ガスにより半導体70上に堆積されたハフニウム金属が酸化しない程度の真空度に調整する。
【0063】
続いて照射部20は、プラズマ源22から均質化材料としての窒素(N)を活性化した窒素原子、活性窒素分子及び窒素イオンでなる活性粒子74(以下これを窒素プラズマ又は単にプラズマとも呼ぶ)を放出し、図2(C)に示すように、当該活性粒子74を堆積状態の基板70に照射する。このときプラズマ源22は、チャンバー圧力を約30[mTorr]とし、交流電源周波数を約50[MHz]とし、誘導コイル電力を約50[W]とし、窒素ガス流量を約10[ml/min]としている。
【0064】
因みにプラズマ源22は、上述したように誘導結合型であるため、誘導結合型プラズマ(ICP)から基板70へ照射されるイオンのエネルギーを低減することができ、荷電粒子及び高エネルギー粒子に起因する高誘電率ゲート絶縁膜中での電気的、物理的損傷を低減することができる。
【0065】
このとき真空容器21内では、基板70におけるハフニウム微粒子73内のハフニウム金属が、プラズマからのイオンの照射により活性化され、下地のシリコン酸化膜72を還元する。これにより、シリコン酸化膜72に含まれるシリコン原子のハフニウム微粒子73内への拡散を誘起する。
【0066】
またシリコン酸化膜72は、窒素プラズマから供給される窒素原子、活性窒素分子、窒素イオンによって窒化される。その結果、図2(D)に示すように、基板70のシリコン酸化膜72は、シリコン酸窒化(SiON)膜75となる。
【0067】
これと同時に、ハフニウム微粒子73内の酸化ハフニウム及び拡散したシリコン原子は、窒素プラズマから供給される窒素原子、活性窒素分子、窒素イオンにより窒化される。その結果、基板70の表面には、シリコン、ハフニウム、酸素及び窒素の各原子が混在した窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)膜76が形成される。因みに窒化ハフニウムシリケート膜76の厚さd6は、約2.5[nm]であった。
【0068】
この窒化ハフニウムシリケート膜76は、比誘電率が比較的高いことが知られており、また厚さd6が比較的薄いため、半導体装置において静電容量を高め得る、いわゆるHigh−kと呼ばれる絶縁膜として用いることができる。以下では、基板70においてシリコン層71の上にシリコン酸窒化膜75及び窒化ハフニウムシリケート膜76が順次積層された状態を成膜状態と呼ぶ。
【0069】
このように照射部20は、真空容器21内で堆積状態の基板70に活性粒子74(窒素プラズマ)を照射することにより、当該基板70を成膜状態とするようになされている。
【0070】
(2−5)プラズマ照射による窒化過程の検証
ここで、プラズマが照射される過程の基板70について、X線光電子分光法による元素組成比の測定等を行った。
【0071】
まず、基板70に対してプラズマの照射時間を変化させながら、X線光電子分光法により窒化ハフニウムシリケート膜76の元素組成比を測定したところ、図7(A)に示す測定結果が得られた。因みに図7(A)は、ハフニウム微粒子73の厚さd3(図2(B))を約2.5[nm]としたときの測定結果を表している。
【0072】
この図7(A)では、プラズマの照射時間が増加するに連れて、窒化ハフニウムシリケート膜76中のシリコン原子及び窒素が増加している。このことから、プラズマ照射により、窒化ハフニウムシリケート膜76中へのシリコン原子の拡散と当該シリコン原子の窒化とが同時に進むことがわかる。
【0073】
また、ハフニウム微粒子73の厚さd3(図2(B))を約6[nm]とした場合、図7(A)と対応する図7(B)に示すような測定結果が得られた。図7(A)及び(B)から、ハフニウム微粒子73の厚さd3がほぼ倍増すると、シリコン原子の拡散が約1/4に低減することがわかる。
【0074】
次に、基板70に対してプラズマの照射時間を変化させながら、窒化ハフニウムシリケート膜76のX線光電子分光を行ったところ、図8及び図9に示す測定結果が得られた。図8では、照射時間の増加と共にHf4fの光電子スペクトルが変化しており、そのピークの遷移(図中矢印で示す)から、プラズマ照射によるハフニウム金属の窒化反応が約1分でほぼ完了することがわかる。すなわち窒化ハフニウムシリケート膜76は、形成過程における膜内の流動性が高いため、深さ方向にほぼ均一な膜質となるよう形成され得る。
【0075】
