説明

絶縁膜用硬化性樹脂成形体及びその利用

【課題】 難燃性、絶縁性及び耐クラック性に優れ、かつ、焼却時に有害物質をほとんど発生しない絶縁膜用硬化性樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】 重量平均分子量が10,000〜250,000で、カルボキシル基又は酸無水物基を有し、酸価が5〜200mgKOH/gである脂環式オレフィン重合体(A)、硬化剤(B)、および、エポキシ基、カルボキシル基または酸無水物基と反応して共有結合を生成する官能基を有し、CH=CH−結合を有しないホスファゼン化合物(C)を含有してなる硬化性樹脂組成物(1)を、難燃性がUL94規格においてV−1又はV−0であり、かつ線膨張係数が10×10−6/℃以下の有機高分子からなる基材(2)に、含浸及び/又は積層してなる絶縁膜用硬化性樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜用硬化性樹脂成形体に関し、詳しくは、高密度の配線パターンの形成が可能な多層回路基板を得るのに好適で、難燃性、絶縁性及び耐クラック性に優れ、かつ、焼却時に有害物質をほとんど発生しない絶縁膜用硬化性樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、多機能化、通信高速化等の追求に伴い、電子機器に用いられる回路基板のより高密度化が要求され、そのため回路基板の多層化が図られている。多層回路基板は、通常、電気絶縁層と、その表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、必要に応じて、さらにその上に電気絶縁層及び導体層の組みを数段積層させて形成される。
このような多層回路基板の導体層が高密度のパターンである場合、往々にして導体層や基板が発熱するという問題が起きる。そのため電気絶縁層の難燃性向上が求められている。
また、使用済みの多層回路基板は焼却されることが多いが、従来、電気絶縁層にはハロゲン系難燃剤が配合されているため(例えば特開平2−255848号公報参照)、焼却時にハロゲン系有害物質が発生することも問題になっている。そのため、焼却時にハロゲン系有害物質を発生しない難燃性電気絶縁層を有する多層回路基板の開発が要望されている。
【0003】
近年、シクロホスファゼンもしくはホスファゼン重合体を難燃剤として含有する半導体封止用組成物が特許文献1によって知られている。そして特許文献2に、多層回路基板用途においても、重量平均分子量が10,000〜250,000でカルボキシル基又は酸無水物基を有する重合体、硬化剤及びホスファゼン化合物を含有してなる硬化性樹脂組成物が、微細な配線パターンを高密度に整然と形成することが可能な多層回路基板を得るのに好適で、難燃性、絶縁性及び耐クラック性に優れ、かつ、焼却時に有害物質が発生しにくい電気絶縁層を与えることが開示されている。ここでホスファゼン化合物は常温での沸点30〜250℃の有機溶剤100gに5g以上が可溶のものを用いるのが、電機電気絶縁層表面の粗度を小さくする効果があり好ましい旨が記載されている。
ところで、特許文献3には、ホスファゼン化合物として末端ビニル構造を含有する環状ホスファゼン化合物が反応性難燃剤として樹脂に配合すると、末端ビニル構造が樹脂と反応することで、難燃性と耐熱性を優れるばかりでなく、成形体の難燃剤のブリードアウトを防止できることを開示している。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−120850号公報
【特許文献2】特開2005−248069号公報
【特許文献3】WO2004/083295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献2において実施例で実際に用いられているホスファゼンを用いた場合、得られる成形体表面にホスファゼン化合物がブリードアウトしてしまうことを確認した。そして、このホスファゼン化合物の代わりに、特許文献3記載の末端ビニル構造を有するホスファゼン化合物を用いたところ、電気特性が低下することを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる知見の下、本発明者は、ホスファゼン化合物として、エポキシ基、カルボキシル基または酸無水物基と反応して共有結合を生成する官能基を有し、CH=CH−結合を有しない、ホスファゼン化合物を、硬化剤と共に、重量平均分子量が10,000〜250,000で、カルボキシル基又は酸無水物基を有し、酸価が5〜200mgKOH/gである脂環式オレフィン重合体に配合した硬化性組成物を用いると、成形体表面にブリードアウトせず、耐熱性を維持できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、重量平均分子量が10,000〜250,000で、カルボキシル基又は酸無水物基を有し、酸価が5〜200mgKOH/gである脂環式オレフィン重合体(A)、硬化剤(B)、および、エポキシ基、カルボキシル基または酸無水物基と反応して共有結合を生成する官能基を有し、CH=CH−結合を有しない、ホスファゼン化合物(C)を含有してなる硬化性樹脂組成物(1)を、難燃性がUL94規格においてV−1又はV−0であり、かつ線膨張係数が10×10−6/℃以下の有機高分子からなる基材(2)に、含浸及び/又は積層してなる絶縁膜用硬化性樹脂成形体が提供される。当該絶縁膜用硬化性樹脂成形体としては、前記支持体(2)が、膜厚が20μm以下の不織布、織布、又は樹脂フィルムである、前記硬化性樹脂組成物(1)が、更に粒径1μm未満のフィラーを含有するもの、前記硬化性樹脂組成物(1)が、更に分子中にリン原子を有する化合物を含有するものが好ましい。
【0008】
また、このような絶縁膜用硬化性樹脂成形体を硬化してなる層間絶縁膜が提供され、少なくとも表面に導体層を有する基板上に、このような絶縁膜用硬化性樹脂成形体を積層し、次いで当該成形体中の硬化性樹脂を硬化して絶縁膜を形成することを特徴とする回路基板が提供され、更に当該回路基板の、絶縁膜上に導体層を形成してなる回路基板が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いる硬化性樹脂組成物(1)は、重量平均分子量が10,000〜250,000でカルボキシル基又は酸無水物基(以下、この両者をまとめて「カルボキシル基等」と記すことがある。)を有する脂環式オレフィン重合体(A)、硬化剤(B)及びホスファゼン化合物(C)を含有してなるものである。
【0010】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15,000〜150,000であり、より好ましくは20,000〜100,000である。脂環式オレフィン重合体(A)のMwが小さすぎると、電気絶縁層の強度が不十分になり、また、電気絶縁性が低下するおそれがある。一方、Mwが大きすぎると、脂環式オレフィン重合体(A)と硬化剤(B)との相溶性が低下して電気絶縁層の表面粗度が大きくなり、配線パターンの精度が低下する可能性がある。
