説明

絶縁膜形成方法及び絶縁膜形成装置

【課題】信号遅延の抑制と絶縁性の向上との両立が可能な絶縁膜形成方法及び絶縁膜形成装置を提供する。
【解決手段】
シリコン貫通電極用の貫通孔が形成されたシリコン基板を備える基板Sに絶縁膜を形成するに際し、抵抗加熱ヒータ33Hによって加熱された基板Sを収容する反応室31Sに、酸素ガス及びキャリアガスであるアルゴンガスと混合されたZr(BHを供給する。そして、Zr(BHを上記基板S上で熱酸化することによって、基板Sの表面及び上記貫通孔の内側面にジルコニウム、ホウ素、及び酸素を含む絶縁膜の一つであるZrBO膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁膜、例えば、シリコン貫通電極(Through Silicon Via:TSV)の周囲に形成されてTSVとシリコン基板とを絶縁するための絶縁膜の形成方法及び該方法を用いる絶縁膜の形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン系の半導体デバイスには、層間絶縁膜の構成材料であるシリコン酸化物や、例えば特許文献1に記載のように、キャパシタの構成材料である遷移金属酸化物等、各種の絶縁材料が用いられている。
【0003】
また、近年では、こうした半導体デバイスの高性能化を図る技術の一つとして、例えば特許文献2に記載のように、シリコン基板に形成された貫通電極(シリコン貫通電極:Through Silicon Via (TSV))を介して複数の半導体チップを積層する三次元実装技術が注目されている。図9には、TSVを有した半導体装置の一部断面構造が示されている。
【0004】
半導体装置10は、トランジスタ等の素子が形成されたシリコン基板11と、該シリコン基板11の上面に積層されるとともに、例えば低誘電率の絶縁膜にシリコン基板11の素子と接続される各種配線が形成された配線層12とを有している。そして、配線層12の上面を覆うように例えば酸化シリコン等の絶縁層13が形成されているとともに、シリコン基板11の下面を覆うように接着層14が形成されている。
【0005】
また、半導体装置10には、上記接着層14、シリコン基板11、配線層12、及び絶縁層13を貫通する貫通孔Hが形成されている。貫通孔Hには、例えば銅等の金属によって形成されたシリコン貫通電極15が、絶縁膜16を介して形成されている。絶縁膜16は、シリコン貫通電極15とシリコン基板11とが電気的に接続することや、シリコン貫通電極15を構成する金属元素が貫通孔Hの外側に移動することを抑える。
【0006】
こうした半導体装置10は、上記接着層14を介して他の半導体装置10と三次元的に実装される。この際、上記シリコン貫通電極15は、半導体装置10の上面側の半導体装置、あるいは該半導体装置10の下面側の半導体装置が有する配線等と接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−311663号公報
【特許文献2】特開2010−87233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記シリコン貫通電極15の周囲には、該シリコン貫通電極15とシリコン基板11とを絶縁するための絶縁膜16が必要である。そして、上述のようなシリコン酸化物や遷移金属酸化物等は、こうしたシリコン貫通電極15用の絶縁膜16を形成する材料として用いることが可能ではある。
ここで、シリコン貫通電極15用の絶縁膜16には、下記(a)(b)の機能が求められる。
(a)シリコン貫通電極15における信号遅延を抑えるための誘電率
(b)シリコン貫通電極15とシリコン基板11との間における絶縁性
【0009】
これらの点において、上述のような層間絶縁膜に利用されるシリコン酸化膜によれば、上記(a)を満たすことができるものの、熱CVD法により形成されるシリコン酸化膜よりも膜密度が低く、また多くの不純物を含むことになるため、上記(b)を満たすことは極めて困難である。他方、キャパシタに利用されるような遷移金属酸化膜によれば、上記(b)を満たすことができるものの、上記(a)を満たすことは極めて困難である。
【0010】
それゆえに、シリコン貫通電極15用の絶縁膜16としてより適切な性質を有した膜が要請されている。なお、こうした要請は、シリコン貫通電極15用の絶縁膜16ばかりでなく、他の埋込み配線用の絶縁膜や層間絶縁膜においても概ね共通する物である。
【0011】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、信号遅延の抑制と絶縁性の向上との両立が可能な絶縁膜形成方法及び絶縁膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
【0013】
請求項1に記載の発明は、半導体基板に絶縁膜を形成する方法であって、加熱された前記半導体基板に向けてZr(BHと酸素含有ガスとを供給することによって、前記Zr(BHを前記半導体基板上で熱酸化してZrBOを含む絶縁膜を前記半導体基板に形成することをその要旨とする。
【0014】
Zr(BHを出発材料として得られるホウ化ジルコニウム系の膜が、銅等の金属配線用のバリア膜として研究対象とされて久しい。本願発明者らは、ホウ化ジルコニウム系の膜が有するバリア性や絶縁性を研究する過程で、Zr(BHの熱酸化によって得られるZrBOを含む膜、例えばZrBO膜が以下の特性を有することを見出した。
・金属配線に対するバリア性を有しつつ、熱CVD法で形成されたシリコン酸化物膜と略同じ程度の絶縁性も発現する。
・遷移金属であるZrの酸化物でありながらも、シリコン系酸化物と同じ程度の誘電率を有する。
【0015】
上記請求項1に記載の発明によれば、Zr(BHと酸素含有ガスとが、半導体基板からの熱を受けることによって、Zr(BHが酸化されることで、半導体基板上にZrBOを含む膜が形成されることとなる。そのため、金属配線に対するバリア性、シリコン系の絶縁膜と同じ程度の誘電率、及び熱CVD法によって形成されるシリコン酸化膜と同じ程度の絶縁性を有した絶縁膜を形成することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記ZrBOを含む絶縁膜を前記半導体基板に形成して該半導体基板の表面を該絶縁膜で覆う被覆工程と、前記被覆工程にて形成された前記絶縁膜に活性化した酸素を供給して該絶縁膜を酸化する酸化工程とを備えることをその要旨とする。
