説明

絶縁膜形成用塗布液、それを用いた絶縁膜およびそれに用いる化合物の製造方法

【課題】水蒸気中における焼成工程での収縮が小さく、シリカ被膜の亀裂や半導体基板との剥離が発生しにくい絶縁膜形成用塗布液、それを用いた絶縁膜およびそれに用いる化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】H−NMRスペクトルにおいて、SiH基に由来する4.3〜4.5ppmのピーク面積に対する、SiH基とSiH基とに由来する4.5〜5.3ppmのピーク面積の比が、4.2〜50である無機ポリシラザンと、有機溶媒とを有する絶縁膜形成用塗布液である。絶縁膜は、上記絶縁膜形成用塗布液を用いて得る。無機ポリシラザンは、ジハロシラン化合物、トリハロシラン化合物、又はこれらの混合物と塩基とを反応させてアダクツを形成した後、アダクツの溶液または分散液にアンモニアを−50〜−1℃にて反応させることにより得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の素子分離領域や配線層間絶縁膜を構成する絶縁膜形成用塗布液、それを用いた絶縁膜およびそれに用いる化合物の製造方法に関し、詳しくは、水蒸気中における焼成工程での収縮が小さく、シリカ被膜の亀裂や半導体基板との剥離が発生しにくい絶縁膜形成用塗布液、それを用いた絶縁膜およびそれに用いる化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ被膜は、絶縁性、耐熱性、耐摩耗性、耐蝕性の点で優れていることから、半導体装置の絶縁膜として広く使用されている。半導体装置の微細化に伴い、狭い隙間を埋め込む絶縁膜材料が望まれている。半導体装置に用いられる絶縁膜は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition、化学蒸着)法や塗布法により形成される。CVD法は、品質のよい絶縁膜が得られるが、生産性が低く、特殊な化学蒸着装置を必要とするためランニングコストに難点がある。一方、塗布法は、コストと生産性の面で優れていることから、品質の向上を目指し種々の材料が検討されている。
【0003】
中でも、ポリシラザンは、Si−N結合(シラザン結合ともいう)を基本ユニットとする高分子化合物であり、比較的安価な方法である塗布法により、狭い隙間にも品質のよいシリカ系絶縁膜を形成できる材料として知られている。ポリシラザンを用いて絶縁膜を作成する方法としては、(1)ポリシラザンのキシレンやジブチルエーテルなどの溶液を半導体基板等にスピンコート等により塗布する塗布工程と、(2)ポリシラザンが塗布された半導体基板等を150℃程度に加熱し溶媒を蒸発させる乾燥工程と、(3)この半導体基板等を水蒸気中において230〜900℃程度で焼成する焼成工程とによる方法(例えば、特許文献1、2を参照)が挙げられる。
【0004】
また、分子中に有機基を有しないポリシラザン(以下、「無機ポリシラザン」とも称する)は、−(SiH−NH)−で表される基本ユニットの繰り返しからなる直線状ポリマーではなく、鎖状部分と環状部分を含む種々の構造を有するポリマーの混合物である。無機ポリシラザン分子中のケイ素原子には、1〜3個の水素原子が結合していることが知られており、無機ポリシラザンのSiH基、SiH基、SiH基の比に注目した先行技術も知られている。
【0005】
例えば、特許文献3には、一分子中のSiH基に対するSiH基の比が2.5〜8.4であり、元素比率でSi:N:H=50〜70質量%:20〜34質量%:5〜9質量%であるポリシラザンにより耐熱性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れると共に、表面硬度の高い被膜が得られ、セラミックス成形体、特にセラミックス成形焼結体用のバインダーとして好適に使用できることが開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、H−NMRスペクトルのピーク面積比における、SiH基、SiH基およびSiH基の和に対するSiH基の割合が0.13〜0.45であり、数平均分子量200〜100,000であるポリシラザンを必須成分とする紫外線遮蔽ガラスの保護膜形成用組成物を、ガラス平面上の紫外線遮蔽層に塗布し、乾燥空気中で加熱することにより力学的強度や化学的安定に優れた保護膜が形成されることが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、H−NMRスペクトルのピーク面積比における、SiH基とSiH基の和に対するSiH基の割合を0.15〜0.45に調整したポリシラザンの不活性有機溶剤溶液から成る層間絶縁膜形成用塗布液が、保存安定性及び塗布特性に優れると共に、絶縁性が高く、緻密で表面形状の良好な被膜を再現性よく形成することができることが開示されている。また、ポリシラザンの活性水素の一部をトリメチルシリル基に置換することにより調整が可能であり、調整剤としてヘキサメチルジシラザンを挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−223867号公報
【特許文献2】特開2001−308090号公報
【特許文献3】特開平1−138108号公報
【特許文献4】特開平5−311120号公報
