説明

絶縁電力ケーブル

【課題】インパルス特性を損なわれることなく、且つ、長時間の押出成形が可能で、直流破壊強度に優れる絶縁電力ケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオレフィン100質量部に対して、分子構造中にマレイミド基を2つ以上有し、200℃におけるゲル化時間が10分以上である化合物(A)を0.05〜0.5質量部および有機過酸化物架橋剤を含有する架橋性樹脂組成物を絶縁体層として押出被覆後、架橋してなることを特徴とする絶縁電力ケーブル

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電力ケーブルに関し、詳しくはインパルス特性を損なわれることなく、且つ、長時間の安定製造が可能で、直流破壊強度に優れる絶縁電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック絶縁電力ケーブルの中でも絶縁層が架橋ポリエチレンからなる架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルは、電気的特性、機械特性および耐熱性に優れ、メンテナンスが容易であるという種々の利点から、送電用ケーブルの主流を占めている。この架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルの絶縁体層は、一般に低密度ポリエチレンに架橋剤、老化防止剤等を添加した架橋性樹脂組成物を導体上に押出し被覆した後、加圧下で加熱することによって、架橋剤を熱分解させて樹脂組成物を架橋して形成される。しかしながら、この架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルに直流電圧を印加すると、絶縁体層中に空間電荷が蓄積されて、局所的に高電界領域が形成されるため、破壊電圧が著しく低下する問題があった。
【0003】
これらの問題点に対し、無水マレイン酸をグラフトしたポリオレフィンをポリエチレンにブレンドする(特許文献1)、絶縁体層の樹脂組成物にカーボンブラックや酸化マグネシウムを配合する(特許文献2、特許文献3)などが提案されているが、このような従来の電気絶縁性樹脂組成物はカーボンブラックや酸化マグネシウム等の充填剤を配合するとインパルス破壊強度が低下するという問題があり、無水マレイン酸による変性ではインパルス破壊強度は問題ないものの、直流破壊強度において満足のいく特性が得られていない。
【0004】
また、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド等を配合した架橋性樹脂組成物を使用することで、直流破壊強度をある程度改善させる例も提案されている(特許文献4)。しかし、前記架橋性樹脂組成物は、押出機内で架橋剤の一部が分解して樹脂をゲル化してしまうため、製造の途中で押出機の押出圧力が上昇し、それ以上の押出ができなくなることが明らかとなった。さらに外観不良が生じたり、目的とする電気特性が得られないといった問題もある事がわかった。直流電力ケーブルでは、通常の電力ケーブルよりもはるかに長いケーブル長が必要であり、超長尺でも安定して製造できる必要があるが、従来の架橋性樹脂組成物では、その達成が困難であった。
【特許文献1】特開昭62−100909号公報
【特許文献2】特開昭61−253705号公報
【特許文献3】特開平4−368717号公報
【特許文献4】国際公開第02/009123号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記すべての問題を解決し、インパルス特性を損なわれることなく、且つ、長時間の押出成形が可能で、直流破壊強度に優れる絶縁電力ケーブルを提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の絶縁電力ケーブルは、直流電気絶縁特性に優れ、なお且つ、インパルス破壊強度や長時間押出特性を損なうことがないため、高圧直流送電用として好適に使用できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの課題を解決する手段について鋭意検討を行った結果、ポリオレフィン100質量部に対して、分子構造中にマレイミド基を2つ以上有し、JIS K 6910に準拠して測定した200℃におけるゲル化時間が10分以上の化合物(A)を0.05〜0.5質量部および有機過酸化物架橋剤を含有する架橋性樹脂組成物を絶縁体層として押出被覆し、さらに架橋して用いることにより、インパルス破壊強度および直流破壊強度共に優れ、且つ、長時間の押出成形が可能な直流電力ケーブルを提供できる事を見出した。本発明はこれらの知見を元に完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)ポリオレフィン100質量部に対して、分子構造中にマレイミド基を2つ以上有し、以下に示す方法で測定された200℃におけるゲル化時間が10分以上である化合物(A)を0.05〜0.5質量部および有機過酸化物架橋剤を含有する架橋性樹脂組成物を絶縁体層として押出被覆後、架橋してなることを特徴とする絶縁電力ケーブル、
(2)ポリオレフィン100質量部に対して、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンおよび/または下記化2で表される化合物を0.05〜0.5質量部と、有機過酸化物架橋剤とを含有する架橋性樹脂組成物を絶縁体層として押出被覆後、架橋してなることを特徴とする絶縁電力ケーブル、
【0009】
【化1】