【0017】
本願発明者らは、ホウ化ジルコニウム系の膜を鋭意研究する中で、ホウ化ジルコニウム系の膜における酸化の度合いが高くなると、該膜における絶縁性が高められることを見出した。
【0018】
この点、請求項2に記載の発明では、Zr(BHと酸素とが、半導体基板の熱を受けて絶縁膜を形成する被覆工程の後に、形成された絶縁膜に対して活性化した酸素を供給する酸化工程を設けるようにしている。そのため、絶縁膜に対して酸化工程が別途実施される分だけ、該絶縁膜における絶縁性が高められるようになる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記被覆工程と前記酸化工程とからなる一連の工程を繰り返すことをその要旨とする。
上記方法によれば、同一の膜厚を有した絶縁膜を形成する場合、被覆工程と酸化工程とを1度ずつのみ行うことによって該絶縁膜を形成するよりも、膜の全体をより確実に酸化することができる。それゆえに、絶縁膜の絶縁性を高めることもできる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記活性化した酸素として酸素ラジカルを用いることをその要旨とする。
半導体基板上に形成された絶縁膜の酸化自体は、活性化した酸素の1つである酸素イオンによっても可能ではある。しかしながら、活性化した酸素として酸素イオンを用いる場合には、酸素イオンが半導体基板に入射するときに有しているエネルギーによって、絶縁膜がダメージを受けやすい。
【0021】
この点、請求項4に記載の発明によれば、活性化した酸素として酸素ラジカルを用いるようにしているため、上述したようなダメージを抑えつつ、十分な絶縁性が得られるだけ酸化された絶縁膜を形成することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記半導体基板がシリコン基板であり、該シリコン基板はその厚さ方向に貫通するシリコン貫通電極用の貫通孔を複数有し、前記絶縁膜は、前記貫通孔の内側面に形成されることをその要旨とする。
【0023】
シリコン貫通電極が形成される貫通孔には、該電極の形成材料である金属がシリコン基板側に拡散することを抑制するためのバリア性と、シリコン基板に形成された素子や配線等と電極とを電気的に絶縁させるための絶縁性とを有した絶縁膜が必要とされる。加えて、同絶縁膜には、信号遅延の抑制を図る目的から、熱CVD法によって形成されるシリコン酸化膜と同程度の誘電率であることも必要とされる。
【0024】
この点、請求項5に記載の発明では、シリコン貫通電極用の貫通孔における内側面にZrBOを含む絶縁膜を形成するようにしている。つまり、上記バリア性、絶縁性、及び誘電率の条件を満たす絶縁膜を、シリコン貫通電極用の貫通孔の内側面に形成することができる。
【0025】
請求項6に記載の発明は、前記酸素含有ガスとして、Oガス、HOガス、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、及びCOガスの少なくとも1つが用いられることをその要旨とする。
【0026】
請求項8に記載の発明は、前記酸素含有ガス供給部は、前記酸素含有ガスとして、Oガス、HOガス、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、及びCOガスの少なくとも1つを供給することをその要旨とする。
【0027】
上記構成によれば、酸化ガスとしてOガス又はHOガスが用いられる場合には、他の酸化ガスが用いられる場合と比較して、Zr(BHの酸化反応が進行しやすくなる。一方、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、及びCOガスのいずれを用いる方法では、上述したOガスやHOガスよりは酸化反応が進行し難いものの、これらのガスを活性状態にすることで、Zr(BHガスの酸化反応が進行する。そのため、低い成膜速度を細かい範囲で調整することが求められる場合に有効である。
【0028】
請求項7に記載の発明は、半導体基板を収容する真空槽と、前記真空槽内に配置されて前記半導体基板を加熱する加熱部と、前記真空槽内にZr(BHを供給する原料供給部と、前記真空槽内に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部とを備え、前記酸素含有ガスの雰囲気にて前記Zr(BHを前記半導体基板上で熱酸化して前記半導体基板にZrBOを含む絶縁膜を形成することをその要旨とする。
【0029】
上記構成によれば、Zr(BHと酸素含有ガスとが半導体基板からの熱を受けることによって、Zr(BHが酸化されることで、半導体基板上にZrBOを含む膜が形成されることとなる。そのため、金属配線に対するバリア性、シリコン系の絶縁膜と同じ程度の誘電率、及び熱CVD法によって形成されるシリコン酸化膜と同じ程度の絶縁性を有した絶縁膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の絶縁膜形成装置の断面構造を示す断面図。
【図2】同絶縁膜形成装置の有する成膜チャンバの概略構成を示す図。
【図3】同絶縁膜形成装置の有する酸化チャンバの概略構成を示す図。
【図4】絶縁膜形成方法の処理手順を示すフローチャート。
【図5】(a)Zr(BHガス、(b)Oガス、(c)Nガス、(d)Oガス、(e)Nガス、及び(f)マイクロ波電源からの電力の供給態様を示すタイミングチャート。
【図6】シリコン基板に形成された凹部及びその内側面に形成されたZrBO膜の断面構造を撮像したSEM画像。
【図7】ZrBO膜の組成を分析した結果を示すグラフ。
【図8】ZrBO膜に印加した電界と、そのときの電流密度との関係を示すグラフ。
【図9】シリコン貫通電極を有する半導体装置の一部断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の絶縁膜形成方法及び絶縁膜形成装置の一実施形態について、図1〜図8を参照して説明する。まず、図1〜図3を参照して、絶縁膜形成装置について説明する。なお、本実施形態の絶縁膜形成方法及び絶縁膜形成装置の処理対象である基板とは、上記半導体装置10において絶縁膜16とシリコン貫通電極15とが形成されていない構造物のことである。
【0032】