脂環式オレフィン重合体(A)のカルボキシル基等の含有量は、酸価が5〜200mgKOH/gとなる範囲であり、30〜100mgKOH/gとなる範囲が好ましく、40〜80mgKOH/gとなる範囲がより好ましい。酸価が小さすぎる(即ち、カルボキシル基等が少なすぎる)とめっき密着性や耐熱性が低下するおそれがあり、酸価が大きすぎると電気絶縁性が低下する可能性がある。
【0011】
脂環式オレフィン重合体(A)は上記分子量及び官能基を有し、電気絶縁性のものであれば制限されない。脂環式重合体(A)の体積固有抵抗(ATSM D257による)は、好ましくは1×1012Ω・cm以上、より好ましくは1×1013Ω・cm以上、特に好ましくは1×1014Ω・cm以上である。
脂環式オレフィン重合体は、脂環式構造を有する不飽和炭化水素の重合体である。脂環式オレフィン重合体の具体例としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、単環シクロアルケン重合体、脂環式共役ジエン重合体、ビニル系脂環式炭化水素重合体及びその水素添加物が挙げられ、更に芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物などの重合後の水素化で脂環構造が形成されて脂環式オレフィン重合体と同じ脂環構造が形成された重合体であってもよい。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素化物が好ましく、特にノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物が好ましい。
【0012】
脂環式オレフィン重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を前記の範囲に調整する方法は常法に従えば良く、例えば、脂環式オレフィンの開環重合をチタン系又はタングステン系触媒を用いて行うに際して、ビニル化合物、ジエン化合物などの分子量調整剤を単量体全量に対して0.1〜10モル%程度添加する方法が挙げられる。分子量調整剤を多量に用いるとMwの低い重合体が得られる。
かかる分子量調整剤の例としては、ビニル化合物では、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン化合物;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン化合物;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル化合物;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレート、アクリルアミドなどのその他のビニル化合物;などが挙げられる。また、ジエン化合物では、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン化合物;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン化合物;などが挙げられる。
【0013】
脂環式オレフィン重合体(A)のカルボキシル基等は、脂環式オレフィン単量体単位の炭素原子に直接結合していても、メチレン基、オキシ基、オキシカルボニルオキシアルキレン基、フェニレン基など他の二価の基を介して結合していてもよい。
カルボキシル基等を有する脂環式オレフィン重合体の製造方法としては、(イ)カルボキシル基等が脂環式オレフィン単量体の炭素原子に予め結合している単量体を、必要に応じてエチレン、1−ヘキセン、1,4−ヘキサジエンなどの共重合可能な単量体と共に重合する方法、(ロ)カルボキシル基等を有さない脂環式オレフィン重合体に、ラジカル開始剤存在下でカルボキシル基等を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物をグラフト変性して結合させる方法、及び、(ハ)カルボン酸エステル基などのカルボキシル基等へ変換可能な前駆基を有するノルボルネン系単量体を重合した後、加水分解などによって前駆基をカルボキシル基等へ変換させる方法、がある。
【0014】
上記(イ)の方法に用いられるカルボキシル基含有脂環式オレフィン単量体としては、8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−メチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−カルボキシメチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−エキソ−9−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
【0015】
また、上記(イ)の方法に用いられる酸無水物基含有脂環式オレフィン単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン−8,9−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エン−11,12−ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0016】
一方、前記(ロ)の方法に用いられる、カルボキシル基等を有さない脂環式オレフィン重合体を得るための単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[8.4.0.111,14.02,8]テトラデカ−3,5,7,12,11−テトラエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]デカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ[7.4.0.13,6.110,13.02,7]ペンタデカ−4,11−ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
【0017】
また、上記(ロ)の方法に用いられる、カルボキシル基等を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、メチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。
【0018】
上記(ハ)の方法に用いられる、カルボキシル基等へ変換可能な前駆基を含有する単量体としては、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどが挙げられる。
【0019】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)は、カルボキシル基等以外の官能基(以下、他の官能基ということがある)を有していても良い。他の官能基としては、アルコキシカルボニル基、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、エポキシ基、アルコキシル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。これら他の官能基は、カルボキシル基等に対して30モル%以下であると好ましく、10モル%以下であるとより好ましく、1モル%以下であると特に好ましい。
