説明

絶縁被膜を有する電磁鋼板およびその製造方法

【課題】Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜であってもCr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、耐食性および打抜性を有する絶縁被膜を有する電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】前記絶縁被膜中には、ポリシロキサンとC元素を有する重合体とからなる複合樹脂を含むものとする。例えば、全固形分に対するポリシロキサン比率は、SiO2換算で10〜90質量%である。例えば、絶縁被膜の目付量は0.05〜10g/m2である。例えば、C元素を有する重合体としては、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、アルキド系重合体、ポリウレタン系重合体、アクリル系重合体等が挙げられる。また、前記絶縁被膜中には、シリカ、シリケート、アルミナ等の無機化合物を含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Crを含有しない絶縁被膜を有する電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜は、層間抵抗だけでなく種々の特性が要求される。例えば、加工成形時の利便性、保管、使用時の安定性などである。さらに、電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。
例えば、電磁鋼板に打抜加工、せん断加工、曲げ加工などを施すと残留歪みにより磁気特性が劣化する。そこで、劣化した磁気特性を回復させるため750〜850℃程度で歪取り焼純を行う場合が多い。この場合には絶縁被膜が歪取り焼鈍に耐えるものでなければならない。
【0003】
絶縁被膜は、(1)溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機質被膜(原則として有機樹脂を含まない)、(2)打抜性、溶接性の両立を目指し、歪取り焼鈍に耐える、有機樹脂を含有する半有機質被膜、(3)特殊用途で歪取り焼鈍を施すことができない有機被膜、の3種に大別される。この中で、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは(1)、(2)の無機質を含む被膜であり、両者とも被膜中にクロム化合物を含む。特に、(2)のタイプで有機樹脂を含有したクロム酸塩系絶縁被膜は、無機系絶縁被膜に比べて打抜性を格段に向上させることができるので広く利用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、少なくとも1種の2価金属を含む重クロム酸塩系水溶液に、水溶液中のCrO:100重量部に対し、酢酸ビニル/ベオバ(TM)比が90/10〜40/60の比率である樹脂エマルジョンを樹脂固形分で5〜120重量部、および有機還元剤を10〜60重量部の割合で配合して処理液(coating liquid)とし、その処理液を基地鉄板(steel sheet)の表面に塗布し、常法による焼付け工程を経て形成した、電気絶縁被膜を有する電磁鋼板が記載されている。
このような電磁鋼板用のクロム酸塩系被膜は、鋼板製品としては三価クロムとなっていることがほとんどのため、有害性の問題はない。しかし、塗布液の段階では有害な六価クロムを使用しなければならないため、良好な作業環境の確保のためには、設備の充実はもちろんのこと、厳しい取り扱い基準の遵守が要求される。
このような現状を受けて、さらには昨今の環境意識の高まりを受けて、電磁鋼板の分野においてもCrを含有しない絶縁被膜を有する製品が需要家等から望まれてきている。
【0005】
クロム酸以外を主剤とする技術として、シリカ等の無機コロイドを主剤とする半有機質絶縁被膜が、数多く開示されている。これらによると、有害な六価クロム液の取り扱いを行う必要がないため、環境上非常に有利に適用が可能である。例えば、特許文献2には、無機コロイド系の耐食性を向上させる方法として、樹脂/シリカ被膜中のCl、S量を規定量以下にする方法が開示されている。この方法によると、製品板の耐食性は湿潤試験環境では向上する。しかしながら、塩水噴霧等のような過酷な条件下での耐食性は、Cr含有絶縁被膜を用いた場合の耐食性には及ばない。また、シリカを配合した場合、打抜性に関しても、耐食性と同様に、Cr含有絶縁被膜を用いた場合の良好な打抜性には及ばない。
【特許文献1】特公昭60−36476号公報
【特許文献2】特開平10−34812公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑み、Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜であってもCr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、耐食性および打抜性に優れた絶縁被膜を有する電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