図1は、成膜装置として具現化された絶縁膜形成装置の概略構成を示している。成膜装置20は、ロードロックチャンバ21と、ロードロックチャンバ21に連結されたコアチャンバ22と、コアチャンバ22に連結された2つの成膜チャンバ23と、同じくコアチャンバ22に連結された2つの酸化チャンバ24とを有している。コアチャンバ22に接続された各チャンバ23,24とロードロックチャンバ21とは、コアチャンバ22とこれらチャンバとの間に設けられたゲートバルブが開放されることによって、1つの真空系を形成することができる。なお、以下では、成膜チャンバ23での成膜処理の後に酸化チャンバ24での酸化処理が実施されるものとして、上記各チャンバの機能を説明する。
【0033】
ロードロックチャンバ21は、複数の基板Sを収容する真空槽である。基板Sに対する成膜処理が開始されるときには、基板Sが、ロードロックチャンバ21を介して成膜装置20内部に運ばれる。また、基板Sに対する絶縁膜形成処理及び酸化処理が終了されるときには、基板Sが、ロードロックチャンバ21を介して成膜装置20の外部に運ばれる。
【0034】
コアチャンバ22は、基板Sを搬送する搬送ロボット22aが搭載された真空槽である。基板Sに対する成膜処理が開始されるときには、ロードロックチャンバ21内の基板Sが、搬送ロボット22aによってコアチャンバ22を介して成膜チャンバ23に運ばれる。また、基板Sに対する酸化処理が終了されるときには、酸化チャンバ24内の基板Sが、搬送ロボット22aによってコアチャンバ22を介してロードロックチャンバ21に運ばれる。
【0035】
成膜チャンバ23は、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、及び酸素(O)を含む膜の1つである酸ホウ化ジルコニウム(ZrBO)膜を熱CVD法によって基板Sに形成する真空槽である。図2は、成膜チャンバ23の概略構成を示している。成膜チャンバ23は、上部に開口を有したチャンバ本体31と、チャンバ本体31の上部に配設されることでその開口を塞ぐチャンバリッド32とを備えている。
【0036】
チャンバ本体31とチャンバリッド32とによって形成される内部空間である反応室31Sには、基板Sが載置される基板ステージ33が配設されている。基板ステージ33に内設された抵抗加熱ヒータ33Hは、基板ステージ33に基板Sが載置されるときに、基板Sの温度を例えば150℃〜250℃の所定温度にまで昇温させる。基板Sは、基板ステージ33に載置されることによって、反応室31S内での位置が決められるとともに、成膜処理が行われている間中、その温度が所定温度に維持される。基板ステージ33の下方には、基板Sの搬出入を行う際等に基板ステージ33を上下方向に動かす昇降機構34が連結されている。
【0037】
チャンバ本体31の側部には、排気ポートP1を介して反応室31S内を排気する排気ポンプ35が接続されている。排気ポンプ35は、ターボ分子ポンプやドライポンプ等の各種真空ポンプによって構成されるものであって、成膜チャンバ23での成膜処理を行うときには、反応室31S内の圧力を例えば1Pa〜1000Paの所定圧力に減圧する。
【0038】
チャンバリッド32のチャンバ本体31側には、複数の第1供給孔H1と、複数の第2供給孔H2とを有するシャワープレート36が取り付けられている。第1供給孔H1は、ZrBO膜の形成材料である四水素化ホウ素ジルコニウム(Zr(BH)を反応室31Sに供給する。より詳しくは、第1供給孔H1には、チャンバリッド32の内部に形成されたガス通路GP1と該チャンバリッド32を貫通する原料ガスポートP2とを介して、Zr(BHの入った原料タンクTKが接続されている。原料タンクTKには、キャリアガスであるアルゴン(Ar)を該原料タンクTKに供給するためのマスフローコントローラMFC1が接続されている。原料タンクTKは、マスフローコントローラMFC1からのキャリアガスによってバブリングされたZr(BHを、キャリアガスとともに原料ガスポートP2に導出することで、Zr(BHとキャリアガスとを含むZr(BHガスを第1供給孔H1から反応室31Sに供給する。
【0039】
他方、第2供給孔H2は、酸素ガス及び窒素ガスを反応室31Sに供給する。より詳しくは、第2供給孔H2には、チャンバリッド32の内部に形成されたガス通路GP2と該チャンバリッド32を貫通する改質ガスポートP3とを介してマスフローコントローラMFC2,MFC3,MFC4が接続されている。マスフローコントローラMFC2は、酸素含有ガスを構成する酸素(O)ガスを供給する。マスフローコントローラMFC3、及びマスフローコントローラMFC4は、それぞれ窒素(N)ガス、及びArガスを供給する。これらマスフローコントローラMFC2,MFC3,MFC4は、各ガスを所定流量に調量するとともに、各ガスを改質ガスポートP3へ導出する。
【0040】
こうした成膜チャンバ23では、基板Sに対するZrBO膜の形成が以下のように実施される。まず、基板Sが、上記ロードロックチャンバ21及びコアチャンバ22を介して成膜チャンバ23内に搬入される。そして、基板Sが、抵抗加熱ヒータ33Hによって所定の温度に加熱された基板ステージ33上に載置される。抵抗加熱ヒータ33Hから発せられる熱によって基板Sの温度が例えば240℃にまで加熱されると、Zr(BHガス、Oガス、及びNガスが、各ポートP2,P3を介して反応室31S内に供給される。これらガスが基板Sの表面に達すると、該基板Sからの熱をZr(BHとOガスとが受けることによってZr(BHの熱分解反応及び熱酸化反応が進行する。こうして形成されたZrの酸ホウ化物(ZrBO)が基板Sの表面及び該基板Sに形成された貫通孔Hの内側面に堆積する結果、これらの部位がZrBO膜によって被覆される。
【0041】
なお、上述の成膜チャンバ23においては、マスフローコントローラMFC2、チャンバリッド32、及びシャワープレート36が、酸素含有ガス供給部を構成している。また、マスフローコントローラMFC1、原料タンクTK、チャンバリッド32、及びシャワープレート36が、原料供給部を構成している。そして、基板ステージ33及び抵抗加熱ヒータ33Hが加熱部を構成している。
【0042】
酸化チャンバ24は、基板Sに形成されたZrBO膜を酸化する真空槽である。図3は、酸化チャンバ24の概略構成を示している。酸化チャンバ24は、先の図2に示される成膜チャンバ23と同様に、チャンバ本体41とチャンバリッド42とによって形成された反応室41Sを有している。酸化チャンバ24の反応室41S内には、抵抗加熱ヒータ43Hを有した基板ステージ43が配設されている。基板ステージ43の下方には、基板ステージ43を昇降する昇降機構44が連結されている。また、チャンバ本体41の側部には、排気ポートP4を介して排気ポンプ45が接続されている。
