説明

絶縁電線および電子機器でのその使用

本発明は、導電性芯線および導電性芯線を取り囲む難燃性熱可塑性組成物からなる絶縁層および/または絶縁外被を含む、電子機器用の絶縁電線であって、難燃性熱可塑性組成物が、(A)コポリエステルエラストマーおよび/またはコポリアミドエラストマーを含む熱可塑性ポリマーと、(B)式[RP(O)O]m+(式I)のホスフィン酸金属塩および/または式[O(O)PR−R−PR(O)O]2−m+(式II)のジホスフィン酸金属塩および/またはそのポリマーであって、RおよびRが、水素、直鎖、分岐および環状のC1〜C6の脂肪族基、および芳香族基からなる群から選択される同じかまたは異なる置換基であり、Rが直鎖、分岐および環状のC1〜C10の脂肪族基およびC6〜C10の芳香族および脂肪族−芳香族基からなる群から選択され、MがMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、およびKからなる群から選択される金属であり、さらにm、nおよびxが1〜4の範囲の同じかまたは異なる整数であるものと、(C)窒素含有の難燃相乗剤および/またはリン/窒素含有の難燃剤からなる難燃性成分と、(D)塩基性酸化物、両性酸化物、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、スズ酸塩、混合酸化物−水酸化物、酸化物−水酸化物−炭酸塩、水酸化物−ケイ酸塩および水酸化物−ホウ酸塩、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される無機化合物とを含む、電子機器用の絶縁電線に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、導電性芯線とその導電性芯線を取り囲む絶縁層とを含む、電子機器用の絶縁電線に関する。
【0002】
さらに詳細には、本発明は、優れた機械的特性、柔軟性、耐湿性、耐熱性および難燃性を有する電子機器用の絶縁電線に関する。
【0003】
電気/電子機器などの内部および外部配線に使用される絶縁電線、ケーブル、およびコードは、難燃性、耐熱性、および機械的特性(例えば、引張特性および耐摩耗性)を含め、さまざまな特性を有していることが求められる。電気/電子機器の配線材料に求められる、例えば、難燃性、耐熱性、および機械的特性(例えば、引張特性および耐摩耗性)の規格は、UL、JISなどで定められている。特に、難燃性に関して、その試験方法は求められているレベル(適用されるその用途)などによって異なる。それゆえに、実用上、少なくとも求められているレベルに準じた難燃性を材料が有していれば十分である。例えば、UL 1581(電線、ケーブル、および柔軟コードの参照規格)で定められた垂直燃焼試験(VW−1)、あるいはJIS C 3005(ゴム/プラスチック絶縁電線試験法)で定められた水平試験(horizontal test)および傾斜試験に合格するそれぞれの難燃性を挙げることができる。さらに、電気/電子機器に使用される配線材料は、連続使用時に、ときには80〜105℃、さらには125℃の耐熱性を有することが求められる。
【0004】
従来、こうした配線材料に使用される被覆材料として、可塑剤、重金属安定剤、および臭素原子および/または塩素原子含有の難燃添加剤を含むポリ塩化ビニル(PVC)化合物が用いられた。しかしこうした材料では、適切に処理せずに電線を廃棄するかまたは埋めた場合に、可塑剤および/または重金属安定剤がしみ出るか、あるいはそれらを燃やした場合にはハロゲンから有毒ガスが生じるので、環境問題が起こる。
【0005】
PVC化合物が問題化するにつれ、ポリオレフィンコポリマーと、金属水和物(metal hydrate)および任意選択的に赤リン(red phosphorous)を含むハロゲンフリーの難燃剤系とを含むハロゲンフリーの化合物が、絶縁配線材料として使用された。赤リンは金属水和物を減らすことができるようにするために使用された。金属水和物は、単独で使用する場合、機械的性質が損なわれてしまうほど多量に添加しなければならないからである。しかし、リンを含有する難燃性材料の場合、難燃性材料を燃やすと、リンによって有毒煙霧が生じうるし、一方で難燃性材料を廃棄すると、リンによる富栄養化によって水生環境が汚染されうるという点で、別の問題が生じた。その上、電線およびケーブルにカラーコードを付与しなければならない場合は、赤リンを使用できない。
【0006】
耐熱性の要求条件を満たすには、電子ビーム架橋法または化学架橋法で被覆材料を架橋する。配線材料に高度の耐熱性を付与するためには、または高融点のもの(高融点のポリプロピレンなど)を含む分離材料を使用する。しかし、架橋では絶縁材料の溶融が妨げられ、そのためリサイクル性が制限される一方、架橋手段(特別の添加剤を用いて化学的に行うか、または電子ビーム架橋装置などの特別の装置を用いる)では電線のコストが増大する。一方、ポリプロピレンなどの樹脂を使用する場合、柔軟性が乏しく、そのような樹脂で被覆された配線材料を曲げると、表面が白くなる現象が起こる。
【0007】
電子機器に使用される電子機器配線は、UL規格の特に厳しい垂直難燃性(vertical fire−retardancy)規格(UL1581 VW−1)で定められた要求条件を満たすことが求められている。しかし、被覆材料が、ポリプロピレン樹脂などの高融点を有する上記の樹脂(金属水和物が多量に加えられる)で構成されていたとしても、被覆材料の難燃性を大きく向上させることは難しく、したがって、それは厳しい難燃性規格である垂直難燃性規格で定められた要求条件を満たさない。
【0008】
家庭用電気器具に使用される電線の被覆材料も、例えば、UL規格で定められている力学的性質を満たすことが求められる。さらに具体的に言えば、伸び率が100%、引張り強さが10.3MPa以上であることが求められる。特に電源コードの被覆材料は、良好な柔軟性を有することがさらに求められるが、これは束ねた状態で電源コードが輸送されるからである。
【0009】