発明者らは、シリカ系クロメートフリーコートの製品板耐食性が、従来から言われているCl-、SO42-等の不純物量を低減しても製造条件によってばらつく原因を種々調査した。
その結果、耐食性の劣る場合の多くは被膜にクラックが入っていることをつきとめた。すなわち、コロイド状のシリカは、200〜300℃程度の焼き付け温度では、シリカが三次元ネットワークを形成しないため、シリカ自体では造膜性がなく、これが、被膜にクラックが入り耐食性が製造条件によってばらつく原因であると推定した。
以上より、良好な耐食性の被膜を形成するためには、-Si-O-の三次元ネットワークを形成することが重要であり、樹脂中にポリシロキサン構造を有し、このポリシロキサンと有機物とを架橋させることで、課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、該絶縁被膜中には、ポリシロキサンとC元素を有する重合体とからなる複合樹脂を含むことを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[2]前記[1]において、前記絶縁被膜中の全固形分に対する前記ポリシロキサン比率は、SiO2換算で10〜90質量%であることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[3]前記[1]または[2]において、前記C元素を有する重合体は、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、アルキド系重合体、ポリウレタン系重合体、アクリル系重合体、スチレン系重合体、ポリエチレン系重合体、ポリプロピレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリカーボネート系重合体、フェノール系重合体、エポキシ系重合体から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記絶縁被膜中に、さらに、無機化合物として、シリカ、シリケート、アルミナ、チタニア、酸化スズ、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化モリブデンから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記絶縁被膜の目付量は0.05〜10g/m2であることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[6]ポリシロキサンとC元素を有する重合体を含有する塗布液を電磁鋼板表面に塗布し焼付けることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
[7]前記[6]において、前記C元素を有する重合体として、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、アルキド系重合体、ポリウレタン系重合体、アクリル系重合体、スチレン系重合体、ポリエチレン系重合体、ポリプロピレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリカーボネート系重合体、フェノール系重合体、エポキシ系重合体から選ばれる1種または2種以上を用いることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
[8]前記[6]または[7]のいずれかにおいて、前記塗布液に、さらに、無機化合物として、シリカ、シリケート、アルミナ、チタニア、酸化スズ、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化モリブデンから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
[9]前記[6]〜[8]のいずれかにおいて、前記塗布液は、全固形分量に対するポリシロキサンの比率が、SiO2換算で10〜90質量%であることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
[10]前記[6]〜[9]のいずれかにおいて、絶縁被膜目付量が0.05〜10g/m2となるように電磁鋼板表面に塗布液を塗布し焼付けることを特徴とするに記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐食性および打抜性に優れる絶縁被膜を有する電磁鋼板が得られる。そして、本発明の絶縁被膜を有する電磁鋼板は、クロムを含有していない上、耐食性、打抜性はじめ、各種性能がCr含有絶縁被膜と同等以上有しているため、最終製品だけでなく製造工程においても環境に優しく、モータ、トランス等の用途をはじめ広く利用することができる、産業上有益な発明と言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の電磁鋼板は、絶縁被膜を有する鋼板であり、前記絶縁被膜はポリシロキサンとC元素を有する重合体とからなる複合樹脂を含むこととする。これは本発明において、最も重要な要件である。そして、このような絶縁被膜を有することにより、Cr含有絶縁被膜を有する電磁鋼板と同等以上の、耐食性および打抜性を有することになる。
【0011】
まず、本発明で用いる電磁鋼板について説明する。
