説明

絶縁電線およびそれを用いたコイル

【課題】高温環境下でも部分放電開始電圧が高く、可とう性などの機械的特性も良好な絶縁電線およびそれを用いたコイルを提供する。
【解決手段】導体上に絶縁塗料を塗布し、焼付けして得られる絶縁皮膜を有し、絶縁皮膜が分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびそれを用いたコイルに係り、特に、高温(例えば220℃以上)でも部分放電開始電圧が高く、可とう性などの機械的特性も良好な絶縁電線およびそれを用いたコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータなどの電気機器を構成するコイルには、一般にポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミドなどの樹脂を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の極性溶媒に溶解して得られる絶縁塗料を、導体上に塗布し、焼付けして絶縁皮膜を形成した絶縁電線が使用されている。特に、ポリイミドからなる絶縁皮膜は、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物との主に2成分による反応から得られるポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を導体上に塗布し、焼付けして形成される。
【0003】
例えば、特許文献1では、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)などのジアミンと、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)などのテトラカルボン酸二無水物とが等しいモル量で混合されて得られるポリイミド塗料を、導体上に塗布し、焼付けして形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線が開示されている。
【0004】
一方、モータなどの電気機器は、小型・軽量で高出力なものが望まれていることから、インバータ制御にて駆動されることが増えつつある。そして、インバータ制御にて駆動されるときのインバータサージによって発生する部分放電のリスクがさらに高まっており、コイルに使用される絶縁電線に対して部分放電に対する耐性の強化が種々検討されている。
【0005】
この部分放電に対する耐性を向上させる手法として、ポリイミド塗料から形成された絶縁皮膜の誘電率を低下させて絶縁電線間の電界(線間に存在する空気層に加わる電界)を緩和することにより、常温(例えば、20℃±15℃)での部分放電を発生しにくくし、耐性を向上させる方法などがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−261482号公報
【特許文献2】特開2010−67408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、モータの駆動電圧が上昇するに伴って、部分放電が発生するリスクは更に高くなってきているが、これに加えて、高温環境下での使用も想定され、この高温環境下でも部分放電開始電圧が高いことが望まれている。
【0008】
しかし、上記したような絶縁皮膜の誘電率を低下させる方法では、低誘電率化が樹脂構造に依存することから、耐熱性や可とう性などの機械的特性が低下することがあった。そのため、コイルを成形する際の曲げ加工に耐えうる可とう性などの機械的特性を維持しながら、高温環境下においても高い部分放電開始電圧を得ることは容易ではなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高温環境下でも部分放電開始電圧が高く、可とう性などの機械的特性も良好な絶縁電線およびそれを用いたコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、導体上に絶縁塗料を塗布し、焼付けして得られる絶縁皮膜を有し、前記絶縁皮膜が分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなることを特徴とする絶縁電線である。
【0011】
請求項2の発明は、前記絶縁皮膜は、ガラス転移温度(Tg)が250℃以上であり、250℃における弾性率が100MPa以上である請求項1に記載の絶縁電線である。
【0012】
請求項3の発明は、前記絶縁皮膜は、3つ以上の芳香環を有すると共に連結基として1つ以上のエーテル結合を有するジアミン成分(A)を、分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物(B)に対して、2モル%〜20モル%の割合で過剰に配合して得られるポリイミド樹脂からなる請求項1又は2に記載の絶縁電線である。
【0013】
請求項4の発明は、前記テトラカルボン酸二無水物(B)は、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる請求項3に記載の絶縁電線である。
【0014】
請求項5の発明は、前記ジアミン成分(A)は、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS−M)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる請求項3に記載の絶縁電線である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁電線を用いて形成されたコイルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、高温環境下でも部分放電開始電圧が高く、可とう性などの機械的特性も良好な絶縁電線およびそれを用いたコイルを提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0018】
本発明は、導体上に絶縁塗料を塗布し、焼付けして得られる絶縁皮膜を有し、前記絶縁皮膜が分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなる絶縁電線である。
【0019】
本発明では、上記したように絶縁皮膜を分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂で構成することで、このイミン結合が架橋成分となるために、低誘電率化による耐熱性や可とう性の低下を抑制することができることを見出した。これにより、コイルを成形する際の曲げ加工に耐えうる可とう性などの機械的特性を維持しながら、高温環境下においても高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線を得ることができる。
【0020】
また本発明は、高温(例えば220℃)でも部分放電開始電圧の高い絶縁皮膜(例えば、220℃で950Vp以上/50μmで、常温(23℃)の部分放電開始電圧に対し、85%以上の部分放電開始電圧を有する)が得られると共に、可とう性の良好な絶縁皮膜を有する絶縁電線およびそれを用いたコイルである。
【0021】