【0020】
脂環式オレフィン重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、120〜300℃であることが好ましい。Tgが低すぎると高温下において充分な電気絶縁性を維持できず、Tgが高すぎると多層回路基板が強い衝撃を受けた際にクラックを生じて導体層が破損する可能性がある。
【0021】
また、脂環式オレフィン重合体(A)は、後述する硬化剤(B)及びホスファゼン化合物(C)と共に電気絶縁層を形成するのに際し、有機溶剤に溶解して硬化性樹脂組成物のワニスにして用いられる場合、後述する有機溶剤に常温で可溶であることが好ましい。
【0022】
本発明で用いる硬化剤(B)は、一般に電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合されて加熱により架橋構造を形成するものであれば限定されない。なかでも、重合体(A)のカルボキシル基又は酸無水物基に架橋し得る化合物が好ましい。かかる架橋剤としては、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、多価アミン化合物、多価ヒドラジド化合物、アジリジン化合物、塩基性金属酸化物、有機金属ハロゲン化物などが挙げられる。また、過酸化物を併用してもよい。
【0023】
多価エポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物などのグリシジルエーテル型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物、リン含有エポキシ化合物などの多価エポキシ化合物;などの分子内に2以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、これらを1種、又は2種以上併せて使用することができる。
【0024】
多価イソシアナート化合物としては、炭素数6〜24の、ジイソシアナート類及びトリイソシアナート類が好ましい。ジイソシアナート類の例としては、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナートなどが挙げられる。トリイソシアナート類の例としては、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアナート、1,6,11−ウンデカントリイソシアナート、ビシクロヘプタントリイソシアナートなどが挙げられ、これらを1種、又は2種以上併せて使用することができる。
【0025】
多価アミン化合物としては、2個以上のアミノ基を有する炭素数4〜30の脂肪族多価アミン化合物、芳香族多価アミン化合物などが挙げられ、グアニジン化合物のように非共役の窒素−炭素二重結合を有するものは含まれない。脂肪族多価アミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミンなどが挙げられる。芳香族多価アミン化合物としては、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3,5−ベンゼントリアミンなどが挙げられ、これらを1種、又は2種以上併せて使用することができる。
【0026】
多価ヒドラジド化合物の例としては、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、トリメリット酸ジヒドラジド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジドなどが挙げられ、これらを1種、又は2種以上併せて使用することができる。
【0027】
アジリジン化合物としては、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス[1−(2−メチル)アジリジニル]ホスフィノキシド、ヘキサ[1−(2−メチル)アジリジニル]トリホスファトリアジンなどが挙げられ、これらを1種、又は2種以上併せて使用することができる。
【0028】
これらの硬化剤の中でも、カルボキシル基又は酸無水物基を有する重合体(A)との反応性が緩やかであり、樹脂成形体が溶融、加工、積層をし易い観点から多価エポキシ化合物が好ましく、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテルなどのビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましい。
硬化剤(B)の使用量は、重合体(A)100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、より好ましくは10〜50重量部の範囲である。
また、硬化剤(B)の他に硬化促進剤を配合すると耐熱性の高い電気絶縁膜を得易いので好ましい。例えば、硬化剤(B)として多価エポキシ化合物を用いる場合には、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物などの硬化促進剤を使用すると好ましい。
【0029】
本発明に用いるホスファゼン化合物(C)は、エポキシ基、カルボキシル基または酸無水物基と反応して共有結合を生成する官能基(以下、単に「反応性官能基」という場合がある)を有するものである。また、本発明に用いるホスファゼン化合物は、CH=CH−を有しないものである。CH=CH−を有するものを用いた場合、酸化劣化による電気特性の低下を招く傾向があり好ましくない。
ホスファゼン化合物は、P=N結合を有するものであり、環状構造のシクロホスファゼンと、これを開環重合して得られる鎖状ポリマーとがある。本発明においては、耐熱性の観点から、環状のシクロホスファゼンが好ましい。
【0030】
反応性官能基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基が挙げられる。これらの中でも、硬化性樹脂組成物(1)のゲル化を生じにくい点からヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基及びメルカプト基が好ましい。これらの反応性官能基は、ホスファゼンのリン原子直接結合したものであっても、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基に結合したものであってもよい。具体的には、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルキルオキシ基、オキシカルボニルアルキル基、オキシカルボニルアルキルオキシ基、アルキルグリシジルオキシ基、エポキシアルキル基、エポキシアルキルオキシ基、アミノアルキル基、アミノアルキルオキシ基、メルカプトアルキル基、メルカプトアルキルオキシ基、ヒドロキシアリール基、ヒドロキシアリールオキシ基、カルボキシアリール基、カルボキシアリールオキシ基、アリールグリシジルオキシ基、エポキシアリール基、エポキシアリールオキシ基、アミノアリール基、アミノアリールオキシ基、メルカプトアリール基、メルカプトアリールオキシ基、ヒドロキシアルキルアリール基、ヒドロキシアルキルアリールオキシ基、カルボキシアリールアルキル基、カルボキシアリールアルキルオキシ基などが挙げられる。