図9では、照射時間の増加と共にSi2pの光電子スペクトルが変化しており、各特性曲線におけるピークの変化から、照射時間が5分となる頃には、プラズマ照射による窒化反応、すなわちシリコン酸化膜72からシリコン酸窒化膜75への変化がほぼ完了することがわかる。その後、窒化ハフニウムシリケート膜76に拡散されたシリコン原子が窒化されていくと考えられる。またこのシリコン原子は、時間の経過と共に窒化ハフニウムシリケート膜76の表面にまで拡散されることになる。
【0076】
次に、X線光電子分光法により窒化ハフニウムシリケート膜76のSi2pスペクトルの角度分解測定を行ったところ、図10に示す測定結果が得られた。図10は、光電子の脱出角度(TOA)をそれぞれ30度、45度、60度及び75度としたときの特性曲線Q10A、Q10B、Q10C及びQ10Dを表している。
【0077】
図10では、脱出角度を30度としたとき、すなわち浅い領域の測定結果を表す特性曲線Q10Aにおいて101.6[eV]付近にピークが現れており、また脱出角度を75度としたとき、すなわち深い領域の測定結果を表す特性曲線Q10Dにおいても同様に101.6[eV]付近にピークが現れている。このことは、窒化ハフニウムシリケート膜76内における窒素原子分布が深さ方向にほぼ均一であること意味する。
【0078】
また、脱出角度を75度としたとき、すなわち深い領域の測定結果を表す特性曲線Q10Dでは、99[eV]付近にシリコン層71(図2)のSi−Si結合に由来するピークが現れているものの、103[eV]付近にSiOに由来するピークが顕著には現れず、101[eV]付近にSiONに由来するピークが現れている。
【0079】
このことから、窒化ハフニウムシリケート膜76とシリコン層71との間の層、すなわち高誘電率絶縁膜とシリコン層との間の界面層は、シリコン酸化膜72ではなく、シリコン酸窒化膜75であることがわかる。
【0080】
このため成膜状態の基板70(図2(D))は、一般に高誘電率ゲート絶縁膜を形成した際に問題となり得る、当該高誘電率ゲート絶縁膜とシリコンとの間のシリコン酸化膜層に起因する誘電率の低下を発生させることがない。
【0081】
また、基板70に対しプラズマ照射を10分間行った場合における窒化ハフニウムシリケート膜76の表面を、観察部30の非接触原子間力顕微鏡により撮像したところ、図11に示すような画像が得られた。因みに図11は、直交するXY方向の一辺が250[nm]を表している。XY方向に垂直なZ方向の高さのレンジは1.845[nm]であり、明度で高さが表されている。図11の画像から、窒化ハフニウムシリケート膜76は、表面における平均二乗粗さが0.11[nm]程度であり、また局所的に現れる窪みも深さ0.8[nm]程度に限られているため、極めて平坦ということができる。
【0082】
ここで、他の実施の形態として、初期状態の基板70に上述したハフニウム金属の堆積処理によりハフニウム金属を厚さ約1.2[nm]だけ積層させ、さらに同様の堆積処理によりチタン金属を厚さ1.2[nm]だけ積層させた後、上述したプラズマ照射処理を25分間行うことにより、窒化ハフニウム−チタニウムシリケート膜を形成した。この窒化ハフニウム−チタニウムシリケート膜では、窒化ハフニウムシリケート膜76の場合と比較して、チタン原子によりハフニウムの表面拡散が抑制され、また膜内の歪みが低減されると推測される。
【0083】
そこで、窒化ハフニウム−チタニウムシリケート膜の表面を観察部30の非接触原子間力顕微鏡により撮像したところ、図12に示すような画像が得られた。因みに図12は、X方向の一辺が250[nm]、Y方向の一辺が235[nm]を表している。XY方向に垂直なZ方向の高さのレンジは793.7[pm]であり、明度で高さが表されている。図11及び図12から、窒化ハフニウム−チタニウムシリケート膜(図12)では、窒化ハフニウムシリケート膜76(図11)と比較して、窪みの発生が抑制されると共に平坦性が向上していることがわかる。
【0084】
(2−6)絶縁膜形成処理手順
次に、絶縁膜形成装置1により基板70に絶縁膜としての窒化ハフニウムシリケート膜76を形成する際の処理手順について、図13のフローチャートを用いて説明する。
【0085】
絶縁膜形成装置1は、堆積部10の真空容器11内に初期状態の基板70が設置されると、絶縁膜形成処理手順RT1を開始してステップSP1へ移る。ステップSP1において絶縁膜形成装置1は、堆積部10により真空容器11内を真空状態にして次のステップSP2へ移る。
【0086】