本発明の絶縁皮膜を構成するポリイミド樹脂としては、3つ以上の芳香環を有すると共に連結基として1つ以上のエーテル結合を有するジアミンからなるジアミン成分(A)を、分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物からなるテトラカルボン酸二無水物成分(B)に対して、2モル%以上20モル%以下の割合で過剰に配合して得られるポリイミド樹脂がよい。
【0022】
つまり、本発明の絶縁皮膜は、上記したジアミン成分(A)と上記したテトラカルボン酸二無水物成分(B)とがモル比率(モル%)で「(A)/(B)=102/100〜120/100」の割合で配合したポリイミド樹脂前駆体により得られるポリイミド樹脂であることがよい。
【0023】
このような割合でジアミン成分(A)がテトラカルボン酸二無水物成分(B)よりも過剰量となるように配合したポリイミド樹脂前駆体を用いることにより、このようなポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料が塗布された導体を焼付炉にて焼付けした際に、ジアミン成分(A)とテトラカルボン酸二無水物成分(B)とを合成した際に反応しなかった過剰量分のジアミン成分(A)が、導体上に塗布された絶縁塗料を焼付けして絶縁皮膜とする時の熱によってテトラカルボン酸二無水物成分(B)に含まれるカルボニル基とイミン結合し、架橋成分となる。これにより、上述したように、コイルを成形する際の曲げ加工に耐え得る可とう性などの機械的特性を維持しながら、高温環境下においても高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線を得ることができる。
【0024】
上記のポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を用いて形成された分子構造中にイミン結合結合を有する絶縁皮膜は、ガラス転移温度(Tg)が250℃以上であり、250℃における弾性率が100MPa以上である。このようなガラス転移温度、弾性率を有することにより、絶縁皮膜が熱によって軟化しにくく、高温環境下において部分放電開始電圧が低下する割合を小さくすることができる。
【0025】
ジアミン成分(A)のテトラカルボン酸二無水物成分(B)に対する過剰量が2モル%未満であると、イミン結合よりなる架橋成分が少ないために、高温環境下において高い部分放電開始電圧が得られないおそれがある。また、ジアミン成分(A)のテトラカルボン酸二無水物成分(B)に対する過剰量が20モル%より過剰であると、ポリイミド樹脂の分子量が低下するために、絶縁皮膜の機械的特性の低下につながるおそれがある。また、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を導体上に塗装する際の作業性(塗装作業性)の低下防止の観点から、ジアミン成分(A)の過剰量は上記範囲とすることが好ましい。
【0026】
ジアミン成分(A):
ジアミン成分(A)としては、3つ以上の芳香環を有すると共に連結基として1つ以上のエーテル結合を有するジアミンが用いられる。ジアミン成分(A)としては、3つ以上の芳香環を有するジアミンであることが、モノマーの分子量を大きくし、ポリイミド樹脂のイミド基濃度を低減させるのに有効に作用する。また、ジアミン成分(A)が連結基としてエーテル結合を有するジアミンであることが、絶縁皮膜の柔軟性(柔かさ)を向上させるのに有効に作用する。これらの作用により、部分放電開始電圧が高く、可とう性などの機械的特性も良好な絶縁皮膜を得ることができる。このようなジアミン成分(A)としては、例えば、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS−M)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)などのジアミンが挙げられる。これらのジアミンのうち1種を単独で用いるか、もしくは2種以上を併用してもよい。
【0027】
コスト、低誘電率化の観点から、分子量が大きく繰返し単位当たりのイミド基濃度の低減に有効な効果が得られる2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)をジアミン成分(A)として用いることがより好ましい。
【0028】
テトラカルボン酸二無水物成分(B):
テトラカルボン酸二無水物成分(B)(以下成分(B)という)としては、分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物が用いられ、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)などが挙げられる。
【0029】
溶剤:
ジアミン成分(A)と成分(B)とを合成反応させるときに用いる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やγ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられ、ポリイミド樹脂前駆体の合成反応を阻害しない溶剤を併用して合成しても良いし、希釈しても良い。また、希釈用途として芳香族アルキルベンゼン類などを併用しても良い。但し、ポリイミド樹脂の溶解性を低下させるおそれがある場合は考慮する必要がある。
【0030】
ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料:
ジアミン成分(A)を溶剤に溶解し、次いで成分(B)を配合し、窒素雰囲気下で攪拌することでポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料が得られる。
【0031】
絶縁電線の製造:
本形態に係る絶縁電線は、断面が丸形状、あるいは四角形状の導体の表面、または他の皮膜上に、上述したポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を塗布・焼付けして分子構造中にイミン結合を有する絶縁皮膜を形成して製造される。
【0032】
また、分子構造中にイミン結合を有する絶縁皮膜の上層に、潤滑性を付与するための潤滑付与層や耐傷性を付与する耐傷性付与層を形成してもよい。また、分子構造中にイミン結合を有する絶縁皮膜の下層で導体の直上に、導体と当該絶縁皮膜との密着性を向上させるための密着性付与層などを形成してもよい。
【0033】
導体は、銅導体やアルミ導体などが使用できる。特に、銅導体からなる場合には、主に無酸素銅や低酸素銅などが使用される。なお、導体にはこれに限定されるものではなく、例えば銅の外周にニッケルなどの金属めっきを施した導体も使用可能である。なお、断面が四角形状の導体は、角の部分が所定の曲率で湾曲して尖っていない形状のものも含むものとする。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例を比較例と併せて説明する。
【0035】
【表1】

【0036】
(塗料合成法と絶縁電線の作製)
