説明

絶縁被膜軟磁性金属粉末と圧粉磁芯、および、それらの製造方法

【課題】絶縁被膜軟磁性金属粉末の絶縁性能を高めて、磁気特性の向上を図る。
【解決手段】表面が絶縁性被膜で覆われた絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法であって、軟磁性金属粉末にアルカリ水溶液を混合するアルカリ調整工程と、該工程後に金属塩水溶液を添加混合する金属塩水溶液添加工程と、該工程後に水分を除去する第1乾燥工程と、該工程後に有機物を含む水溶液を混合する有機物添加工程と、該工程後に水分を除去する第2乾燥工程と、該工程後に所定の高温で焼成して金属塩の絶縁被膜を金属粒子表面に形成する熱処理工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁芯用の絶縁被膜軟磁性金属粉末と、その製造方法、および、その絶縁被膜軟磁性金属粉末を用いた圧粉磁芯と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟磁性合金の磁性粉末(1重量%〜10重量%のSi、残部Feの組成の合金)と、シリカを生成する化合物と、マグネシウムを含む金属塩粉末と、からなる混和物を圧縮成形して熱処理することにより、磁性粒子間に、絶縁を確保するためガラス層を形成させる圧粉磁芯の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、磁性粉末に添加する絶縁性の金属酸化物の原料である金属塩を、粉末の形態ではなく、水溶液の形態で混合する圧粉磁芯の製造方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−33211号公報
【特許文献2】特開2003−37018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、金属塩を粉末の形態で軟磁性金属粉末と混合するので、金属粉末表面における絶縁被膜の均一化が不十分となり、そのために絶縁性能が落ち、結果的に磁気特性が期待するほどには高くならないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術では、金属塩を水溶液の形態で軟磁性金属粉末と混合するので、絶縁被膜の均一化の向上については効果を上げることができると考えられた。しかし、磁気特性、特に周波数特性が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、磁気特性の向上を図れる絶縁被膜軟磁性金属粉末、それを用いた圧粉磁芯、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の技術に係る圧粉磁芯において周波数特性を始めとする磁気特性が低下する原因について研究をおこなった。その結果、金属塩を粉末の形態で軟磁性金属粉末と混合していたものを、金属塩を水溶液の形態で軟磁性金属粉末と混合することで、絶縁被膜の均一化の向上させることに伴い、金属塩水溶液が、絶縁被膜軟磁性金属粉末に含まれる軟磁性金属粒子の表面に含浸した状態で熱処理を行うことになるが、この際、絶縁被膜軟磁性金属粒子の中に不純物の酸素や炭素が侵入してしまって腐食発生の原因となることに想到した。そして、この絶縁被膜軟磁性金属粒子の腐食が、圧粉磁芯における周波数特性を始めとする磁気特性が低下する原因であることに想到した。
【0009】
上述の研究結果より、本発明者らは、絶縁皮膜原料である金属塩を付着させた金属粉の段階で、当該絶縁被膜軟磁性金属粉末において腐食の原因となる酸素や炭素の量を所定量以下に低減する構成に想到した。そして、当該酸素や炭素の量を所定量以下に低減した絶縁被膜軟磁性金属粉末を成形、焼成して圧粉磁芯を製造したところ、周波数特性を始めとする磁気特性が向上することを見出した。さらに、本発明者らは、当該酸素や炭素の量を所定量以下に低減した絶縁被膜軟磁性金属粉末を、高い生産性をもって製造する製造方法にも想到し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、上述の課題を解決する、第1の発明は、
表面が、無機物、または、無機物と有機物との混合物、を含む絶縁被膜で被覆された軟磁性金属粒子を含み、
酸素の含有量が0.4重量%以下であり、且つ、炭素の含有量が0.02重量%以下であることを特徴とする絶縁被膜軟磁性金属粉末である。
【0011】
第2の発明は、
前記無機物の含有量が、0.02〜0.3重量%であることを特徴とする第1の発明に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末である。
【0012】
第3の発明は、
前記無機物が、マグネシウム化合物および/またはイットリウム化合物であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末である。
【0013】
第4の発明は、
前記有機物の含有量が、0.5重量%以下であることを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末である。
【0014】
第5の発明は、
前記有機物が、シリコン樹脂、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミナカップリング剤から選ばれる1種以上のものであることを特徴とする第1〜第4の発明のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末である。
【0015】
第6の発明は、
表面が絶縁性被膜で覆われた軟磁性金属粒子を含む絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法であって、軟磁性金属粉末にアルカリ水溶液を混合するアルカリ調整工程と、該工程後に金属塩水溶液を添加混合する金属塩水溶液添加工程と、該工程後に水分を除去する第1乾燥工程と、該工程後に所定の高温で焼成して金属塩の絶縁被膜を金属粒子表面に形成する熱処工程とを、備えることを特徴とする絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法である。
【0016】
第7の発明は、
表面が絶縁性被膜で覆われた軟磁性金属粒子を含む絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法であって、軟磁性金属粉末に金属塩水溶液を添加混合する金属塩水溶液添加工程と、該工程後にアルカリ水溶液を混合するアルカリ調整工程と、該工程後に水分を除去する第1乾燥工程と、該工程後に所定の高温で焼成して金属塩の被膜を金属粒子表面に形成する熱処理工程とを、備えることを特徴とする絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法である。
【0017】
第8の発明は、