ステップSP2において絶縁膜形成装置1は、準備処理として堆積部10により基板70を所定時間加熱した後常温に戻し、次のステップSP3へ移る。ステップSP3において絶縁膜形成装置1は、堆積部10の電子ビーム蒸着源12によってハフニウム金属の原子線を基板70へ照射することによりハフニウム微粒子73を堆積させ(図2(B))、次のステップSP4へ移る。
【0087】
ステップSP4において絶縁膜形成装置1は、堆積状態の基板70を堆積部10の真空容器11内から照射部20の真空容器21内へ移動させ、次のステップSP5へ移る。ステップSP5において絶縁膜形成装置1は、照射部20のプラズマ源22から窒素プラズマでなる活性粒子74を基板70へ照射することにより成膜状態とし(図2(D))、次のステップSP6へ移って絶縁膜形成処理手順RT1を終了する。
【0088】
(3)動作及び効果
以上の構成において絶縁膜形成装置1は、堆積部10の電子ビーム蒸着源12からハフニウム金属の原子線を初期状態の基板70に照射し、シリコン酸化膜72上にハフニウム微粒子73を堆積させて堆積状態とする(図2(B))。
【0089】
このときハフニウム微粒子73は、粒径が極めて小さく融点が低下していることにより、液体状の微粒子が互いに分離した状態で基板70のシリコン酸化膜72上に堆積される。
【0090】
次に絶縁膜形成装置1は、照射部20のプラズマ源22から窒素原子、活性窒素分子及び窒素イオンでなる活性粒子74を堆積状態の基板70に照射することにより、表面に窒化ハフニウムシリケート膜76を形成すると共にシリコン酸化膜72をシリコン酸窒化膜75に変化させ、基板70を成膜状態とする(図2(D))。
【0091】
従って絶縁膜形成装置1は、基板70に対しハフニウム微粒子73の堆積処理及び活性粒子74(窒素プラズマ)の照射処理を行うことにより、高誘電率ゲート絶縁膜として機能し得る窒化ハフニウムシリケート膜76を短時間で容易に形成することができる。
【0092】
このとき絶縁膜形成装置1は、液体状のハフニウム微粒子73と活性粒子74とを短時間で反応させるため、反応時における流動性を高めることができ、最終的にほぼ均一な濃度分布でなる窒化ハフニウムシリケート膜76を形成することができる。
【0093】
特に絶縁膜形成装置1は、シリコン酸化膜72上に反応性の高いハフニウム微粒子73を堆積させた堆積状態で、反応活性の高い窒素プラズマでなる活性粒子74を照射することにより、シリコン酸化膜72とハフニウム金属との界面反応を発生させると同時に、窒素原子を窒化ハフニウムシリケート膜76内へ導入することができる。このため絶縁膜形成装置1は、それぞれの工程を別個に行う従来の手法と比較して、窒化ハフニウムシリケート膜76の形成に要する工程を格段に簡略化し得ると共に高速化することができる。
【0094】
このとき絶縁膜形成装置1は、ハフニウム微粒子73(金属ハフニウム層)とシリコン酸化膜72(下地シリコン酸化膜層)との界面反応を、活性粒子74(プラズマ)の照射効果により高速に誘起させることができる。このため絶縁膜形成装置1は、加熱により界面反応を生じさせる場合と比較して、ハフニウム金属のシリケート化反応の速度を飛躍的に向上させることができる。
【0095】
また絶縁膜形成装置1は、窒素を含むプラズマである活性粒子74の照射により、前述したハフニウム微粒子73とシリコン酸化膜72との界面反応、及び拡散するシリコン原子との窒素との反応を、同時に進行させることができる。従って絶縁膜形成装置1は、一度のプラズマ照射処理工程により、堆積状態の基板70から、シリコン層71上にシリコン酸窒化膜75を介して窒化ハフニウムシリケート膜76を積層した成膜状態へ変化させることができるため、高誘電率絶縁膜の製造工程を極めて高速化及び簡素化することができる。
【0096】
さらに絶縁膜形成装置1は、CVD法のように有機金属ガスを導入する工程を行わないため、有機金属の解離に伴う炭素不純物の窒化ハフニウムシリケート膜76(絶縁膜)への混入を防止することができ、当該窒化ハフニウムシリケート膜76の品質を高めることができる。これにより絶縁膜形成装置1は、成膜状態の基板70を基に半導体装置が構成された際の、絶縁膜において炭素不純物により引き起こされる絶縁耐性の劣化や漏れ電流の増加等を低減することができる。
【0097】
また絶縁膜形成装置1は、堆積処理において電子ビーム蒸着源12を用いることにより、基板70のシリコン酸化膜72上に堆積するハフニウム微粒子73を、常温において数ナノメートルの直径でなり粒径均一性の高い微粒子とすることができる。このため絶縁膜形成装置1は、これらの微粒子を自律的にシリコン酸窒化膜72上に密集した状態で被覆することができ、金属堆積量の面内均一性を格段に高めることができる。これにより絶縁膜形成装置1は、窒化ハフニウムシリケート膜76(絶縁膜)中における金属の面内均一性を自発的に高めることができる。
