説明

絶縁被膜付き電磁鋼板

【課題】クロムを含まない無機物を主成分とする絶縁被膜であって、300℃以下の塗布焼付けで製造された場合においても製品板(歪み取り焼鈍前)の耐食性および耐粉吹き性、ならびに外観、歪取り焼鈍板の耐キズ性に優れる絶縁被膜付き電磁鋼板の提供。
【解決手段】Zr化合物とAl化合物とSi化合物とを主成分として含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板において、該絶縁被膜の全固形分質量に対するZr化合物の含有率は、ZrO換算で45〜90質量%であり、該Al化合物と該Si化合物との含有量の比は、Al換算およびSiO換算で、20:80〜80:20であることを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロム化合物を含有せず、製品板(歪み取り焼鈍前)の耐食性および耐粉吹き性、ならびに外観、歪取り焼鈍板の耐キズ性に優れる絶縁被膜付き電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜は、層間抵抗だけでなく、加工成形時の利便さおよび保管、使用時の安定性など種々の特性が要求される。電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。電磁鋼板に打抜加工、せん断加工、曲げ加工などを施すと残留歪みにより磁気特性が劣化するが、劣化した磁気特性を回復させるため750〜850℃程度で歪取り焼純を行う場合が多い。この場合には絶縁被膜が歪取り焼鈍に耐えるものでなければならない。
【0003】
絶縁被膜は、(1)溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機被膜、(2)打抜性、溶接性の両立を目指し歪取り焼鈍に耐える樹脂含有の無機被膜、(3)特殊用途で歪取り焼鈍不可の有機被膜、の3種に大別されるが、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは(1)、(2)の無機質を含む被膜であり、両者ともクロム化合物を含むものであった。特に、(2)のタイプで有機樹脂を含有したクロム酸塩系絶縁被膜は、1コート1ベークの製造で無機系絶縁被膜に比較して打抜性を格段に向上させることができるので広く利用されている。例えば、特許文献1には、少なくとも1種の2価金属を含む重クロム酸塩系水溶液に、該水溶液中のCrO:100重量部に対し有機樹脂として酢酸ビニル/ベオバ比が90/10〜40/60の比率になる樹脂エマルジョンを樹脂固形分で5〜120重量部および有機還元剤を10〜60重量部の割合で配合した処理液を、基地鉄板の表面に塗布し、常法による焼付け工程を経て得たものであることを特徴とする電気絶縁被膜を有する電磁鋼板が記載されている。
【0004】
しかし、昨今、環境意識が高まり、電磁鋼板の分野においてもクロム化合物を含まない絶縁被膜を有する製品が需要家等からも望まれている。
【0005】
そこで、クロム化合物を含まない絶縁被膜付き電磁鋼板が開発され、例えば、クロムを含まず打抜性が良好な絶縁被膜として樹脂およびコロイダルシリカ(アルミナ含有シリカ)を成分としたものが特許文献2に記載されている。また、コロイド状シリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルの1種または2種以上よりなり、水溶性またはエマルジョン樹脂を含有する絶縁被膜が特許文献3に記載され、クロムを含まないリン酸塩を主体とし、樹脂を含有した絶縁被膜が特許文献4に記載されている。
【0006】
しかし、これらのクロム化合物を含まない絶縁被膜付き電磁鋼板は、クロム化合物を含む場合と比べ、無機物同士の結合が比較的弱く、耐食性が劣化する問題があった。また、スリット加工においてフェルトで鋼板表面を擦ってバックテンションをかけた場合(テンションパッドの使用)、粉吹き発生の問題があった。さらに、歪取り焼鈍後に被膜が弱くなり、キズが発生しやすいという問題があった。
【0007】
例えば、特許文献3に記載された方法でコロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルの1種または2種以上を単純に使用しても上記課題は解決できず、それぞれの成分を複合して用い、特定量混合した場合についても十分検討されていなかった。また、特許文献4に記載されているようなリン酸塩被膜でクロムを含まない組成の場合にはベタツキが発生し、上記問題が顕在化する傾向があった。これらの問題は、300℃以下の比較的低温で焼き付けた場合に発生しやすい問題であった。
【特許文献1】特公昭60−36476号公報
【特許文献2】特開平10−130858号公報
【特許文献3】特開平10−46350号公報
