説明

絶縁被覆方法、絶縁体及び、電圧機器

【課題】電圧機器の導電部材の絶縁処理において地球環境保全に貢献すると共に、ヒートサイクル後にも十分な耐久性(例えば、強度、耐劣化性等)や電気的特性を有する絶縁被覆方法及び絶縁体を提供する。
【解決手段】生物由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料に対しシリカ粉末を添加し混練して得られる高分子組成物を得る。この高分子組成物をバイオポリマーコンパウンドとし、バイオポリマーコンパウンドを微紛化して得られる絶縁性粉体を電圧機器の導電部材にパウダーコーティングすることにより、該導電部材の被絶縁処理部位に対して生物由来絶縁部材を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被覆層を形成する方法及び該被覆方法により形成される絶縁体及び、絶縁処理された電圧機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた電圧機器(高電圧機器等の重電機器)においては、社会の高度化・集中化に伴って大容量化、小型化が進み、安全性、信頼性(例えば、機械的物性(絶縁破壊電界特性等)、電気的物性)等の向上も強く要求されている。例えば、電圧機器の導電部材のうち一部の部位においては、該電圧機器の小型化,安全性等の観点から、絶縁処理(絶縁材料による導電部位の被覆(モールド))が適宜施される。この絶縁処理としては、所望の部位(以下、被絶縁処理部位と称する)に対し絶縁性高分子材料から成る熱収縮チューブ等の絶縁部材(チューブ状、シート状等の所望の形状に成形された絶縁体)で被覆する方法を適用、又は被絶縁処理部位に対して被覆物を形成できる程度に微紛化された粉体(以下、絶縁性粉体と称する)をパウダーコーティングする方法を適用することが知られている。
【0003】
絶縁部材としては、例えば使用目的に応じて熱可塑性樹脂(ポリエチレン等)や熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)等の石油由来物質を基材(出発物質)とする高分子材料から成るもの(以下、石油由来絶縁部材と称する)が一般的に用いられてきたが、該石油由来絶縁部材を処分する場合には地球環境保全の観点で種々の問題を引き起こすおそれがある。
【0004】
例えば、石油由来絶縁部材を焼却処分する方法を適用すると種々の有害物質や二酸化炭素を大量に排出し、環境汚染、地球温暖化等の問題を引き起こすおそれがある点で懸念されている。
【0005】
一方、石油由来絶縁部材を単に埋立て処理する方法を適用することもできるが、その埋立て処理に係る最終処分場は年々減少している傾向である。また、石油由来絶縁部材を回収し再利用(リサイクル)する試みもあるが、多大な回収費用やエネルギー(再利用するための燃焼工程等のエネルギー)を要するため、十分には確立されておらず殆ど行われていない。
【0006】
例外的に、品質が比較的均一な石油由来絶縁部材(電圧機器に用いられているポリエチレンケーブル)のみを回収しサーマルエネルギーとして利用しているが、このサーマルエネルギーは燃焼処理工程を要するため、前記のように環境汚染、地球温暖化等の問題を招くおそれがある。
【0007】
近年においては、生物由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料から成る絶縁部材(以下、生物由来絶縁部材と称する)が注目され始めているが(例えば、特許文献1、2)、生分解性(例えば、比較的低温で溶融し易い物性)を有するものであることから、石油由来絶縁部材と比較して耐久性(例えば、強度、耐劣化性等の寿命)が低く、特に十分な電気的特性(例えば、十分な絶縁性等)を長期間維持する必要がある電圧機器等の製品には不向きであり、実際に工業材料として適用されることは無かった。
【0008】
例えば、所望の形状に固形化(シート状、ペレット状等に固形化)された生物由来絶縁部材であっても、被絶縁処理部位に装着する際に変形したり、被絶縁処理部位の部位との摩擦等により破損し易い。また、パウダーコーティング法を適用した場合には、生物由来絶縁部材の厚さが不十分になったり不均一になり易いおそれがあった。
【0009】
このため、前記の生物由来絶縁部材は、耐久性や電気的特性等を必要としない簡便な製品等(例えば、いわゆるワンウェイ容器等の回収が困難な生活用品)への適用に制限されていた。
【0010】