【特許文献5】特開平10−140087号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「電子材料」工業調査会発行、1994年12月、p.50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に記載されているように、半導体基板等を水蒸気中において230〜900℃程度で焼成すると、ポリシラザンが水と反応してアンモニアを発生し、酸化されてシリカ(二酸化ケイ素)に変化する。ポリシラザンを用いたシリカ絶縁膜の形成ではポリシラザン塗膜がシリカ被膜に変化する過程で収縮が起こる。ポリシラザンからシリカへの反応性を高めるとともに、シリカ表面のシラノール基(Si−OH)を減少させ絶縁性を向上させるためには、水蒸気中における焼成工程をより高温で行うことが好ましいが、高温における焼成は、このような収縮も大きくなる。水蒸気中における焼成工程での収縮率が高い場合には、シリカ被膜の亀裂や、シリカ被膜の半導体基板からの剥離が発生する場合があり、特に、半導体装置の素子間隔が狭い隙間を埋め込む素子間分離用途にポリシラザンを使用し、高温で焼成する場合に亀裂や剥離が発生しやすいという問題があった。今後、半導体素子の間隔を、更に狭めた半導体装置が要求されていることから、使用するポリシラザンにも更なる性能向上が求められている。
【0011】
また、特許文献3に記載の方法には、ポリシラザンは、SiH基の含量が多いために水蒸気中における焼成工程での収縮が大きく、500℃以上で焼成する場合にはシリカ絶縁膜の亀裂が発生しやすくなるという問題を有していた。さらに、特許文献4に記載の手法には、ガラスの保護膜と絶縁被膜とは全く異なる物性が要求され、ポリシラザンを乾燥空気中で加熱した場合には、酸化が不十分となることから、半導体装置等の絶縁被膜として使用できるほど絶縁性の高い被膜を形成することはできないという問題を有していた。さらにまた、特許文献5に記載の手法は、ヘキサメチルジシラザンを反応させたポリシラザンは、水蒸気中における焼成工程での収縮が大きく、500℃以上で焼成する場合にはシリカ絶縁膜の亀裂が発生しやすくなるという問題を有していた。
【0012】
なお、水蒸気中の焼成工程における、無機ポリシラザンからシリカへの反応は、下記反応式(1)および反応式(2)、

に従い進行するものと考えられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0013】
そこで本発明の目的は、水蒸気中における焼成工程での収縮が小さく、シリカ被膜の亀裂や半導体基板との剥離が発生しにくい絶縁膜形成用塗布液、それを用いた絶縁膜およびそれに用いる化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、無機ポリシラザンのSiH基が、上記反応式(1)により生成する水素により還元されてシラン(SiH、モノシランともいう)が生成し、揮発性の高いシランが塗膜より揮散してシリカ膜の形成に寄与しないことにより、収縮が起こり亀裂や剥離が発生すると推定し、無機ポリシラザンの微細構造、特にSiH基に注目して鋭意研究した結果、絶縁膜形成用塗布液の組成を下記組成とすることにより、上記問題を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の絶縁膜形成用塗布液は、H−NMRスペクトルにおいて、SiH基に由来する4.3〜4.5ppmのピーク面積に対する、SiH基とSiH基とに由来する4.5〜5.3ppmのピーク面積の比が、4.2〜50である無機ポリシラザンと、有機溶媒とを含有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の絶縁膜形成用塗布液においては、前記無機ポリシラザンの質量平均分子量は2000〜20000であることが好ましく、また、前記無機ポリシラザン中の質量平均分子量は800以下である成分の割合が20%以下であることが好ましく、さらに、前記無機ポリシラザンは、赤外スペクトルにおいて、2050〜2400cm−1の範囲で最大の吸光度に対する3300〜3450cm−1の範囲で最大の吸光度の比が0.01〜0.15であることが好ましく、さらにまた、前記無機ポリシラザンの波長633nmにおける屈折率は1.550〜1.650であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の絶縁膜形成用塗布液においては、前記無機ポリシラザンは、ジハロシラン化合物、トリハロシラン化合物、又はこれらの混合物と塩基とを反応させてアダクツを形成した後、アンモニアを反応させて得られる無機ポリシラザンであることが好ましく、さらに、前記有機溶媒中のアルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物及びエステル化合物の含量の合計は、0.1質量%以下であることが好ましく、さらにまた、前記無機ポリシラザンの含量は5〜40質量%であることが好ましい。
【0018】
本発明の絶縁膜は、本発明の絶縁膜形成用塗布液により得られることを特徴とするものである。本発明においては、500℃以上の焼成工程を経て得られるものであることが好ましい。
【0019】
本発明の無機ポリシラザンの製造方法は、ジハロシラン化合物、トリハロシラン化合物、又はこれらの混合物と塩基とを反応させてアダクツを形成した後、該アダクツとアンモニアとを反応させる無機ポリシラザンの製造方法において、
前記アダクツの溶液または分散液にアンモニアを−50〜−1℃にて反応させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水蒸気中における焼成工程での収縮が小さく、シリカ被膜の亀裂や半導体基板との剥離が発生しにくい絶縁膜形成用塗布液、それを用いた絶縁膜およびそれに用いる化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の無機ポリシラザンのFT−IRスペクトルである。
【図2】純度99.99%のジブチルエーテルと純度99.51%のジブチルエーテルのガスクロマトグラフ分析のチャートである。
【図3】実施例1の無機ポリシラザンのH−NMRスペクトルである。
【図4】比較例1の無機ポリシラザンのH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の絶縁膜形成用塗布液について詳述する。
