説明

絶縁被膜を有する電磁鋼板

【課題】Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜であってもCr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、耐食性および打抜性を有する絶縁被膜を有する電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】例えば、ポリシロキサンとウレタン樹脂とを共重合したポリシロキサン重合体100重量部に対し、架橋剤としてメラミンを10重量部含有した処理液を電磁鋼板表面に塗布し乾燥してなる絶縁被膜を有する電磁鋼板である。前記絶縁被膜中には、無機化合物として、例えば、シリカゾルを被膜全固形分に対し60質量%以下の範囲で含有することができる。また、全固形分に対するポリシロキサン比率は、SiO2換算で10〜90質量%が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Crを含有しない絶縁被膜を有する電磁鋼板に関するものであり、主にモータや変圧器に使用される絶縁被膜を有する電磁鋼板において、前記被膜中及び被膜形成の塗布液中にも6価クロムのような有害物質を含まない環境を考慮した電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜は、層間抵抗だけでなく種々の特性が要求される。例えば、加工成形時の利便性、保管、使用時の安定性などである。さらに、電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。
例えば、電磁鋼板に打抜加工、せん断加工、曲げ加工などを施すと残留歪みにより磁気特性が劣化する。そこで、劣化した磁気特性を回復させるため750〜850℃程度で歪取り焼純を行う場合が多い。この場合には絶縁被膜が歪取り焼鈍に耐えるものでなければならない。
【0003】
絶縁被膜は、(1)溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機質被膜(原則として有機樹脂を含まない)、(2)打抜性、溶接性の両立を目指し、歪取り焼鈍に耐える、有機樹脂を含有する半有機質被膜、(3)特殊用途で歪取り焼鈍を施すことができない有機被膜、の3種に大別される。この中で、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは(1)、(2)の無機質を含む被膜であり、両者とも被膜中にクロム化合物を含む。特に、(2)のタイプで有機樹脂を含有したクロム酸塩系絶縁被膜は、無機系絶縁被膜に比べて打抜性を格段に向上させることができるので広く利用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、少なくとも1種の2価金属を含む重クロム酸塩系水溶液に、該水溶液中のCrO:100重量部に対し、酢酸ビニル/ベオバ(TM)比が90/10〜40/60の比率である樹脂エマルジョンを樹脂固形分で5〜120重量部、および有機還元剤を10〜60重量部の割合で配合して塗布液(coating liquid)とし、該塗布液を基地鉄板(steel sheet)の表面に塗布し、常法による焼付け工程を経て形成した、電気絶縁被膜を有する電磁鋼板が記載されている。
このような電磁鋼板用のクロム酸塩系被膜は、鋼板製品としては三価クロムとなっていることがほとんどのため、有害性の問題はない。しかし、塗布液の段階では有害な六価クロムを使用しなければならないため、良好な作業環境の確保のためには、設備の充実はもちろんのこと、厳しい取り扱い基準の遵守が要求される。このような現状を受けて、さらには昨今の環境意識の高まりを受けて、電磁鋼板の分野においてもCrを含有しない絶縁被膜を有する製品が需要家等から望まれてきている。
【0005】
クロム酸以外を主剤とする技術として、シリカ等の無機コロイドを主剤とする半有機質絶縁被膜が、数多く開示されている。これらによると、有害な六価クロム液の取り扱いを行う必要がないため、環境上非常に有利に適用が可能である。例えば、特許文献2には、無機コロイド系の耐食性を向上させる方法として、樹脂/シリカ被膜中のCl、S量を規定量以下にする方法が開示されている。この方法によると、製品板の耐食性は湿潤試験環境では向上する。しかしながら、塩水噴霧等のような過酷な条件下での耐食性は、Cr含有絶縁被膜を用いた場合の耐食性には及ばない。また、シリカを配合した場合、打抜性に関しても、耐食性と同様に、Cr含有絶縁被膜を用いた場合の良好な打抜性には及ばない。
すなわち、電磁鋼板では、常温環境下での湿潤耐食性、塩水噴霧耐食性、および700℃以上の高温処理後(歪取焼鈍後)の耐食性を併せ持つ必要がある。腐食環境下での犠牲防食のため亜鉛や錫などのめっきを施している表面処理鋼板と異なり電磁鋼板は鉄部が表面に露出している。このような場合には、被膜特性として、高度なバリヤ性を有することで、腐食因子となる水、酸素、塩素などを遮蔽し、その結果カソード型腐食を抑制することが重要となる。このような高バリヤ特性に持たせるためには無機被膜のような連続的かつ緻密な構造を有することが望ましい。