【0010】
(3) 前記ポリオレフィンのMFRが2g/10min以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の絶縁電力ケーブル、
(4) さらに、老化防止剤として4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の絶縁電力ケーブル、
(5) 直流電力ケーブルであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の絶縁電力ケーブル、
により提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における絶縁体層は、ポリオレフィン100質量部に対して、分子構造中にマレイミド基を2つ以上有し、200℃におけるゲル化時間が10分以上の化合物(A)を0.05〜0.5質量部および有機過酸化物架橋剤0.1〜5質量部を含有する架橋性樹脂組成物を加圧下で加熱することにより形成される。前記架橋性樹脂組成物には、必要に応じて老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。以下、本発明の各成分について説明する。
【0012】
本発明におけるポリオレフィンとしては、例えば高・中圧法ポリエチレン、低圧法ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−スチレン共重合体、その他共重合体などを挙げることができる。具体的には例えば、UBEポリエチレン(宇部興産(株)製)やノバテック(日本ポリケム(株)製)などが挙げられる。本発明におけるポリオレフィンとしては、ASTM D1238に規定されるMFRが2g/10min以上が好ましく、さらに好ましくは、3〜10g/minである。MFRが小さすぎると、押出時の樹脂圧力が高くなってしまう恐れがある。
【0013】
本発明における化合物(A)とは、分子構造中にマレイミド基を2つ以上有し、200℃におけるゲル化時間が10分以上の化合物である。200℃におけるゲル化時間とは、JIS K 6910に準拠し、以下の方法により求めるものとする。すなわち、化合物(A)0.5±0.05gを200±0.5℃に保持された鋼板上に採取し、スパチュラを用いて試料を60〜80回/分の速度で掻き混ぜ、化合物全体が溶融した時点から、試料とスパチュラの間に糸を引かなくなるまでの時間を測定することにより求めることができる。本発明においては、本測定は3回以上実施し、その平均値を求めてゲル化時間とする。
本発明においては、前記条件で測定した200℃のゲル化時間が10分以上が好ましい。さらに好ましくは、20分以上である。ゲル化時間が短すぎると、押出時にヤケが発生する場合がある。
【0014】
本発明において化合物(A)は、前記条件を満足する化合物であれば特に制限はないが、中でも2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンや前記化2で表される化合物の使用が好ましい。前記化2で表される化合物として具体的には例えば、Anilix−MI(三井化学ファイン(株)製)等が挙げられる。
本発明の化合物(A)はポリオレフィン100質量部に対して0.05〜0.5質量部が好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.25質量部である。配合量が少な過ぎると十分な直流破壊強度を得ることができず、配合量が多過ぎると架橋性樹脂組成物を押出成形する際に焼けが発生し、電気特性が低下する。
【0015】
本発明における有機過酸化物架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド,α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン等が挙げられ、通常架橋に用いられる有機過酸化物であれば特に限定されない。架橋剤の配合量は使用する有機過酸化物、樹脂の種類等により適宜選定されるが、ポリオレフィン100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、さらに0.5〜3質量部が好ましい。配合量が少な過ぎると架橋が十分に行われず、被覆層の機械特性および耐熱性が低下し、配合量が多過ぎると樹脂組成物を押出成形する際に焼けが発生し、電気特性が低下する。
【0016】
本発明における老化防止剤としては、一般に使用される老化防止剤を適宜選択して配合することができるが、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系の老化防止剤が好ましい。なかでも押出時の絶縁材料の架橋反応抑制効果がある4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)の使用が好ましい。老化防止剤の配合量は、添加する老化防止剤の種類、耐酸化性能を考慮して配合されるが、通常ポリオレフィン100質量部に対して0.1〜1.0質量部が好ましい。
【0017】
なお本発明における架橋性樹脂組成物には、電線、ケーブル、コード、チューブ、電線部品、シート等において、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0018】
本発明においては、ポリオレフィンに化合物(A)と有機過酸化物架橋剤とを配合した架橋性樹脂組成物を、絶縁層として押出被覆した後に架橋処理を行う。架橋処理方法は特に限定されないが、通常加圧加熱処理等が使用される。架橋処理を行うことにより、有機過酸化物架橋剤が分解してラジカルが発生し、樹脂が架橋する。その際、樹脂の架橋と同時に化合物(A)も樹脂にグラフトする。前記反応により、架橋処理後の絶縁層は高いインパルス特性と直流破壊強度を備えたものとなる。さらに、200℃におけるゲル化時間が10分以上の化合物(A)を使用することにより、長時間の押出成形が可能となり、優れた絶縁電力ケーブルが得られる。
【実施例】
【0019】
以下本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下に記載の例に限定されるものではない。
(実施例1〜7)
電力ケーブルについては以下の方法により作製した。まず断面積200mmの導体上にエチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋剤、カーボンブラック、酸化防止剤からなる組成物を厚さ1mmの内部半導電層として押出被覆した。さらに、前記表1に示す架橋性樹脂組成物からなる厚さ3.5mm絶縁層、さらにその上に前記内部半導電層と同材料からなる厚さ0.7mmの外部半導電層を同時押出被覆で形成してケーブルコアを作製した。このケーブルコアを圧力10kg/cmの窒素雰囲気中で、温度280℃の加熱下で加圧加熱を行い、配合した有機過酸化物を開始剤とするラジカル反応により架橋を進行させた。次いで、常法により、金属遮蔽層および防食層を設け、電力ケーブルを作製した。
空押実験は以下の方法により行った。まず、表1の各組成を予めブレンダーにてドライブレンドした。ドライブレンドされた架橋性樹脂組成物2000kgを、押出機にて空押をした。その際、押出樹脂温度が120℃となるように設定した。空押開始直後から空押終了直前までの押出圧力を測定した。
【0020】
(比較例1〜4)
実施例と同方法により、表1に示す割合でブレンドした樹脂組成物をもちいて電力ケーブルを作製し、空押実験を行った。
【0021】
(試 験)
得られた電力ケーブルに対して、下記の(1),(2),(3)の評価を行い、結果を表2に示した。
(1)直流破壊特性
有効長8mの電力ケーブルを用意し、導体温度が90℃になる様に通電しながら、スタート電圧を−60kVとして−20kV/10分のステップアップで昇圧させ、破壊電圧を測定した。得られた電圧を破壊電界に換算し、評価を行った。
(2)インパルス(Imp)破壊特性
有効長8mの電力ケーブルを用意し、導体温度が90℃になる様に通電しながら、スタート電圧を−50kV/3回とし、−20kV/3回のステップアップで昇圧し、破壊電圧を測定した。得られた電圧を破壊電界に換算し、評価を行った。
(3)押出圧力の評価
電力ケーブルを製造するに当たり、絶縁層押出機スクリュー先端に装着したメッシュ部分で押出樹脂圧力を測定し、押出開始から5時間経過した時点での樹脂圧力の上昇傾向から押出特性を評価した。評価の基準は以下の通りである。
−:樹脂圧力の上昇はほとんど認められない。
+:樹脂圧力の上昇は認められるが、長尺ケーブル製造上全く問題ない。
++:樹脂圧力の上昇は認められるが、長尺ケーブル製造が可能である。
+++:樹脂圧上昇が認められ、長尺ケーブルの製造が困難である。
(4)押出安定性の評価
架橋性樹脂組成物2000kgの空押を行い、空押前後の樹脂圧力と押し出された樹脂の外観を目視した結果により、以下の通り評価した。
A;樹脂圧力上昇が全くなかった。
B;若干の樹脂圧力上昇はあるが安定しており、ブツ発生がなかった。
C;樹脂圧力上昇があり、ブツの発生が認められた。
【0022】
【表1】