本発明の絶縁膜形成用塗布液は、H−NMRスペクトルにおいて、SiH基に由来する4.3〜4.5ppmのピーク面積に対する、SiH基とSiH基とに由来する4.5〜5.3ppmのピーク面積の比が、4.2〜50となる無機ポリシラザンと、有機溶媒とを含有することが肝要である。ここで、無機ポリシラザンとは、分子中に有機基を有しないポリシラザンを指し、また、上記有機基としては、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アルコキシル基等を挙げることができる。
【0023】
本発明の絶縁膜形成用塗布液の無機ポリシラザンは、H−NMRスペクトルにおける、SiH基に由来する4.3〜4.5ppmのピーク面積に対する、SiH基とSiH基とに由来する4.5〜5.3ppmのピーク面積の比(以下、「SiH比」とも称する)が、4.2〜50である無機ポリシラザンであり、このような無機ポリシラザンを使用することにより、水蒸気中における焼成工程での収縮が低減され、特に、500℃以上で焼成する場合でも収縮が少なく、好適に使用できる。無機ポリシラザンの、SiH比が4.2よりも小さい場合には、水蒸気中における焼成工程での収縮が大きくなり、50よりも大きい場合には、本発明の絶縁膜形成用塗布液の保存安定性が不良となる場合がある。本発明においては、SiH比は、好ましくは4.5〜45であり、より好ましくは5.0〜40であり、最も好ましくは6.8〜30である。
【0024】
H−NMRスペクトルでは、無機ポリシラザンのSiH基とSiH基のプロトンのピークは4.5〜5.3ppmに、SiH基のピークは4.3〜4.5ppmに、それぞれブロードなピークとして現れる。H−NMRスペクトルでは、ピーク面積は、それぞれのピークに帰属されるプロトンの含有量に比例することから、SiH比が、小さい場合には無機ポリシラザン中のSiH基が多いことを示し、大きい場合には無機ポリシラザン中のSiH基が少ないことを示している。無機ポリシラザン中のSiH基が多い場合には、後述する理由から、水蒸気中における焼成工程においてシランが発生し、収縮が大きくなるものと考えられる。
【0025】
本発明においては、無機ポリシラザンの質量平均分子量は2000〜20000であることが好ましく、より好ましくは、2500〜8000であり、最も好ましくは3000〜5000である。無機ポリシラザンの分子量があまりに小さい場合には、乾燥工程や焼成工程において塗膜からの揮発物又は昇華物が増え絶縁膜の膜厚の低下や亀裂の発生が起こる場合があり、分子量があまりに大きい場合には、微細なパターンへの塗布性が低下する場合があるからである。
【0026】
また、本発明においては、無機ポリシラザン中の質量平均分子量は800以下である成分の割合が20%以下であることが好ましく、より好ましくは、16%以下であり、最も好ましくは12%以下である。無機ポリシラザン中の低分子量成分があまりに多い場合は、乾燥工程や焼成工程において塗膜からの揮発物又は昇華物が増え絶縁膜の膜厚の低下や亀裂の発生が起こる場合があるからである。
【0027】
なお、本発明において、質量平均分子量とは、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とし、示差屈折率検出器(RI検出器)を用いてGPC分析を行った場合のポリスチレン換算の質量平均分子量をいう。また、無機ポリシラザン中の質量平均分子量が800以下である成分の割合とは、GPC分析を行った場合の無機ポリシラザンのピーク面積比で、全ポリシラザン量に対する、ポリスチレン換算で質量平均分子量800以下のポリシラザン量の割合をいう。
【0028】
本発明においては、無機ポリシラザンが、赤外スペクトルにおいて、2050〜2400cm−1の範囲で最大の吸光度に対する3300〜3450cm−1の範囲で最大の吸光度の比が0.01〜0.15であることが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.15であり、さらに好ましくは、0.03〜0.14であり、最も好ましくは、0.05〜0.13である。無機ポリシラザンの、赤外スペクトルにおける、2050〜2400cm−1の範囲で最大の吸光度に対する3300〜3450cm−1の範囲で最大の吸光度の比(以下、「NH/SiH吸光度比」とも称する)が、0.01よりも小さい場合には、本発明の絶縁膜形成用塗布液の保存安定性が不良となる場合があり、0.15よりも高い場合には、水蒸気中における焼成工程での収縮が大きくなる場合があるからである。
【0029】
無機ポリシラザンの赤外スペクトルでは、Si−H結合に由来する吸収が2050〜2400cm−1に、N−H結合に由来する吸収が3300〜3450cm−1にあることから、NH/SiH吸光度比が小さい場合には、NH/SiH吸光度比が大きい場合よりも、Si−H結合のH原子の数に対するN−H結合のH原子の数の比が小さいことを表わしている。ケイ素含量に対する窒素含量の比が同一である無機ポリシラザンの場合、NH/SiH吸光度比の小さい無機ポリシラザンの方が、分子中に多数の環構造を有しており、これが、絶縁膜形成用塗布液の保存安定性や水蒸気中における焼成工程での収縮に影響を与えているものと考えられる。
【0030】
無機ポリシラザンの赤外スペクトルは、透過法、反射法のいずれで測定してもよいが、測定値が安定することから、透過法で測定することが好ましい。透過法により測定する場合には、2050〜2400cm−1および3300〜3450cm−1に、実質的に赤外スペクトルの妨害吸収のない試験片に、絶縁膜形成用塗布液を塗布・乾燥した後、赤外スペクトルを測定することにより得ることができる。測定に使用される試験片は、2050〜2400cm−1および3300〜3450cm−1に、実質的に赤外スペクトルの妨害吸収がない試験片であれば、特に限定されないが、スピンコーター等の既存の塗布装置を使用して均一な膜が形成できることから、両面研磨したシリコンウェハーが好ましい。試験片に絶縁膜形成用塗布液を塗布した後の乾燥は、絶縁膜形成用塗布液中の有機溶媒が十分除去される条件であればよく、例えば、150℃で1分以上、好ましくは150℃で3分程度加熱する。試験片上に形成される無機ポリシラザンの膜厚は、500〜1000nmの場合に精度よくNH/SiH吸光度比が得られる。赤外スペクトルの測定には、測定後のデータ処理が容易であることからフーリエ変換型赤外分光計(FT−IR)を用いることが好ましい。