これらの中でも、反応性官能基は、難燃性、化合物の安定性の観点から、アリール基又はアリールオキシ基に反応性官能基が結合するものが好ましく、特にアリールオキシ基に反応性官能基が結合するものが好ましい。また、反応性の観点から、反応性官能基は、アリール基が、ホスファゼンのP原子に、必要に応じて酸素原子と結合する位置に対して、パラ位に結合していることが特に好ましい。
エポキシ基と反応する官能基を有するホスファゼン化合物を用いる場合、硬化剤(B)として多価エポキシ化合物を選択するのが好ましいが、もちろん、脂環式オレフィン重合体(A)がエポキシ基を有する場合は、この限りではない。
【0031】
本発明に用いるホスファゼン化合物(C)の好ましい具体例としては、以下のnが、通常3〜10、好ましくは3〜5、より好ましくは3である環状ホスファゼン化合物が挙げられる。
【0032】
【化1】

【0033】
【化2】

【0034】
【化3】

【0035】
上記例示のホスファゼン化合物の中でも、難燃性、耐熱性の観点から式(1)〜(4)で表される環状ホスファゼン化合物が好ましい。
【0036】
尚、エポキシ基と反応するのはヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基であり、カルボキシル基または酸無水物基と反応するのはヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基である。
【0037】
このようなホスファゼン化合物は、重合体(A)100重量部に対して、通常1〜25重量部、好ましくは5〜20重量部配合する。ホスファゼン化合物の量が少なすぎると難燃性が不十分であり、逆に多すぎるとはんだ耐熱性が低下するので、いずれも好ましくない。
【0038】
硬化性樹脂組成物(1)には、粒径1μm未満のフィラーを配合することができる。添加されるフィラーは、電気絶縁層の誘電特性を低下させない非導電性のものであることが好ましい。フィラーの形状は、特に限定されず、球状、繊維状、板状などであってもよいが、微細な粗面形状を得るために、微細な粉末状であることが好ましい。
フィラーを配合することで難燃性、線膨張係数が向上する。このようなフィラーの具体例としては、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、水和アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ポリアミド粒子、液晶ポリマー粒子、ポリスルフィド粒子、顔料、及びモンモリロナイトのような粘土鉱物が挙げられる。これらのフィラーのうち、線膨張係数、電気特性の観点から、シリカ、クレー、ポリアミド粒子、液晶ポリマー粒子、モンモリロナイトが特に好ましい。さらに、シリカ、クレーなどの無機充填剤は、シランカップリング剤処理やステアリン酸などの有機酸処理をしたものであってもよい。
【0039】
更に硬化性樹脂組成物(1)には、更に分子中にリン原子を有する化合物(以下、「含リン化合物」ということがある)を配合することができる。分子中にリン原子を有する化合物を配合することで難燃性が向上する。このような分子中にリン原子を有する化合物としては、このような分子中にリン原子を有する化合物としては、環状リン化合物、有機リン酸塩、無機リン酸塩、正リン酸エステル、縮合リン酸エステル、芳香族有機リン化合物、などが挙げられる。これらの中でも、環状リン化合物、有機リン酸塩、縮合リン酸エステルが難燃性、耐水性、線膨張係数の悪化のし難さ、ブリードアウトのし難さの面から、特に好ましい。
【0040】
本発明の硬化性樹脂組成物(1)には、難燃性を強化する目的で難燃助剤として非ハロゲン系難燃剤を添加しても良い。かかる難燃助剤の例としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダのごときアンチモン化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、スルファミン酸グアニジン、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、すず化合物などの無機難燃剤;などが挙げられる。これらのうち、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム、が好ましく、特に耐熱性、耐湿性および難燃性の向上に優れる点から水酸化マグネシウムが好ましい。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物(1)には、さらに必要に応じて軟質重合体、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤、靭性剤などの任意成分が配合される。任意成分の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0042】
上述してきた各成分からなる硬化性樹脂組成物(1)は、有機溶剤と混合してワニスとして用いるのが一般的である。
ワニス調製用の有機溶剤は、後に加熱して揮散させる便宜から、沸点が好ましくは30〜250℃、より好ましくは50〜200℃のものである。かかる有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどを挙げることができる。
【0043】
ワニスの調製法に格別な制限はなく、例えば、硬化性樹脂組成物(1)を構成する各成分と有機溶剤とを常法に従って混合すればよい。例えば、マグネチックスターラー、高速ホモジナイザー、ディスパージョン、遊星攪拌機、二軸攪拌機、ボールミル、三本ロールを使用した方法などで行うことができる。混合温度は、硬化剤による反応を起こさない範囲で、有機溶剤の沸点以下が好ましい。
有機溶剤の使用量は、電気絶縁層の厚みや表面平坦度の要望に応じて適宜選択されるが、ワニスの固形分濃度が、通常5〜70重量%、好ましくは10〜65重量%、より好ましくは20〜60重量%になる範囲である。
【0044】
次に、調製したワニスを、UL94規格においてV−1又はV−0かつ線膨張係数が30℃〜120℃において10×10−6/℃以下の、重量平均分子量が1,000〜500,000の高分子からなる基材(2)に、含浸及び/又は積層した後、ワニスを構成する有機溶剤を乾燥により除去することにより、本発明の絶縁膜用硬化性樹脂成形体が得られる。
薄手プラスチックによる評価を行った場合、上記V−1はVTM−1に相当し、上記V−0はVTM−0に相当するものとして判断する。
【0045】
基材(2)は、有機高分子からなる難燃性に優れた電気絶縁性を有する成形体であり、具体例としては、不織布、織布、樹脂フィルムなどが挙げられる。
有機高分子としては、ポリアクリレート、アラミド、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ナイロンなどが挙げられ、特にアラミドと液晶ポリマーが難燃性と電気特性の観点から好ましい。