上記の問題は米国特許第6,414,059B1号明細書で扱われており、その特許では、絶縁層が部分架橋された熱可塑性難燃性樹脂組成物で構成され、ブロックコポリマーとエチレン系コポリマーとのブレンドを含む100重量部の樹脂成分と、有機過酸化物および(メタ)アクリレート系列および/またはアリル系列の架橋助剤からなる少量の架橋系と、他の任意選択成分を別にして、少なくとも部分的にシランカップリング剤で前処理された金属水和物を含む50〜300pbwの難燃剤系とを含む組成物から作られた絶縁電線を、解決策として提供している。ブロックコポリマーは、少なくとも2種類のポリマーブロックA(主に構成成分としてのビニル芳香族化合物でできている)および少なくとも1種のポリマーブロックB(主に構成成分としての共役ジエン化合物でできている)、および/またはブロックコポリマーを水素化して得られる水素化ブロックコポリマーで構成されているブロックコポリマーである。
【0010】
米国特許第6,414,059B1号明細書の周知の絶縁電線における絶縁層の組成物は一般に、非常に大量の難燃剤(典型的には、100重量部の樹脂成分を基準にして100〜250pbwの範囲)を含むものであり、良好な均質ブレンドを得、熱可塑性を保ちつつ部分的に架橋させるための特別な調製を必要とする。大量の難燃剤があると、調製時(均質ブレンドと架橋の両方に影響を及ぼしうる)においても、導電性芯線上への絶縁層の押出しコーティングの間においても、加工が面倒になる。
【0011】
大量の難燃剤がある場合の別の欠点は、モジュラスが増大するという点で絶縁層の機械的性質が影響を受けることである。これは、高い柔軟性および低い剛性が求められる携帯電話の充電器用ケーブルなどの用途の場合に問題となる。また相当量の架橋が行われると、絶縁層の柔軟性が減少しうる。
【0012】
含んでいる難燃剤の総量が少ない絶縁ケーブル外被用の他の難燃性材料は、典型的には赤リンを1種または複数種の他の難燃剤と一緒に含む。例えば、国際公開第9220731号パンフレットは、赤リンおよびリン酸アンモニウムまたはリン酸アミンの混合物について記載しており、国際公開第200175907号パンフレットは赤リンメラミン、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムおよびゼオライトの混合物について記載している。赤リンの使用は、化合物を赤色にすることに加え、有毒煙霧を生じうるため、議論の余地がないわけではない。
【0013】
本発明の目的は、UL規格の垂直難燃性規格(UL1581 VW−1)に適合し、かつ周知の組成物における問題がないかまたはその程度が少なくなっている、導電性芯線とその導電性芯線を取り囲むハロゲンフリーの難燃性熱可塑性組成物からなる絶縁層とを含む、電子機器用の絶縁電線を提供することである。さらにまた、この絶縁電線は良好な耐加水分解性(hydrolytical resistance)を有するに違いない。
【0014】
この目的は、請求項1に記載の本発明による難燃性熱可塑性組成物からなる絶縁層および/または外被を含む絶縁電線であって、難燃性熱可塑性組成物が、
(A)コポリエステルエラストマー(TPE−E)および/またはコポリアミドエラストマー(TPE−A)を含む熱可塑性ポリマーと、
(B)ホスフィン酸の金属塩および/またはジホスフィン酸(diphosphinic acid)の金属塩、および/またはそのポリマーと、
(C)窒素含有の難燃相乗剤(flame retardant synergist)および/またはリン/窒素含有の難燃剤からなる難燃性成分と、
(D)無機化合物と
を含む絶縁電線によって達成された。
【0015】
前記難燃性エラストマー熱可塑性組成物からなる、本発明による絶縁電線の絶縁層および/または外被の効果は、絶縁電線が、低モジュラスおよび高柔軟性の点で非常に優れた機械的性質を示す一方、UL 1581 VW−1規格に準拠した難燃特性(flame retardancy properties)を有することである。前記難燃性熱可塑性組成物は容易に加工することができ、かつ絶縁電線はうまく製造することができ、さらに再利用が容易である。そのうえ、この新規の絶縁電線は良好な加水分解性(hydrolytical properties)を示す。
【0016】
UL 1581 VW−1規格に準拠した難燃性のこの効果は、成分(B)〜(D)が比較的少量(すなわち、例えばUL−V−0等級を得るのに必要な最低レベルよりはるかに低いレベル)だけ存在する場合にすでに得られる。TPE−Eおよび/またはTPE−Aも含み、さらに他のハロゲンフリーの難燃剤(例えば、メラミンシアヌレート)を含む難燃性熱可塑性組成物では、難燃剤のレベルをUL−V−0等級に適合するように調節できるが、そのレベルはUL 1581 VW−1規格に適合するにはまだ十分ではないという事実を特に考慮すると、この結果は非常に意外なことである。UL−V−0を満たすメラミンシアヌレートの最低限のレベル(UL 1581 VW−1にはまだ達しない)は、UL 1581 VW−1規格に十分適合するのに必要な本発明による絶縁電線の難燃性エラストマー熱可塑性組成物で使用される難燃剤系のレベルよりもかなり高い。難燃性エラストマー組成物の更なる利点は、その柔軟性が非常に高いこと(E−モジュラスが低いことで示される)である。このE−モジュラスの低さは、難燃性熱可塑性組成物内のTPE−Eおよび/またはTPE−Aに起因しうるが、難燃剤系が存在するという事実にもかかわらず柔軟性が十分に保持されているという意外な事実のためでもある。これは、本発明による絶縁電線の難燃剤系と同量を使用した場合に、TPE−Eおよび/またはTPE−Aの元の曲げ弾性率をさらにひどく損なってしまう他の難燃剤系(メラミンシアヌレートなど)とは対照的である。組成物がUL−V−0に適合することはもちろんのこと、可能であればとにかくUL 1581 VW−1に適合するであろうレベルまでメラミンシアヌレートの量を引き上げざるを得ないとしたら、この悪影響は有害なレベルにまで増大することであろう。
【0017】
電気ケーブルで絶縁層または外被として用いるのに適していると主張されている難燃性熱可塑性組成物は多くあり、そのほとんどがUL−V−2、UL−V−1またはUL−V−0等級に適合する難燃性を有している。しかし、UL 1581 VW−1に適合しているものは、仮にあったとしても一般に報告されていない。
【0018】