【0031】
ここで、NH/SiH吸光度比とは、無機ポリシラザンの赤外スペクトルのスペクトルチャートから頂点強度法により得られた値である。図1は、本発明に好適に用いることができる無機ポリシラザンのFT−IRスペクトルの一例である。図1において、2050cm−1、2400cm−1、3300cm−1および3450cm−1における、吸光度曲線上の点をそれぞれ点A、点B、点E及び点Fとし、2050〜2400cm−1の範囲および3300〜3450cm−1の範囲で吸光度が最大となる波数の、吸光度曲線上の点をそれぞれ点C及び点Gとし、点Cから基準線(吸光度0となる線、ブランク)への垂線と線ABとの交点を点D、点Gから基準線への垂線と線EFとの交点を点Hとするとき、NH/SiH吸光度比は、線分CDに対する線分GHの比に相当する。即ち、本発明のNH/SiH吸光度比は、無機ポリシラザンの赤外スペクトルのスペクトルチャートにおいて、2050cm−1の吸光度の点と2400cm−1の吸光度の点を結ぶ線をベースラインとした2050〜2400cm−1の吸光度最大値に対する、3300cm−1の吸光度の点と3450cm−1の吸光度の点を結ぶ線をベースライン3300〜3450cm−1の吸光度最大値の比である。なお、通常、無機シラザンは、2050〜2400cm−1の範囲で吸光度が最大となるのは2166cm−1付近であり、3300〜3450cm−1の範囲で吸光度が最大となるのは3377cm−1付近である。
【0032】
また、本発明においては、無機ポリシラザンの波長633nmにおける屈折率は1.550〜1.650であることが好ましく、より好ましくは、1.550〜1.650であり、さらに好ましくは、1.560〜1.640であり、最も好ましくは1.570〜1.630である。絶縁膜形成用塗布液に用いる無機ポリシラザンの波長633nmにおける屈折率が、1.550よりも小さい場合には、水蒸気中における焼成工程での収縮が大きくなる場合があり、1.650よりも大きい場合には、本発明の絶縁膜形成用塗布液の保存安定性が不良となる場合があるからである。
【0033】
無機ポリシラザンの波長633nmにおける屈折率は、絶縁膜形成用塗布液中の有機溶媒を十分除去した後に測定される。例えば、試験片に無機ポリシラザン膜を形成して測定する場合には、絶縁膜形成用塗布液を試験片上に、スピンコート法、ディップコート法、ナイフコート法、ロールコート法等の方法により塗布し、乾燥して無機ポリシラザン膜を形成させる。乾燥は、無機ポリシラザン膜の膜厚によって異なるが、500〜1000nmの場合には、150℃で1分以上、好ましくは150℃で3分程度加熱することにより行う。
【0034】
ケイ素含量に対する窒素含量の比が同一である無機ポリシラザンの場合、屈折率の高い無機ポリシラザンの方が、水素含量が少なく、分子中に多数の環構造を有しており、これが、絶縁膜形成用塗布液の保存安定性や水蒸気中における焼成工程での収縮に影響を与えているものと考えられる。
【0035】
本発明の絶縁膜形成用塗布液の有機溶剤は、無機ポリシラザンとの反応性のない有機溶媒であれば、特に限定されない。水酸基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、エステル基等は、無機ポリシラザンとの反応性を有することから、これらの基を有する溶剤は、本発明の絶縁膜形成用塗布液の有機溶剤としては好ましくない。好ましい有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタンともいう)、イソノナン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン(イソドデカンともいう)等の飽和鎖状炭化水素化合物;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の飽和環状炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、プソイドクメン、テトラリン等の芳香族炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル化合物等が挙げられ、中でも、成膜性が良好であることから、キシレン、ジブチルエーテルが好ましく、保存安定性が良好であることからジブチルエーテルがさらに好ましい。有機溶剤は、1種類のみでもよいが、蒸発速度の調整等の目的で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
有機溶剤の中でも、エーテル化合物は、その原料、製造工程の副生成物、保存中の劣化生成物として、アルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物、エステル化合物等が含まれるが、本発明の絶縁膜形成用塗布液の有機溶剤に、これらの化合物が含まれる場合には焼成工程での収縮が大きくなる場合がある。そこで、本発明においては、有機溶媒中のアルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物及びエステル化合物の含量の合計は、0.1質量%以下であることが好ましい。例えば、本発明の絶縁膜形成用塗布液の有機溶剤が、ジブチルエーテルを含有する場合、有機溶剤中のアルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物及びエステル化合物の含量の合計は、ジブチルエーテルに対して0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下であり、最も好ましくは0.01質量%以下である。なお、有機溶剤中のアルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物及びエステル化合物は、例えば、ガスクロマトグラフィー分析により定量が可能である。図2は、純度99.99%のジブチルエーテルと純度99.51%のジブチルエーテルのガスクロマトグラフ分析のチャートである。