これらの問題に対して、生物由来物質(生分解性樹脂等)の破壊電圧を向上させるために、PLA(ポリ乳酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)のようなバイオベースポリマー(非化石原料由来高分子)に加水分解制御剤、有機化酸化物を添加する方法がとられている。さらに、架橋剤(パーオキサイド)処理による水蒸気浸透制御や熱収縮チューブ処理をすることにより、高温・高湿度下で長期寿命が確保できるようになってきている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−53699号公報
【特許文献2】特開2002−358829号公報
【特許文献3】特開2008−257976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
バイオベースポリマーを使用した場合、被覆対象である導体と被覆される絶縁体間の線膨張率差により、稀に低温側で熱応力破断が生じるおそれがあった。電圧機器の導電部材の絶縁処理において、地球環境保全に貢献すると共に、十分な耐久性(例えば、強度,耐劣化性等)や電気的特性等を付与できるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題に基づいてなされたものであり、電圧機器の導電部材の絶縁処理において、前記のように生活用品等に適用されていた技術とは全く異なり、地球環境保全に貢献できると共に、十分な耐久性や電気的特性等を付与できるようにする絶縁被覆方法を提供することにある。
【0014】
具体的に、請求項1記載の絶縁被覆方法は、生物由来物質を基材とする高分子材料と、シリカ粉末とを含む高分子組成物を、被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって被覆することを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の絶縁被覆方法は、請求項1に記載の絶縁被覆方法において、前記基材100重量に対して添加されるシリカ粉末の重量は、30重量以上110重量以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の絶縁被覆方法は、請求項1に記載の絶縁被覆方法において、前記基材100重量に対して添加されるシリカ粉末の重量は、40重量以上100重量以下である
ことを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の絶縁被覆方法は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法において、前記シリカ粉末の平均粒径は、5μm以上20μm以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の絶縁被覆方法は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法において、前記基材は、アセチル化セルロース、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリトリメチレンテレフタレート、エステル化澱粉、澱粉基ポリマー、キトサン基ポリマーのうちいずれか一つ以上のバイオベースポリマーから成ることを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の絶縁被覆方法は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法において、前記高分子組成物には、分子中において−N=C=N−構造を有する加水分解抑制剤が添加されることを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の絶縁被覆方法は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法において、前記高分子組成物には、分子中において−O−O−構造を有する架橋剤が添加されることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の絶縁体は、生物由来物質を基材とする高分子材料とシリカ粉末を含む高分子組成物が、被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって被覆されたことを