TPE−Eおよび/またはTPE−Aを含むハロゲンフリーの難燃性熱可塑性組成物からなる絶縁層および/または外被を含む電気ケーブルが、例えば、欧州特許出願公開第376237A号明細書、国際公開第9220731A1号パンフレット、欧州特許出願公開第831120A1号明細書、国際公開第200175907A1号パンフレットから知られている。欧州特許出願公開第376237A号明細書は、多量のポリアミド、少量の熱可塑性ポリエステルエラストマー、および(難燃剤としての)メラミンシアヌレート、および任意選択的に繊維状または粒状の充填剤からなる組成物について記載している。こうした組成物は、間違いなく柔軟な組成物ではない。国際公開第9220731A1号パンフレットは、ポリエーテルエステルおよび赤リンとリン酸アンモニウムとの組合わせを含んだ組成物を難燃剤として記載している。この組成物はトリアリルシアヌレートをさらに含み、これは成形後に照射される。欧州特許出願公開第831120A1号明細書の難燃性熱可塑性組成物は、熱可塑性ポリマー(挙げられている多くのものの中にポリエーテル/ポリエステルコポリマーがあるが、明確にコポリエーテルエステルエラストマーではない)、および水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、リン化合物および窒素化合物を含む難燃剤系を含んでいる。国際公開第200175907A1号パンフレットの難燃性熱可塑性組成物の場合、任意選択的にポリエーテル/ポリエステルであるが、好ましくはポリプロピレンである熱可塑性ポリマーが使用される。前記組成物中の難燃剤系は、メラミンまたはその誘導体、赤リン、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムまたは水和酸化物およびゼオライトを含む。引用したどの特許出願も、UL 1581 VW−1の電気ケーブルの性能についても、本発明による電気ケーブルに含まれる難燃剤系についても記載しておらず、まして本発明で得られるUL 1581 VW−1試験におけるその効果については記載していない。
【0019】
式(I)の塩および/または(II)の塩および/またはそれらのポリマーと、窒素含有の相乗剤および/またはリン/窒素含有の難燃剤とを含む難燃性熱可塑性組成物、ならびに塩基性または両性化合物をさらに含むそのような組成物も、例えば、欧州特許出願公開第454948A1号明細書から知られている。この特許出願では、熱可塑性ポリマーとして、ポリエステルおよびポリアミド(好ましくはポリアミド)を含むさまざまなポリマーが挙げられている。例として、特にガラス繊維強化ポリアミドがある。欧州特許出願公開第454948A1号明細書は、TPE−Eおよび/またはTPE−Aを含む柔軟な組成物についても、電気ケーブルについても開示しておらず、TPE−Eおよび/またはTPE−Aを含む電気ケーブルについてはなおさらである。欧州特許出願公開第454948A1号明細書は電気ケーブルに関するものではなく、UL 1581 VW−1規格に従った試験結果について記載しておらず、まして本発明による電気ケーブルにおけるエラストマー組成物中の難燃剤の効果およびその性質についてはなおさらである。
【0020】
本発明による絶縁電線の難燃性熱可塑性組成物に含まれる熱可塑性ポリマー(A)は、コポリエステルエラストマー(TPE−E)および/またはコポリアミドエラストマー(TPE−A)を含む。コポリエステルエラストマーおよびコポリアミドエラストマーは、それぞれポリエステルセグメントまたはポリアミドセグメントからなるハードブロック(hard blocks)と別のポリマーのセグメントからなるソフトブロック(soft blocks)とを含む、ゴム状弾性を有する熱可塑性ポリマーである。そのようなポリマーは、ブロックコポリマーとしても知られている。コポリエステルエラストマーのハードブロック中のポリエステルセグメントは一般に、少なくとも1種のアルキレンジオールと少なくとも1種の芳香族または脂環式のジカルボン酸とから得られる反復単位で構成される。コポリアミドエラストマーのハードブロック中のポリアミドセグメントは一般に、少なくとも1種の芳香族および/または脂肪族のジアミンおよび少なくとも1種の芳香族または脂肪族のジカルボン酸、およびまたは脂肪族アミノカルボン酸から得られる反復単位で構成される。
【0021】
ハードブロックは典型的には、室温よりかなり高い溶融温度またはガラス温度(該当する場合)を有するポリエステルまたはポリアミドから構成され、実に300℃かまたはさらにもっと高い温度であってもよい。好ましくは、溶融温度またはガラス温度は少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも170℃またはさらには少なくとも190℃である。さらにより好ましくは、ハードブロックの溶融温度またはガラス温度は、200〜280℃、さらには220〜250℃の範囲内にある。ソフトブロックは典型的には、室温よりかなり低いガラス転移温度を有する非晶質ポリマーのセグメントで構成され、そのガラス転移温度は実に−70℃かさらにもっと低い温度であってもよい。好ましくは、非晶質ポリマーのガラス温度は0℃以下、より好ましくは−10℃以下、さらには−20℃以下である。さらにより好ましくは、ソフトブロックのガラス温度は、−20〜−60℃、さらには−30〜−50℃の範囲内である。
【0022】
好適には、コポリエステルエラストマーは、コポリエステルエステルエラストマー、コポリカーボネートエステルエラストマー(copolycarbonateester)、および/またはコポリエーテルエステルエラストマーである。すなわちそれぞれポリエステル、ポリカーボネートまたはポリエーテルからなるソフトブロックを有するコポリエステルブロックコポリマーである。好適なコポリエステルエステルエラストマーについては、例えば、欧州特許第0102115B1号明細書に記載されている。好適なコポリカーボネートエステルエラストマーについては、例えば、欧州特許第0846712B1号明細書に記載されている。コポリエステルエラストマーは、例えば、オランダ国のDSM Engineering Plastics B.V.からArnitelという商品名で入手可能である。コポリアミドエラストマーはコポリエーテルアミドエラストマーであるのが好適である。コポリエーテルアミドエラストマーは、例えば、仏国のEIf AtochemからPEBAXという商品名で入手可能である。
【0023】
好ましくは、難燃性熱可塑性組成物中のブロックコポリマーエラストマーは、コポリエステルエラストマーであり、より好ましくはコポリエーテルエステルエラストマーである。
【0024】