【0037】
本発明の絶縁膜形成用塗布液中の無機ポリシラザンの含量は5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは、10〜35質量%であり、最も好ましくは、15〜30質量%である。本発明の絶縁膜形成用塗布液中の無機ポリシラザンの含量が、あまりに低い場合には、絶縁膜の成膜性が不十分となり、あまりに高い場合には本発明の絶縁膜形成用塗布液の保存安定性が不十分となりゲル物が発生する場合があるからである。
【0038】
本発明に使用される無機ポリシラザンは、SiH比が4.2〜50であれば、従来公知の方法で製造される無機ポリシラザンでもよい。しかしながら、SiH比が4.2〜50であるような無機ポリシラザンが安定して得られ、有機溶剤を配合して絶縁膜形成用塗布液としたときの保存安定性も良好であることから、本発明に用いる無機ポリシラザンは、ハロシラン化合物と塩基とを反応させてアダクツを形成した後、アンモニアを反応させる無機ポリシラザンの製造方法において、該アダクツの溶液または分散液にアンモニアを−50〜−1℃にて反応させる工程を有する製造方法で製造されたものであることが好ましい。
【0039】
ハロシラン化合物とアンモニアとの反応は、急激な発熱反応であることから反応を制御するため、まずハロシラン化合物と塩基とのアダクツ(以下、「アダクツ」とも称する)を形成し、そのアダクツとアンモニアとを反応させる無機ポリシラザンの製造方法(以下、「アダクツ法」とも称する)が知られている(例えば、特開昭60−145903号公報、特開昭61−174108号公報等を参照)。アダクツ法によれば、アンモニアとの反応における反応熱の制御が容易になるが、従来のアダクツ法では、SiH比が4.2〜50であるような無機ポリシラザンが安定して得ることはできなかった。これは、従来のアダクツ法では、アダクツとアンモニアとは氷冷又は0℃以上の温度で反応しており、氷冷の場合でも反応熱により反応温度は0℃以上であると推定されるが、アダクツとアンモニアとを0℃以上の温度で反応した場合には、得られる無機ポリシラザン中のSiH基の含量が増えてしまうからである。
【0040】
即ち、ハロシラン化合物とアンモニアからの無機ポリシラザンの反応において、SiH基や分岐構造が形成される反応機構は十分解明されていないが、特開平1−138108号公報では、下記反応式(3)、

の重縮合反応による分岐構造の生成と、下記反応式(4)、

の環状シラザン化合物の開環反応によるSiH基の生成が示唆されている。しかし、実際の無機ポリシラザンでは、反応式(4)から予想されるよりも多くのSiH基があることから、本発明者らは、アダクツは、ハロシラン化合物と塩基とが結合したものであるが、その結合は強固なものではなく、溶媒中ではハロシラン化合物と塩基とが遊離した平衡状態にあり、遊離したハロシラン化合物がアンモニアとの反応中に不均一反応することが原因ではないかと考えた。例えば、ジクロロシランとピリジンとのアダクツでは下記反応式(5)、

の平衡状態にあり、遊離したジクロロシランは、アンモニアとの反応の他に、下記反応式(6)、

の不均化反応が起こり、モノクロロシランとトリクロロシランが生成し、モノハロシラン化合物からSiH基、トリハロシラン化合物からSiH基が、それぞれ生成するものと考えた。
【0041】
本発明者らは、このような見解に基づき反応式(6)の不均化反応を抑えるために、アダクツとアンモニアとの反応温度を−50〜−1℃に制御することにより、SiH比が4.2〜50である無機ポリシラザンを安定して得ることができることを見出した。−50℃よりも温度が低い場合にはアダクツとアンモニアとの反応速度が遅く製造上時間がかかりすぎ、−1℃よりも温度が高い場合には無機ポリシラザン中のSiH基の含量が増加することから、アダクツとアンモニアとの反応温度は、−40〜−3℃が好ましく、−35〜−5℃がさらに好ましく、−30〜−10℃が最も好ましい。
【0042】
本発明の無機ポリシラザンに使用するハロシラン化合物としては、ジクロロシラン、ジブロモシラン、クロロブロモシラン等のジハロシラン化合物;トリクロロシラン、トリブロモシラン、ジクロロブロモシラン、クロロジブロモシラン等のトリハロシラン化合物が挙げられ、工業的な入手の容易さから、ジクロロシラン、トリクロロシランが好ましい。ハロシラン化合物は1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ジハロシラン化合物を使用した無機ポリシラザンは成膜性に優れ、トリハロシラン化合物を使用した無機ポリシラザンは焼結時の収縮が少ないという利点がある。
【0043】
なお、ジハロシラン化合物とトリハロシラン化合物とを組み合わせて使用することは、成膜性と焼結時の収縮が少ない無機ポリシラザンが得られることから好ましい。ジハロシラン化合物とトリハロシラン化合物との割合が、ジハロシラン化合物1モルに対してトリハロシラン化合物が、0.01〜2モルであることが好ましく、0.03〜1モルであることが更に好ましく、0.05〜0.5モルであることが最も好ましい。
【0044】