また、基材(2)は、上述したワニスを含浸又は塗布することができる成形体であり、絶縁膜形成の観点から、膜厚は、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下であり、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上である。膜厚が小さすぎると強度が得られず、また複合時にフィルムの線膨張係数が向上しない。逆に膜厚が大きすぎると、レーザ加工性が悪化する。
また、基材(2)の表面平均粗さは、Raが通常300nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。支持フィルムの表面平均粗さRaが大きすぎると、硬化して形成される電気絶縁層の表面平均粗さRaが大きくなり微細な配線パターンの形成が困難になる。
【0046】
不織布としては、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布、ポリエチレンテレフタレート不織布、ポリカーボネート不織布、ナイロン不織布などが挙げられる。これらの不織布うち、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布が好ましい。
織布としてはアラミド織布、液晶ポリマー織布、ポリエチレンテレフタラート織布、ポリカーボネート織布、ナイロン織布などが挙げられる。これらの織布うち、アラミド織布、液晶ポリマー織布が好ましい。
樹脂フィルムとしては、ポリアミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。これら樹脂フィルムのうち、耐熱性や耐薬品性、線膨張係数などの観点からポリアミドフィルムと液晶ポリマーフィルムが好ましい。
【0047】
基材(2)に硬化性樹脂組成物のワニスを含浸及び/又は塗布する方法として、浸漬、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコートなどの方法が挙げられる。
【0048】
有機溶剤除去のための乾燥の条件は、有機溶剤の種類により適宜選択される。加熱温度は、通常20〜300℃、好ましくは30〜200℃であり、加熱時間は、通常30秒〜1時間、好ましくは1分〜30分である。
【0049】
このようにして本発明の絶縁膜用硬化性樹脂成形体を得ることができる。この成形体は、加熱により硬化され絶縁膜となる。
通常、得られた成形体は、少なくとも表面に導体層を有する基板上(以下、「内層基板と」いうことがある。)に積層し、次いで、当該成形体中の硬化性樹脂を硬化して、内層基板上に絶縁膜を形成し、回路基板を得る。この絶縁膜は、電気絶縁層として機能し、この上に更に導体層を形成して回路基板を多層化することができる。このとき内層基板上に形成された絶縁膜は層間絶縁層となる。
【0050】
絶縁膜用硬化性樹脂成形体を内層基板上に積層する方法に格別な制限はないが、例えば、当該樹脂成形体を、内層基板の導体層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)して、内層基板に樹脂成形体層を形成する。加熱加圧することにより、内層基板表面の導体層と樹脂成形体層との界面に空隙が実質的に存在しないように結合させる方法が挙げられる。加熱圧着は、配線パターンの埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために真空下で行うのが好ましい。加熱圧着操作の温度は、通常30〜250℃、好ましくは70〜200℃であり、加える圧力は、通常10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaであり、時間は、通常30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。また、雰囲気の気圧を、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paに減圧下で行う。
【0051】
本発明の樹脂成形体中の硬化性樹脂の硬化は、通常、本発明の樹脂成形体層を内層基板ごと加熱することにより行う。硬化条件は硬化剤の種類に応じて適宜選択されるが、温度は、通常30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃であり、時間は、通常0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンを用いて行えばよい。
硬化によって生成した電気絶縁膜は、内層基板の導体層の上に積層されて電気絶縁層を構成しており、こうして多層回路基板製造用の積層体が形成される。
【0052】
尚、内層基板の外面の導体層に硬化性樹脂組成物の未硬化又は半硬化の樹脂成形体を貼り合わせる前に、密着性を向上させるために導体層に表面粗化のための前処理を施すことが好ましい。前処理の方法としては、公知の技術が特に限定されず使用できる。例えば、導体層が銅からなるものであれば、強アルカリ酸化性溶液を導体層表面に接触させて、導体表面に房状の酸化銅の層を形成して粗化する酸化処理方法、導体層表面を先の方法で酸化した後に水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリンなどで還元する方法、導体層にめっきを析出させて粗化する方法、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、導体層にチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法等が挙げられる。これらの内、微細な配線パターンの形状維持の容易性の観点から、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、及び、チオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法が好ましい。
【0053】
また、電気絶縁層の平坦性を向上させる目的や、電気絶縁層の厚みを増す目的で、内層基板の導体層上に、本発明の樹脂成形体を2以上接して貼り合わせて積層してもよい。
【0054】
上記積層体を用いて多層回路基板を製造するに際しては、通常、先ず積層体中の各導体層を連結するために、積層体を貫通するビアホールを設ける。このビアホールは、フォトリソグラフィ法のような化学的処理により、又は、ドリル、レーザ、プラズマエッチング等の物理的処理等により形成することができる。これらの方法の中でもレーザによる方法(炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、UV−YAGレーザ等)が、電気絶縁層の特性を低下させずにより微細なビアホールが形成できるので好ましい。
【0055】
次に、電気絶縁層を、導体層との接着性を高めるために表面を、過酸化物などの酸化性化合物と接触させて、酸化して粗化し、所望の表面平均粗さに調整する。本発明において電気絶縁層の表面平均粗さRaは0.05μm以上0.2μm未満、好ましくは0.06μm以上0.1μm以下であり、かつ表面十点平均粗さRzjisは0.3μm以上4μm未満、好ましくは0.5μm以上2μm以下である。