第6または第7の発明に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法であって、前記第1乾燥工程と熱処理工程との間に、更に、有機物を含む水溶液を混合する有機物添加工程と、該工程後に水分を除去する第2乾燥工程と、を加えたことを特徴とする絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法である。
【0018】
第9の発明は、
前記金属塩水溶液が、マグネシウムおよび/またはイットリウムを含むカルボン酸水溶液であることを特徴とする第8の発明に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法である。
【0019】
第10の発明は、
前記アルカリ水溶液が、NaOH、KOH、NH4OHから選ばれる1種以上のものであることを特徴とする第8または第9の発明に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法である。
【0020】
第11の発明は、
前記熱処理工程が、大気、窒素、またはその混合雰囲気中において、200〜600℃の加熱を行うものであることを特徴とする第8〜第10の発明のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法である。
【0021】
第12の発明は、
前記有機物が、シリコン樹脂、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミナカップリング剤から選ばれる1種以上のものであることを特徴とする第8〜第11の発明のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法である。
【0022】
第13の発明は、
第1〜第5の発明のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末を含むことを特徴とする圧粉磁芯である。
【0023】
第14の発明は、
第1〜第5の発明のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末を用いた圧粉磁芯の製造方法であって、
前記第2乾燥工程後の前記軟磁性金属粉末を所定形状に成形し、その後に前記熱処理工程を行うことにより、圧粉磁芯を製造することを特徴とする圧粉磁芯の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
第1〜第5のいずれかの発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末は、酸素および炭素の含有量が低いので、当該絶縁被膜軟磁性金属粉末を成型、焼成する際に、含有される軟磁性金属粒子に腐食が起こり難く、製造される圧粉磁芯において、周波数特性を始めとする磁気特性の低下が抑制され、高い透磁率と低い保持力とを発揮する。
【0025】
第6の発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法によれば、金属塩水溶液を添加混合する前にアルカリ水溶液を混合することにより、酸性物質を中和した状態で焼成することができ、焼成によりアルカリ成分を揮発させて、金属塩による絶縁被膜を金属粒子の表面に均一に形成することができる。従って、高い生産性をもって、加熱分解による酸化物質(CやO)の金属粒子への浸透を防ぐことができ、腐食の防止による磁気特性の向上が図れる。また、中和状態での焼成を行うことにより、きめの細かいアモルファス状態の均質な被膜を形成することができ、絶縁性を低下せずに膜厚を小さくすることができ、透磁性のアップを図ることができる。
【0026】
第7の発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法によれば、金属塩水溶液を添加混合した後でアルカリ水溶液を混合することにより、酸性物質を中和した状態で焼成することができ、焼成によりアルカリ成分を揮発させて、金属塩による絶縁被膜を金属粒子の表面に均一に形成することができる。従って、高い生産性をもって、加熱分解による酸化物質(CやO)の金属粒子への浸透を防ぐことができ、腐食の防止による磁気特性の向上が図れる。また、中和状態での焼成を行うことにより、きめの細かいアモルファス状態の均質な被膜を形成することができ、絶縁性を低下せずに膜厚を小さくすることができ、透磁性のアップを図ることができる。
【0027】
第8の発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法によれば、第6または第7の発明へ、更にシリコン樹脂等の有機物を添加混合した場合、熱処理後に、当該有機物が金属塩を保持する支持骨格となって残ることにより、熱をかけても、金属塩が、金属粒子表面上の特定の場所に集まらないようになって、絶縁が破れにくくなる。従って、高い生産性をもって、絶縁性が高まることで、磁気特性が向上する。
【0028】
第13の発明に係る圧粉磁芯によれば、絶縁被膜軟磁性金属粉末が高充填されても、絶縁低下が起こらず、コアロスが増加せず、周波数特性が良好である。
【0029】
第14の発明のように工程を組んだ場合、金属塩水溶液を分解して金属酸化物を生成する工程を、成形後の焼鈍工程(熱処理工程)において同時に行うことができるため、付加的な工程を必要としないという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の実施形態に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末は、含有される軟磁性金属粒子の表面が、無機物、または、無機物と有機物との混合物、を含む絶縁被膜で被覆され、酸素の含有量が0.4重量%以下であり、炭素の含有量が0.02重量%以下である。当該構成を有する絶縁被膜軟磁性金属粉末を、成型し焼成しても、酸素、炭素の量が所定量以下に低減されているので、これらの物質が金属粒子へ浸透するのを防ぐことができる。
【0031】
そして、前記軟磁性金属粒子の表面に存在させる無機物の含有量は、0.02重量%以上あれば、当該軟磁性金属粒子の表面を均一、且つ、完全に被覆することが出来、0.3重量%以下であれば、製造された圧粉磁芯の磁気特性に悪影響を与えることがない。
【0032】
さらに、前記無機物として、マグネシウム化合物および/またはイットリウム化合物を選択すると、これらの化合物における水酸化物がゲル状物質であって、前記軟磁性金属粒子の表面に存在させる際、容易に高い生産性をもって均一に存在させることが可能になり、好ましい構成である。
【0033】
また、前記軟磁性金属粒子の表面に無機物だけでなく、無機物と有機物との混合物を存在させることも好ましい構成である。これは、シリコン樹脂等の有機物を添加混合した場合、熱処理後に、当該有機物が金属塩を保持する支持骨格となって残るので、金属塩の被膜の均一化が促進され、絶縁が破れにくくなることで、絶縁性が高まり、磁気特性が向上するからである。
【0034】