本発明で用いることができる被膜を形成する前の電磁鋼板(電気鉄板ともいう)は、比抵抗を変化させて所望の磁気特性を得るために調整された鋼板(鉄板)であればどのような組成の鋼板でもよく、特に制限されない。
また、絶縁被膜が形成される電磁鋼板の表面は、アルカリなどによる脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施してよいし、製造されたままの未処理の表面であってもよい。
さらに、絶縁被膜と地鉄表面との間に第3の層を形成させることは必ずしも要さないが、必要に応じて形成させてもよい。例えば、通常の製法では地鉄金属の酸化被膜が絶縁被膜と地鉄表面との間に形成されることがあるが、これを除去する手間は省いてもよい。
【0012】
次に、上記鋼板の表面に塗布される本発明の絶縁被膜について説明する。
本発明の絶縁被膜は、以下に述べる必須成分であるポリシロキサンとC元素を有する重合体とを含有する塗布液を電磁鋼板表面に塗布し焼付けることで得られる。
【0013】
ポリシロキサン
ポリシロキサンは−Si−O−(シロキサン結合)を主鎖に持つポリマーである。このポリシロキサンはC元素を有する重合体と、C−Si−O結合を介して、あらかじめ架橋させておくことが好ましく、これにより、無機成分と有機成分が予め三次元構造を形成しているので、クラックのない均一な被膜を達成でき、良好な耐食性を有する被膜を形成できる。ポリシロキサンに、水酸基、アルコキシ基などの官能基を有しておけば、さらにC元素を有する重合体部分と結合させて三次元ネットワークを強化させることが可能である。
絶縁被膜中の全固形分に対するポリシロキサン比率は、SiO換算で10〜90質量%とすることが好ましい。10質量%未満では歪取焼鈍後の被膜残存比率が少なくなるため、スティキング性が劣る場合がある。この比が大きくなれば被膜が強固となるが、90質量%超であると、可撓性が不足し、製造条件によっては耐食性が劣化する場合がある。
なお、ポリシロキサン量の測定について、Si量のみを測定した場合は、「SiO」量に換算して、被膜全固形分に対する比率をとればよい。
【0014】
C元素を有する重合体
本発明において、C元素を有する重合体としては、種々の重合体が適用可能である。例えば、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、アルキド系重合体、ポリウレタン系重合体、アクリル系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリエチレン系重合体、ポリプロピレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリカーボネート系重合体、フェノール系重合体、エポキシ系重合体等があげられ、これらの中から1種または2種以上を含有することが好ましい。また、これらの重合体は、これらの共重合体として使用することもできる。
上記のうち、ポリシロキサンとC−Si−Oを介して架橋を形成し、三次元ネットワークを形成する観点からは、重合体の側鎖に結合可能な官能基を有していれば、なおよい。重合度は特に規定しないが、好ましくは平均で2以上、より好ましくは平均で5以上である。
【0015】
以上より、本発明は目的とする特性が得られるが、上記の含有物に加えて、本発明の作用効果を害さない範囲で、以下に示す目的で添加剤、以下の他の無機化合物、有機化合物を含有することができる。なお、C元素を有する重合体をはじめ、下記添加剤、他の無機化合物、有機化合物を含有するにあたっては、大量に配合しすぎると被膜性能が劣化するため、C元素を有する重合体、添加剤、他の無機化合物、および有機化合物の合計量で、本発明の絶縁被膜の全被膜量に対して50質量%程度以下とすることが好ましい。
【0016】
他の無機化合物、有機化合物
本発明の絶縁被膜は、本発明の効果が損なわれない程度に、他の無機化合物および/または有機化合物を含有することができる。特に低いポリシロキサン比率の場合において、無機化合物の添加は焼鈍板の密着性、耐食性、スティキング性を改善するため好適である。好ましくは被膜全固形分に対して60質量%以下、より好ましくは40質量%以下含有するものとする。例えば液安定性が確保できれば他の酸化物(ゾル)を添加することができる。酸化物(ゾル)としてはシリカ(ゾル)、シリケート、アルミナ(ゾル)、チタニア(ゾル)、酸化スズ(ゾル)、酸化セリウム(ゾル)、酸化アンチモン(ゾル)、酸化タングステン(ゾル)、酸化モリブデン(ゾル)が挙げられる。なお、本発明はクロム化合物を添加せずに良好な被膜特性を得ることを目的している。したがって、本発明の絶縁被膜は製造工程および製品からの環境汚染を防止する観点からCrを実質的に含まないことが好ましい。不純物として許容されるクロム量としては、絶縁被膜の全固形分質量に対してCrO換算した量で0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
次に本発明の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の出発素材として用いる電磁鋼板の前処理は特に規定しない。未処理あるいはアルカリなどの脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理が好ましく適用される。