【0056】
ここで、RaはJIS B 0601−2001に示される中心線平均粗さであり、表面十点平均粗さRzjisは、JIS B 0601−2001付属書1に示される十点平均粗さである。
【0057】
本発明の樹脂成形体から形成された電気絶縁層の表面に導体層を形成する方法に格別な制限はなく、めっき等の一般的な方法により電気絶縁層表面とビアホール内壁面に第二の導体層を形成する。第二の導体層を形成する方法に格別制限はないが、例えば電気絶縁層上にめっき等により金属薄膜層を形成し、次いで厚づけめっき(電解めっき)により金属層を成長させる方法が採られる。
【0058】
こうして得られる本発明の多層回路基板は、難燃性、絶縁性及び耐クラック性に優れ、かつ、焼却時にハロゲン系有害物質が発生しない電気絶縁層を有していて、微細な配線パターン(導体層)を高密度に整然と形成することが可能なので、コンピューターや携帯電話等の電子機器における、CPUやメモリなどの半導体素子、その他の実装部品用基板として好適に使用できる。
【実施例】
【0059】
以下の実施例などにより、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例などにより何ら限定されるものではない。
<各特性の定義及び評価方法>
(1)重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)
テトラヒドロフランを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0060】
測定装置として、GPC−8220シリーズ(東ソー社製)を用いた。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが500、2630、10200、37900、96400、427000、1090000、5480000のものの計8点、東ソー社製)を用いた。
【0061】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、測定試料をテトラヒドロフランに溶解後、カートリッジフィルター(ポリテトラフルオロエチレン製、孔径0.5μm)で濾過して調製した。
【0062】
測定は、カラムに、TSKgel G4000HXL、G2000HXL、G1000HXL(東ソー社製)を3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量20μl、カラム温度40℃の条件で行った。
【0063】
(2)重合体の水素化率
水素化率は、水素化前における重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率をいい、H−NMRスペクトル測定により求めた。
(3)重合体の無水マレイン酸残基含有率
重合体中の総単量体単位数に対する酸無水物基のモル数の割合をいい、H−NMRスペクトル測定により求めた。
(4)重合体のガラス移転温度(Tg)
示差走査熱量法(DSC法)により昇温速度10℃/分で測定した。
【0064】
(5)線膨張係数
基材については、幅5.95mm、長さ15.4mm、厚さ50μmの小片を切り出し、支点間距離10mm、昇温速度5℃/分の条件で、熱重量/示差熱同時測定装置(TMA/SDTA840:メトラー・トレド社製)により30℃から120℃の範囲で測定した。
成形体については、硬化性樹脂組成物を、ダイコーターを用いて、縦250mm×横300mmの大きさで厚さが100μm、表面粗さRaが0.08μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工した。そこに基材を載せ、さらにその上に樹脂組成物を塗工した。次いで、80℃で10分間乾燥し、支持体上に厚さ50μmのフィルム成形体を得た。このフィルム成形体を、フィルム成形体が内側になるように厚さ75μmの圧延銅箔の片面に積層した。フィルム成形体を残し、支持体だけを剥がしとり、窒素雰囲気下60℃で30分間、次いで160℃で30分間、さらに170℃で60分間加熱してフィルム成形体を硬化させた。続いて塩化第二銅/塩酸混合溶液により圧延銅箔を全てエッチング除去処理して硬化されたフィルム成形体(硬化シート)を得た。得られた硬化シートから幅5.95mm、長さ15.4mm、厚さ14μmの小片を切り出し、支点間距離10mm、昇温速度5℃/分の条件で、熱重量/示差熱同時測定装置(TMA/SDTA840:メトラー・トレド社製)により30℃から120℃の範囲で測定した。
いずれも下記の基準で判定した。
◎:線膨張係数の値が、20ppm/℃未満
○:線膨張係数の値が、20ppm/℃以上40ppm/℃未満
△:線膨張係数の値が、40ppm/℃以上60ppm/℃未満
×:線膨張係数の値が、60ppm/℃以上
【0065】
(6)フィルム成形体のTg
前記(5)と同様にして得られた硬化シートから、幅5mm、長さ5cm、厚さ50μmの小片を切り出し、支点間距離2cm、昇温速度5℃/分の条件で、粘弾性スペクトロメーター(EXSTAR6000:セイコーインスツル社製)により測定し、下記の基準で判定した。
○:150℃以上
△:140℃以上150℃未満
×:140℃未満
(7)導体層との密着性
導体層と電気絶縁層との間の引き剥がし強さをJIS C 6481−1996に準拠して測定し、その結果に基づいて下記の基準で判定した。
○:引き剥がし強さの平均が8N/cm以上
△:引き剥がし強さの平均が5N/cm以上8N/cm未満
×:引き剥がし強さの平均が5N/cm未満
(8)難燃性
基材については、幅13mm、長さ100mmの短冊状に切断して難燃性評価基板を作成した。この小片にUL94V垂直難燃試験方法に従って測定を行った。
成形体については、前記(5)と同様にして得られたフィルム成形体を、両面の銅をエッチングした厚さ0.6mm×縦11cm×横16cmのハロゲンフリー基板両面に積層し、フィルム支持体だけを剥がしとり、窒素雰囲気下60℃で30分間、次いで160℃で30分間、さらに170℃で60分間加熱してフィルム成形体を硬化させた。この電気絶縁層が形成された基板(ビアホール形成前)を、幅13mm、長さ100mmの短冊状に切断して難燃性評価基板を作成した。この小片にUL94V垂直難燃試験方法に従って測定を行った。
いずれも下記の基準で判定した。
○:V(VTM)−1又はV(VTM)−0である。
×:V(VTM)−1及びV(VTM)−0のいずれでもない。
【0066】
(9)はんだ耐熱性
前記(8)で作成した基板を260℃の溶融はんだ上に浮かべ、ふくれ等を観察した。各5枚のサンプルで試験をし、ふくれ等の変化の生じない時間を測定し、その結果に基づいて下記の基準で判定した。
○:120秒経過してもふくれ等の変化なし
△:60秒以上120秒未満にてふくれ等の変化が発生
×:60秒未満にてふくれ等の変化が発生
(9)複合樹脂成形体の電気特性
上記(5)と同様にして得られた成形体から幅2.6mm、長さ80mm、厚み50μmの試験片を切り出し、空洞共振器摂動法誘電率測定装置を用いて10GHzにおける比誘電率及び誘電正接の測定を行い、下記の基準で判定した。