コポリエーテルエステルエラストマーは、少なくとも1種のポリアルキレンオキシドグリコール(polyalkylene oxide glycol)から得られるソフトセグメントを有する。コポリエーテルエステルエラストマーおよびその製造と性質は、当技術分野において知られており、例えば、Thermoplastic Elastomers,2nd Ed.,Chapter 8,Carl Hanser Verlag(1996)ISBN 1−56990−205−4,Handbook of Thermoplastics,Ed.O.Otabisi,Chapter 17,Marcel Dekker Inc.,New York 1997,ISBN 0−8247−9797−3、およびthe Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,Vol.12,pp.75−117(1988),John Wiley and Sons、およびそれらの中に挙げられている文献に詳細に記載されている。
【0025】
ポリエーテルエステルエラストマーのハードブロック中の芳香族ジカルボン酸は、好適には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および4,4−ジフェニルジカルボン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、芳香族ジカルボン酸はテレフタル酸を含み、より好ましくは、ジカルボン酸の全モル量を基準にして、その少なくとも50モル%、さらにより好ましくは少なくとも90モル%、または実にその全体がテレフタル酸からなる。
【0026】
ポリエーテルエステルエラストマーのハードブロック中のアルキレンジオールは、好適には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサメチレンジオール、1,4−ブタンジオール、ベンゼンジメタノール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、アルキレンジオールは、エチレングリコールおよび/または1,4−ブタンジオールを含み、より好ましくはアルキレンジオールの全モル量を基準にしてその少なくとも50モル%、さらにより好ましくは少なくとも90モル%、または実にその全体がエチレングリコールおよび/または1,4−ブタンジオールからなる。
【0027】
ポリエーテルエステルエラストマーのハードブロックは、もっとも好ましくはポリブチレンテレフタレートセグメントを含むか、さらにはポリブチレンテレフタレートセグメントから構成される。
【0028】
好適には、ポリアルキレンオキシドグリコールは、オキシラン誘導体、オキセタン誘導体および/またはオキソラン誘導体をベースにしたホモポリマーまたはコポリマーである。ポリアルキレンオキシドグリコールのベースとなりうる好適なオキシラン誘導体の例として、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドがある。対応するポリアルキレンオキシドグリコールホモポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、またはポリエチレンオキシドグリコール(またPEGまたはpEOと略される)、およびポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドグリコール(またはPPGまたはpPOと略される)という名前でそれぞれ知られている。ポリアルキレンオキシドグリコールのベースとなりうる好適なオキセタンの例は、1,3−プロパンジオールである。対応するポリアルキレンオキシドグリコールホモポリマーは、ポリ(トリメチレン)グリコールという名前で知られている。ポリアルキレンオキシドグリコールのベースとなりうる好適なオキソランの例は、テトラヒドロフランである。対応するポリアルキレンオキシドグリコールホモポリマーは、ポリ(テトラメチレン)グリコール(PTMG)またはポリテトラヒドロフラン(PTHF)という名前で知られている。ポリアルキレンオキシドグリコールコポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーまたはそれらの混合構造体であってよい。好適なコポリマーとして、例えば、エチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドブロックコポリマー(またはEO/POブロックコポリマー)、特にエチレンオキシド末端ポリプロピレンオキシドグリコールがある。
【0029】
ポリアルキレンオキシドは、アルキレンジオールまたはアルキレンジオール混合物または低分子量ポリアルキレンオキシドグリコールまたは前述のグリコール類の混合物の、エーテル化生成物をベースにすることもできる。
【0030】
好ましくは、本発明による絶縁電線の難燃性熱可塑性組成物に用いるポリアルキレンオキシドグリコールは、ポリプロピレンオキシドグリコールホモポリマー(PPG)、エチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドブロックコポリマー(EO/POブロックコポリマー)およびポリ(テトラメチレン)グリコール(PTMG)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0031】
熱可塑性ポリマー(A)は、コポリエステルエラストマーおよび/またはコポリアミドエラストマーのほかに、1種または複数種の他の熱可塑性ポリマーを含んでもよい。好適な他の熱可塑性ポリマーとして、例えば、ポリエステル、ポリアミドおよびポリカーボネートがある。他の熱可塑性ポリマーは、好適には、UL 1581 VW−1に従った難燃特性が維持され、かつ機械的性質が意図した絶縁電線の用途の要求条件に一致するレベルに保持されるような量で存在する。
【0032】
好ましくは、難燃性熱可塑性組成物に含まれる熱可塑性ポリマー(A)は、(A)の全重量を基準にして、その少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%が、コポリエステルエラストマーおよび/またはコポリアミドエラストマーの全体量から構成される。
【0033】
難燃性熱可塑性組成物中の成分Bは、ホスフィン酸および/またはジホスフィン酸の金属塩またはその高分子誘導体からなり、それらの化合物はホスフィン酸金属(metal phosphinates)としても示される。この用語も、本明細書において同じ化合物を指すのにさらに用いられる。
【0034】