そして、この鋼板上に上述したポリシロキサンとC元素を有する重合体とを含有する塗布液を塗布する。その後、前記塗布液を塗布した電磁鋼板に焼き付け処理を施すことにより電磁鋼板上に絶縁被膜を形成させる。
このとき、前記塗布液は、全固形分量に対するポリシロキサン比率がSiO換算で10〜90質量%であることが好ましい。前述のとおり、10質量%未満では歪取焼鈍後の被膜残存比率が少なくなるため、スティキング性が劣る場合があり、この比が大きくなれば被膜が強固となるが、90質量%超であると、可撓性が不足し、製造条件によっては耐食性が劣化する場合がある。また、前記塗布液において、ポリシロキサンとC元素を有する重合体とをあらかじめ架橋させておくことが好ましく、さらに架橋剤を加えることにより、三次元網目構造を強化してもよい。
絶縁被膜の塗布方法は一般工業的に用いられる、ロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター、バーコーター等種々の設備を用いる方法が適用可能である。また、焼き付け方法についても通常実施されるような熱風式、赤外線加熱式、誘導加熱式等が可能である。
焼き付け温度も通常レベルであればよいが、樹脂の熱分解を避けるため、350℃以下とすることが好ましい。より好ましい範囲は150℃以上300℃以下である。
【0018】
絶縁被膜付着量
絶縁被膜の目付量は特に限定はしないが、片面あたり0.05〜10g/mであることが好ましい。より好ましくは、片面あたり合計で0.1g/m以上10g/m以下である。0.05g/m未満であると、均一な塗布が困難であり、安定した打抜性や耐食性を確保することが難しい場合がある。一方、10g/m超であるとそれ以上の被膜性能向上がなく、不経済となる可能性がある。なお、目付量の測定は、熱アルカリ等で被膜のみを溶解させて、溶解前後の重量変化から測定する重量法を用いることができる。
また、本発明の絶縁被膜は鋼板の両面にあることが好ましいが、目的によっては片面のみでも構わない。すなわち、目的によっては片面のみ施し、他面は他の絶縁被膜としてもよいし、他面に絶縁被覆を施さなくてもよい。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、電磁鋼板として、鋼成分としてSi:0.45質量%、Mn:0.25質量%、Al:0.48質量%を含有し、板厚0.5mm厚の仕上げ焼鈍を施したフルプロセス電磁鋼板を用いた。表1〜表3に示す条件にてポリシロキサンと各樹脂をあらかじめ架橋させた複合樹脂を前記電磁鋼板の表面上に、ロールコーターで塗布し、熱風炉にて焼付け温度:到達板温230℃で焼付けて供試材を得た。なお、一部の実施例、比較例に対しては、複合樹脂以外の成分として、表1〜表3に記載の薬剤を添加した。
得られた供試材(絶縁被膜を有する電磁鋼板)に対して、沸騰した50%NaOH中で被膜を溶解させ、前述の重量法で絶縁被膜の目付量を測定した。
また、以上により得られた絶縁被膜を有する電磁鋼板に対して、以下の各被膜特性の測定を行い、評価した。
【0020】
<耐食性製品板1>
供試材に対して湿潤試験(50℃、 >98%RH)を行い、48h後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率 0%〜20%未満
○:赤錆面積率 20%以上〜40%未満
△:赤錆面積率 40%以上〜60%未満
×:赤錆面積率 60%以上〜100%
<耐食性製品板2>
供試材に対してJIS規定の塩水噴霧試験(35℃)を行い、5h後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率 0%〜25%未満
○:赤錆面積率 25%以上〜50%未満
△:赤錆面積率 50%以上〜75%未満
×:赤錆面積率 75%以上〜100%
<歪取焼鈍後耐食性(耐食性焼鈍板)>
供試材に対して、窒素雰囲気下、750℃×2hの条件にて焼鈍を行い、得られた焼鈍板に対して恒温恒湿試験試験(50℃、相対湿度80%)を行い、14日後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率 0%〜20%未満
○:赤錆面積率 20%以上〜40%未満
△:赤錆面積率 40%以上〜60%未満
×:赤錆面積率 60%以上〜100%
<密着性>
供試材、並びに、窒素雰囲気下、750℃×2hの条件にて焼鈍を行い、得られた焼鈍板に対して、20mmφでの180゜曲げ戻し試験を行い、目視による被膜剥離率で評価した。
(判定基準)
◎:剥離なし
○:〜剥離率20%未満
△:剥離率20%以上〜40%未満
×:剥離率40%以上〜全面剥離
<耐溶剤性>
各種溶剤(ヘキサン、キシレン、メタノール、エタノール)を脱脂綿にしみこませ、供試材の表面を5往復させ、その後の外観変化を目視にて調査した。
(判定基準)
◎:変化無し
○:変化ほとんどなし
△:若干変色
×:変化大
<打抜性>
供試材に対して、15mmφスチールダイスを用いて、かえり高さが50μmに達するまで打ち抜きを行い、その打ち抜き数で評価した。
(判定基準)
◎:100万回以上
○:50万回以上〜100万回未満
△:10万回以上〜50万回未満
×:10万回未満
<スティキング性>