アダクツを形成するための塩基は、ハロシラン化合物とのアダクツ形成反応以外の反応をしない塩基であればよい。このような塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン等の3級アミン類;ピリジン、ピコリン等のピリジン類が挙げられ、工業的な入手の容易さと取扱いの容易さの点から、ピリジン、ピコリンが好ましく、ピリジンがより好ましい。使用する塩基の量は、ハロシラン化合物のハロゲン原子に対して、1倍モル以上であればよいが、アダクツの形成が不十分とならないよう、1.2倍モル以上とすることが好ましい。
【0045】
アダクツが形成されると、流動性が低下することから、アダクツ生成反応は溶媒中で行うことが好ましい。アダクツ生成反応の溶媒は、本発明の絶縁膜形成用塗布液の有機溶剤として例示した溶媒でもよいが、アダクツを形成するための塩基を過剰量用いて、過剰量の塩基を溶媒としてもよい。特に好ましいのは、ピリジンをアダクツ生成反応が終了しても流動性を保てる程度に過剰量使用し、他の溶媒を使用しないことである。この場合、ピリジンの使用量は、ハロシラン化合物に対して3〜30倍モルであることが好ましく、4〜25倍モルであることがさらに好ましく、5〜20倍モルであることがより好ましい。
【0046】
また、アダクツ形成による流動性が低下を防ぐため、塩基からなる溶媒又は塩基を含有する溶媒に、ハロシラン化合物とアンモニアとを分割して、又は連続的に同時に添加してもよい。
【0047】
アダクツとアンモニアとの反応において、アンモニアの使用量は、化学量論上、反応に使用するハロシラン化合物のハロゲン原子に対して等モル以上(1倍モル以上)であればよいが、反応を完結させるのに十分であり経済性を考慮すると、アンモニアの使用量は、反応に使用するハロシラン化合物のハロゲン原子に対して、1.0〜3.0倍モルであることが好ましく、1.1〜2.5倍モルであることがさらに好ましく、1.2〜2.0倍モルであることが最も好ましい。
【0048】
アンモニアとの反応後、必要に応じて過剰のアンモニアを除去し、生成した塩化アンモニウム等の塩を濾過等により除去した後、必要に応じて公知の方法により前記有機溶媒に溶媒置換することにより、本発明の絶縁膜形成用塗布液が得られる。
【0049】
本発明の絶縁膜形成用塗布液の無機ポリシラザンは、生成した塩の除去前、または除去後に、SiH基とNH基を反応させてSi−N結合を生成させることにより、分子内反応による環状化、分子間反応による高分子量化等を行ってもよく、これにより、SiH基の減少、質量平均分子量の増加、質量平均分子量が800以下である成分の減少、NH/SiH吸光度比の増加、屈折率の増加等が起こる。無機ポリシラザンのSiH基とNH基を反応させてSi−N結合を生成させる方法としては、例えば、ピリジン、ピコリン等の塩基性溶媒中で加熱する方法(例えば、特開平1−138108号公報を参照)、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド、無水アルカリ金属水酸化物等のアルカリ金属含有塩基性触媒による方法(例えば、特開昭60−226890号公報を参照)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム化合物を触媒とする方法(例えば、特開平5−170914号公報を参照)、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の酸触媒を使用する方法(例えば、特開表2003−514822号公報を参照)等が挙げられ、反応に使用した塩基性溶媒または触媒の除去が容易であることから、塩基性溶媒中で加熱する方法が好ましい。アダクツ法で無機ポリシラザンを製造する場合には、アダクツとアンモニアとが反応して塩基が遊離することから、遊離した塩基を塩基性溶媒として使用することが可能である。従って、アダクツ法で無機ポリシラザンを製造した後、遊離した塩基を塩基性溶媒として加熱することにより無機ポリシラザンのSiH基とNH基を反応させてSi−N結合を生成させることは、原料の有効利用および製造工程の簡略化の点から好ましい。
【0050】
本発明の絶縁膜形成用塗布液は、必要に応じて、更に他の成分、例えば、充填材、顔料、染料、レベリング剤、紫外線防止剤、消泡剤、帯電防止剤、分散剤、硬化促進剤等を含有してもよい。
【0051】
本発明の絶縁膜形成用塗布液は、従来、ポリシラザンが使用されてきた用途、例えば、半導体装置の絶縁膜、フラットパネルディスプレイの保護膜、光学関連製品の反射防止膜等に使用でき、特に半導体装置の絶縁膜に好適に使用できる。
【0052】
絶縁膜を形成する場合には、本発明の絶縁膜形成用塗布液を対象材料に塗布し塗膜を形成する塗布工程、塗膜から有機溶媒を除去する乾燥工程、水蒸気中において焼成しシリカ絶縁膜を形成する焼成工程を含む製造方法が好ましい。
【0053】
本発明の絶縁膜形成用塗布液を対象材料に塗布する方法は、特に限定されず、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、フローコート法、スクリーン印刷法、転写印刷法等のいずれの塗布方法でもよいが、膜厚が薄く均一な塗膜が形成できることからスピンコート法が好ましい。
【0054】
乾燥工程の乾燥温度および時間は、使用する有機溶媒および塗膜の膜厚により異なるが、80〜200℃、好ましくは120〜170℃において、1〜30分、好ましくは2〜10分加熱する。乾燥雰囲気は、酸素中、空気中、不活性ガス中のいずれでもよい。
【0055】