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の電圧機器は、生物由来物質を基材とする高分子材料とシリカ粉末を含む高分子組成物が、被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって絶縁処理されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上、本発明の絶縁被覆方法によれば、地球環境保全に貢献できると共に、十分な耐久性(例えば、強度、耐劣化性等の寿命)や電気的特性等を有する絶縁体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態における絶縁被覆方法について説明する。
【0025】
本発明に係る絶縁被覆方法は、高分子系の絶縁構成材料全てに関するものであり、特に高電圧かつ高温になる電力系統の絶縁に適用できるものである。
【0026】
現行の絶縁材料の代替材料として、非化石原料の高分子材料(生物由来物質)を使用するものである。生物由来物質にシリカ粉末を混合し、パウダーコーティング法で導電部材(被絶縁処理部位)に絶縁層を形成することにより、導電部材と絶縁層の間の線膨張率差が低減し、ヒートサイクル後も良好な絶縁特性を維持する。
【0027】
<生物由来絶縁部材>
本実施形態の生物由来絶縁部材においては、生物由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料に対し加水分解抑制剤、架橋剤等を加え混練して得られる高分子組成物にシリカ粉末を添加する。そして、そのシリカ粉末を添加した高分子組成物を微紛化して得られる絶縁性粉体がパウダーコーティング法により、被絶縁処理部位に対して被覆されるものである。
【0028】
[高分子材料]
生物由来絶縁部材の高分子組成物に適用される高分子材料としては、基材となる生物由来物質の種類、生成プロセス等によって種々のものを適用できる。
【0029】
例えば絶縁性、材質の均質性等の観点からアセチル化セルロース、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリトリメチレンテレフタレート、エステル化澱粉、澱粉基ポリマー、キトサン基ポリマー等に区分されるバイオベースポリマーが挙げられる。
【0030】
これら各バイオベースポリマーを適宜単数又は複数併用できる。これらのうち、ポリブチレンサクシネートから成るものにおいては比較的柔軟性を有する。
【0031】
なお、前記ポリブチレンサクシネートの各成分のうちコハク酸、ブタンジオールにおいては石油由来のものが一般的であったが、近年においては生物由来のものも出現し始めていることから、該ポリブチレンサクシネートをバイオベースポリマーとして適用できることは明らかである(例えば、実施例で使用するGS Pla(登録商標)は、コハク酸、ブタンジオールと共に乳酸を共重合させている)。
【0032】
これらバイオベースポリマーにおいては、カーボンニュートラルであることから、たとえ該バイオベースポリマーを用いた製品等を焼却処分しても新たな二酸化炭素が発生することは殆ど無いものと思われる。
【0033】
[シリカ粉末]
高分子組成物に添加されるシリカ粉末は、平均粒径が5〜20μmのものを用いる。ここでいう平均粒径とは、体積基準での累積分布の50%に相当する粒子径であり、湿式粒度分布測定装置により測定されるものである。
【0034】
[加水分解抑制剤]
前記高分子組成物に適用される加水分解抑制剤としては、分子中において−N=C=N−構造(R1−N=C=N−R2構造(R1,R2はアルキル基))を有し、活性水素(加水分解によって生じるカルボン酸、水酸基の活性水素)との補足反応による加水分解抑制効果を奏するものを適用し、例えばカルボジイミド化合物が挙げられる。前記のR1、R2の種類によって加水分解抑制剤自体の物性や反応速度等は異なるものの、本質的機能(活性水素との補足反応等)は略同一である。
【0035】
[架橋剤]
前記高分子組成物に適用される架橋剤としては、分子中において−O−O−構造を有し、所定温度で架橋反応を起こすものを適用し、例えばパーオキサイドが挙げられる。このパーオキサイドにおいては、−O−O−構造部位が熱的影響を受けてラジカル分解する特性を有し、架橋剤として適用できるものであり、半減期温度の異なる種々のもの(例えば、日本油脂社製のパーヘキサV(10時間半減期温度105℃)、パークミルD(10時間半減期温度116℃)、パーヘキサ25B(10時間半減期温度118℃)、パーブチルP(10時間半減期温度119℃)、パーブチルC(10時間半減期温度120℃)、パーヘキシルD(10時間半減期温度116℃)、パーブチルD(10時間半減期温度124℃)、パーヘキシン25B(10時間半減期温度128℃))が知られている。