【0043】
チャンバリッド42のチャンバ本体41側には、複数の供給孔H3を有したシャワープレート46が取り付けられている。供給孔H3は、活性化した酸素及び活性化したアルゴンを反応室41Sに供給する。より詳しくは、供給孔H3には、チャンバリッド42の内部に形成されたガス通路GP3と該チャンバリッド42を貫通する活性ガスポートP5とを介して、マスフローコントローラMFC5,MFC6,MFC7,MFC8が接続されている。マスフローコントローラMFC5はOガスを供給し、マスフローコントローラMFC6はNガスを供給する。そして、マスフローコントローラMFC7がArガスを供給し、マスフローコントローラMFC8はNOガスを供給する。これらマスフローコントローラMFC5,MFC6,MFC7,MFC8は、各ガスを所定流量に調量するとともに、各ガスをマイクロ波プラズマ源PLへ導出する。
【0044】
ガス通路GP3の上部に設置されたマイクロ波プラズマ源PLの内部には、石英あるいはアルミナによって形成された耐熱性を有する放電管47が配設されている。マイクロ波プラズマ源PLの外側には、マイクロ波電源FGによって駆動されるマイクロ波源48が配設されており、マイクロ波源48から出力されるマイクロ波は同軸ケーブル49aでマイクロ波プラズマ源PLにコネクタ49bを介して導かれ、コネクタ49bに繋がれたアンテナ49cを介して該マイクロ波は放電管47に供給される。放電管47の内部は、反応室41Sにチャンバリッド42の内部に形成されたガス通路GP3、及び供給孔H3を介して繋がれている。
【0045】
マイクロ波源48は、例えば2.45GHzのマイクロ波を発振させるマグネトロンであって、マイクロ波電源FGからの駆動電力により所定の出力範囲、例えば0.01kW〜3.0kWの範囲でマイクロ波を出力する。同軸ケーブル49aは、マイクロ波源48が発振させるマイクロ波をその内部に伝播させることで放電管47の内部へと導く。マイクロ波源48がマイクロ波を発振させるときに、同軸ケーブル49aにより伝播したマイクロ波をマイクロ波プラズマ源PL内のアンテナ49cを介して放電管47に照射することによって、放電管47内のガスが活性化される。なお、酸化チャンバ24は、各種ガスの活性化によって生成されたラジカルが、反応室41S内に供給されるような構成とされている。
【0046】
こうした酸化チャンバ24では、基板Sに形成されたZrBO膜の酸化が以下のように実施される。まず、成膜チャンバ23内でZrBO膜が形成された基板Sが、コアチャンバ22を介して酸化チャンバ24に搬入される。そして、基板Sが、抵抗加熱ヒータ43Hによって所定の温度に加熱された基板ステージ43上に載置される。これにより、基板Sの温度が例えば250℃に達すると、各種ガスの供給及びマイクロ波の供給が開始されることによって、基板Sの表面に酸素ラジカルを含む活性種が供給される。その結果、基板Sの上面や上記貫通孔Hの内側面に形成されたZrBO膜が酸素ラジカルと反応して、ZrBO膜がさらに酸化される。
【0047】
また、本実施形態の成膜装置20では、成膜チャンバ23と酸化チャンバ24とが各別に設けられている。しかしながら、例えば、先の図3に示したマイクロ波電源FG、マイクロ波源48、及びマイクロ波プラズマ源PLを成膜チャンバ23に設けるとともに、ZrBO膜の形成時にはマイクロ波を供給しない一方、ZrBO膜の酸化時には、マイクロ波を供給するようにしてもよい。これにより、基板Sに熱CVD法によってZrBO膜を形成すること、及び該ZrBO膜をマイクロ波によって活性化された酸素によって酸化することが、単一の真空槽で実施できるようになる。
【0048】
次に、図4及び図5を参照して、絶縁膜形成方法について説明する。図4は、絶縁膜形成方法の処理手順を示すフローチャートである。絶縁膜としてのZrBO膜を形成する際には、まず、上記成膜チャンバ23において、基板S上にZrBO膜を形成してその表面を覆う被覆工程が実施される(ステップS1)。
【0049】
このとき、マスフローコントローラMFC2からのOガス及びマスフローコントローラMFC3からのNガスが反応室31S内に供給される。また、マスフローコントローラMFC1からのArガスと原料タンクTK内のZr(BHとの混合物であるZr(BHガスが反応室31Sに供給される。そして、酸素によるZr(BHの熱酸化反応が基板S上で進行することにより、基板Sの表面及び貫通孔Hの内側面にZrBO膜が形成される。なお、窒素ガスによるZr(BHの熱窒化反応は、上述した熱酸化反応と比較して進行し難い。そのため、上述したZrBO膜中には、窒素が混入していない、あるいは、窒素が混入したとしても、該窒素の濃度は酸素の濃度と比較して極めて低いものとなる。また、上記熱酸化反応では、Zr(BHの酸化反応が基板Sの表面で進行するため、同酸化反応が気相中で進行する場合と比較して、基板Sの表面に対する段差被覆性とZrBO膜の膜密度とを高めることが可能である。
【0050】
なお、上記被覆工程では、上記Oガス及びNガスに加えて、マスフローコントローラMFC4からArガスを供給してもよい。また、上記被覆工程において、Nガスの代わりにマスフローコントローラMFC4からArガスを供給してもよい。
【0051】
次いで、ZrBO膜の形成された基板Sが、成膜チャンバ23から酸化チャンバ24に運ばれた後、基板Sの表面を酸化する酸化工程が実施される(ステップS2)。このとき、マスフローコントローラMFC5からのOガス及びマスフローコントローラMFC6からのNガスが放電管47内で活性化されることで、活性化された酸素(酸素ラジカル)及び活性化された窒素(窒素ラジカル)を含む活性種が反応室41S内に供給されて、基板Sを覆うZrBO膜がその表面から酸化される。
【0052】
こうしたZrBO膜の酸化自体は、ZrBO膜の表面に酸素イオンを供給することによっても可能ではある。しかしながら、酸素イオンを用いた場合、該酸素イオンがZrBO膜に入射するときのエネルギーによって、ZrBO膜がダメージを受けやすい。この点、本実施形態によれば、酸素イオンよりもエネルギーの小さい酸素ラジカルを用いてZrBO膜の酸化を行うようにしていることから、ZrBO膜へのダメージを抑えつつ該ZrBO膜を酸化することができる。なお、酸化工程においても、Oガス及びNガスに加えてArガスを供給してもよい。また、Nガスの変わりArガスを供給してもよい。