○:誘電正接が0.01未満で、比誘電率が2.8未満のもの
△:誘電正接が0.01未満で、比誘電率が2.8以上のもの
×:誘電正接が0.01以上のもの
【0067】
<実施例1>
8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、ETDと略記する。)70部とビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物30部を、1−ブテンを分子量調整剤として添加して開環共重合し、次いで水素添加反応を行って開環共重合体水素添加物を得た。得られた開環共重合体水素添加物のMnは23,000、Mwは50,000、Tgは142℃であった。また、水素化率は99%以上であった。
これとは別に、式(5)に表される化合物1 30部をキシレン35部、シクロペンタノン35部からなる混合溶液に溶解し、混合溶液1を得た。
【0068】
【化4】

【0069】
また、環状リン化合物(製品名「SANKO−EPOCLEAN」、三光社製)20部をシクロペンタノン80部に溶解し、混合溶液2を得た。
さらに、平均粒径が0.5μmのエポキシシランで表面処理を行ったシリカフィラー70部をシクロペンタノン30部に分散させ、シリカスラリーを得た。
【0070】
脂環式オレフィン重合体(A)成分として開環共重合体水素添加物100部、硬化剤(B)成分として水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(製品名「YX8000」、ジャパンエポキシレジン社製)36部、レーザ加工性向上剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール1部、老化防止剤として1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン1部、硬化促進剤として1−べンジル−2−フェニルイミダゾール0.5部、およびエラストマーとして液状ポリブタジエン(製品名「Ricon」、サートマージャパン社製)10部を、さらに表1(量は固形分量)で示された処方になるように混合溶液1、混合溶液2、シリカスラリー、及び、有機リン酸塩(製品名「Exolit930」、クラリアント社製)を添加し、キシレン400部に混合させて硬化性樹脂組成物のワニスを得た。縦300mm×横300mmの大きさで厚さが100μm、表面平均粗さRaが0.08μmのポリエチレンナフタレートフィルム(支持体)上に、縦250mm×横250mmの大きさで厚みが20μm、目付け量が14g/mの、全芳香族ポリエステルの液晶ポリマー不織布(製品名「ベクルスMBBK14FXSP」、クラレ社製;難燃性V−0、線膨張係数−10〜−7ppm/℃)を設置し、次いで上記で得られたワニスを、ダイコーターを用いて液晶ポリマー不織布に塗工し、含浸させた。次いで、窒素雰囲気下、80℃で10分間乾燥し、厚みが32μm、液晶ポリマー含有量が55%である支持体付きの複合樹脂成形体を得た。
【0071】
ガラスフィラー及びハロゲン不含エポキシ樹脂を含有するワニスをガラス繊維に含浸させて得られたコア材の表面に、厚みが18μmの銅が貼られた、厚み0.8mm、縦150mm×横150mmの両面銅張り基板表面に、配線幅及び配線間距離が25μm、厚みが10μmで、表面が有機酸との接触によってマイクロエッチング処理された導体層を形成して、表面に導体層を有する基板である内層基板を得た。上記で得られた複合樹脂成形体を縦150mm×横150mmの大きさに切断し、複合樹脂成形体面が内側、支持体が外側となるようにして、この内層基板の両面に重ね合わせた。
これを、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、200Paに減圧して、温度105℃、圧力1.0MPaで60秒間加熱圧着した(一次プレス)。さらに、金属製プレス板で覆われた耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、200Paに減圧して、温度120℃、1.0MPaで300秒間、加熱圧着した(二次プレス)。次いで支持体を剥がして、複合樹脂成形体層を有する内層基板を得た。
【0072】
この内層基板を、1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾールの1.0%水溶液に30℃にて10分間浸漬し、次いで25℃の水に1分間浸漬した後、エアーナイフにて余分な溶液を除去した。これを窒素雰囲気下、160℃で30分間放置し、樹脂層を硬化させて内層基板上に電気絶縁層を形成し、多層回路基板を得た。
【0073】
得られた多層回路基板を、過マンガン酸濃度60g/リットル、水酸化ナトリウム濃度28g/リットルになるように調整した70℃の水溶液に10分間揺動浸漬した。次いで、この多層回路基板を水槽に1分間揺動浸漬し、更に別の水槽に1分間揺動浸漬することにより水洗した。続いて硫酸ヒドロキシルアミン濃度170g/リットル、硫酸80g/リットルになるように調整した25℃の水溶液に、多層回路基板を5分間浸漬し、中和還元処理をした後、水洗した。
【0074】
次いで、めっき前処理として、上記水洗後の多層回路基板をアルカップアクチベータMAT−1−A(上村工業社製)が200ml/リットル、アルカップアクチベータMAT−1−B(上村工業社製)が30ml/リットル、水酸化ナトリウムが0.35g/リットルになるように調整した60℃のPd塩含有めっき触媒水溶液に5分間浸漬した。次いで、この多層回路基板を水槽に1分間揺動浸漬し、更に別の水槽に1分間揺動浸漬することにより水洗した後、アルカップレデユーサーMAB−4−A(上村工業社製)が20ml/リットル、アルカップレデユーサーMAB−4−B(上村工業社製)が200ml/
リットルになるように調整した溶液に35℃で、3分間浸漬し、めっき触媒を還元処理した。このようにしてめっき触媒を吸着させ、めっき前処理を施した多層回路基板を得た。
【0075】
次いで、めっき前処理後の多層回路基板を、スルカップPSY−1A(上村工業社製)100ml/リットル、スルカップPSY−1B(上村工業社製)40ml/リットル、ホルマリン0.2モル/リットルとなるように調整した水溶液に空気を吹き込みながら、温度36℃、5分間浸漬して無電解銅めっき処理を行った。無電解めっき処理により金属薄膜層が形成された多層回路基板を、更に水槽に1分間揺動浸漬し、更に別の水槽に1分間揺動浸漬することにより水洗した後、乾燥し、防錆処理を施し、無電解めっき皮膜が形成された多層回路基板を得た。
【0076】
無電解めっき皮膜が形成された多層回路基板を、硫酸100g/リットルの水溶液に25℃で1分間浸漬させ防錆剤を除去し、電解銅めっきを施し厚さ30μmの電解銅めっき膜を形成させた。そして、最後に、170℃で60分間アニール処理をして多層プリント配線板を得た。得られた多層回路基板についてはんだ耐熱性、導体層との密着性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0077】
<実施例2>