【0036】
なお、前記のパーオキサイドを高分子材料等と共に混練する場合、その混練機、混練物中の高分子材料等の配合量、混練条件、冷却機構の有無等によって、混練物の温度上昇の程度が異なる。例えば、該高分子材料の溶融温度以上の雰囲気下に保持され、該高分子材料においては自己発熱(せん断熱が発生)することもあり、これら熱によってパーオキサイドが意に反してラジカル分解し架橋反応を起こすことがある。
【0037】
このため、パーオキサイドの種類、配合量等においては適宜選定(例えば、半減期温度が前記の溶融温度近隣以上のパーオキサイドを選定)することが好ましい。例えば、高分子材料の溶融温度が約110℃、せん断熱が約20℃の場合には、例えば、パーブチルD、パーヘキシン25B等を用いる。また、パーオキサイドにおいては、消防法上の観点で危険物として取り扱われている製品が存在するが、例えば不活性充填剤等を配合して成る非危険物グレードの製品も存在し、適宜選択することが好ましい。
【0038】
[絶縁性粉体]
前記シリカ粉末含有高分子組成物を微粉化して得られる絶縁性粉体としては、該絶縁性粉体を用いてパウダーコーティング法により目的とする導電部材(被絶縁処理部位)に生物由来絶縁部材を形成できる程度に、微紛化したものを適用する。例えば、平均粒径が30μm〜300μm程度、望ましくは50μm〜250μm程度に微紛化されたものが挙げられる。
【0039】
なお、例えば平均粒径が比較的大きいもの(例えば、500μm以上のもの)については、除外、あるいは再度微紛化(パウダーコーティング法により被絶縁処理部位に対して生物由来絶縁部材を形成できる程度に微紛化)を行ってから適用しても良い。
【0040】
また、微紛化によって得られる絶縁性粉体の粒径、粉体形状は、微紛化に用いる装置の種類(機種,型式等)や微紛化時間等によって変化するものの、前記のようにパウダーコーティング法により目的とする生物由来絶縁部材を形成できる程度の範囲であれば良い。
【0041】
前記の微紛化に用いる装置においては、種々のミル装置を適用することができ、例えば回転、衝撃、振動等による装置が挙げられる。なお、ミル装置による微紛化の際に少なからず熱が発生し、該熱によって目的とする絶縁性粉体自体が意図しない溶融(自己融着)や劣化するおそれがある。このような場合には、ミル装置全体や一部(微紛化に係る部分)を冷却することが好ましく、微紛化前の高分子組成物自体を予め冷却(冷蔵庫,冷凍庫,液体窒素等を用いて冷却)しても良い。また、高分子組成物が大きな塊状態である等の理由により、該高分子組成物をミル装置に投入できない場合、その投入ができる程度まで高分子組成物を粗粉砕しても良い。
【0042】
[被覆方法]
前記のパウダーコーティング法においては、例えば流動浸漬法、静電塗装法が挙げられる。これら流動浸漬法、静電塗装法は、それぞれのプロセスは異なるものの、その目的(被覆)、結果(被覆される程度)は同様である。
【0043】
前記の流動浸漬法の場合は、目的とする導電部材の被絶縁処理部位の表面を予め加熱(予熱)しておき、絶縁性粉体が充填された流動浸漬槽内に前記の導電部材(少なくとも、被絶縁処理部位)を浸漬することにより、前記の予熱によって絶縁性粉体を溶融し、被絶縁処理部位に対し該溶融物を付着させて生物由来絶縁部材を形成させる方法である。前記の流動浸漬槽においては、絶縁性粉体の大きさ(熱硬化性樹脂の場合はBステージ)と同等程度、又は該絶縁性粉体の大きさ以下の形状の孔が側壁(底壁等)に複数個穿設された多孔性型の構造のものが適用され、例えば焼結、繊維クロス、機械加工によって得られるものが挙げられる。
【0044】
前記のように側壁に穿設された各孔から流動浸漬槽内に対し、空気、乾燥空気、窒素、乾燥窒素等の不活性気体を均等に噴出(大気圧下で噴出)することにより、該流動浸漬槽内の絶縁性粉体を流動させることができる。
【0045】
そして、前記のように流動する絶縁性粉体に対し、前記のように加熱された被絶縁処理部位を接触(流動浸漬槽内に浸漬して接触)させることにより、被絶縁処理部位に対し絶縁性粉体の溶融物が付着し被覆される。
【0046】