一方、打抜き加工性を良好にすること、すなわち、打抜き加工で弊害となる連続打抜き後の金型磨耗を抑制させるためには、被膜中に潤滑成分を含有させることが有効である。しかしながら、耐食性と加工性を両立させるため、無機系と有機樹脂系の混合被膜とすると、被膜の連続性が損なわれ耐食性が劣化する。
【特許文献1】特公昭60−36476号公報
【特許文献2】特開平10−34812公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑み、Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜であってもCr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、耐食性および打抜性に優れた絶縁被膜を有する電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
発明者らは、シリカ系クロメートフリーコートの製品板耐食性が、従来から言われているCl、SO42-等の不純物量を低減しても製造条件によってばらつく原因を種々調査した。
その結果、耐食性が劣る場合の多くは被膜にクラックが入っていることをつきとめた。すなわち、コロイド状のシリカは、200〜300℃程度の焼付け温度では、シリカが三次元ネットワークを形成しないため、シリカ自体では造膜性がなく、これが被膜にクラックが入り耐食性が製造条件によってばらつく原因であると推定した。以上より、良好な耐食性の被膜を形成するためには、Si-Oの三次元ネットワークを形成すること、すなわち三次元架橋化することが重要であり、樹脂中にポリシロキサン構造を有し、このポリシロキサンと有機樹脂とを架橋させることで、課題が解決されることを見出した。そして、さらに、このポリシロキサンと有機樹脂とをあらかじめ共重合させた上で、メラミン、イソシアネート、シランカップリング剤、オキサドリンなどの架橋剤を用いて三次元架橋した場合、歪取り焼鈍後の耐食性に関し、より優れた特性を有する絶縁被膜付き電磁鋼板が得られることを見出した。具体的には以下の通りである。
(1)無機と有機が一体化した複合材料化
従来のように無機成分と有機成分とを単に塗液中で混合させるのではなく、樹脂の合成段階で無機と有機(樹脂)とを共重合(複合化)させる。すなわち、ポリシロキサン(無機)とアクリル樹脂等の1種又は2種以上の有機樹脂とを共重合させ、ポリシロキサン重合体とする。このポリシロキサン重合体(無機複合樹脂)は、ポリシロキサンのシラノール基(-SiOH)と有機樹脂の水酸基(-OH)もしくはシラノール基(-SiOH)とが脱水縮合し共有結合しているので、無機と有機とが強固に結合した複合体である。このポリシロキサン重合体は無機的性質の硬度とバリヤ性、有機的性質の柔軟性、加工性を兼ね備えている。
(2)三次元架橋化(三次元ネットワーク化)
さらなるバリヤ性向上のため、前記ポリシロキサン重合体を、架橋剤を介して三次元架橋化する。具体的には、有機樹脂中の水酸基及びポリシロキサン部のシラノール基の両極性基と反応性を示すメラミン、イソシアネート、シランカップリング剤、およびオキサドリンから選ばれる1種又は2種以上の架橋剤によって架橋させる。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]ポリシロキサンと、有機樹脂として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上とを共重合したポリシロキサン重合体100重量部に対し、架橋剤としてメラミン、イソシアネート、シランカップリング剤、オキサドリンから選ばれる1種又は2種以上を合計1〜50重量部含有している塗布液を電磁鋼板表面に塗布し焼付けしてなる絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[2]前記[1]において、前記絶縁被膜中に、無機化合物として、シリカ、シリケート、アルミナ、チタニア、酸化スズ、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステンおよび酸化モリブデンから選ばれる1種または2種以上を、被膜全固形分に対し75質量%以下含有することを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[3]前記[1]または[2]において、前記ポリシロキサン重合体中の前記ポリシロキサン比率は、SiO2換算で10〜90質量%であることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐食性および打抜性に優れる絶縁被膜を有する電磁鋼板が得られる。そして、本発明の絶縁被膜を有する電磁鋼板は、クロムを含有していない上、耐食性、打抜性はじめ、各種性能がCr含有絶縁被膜と同等以上有しているため、最終製品だけでなく製造工程においても環境に優しく、モータ、変圧器等の用途をはじめ広く利用することができる、産業上有益な発明と言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の電磁鋼板は、絶縁被膜を有する鋼板であり、前記絶縁被膜はポリシロキサンと有機樹脂(C元素を有する重合体)とがあらかじめ共重合して得られる複合樹脂(ポリシロキサン重合体)を含むこととする。これは本発明において、最も重要な要件である。そして、このような絶縁被膜を有することにより、Cr含有絶縁被膜を有する電磁鋼板と同等以上の、耐食性(特に焼鈍板耐食性)および打抜性を有することになる。