【0098】
さらに絶縁膜形成装置1は、基板70のシリコン酸化膜72上に堆積するハフニウム微粒子73を、数ナノメートルの直径をもつ微粒子とすることにより、活性粒子74を照射する際に下地のシリコン酸化膜層72との界面反応と窒素活性粒子による窒化反応とを引き起こすことができる。これに伴い絶縁膜形成装置1は、シリコン酸化膜72上で原子の表面拡散現象を生じさせ、形成する窒化ハフニウムシリケート膜76(絶縁膜)の凹凸を数原子層の単位で低減することができる。この結果絶縁膜形成装置1は、窒化ハフニウムシリケート膜76に高い平坦性を持たせることができる。
【0099】
さらに絶縁膜形成装置1は、ハフニウムと共にチタン、ジルコニウム等の金属原子を堆積させた場合、当該チタン、ジルコニウム等の金属原子により表面拡散を低減することができる。このため絶縁膜形成装置1は、ハフニウム金属層の表面拡散現象を制御することができ、窒化ハフニウムシリケート膜76(高誘電率ゲート絶縁膜)の平坦性を向上させることができる。
【0100】
以上の構成によれば、絶縁膜形成装置1は、堆積部10の電子ビーム蒸着源12からハフニウム金属の原子線を照射して、基板70のシリコン酸化膜72上に液体状のハフニウム微粒子73を堆積させて堆積状態とし、照射部20のプラズマ源22から窒素原子、活性窒素分子及び窒素イオンでなる活性粒子74を照射することにより、表面に窒化ハフニウムシリケート膜76を形成すると共にシリコン酸化膜72をシリコン酸窒化膜75に変化させ、基板70を成膜状態とする。この結果絶縁膜形成装置1は、基板70へのハフニウム微粒子73の堆積処理及び窒素プラズマでなる活性粒子74の照射処理を行うことにより、高誘電率ゲート絶縁膜として機能し得る窒化ハフニウムシリケート膜76を短時間で容易に形成することができる。従って、高誘電率ゲート絶縁膜を有する半導体装置を効率的に作製できる。
【0101】
(4)他の実施の形態
なお上述した実施の形態においては、半導体材料としてシリコンを用いた基板70(図2(A))に対し絶縁膜としての窒化ハフニウムシリケート膜76を形成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、当該シリコンに代えて、例えばゲルマニウム、シリコン−ゲルマニウム混晶、窒化ガリウム、ガリウムヒ素等といった種々の半導体材料を用いるようにしても良い。
【0102】
また上述した実施の形態においては、堆積処理においてハフニウム金属の微粒子をシリコン酸化膜72上に堆積させる場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えばチタン金属やジルコニウム金属等、絶縁膜の誘電率を高め得る種々の材料をシリコン酸化膜72上に堆積させるようにしても良い。
【0103】
さらに上述した実施の形態においては、堆積処理において電子ビーム蒸着源12を用いてハフニウム金属の原子線を基板70のシリコン酸化膜72上に照射するようにした場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えばスパッタリング法や原子堆積法により、或いはプラズマ源を用いることにより、ハフニウム金属を基板70のシリコン酸化膜72上に照射するようにしても良い。またこの場合、ハフニウム金属を必ずしも原子単位で照射する必要はなく、比較的小さな分子であっても良い。要は、粒子の大きさが小さいことにより融点が低下され液状となっていれば良い。
【0104】
さらに上述した実施の形態においては、堆積処理を行う際の基板70の温度を常温とする場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、当該基板70を所望の温度に制御するようにしても良い。これにより、基板70のシリコン酸化膜72上に形成されるハフニウム微粒子73の粒子直径を拡大又は縮小し、或いは層状に平坦化することができる。
【0105】
さらに上述した実施の形態においては、液体状のハフニウム微粒子73を基板70のシリコン酸化膜72上に堆積させる場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば比較的粒子直径が細かい粉末状のハフニウム金属をシリコン酸化膜72上に堆積させるようにしても良い。要は、窒化ハフニウムシリケート膜76が形成される過程においてある程度の流動性が得られれば良い。