好適には、ホスフィン酸金属は、式[RP(O)O]m+(式I)のホスフィン酸の金属および/または式[O(O)PR−R−PR(O)O]2−m+(式II)のジホスフィン酸の金属、および/またはそのポリマーであり、式中、
− RおよびRは、水素、直鎖、分岐および環状のC1〜C6の脂肪族基、および芳香族基からなる群から選択される同じかまたは異なる置換基であり、
− Rは、直鎖、分岐および環状のC1〜C10の脂肪族基およびC6〜C10の芳香族および脂肪族−芳香族基からなる群から選択され、
− Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、およびKからなる群から選択される金属であり、さらに
− m、nおよびxは、1〜4の範囲の同じかまたは異なる整数である。
【0035】
本発明中の成分Bとして使用できる好適なホスフィン酸金属については、例えば、独国特許出願公開第2252258号明細書、独国特許出願公開第2447727号明細書、PCT/国際公開第97/39053号パンフレットおよび欧州特許第0932643B1号明細書に記載されている。好ましいホスフィン酸塩は、ホスフィン酸アルミニウム、ホスフィン酸カルシウムおよびホスフィン酸亜鉛(すなわち、金属MがそれぞれAl、Ca、Znであるホスフィン酸金属)およびそれらの組合わせである。RおよびRが同じであるかまたは異なっており、かつH、直鎖または分岐のC〜Cのアルキル基、および/またはフェニルと等しいホスフィン酸金属も好ましい。特に好ましくは、R、Rは同じかまたは異なっており、水素(H)、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチルおよびフェニルからなる群からから選択される。より好ましくは、RおよびRは同じかまたは異なっており、H、メチルおよびエチルからなる置換基の群から選択される。
【0036】
また好ましくは、Rは、メチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレン、tert−ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレン、n−ドデシレン、フェニレンおよびナフチレンからなる群から選択される。
【0037】
極めて好ましくは、ホスフィン酸金属は、次リン酸塩および/またはC〜Cジアルキルホスフィン酸塩、より好ましくは次リン酸カルシウムおよび/またはC〜Cジアルキルホスフィン酸アルミニウム(すなわち、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウムおよび/またはジエチルホスフィン酸アルミニウム)を含む。
【0038】
難燃性エラストマー熱可塑性組成物中の窒素含有および窒素/リン含有の成分Cは、それ自体が難燃剤であり、かつ/またはホスフィン酸塩難燃剤用の難燃相乗剤である、任意の窒素含有または窒素およびリン含有の化合物であってよい。成分(C)として使用できる好適な窒素含有および窒素/リン含有の化合物については、例えば、PCT/欧州特許第97/01664号明細書、独国特許出願公開第19734437号明細書、独国特許出願公開第1973772号明細書、および独国特許出願公開第19614424号明細書に記載されている。
【0039】
好ましくは、窒素含有の相乗剤は、ベンゾグアナミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン(allantoine)、グリコウリル(glycouril)、メラミン、メラミンシアヌレート、ジシアンジアミド、グアニジンおよびカルボジイミド、およびそれらの誘導体からなる群から選択される。
【0040】
より好ましくは、窒素含有の相乗剤はメラミンの縮合物を含む。メラミンの縮合物として、例えば、メレム(melem)、メラム(melam)およびメロン(melon)、さらにより高度な誘導体ならびにそれらの混合物がある。メラミンの縮合物は、例えば、PCT/国際公開第96/16948号パンフレットに記載されているような方法で製造できる。
【0041】
好ましくは、窒素/リン含有の難燃剤は、メラミンとリン酸との反応生成物および/またはその縮合物である。メラミンとリン酸との反応生成物および/またはその縮合物は、本明細書では、メラミンまたはメラミン縮合物(例えば、メレム、メラムおよびメロン)とリン酸との反応の結果生じる化合物と理解される。
【0042】
例として、例えば、PCT/国際公開第98/39306号パンフレットに記載されているように、リン酸ジメラミン(dimelaminephosphate)、ピロリン酸ジメラミン(dimelamine pyrophosphate)、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン(melamine pyrophosphate)、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム(melam polyphosphate)、ポリリン酸メロン(melon polyphosphate)およびポリリン酸メレム(melem polyphosphate)がある。より好ましくは、窒素/リン含有の難燃剤はポリリン酸メラミンである。
【0043】
また好ましくは、窒素/リン含有の難燃剤は、アンモニアとリン酸またはそのポリリン酸修飾体(polyphosphate modification)との反応生成物である。好適な例として、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムおよびポリリン酸アンモニウムがある。より好ましくは、窒素/リン含有の難燃剤はポリリン酸アンモニウムを含む。
【0044】
好ましくは、難燃性成分(C)はホスフェート化合物、より好ましくはリン酸メラミン化合物、もっとも好ましくはポリリン酸メラミンである。
【0045】
本発明による絶縁電線の難燃性熱可塑性組成物は、好適には、塩基性酸化物、両性酸化物、水酸化物、カーボネート、ケイ酸塩、ホウ酸塩、スズ酸塩、混合酸化物−水酸化物、酸化物−水酸化物−カーボネート、水酸化物−ケイ酸塩および水酸化物−ホウ酸塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される無機化合物Dを含む。
【0046】