但し、前記軟磁性金属粒子の表面に存在する有機物は、過剰に存在すると腐食の原因となることが考えられるの。そこで、その含有量は、絶縁被膜軟磁性金属粉末の0.5重量%以下であることが好ましい。さらに、当該有機物が腐食の原因となることを回避するために、当該有機物は、シリコン樹脂、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミナカップリング剤から選ばれる1種以上のものであることが好ましい。
【0035】
上述の構成を有する結果、圧縮された本発明の実施形態に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末を含む圧粉磁芯は、当該粉末が高充填されても、絶縁低下が起こらず、コアロスが増加せず、周波数特性が良好である。この為、高能率の圧粉磁芯として、省エネルギー効果等の優れた効果を発揮する。
【0036】
(絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法)
ここで、本発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法について説明する。
製造プロセスの第1の例では、まず、軟磁性金属粉末にアルカリ水溶液を混合するアルカリ調整工程を実施し、次に金属塩水溶液を添加混合する金属塩水溶液添加工程を実施する。そして、水分を除去する第1乾燥工程、有機物を含む水溶液を混合する有機物添加工程、水分を除去する第2乾燥工程を順に実施し、最後に所定の高温で焼成して金属塩の絶縁被膜を金属粒子表面に形成する熱処理工程を実施する。
【0037】
製造プロセスの第2の例では、第1の例におけるアルカリ調整工程と金属塩水溶液添加工程の順序を入れ替えた他は、同様に工程を進める。
【0038】
軟磁性金属粉末は、所定組成の軟磁性合金のインゴットを機械粉砕したり、軟磁性合金の溶湯にアトマイズ法を適用したりすることにより得ることができる。使用する軟磁性金属は特に限定されるものではないが、Feを基本組成とする軟磁性粉末が好ましく、具体的には、純Fe、Si1wt%含有のFe、Si3wt%含有のFe、Ni50wt%含有のFe、Ni81wt%、Mo2wt%含有のFe、Si9.5wt%、Al5.5wt%含有のFe、Co50wt%含有のFe、Co49wt%、V2wt%含有のFe、などを挙げることができる。
【0039】
また、金属塩の金属の例としては、Al、Si、Mg、Li、Na、Ca、Zr、Ti、Yなどよりなる群から選択される1種または2種以上を挙げることができ、中でも耐水性に優れる観点からAl、Mgが好ましく、さらに溶解性にも優れる観点からMgが好ましい。これらの金属は塩の形態で使用されるが、その金属塩が水溶性であることが求められるので、組み合わされるべき酸の具体例としては、例えば、カルボン酸塩、オキシカルボン酸塩などを挙げることができ、さらに具体的には、ギ酸、シュウ酸、酢酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、安息香酸、サリチル酸などよりなる群から選択される1種または2種以上が好適なものとして挙げられ、中でも溶解性に優れる観点、原料コストの観点からギ酸、酢酸が好ましい。従って、本発明で使用される金属塩は、上記の金属と酸の種々の組み合わせであり、例えば、ギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウムを始めとして、シュウ酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、酢酸ケイ素、、コハク酸マグネシウム、クエン酸リチウム、サリチル酸リチウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0040】
また、前記アルカリ水溶液の例としては、NaOH、KOH、NH4OHから選ばれる1種または2種以上のものを含む水溶液を挙げることができる。
【0041】
また、前記有機物の例としては、シリコン樹脂、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミナカップリング剤から選ばれる1種または2種以上のものを挙げることができる。そのほかに、リン酸、フェノール樹脂、イミド樹脂のようなものも挙げることができ、中でも耐熱性に優れる観点からシリコン樹脂、イミド樹脂が好ましく、さらに原料コストの観点からはシリコン樹脂が好ましい。
【0042】
次に、熱処理について説明する。
熱処理は、軟磁性金属粉末に混合された金属塩を加熱により熱分解して金属酸化物を生成させ、軟磁性金属粒子の表面に絶縁性の金属酸化物被膜を形成させる役目を担う。即ち、この熱処理によって、例えば、中和された形のMg(OH)は、熱分解してMgOとなり、軟磁性金属粒子の表面に絶縁性被膜となって形成される。このとき、中和された形のMg(OH)は、ゲル状物質となるので、軟磁性金属粒子の表面を被覆するのに適している。
【0043】
この熱処理は、大気、真空、または、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で行う。その加熱処理温度は、金属塩が完全に分解することにより、金属酸化物が生成する温度に設定することが好ましく、例えば、200〜600℃の範囲に設定する。この結果、Mg(OH)という中和状態での焼成が鉱となり可能となり、きめの細かい均質な被膜を形成することができ、絶縁性を低下せずに膜厚を小さくすることができて、透磁性のアップを図ることができる。
【0044】
(圧粉磁芯の製造方法)
本発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末へ通常のプレス成形工程などを適用することで、圧粉磁芯を製造することができる。
【0045】
また、上述した熱処理工程の前に圧縮成形工程を実施する構成も好ましい。この場合も、通常のプレス成形工程などを適用することができる。成形後に熱処理工程を行うと、成形時に蓄積された歪みを解放・除去するという目的と、軟磁性金属粉末に混合された金属塩を加熱により熱分解して金属酸化物を生成させ、軟磁性金属粒子の表面に絶縁性の金属酸化物被膜を形成させる目的とを、同時並行的に実施することになる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
【0047】
(1)軟磁性金属粒子の表面を絶縁被膜で被覆する効果についての検討
軟磁性金属粉末としてセンダスト合金粉を選択し、絶縁被膜としてシリコン樹脂を含むマグネシウム化合物を選択して、当該絶縁被膜有しないセンダスト合金粉との特性比較を行った。
【0048】
まず、軟磁性金属粉末としてセンダスト合金粉を選択し、絶縁被膜としてシリコン樹脂を含むマグネシウム化合物を有する試料1の調製について説明する。
【0049】
平均粒子径60μmのセンダスト合金粉1kgに、アンモニア水(NH換算で28wt%)10gを混合し、次に、Mg濃度4%の、ぎ酸マグネシウム水溶液30gを添加混合し合金粉スラリーとする。ここで、該合金粉スラリー中のMg含有量は0.1wt%、アルカリ当量は2.3である。
【0050】
該合金粉スラリーを窒素雰囲気中、200℃で1時間乾燥し、センダスト合金粉の粒子上へ、マグネシウム化合物の被膜を作製し、マグネシウム化合物被膜合金粉とする。