【0053】
そして、被覆工程と酸化工程とから構成される一連の工程がn回、例えば5回実施されることによって所定膜厚のZrBO膜が形成されるまで、ZrBO膜の形成とその酸化とが繰り返し実施される(ステップS3)。このように、本実施形態においては、被覆工程と酸化工程とから構成される一連の工程を複数回繰り返すことによってZrBO膜を形成するようにしている。そのため、同一の膜厚を有したZrBO膜を形成する場合、被覆工程と酸化工程とを1度ずつのみ行うことによってZrBO膜を形成するよりも、膜の全体がより確実に酸化されたZrBO膜を形成することができる。
【0054】
次いで、上記被覆工程及び酸化工程について、図5を参照して詳述する。図5は、ZrBO膜の形成時における(a)Zr(BNガス、(b)Oガス、及び(c)Nガスを供給するマスフローコントローラのオン(ON)及びオフ(OFF)の態様を示すことによって、各ポートに対する各種ガスの供給態様を示している。また、ZrBO膜の酸化時における(d)Oガス及び(e)Nガスを供給するマスフローコントローラのオン(ON)及びオフ(OFF)の態様を示すことによって、各ポートに対する各種ガスの供給態様を示している。加えて、ZrBO膜の酸化時における(f)マイクロ波電源のオン(ON)及びオフ(OFF)の態様を示すことによって、マイクロ波源から放電管へのマイクロ波の供給態様を示している。
【0055】
まず、成膜チャンバ23に基板Sが搬入されるとともに、該基板Sの温度が例えば240℃とされた状態で、Zr(BHガス、Oガス、及びNガスの供給が開始される(タイミングt1)。Zr(BHのキャリアガスであるArガス、Oガス、及びNガスの供給流量は、それぞれ例えば100sccm、50sccm、及び450sccmとされる。
【0056】
そして、これらガスの供給が所定期間、例えば60秒間実施されると、同ガスの供給が停止される(タイミングt2)。本実施形態では、上記各種ガスが供給されている期間を被覆工程としている。そのため、上記タイミングt1からタイミングt2までの期間が被覆工程に当たる。
【0057】
被覆工程が終了すると、基板Sが成膜チャンバ23から酸化チャンバ24に運ばれた後に、Oガス及びNガスの供給が開始される(タイミングt3)。Oガス及びNガスの供給流量は、それぞれ例えば25sccm、及び475sccmとされる。なお、タイミングt2からタイミングt3までの時間は、例えば基板Sの酸化チャンバ24への搬入が完了するまでの時間に設定される。
【0058】
その後、マイクロ波電源FGがオンの状態とされることによって、マイクロ波電源FGから放電管47にマイクロ波が供給される(タイミングt4)。マイクロ波の電力量は、例えば300Wとされる。これにより、基板Sの表面に対する酸素ラジカルの供給が開始されることで、ZrBO膜の酸化が開始される。なお、Oガスの供給を開始してから所定期間の後にマイクロ波の供給を開始するようにしている。つまり、反応室41S内へのOガス等の供給が安定した後にマイクロ波の供給を開始するようにしているため、該ガスの活性化を安定に行うことができる。ちなみに、タイミングt3からタイミングt4までの期間は、例えば酸化チャンバ24内の反応室41Sが所定の圧力に調圧されるまでの時間に設定される。
【0059】
そして、マイクロ波の供給が所定期間、例えば60秒間実施されると、Oガス及びNガスの供給と、マイクロ波の供給とが停止される(タイミングt5)。本実施形態では、マイクロ波が供給されている期間を酸化工程としている。そのため、上記タイミングt4からタイミングt5までの期間が酸化工程に当たる。
【0060】
酸化工程が終了すると、基板Sが酸化チャンバ24から再び成膜チャンバ23に運ばれた後、被覆工程が実施される。被覆工程と酸化工程とから構成される一連の工程が所定回数、例えば5回繰り返されると、基板Sが成膜装置20から搬出されて、基板Sの貫通孔Hに対するZrBO膜の形成が終了される。なお、図5におけるタイミングt6は5回目の酸化工程に先立つOガスの供給開始タイミングであり、タイミングt7はマイクロ波の供給開始タイミングである。そして、タイミングt8は、Oガス及びマイクロ波の供給停止タイミングである。つまりは、タイミングt7からタイミングt8の期間が、5回目の酸化工程に当たる。
【0061】
[実施例]
[ZrBO膜の形成]
直径0.2μm、深さ1μm(アスペクト比5)の凹部を複数有する直径200mmのシリコン基板に対して、以下の条件にてZrBO膜を形成した。
・キャリアガス(Arガス)流量 100sccm
・Oガス流量 50sccm
・Nガス流量 450sccm
・成膜チャンバ内の圧力 420Pa
・基板温度 240℃
・成膜時間 600秒
【0062】
図6は、シリコン基板51に形成された凹部52と、上記条件にてシリコン基板51の表面及び凹部52の内側面に形成されたZrBO膜53との断面構造を示すSEM画像である。同図6に示されるように、シリコン基板51の表面に形成されたZrBO膜53の厚さを表面膜厚FT1とするとき、該表面膜厚FT1は15.9nmであった。また、凹部52の側面における深さ方向の略中央部でのZrBO膜53の厚さを側面膜厚FT2とするとき、該側面膜厚FT2は15.7nmであって、表面膜厚FT1に対する側面膜厚FT2の百分率である側面被覆率は、98.7%であった。そして、凹部52の底面におけるZrBO膜53の厚さを底面膜厚FT3とするとき、該底面膜厚FT3は15.3nmであって、表面膜厚FT1に対する底面膜厚FT3の百分率である底面被覆率は、96.2%であった。
【0063】
このように、側面被覆率及び底面被覆率のいずれもが、100%付近の値であって、上記条件、つまり熱CVD法によって形成されたZrBO膜は段差被覆率が良好な膜であることが認められた。ちなみに、こうしたZrBO膜に対して上記酸化工程による酸化処理を施したとしても、その段差被覆率は維持されることから、成膜工程と酸化工程とを繰り返すことによって得られたZrBO膜も、同等の段差被覆性を有することになる。
【0064】
[ZrBO膜の組成]
直径200mmのシリコン基板に対して、膜厚が約10nmのZrBO膜を以下の条件にて形成することによって試験用ZrBO膜を得た。
(成膜工程)
・キャリアガス(Arガス)流量 100sccm
・Oガス流量 50sccm
・Nガス流量 450sccm