好ましい金属酸化物は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マンガンおよび酸化スズである。
【0047】
好ましい水酸化物は、水酸化アルミニウム、ボーマイト(bohmite)、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、ジハイドロタルサイト(dihydrotalcite)、ハイドロカルマイト、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、酸化スズ水和物(stannum oxidehydrate)および水酸化マンガンである。
【0048】
好ましくは、無機化合物Dは、ホウ酸亜鉛、塩基性のケイ酸亜鉛およびスズ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ハイドロタルサイト、ジハイドロタルサイトおよびボーマイト、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含むか、さらにはそのような化合物そのものであり、より好ましくはホウ酸亜鉛、硫化亜鉛、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイトおよびジハイドロタルサイト、ならびにそれらの混合物からなる群からから選択される化合物を含むか、さらにはそのような化合物そのものである。
【0049】
もっとも好ましくは、無機化合物Dはホウ酸亜鉛を含むか、またはホウ酸亜鉛そのものである。
【0050】
本発明の好ましい実施態様では、難燃性熱可塑性組成物は、成分(B)、(C)および(D)を、難燃性熱可塑性組成物の全重量を基準にして10〜50重量%、より好ましくは15〜40重量%、さらには20〜30重量%の総量で含む。成分(B)、(C)および(D)の最小全体量が大きくなると、さらにいっそう優れた難燃特性が得られるという利点がある。成分(B)、(C)および(D)の最大全体量が少なくなると、絶縁電線の柔軟性が良好になるという利点があり、絶縁電線が(すでに適合している)UL 1581 VW−1に適合しなければならず、更なる難燃性の規格に適合する必要がないときに特にそれは利点となる。
【0051】
より好ましくは、成分(B)、(C)および(D)はそれぞれ、化合物(B)、(C)および(D)の全重量を基準にして、化合物Bが20〜90重量%、さらには50〜80重量%、化合物Cが10〜80重量%、さらには20〜50重量%、化合物Dが1〜20重量%、さらには2〜10重量%の量で存在する。
【0052】
本発明による絶縁電線のより好ましい実施態様では、金属塩(B)および難燃性成分(C)は、9:1〜2:8、好ましくは5:1〜1:1の範囲の重量比で存在する。
【0053】
別のより好ましい実施態様では、無機化合物(C)は、熱可塑性組成物の全重量を基準にして、0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%の量で存在する。
【0054】
本発明の特別の実施態様では、絶縁層および/または絶縁外被は、難燃性熱可塑性組成物で構成され、ここで:
− コポリエーテルエステルエラストマーが熱可塑性ポリマー(A)の全重量を基準にして少なくとも50重量%の量で存在し;
− 金属塩(B)、難燃性成分(C)および無機化合物(D)が、熱可塑性組成物の全重量を基準にして10〜50重量%の総量で存在し;
− 金属塩(B)が次亜リン酸カルシウムおよび/またはC〜Cジアルキルホスフィン酸アルミニウムを含み;
− 難燃性成分(C)がリン酸メラミン化合物を含み;
− アルミニウム塩およびリン酸メラミン化合物が、(B)および(C)の全重量を基準にして少なくとも50重量%の総量で存在し;
− 無機化合物(D)が、熱可塑性組成物の全重量を基準にしてホウ酸亜鉛を0.01〜5重量%の量で含む。
【0055】
本発明による絶縁電線の難燃性熱可塑性組成物は、好適には1種または複数種の添加剤を含んでよい。難燃性熱可塑性組成物に使用できる添加剤は、難燃性熱可塑性組成物全般に用いるのに好適な、特にコポリエステルおよびコポリアミドエラストマーに用いるのに好適な任意の補助添加剤または補助添加剤の組合わせであってよい。
【0056】
好適な添加剤としては、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤および熱安定剤など)、強化剤(tougheners)、耐衝撃性改良剤、可塑剤、滑剤、乳化剤、成核剤、充填剤、顔料、蛍光増白剤、更なる難燃剤、および帯電防止剤がある。好適な充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、タルク、およびカーボンブラックがある。
【0057】
好ましくは、難燃性熱可塑性組成物は安定剤を含む。安定剤として使用できる好適な化合物としては、ホスフィットおよびホスホナイト(phosphonites)、長鎖脂肪酸の塩およびエステル、およびジカルボキシアミド化合物がある。
【0058】
本発明の好ましい実施態様では、難燃性熱可塑性組成物は、1種または複数種の添加剤を、難燃性熱可塑性組成物の全重量を基準にして0.01〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、さらにより好ましくは0.2〜5重量%、さらには0.5〜2重量%の総量で含む。
【0059】
より好ましくは、難燃性熱可塑性組成物は、ホスフィット、ホスホニト、長鎖脂肪酸のエステルおよび塩、およびジカルボキシアミド化合物の群から選択される1種または複数種の化合物を、1種または複数種の化合物の、難燃性熱可塑性組成物の全重量を基準にして0.01〜3重量%、さらにより好ましくは0.1〜1.0重量%の総量で含む。
【0060】
本発明は特に、絶縁電線であって、その絶縁電線が、2本または3本の導電性芯線と、それぞれが導電性芯線の1つを取り囲んでいる2つまたは3つの絶縁層と、導電性芯線および絶縁層を取り囲んでいる任意選択の外被層とからなる両極電線(bipolar wire)または三極電線(tripolar wire)であり、絶縁層および/または外被層が成分(B)、(C)および(D)を含む難燃性熱可塑性ポリマー組成物または上述のそれらの任意の好ましい実施態様から構成される、絶縁電線に関する。
【0061】