実施例1において、環状リン化合物(製品名「SANKO−EPOCLEAN」、三光社製)を用いず、有機リン酸塩(製品名「Exolit930」、クラリアント社製)の添加量を20部とした以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
<実施例3>
実施例1において、環状リン化合物(製品名「SANKO−EPOCLEAN」、三光社製)10部の代わりに縮合リン酸エステル(製品名「PX200」、大八化学工業社製)20部を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
<実施例4>
モンモリロナイト10部をシクロペンタノン90部に分散させ、モンモリロナイトスラリーを得た。
実施例1において、シリカフィラーの代わりにモンモリロナイトフィラーを用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
<実施例5>
式(6)に表される化合物2 30部をキシレン35部、シクロペンタノン35部からなる混合溶液に溶解し、混合溶液3を得た。
実施例1において混合溶液1の代わりに混合溶液2を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
【化5】

【0082】
<実施例6>
式(7)に表される化合物3 30部をキシレン35部、シクロペンタノン35部からなる混合溶液に溶解し、混合溶液4を得た。
実施例1において混合溶液1の代わりに混合溶液3を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0083】
【化6】

【0084】
<実施例7>
実施例1において、不織布の代わりにアラミドフィルム(製品名ミクトロン、東レ社製;難燃性V−0、線膨張係数5ppm/℃)を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
<実施例8>
実施例1において、不織布の代わりに液晶ポリマーフィルム(製品名バイアック、ジャパンゴアテックス社製;難燃性V−0、線膨張係数10ppm/℃)を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
<比較例1>
実施例1において、LCP不織布を用いる代わりにガラスクロス(製品名MSシリーズ、旭化成エレクトロニクス社製)を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
<比較例2>
式(8)に表される化合物4 30部をキシレン35部、シクロペンタノン35部からなる混合溶液に溶解し、混合溶液5を得た。
実施例1において混合溶液1の代わりに混合溶液5を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0088】
【化7】

【0089】
<比較例3>
式(9)に表される化合物5 30部をキシレン35部、シクロペンタノン35部からなる混合溶液に溶解し、混合溶液6を得た。
実施例1において混合溶液1の代わりに混合溶液6を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0090】
【化8】

【0091】
<比較例4>
式(10)に表される化合物6 30部をキシレン35部、シクロペンタノン35部からなる混合溶液に溶解し、混合溶液7を得た。
実施例1において混合溶液1の代わりに混合溶液7を用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0092】
【化9】

【0093】
<比較例5>
実施例1において、混合溶液1を用いずに、縮合リン酸エステルを10部用いた以外は実施例1と同様に行い、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
表2に示されているように、本発明の手法を用いた場合には、各種物性を良好に制御できた。
化合物1を40部用いた場合には、線膨張係数、難燃性は良い結果を示したが、ハンダ耐熱試験においてふくれが発生した(比較例1)。また、基材を用いなかった場合に難燃性が得られないことが判明した(比較例2)。また、線膨張係数が高くなった。基材としてガラスクロスを用いた場合には、線膨張係数がLCP不織布を用いた場合に比べて高くなり、また誘電率も高くなった(比較例3)。非相溶系のシアノフェノキシシクロホスファゼンを用いた場合は、難燃性は良好に制御できたものの、Tgが低下し、また銅体層との密着性が低下した(比較例4)。これは、難燃剤がブリードアウトしたためだと考えられた。相溶系のホスファゼン化合物を用いた場合には、難燃性は制御できたが、線膨張係数及びTgが悪化した(比較例5)。ビニル基含有シクロフェノキシホスファゼンを用いた場合には、誘電率が高くなった(比較例6)。これは、末端ビニル基が酸化し、酸化劣化したためだと考えられる。ホスファゼンの代わりに縮合リン酸エステルを用いた場合には、難燃性が得られず、線膨張係数、Tg、銅体層との密着性も悪化した(比較例7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10,000〜250,000で、カルボキシル基又は酸無水物基を有し、酸価が5〜200mgKOH/gである脂環式オレフィン重合体(A)、硬化剤(B)、および、エポキシ基、カルボキシル基または酸無水物基と反応して共有結合を生成する官能基を有し、CH=CH−結合を有しないホスファゼン化合物(C)を含有してなる硬化性樹脂組成物(1)を、難燃性がUL94規格においてV−1又はV−0であり、かつ線膨張係数が10×10−6/℃以下の有機高分子からなる基材(2)に、含浸及び/又は積層してなる絶縁膜用硬化性樹脂成形体。
【請求項2】
前記基材(2)が、膜厚が20μm以下の不織布、織布、又は樹脂フィルムである請求項1記載の絶縁膜用硬化性樹脂成形体。
【請求項3】
前記硬化性樹脂組成物(1)が、更に粒径1μm未満のフィラーを含有するものである、請求項1記載の絶縁膜用硬化性樹脂成形体。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物(1)が、更に分子中にリン原子を有する化合物を含有するものである、請求項1又は2記載の絶縁膜用硬化性樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁膜用硬化性樹脂成形体を硬化してなる層間絶縁膜。
【請求項6】
少なくとも表面に導体層を有する基板上に、請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁膜用硬化性樹脂成形体を積層し、次いで当該成形体中の硬化性樹脂を硬化して絶縁膜を形成することを特徴とする回路基板。
【請求項7】
請求項6記載の回路基板の、絶縁膜上に導体層を形成してなる回路基板。

【公開番号】特開2009−226791(P2009−226791A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76171(P2008−76171)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】