・成膜チャンバ内の圧力 420Pa
・基板温度 240℃
・成膜時間 75秒
(酸化工程)
・Oガス流量 25sccm
・Nガス流量 475sccm
・酸化チャンバ内の圧力 300Pa
・マイクロ波電力 300W
・基板温度 240℃
・酸化時間 60秒
なお、上記条件にて成膜工程と酸化工程との組を5回繰り返した。
【0065】
そして、ZrBO膜中に含まれる元素の濃度をオージェ電子分光分析法(AES:Auger Electron Spectroscopy )を用いて計測した。図7は、AESによる計測結果を示している。なお、図7において、横軸は上記試験用ZrBO膜をスパッタした時間であって、ZrBO膜の表面からの距離に読み替えることができる。また、縦軸は、分析対象の元素であるホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ケイ素(Si)、及びジルコニウム(Zr)の各々の元素濃度を示している。ただし、図7に示される元素濃度は、測定器に付属するカタログ値の感度係数を用いて算出されたものであり、各元素間の相互作用の影響は無視した値である。
【0066】
同図7に示されるように、ZrBO膜中には、炭素、窒素、及びケイ素がほとんど含まれていなかった。また、酸素、ホウ素、及びジルコニウムが含まれているとともに、この順でZrBO膜に占める割合が大きかった。より詳細には、酸素の元素濃度が45.0%、ホウ素の元素濃度が37.0%、ジルコニウムの元素濃度が15.7%であった。
【0067】
[ZrBO膜の誘電率とリーク電流値]
直径200mmの0.01Ωcm程度の低抵抗P型シリコン基板に対して、膜厚が約10nmのZrBO膜を上記AES用のZrBO膜を得たときと同様の条件で形成することによって試験用ZrBO膜を得た。
【0068】
まず、ZrBO膜の誘電率を以下の方法にて算出した。つまり、電極面積が2.79E−3cmである水銀プローブを用いて、直流バイアスに1MHzの高周波を重畳してC−V特性を測定した後、C−V特性の測定結果から誘電率を算出した。
【0069】
ZrBO膜の誘電率の測定結果とともに、絶縁膜として多用されている酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(Si)、遷移金属の酸化物である酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)、及び酸化チタン(TiO)の誘電率を表1に示す。なお、ZrBO以外の酸化物における誘電率は、一般の専門書や文献等を参照した値である。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示されるように、ZrBO膜の誘電率は、Zrの酸化物を含めた他の遷移金属の酸化物よりも極端に低いことが認められた。加えて、信号遅延が起こりにくい程度の低誘電率膜であるSiO膜に近い誘電率であることが認められた。それゆえに、上記方法によって形成されたZrBO膜を、シリコン貫通電極(TSV)用の絶縁膜として用いた場合、他の遷移金属の酸化膜よりも該TSVにおける信号遅延を抑えることができる。
【0072】
次に、上記誘電率測定時と同様の試験用ZrBO膜におけるリーク電流としての電流密度J(A/cm)を以下の方法にて測定した。つまり、ZrBO膜が形成された低抵抗P型シリコン基板を接地するとともに、ZrBO膜上の水銀プローブに負の電圧を0〜20Vまで印加することで、ZrBO膜に印加される電界E(MV/cm)に対する電流密度を測定した。
【0073】
図8には、上記試験用ZrBO膜の電流密度を測定した結果が実線で示されるとともに、成膜工程のみによって形成されたZrBO膜(比較用ZrBO膜)の電流密度を測定した結果が一点鎖線で示されている。同図8に示されるように、印加電圧の大きさに関わらず、試験用ZrBO膜の電流密度は、比較用ZrBO膜の電流密度よりも小さいことが認められた。つまり、成膜工程にて形成されたZrBO膜を、酸化工程においてさらに酸化することによって、その絶縁性を高めることができることが認められた。
【0074】
また、試験用ZrBO膜は、半導体装置における一般的な駆動電界である2MV/cmの電界が印加されたときの電流密度の値が4.17×10−10A/cmであって、実用上好ましいとされる1×10−8A/cmを超えない値であることが認められた。これに対し、比較用ZrBO膜に2MV/cmの電界が印加されたときの電流密度の値は3.23×10−9A/cmであって、1×10−8A/cmを超えない値であった。なお、TEOS(Tetra-ethyl-ortho-silicate :オルトケイ酸テトラエチル)を原料に用いて240℃においてプラズマCVD法によって形成されたシリコン酸化膜の場合には、同測定法において2MV/cmの電界が印加されると1×10−8A/cmを超えるような値であった。すなわち、上述の方法にて形成されたZrBO膜を上記TSV用の絶縁膜として用いることにより、プラズマCVD法によって形成されたシリコン系の絶縁膜を用いるよりも、シリコン基板とTSVとの絶縁性を高めることができることが認められた。
【0075】
[ZrBO膜のバリア性]
膜厚が100nmの銅膜を有するシリコン基板上に、上記AES用のZrBO膜を得たときと同様の条件にてZrBO膜を20nmだけ積層することによって試験用ウエハ(No.1)を得た。そして、試験用ウエハ(No.1)に対して400℃の真空中で1時間アニール処理を施した後、SIMS測定による膜厚方向の元素分析をZrBO膜に対して行った。
【0076】
また、膜厚が100nmのアルミニウム膜を有するシリコン基板上に、上記AES用のZrBO膜を得たときと同様の条件にてZrBO膜を20nmだけ積層することによって試験用ウエハ(NO.2)を得た。そして、試験用ウエハ(No.2)に対して上記試験用ウエハ(No.1)と同様のアニール処理を施した後、SIMS測定による膜厚方向の元素分析をZrBO膜に対して行った。
【0077】
SIMS測定の結果、試験用ウエハ(No.1)のZrBO膜中には銅の存在が認められなかった。また、試験用ウエハ(No.2)のZrBO膜中にはアルミニウムの存在が認められなかった。すなわち、上記成膜方法にて形成したZrBO膜は、銅及びアルミニウムの拡散を抑制する機能、つまりバリア性を有していることが認められた。
以上説明したように、上記実施形態によれば以下に列挙する効果が得られるようになる。
【0078】