【特許文献4】特許第2944849号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した問題点を解決することを目的としてなされたもので、クロムを含まない無機物を主成分とする絶縁被膜であって、300℃以下の塗布焼付けで製造された場合においても製品板(歪み取り焼鈍前)の耐食性および耐粉吹き性、ならびに外観、歪取り焼鈍板の耐キズ性に優れる絶縁被膜付き電磁鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の絶縁被膜付き電磁鋼板を提供するものである。
【0010】
本発明は、Zr化合物とAl化合物とSi化合物とを主成分として含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板において、該絶縁被膜の全固形分質量に対するZr化合物の含有率は、ZrO換算で45〜90質量%であり、該Al化合物と該Si化合物との含有量の比は、Al換算およびSiO換算で、20:80〜80:20であることを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板である。
【0011】
このような絶縁被膜付き電磁鋼板において、前記絶縁被膜の表面に、さらに少なくとも第2の絶縁被膜を有することが好ましい。
【0012】
さらに、前記第2の絶縁被膜は、Al化合物とSi化合物と樹脂とを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、クロムを含まない無機物を主成分とする絶縁被膜であって、300℃以下の塗布焼付けで製造された場合においても製品板(歪み取り焼鈍前)の耐食性および耐粉吹き性、ならびに外観、歪取り焼鈍板の耐キズ性に優れる絶縁被膜付き電磁鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、Zr化合物とAl化合物とSi化合物とを主成分として含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板である。
【0015】
<電磁鋼板(電気鉄板)>
本発明で用いることができる、絶縁被膜を形成する前の電磁鋼板(電気鉄板)は、比抵抗を変化させて所望の磁気特性を得るために調整されたどのような組成の鋼板でもよく、特に制限されない。また、絶縁被膜が形成される電磁鋼板の表面は、未処理のままでもよく、あるいは前処理されていてもよい。前処理は任意であるが、アルカリなどによる脱脂処理、および、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理が好ましく適用される。
【0016】
<Zr化合物>
本発明の絶縁被膜は、Zr化合物を特定量含有する。適切な含有量としては、該絶縁被膜の全固形分質量に対して45%以上、90%以下である。より好ましくは50%以上、80%以下である。このような範囲であれば、Zr化合物と他の物質との結合ネットワークが良好に形成され、皮膜が強固になるものと考えられる。
ここで「全固形分質量」とは、後述する方法で電磁鋼板表面に形成した被膜の乾燥後の付着量であって、アルカリ剥離による被膜除去後の重量減少から測定することができる。
【0017】
本発明で用いることができるZr化合物としては、例えば、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸ナトリウムジルコニウム、六フッ化ジルコニウムカリウム、テトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシステアレートなどを挙げることができ、これらは1種または2種以上混合して用いることができる。これらは本発明の必須成分であるAl化合物、Si化合物や、後述する任意成分である他の無機化合物、有機化合物、および添加剤との相性によって選択することができる。これらはHf、HfO、TiO、SiO、Feなどの不純物を含んでいてもよい。
【0018】
本発明のZr化合物は、ペースト状の水に不溶性のものより、水溶性のものが好ましい。上記の結合が強固となり、より緻密な被膜を形成するからである。
【0019】
<Si化合物>
本発明の絶縁被膜は、Si化合物を含有する。Si化合物としては、コロイダルシリカが好ましく適用される。
コロイダルシリカはSiOを主成分とする無機コロイドでありアモルファス状であることが多い。粒子径は、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下であり、小さいほど良好な被膜が形成されるため、下限は特に限定されない。超微細な粒子はその表面積が大きいことにより、他の成分との相互作用が高くなって被膜の強さが増すものと考えられる。ただし、粒子径が小さくなるに従いシリカ粒子同士および他成分との間で凝集が起こりやすくなるため、コロイダルシリカの濃度を低くしなければならなくなる。これらの点を考慮して実用に耐え得る粒子径に設定することができる。
平均粒子径はBET法(吸着法による比表面積から換算)により測定できる。また、電子顕微鏡写真から実測した平均値で代用することも可能である。