前記の不活性気体の流量においては、目的とする絶縁性粉体の粒径、分布、形状、密度等に応じて適宜設定する。例えば気体流量(cm3/分)を有効面積(流動浸漬槽のうち不活性気体が均一に噴出される領域の有効面積(cm2))で除した値の線速(cm/分)に基づいて設定することができる。例えば、0.5cm/分〜50cm/分(より好ましくは1cm/分〜20cm/分)程度に設定する。
【0047】
[導電部材(被絶縁処理部位)]
被覆対象である導電部材(被絶縁処理部位)は、前記の絶縁性粉体の溶融物が付着し被覆されるものであれば種々の材質(銅、鉄、アルミニウム等)、形状(円柱状、角柱状、線状、平板状、編線状等)のものを適用でき、例えば銅ブスバー等が挙げられる。
【0048】
例えば被絶縁処理部位にエッジ部が存在していても大きな問題は無いが、該エッジ部を面取り加工(C面加工,R面加工)した場合には、該エッジカバー率が改善され絶縁性粉体の溶融物による生物由来絶縁部材の厚さが十分となり、応力による該生物由来絶縁部材の亀裂等の危険性を低減することができるため好ましい。
【0049】
例えば、導電部材(例えば、ブスバー)が引抜き成型等により形成される場合には、前記のエッジ部をR面にしておくことが好ましい。なお、前記の危険性の低減度合いは、前記の面取り加工の程度によって異なるが、前記のようにたとえエッジ部が存在していても大きな問題は無いため、該面取り加工はコスト等を考慮して適宜行えば良い。
【0050】
導電部材のうち、例えば導電性を必要とする箇所(例えば電気的接続され得る箇所)や作業上の保持、位置決め等に係る箇所(位置決め用の孔等)は絶縁処理を必要としないため、適宜マスキングを行うことが好ましい。
【0051】
被絶縁処理部位表面の予熱温度は、該被絶縁処理部位を流動浸漬槽内に浸漬した際に絶縁性粉体の溶融物が付着し被覆される温度範囲とし、絶縁性粉体の加工温度(軟化温度、溶融点、ガラス転移温度等)、該被絶縁処理部位自体の熱容量(比熱、比重、形状等による熱容量)、放熱(冷却)特性、目的とする生物由来絶縁部材厚さに応じて適宜設定できるものである。
【0052】
予熱温度が低過ぎる場合には絶縁性粉体(溶融物)が被絶縁処理部位に付着し難くなり、予熱温度が高過ぎる場合には被覆された生物由来絶縁部材において変色、発泡、膨張等が発生し易くなるため、例えば、絶縁性粉体の加工温度よりも20℃低い温度から、該絶縁性粉体が分解する温度までの範囲とする。好ましくは、絶縁性粉体の加工温度から、該加工温度よりも100℃高い温度までの範囲とする。本実施形態の絶縁性粉体を適用した場合の具体例としては、110℃〜240℃程度の温度範囲が挙げられる。
【0053】
流動浸漬槽に対する被絶縁処理部位の浸漬時間、浸漬位置(浸漬中の空間的位置、方向)は、前記の溶融物による生物由来絶縁部材厚さ、被絶縁処理部位の予熱温度、形状等に応じて設定することができ、該浸漬を複数回繰り返して行っても良い。
【0054】
なお、被絶縁処理部位の浸漬開始から一定の浸漬時間までの間において、生物由来絶縁部材厚さは時間経過と共に厚くなるものの、該一定の浸漬時間以降においては、該生物由来絶縁部材厚さは一定あるいは不均一(表面状態が粗)になり易くなる。
【0055】
例えば、被絶縁処理部位の形状によっては、溶融物が定着し難い場合(例えば、剥離する場合)や重力により垂れ下がる場合があり、厚さが不均一になり易くなる。このような傾向は、予熱温度が低過ぎたり高過ぎても起こり得るものと思われ、浸漬時間、浸漬回数、浸漬位置、被絶縁処理部位の予熱温度等を適宜調整することが好ましい。
【0056】
また、前記のように被覆された生物由来絶縁部材は、熱処理等を施すことにより架橋しても良い。例えば、前記のように被覆した後に施され得る熱処理(例えば、被覆物の肉厚のバラツキ、表面荒れ、内部応力の緩和等を図る目的の熱処理)によって架橋しても良い。
【0057】
<その他>
本実施形態の生物由来絶縁部材,石油由来絶縁部材においては、高分子材料等の他に、高分子材料成形技術の分野で一般的に用いられている各種添加剤、例えば熱安定剤、光安定剤(紫外線防止剤)、酸化防止剤、老化防止剤、顔料、着色剤、無機充填剤(フィラー)、微小無機充填材(ナノ粒子)、難燃剤、抗菌剤、防腐食剤等を、目的とする電圧機器用絶縁性粉体、絶縁処理方法、電圧機器の特性を損わない程度で適宜用いても良い。
【0058】
例えば、生物由来絶縁部材の場合、パウダーコーティング法での溶融物による被覆の安定化を目的とした過酸化物添加による架橋や、官能基の安定化を目的としたカップリング剤の添加等を適宜行っても良い。