本発明はまた、(i)1本の本発明による絶縁電線またはその任意の好ましい実施態様と、(ii)ケーブルを電気および/または電子機器および/または電源装置に接続するための、1本の絶縁電線に取り付けられた1つまたは2つの接続要素と、任意選択の(iii)電気または電子部品とを含む、接続ケーブルに関する。
【0062】
好適には、接続ケーブルは携帯電話の充電器用ケーブルまたはコンピュータの付属品接続ケーブルである。
【0063】
本発明はさらにまた、電子機器における、または電子機器に接続される本発明の絶縁電線およびそれらで作られた接続ケーブルの使用、ならびに本発明による絶縁電線またはその任意の好ましい実施態様を含む電子機器に関する。
【0064】
本発明はまた難燃性熱可塑性組成物に関する。本発明による難燃性熱可塑性組成物は、本明細書で上述した本発明による絶縁電線における難燃性エラストマー熱可塑性組成物、およびそれらの好ましい実施態様の任意のものに対応する。本発明による難燃性熱可塑性組成物の利点は、UL 1581 VW−1に従った難燃性に対する効果および難燃性熱可塑性組成物を上述のように電気ケーブルに使用した場合の他の効果にある。
【0065】
難燃性熱可塑性組成物は、難燃性熱可塑性組成物全般、特にエラストマー熱可塑性組成物を作るための、当技術分野で使用される配合方法で作ることができる。好適な方法としては、溶融混合を伴う方法、すなわち、コポリエステルおよび/またはコポリアミドエラストマーを含むかまたはそれからなる熱可塑性ポリマー(A)を溶融物に変え、さらに溶融物へ変える前、溶融物に変えている間または溶融物に変えた後に、同時か、連続的か、あるいはある程度同時かつある程度連続的に、成分(B)、(C)、および(D)および他の任意選択の添加剤を、コポリエステルおよび/またはコポリアミドエラストマーを含むかまたはそれからなる熱可塑性ポリマー(A)に加え、ポリマーメルトおよびポリマーメルトおよび他の成分および添加剤を混合して均質の混合物を形成する方法がある。
【0066】
好適には、この溶融混合は押出機中で行い、前記溶融混合で形成された後の均質混合物を押出機から取り出し、その後に組成物を冷却し、任意選択的に粒状化する。
【0067】
マスターバッチの形態の難燃性成分および添加剤を加えることもできる。特に固体の添加剤の場合、冷却後および任意選択の粒状化後に添加剤を加えることもでき、それによって添加剤が粒体の表面に施される。
【0068】
冷却され、任意選択的に粒状化された組成物は、例えば、得られる絶縁電線の導電性芯線を形成する1本または複数本の金属線の押出しコーティングによって、絶縁電線を作るのに使用できる。
【0069】
本発明を、以下の実施例および比較実験によりさらに説明する。
【0070】
[材料]
TPE−E−1:ポリブチレンテレフタレートセグメントからなるハードセグメントとEO/POポリエーテルブロックコポリマーからなるソフトセグメントとを含むポリエーテルエステル(ショアーD硬度が38)。
TPE−E−2:ポリブチレンテレフタレートセグメントからなるハードセグメントおよびウレタン基と結合したポリアクトン(polylactone)セグメントからなるソフトセグメントを含むポリエステルエステル(ショアーD硬度が55)。
メラミンシアヌレート:メラミンシアヌレート(MC50;d50が約4.2μmおよびd99が約45μmである粒径分布)
化合物B:DEPAL:ジエチルホスフィン酸アルミニウム;独国のClariant
化合物C:Melapur 200:ポリリン酸メラミン;スイス国のCiba Geigy
化合物D:ホウ酸亜鉛(2ZnO・3.5HO)、Firebrake ZB、米国のBorax
Adds:補助安定剤パッケージのブレンド。
【0071】
下記のように本発明による実施例I〜II(EX−IおよびEX−II)および比較実験A〜D(CE−A、CE−B、CE−CおよびCE−D)の成形組成物を調製し、試験した。組成物および試験結果を表1に示す。
【0072】
[配合]
成形組成物を調製するために、原料成分を表1に示す比率で配合した。200rpmのスクリュー回転数、10kg/時間の押出量、および250℃に調節された溶融温度で、ZSK 30/33二軸スクリュー押出機を用いて、TPE−Eを難燃性成分および安定剤のパッケージと溶融ブレンドし、ダイを通して溶融物を押出機から押し出し、溶融物を冷却および粒状化することによって、成形組成物を調製した。押出機中で配合して得られた顆粒は、さらに用いる前に120℃で24時間乾燥させた。
【0073】
[試験試料および絶縁ケーブルの成形]
UL−94−Vに従った機械的性質および難燃特性を試験するための試験試料を、Engel 80 A型の射出成形機で作製した。この射出成形では、235〜245℃の設定温度(set temperatures)を使用した。金型温度は90℃であった。試験体のサイクルタイムは約50秒であった。
【0074】
UL 1581 VW−1に従った難燃特性ならびに耐加水分解性を試験するための絶縁ケーブルを工業生産ラインで作製した。このようにして製造したケーブルは、導電性芯線としての2本の銅線と以下に記載した実験的組成物の1つからなる単一絶縁層とから構成される両極ケーブル(bipolar cables)であった。両極ケーブルは長円形であり、大きさが1.4×2.8mmの長円形の断面を有していた。
【0075】
[試験法]
機械的性質:引張試験は、成形時乾燥(dry−as−moulded)試料を用いてISO 527/1Aに従って実施した。引張試験の試験体の大きさ:厚さ4mm
【0076】
難燃性:試料の作製および試験は、UL−94−VおよびUL 1581 VW−1に従ってそれぞれ実施した。
【0077】
耐加水分解性:この試験のために、試料のケーブルを85℃および相対湿度95%で96時間にわたって温度サイクルチャンバー内に保持した。この状態調節の後、ケーブルの電気試験を行ってその絶縁抵抗を確認し、導線の端から端までのキャパシタンスを検査した。この試験に合格するには、絶縁抵抗および導線の端から端までのキャパシタンスが5%を超えて変化してはならない。
【0078】
下記のように本発明による実施例I〜II(EX−IおよびEX−II)および比較実験A〜D(CE−A、CE−B、CE−CおよびCE−D)の組成を有する配合物を調製し、試験した。組成および試験結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