【0020】
<Al化合物>
本発明の絶縁被膜はAl化合物を含有する。このAl化合物としては、水酸基および有機酸からなるAl化合物および/またはその脱水反応物が好ましく適用され、例えば、アルミナゾルを挙げることができる。水系塗料にて鋼板に塗布焼付けするため、Al化合物は水に溶解またはコロイドや懸濁状態で分散できるものであることが好ましい。また、形状は特性上問題なければ羽毛状、球状など、どのようなものでも構わない。
【0021】
<Si化合物とAl化合物との比>
本発明の絶縁被膜は、前記Al化合物と前記Si化合物とを、該絶縁被膜の全固形分質量に対して、Al換算およびSiO換算で、20:80〜80:20(質量比)で含有し、好ましくは、30:70〜70:30(質量比)で含有し、さらに好ましくは35:65〜65:35(質量比)で含有する。前記Al化合物と前記Si化合物とが、このような質量比で該絶縁被膜に含有されていれば、耐食性と歪取焼鈍板耐キズ性を高いレベルで両立できるという効果を奏する。
【0022】
本発明は、上記のように、前記Zr化合物と前記Al化合物と前記Si化合物とを主成分として含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板である。
これらの中で、Zr化合物は3つ以上、一般には4つの結合手を持ち、他の物質、特に酸素との結合力が強い。このためFe表面の酸化物、水酸化物などと強固に結合しクロム化合物を使用しなくても強靭な被膜を形成することができると考えられる。しかしながらZr化合物を単体とした場合では耐食性がやや劣り、歪取り焼鈍板での耐キズ性が大きく劣化する傾向が見られる。Zr化合物の結合手が多いためネットワークがうまく形成されず、却って脆弱な被膜になるためと考えられる。検討した結果、Zr化合物をZrO換算で90質量%以下として、Al化合物およびSi化合物と混合した場合において大きな改善効果が得られることを発見した。一方、Zr化合物の添加量が45質量%未満の場合には、当然ながらその効果が小さいものとなるので好ましくない。
【0023】
本発明の絶縁被膜において、Zr化合物は他の物質と酸素を介してZr−O−Fe、Zr−OH−Feといったものや、Al化合物やSi化合物に対してはAl−O−Zr−O−Al、Si−O−Zr−O−Siといった結合状態になっていると考えられる。
【0024】
本発明は、上記のように、前記Zr化合物と前記Al化合物と前記Si化合物とを主成分として含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板であるが、これらの3成分のみからなる絶縁被膜を有する電磁鋼板であることが好ましい。理由は、他の成分が含有されることにより、場合によっては耐食性などが劣化するためである。
また、これらの3成分の他に、次に示す添加剤を含有することも好ましい。
【0025】
<添加剤>
本発明の絶縁被膜は、被膜の性能や均一性を一層向上させるために、必要に応じて、界面活性剤、防錆剤、ホウ酸、シランカップリング剤、潤滑剤、酸化防止剤等の有機および無機添加剤を含有することも好ましい。この場合、十分な被膜特性を維持するために、本発明の絶縁被膜の全固形分重量に対して10質量%程度以下とすることが好ましい。
【0026】
<他の無機化合物、有機化合物>
本発明の絶縁被膜は、前記Zr化合物と前記Al化合物と前記Si化合物との他に、本発明の効果が損なわれない程度に、他の無機化合物および/または有機化合物を含有してもよい。このような他の無機化合物、有機化合物としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが例示され、これらの共重合体、複合添加物も好ましく例示される。
このような他の無機化合物、有機化合物の含有率は、本発明の絶縁被膜の全固形分質量に対して50質量%以下であることが好ましい。理由は、50質量%を超えると主成分であるZr化合物とAl化合物とSi化合物とが少なくなり、被膜が脆弱になりやすいためである。
【0027】
<絶縁被膜の製造方法>
上記の本発明の絶縁被膜を電磁鋼板表面に製造する方法を説明する。
本発明の出発素材としては、電磁鋼板(電気鉄板)を用いる。
本発明における鋼板の前処理は特に規定しない。未処理あるいはアルカリなどの脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理が好ましく適用される。
そして、この電磁鋼板上に前記Zr化合物と、前記Al化合物と、前記Si化合物と、必要に応じて前記添加剤等を含有する処理液を塗布して、焼き付けることにより絶縁被膜を形成させる。絶縁被膜の塗布方法は一般工業的に用いられるロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター等種々の方法が適用可能である。また、焼き付け方法についても通常実施されるような熱風式、赤外式、誘導加熱式等が可能である。焼付け温度も通常レベルであればよく、到達温度で150〜350℃程度であればよい。