焼成工程は、相対湿度20〜100%の水蒸気雰囲気下に200〜1200℃の温度で行われる。焼成温度が低い場合には、反応が十分進行しない場合があるとともに、シラノール基の残存による絶縁性の低下の懸念があり、焼成温度が高いと製造コストの問題があることから、水蒸気雰囲気下の焼成の温度は、300〜1000℃が好ましく、700〜900℃がさらに好ましい。焼成する場合は、700℃以上の温度により1段階で焼成してもよいし、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で30〜60分焼成した後に、450〜1200℃、好ましくは600〜1000℃、さらに好ましくは700〜900℃で焼成する2段階の焼成でもよいが、絶縁膜の収縮が少なく、亀裂が生じにくいことから2段階の焼成が好ましい。このほか、200〜500℃、好ましくは350〜450℃で30〜60分焼成した後に、20〜80℃の蒸留水に浸漬させる低温焼成法(例えば、特開平7−223867号公報を参照)でもよいが、低温焼成法ではシラノール基の残存による絶縁性の低下が起こることから、低温焼成後に大気中で700〜900℃で5〜60分程度加熱することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。尚、実施例中の「部」や「%」は質量を基準としたものである。
【0057】
<実施例1>
攪拌機、温度計及び導入管を備えた5000mlのガラス製反応容器に、窒素雰囲気中、乾燥ピリジン4300g(54.4モル)を仕込み、撹拌しながら、ジクロロシラン545g(5.4モル)を反応温度−40〜−30℃で1時間かけて導入管からフィードし、ジクロロシランのピリジンアダクツを生成させた。アンモニア325g(19.1モル)を反応温度−40〜−30℃で1時間かけて導入管からフィードし、更に−20〜−15℃で2時間撹拌を行い、反応を完結させた。
【0058】
反応液を25℃に加熱した後、窒素雰囲気中、生成した塩化アンモニウムを濾過し、過剰のアンモニアを減圧除去してから、溶媒をピリジンからジブチルエーテルに常法により交換し、更にアルゴンガス雰囲気中で、濾過径0.1μmのPTFE製カートリッジフィルターにて濾過を行い、無機ポリシラザン含量が19.0%である実施例1の絶縁膜形成用塗布液を得た。
【0059】
なお、溶媒に用いたジブチルエーテルは純度が99.99%であり、アルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物及びエステル化合物の合計の含量が0.01%以下であるものを用いた。
【0060】
<実施例2>
実施例1において、アンモニアの反応温度を−40〜−30℃から−15〜−12℃に変更し、その後−15〜−12℃で2時間撹拌した以外は、実施例1と同様の操作を行い、無機ポリシラザン含量が19.1%である実施例2の絶縁膜形成用塗布液を得た。
【0061】
<実施例3>
実施例1において、ジクロロシラン545g(5.4モル)の代わりにジクロロシラン444g(4.4モル)とトリクロロシラン13.6g(1.0モル)との混合物を使用し、アンモニアを325g(19.1モル)から340g(20.0モル)に増やした以外は、実施例2と同様の操作を行い、無機ポリシラザン含量が19.2%である実施例3の絶縁膜形成用塗布液を得た。
【0062】
<比較例1>
アンモニアの反応温度を−40〜−30℃から0〜5℃に変更し、その後0〜5℃で2時間撹拌した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2の絶縁膜形成用塗布液を得た。
【0063】
<比較例2>
実施例1と同様の反応容器に、窒素雰囲気中、ジクロロシラン550g(5.4モル)と溶剤として純度99.51%のジブチルエーテル3200gを仕込み、反応温度が−20〜−15℃になるよう冷却しながらアンモニア324g(19.1モル)を1時間かけて導入管からフィードし、更に−20〜−15℃で2時間撹拌を行い、反応を完結させた。
【0064】
この後、窒素雰囲気中、生成した塩化アンモニウムを濾過により除去し、減圧して過剰のアンモニアを除去して、無機ポリシラザン含量が19.0%である比較例2の絶縁膜形成用塗布液を得た。
【0065】
なお、使用した純度99.51%のジブチルエーテル中のアルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物及びエステル化合物の合計の含量は0.46%であった。
【0066】
<比較例3>
比較例1において、ジクロロシランとピリジンとの反応温度を−40〜−30℃から0〜5℃に変更し、アンモニアの量を325g(19.1モル)から374g(22モル)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例3の絶縁膜形成用塗布液を得た。
【0067】
<比較例4>
特開平1−138108号公報の実施例に準じ、攪拌機、温度計及び導入管を備えた5000mlのガラス製反応容器に、窒素雰囲気中、乾燥ピリジン2750g(約2800ml、34.8モル)を仕込み、これを氷冷した。次に、ジクロロシラン516g(5.1モル)を加えピリジンアダクツを生成させた後、撹拌しながら、0〜5℃でアンモニア300g(17.6モル)を1時間かけて導入管からフィードし、さらに、氷冷しながら2時間撹拌を行い、反応を完結させた。反応終了後、過剰のアンモニアを除去した後、反応混合物を遠心分離し、乾燥ピリジンを用いて洗浄することにより、無機シラザンを含有する濾液5200gを得た。無機シラザンを含有する濾液2000gを内容積5000mlの耐圧反応容器に入れ、150℃で3時間撹拌しながら反応を行なった。溶媒をピリジンからジブチルエーテルに常法により交換し、更にアルゴンガス雰囲気中、濾過径0.1μmのPTFE製カートリッジフィルターにて濾過しを行い、無機ポリシラザン含量が19.0%である比較例4の絶縁膜形成用塗布液を得た。なお、ジブチルエーテルは、実施例1と同様のものを使用した。
【0068】
<塗布液の分析:H−NMR分析、GPC分析>