【0051】
更に、該マグネシウム化合物被膜合金粉に、シリコン樹脂5wt%を含む水溶液20gを添加混合する。ここで、マグネシウム化合物被膜合金粉中のシリコン樹脂含有量は0.1wt%である。
【0052】
その後、窒素雰囲気中において、該マグネシウム化合物被膜合金粉へ450℃で1時間の熱処理を施し、アンモニア成分を揮発させると伴に、Mg(OH)をMgOに分解し、センダスト合金粉の粒子表面に付着させ、試料1に係る絶縁被膜合金粉を製造した。
【0053】
得られた試料1に係る絶縁被膜合金粉に対し、粉体磁気特性評価と粉体抵抗とを以下のように実施した。その結果を表1に記載する。
(1)粉体磁気特性評価:試料振動型磁気特性装置(VSM)を用い、試料の、σ1000(磁界1000Oeでの磁化量)と保磁力Hcを測定した。
(2)粉体抵抗:試料5gを円柱のセル(φ10mm)に充填して、絶縁抵抗計で100V定電圧をかけた時の比抵抗を測定した。
【0054】
更に、試料1に係る絶縁被膜合金粉へ、10t/cmの圧力をかけて、30φ×20φ×5mm(厚)のリングと、12φ×2mmt(厚)の円板状の成形体とを作製し、該成形体をN雰囲気中で600℃、700℃、800℃の各温度でそれぞれ1時間の熱処理を施して焼成した。そして当該成形体に対し、下記の評価を実施した。
(3)透磁率μの周波数特性(μ−f特性)評価:製造した30φ×20φ×5mm(厚)リングに、エナメル線(0.35mmφ)をコイル状に巻き付けた(巻数40回)。そして、評価装置(ヒューレットパッカード社製:4274AMulti−Frequency LCR Meter)により、試料1に係るリングにおける透磁率μの周波数特性(μ−f特性)を評価した。
(4)保磁力Hc評価:製造した12φ×2mmt(厚)の円板状の成形体の保磁力Hcを、VSMにより測定した。
評価結果のうち、周波数20kHzのときのμを表2に、μ−f特性を表3および図1に、Hcの変化を表4および図2に示す。
【0055】
図1は、縦軸にμの値、横軸に周波数をとったグラフで、600℃で処理した試料1を■でプロットし太実線で結び、700℃で処理した試料1を●でプロットし太一点鎖線で結び、800℃で処理した試料1を▲でプロットし太二点鎖線で結んだものである。
図1は、縦軸にHcの値、横軸に焼成温度をとったグラフで、試料1を■でプロットし実線で結んだものである。
【0056】
試料2は、試料1で用いたセンダスト合金粉と同様であるが、絶縁被膜を有しないものである。
試料2に対しても、試料1と同様に、成形体をN雰囲気中で600℃、700℃、800℃の各温度でそれぞれ1時間熱処理を施して焼成した。そして当該成形体に対し、粉体磁気特性評価と粉体抵抗とを実施した。
そして、試料2に係るセンダスト合金粉へ、10t/cmの圧力をかけて、30φ×20φ×5mmのリングと、12φ×2mmt(厚)の円板状の成形体とを作製し、試料1と同様に、透磁率μの周波数特性(μ−f特性)評価と、保磁力Hc評価とを実施した。
そして、当該評価結果を試料1と同様に、表1から4、および図1、2に示した。
【0057】
尚、図1において、600℃で処理した試料2を□でプロットし細実線で結び、700℃で処理した試料2を○でプロットし細一点鎖線で結び、800℃で処理した試料2を△でプロットし細二点鎖線で結んだ。
また、図2において、試料2を×でプロットし実線で結んだ。
【0058】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0059】
(試料1と試料2との比較)
【0060】
表1に示すように、試料1は試料2よりも、粉体抵抗が高く、合金粉が均一に絶縁されていることがわかる。また、σ1000、Hcは試料1、試料2とも、ほぼ同等であり、試料1に係る絶縁膜処理に伴う磁気特性の劣化は見られないことが判明した。
【0061】
μ−f特性において、図1及び表2から、試料1は、試料2に較べていずれの処理温度においても、周波数依存性は低く、粒子の絶縁性が良好であり、さらには、絶縁膜の耐熱性が良好であることが判明した。
保磁力Hcの温度変化において、図2から、試料1は、試料2にくらべて、いずれの処理温度でも低く、また、処理温度が高くなるに伴いHcは著しく減少していることが判明した。
【0062】
以上の評価結果から、絶縁被膜合金粉である試料1は、センダスト合金粉である試料2に較べて、周波数依存性が小さいことが判る。このことから、試料1に形成された絶縁被膜合金粉は、被膜が均一であり、更には、耐熱性に優れた絶縁膜であるといえる。また、試料1に形成された絶縁被膜合金粉のこの特長から、成形時の歪により劣化したHcを回復するための熱処理が、より高温まで可能となり、効果的にHcの低減をもたらし、その結果、ヒステリシス損失を大幅に低減できることが期待できる。
【0063】
試料1において、当該効果を実現できたのは、前記熱処理の前に、ぎ酸マグネシウムを中和しMg(OH)の状態で焼成することにより、センダスト合金粉の粒子の腐食を防止した状態(金属粉中に不純物のC、Oが入るのを防ぐ)での焼成となり、センダスト合金粉の粒子中へ不純物が入ることによる磁性の低下を防ぐことができた為であると考えられる。
【0064】
また、ぎ酸マグネシウムを中和することにより、nm(ナノメータ)サイズのきめの細かいアモルファス状態のMg(OH)を生成することができ、均質な被膜を得ることができる。この結果、熱処理において熱をかけても該被膜が割れにくくなり、絶縁が破れにくくなる。さらに、該被膜の膜厚を小さくすることもでき好ましい。
【0065】
さらに、熱処理により、シリコン樹脂はシリカ質の成分となってMgOの支持骨格となる。そして、該支持骨格が存在することにより、当該熱処理の際に、MgOがセンダスト合金粉の粒子表面上における特定の場所に集中することが妨げられる。当該集中が妨げられる結果、形成される絶縁膜の破れが防がれたと考えられる。
【0066】
(2)軟磁性金属粉末の成分および絶縁被膜の原料成分を変更した場合についての検討
試料3は、センダスト合金粉を平均粒子径90μmのアトマイズ鉄粉に変更し、ぎ酸マグネシウム水溶液を酢酸マグネシウム水溶液(酸化マグネシウム4g+酢酸6g+水30g)に変更し、アルカリ調整後の熱処理温度450℃を350℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で製造した絶縁被膜鉄粉である。
なお、試料3中のMg含有量は0.1wt%、アルカリ当量は2.3、シリコン樹脂含有量は0.1wt%である。
試料3に係る絶縁被膜鉄粉へ、試料1と同様に粉体の評価を実施した。その結果を下記表5に示す。
【0067】
試料4は、試料3で用いた平均粒子径90μmのアトマイズ鉄粉と同様であるが、絶縁被膜を有しないものである。
試料4へ、試料1と同様に粉体の評価を実施した。その結果を下記表5に示す。
【0068】
試料5は、酢酸マグネシウム水溶液をリン酸水溶液に代替し、試料5に対するリン(P)量を0.02wt%に変更した以外は、試料3と同一の方法で製造した絶縁被膜鉄粉である。
【0069】
【表5】