【実施例】
【0059】
次に、本実施形態における絶縁処理された電圧機器の実施例を説明する。下記の各実施例では、矩形平板状(長さ1200mm、幅40mm、厚さ5mm)の銅ブスバーの両端部側(それぞれの端部から長手方向に100mmの領域)をマスキングし、その銅ブスバーの中央部(マスキング領域以外)に対し絶縁性粉体を用いて流動浸漬法により種々の条件で絶縁処理して生物由来絶縁部材を被覆し、さらに該生物由来絶縁部材を石油由来絶縁部材で被覆することにより種々の試料を得、それら各試料の電気的特性、耐久性を調べた。
【0060】
[実施例]
生物由来絶縁部材として、まず、ペレット状のポリブチレンサクシネート(三菱化学社製のGS Pla(登録商標) AZ−61T(MI=30))に液状のパーオキサイド(日本油脂社製のパーブチルD)2phrを振り掛け、粉体状のカルボジイミド(日清紡績社製のカルボジライトLA−1)4phrと共に予備混合した。
【0061】
さらに、この予備混合時にシリカ粉末(龍森社製のMCF−4(平均粒径12μm))を添加した。シリカ粉末の添加量は、10phrから120phr加え、10phr毎にサンプルを作成した。
【0062】
シリカ粉末を添加しないサンプルを比較例1とし、シリカ粉末を10phr、20phr、120phr添加したサンプルを、それぞれ比較例2、比較例3、比較例4とした。そして、シリカ粉末を30phr〜110phr添加したサンプルをそれぞれ実施例1〜実施例9とした。
【0063】
次に、前記の混合物を二軸混練押出機(ベルストルフ社製のZE40A)に投入して混練し、その混練物をストランド状に掃引(二軸押出し温度130℃で掃引)して、ペレタイザーによって長さ数mm程度の形状に切断することにより、ペレット状の高分子組成物を得た。
【0064】
そして、スパイラルミル(セイシン企業社製)を冷却(ミル装置全体や一部を冷却)しながら、そのミルに対し前記の高分子組成物(必要に応じて冷蔵庫又は液体窒素等により冷却処理された高分子組成物)を投入し微紛化して平均粒径30〜300μmの絶縁性粉体を得た。
【0065】
その後、前記の絶縁性粉体を流動浸漬槽(仲田コーティング社製)に投入し、該浸漬槽内に不活性気体(窒素ガス)を噴出(流速0.5〜50cm/分で噴出)して絶縁性粉体を流動させ、前記のマスキングされた銅ブスバー表面を180℃で予熱してから該絶縁性粉体中に上下1回ずつ(各浸漬時間は10秒間)し、該絶縁性粉体の溶融物を付着させることにより、生物由来絶縁部材(肉厚1.4mm)が被覆された試料を得た。
【0066】
まず、前記各試料(比較例1〜4、実施例1〜9)において、交流電圧を印加(マスキングにより溶融物が被覆されなかった両端部に印加)した場合の初期絶縁破壊電圧値(BDV値)、初期破壊電界値を測定することにより電気的特性を調べた。
【0067】
次に、電圧機器の実環境で想定される温度変化(ブスバーに掛かりうる高温領域から、冬場の北海道で機器停止時に掛かりうる低音領域までの変化)を想定して、前記各試料をそれぞれ高温雰囲気下(100℃)と低温雰囲気下(−40℃)とに放置する作業(1サイクル;100℃・8時間、−40℃・8時間、過渡時間各4時間)を30サイクル繰り返してヒートサイクルテストを行った後、それぞれの絶縁破壊電圧値(以下、ヒートサイクル後破壊電圧値と称する)を測定した。
【0068】
初期破壊電圧値、初期破壊電界値測定の結果及び、ヒートサイクル後の破壊電圧測定値の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示す結果から、非化石原料であるバイオベースポリマーにシリカ粉末を添加することによって、導体の線膨張率差による熱破壊を抑え、ヒートサイクル後も絶縁特性を維持することができることがわかった。
【0071】
表1に示すように、シリカ粉末を添加していない又は、シリカ粉末の添加量が少ない試料(比較例1〜3)においては、ヒートサイクルテストを終える前の初期の段階で生物由来絶縁部材の破損が観られたことから、該ヒートサイクルテストによってブスバーと生物由来絶縁部材との間で熱応力が発生したことが読み取れる。
【0072】
一方、シリカ粉末の添加量が30phr以上110phr以下の試料(実施例1〜9)では、ヒートサイクル後も十分な絶縁特性を有している。特に、シリカ粉末の添加量が40phr以上110phr以下の試料(実施例2〜8)のヒートサイクル後破壊電圧値は初期破壊電圧値と殆ど変わらないことから、電気的特性、耐久性が共に良好であることを判明した。
