説明

絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】十分な耐熱寿命性を有し、従来よりも挿入性に優れる絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供すること。
【解決手段】導体と、この導体の外周に被覆された絶縁材を有する絶縁電線であって、絶縁材は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、トリメリット酸系可塑剤を30〜35質量部含有する樹脂組成物より形成されている。そして、この絶縁材は導体との密着力が10N以上で被覆されている。また、導体の断面積は0.22mm以下であることが好ましい。そして、この絶縁電線を含むワイヤーハーネスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、車両部品、電気・電子機器部品などに好適に用いられる絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線としては、導体の外周に、塩化ビニル系樹脂組成物を被覆したものが広く用いられている。一般に、絶縁電線に被覆される塩化ビニル系樹脂組成物には、柔軟性を付与するために可塑剤が配合されることが多い。可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチルやフタル酸ジイソノニルなどのフタル酸エステル系可塑剤が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、塩化ビニル系樹脂組成物にフタル酸エステル系可塑剤を含有してなる絶縁材を芯線の周囲に被覆した絶縁電線が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−147632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、自動車などに用いられる絶縁電線は、エンジンルーム内など、環境温度の高い場所に使用される場合があり、耐熱寿命性が要求されることがある。
【0006】
ところが、上記フタル酸エステル系可塑剤などは、高温下において揮発しやすく、柔軟性や伸びが損なわれて耐熱寿命性が低下しやすかった。そのため、耐熱寿命性が要求される絶縁電線には、可塑性や熱安定性が比較的高いトリメリット酸系可塑剤が用いられることがある。
【0007】
しかしながら、耐熱寿命性を高めた絶縁電線では、トリメリット酸系可塑剤が多く配合されているため、柔軟性は高くなるものの、却って曲げ反発力が低下しやすい。特に径の細い絶縁電線では、コネクタに絶縁電線を挿入する際に、座屈しやすく挿入性が悪くなるといった問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、十分な耐熱寿命性を有し、従来よりも挿入性に優れる絶縁電線を提供することにある。また、この絶縁電線を含んだワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る絶縁電線は、導体と、上記導体の外周に被覆された絶縁材を有する絶縁電線であって、上記絶縁材は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、トリメリット酸系可塑剤を30〜35質量部含有する樹脂組成物より形成されており、さらに、上記絶縁材は上記導体との密着力が10N以上で被覆されていることを要旨とするものである。
【0010】
この場合、上記導体の断面積が0.22mm以下であると良い。
【0011】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含むことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る絶縁電線は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、トリメリット酸系可塑剤を30〜35質量部含有する樹脂組成物より形成された絶縁材を有しており、さらにこの絶縁材は導体との密着力が10N以上で被覆されている。そのため、十分な耐熱寿命性を有し、従来よりも挿入性に優れる。これは、従来よりもトリメリット酸系可塑剤の配合量を少なくし、さらに絶縁材と導体との密着力を高くしたため、絶縁電線の曲げ反発力を維持することができ、座屈し難くなったためと推察される。
【0013】
この場合、上記導体の断面積が0.22mm以下であれば、上記効果に優れる。
【0014】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上述した絶縁電線を有している。そのため、ワイヤーハーネス組み立て時に、絶縁電線のコネクタ挿入が容易であって、絶縁電線が座屈するのを抑えることができる。そして、十分な耐熱寿命性を有し、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周に被覆された絶縁材とを有している。また、絶縁材は、塩化ビニル系樹脂とトリメリット酸系可塑剤とを含む樹脂組成物より形成されている。
【0017】
導体は、例えば、単線の金属線、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線、撚線が圧縮加工されたものなどが挙げられる。また、導体の材質としては、例えば、軟銅、錫メッキ軟銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを例示することができる。
【0018】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体のほか、塩化ビニル系共重合体、さらにこれらの混合体などを用いることができる。塩化ビニル系共重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸およびそのエステル類、メタクリル酸およびそのエステル類、マレイン酸およびそのエステル類等との共重合体などを用いることができる。
【0019】
トリメリット酸系可塑剤は、上記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30〜35質量部の割合で含有されている。トリメリット酸系可塑剤が30質量部未満になると、耐熱寿命性の低下を抑制することが難しい。また、トリメリット酸系可塑剤が35質量部を越えると、曲げ反発力が低下して、コネクタに絶縁電線を挿入し難くなる。
【0020】
トリメリット酸系可塑剤としては、例えば、トリメリット酸との通常のエステル化法によりエステル化して得られるトリメリット酸エステルを好適に用いることができる。トリメリット酸エステルは、耐熱寿命性が高く、また、塩化ビニル系樹脂に対する親和性にも優れるからである。トリメリット酸エステルとしては、例えば、テトラ−2−エチルヘキシルピロメリテート、テトラ−n−オクチルピロメリテート、テトライソノニルピロメリテート、テトライソデシルピロメリテートなどを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0021】
そして、絶縁材は、導体の外周に10N以上の密着力で被覆されている。導体との密着力が10N未満になると、絶縁電線に腰を持たせることが難しく、挿入性を向上させることができないからである。なお、導体との密着力の上限は特に限定されないが、柔軟性の観点から、好ましくは、20N以下であると良い。導体との密着力は、ISO6722に準拠して測定することができる。