【0070】
更に、試料3に係る絶縁被膜鉄粉を用いて、試料1と同一の方法で30φ×20φ×5mmtの成形体を作製し、温度を300℃、400℃、500℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で、熱処理を施した。該成形体のμ−f特性を試料1と同一の方法で測定し、その結果のうち、周波数20kHz時のμを表6に示し、μ−f特性を表7およびそれをグラフ化した図3に示す。
同様に、試料5の、周波数20kHz時のμを表6に示し、μ−f特性を表7およびそれをグラフ化した図3に示す。
【0071】
図3は、図1と同様に、縦軸にμの値、横軸に周波数をとったグラフで、600℃で処理した試料3を■でプロットし太実線で結び、700℃で処理した試料3を●でプロットし太一点鎖線で結び、800℃で処理した試料3を▲でプロットし太二点鎖線で結んだものである。
さらに、図3において、600℃で処理した試料5を□でプロットし細実線で結び、700℃で処理した試料5を○でプロットし細一点鎖線で結び、800℃で処理した試料5を△でプロットし細二点鎖線で結んだ。
【0072】
【表6】

【表7】

(試料3から試料5の比較)
表5に見るように、試料3は試料4よりも、粉体抵抗が高く、鉄粉粒子が均一に絶縁被膜されていることがわかる。また、試料3のσ1000、Hcは、試料4とほぼ同等であり、絶縁被膜処理による磁気特性の劣化はない。
【0073】
図3、表7に示すように、試料3は、試料5にくらべてμの周波数依存性が低く、粒子絶縁性が良好であり、さらには、絶縁膜の耐熱性が良好である。以上の結果から、試料3に係る絶縁膜は、軟磁性金属粉末の成分が鉄粉であっても、均一に被覆されており、さらには、耐熱性に優れていることがわかる。
【0074】
(3)絶縁被膜の構成元素を変更した場合についての検討
試料6は酢酸マグネシウム水溶液を、イットリウム水溶液に変更した以外は、試料3と同一の方法で製造した絶縁被膜鉄粉である。
試料7は酢酸マグネシウム水溶液を、マグネシウム+イットリウム水溶液に変更した以外は、試料3と同一の方法で製造した絶縁被膜鉄粉である。
表8に、試料3、試料6、試料7のMg含有量、Y含有量、シリコン樹脂含有量、およびアルカリ当量を記載する。
【表8】

【0075】
試料6、7に係る絶縁被膜鉄粉に対し、試料1と同様に粉体の評価を実施し、その結果を試料3の結果と伴に、表9に記載する。
【表9】

【0076】
表9に見るように、試料6、7に係る絶縁被膜鉄粉は、試料3に係る絶縁被膜鉄粉に比較してほぼ同等の特性を有することから、イットリウム酸化物、および、マグネシウムとイットリウムとの酸化物被膜は、マグネシウム酸化物と同様に絶縁膜として適していることが判明した。
【0077】
更に、試料6、7に係る絶縁被膜鉄粉を用いて、試料1と同一の方法で、30φ×20φ×5mm(厚)の成形体を作製し、温度を500℃に変更した以外は試料1と同一の方法で熱処理を施した。そして、該成形体のμ−f特性を測定した。このうち、代表特性として、20kHz時のμを試料3の結果と伴に、表10に記載する。
【表10】

【0078】
(試料3、試料6、試料7の比較)
表10に示すように、試料6、7に係る成形体の透磁率は、試料3とほぼ同等の特性である。従って、イットリウム酸化物、および、マグネシウムとイットリウムとの酸化物被膜鉄粉は、マグネシウム酸化物被膜鉄粉と同様に、粒子絶縁性が良好であり、さらには、絶縁膜の耐熱性に優れていることが判明した。
【0079】
(4)絶縁被膜中の金属元素(Mg)含有量を変更した場合についての検討
アトマイズ鉄粉の表面に形成される絶縁膜中のMg含有量を、0.01〜04wt%の範囲で変動させた以外は、試料3と同様の方法で、試料8から試料13に係る絶縁被膜鉄粉を製造した。
ここで、試料8から試料13および試料3に係る絶縁被膜鉄粉のMg含有量、アルカリ当量、シリコン樹脂含有量を表11に記載する。
【0080】
【表11】