【0106】
さらに上述した実施の形態においては、プラズマ照射処理において、活性粒子74として窒素プラズマを堆積状態の基板70に照射する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、他の種類のプラズマを照射するようにしても良い。この場合、絶縁膜を均質化し得る均質化材料を活性化してプラズマとしたものであれば良い。
【0107】
さらに上述した実施の形態においては、照射部20において誘導結合型のプラズマ源22を用いて活性粒子74を発生させるようにした場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば容量結合型プラズマ、マイクロ波プラズマ及び表面波プラズマ等でなるプラズマ源を使用しても良い。また活性粒子74の供給ガスとしてアンモニア(NH)などの窒素を含む分子ガスを使用しても良い。さらには活性粒子74の供給ガスとしてアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などの希ガスにより希釈した、窒素を含む分子ガスを使用するようにしても良い。
【0108】
さらに上述した実施の形態においては、基板70におけるシリコン層71の表面が空気中の酸素により酸化されることを利用して、厚さd2(図2(A))を約0.5〜1[nm]とするシリコン酸化膜72を形成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば基板70をさらに酸素雰囲気中で加熱し、また酸素プラズマに曝すことにより、当該シリコン酸化膜72の厚さd2を約1〜2[nm]とする等しても良い。あるいは、シリコン酸化膜72が形成される前の基板70を酸素雰囲気中で加熱し、また酸素プラズマに曝すことにより、所望の厚さでなるシリコン膜72を短時間で形成するようにしても良い。
【0109】
さらに上述した実施の形態においては、プラズマ照射処理を行う際、基板70については特に温度制御を行わないようにした場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、プラズマ照射処理を行う際、基板70を加熱又は冷却することにより温度制御を行うようにしても良い。これにより反応処理の高速化や膜質の安定化等を図ることが可能となる。
【0110】
さらに上述した実施の形態においては、堆積部10の真空容器11及び照射部20の真空容器21をそれぞれ設ける場合について述べた。本発明はこれに限らず、例えば共通の真空容器に電子ビーム蒸着源12及びプラズマ源22を設ける等、様々な構成としても良い。
【0111】
さらに上述した実施の形態においては、絶縁膜形成装置1に観察部30を設ける場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば基板70の表面状態を観察せず単純に窒化ハフニウムシリケート膜76を形成する場合、当該観察部30を省略し、堆積部10及び照射部20により絶縁膜形成装置1を構成するようにしても良い。
【0112】
さらに上述した実施の形態においては、堆積部としての堆積部10と、照射部としての照射部20とによって絶縁膜形成装置としての絶縁膜形成装置1を構成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる堆積部と、照射部とによって絶縁膜形成装置を構成するようにしても良い。
【符号の説明】
【0113】
1 絶縁膜形成装置
10 堆積部
11、21 真空容器
12 電子ビーム蒸着源
12B ハフニウム金属棒
20 照射部
22 プラズマ源
70 基板
71 シリコン層
72 シリコン酸化膜
73 ハフニウム微粒子
74 活性粒子
75 シリコン酸窒化膜
76 窒化ハフニウムシリケート膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の半導体材料でなり表面に当該半導体材料の酸化膜が形成された半導体基板上に、高誘電率絶縁膜原料となる金属原子を照射し、数ナノメートル径の微粒子の形成を伴って堆積させる堆積ステップと、
上記金属が堆積された上記半導体基板に対し、所定の均質化材料を活性化した活性粒子を照射することにより、上記均質化材料、上記金属、上記半導体材料及び酸素を含む絶縁膜を形成する照射ステップと