【0011】
まず、本発明で用いる電磁鋼板について説明する。
本発明で用いることができる被膜を形成する前の電磁鋼板(電気鉄板ともいう)は、比抵抗を変化させて所望の磁気特性を得るために調整された鋼板(鉄板)であればどのような組成の鋼板でもよく、特に制限されない。
【0012】
また、絶縁被膜が形成される電磁鋼板の表面は、アルカリなどによる脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施してよいし、製造されたままの未処理の表面であってもよい。
【0013】
さらに、絶縁被膜と地鉄表面との間に第3の層を形成させることは必ずしも要さないが、必要に応じて形成させてもよい。例えば、通常の製法では地鉄金属の酸化被膜が絶縁被膜と地鉄表面との間に形成されることがあるが、これを除去する手間は省いてもよい。
【0014】
次に、上記鋼板の表面に塗布される本発明の絶縁被膜について説明する。
本発明の絶縁被膜は、以下に述べる必須成分であるポリシロキサンと有機樹脂(C元素を有する重合体)とを含有する塗布液を電磁鋼板表面に塗布し焼付けることで得られる。その際、ポリシロキサンと有機樹脂を予め共重合させたポリシロキサン重合体を塗布液に含有させる。
【0015】
ポリシロキサン
ポリシロキサンは、−Si−O−(シロキサン結合)を主鎖に持つポリマーである。このポリシロキサンは有機樹脂(C元素を有する重合体)とあらかじめ共重合させておく(ポリシロキサン重合体)。これにより、ポリシロキサンのシラノール基(−SiOH)と有機樹脂の水酸基(−OH)またはもしくはシラノール基(-SiOH)とが脱水縮合した共有結合となり、無機と有機とが強固に結合した複合体となり、無機成分と有機成分が予め三次元構造を形成しているので、クラックのない均一な被膜を達成でき、良好な耐食性を有する被膜を形成できる。
前記ポリシロキサン重合体中のポリシロキサン比率は、SiO換算で10〜90質量%とすることが好ましい。10質量%未満では歪取焼鈍後の被膜残存比率が少なくなるため、スティキング性が劣る場合がある。この比が大きくなれば被膜が強固となるが、90質量%超であると、可撓性が不足し、製造条件によっては耐食性が劣化する場合がある。
なお、ポリシロキサン量の測定について、Si量のみを測定した場合は、「SiO」量に換算して、全被膜量との比率をとればよい。
【0016】
有機樹脂(C元素を有する重合体)
本発明において、前記ポリシロキサンに共重合させる有機樹脂としては、以下の樹脂が適用可能である。アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、およびエポキシ樹脂があげられ、これらから選ばれる1種または2種以上を前記ポリシロキサンと共重合させる。なお、ポリシロキサンと前記有機樹脂が共重合したポリシロキサン重合体についてC−Si−Oを介して架橋を形成し、三次元ネットワークを形成する観点からは、有機樹脂骨格の側鎖に結合可能な官能基(水酸基やシラノール基等)を有していれば、なおよい。
【0017】
架橋剤
本発明ではさらに、架橋剤としてメラミン、イソシアネート、シランカップリング剤およびオキサドリンの1種又は2種以上を、ポリシロキサン共重合体100重量部に対し、合計で1〜50重量部含有させる。架橋剤を添加することで、ポリシロキサン重合体間の架橋が起こり、より緻密な被膜を形成し、耐食性、とりわけ歪取焼鈍後の耐食性が向上する。これらの合計が1重量部未満では、架橋の効果が得られず歪取焼鈍後の耐食性が不足する。50重量部超では、未反応の架橋剤が残存し被膜密着性や被膜硬度が低下する。
【0018】
以上より、本発明は目的とする特性が得られるが、上記の含有物に加えて、本発明の作用効果を害さない範囲で、以下に示す目的で添加剤、以下の他の無機化合物、有機化合物を含有することができる。なお、下記添加剤、他の無機化合物、有機化合物を含有するにあたっては、大量に配合しすぎると被膜性能が劣化するため、添加剤、他の無機化合物、および有機化合物の合計量で、本発明の絶縁被膜の全被膜量に対して50質量%程度以下とすることが好ましい。
【0019】
他の無機化合物、有機化合物
本発明の絶縁被膜は、本発明の効果が損なわれない程度に、他の無機化合物および/またはポリシロキサンと共重合していない有機化合物を含有することができる。無機化合物としては、例えば、液安定性が確保できれば他の酸化物(ゾル)を添加することができる。酸化物(ゾル)としてはシリカ(ゾル)、アルミナ(ゾル)、チタニア(ゾル)、酸化スズ(ゾル)、酸化セリウムゾル、酸化アンチモン(ゾル)、酸化タングステン(ゾル)、酸化モリブデン(ゾル)が挙げられる。特に低いポリシロキサン比率の場合において、無機化合物の添加は焼鈍板の密着性、耐食性、スティキング性を改善するため好適である。好ましくは被膜全固形分に対して60質量%以下、より好ましくは40質量%以下含有するものとする。