【0023】
LDPE1:低密度ポリエチレン(UBEC540、宇部興産(株)製)
LDPE2:低密度ポリエチレン(ノバテックZF30UF、日本ポリケム(株)製)
老防A:4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(ノクラック300R、大内新興化学工業(株)製)
老防B:ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィド(アデカスタブAO23、旭電化工業(株)製)
架橋剤:ジクミルパーオキサイド(パークミルD、日本油脂(株)製)
化合物A1:N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド(BMI-S、三井化学ファイン(株)製)(ゲル化時間1〜3分)
化合物A2:化1式の化合物(Anilix−MI、三井化学ファイン(株)製)(ゲル化時間30分以上)
化合物A3:2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン(BMI-4000、三井化学ファイン(株)製)(ゲル化時間10分以上)
【0024】
【表2】

【0025】
比較例1,2ではゲル化時間が10分以内の化合物A1を用いているため、押出機内で架橋剤の一部が分解する現象が生じ、空押実験では押し出された樹脂にブツの発生が認められた。また、電力ケーブル製造時の樹脂圧力上昇の評価も実施例に比較して劣っている。比較例3では化合物Aの配合量が過少なため目的とする電気特性が得られず、比較例4では化合物Aの配合量が過剰なため押出中に樹脂圧力が上昇して安定したケーブル製造ができない。
一方、実施例1〜7においては、長時間の押出成形を通して安定したケーブル製造が可能であり、空押実験においても全く押出圧力の上昇がないか、若干の押出圧力上昇があったとしてもブツの発生はなく、電気特性も目的とする特性を得ることが出来た。また、本発明の直流電力ケーブルにおいては、架橋絶縁体層を形成する架橋性樹脂組成物に所定の条件を満足する化合物(A)が配合されているため、インパルス特性も損なわれることなく、且つ、長時間の押出成形が可能で、直流破壊強度に優れる直流電力ケーブルを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン100質量部に対して、分子構造中にマレイミド基を2つ以上有し、JIS K 6910に準拠した方法で測定された200℃におけるゲル化時間が10分以上である化合物(A)を0.05〜0.5質量部および有機過酸化物架橋剤を含有する架橋性樹脂組成物を絶縁体層として押出被覆後、架橋してなることを特徴とする絶縁電力ケーブル。
【請求項2】
ポリオレフィン100質量部に対して、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンおよび/または下記化1で表される化合物を0.05〜0.5質量部と、有機過酸化物架橋剤とを含有する架橋性樹脂組成物を絶縁体層として押出被覆後、架橋してなることを特徴とする絶縁電力ケーブル。
【化1】

【請求項3】
前記ポリオレフィンのMFRが2g/10min以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁電力ケーブル。
【請求項4】
さらに、老化防止剤として4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電力ケーブル。
【請求項5】
直流電力ケーブルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁電力ケーブル。

【公開番号】特開2006−66110(P2006−66110A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244652(P2004−244652)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】