実施例1〜3および比較例1〜4の絶縁膜形成用塗布液について、H−NMR及びGPCを測定し、H−NMRの結果から、SiH比を、GPCの結果から、無機ポリシラザンの質量平均分子量および、質量平均分子量800以下の成分の含量をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。なお、図3は、実施例1で用いた無機ポリシラザンのH−NMRスペクトルであり、図4は、比較例1で用いた無機ポリシラザンのH−NMRスペクトルである。
【0069】
<無機シラザン塗膜の分析:膜厚、IR分析、屈折率>
実施例1〜3又は比較例1〜4の絶縁膜形成用塗布液を、両面を研磨した4インチのシリコンウェハーに、乾燥後の無機シラザンの膜厚が580〜620nmとなるようにスピンコート法により塗布してから150℃で3分間乾燥して、無機シラザンの塗膜を有するシリコンウェハーを調製し、塗膜の膜厚、FT−IR測定及び塗膜の波長633nmにおける屈折率を測定した。なお、FT−IR測定では、両面を研磨したシリコンウェハーをリファレンスとした。また、膜厚及び屈折率は、Metricon社製、Model2010プリズムカプラを用いて測定した。波長633nmにおける屈折率、及びFT−IRの結果から算出したNH/SiH吸光度比を表1に示す。なお、図1は実施例1の無機ポリシラザンのFT−IRスペクトルである。
【0070】
【表1】

【0071】
<絶縁膜としての評価>
無機シラザンの塗膜の分析に用いたシリコンウェハーを用いて、1段目の焼成として相対湿度90%、温度300℃のオーブンに30分、2段目の焼成として相対湿度60%、温度700℃のオーブンで30分、焼成することによりシリカ絶縁膜を形成させ、絶縁膜の膜厚を測定した。乾燥後の無機シラザンの膜厚に対するシリカ絶縁膜の膜厚を硬化収縮率(%)とした。結果を表2に示す。
【0072】
<クラック耐性試験>
実施例1〜3又は比較例1〜4の絶縁膜形成用塗布液を、両面を研磨した4インチのシリコンウェハーに、乾燥後の無機シラザンの膜厚が900〜1000nmとなるようにスピンコート法により塗布してから150℃で3分間乾燥して、無機シラザンの塗膜を有するシリコンウェハーを調製し、1段目の焼成として相対湿度90%、温度300℃のオーブンで30分焼成した。続いて、2段目の焼成として相対湿度60%、温度500℃のオーブンで30分焼成後、すぐ25℃の恒温槽に移動することにより500℃から25℃に急冷した。急冷したシリカ絶縁膜について、目視又は光学顕微鏡(倍率100倍)を用いてクラックの有無を観察し、下記の基準にてクラック耐性を評価した。また、同様の膜厚で、2段目の焼成を相対湿度60%、温度700℃のオーブンで30分;相対湿度60%、温度900℃のオーブンで30分に変えたものについてもクラック耐性を同様に評価した。結果を表2に示す。
○:目視および光学顕微鏡観察でクラックが確認できなかった。
△:目視ではクラックが確認できなかったが、光学顕微鏡観察によりクラックが確認された。
×:目視でクラックが確認された。
【0073】
【表2】

【0074】
表2より、実施例1〜3は硬化収縮率が小さいため、クラック耐性に優れており、剥離が発生しにくい絶縁膜を得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H−NMRスペクトルにおいて、SiH基に由来する4.3〜4.5ppmのピーク面積に対する、SiH基とSiH基とに由来する4.5〜5.3ppmのピーク面積の比が、4.2〜50である無機ポリシラザンと、有機溶媒とを含有することを特徴とする絶縁膜形成用塗布液。
【請求項2】
前記無機ポリシラザンの質量平均分子量が2000〜20000である請求項1記載の絶縁膜形成用塗布液。
【請求項3】
前記無機ポリシラザン中の質量平均分子量が800以下である成分の割合が20%以下である請求項1又は2記載の絶縁膜形成用塗布液。
【請求項4】
前記無機ポリシラザンが、赤外スペクトルにおいて、2050〜2400cm−1の範囲で最大の吸光度に対する3300〜3450cm−1の範囲で最大の吸光度の比が0.01〜0.15である請求項1〜3のうちいずれか1項記載の絶縁膜形成用塗布液。
【請求項5】
前記無機ポリシラザンの波長633nmにおける屈折率が1.550〜1.650である請求項1〜4のうちいずれか1項記載の絶縁膜形成用塗布液。
【請求項6】
前記無機ポリシラザンが、ジハロシラン化合物、トリハロシラン化合物、又はこれらの混合物と塩基とを反応させてアダクツを形成した後、アンモニアを反応させて得られる無機ポリシラザンである請求項1〜5のうちいずれか1項記載の絶縁膜形成用塗布液。
【請求項7】
前記有機溶媒中のアルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、カルボン酸化合物及びエステル化合物の含量の合計が、0.1質量%以下である請求項1〜6のうちいずれか1項記載の絶縁膜形成用塗布液。
【請求項8】
前記無機ポリシラザンの含量が5〜40質量%である請求項1〜7のうちいずれか1項記載の絶縁膜形成用塗布液。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1項記載の絶縁膜形成用塗布液により得られることを特徴とする絶縁膜。
【請求項10】
500℃以上の焼成工程を経て得られる請求項9記載の絶縁膜。
【請求項11】
ジハロシラン化合物、トリハロシラン化合物、又はこれらの混合物と塩基とを反応させてアダクツを形成した後、該アダクツとアンモニアとを反応させる無機ポリシラザンの製造方法において、
前記アダクツの溶液または分散液にアンモニアを−50〜−1℃にて反応させることを特徴とする無機ポリシラザンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−79917(P2011−79917A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231970(P2009−231970)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】