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコに3つ以上の芳香環と連結基として少なくとも1つ以上のエーテル結合を有するジアミンからなるジアミン成分(A)と溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶剤に溶解させた。次いでテトラカルボン酸二無水物成分(B)を配合し、100rpm、窒素雰囲気下で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。
【0037】
また、得られたポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を、外径が0.8mmの導体上に塗布し、焼付けする工程を数回繰り返して厚さが50μmの絶縁皮膜を有する絶縁電線を得た。
【0038】
(絶縁電線の特性評価)
「部分放電開始電圧」
JISC3003に準拠する方法により、ツイストペアの絶縁電線のサンプルを作製した。次に、作製したサンプルの端部から10mmの位置までの絶縁皮膜を削って導体を露出させて端末処理部を形成した。測定は、恒温恒湿槽中に端末処理部が形成されたサンプルを設置し、各端末処理部に電極を接続し、温度220℃の雰囲気の場合と、温度23℃、湿度50%の雰囲気の場合のそれぞれで50Hzの電圧を10〜30V/sの割合で昇圧させながら、ツイストペアの絶縁電線に100pCの放電が1秒間に50回発生する電圧まで昇圧して行った。これを3回繰返し測定したそれぞれの値の平均値を部分放電開始電圧とした。また、温度23℃の場合の部分放電開始電圧に対する温度220℃の場合の部分放電開始電圧の比率を「残率」(%)とした。
【0039】
「耐軟化温度」
得られた絶縁電線から120mmのサンプルを2本切り出し、片側末端の絶縁皮膜を削った。それぞれを十字に交差し、6.9N(0.7kgf)の荷重をかけた状態で、東特塗料(株)製耐軟化試験機K7800に取り付け、電圧を印加した状態で、0.1℃/minの速度で昇温し、絶縁電線間で導通した時の温度を耐軟化温度とした。
【0040】
「可とう性」
可とう性試験は、「JISC 3003「7.1.1a」巻付け」に準拠した方法で絶縁電線を20%伸長して行った。その後、20%伸長した絶縁電線を、当該絶縁電線の導体径の1〜10倍の直径を有する巻き付け棒へ「JISC 3003「7.1.1a」巻付け」に準拠した方法で巻き付け、光学顕微鏡を用いて絶縁皮膜に亀裂の発生が見られない最小巻き付け倍径(d)を測定した。
【0041】
「弾性率(貯蔵弾性率)」
弾性率(貯蔵弾性率)の測定は、各実施例、比較例で使用したポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を用いて25μm(厚さ)×5mm×20mmのシート状の評価用絶縁皮膜を作製して行った。動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社、DVA−200)を用いて室温から400℃までを昇温速度10℃/minで昇温しながら、評価用絶縁皮膜の100Hz振動時の貯蔵弾性率を測定した。
【0042】
「ガラス転移温度」
ガラス転移温度(Tg)は、上記の貯蔵弾性率測定において、貯蔵弾性率が低下する変曲点の温度をガラス転移温度(Tg)として測定した。
【0043】
実施例1:
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコにジアミン成分(A)として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)563.7g(102モル%)、溶剤としてNMP3000gを配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶解させた。次いで分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物成分(B)として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)(成分(B))を436.5g(100モル%)を投入し、室温で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は102/100である。
【0044】
次に、外径が0.8mmの導体上に得られた絶縁塗料を塗布し、焼付けすることを繰り返して厚さが50μmであり、分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を形成した絶縁電線を得た。
【0045】
実施例2:
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコにジアミン成分(A)として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)582.1g(110モル%)、溶剤としてNMP3000gを配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶解させた。次いで分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物成分(B)として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)(成分(B))を418g(100モル%)投入し、室温で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は110/100である。
【0046】
次に、外径が0.8mmの導体上に得られた絶縁塗料を塗布し、焼付けすることを繰り返して厚さが50μmであり、分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を形成した絶縁電線を得た。
【0047】
実施例3:
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコにジアミン成分(A)として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)603.1g(120モル%)、溶剤としてNMP3000gを配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶解させた。次いで分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物成分(B)として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)(成分(B))を397.0g(100モル%)を投入し、室温で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は120/100である。
【0048】
次に、外径が0.8mmの導体上に得られた絶縁塗料を塗布し、焼付けすることを操り返して厚さが50μmであり、分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を形成した絶縁電線を得た。
【0049】
実施例4:
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコにジアミン成分(A)として4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)544.2g(105モル%)、溶剤としてNMP3000gを配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶解させた。次いで分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物成分(B)として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)(成分(B))を455.8g(100モル%)を投入し、室温で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は105/100である。
【0050】
次に、外径が0.8mmの導体上に得られた絶縁塗料を塗布し、焼付けすることを繰り返して厚さが50μmであり、分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を形成した絶縁電線を得た。
【0051】
実施例5:
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコにジアミン成分(A)として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)612.8g(125モル%)、溶剤としてNMP3000gを配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶解させた。次いで分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物成分(B)として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)(成分(B))を382.7g(100モル%)を投入し、室温で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は125/100である。
【0052】
次に、外径が0.8mmの導体上に得られた絶縁塗料を塗布し、焼付けすることを繰り返して厚さが50μmであり、分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を形成した絶縁電線を得た。
【0053】
比較例1:
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコにジアミン成分(A)として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)558.7g(100モル%)、溶剤としてNMP3000gを配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶解させた。次いで分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)(成分(B))を441.3g(100モル%)を投入し、室温で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は100/100である。
【0054】
次に、外径が0.8mmの導体上に得られた絶縁塗料を塗布し、焼付けすることを繰り返して厚さが50μmであり、分子構造中にイミン結合を有しないポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を形成した絶縁電線を得た。
【0055】
比較例2:
攪拌棒、窒素流入管を取り付けたフラスコにジアミン成分(A)として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)579.9g(105モル%)、溶剤としてNMP3000gを配合し、室温、100rpmで攪拌させ、ジアミンを溶解させた。次いで分子構造中にカルボニル基を有しないテトラカルボン酸二無水物成分(B)として4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)(成分(B))を420.1g(100モル%)を投入し、室温で24hr攪拌し、ポリイミド樹脂前駆体からなる絶縁塗料を得た。成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は105/100である。
【0056】
次に、外径が0.8mmの導体上に得られた絶縁塗料を塗布、焼付けを繰り返して厚さが50μmであり、分子構造中にイミン結合を有しないポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を形成した絶縁電線を得た。
【0057】
実施例1〜5は、220℃での部分放電開始電圧が960Vp以上と高く、残率も85%以上であり、また可とう性も良好である。これに対して比較例1はジアミン成分(A)が成分(В)に対して等しいモル量で配合されているとともに、架橋成分となるイミン結合が絶縁皮膜の分子構造中に存在していないことにより、部分放電開始電圧が908Vpと低くなったと考えられる。また比較例2は、成分(A)と成分(B)のモル比(成分(A)/成分(B))は105/100であるものの、分子構造中にカルボニル基を有しないテトラカルボン酸二無水物(ODPA)を用いているため、架橋反応が起きず、イミン結合が絶縁皮膜の分子構造中に存在していないことにより、部分放電開始電圧が低くなったと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体上に絶縁塗料を塗布し、焼付けして得られる絶縁皮膜を有し、前記絶縁皮膜が分子構造中にイミン結合を有するポリイミド樹脂からなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記絶縁皮膜は、ガラス転移温度(Tg)が250℃以上であり、250℃における弾性率が100MPa以上である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁皮膜は、3つ以上の芳香環を有すると共に連結基として1つ以上のエーテル結合を有するジアミン成分(A)を、分子構造中にカルボニル基を有するテトラカルボン酸二無水物成分(B)に対して、2モル%以上20モル%以下の割合で過剰に配合して得られるポリイミド樹脂からなる請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記テトラカルボン酸二無水物成分(B)は、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記ジアミン成分(A)は、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS−M)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁電線を用いて形成されたコイル。

【公開番号】特開2013−98074(P2013−98074A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241094(P2011−241094)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】