【0028】
<焼鈍方法>
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、歪取り焼鈍を施して、例えば、打抜き加工による歪みを除去することができる。好ましい歪取り焼鈍雰囲気としては、N雰囲気、DXガス雰囲気などの鉄が酸化されにくい雰囲気が適用される。ここで、露点を高く、例えばDp5〜60℃程度に設定し、表面および切断端面を若干酸化させることで耐食性をさらに向上させることができる。また、好ましい歪取り焼鈍温度としては700〜900℃、より好ましくは750〜850℃である。歪取り焼鈍温度の保持時間は長い方が好ましいが、2時間以上がより好ましい。
【0029】
<絶縁被膜付着量>
絶縁被膜の付着量は特に指定しないが、片面あたり合計で0.05〜5g/mであることが好ましい。付着量、即ち、本発明の絶縁被膜の全固形分重量の測定はアルカリ剥離による被膜除去後の重量減少から測定することができる。また、付着量が少ない場合には蛍光X線とアルカリ剥離法との検量線から測定することができる。付着量が0.05g/m未満であると耐食性ばかりか絶縁性が不足するし、付着量が5g/m超であると、密着性が低下し、塗装焼付時にふくれが発生するなど塗装性が低下する。より好ましくは0.1〜3.0g/mである。絶縁被膜は鋼板の両面にあることが好ましいが、目的によっては片面のみでも構わない。目的によっては片面のみ施し、他面は他の絶縁被膜または絶縁コートがない場合でもかまわない。
【0030】
<第2の絶縁被膜(上層被膜)>
本発明では前記Zr化合物と前記Al化合物と前記Si化合物とを含有する絶縁被膜(以下、「下地被膜」ともいう)の表面に、さらに少なくとも、下地被膜とは成分の異なる第2の絶縁被膜(以下、「上層被膜」ともいう)を有することが好ましい。
ここで第2の絶縁被膜は、下地被膜の表面に少なくとも1層形成されればよく、下地被膜の表面に2層以上の絶縁被膜が形成されてもよい。以下では、下地被膜の表面に1層の第2の絶縁被膜のみが形成される場合について説明する。
本発明の下地被膜の表面に、上層被膜として、Al化合物とSi化合物と樹脂とを含有する絶縁被膜を施すことにより、更に優れた耐食性、耐キズ性、外観を得ることができるので好ましい。
【0031】
<Al化合物、Si化合物>
本発明の上層被膜に含有されるAl化合物とSi化合物とは、上記、本発明の下地被膜に含有される前記Al化合物と前記Si化合物と、同様なものを用いることができる。
【0032】
<樹脂>
本発明の上層被膜に含有される樹脂成分としては特に指定しないが、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフイン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等の1種または2種以上の水性樹脂(エマルジョン、ディスパーション、水溶性)であることが好ましい。
【0033】
本発明の上層被膜は、上記下地被膜と同様の、他の成分、添加剤を含有することができる。その含有率も、上記下地被膜に含有される場合と同様である。
【0034】
本発明の上層被膜に含有される前記Al化合物の含有率は、上層被膜の全固形分質量に対して、10〜90質量%であり、15〜85質量%が好ましく、20〜80質量%がさらに好ましい。
また、本発明の上層被膜に含有される前記Si化合物の含有率は、上層被膜の全固形分質量に対して、10〜90質量%であり、15〜85質量%が好ましく、20〜80質量%がさらに好ましい。
また、本発明の上層被膜に含有される前記樹脂の含有率は、上層被膜の全固形分質量に対して、0.1〜50質量%であり、1〜45質量%が好ましく、5〜40質量%がさらに好ましい。
本発明の上層被膜に含有される前記Al化合物、前記Si化合物、前記樹脂の含有率が上記の範囲であれば、耐食性、耐粉吹き性、歪取り焼鈍後の耐キズ性がバランスよく達成できるという点で好ましい。
ここで「上層被膜の全固形分質量」とは、上記下地被膜の場合と同様であり、電磁鋼板表面に製造した被膜の乾燥後の付着量であって、アルカリ剥離による被膜除去後の重量減少から測定することができる。
【0035】
<上層被膜の製造方法>
本発明の上層被膜は、上記下地被膜と同様な方法で製造することができる。つまり、上記の方法で製造した下地被膜の表面に、さらに同様な方法で上層被膜を製造することができる。
【0036】
<焼鈍方法>
本発明の上層被膜が形成された電磁鋼板を焼鈍する場合も、上記の下地被膜のみが形成された場合の焼鈍方法と同様である。
【0037】
<上層被膜付着量>