50mm角の供試材10枚を重ねて荷重(200g/cm)をかけながら窒素雰囲気下で750℃×2時間の条件にて焼鈍を行った。次いで、供試材(鋼板)上に分銅500gを落下させ、5分割するときの落下高さを調査した。
(判定基準)
◎:10cm以下
○:10cm超〜15cm以下
△:15cm超〜30cm以下
×:30cm超
以上より得られた結果を実験条件と併せてに示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
表1〜3から明らかなように、本発明例は耐食性、密着性、耐溶剤性、打抜性、スティキング性のいずれも優れている。特にポリシロキサン比率および絶縁被膜の目付量を好適範囲とした本発明例では、上記特性がより一層優れているのがわかる。一方、比較例では、耐食性、密着性、耐溶剤性、打抜性、スティキング性のいずれか一つ以上が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0025】
Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜でありながら、例えば耐食性など、Cr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、モータや変圧器等を中心に多様な用途での使用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、
該絶縁被膜中には、ポリシロキサンとC元素を有する重合体とからなる複合樹脂を含むことを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項2】
前記絶縁被膜中の全固形分に対する前記ポリシロキサン比率は、SiO2換算で10〜90質量%であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項3】
前記C元素を有する重合体は、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、アルキド系重合体、ポリウレタン系重合体、アクリル系重合体、スチレン系重合体、ポリエチレン系重合体、ポリプロピレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリカーボネート系重合体、フェノール系重合体、エポキシ系重合体から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項4】
前記絶縁被膜中に、さらに、無機化合物として、シリカ、シリケート、アルミナ、チタニア、酸化スズ、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化モリブデンから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項5】
前記絶縁被膜の目付量は0.05〜10g/m2であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項6】
ポリシロキサンとC元素を有する重合体を含有する塗布液を電磁鋼板表面に塗布し焼付けることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記C元素を有する重合体として、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、アルキド系重合体、ポリウレタン系重合体、アクリル系重合体、スチレン系重合体、ポリエチレン系重合体、ポリプロピレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリカーボネート系重合体、フェノール系重合体、エポキシ系重合体から選ばれる1種または2種以上を用いることを特徴とする請求項6に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記塗布液に、さらに、無機化合物として、シリカ、シリケート、アルミナ、チタニア、酸化スズ、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化モリブデンから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項6または7に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記塗布液は、全固形分量に対する前記ポリシロキサンの比率が、SiO2換算で10〜90質量%であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
絶縁被膜の目付量が0.05〜10g/m2となるように電磁鋼板表面に塗布液を塗布し焼付けることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2007−197820(P2007−197820A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331788(P2006−331788)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】