また、ポリシロキサンと共重合していない有機化合物としては、例えば前記したポリシロキサンと共重合させる有機樹脂と同様の有機樹脂などが挙げられる。また、例えば、界面活性剤、消泡剤などを添加することができる。
なお、本発明はクロム化合物を添加せずに良好な被膜特性を得ることを目的している。したがって、本発明の絶縁被膜は製造工程および製品からの環境汚染を防止する観点からCrを実質的に含まないことが好ましい。不純物として許容されるクロム量としては、絶縁被膜の全固形分質量に対してCrO換算した量で0.1質量%以下とすることが好ましい。
本発明のポリシロキサンの粒径は特に限定しないが、0.03μ超0.5μm未満であることが好ましい。0.03μm未満では、溶液の安定性が低下する。0.5μm超では、被膜が粗くなり外観が悪くなる。
【0020】
次に本発明の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の出発素材として用いる電磁鋼板の前処理は特に規定しない。未処理あるいはアルカリなどの脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理が好ましく適用される。
そして、この鋼板上に上述したポリシロキサン重合体および架橋剤を含有する塗布液を塗布する。なお、ポリシロキサン重合体を得るための共重合処理としては公知の種々の方法、例えば各単量体同士を共重合させる方法、一方または他方を重合体としてさらに共重合させる方法、一方の共重合体を幹として他方の単量体あるいは共重合体を枝のように重合させる方法、などが適用可能である。このような被膜原料を含んだ塗布液は、水性または油性の、ペースト状あるいは液状が好ましく、必要以上に被膜厚み(被膜付着量)を増大させない観点からは、水または有機溶剤をベースとした液状とすることが好ましい。その後、前記塗布液を塗布した電磁鋼板表面に焼付け処理を施すことにより電磁鋼板上に絶縁被膜を形成させる。このとき、前記塗布液では、ポリシロキサン重合体中のポリシロキサン比率がSiO換算で10〜90質量%であることが好ましい。前述のとおり、10質量%未満では歪取焼鈍後の被膜残存比率が少なくなるため、スティキング性が劣る場合がある。この比が大きくなれば被膜が強固となるが、90質量%超であると、可撓性が不足し、製造条件によっては耐食性が劣化する場合がある。
絶縁被膜の塗布方法は一般工業的に用いられる、ロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター、バーコーター等種々の設備を用いる方法が適用可能である。また、焼付け方法についても通常実施されるような熱風式、赤外線加熱式、誘導加熱式等が可能である。
焼付け温度も通常レベルであればよいが、樹脂の熱分解を避けるため、350℃以下とすることが好ましい。より好ましい範囲は150℃以上、300℃以下である。
【0021】
絶縁被膜付着量
絶縁被膜の目付量は特に限定はしないが、片面あたり0.05〜10g/mであることが好ましい。より好ましくは、片面あたり合計で0.1g/m以上10g/m以下である。0.05g/m未満であると、均一な塗布が困難であり、安定した打抜性や耐食性を確保することが難しい場合がある。一方、10g/m超であるとそれ以上の被膜性能向上がなく、不経済となる可能性がある。なお、目付量の測定は、熱アルカリ等で被膜のみを溶解させて、溶解前後の重量変化から測定する重量法を用いることができる。
また、本発明の絶縁被膜は鋼板の両面にあることが好ましいが、目的によっては片面のみでも構わない。すなわち、目的によっては片面のみ施し、他面は他の絶縁被膜としてもよいし、他面に絶縁被覆を施さなくてもよい。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、電磁鋼板として、鋼成分としてSi:0.45質量%、Mn:0.25質量%、Al:0.48質量%を含有し、板厚0.5mm厚の仕上げ焼鈍を施したフルプロセス電磁鋼板を用いた。表1に示す条件にてポリシロキサンと各有機樹脂をあらかじめ共重合させたポリシロキサン重合体を前記電磁鋼板の表面上に、ロールコーターで塗布し、熱風炉にて焼付け温度:到達板温230℃で焼付けて供試材を得た。なお、一部の実施例、比較例に対しては、ポリシロキサン重合体以外の成分として、表1に記載の薬剤を添加した。
得られた供試材(絶縁被膜を有する電磁鋼板)に対して、沸騰した50%NaOH中で被膜を溶解させ、前述の重量法で絶縁被膜の目付量を測定した。
また、以上により得られた絶縁被膜を有する電磁鋼板に対して、以下の各被膜特性測定を行い、評価した。
【0023】
<耐食性製品板1>
供試材に対して湿潤試験(50℃、 >98%RH)を行い、48h後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率 0%〜20%未満
○:赤錆面積率 20%以上〜40%未満
△:赤錆面積率 40%以上〜60%未満
×:赤錆面積率 60%以上〜100%