【0081】
次に、試料8から試料13に係る絶縁被膜鉄粉に対し、試料1と同様に磁気特性の評価を実施した。その結果を試料3の結果と伴に、表12に記載する。
【0082】
【表12】

【0083】
(試料3、試料8〜試料13の比較)
表12に示すように、粉体抵抗値は試料12に係る絶縁被膜鉄粉で急激に低下している。一方、σ1000は、試料13に係る絶縁被膜鉄粉で顕著な低下が認められた。
【0084】
さらに、試料8〜試料13に係る絶縁被膜鉄粉を用いて、試料1と同一の方法で30φ×20φ×5mm(厚)の成形体を作製し、温度を500℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で熱処理を施した。
【0085】
試料8〜試料13に係る絶縁被膜鉄粉で作製した成形体のμ−f特性を測定し、このうち、代表特性として、20kHz時のμを、試料3の結果と伴に表13に記載する。
【0086】
【表13】

【0087】
表13に示すように、試料12では、試料3、試料8〜試料11にくらべて、μが急激に低下している。これは、試料12に係る成形体において、熱処理温度500℃で絶縁膜の破壊が生じていることによると考えられる。これにより、Mg含有量は、0.01%を超えていることが、均一な絶縁膜の形成のために好ましいと考えることができる。
一方、表12に示すように試料13では、粉体抵抗が、試料3、試料8〜試料11よりも高くなっているにも拘わらず、表13ではμが低下している。従って、Mg含有量が0.4%を超えていることで、不純物量増加の影響を低減し実用に耐えるμを維持できると考えられる。
【0088】
(5)絶縁被膜中のシリコン樹脂をカップリング剤へ代替した場合についての検討
シリコン樹脂をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミカップリング剤に変更した以外は、試料3と同一の方法で試料14〜試料16を製造した。
表14に、試料14〜試料16のMg含有量、アルカリ当量、カップリング剤の種類と含有量を、試料3の結果と伴に表14に記載する。
【表14】

【0089】
試料14〜試料16に係る絶縁被膜鉄粉に対し、試料1と同様に粉体の評価を実施し、その結果を、試料3の結果と伴に表15に記載する。
【表15】

【0090】
表15に示すように、試料3、試料14〜試料16に係る絶縁被膜鉄粉において、粉体抵抗値は、試料3に係るシリコン樹脂で高い値となっている。
一方、σ1000、Hcについては、樹脂・カップリング剤の違いによる顕著な差は認められなかった。
【0091】
さらに、試料14〜試料16に係る被膜鉄粉を、試料1と同一の方法で30φ×20φ×5mm(厚)の成形体とし、温度を500℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で熱処理を施した。
試料14〜試料16に係る成形体のμ−f特性を測定し、このうち、代表特性として、20kHz時のμを、試料3、試料5の結果と伴に表16に記載する。
【表16】

【0092】
表16に示すように、試料5に係る成形体にくらべて試料3、試料14〜試料16に係る成形体は良好なμを示し、特に、シリコン樹脂を用いた試料3は良好である。
以上の結果から、試料3、試料14〜試料16に係る絶縁被膜鉄粉において、アトマイズ鉄粉は、絶縁被膜が均一に被覆されており、さらには、耐熱性に優れていることがわかる。
【0093】
(6)絶縁被膜中のシリコン樹脂含有量を変動した場合についての検討
試料17〜試料21では、アトマイズ鉄粉表面に形成された被膜中のシリコン樹脂含有量を、0wt%〜0.6wt%の範囲で変動させた以外は、試料3と同一の方法で絶縁被膜鉄粉を製造した。
表17に、試料17〜試料21のMg含有量、シリコン樹脂含有量、アルカリ当量を、試料3、試料4の結果と伴に記載する。
【表17】

【0094】
試料17〜試料21に係る絶縁被膜鉄粉に対し、試料1と同様に粉体の評価を実施し、その結果を、試料3、試料4の結果と伴に表18に記載する。
【0095】
【表18】

【0096】
さらに、試料17〜試料21に係る絶縁被膜鉄粉を用いて、試料1と同一の方法で30φ×20φ×5mm(厚)の成形体を作製し、温度を400℃、500℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で熱処理を施した。
【0097】
試料17〜試料21に係る成形体のμ−f特性を測定し、このうち、代表特性として、20kHz時のμを、試料3、試料4の結果と伴に表19に記載する。
【表19】