を有することを特徴とする絶縁膜形成方法。
【請求項2】
上記堆積ステップは、
上記金属を上記半導体基板上に液体状で堆積させる
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項3】
上記堆積ステップは、
上記半導体基板上で上記金属を複数の粒子に分離させる
ことを特徴とする請求項2に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項4】
上記堆積ステップは、
上記基板の温度を制御することにより、上記半導体基板上に形成される上記金属の粒子直径を調整し、又は上記金属を層状に平坦化するよう堆積させる
ことを特徴とする請求項2に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項5】
上記堆積ステップは、
上記半導体基板上に原子単位の上記金属を散布する
ことを特徴とする請求項2に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項6】
上記堆積ステップは、
上記酸化膜に対し反応活性を有する上記金属を上記半導体基板上に堆積させることにより、上記酸化膜を還元させる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の絶縁膜形成方法。
【請求項7】
上記堆積ステップは、
上記金属に加え、他の金属を微粒子化して上記半導体基板上に堆積させる
ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の絶縁膜形成方法。
【請求項8】
上記他の金属は、
上記金属原子の表面拡散を抑制する性質を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項9】
上記活性粒子は、上記均質化材料がプラズマ化されてなる
ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の絶縁膜形成方法。
【請求項10】
上記照射ステップは、
上記半導体基板上に上記活性粒子を照射することにより、上記均質化材料を上記酸化膜に浸透させる
ことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の絶縁膜形成方法。
【請求項11】
所定の半導体材料でなり表面に当該半導体材料の酸化膜が形成された半導体基板上に、高誘電率絶縁膜原料となる金属原子を照射し、数ナノメートル径の微粒子の形成を伴って堆積させる堆積部と、
上記金属が堆積された上記半導体基板に対し、所定の均質化材料を活性化した活性粒子を照射することにより、上記均質化材料、上記金属、上記半導体材料及び酸素を含む絶縁膜を形成する照射部と
を有することを特徴とする絶縁膜形成装置。
【請求項12】
所定の半導体材料でなる半導体基板と、
上記半導体基板上に形成された上記半導体材料の酸窒化膜と、
上記半導体材料の上記酸窒化膜上に形成され、ハフニウム、チタン若しくはジルコニウムの少なくともいずれか、上記半導体材料、酸素及び窒素が所定の濃度で混在する絶縁膜と
を有し、
前記絶縁膜は、前記ハフニウムの上に前記チタン、ないしは前記ジルコニウムを堆積させた後、窒素を含む所定の均質化材料を活性化した活性粒子を照射することで形成されている
ことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図3】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−156565(P2012−156565A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−117011(P2012−117011)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【分割の表示】特願2009−221049(P2009−221049)の分割
【原出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月30日 社団法人応用物理学会発行の「2009年(平成21年)春季 第56回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集(No.2)」に発表
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】