【0073】
また、シリカ粉末の添加量が120phr以上(比較例4)の試料では、絶縁性粉体が高粘度となり生物由来絶縁部材の成形性が失われてしまうことが確認された。
【0074】
したがって、シリカ粉末の添加量が30phr以上110phr以下であることが好ましく、特にシリカ粉末の添加量が40phr以上100phr以下であることが好ましい。
【0075】
なお、生物由来絶縁部材の形成において、予熱温度を100℃〜280℃に設定したところ、該予熱温度が100℃以下の場合には絶縁性粉体の溶融物による被覆が観られず、該予熱温度が260℃以上の場合には生物由来絶縁部材において変色、発泡、膨張等が生じ易いことを確認できた。また、該予熱温度が110℃〜240℃程度であれば、生物由来絶縁部材を十分形成することができ、前記の変色、発泡、膨張等が生じないことを確認できた。
【0076】
したがって、実施例のように、被絶縁処理部位に対しシリカ粉末を添加した生物由来絶縁部材を被覆すると、電圧機器の導電部材の絶縁処理において、地球環境保全に貢献すると共に、十分な耐久性(例えば、強度,耐劣化性等)や電気的特性等を付与でき、実際の重電機器等の電圧機器に十分適用可能であることを確認できた。
【0077】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形及び修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形及び修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物由来物質を基材とする高分子材料とシリカ粉末を含む高分子組成物を、被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって被覆する
ことを特徴とする絶縁被覆方法。
【請求項2】
前記基材100重量に対して添加されるシリカ粉末の重量は、
30重量以上110重量以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁被覆方法。
【請求項3】
前記基材100重量に対して添加されるシリカ粉末の重量は、
40重量以上100重量以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁被覆方法。
【請求項4】
前記シリカ粉末の平均粒径は、
5μm以上20μm以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法。
【請求項5】
前記基材は、アセチル化セルロース、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリトリメチレンテレフタレート、エステル化澱粉、澱粉基ポリマー、キトサン基ポリマーのうちいずれか一つ以上のバイオベースポリマーから成る
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法。
【請求項6】
前記高分子組成物には、
分子中において−N=C=N−構造を有する加水分解抑制剤が添加される
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法。
【請求項7】
前記高分子組成物には、
分子中において−O−O−構造を有する架橋剤が添加される
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の絶縁被覆方法。
【請求項8】
生物由来物質を基材とする高分子材料とシリカ粉末を含む高分子組成物が、被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって被覆された
ことを特徴とする絶縁体。
【請求項9】
生物由来物質を基材とする高分子材料とシリカ粉末を含む高分子組成物が、被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって絶縁処理された
ことを特徴とする電圧機器。

【公開番号】特開2010−160901(P2010−160901A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546(P2009−546)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】