【0098】
(試料3、試料4、試料17〜試料21の比較)
表18に示すように、試料3、試料4、試料17〜試料21に係る絶縁被膜鉄粉の粉体抵抗値は、シリコン樹脂無添加の試料20でも、試料4にくらべて高いが、樹脂添加によりさらに高抵抗化する。一方、σ1000は、シリコン樹脂添加量増加に伴い増加するが、添加量0.6%の試料20では急激に低下している。
【0099】
表19に示すように、シリコン樹脂無添加の試料20は、試料3、試料4、試料17〜試料19、試料20、試料21にくらべて、いずれの熱処理温度でもμが高い。従って、絶縁被膜においてMg酸化物単独被覆であっても、実用に耐え得る耐熱絶縁被膜を得ることが可能であると考えられる。
【0100】
一方、シリコン樹脂添加量の増加に伴ない耐熱性は向上するが、添加量0.6%の試料21ではμの低下が著しい。
以上から、絶縁被膜において、Mg酸化物単独被覆でも均一で良好な耐熱性絶縁被膜を得ることができる。そして、当該絶縁被膜において、シリコン樹脂を0.5%以下添加することにより、さらに、均一且つ耐熱性に優れた絶縁被膜を有する絶縁被膜鉄粉を得ることが可能であることが判明した。
【0101】
(7)絶縁被膜中のアルカリ当量を変動した場合についての検討
試料22〜試料26では、アトマイズ鉄粉表面に形成された被膜中のアルカリ当量を、0.9〜6.0の範囲で変動させた以外は、試料3と同一の方法で絶縁被膜鉄粉を製造した。
なお、表20に、試料22〜試料26のMg含有量、アルカリ当量、シリコン樹脂含有量を試料3の結果と伴に記載する。
【表20】

【0102】
試料22〜試料26に係る絶縁被膜鉄粉に対して、試料1と同様に粉体の評価を実施し、その結果を、試料3の結果と伴に表21に記載する。
【表21】

【0103】
さらに、試料22〜試料26に係る被膜鉄粉を用いて、試料1と同一の方法で30φ×20φ×5mm(厚)の成形体を作製し、温度を500℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で熱処理を施した。
試料22〜試料26に係る成形体のμ−f特性を測定し、このうち、代表特性として、20kHz時のμを、試料3の結果と伴に表22に記載する。
【0104】
【表22】

【0105】
(試料3、試料22〜試料26の比較)
表21に示すように、試料3、試料22〜試料26に係る絶縁被膜鉄粉における粉体抵抗値は、アルカリ当量3.0の試料23付近をピークに、それ以下では、低抵抗化の傾向にあり、0.9の試料25では低いレベルとなる。一方、アルカリ当量6.0の試料26)では、試料22〜24と、ほぼ同等の抵抗値である。しかし、コストの観点からは、アルカリ当量が6.0を超えないことが好ましい。また、σ1000、Hcは、試料3、試料22〜試料26に係る絶縁被膜鉄粉における何れのアルカリ当量の場合も、ほぼ同等である。
【0106】
表22に示すように、μは、アルカリ当量3.0(試料23)付近をピークに、それ以外では、低下傾向にある。一方、μは、アルカリ当量6.0(試料26)において、試料22〜24とほぼ同等の値であるが、6.0を超えるとコスト的に不利となる。
【0107】
(8)絶縁被膜の形成方法を変更した場合についての検討
試料27では、アトマイズ鉄粉表面に形成される被膜の製造方法において、上述の試料1〜26ではアンモニア水添加後、酢酸マグネシウム水溶液添加する順序としていたのものを、酢酸マグネシウム水溶液添加後、アンモニア水を添加する順序に変更した以外は、試料3と同一の方法で絶縁被膜鉄粉を製造したものである。
表23に、試料27のMg含有量、アルカリ当量、シリコン樹脂含有量を試料3の結果と伴に記載する。
【表23】

【0108】
試料27に係る絶縁被膜鉄粉に対し、試料1と同様に粉体の評価を実施し、その結果を試料3の結果と伴に表24に記載する。
【表24】

【0109】
さらに、試料27に係る被膜鉄粉を用いて、試料1と同一の方法で30φ×20φ×5mm(厚)の成形体を作製し、処理温度を300℃、400℃、500℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で熱処理を施した。
試料27に係る成形体のμ−f特性を測定し、このうち、代表特性として、20kHz時のμを試料3、試料5の結果と伴に表25に記載する。
【表25】

【0110】
(試料3、試料27の比較)
表24に示すように、試料27は、試料3にくらべて、粉体抵抗値でやや低めとなる。一方、試料27および試料3において、σ1000、Hcの値は、ほぼ同等である。
【0111】
表25に示すように、試料27に係る成形体は、試料3にくらべて、処理温度の高温側で、μが低くなるが、試料5にくらべると、500℃での低下幅は小さい。従って、アンモニア水と酢酸マグネシウム水溶液との添加順序を入れ替えても、粒子絶縁性が均一であり且つ耐熱性に優れた絶縁被膜鉄粉を製造することができることが判明した。
【0112】
(9)絶縁被膜の形成の際における熱処理温度を変更した場合についての検討
試料28〜試料32においては、絶縁被膜の形成の際における熱処理温度を150℃〜600℃の範囲で変更した以外は、試料3と同一の方法で絶縁被膜鉄粉を製造した。
表26に、試料28〜試料32に係る被膜のMg含有量、アルカリ当量、シリコン樹脂含有量、熱処理温度を、試料3の結果と伴に記載する。
【表26】

【0113】
試料28〜試料32に係る絶縁被膜鉄粉に対し、試料1と同様に粉体の評価を実施し、その結果を、試料3の結果と伴に表27に記載する。
【表27】

【0114】
さらに、試料28〜試料32に係る絶縁被膜鉄粉を用いて、試料1と同一の方法で30φ×20φ×5mm(厚)の成形体を作製し、温度を500℃に変更した以外は、試料1と同一の方法で熱処理を施した。
試料28〜試料32に係る成形体のμ−f特性を測定し、このうち、代表特性として、20kHz時のμを、試料3の結果と伴に表28に記載する。
【表28】