上層被膜を形成する場合の下地被膜の付着量は0.01〜1.0g/mであり、上層被膜の付着量は0.04〜4.0g/mであることが好ましい。これは下地被膜を薄い絶縁被膜として耐食性劣化の原因と考えられるクラックが入りにくくするためであり、上層被膜の追加により必要な絶縁性を確保しようとするものである。また、薄い下地処理とすることにより、外観も向上する効果が見られる。下地を施した後に上層を塗布した場合、水系の処理液で起こりやすい鋼板のFe溶出が抑制され、外観が向上するものと考えられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1〜42および比較例1〜16>
Zr化合物、Al化合物、Si化合物を第1表に示す質量部(換算量)となるように脱イオン水に添加し、第1層(下地皮膜)用の各処理液を調整した。ここで、ZrO、Al、SiO換算量の合計が脱イオン水量に対して、50g/l添加された処理液となるように調整した。
これらの各処理液を、板厚0.5mmの電磁鋼板から幅150mm、長さ300mmの大きさに切り出した試験片の表面にロールコーターで塗布し、プロパンガス直火により到達温度230℃で焼付けした後、常温で放冷し、絶縁被膜を形成した。
【0040】
そして、一部の実施例および比較例においては、Al化合物、Si化合物、樹脂を第1表に示す質量部(換算量)となるように脱イオン水に添加し、第2層(上層被膜)用の各処理液を調整した。ここで、Al、SiO換算量と、樹脂固形分質量とが、脱イオン水量に対して、50g/l添加された処理液となるように調整した。
これらの各処理液を用いて、上記の方法で形成した第1層(下地被膜)の上面に形成した。
表1、図1、図2から明らかなように、本発明はいずれも耐食性および耐粉吹き性に優れている。その他の各性能評価法は以下の通りである。
【0041】
<耐食性評価>
各処理液を塗布した各試験片を、相対湿度98%、50℃の恒温恒湿槽に2日間保持し、試験片表面の錆び発生面積率を求め、耐食性を下記の判定基準に従って評価した。尚、錆び発生面積率とは、目視による観測全面積に対する、錆び発生面積の合計の百分率である。
(判定基準)
◎;錆び発生面積率=0以上5%未満
○;錆び発生面積率=5以上20%未満
△;錆び発生面積率=20以上50%未満
×;錆び発生面積率=50%以上
【0042】
<製品板耐粉吹き性>
試験条件:フェルト接触面幅20×10mm、荷重:3.8kg/cm(0.4MPa)、被膜表面を400m単純往復。試験後の擦り跡を観察し、被膜の剥離状態および粉吹き状態を評価した。
(判定基準)
◎;ほとんど擦り跡が認められない
○;若干の擦り跡および若干の粉吹が認められる程度
△;被膜の剥離が進行し擦り跡および粉吹きがはっきりわかる程度
×;地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0043】
<焼鈍板耐キズ性>
試験条件:N2雰囲気、750℃で2時間保持して焼鈍したサンプル表面を鋼板せん断エッジで引っ掻きキズ、粉吹きの程度を判定した。
(判定基準)
◎;キズ、粉の発生がほとんど認められない
○;若干の擦り跡および若干の粉吹きが認められる程度
△;擦り跡および粉吹きがはっきりわかる程度
×;地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0044】
<外観>
塗装後の表面を目視で観察し判定した。
(判定基準)
◎;均一な外観である
○;若干の虹模様が認められる程度でほぼ均一
△;中程度の虹模様の発生があり不均一
×;変色が大きく不均−
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、Zr化合物の添加量が耐食性に与える影響を示す図である。
【図2】図2は、Zr化合物の添加量が歪取り焼鈍板耐キズ性に与える影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr化合物とAl化合物とSi化合物とを主成分として含有する絶縁被膜を有する電磁鋼板において、
該絶縁被膜の全固形分質量に対するZr化合物の含有率は、ZrO換算で45〜90質量%であり、該Al化合物と該Si化合物との含有量の比は、Al換算およびSiO換算で、20:80〜80:20であることを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項2】
前記絶縁被膜の表面に、さらに少なくとも第2の絶縁被膜を有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項3】
前記第2の絶縁被膜は、Al化合物とSi化合物と樹脂とを含有することを特徴とする請求項2に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−169567(P2006−169567A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361378(P2004−361378)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】