<耐食性製品板2>
供試材に対してJIS規定の塩水噴霧試験(35℃)を行い、5h後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率 0%〜25%未満
○:赤錆面積率 25%以上〜50%未満
△:赤錆面積率 50%以上〜75%未満
×:赤錆面積率 75%以上〜100%
<歪取焼鈍後耐食性>
供試材に対して、窒素雰囲気下、750℃×2hの条件にて焼鈍を行い、得られた焼鈍板に対して恒温恒湿試験試験(50℃、相対湿度80%)を行い、14日後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
VG:赤錆面積率 0%〜5%未満
◎:赤錆面積率 5%以上〜20%未満
○:赤錆面積率 20%以上〜40%未満
△:赤錆面積率 40%以上〜60%未満
×:赤錆面積率 60%以上〜100%
<密着性>
供試材、並びに、窒素雰囲気下、750℃×2hの条件にて焼鈍を行い、得られた焼鈍板に対して、20mmφでの180゜曲げ戻し試験を行い、目視による被膜剥離率で評価した。
(判定基準)
◎:剥離なし
○:〜剥離率20%未満
△:剥離率20%以上〜40%未満
×:剥離率40%以上〜全面剥離
<耐溶剤性>
溶剤(ヘキサン)を脱脂綿にしみこませ、供試材の表面を5往復させ、その後の外観変化を目視にて調査した。
(判定基準)
◎:変化無し
○:変化ほとんどなし
△:若干変色
×:変化大
<耐傷つき性>
電磁鋼板をせん断し、ばり高さを20μmとし、左記鋼板に500gの分銅をのせ、水平方向に3回、試験鋼板表面を往復させ、傷つき度を目視評価する。
(判定基準)
◎:変化無し
○:変化ほとんどなし
△:若干変色
×:変化大
<打抜性>
供試材に対して、15mmφスチールダイスを用いて、かえり高さが50μmに達するまで打ち抜きを行い、その打ち抜き数で評価した。
(判定基準)
◎:100万回以上
○:50万回以上〜100万回未満
△:10万回以上〜50万回未満
×:10万回未満
<スティキング性>50mm角の供試材10枚を重ねて荷重(200g/cm)をかけながら窒素雰囲気下で750℃×2時間の条件にて焼鈍を行った。次いで、供試材(鋼板)上に分銅500gを落下させ、5分割するときの落下高さを調査した。
(判定基準)
◎:10cm以下
○:10cm超〜15cm以下
△:15cm超〜30cm以下
×:30cm超
以上より得られた結果を実験条件と併せて表1および表2に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表1および表2から明らかなように、本発明例は耐食性、密着性、耐溶剤性、耐傷つき性、打抜性、スティキング性のいずれも優れている。特にポリシロキサン比率を好適範囲とした本発明例では、上記特性がより優れているのがわかる。また、あらかじめポリシロキサンと有機樹脂とを共重合させた上で、架橋剤を用いて三次元架橋した場合には、より一層優れた歪取り焼鈍後の耐食性(耐食性焼鈍板)および耐傷つき性が得られているのがわかる。
一方、比較例では、耐食性、密着性、耐溶剤性、耐傷つき性、打抜性、スティキング性のいずれか一つ以上が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜でありながら、例えば耐食性などCr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、モータや変圧器等を中心に多様な用途での使用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシロキサンと、有機樹脂として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上とを共重合したポリシロキサン重合体100重量部に対し、架橋剤としてメラミン、イソシアネート、シランカップリング剤、オキサドリンから選ばれる1種又は2種以上を合計1〜50重量部含有している塗布液を電磁鋼板表面に塗布し焼付けしてなる絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項2】
前記絶縁被膜中に、無機化合物として、シリカ、シリケート、アルミナ、チタニア、酸化スズ、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステンおよび酸化モリブデンから選ばれる1種または2種以上を、被膜全固形分に対し75質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項3】
前記ポリシロキサン重合体中の前記ポリシロキサン比率は、SiO2換算で10〜90質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。

【公開番号】特開2007−197824(P2007−197824A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345946(P2006−345946)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】