(1)Zr(BHと酸素ガスとが基板Sからの熱を受けることによって、Zr(BHの熱酸化反応が基板S上で進行する。そして、基板Sの表面及び基板Sの有する貫通孔Hにおけるに内側面にZrBO膜が形成される。そのため、金属配線に対するバリア性、シリコン系の絶縁膜と同じ程度の誘電率、及び熱CVD法によって形成されるシリコン酸化膜と同じ程度の絶縁性を有した絶縁膜として機能するZrBO膜を基板Sの表面及び貫通孔Hの内側面に形成することができる。
【0079】
(2)Zr(BHと酸素とが基板Sの熱を受けてZrBO膜を形成する被覆工程の後に、形成されたZrBO膜に対して活性化した酸素を供給する酸化工程を設けるようにした。そのため、ZrBO膜がより確実に酸化されることから、該ZrBO膜がより確実に絶縁性を発現するようになる。
【0080】
(3)被覆工程と酸化工程とからなる一連の工程を複数回繰り返すようにした。これにより、同一の膜厚を有したZrBO膜を形成する場合、被覆工程と酸化工程とを1度ずつ行うのみによって該ZrBO膜を形成するよりも、膜の全体をより確実に酸化することができる。それゆえに、絶縁膜16の絶縁性を高めることもできる。
【0081】
(4)活性化した酸素として酸素ラジカルを用いるようにした。そのため、ZrBO膜を酸化可能な酸素イオンを用いた場合と比較して、入射エネルギーによるダメージを抑えつつ、十分な絶縁性が得られるだけ酸化されたZrBO膜を形成することができる。
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
【0082】
・ZrBO膜の形成時における基板温度、反応室内の圧力、各種ガスの供給流量、及びマイクロ波の電力等のプロセス条件は、ZrBO膜の形成が可能な範囲で任意に変更可能である。
【0083】
・Zr(BHのキャリアガスとしてはArガスに限らず、他の不活性ガス、例えばHeガスやNeガス等を用いるようにしてもよい。
・被覆工程では、酸素含有ガスとしてOガスを用いるようにした。これに限らず、OガスとマスフローコントローラMFC8から供給されるNOガスとを併用するようにしてもよい。また、これら酸素含有ガスに加えてHガスを用いるようにしてもよい。これにより、ZrBO膜を形成しつつ、成膜雰囲気中に含まれる水素や窒素によってZrBO膜の組成を調整することができる。それゆえに、絶縁膜としての特性を発現する上でZrBO膜の組成を至適なものとすることもできるようになる。
【0084】
・酸素含有ガスには、上記Oガス、HOガス、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、及びCOガスの少なくとも1つを用いるようにすればよい。このうち、酸化ガスとしてOガス又はHOガスが用いられる場合には、他の酸化ガスが用いられる場合と比較して、Zr(BHの酸化反応が進行しやすくなる。一方、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、及びCOガスのいずれを用いる方法では、上述した酸素ガスやHOガスよりは酸化反応が進行し難いものの、これらのガスを活性状態にすることで、Zr(BHガスの酸化反応が進行する。そのため、低い成膜速度を細かい範囲で調整することが求められる場合に有効である。
【0085】
・なお、酸素含有ガスとしてNOガスを用いない場合には、酸化チャンバ24からマスフローコントローラMFC8を割愛してもよい。
・また、酸化工程においても、上記被覆工程と同様のガスを用いるようにしてもよい。これにより、ZrBO膜を酸化しつつ、酸化雰囲気中に含まれる水素や窒素によってZrBO膜の組成を調整することができる。それゆえに、絶縁膜16としての特性を発現する上でZrBO膜の組成を至適なものとすることもできるようになる。
【0086】
・被覆工程では、Nガスを添加するようにした。これに代えてArガスとOガスとのみによってZrBO膜を形成するようにしてもよい。
・また、酸化工程においても、Nガスを添加することなく、ArガスとOガスとのみによってZrBO膜を酸化するようにしてもよい。
【0087】
・被覆工程及び酸化工程における基板温度、成膜室内の圧力、及びマイクロ波の電力等のプロセス条件は、ZrBO膜の形成や酸化が可能な範囲で任意に変更可能である。
・成膜装置20の処理対象である基板Sは、シリコン基板11、配線層12、絶縁層13、及び接着層14を備える構成とした。これに限らず、少なくとも、貫通孔Hが形成されたシリコン基板11を有する構成であればよい。
【0088】
・ZrBO膜の形成対象は、シリコン貫通電極15用の貫通孔Hが設けられたシリコン基板11を備える基板Sに限らない。例えば、埋込み配線用の凹部が形成された基板や、層間に形成される絶縁膜等、上述のようなバリア性、絶縁性、あるいは誘電率等が必要とされる部位に用いることができる。
【0089】
・ZrBO膜の形成対象は、シリコン基板以外の半導体基板を有するものであってもよい。
・被覆工程に先立つZr(BHガス、Oガス、及びNガスの供給をタイミングt1にて同時に開始するようにした。また、酸化工程に先立つOガス及びNガスの供給をタイミングt3あるいはタイミングt6にて同時に開始するようにした。これに限らず、これらガスの供給を開始するタイミングは、各別等、任意に変更可能である。
【0090】
・酸化工程においては、各種ガスの供給の後にマイクロ波の供給を行うようにした。これに限らず、各種ガスの供給とマイクロ波の供給とを同時に行うようにしてもよい。
【0091】
・酸化工程では、各種ガスの供給とマイクロ波の供給とを同時に停止するようにした。これに限らず、マイクロ波の供給を停止した後に各種ガスの供給を停止するようにしてもよい。
【0092】
・上記被覆工程と酸化工程とを単一のチャンバにて実施可能な装置として上記成膜装置20を具現化するようにしてもよいことは、上述したとおりである。この場合、被覆工程を終了するタイミングであるタイミングt2と、酸化工程に用いられる酸素ガスの供給タイミングであるタイミングt3の間は、被覆工程で用いられたZr(BHガス、Oガス、及びNガスがチャンバ内から排気されるまでの時間とすればよい。また、酸化工程の終了タイミングであるタイミングt5と、該酸化工程に続いて行われるZr(BHガス等の供給開始タイミングとの間も、酸化工程で用いられたOガスがチャンバ内から排気されるまでの時間とすればよい。
【0093】