【0022】
さらに、絶縁材には、上記以外にも例えば他に、難燃剤、着色剤、熱安定剤(酸化防止剤、老化防止剤など)、金属不活性剤(銅害防止剤など)、光安定剤、造核剤、帯電防止剤、難燃助剤(シリコン系、窒素系、ホウ酸亜鉛、リン系など)、カップリング剤(シラン系、チタネート系など)、亜鉛系化合物(酸化亜鉛、硫化亜鉛など)などの各種添加剤が1種または2種以上添加されていても良い。
【0023】
次に、絶縁電線の製造方法の一例について説明する。
【0024】
まず、絶縁材を形成する樹脂組成物を調製する。塩化ビニル系樹脂と、トリメリット酸系可塑剤と、必要に応じて、塩化ビニル系樹脂以外のポリマーや各種添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
そして、例えば、押出成形機を用いて、導体の外周に樹脂組成物を押出被覆するなどすれば絶縁電線を製造することができる。このとき、あらかじめ予熱した導体の外周に樹脂組成物を押出被覆すれば、10N以上の密着力が得られやすい。さらに、樹脂組成物を押出する際の射出圧力や、押出成形機のダイスのサイズを調整することによっても、導体との密着力を高めることができる。また、導体の断面積が、0.22mm以下の細径電線であれば、挿入性の効果により優れる。そして、導体の断面積の下限は特に限定されないが、製造上の観点から、好ましくは0.13mm以上であると良い。
【0026】
次に、本発明に係るワイヤーハーネスについて説明する。
【0027】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含んでなるものである。上記絶縁電線のみで構成される電線束であっても良いし、他の樹脂組成物が被覆された絶縁電線、例えば、オレフィン系の絶縁電線などを含んで構成される電線束であっても良い。電線束は、例えばワイヤーハーネス保護材により被覆されていると良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0028】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではない。樹脂組成物には、難燃剤を適宜添加すると良い。
【0029】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0031】
(供試材料)
本実施例において使用した供試材料の製造元、商品名を示す。
【0032】
(A)塩化ビニル系樹脂
・大祐化成(株)製、商品名「#4352A」
【0033】
(B)トリメリット酸系可塑剤
・大日本インキ工業(株)製、商品名「Wー750」
【0034】
(絶縁電線の作製)
初めに、二軸混練機を用いて、後述の表に示す各成分を混合温度160度にて混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して樹脂組成物を得た。次いで、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.22mm)をあらかじめ予熱し、この導体の外周に、得られた各樹脂組成物を押出成形機により、0.3mm厚で押出被覆して絶縁材を形成し、本実施例に係る絶縁電線および比較例に係る絶縁電線を作製した。
【0035】
そして、以上のように作製した各絶縁電線について、挿入性試験、耐熱寿命性試験を実施した。以下に、密着力および各試験方法について説明する。
【0036】
(密着力の測定)
ISO6722に準拠して行なった。すなわち、電線を75mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、この試験片の片端25mmを固定し、残り50mmの絶縁材を引張速度200m/minにて剥ぎ取る際に絶縁材が導体からずれた時の荷重を密着力の値とした。
【0037】
(挿入性試験)
電線端部に、電線の長手方向に沿って縮める方向へ力を加え、電線が座屈した時の荷重の値を測定し、この値が10N以上となるものを「合格」とし、10N未満のものを「不合格」とした。
【0038】
(耐熱寿命性試験)
電線から導体を抜き取った絶縁材を試験片とし、この試験片を温度130〜150℃に設定した恒温槽内につり下げ、130度で2000時間および150度で300時間加熱した後取り出し、常温に放置した後、引張試験機により伸び率を測定し、アレニウス曲線を作成した。この曲線から、110度で1万時間後の伸びの値が100%を越えるものを「合格」、100%未満のものを「不合格」とした。
【0039】
表1に、絶縁材を形成する樹脂組成物の配合割合および評価結果を示す。なお、表1に示す値は、質量部で表したものである。
【0040】
【表1】

【0041】
上記表1によれば、比較例に係る絶縁電線は、挿入性、耐熱寿命性のどちらかまたは両方に難点があることがわかる。
【0042】
すなわち、比較例1は、トリメリット酸系可塑剤が30質量部未満であり、密着力も10N未満であるため、挿入性および耐熱寿命性に劣る。比較例2は、トリメリット酸系可塑剤が30質量部未満であるため、耐熱寿命性に劣る。
【0043】
また、比較例3、4、5は、密着力が10N未満であるため、挿入性に劣る。比較例6および8は、トリメリット酸系可塑剤が35質量部を越えており、密着力も10N未満であるため、挿入性に劣る。比較例7および9は、トリメリット酸系可塑剤が35質量部を越えているため、挿入性に劣る。
【0044】
これらに対して、実施例に係る絶縁電線は、トリメリット酸系可塑剤が塩化ビニル系樹脂100質量部に対し30〜35質量部配合されており、さらに、密着力が10N以上であるので、挿入性および耐熱寿命性のいずれにも優れていることが確認できた。
【0045】
また、密着力が10N未満になると、可塑剤の配合割合に関係なく、挿入力が急激に減少した。密着力が10〜20Nの範囲では、可塑剤の配合割合に関係なく挿入力にそれほど差がみられなかった。そして、絶縁材は導体との密着力が10Nで十分に密着されているため、密着力をさらに上げても、挿入力にそれほど差がみられなかった。
【0046】
なお、実施例および比較例に係る絶縁電線をコネクタに接続したところ、比較例1および比較例3〜9の絶縁電線では、挿入時に座屈してしまい、挿入性が悪かった。一方、実施例1〜3に係る絶縁電線では、挿入時に座屈することなく、容易にコネクタに接続することができた。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周に被覆された絶縁材を有する絶縁電線であって、
前記絶縁材は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、トリメリット酸系可塑剤を30〜35質量部含有する樹脂組成物より形成されており、
さらに、前記絶縁材は前記導体との密着力が10N以上で被覆されていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記導体の断面積が0.22mm以下であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2010−55925(P2010−55925A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219436(P2008−219436)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】