【0115】
(試料3、試料28〜試料32の比較)
表27に示すように、粉体抵抗値は、絶縁被膜の形成の際における処理温度の上昇に伴い高くなり、300〜500℃でほぼフラットであるが、さらに温度が上昇することにより、今度は低下する傾向にある。当該絶縁被膜の形成の際における低温側の低抵抗値化は、マグネシウム化合物が水酸化物に留まることに原因すると考えられる。そして、150℃の試料31では、このマグネシウム化合物が水酸化物に留まることの影響を受け、粉体抵抗値は低い値である。一方、当該絶縁被膜の形成の際における温度が600℃(試料30)を超える高温側における粉体抵抗値の低抵抗化は、鉄粒子の焼結による絶縁膜破壊が原因と推定する。特に、650℃の試料32には、著しい粉体抵抗値の低下が認められる。
【0116】
表28に示すように、μは、粉体抵抗と同様な傾向を示し、試料3、試料28〜試料30の処理温度では、良好な値を得られることが判明した。
【0117】
(比較例1)
比較例1に係る試料は、特許文献2に記載の粉末サンプル相当品である。
ここで、比較例1に係る試料は、アトマイズ鉄粉に皮膜を形成する際、アンモニアを使用せずに(中和しない状態で)、酢酸マグネシウム水溶液を分解した以外は、試料3と同様に製造した試料である。
【0118】
比較例1に係る試料における、粉体特性(見掛け密度、流動度、マイクロトラック平均粒径、粒度分布分析結果)、化学成分の分析結果および磁気特性の測定結果を、実施例1に係る試料3の結果と伴に表29に示す。
次に、当該試料を焼成温度400℃で処理した場合における、周波数の違いによる透磁率μを、実施例1に係る試料3の結果と伴に表30に示す。
さらに、当該試料の焼成温度の違いによる保持力Hcの値を、実施例1に係る試料3の結果と伴に表31に示す。
【0119】
【表29】

【表30】

【表31】

【0120】
また、図4は表30の内容をグラフ化したもの、図5は表31の内容をグラフ化したものである。
【0121】
(実施例1に係る試料3と比較例1に係る試料との比較)
表29の結果から、両者の間には、粉体特性には大きな差がないものの、酸素の含有量に大きな違いがある。即ち、実施例1に係る試料3では酸素量0.20%であるのに対し、比較例1に係る試料では酸素量0.62%となっており、試料3においては、酸素含有量が0.4%以下であることが分かる。
この試料3における酸素含有量が低いことは、試料3に係る絶縁被膜鉄粉を、成形、焼成しても腐食が抑制されていることを意味すると考えられる。そして、当該腐食の抑制結果として、試料3は、比較例1に係る試料よりも、透磁率μは高く、保磁力Hcは小さいのだと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末を含む圧粉体におけるμと周波数との関係を示すグラフある。
【図2】本発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末を含む圧粉体における保磁力と熱処理温度との関係を示すグラフある。
【図3】本発明に係る絶縁被膜軟磁性金属粉末を含む圧粉体におけるμと周波数との関係を示すグラフある。
【図4】本発明と比較例とに係る絶縁被膜軟磁性金属粉末を含む圧粉体におけるμと周波数との関係を示すグラフある。
【図5】本発明と比較例とに係る絶縁被膜軟磁性金属粉末を含む圧粉体における保磁力と熱処理温度との関係を示すグラフある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が、無機物、または、無機物と有機物との混合物、を含む絶縁被膜で被覆された軟磁性金属粒子を含み、
酸素の含有量が0.4重量%以下であり、且つ、炭素の含有量が0.02重量%以下であることを特徴とする絶縁被膜軟磁性金属粉末。
【請求項2】
前記無機物の含有量が、0.02〜0.3重量%であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末。
【請求項3】
前記無機物が、マグネシウム化合物および/またはイットリウム化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末。
【請求項4】
前記有機物の含有量が、0.5重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末。
【請求項5】
前記有機物が、シリコン樹脂、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミナカップリング剤から選択される1種以上のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末。
【請求項6】
表面が絶縁性被膜で覆われた軟磁性金属粒子を含む絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法であって、
軟磁性金属粉末にアルカリ水溶液を混合するアルカリ調整工程と、
該工程後に金属塩水溶液を添加混合する金属塩水溶液添加工程と、
該工程後に水分を除去する第1乾燥工程と、
該工程後に所定の高温で焼成して金属塩の絶縁被膜を金属粒子表面に形成する熱処理工程と、
を備えることを特徴とする絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項7】
表面が絶縁性被膜で覆われた軟磁性金属粒子を含む絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法であって、
軟磁性金属粉末に金属塩水溶液を添加混合する金属塩水溶液添加工程と、
該工程後にアルカリ水溶液を混合するアルカリ調整工程と、
該工程後に水分を除去する第1乾燥工程と、
該工程後に所定の高温で焼成して金属塩の被膜を金属粒子表面に形成する熱処理工程と、
を備えることを特徴とする絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項8】
前記第1乾燥工程と熱処理工程との間に、更に、
有機物を含む水溶液を混合する有機物添加工程と、
該工程後に水分を除去する第2乾燥工程と、
を加えたことを特徴とする請求項6または7に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項9】
前記金属塩水溶液が、マグネシウムおよび/またはイットリウムを含むカルボン酸水溶液であることを特徴とする請求項8に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ水溶液が、NaOH、KOH、NH4OHから選ばれる1種以上のものであることを特徴とする請求項8または9に記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理工程が、大気、窒素、またはその混合雰囲気中において、200〜600℃の加熱を行うものであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項12】
前記有機物が、シリコン樹脂、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミナカップリング剤から選ばれる1種以上のものであることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末を含むことを特徴とする圧粉磁芯。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁被膜軟磁性金属粉末を用いた圧粉磁芯の製造方法であって、
前記第2乾燥工程後の前記軟磁性金属粉末を所定形状に成形し、その後に前記熱処理工程を行うことにより、圧粉磁芯を製造することを特徴とする圧粉磁芯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−273929(P2007−273929A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101207(P2006−101207)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】