・また、酸化工程に用いるガスが被覆工程に用いるガスと共通であれば、酸化工程とその次に実施される被覆工程の間では、チャンバ内のガスを排気しなくともよい。この場合、酸化工程とそれに続く被覆工程とを連続して行うようにしてもよい。
【0094】
・酸化工程においては、ZrBO膜の酸化のために供給される活性化された酸素として酸素ラジカルを用いるようにした。これに限らず、酸化工程におけるイオンの衝撃がシリコン基板に形成された素子やZrBO膜の電気的特性等に影響しないのであれば、上記活性化された酸素として酸素イオンを用いるようにしてもよい。
【0095】
・上述のように、酸化工程にて酸素イオンによってZrBO膜を酸化するのであれば、酸化チャンバ24には、マイクロ波電源FG、マイクロ波源48、及びマイクロ波プラズマ源PLに代えて高周波電源を設けるようにしてもよい。
【0096】
・被覆工程と酸化工程とから構成される一連の工程を繰り返す回数を5回とした。これに限らず、被覆工程と酸化工程との組を繰り返す回数は、1以上の任意の回数とすることができる。つまり、貫通孔Hに形成するZrBO膜の目標膜厚や被覆工程1回あたりに形成できるZrBO膜の厚さ等に応じて上記一連の工程を繰り返す回数を決めればよい。
【0097】
・被覆工程にてZrBO膜を形成した後、酸化工程にて形成されたZrBO膜を酸化するようにしたが、被覆工程にて形成されたZrBO膜の絶縁性が絶縁膜として至適な範囲であれば、酸化工程を実施しなくともよい。
【0098】
・上記絶縁膜の形成方法では、上記成膜装置20の有する成膜チャンバ23において被覆工程を実施した後に、同成膜装置20の有する酸化チャンバ24において酸化工程を実施することによって絶縁膜としてのZrBO膜を形成するようにした。これに限らず、被覆工程と酸化工程とを各別の成膜装置にて実施することによって、ZrBO膜を形成するようにしてもよい。
【0099】
・実施形態及び実施例においては、Zr、B、及びOを主要な構成元素として含む絶縁膜、つまりZrBO膜が形成される条件を例示した。これに限らず、絶縁膜の構成元素として窒素(N)が含まれるような条件で、該絶縁膜の形成を実施するようにしてもよい。なお、ZrBOに加えてNを主要な構成元素として含む絶縁膜、つまりZrBON膜であっても、上述のようなバリア性、絶縁性、及び誘電率に関わる条件が満たされることが、本願発明者らによって確認されている。
【符号の説明】
【0100】
10…半導体装置、11,41,51…シリコン基板、12…配線層、13…絶縁層、14…接着層、15…シリコン貫通電極(TSV)、16…絶縁膜、20…成膜装置、21…ロードロックチャンバ、22…コアチャンバ、22a…搬送ロボット、23…成膜チャンバ、24…酸化チャンバ、31,41…チャンバ本体、31S,41S…反応室、32,42…チャンバリッド、33,43…基板ステージ、33H,43H…抵抗加熱ヒータ、34,44…昇降機構、35,45…排気ポンプ、36,46…シャワープレート、47…放電管、48…マイクロ波源、49a…同軸ケーブル、49b…コネクタ、49c…アンテナ、51…シリコン基板、52…凹部、53…ZrBO膜、FG…マイクロ波電源、GP1,GP2,GP3…ガス通路、H…貫通孔、H1…第1供給孔、H2…第2供給孔、H3…供給孔、MFC1,MFC2,MFC3,MFC4,MFC5,MFC6…マスフローコントローラ、P1,P4…排気ポート、P2…原料ガスポート、P3…改質ガスポート、P5…活性ガスポート、PL…マイクロ波プラズマ源、S…基板、TK…原料タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に絶縁膜を形成する方法であって、
加熱された前記半導体基板に向けてZr(BHと酸素含有ガスとを供給することによって、前記Zr(BHを前記半導体基板上で熱酸化してZrBOを含む絶縁膜を前記半導体基板に形成する
ことを特徴とする絶縁膜形成方法。
【請求項2】
前記ZrBOを含む絶縁膜を前記半導体基板に形成して該半導体基板の表面を該絶縁膜で覆う被覆工程と、
前記被覆工程にて形成された前記絶縁膜に活性化した酸素を供給して該絶縁膜を酸化する酸化工程とを備える
請求項1に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項3】
前記被覆工程と前記酸化工程とからなる一連の工程を繰り返す
請求項2に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項4】
前記活性化した酸素として酸素ラジカルを用いる
請求項2又は3に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項5】
前記半導体基板がシリコン基板であり、
該シリコン基板はその厚さ方向に貫通するシリコン貫通電極用の貫通孔を複数有し、
前記絶縁膜は、前記貫通孔の内側面に形成される
請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項6】
前記酸素含有ガスとして、Oガス、HOガス、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、及びCOガスの少なくとも1つが用いられる
請求項1〜5のいずれか一項に記載の絶縁膜形成方法。
【請求項7】
半導体基板を収容する真空槽と、
前記真空槽内に配置されて前記半導体基板を加熱する加熱部と、
前記真空槽内にZr(BHを供給する原料供給部と、
前記真空槽内に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部とを備え、
前記酸素含有ガスの雰囲気にて前記Zr(BHを前記半導体基板上で熱酸化して前記半導体基板にZrBOを含む絶縁膜を形成する
絶縁膜形成装置。
【請求項8】
前記酸素含有ガス供給部は、前記酸素含有ガスとして、Oガス、HOガス、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、及びCOガスの少なくとも1つを供給する
請求項7に記載の絶縁膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−110142(P2013−110142A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251431(P2011−251431)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】