難燃性ポリエーテルエステルエラストマー組成物およびそれから作られた絶縁電線に関する、本発明による実施例IおよびIIは、UL−94−V規格に従った難燃性試験では試験結果が中程度であるか、またはおもわしくないものでさえあり、またポリエーテルエステルエラストマーのモジュラスの増加がゆるやか(ほんの中程度)であるが、UL 1581 VW−1規格に従った難燃性試験に合格した。それとは対照的に、難燃剤としてメラミンシアヌレートを含むポリエーテルエステルエラストマーおよびそれから作られた絶縁電線に関する比較実験B〜Dは、UL−94−V規格に従った難燃性試験でこれらの組成物のいくつかはよりよい評価であるかまたは最高限度の100%V0等級でさえあるという事実にもかかわらず、UL 1581 VW−1規格に従った難燃性試験ではすべて不合格である。その上、これらの組成物は、ポリエーテルエステルエラストマーのモジュラスの増加が、同じくらいの難燃剤の量である本発明による組成物よりも著しく大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性芯線および前記導電性芯線を取り囲む難燃性熱可塑性組成物からなる絶縁層および/または絶縁外被を含む、電子機器用の絶縁電線であって、前記難燃性熱可塑性組成物が、
(A)コポリエステルエラストマーおよび/またはコポリアミドエラストマーを含む熱可塑性ポリマーと、
(B)式[RP(O)O]m+(式I)のホスフィン酸金属塩および/または式[O(O)PR−R−PR(O)O]2−m+(式II)のジホスフィン酸金属塩、および/またはそのポリマーであって、
− RおよびRが、水素、直鎖、分岐および環状のC1〜C6の脂肪族基、および芳香族基からなる群から選択される同じかまたは異なる置換基であり、
− Rが直鎖、分岐および環状のC1〜C10の脂肪族基およびC6〜C10の芳香族および脂肪族−芳香族基からなる群から選択され、
− MがMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、およびKからなる群から選択される金属であり、さらに
− m、nおよびxが1〜4の範囲の同じかまたは異なる整数であるものと、
(C)窒素含有の難燃相乗剤および/またはリン/窒素含有の難燃剤からなる難燃性成分と、
(D)塩基性酸化物、両性酸化物、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、スズ酸塩、混合酸化物−水酸化物、酸化物−水酸化物−炭酸塩、水酸化物−ケイ酸塩および水酸化物−ホウ酸塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される無機化合物と
を含む、電子機器用の絶縁電線。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマー(A)がコポリエステルエラストマー、好ましくはコポリエーテルエステルエラストマーを含む、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記コポリエステルエラストマーおよび/またはコポリアミドエラストマーが、前記熱可塑性ポリマー(A)の全重量を基準にして少なくとも50重量%の総量で存在する、請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記金属塩(B)が、Ca、Al、Zn、およびそれらの組合わせからなる群から選択される金属の塩である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記RおよびRが同じかまたは異なっており、H、メチルおよび/またはエチルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記金属塩(B)が、次リン酸塩および/またはC1〜C2ジアルキルホスフィン酸塩、好ましくは次リン酸カルシウムおよび/またはジエチルホスフィン酸アルミニウムである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記難燃性成分(C)がホスフェート化合物、好ましくはリン酸メラミン化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記無機化合物(D)がホウ酸亜鉛である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記熱可塑性組成物が、前記金属塩(B)、前記難燃性成分(C)および前記無機化合物(D)を、前記熱可塑性組成物の全重量を基準にして10〜50重量%の総量で含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項10】
前記金属塩(B)および前記難燃性成分(C)が、9:1〜2:9、好ましくは5:1〜1:1の範囲の重量比で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項11】
前記化合物(C)が、前記熱可塑性組成物の全重量を基準にして0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%の量で存在する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の絶縁電線であって、
− コポリエーテルエステルエラストマーが、前記熱可塑性ポリマー(A)の全重量を基準にして少なくとも50重量%の量で存在し、
− 前記金属塩(B)、前記難燃性成分(C)および前記無機化合物(D)が、前記熱可塑性組成物の全重量を基準にして10〜50重量%の総量で存在し;
− 前記金属塩(B)が、次亜リン酸カルシウムおよび/またはC〜Cジアルキルホスフィン酸アルミニウムを含み;
− 前記難燃性成分(C)がリン酸メラミン化合物を含み;
− 前記アルミニウム塩および前記リン酸メラミン化合物が、(B)および(C)の全重量を基準にして少なくとも50重量%の総量で存在し、
− 前記無機化合物(D)が前記熱可塑性組成物の全重量を基準にしてホウ酸亜鉛を0.01〜5重量%の量で含む、絶縁電線。
【請求項13】
前記絶縁電線が、2本または3本の導電性芯線、それぞれが前記導電性芯線の1本を取り囲んでいる2つまたは3つの絶縁層、および前記導電性芯線および前記絶縁層を取り囲んでいる任意選択の外被層からなる両極電線または三極電線であり、前記絶縁層および/または前記外被層が請求項1に記載の前記難燃性熱可塑性ポリマー組成物で構成される、請求項1〜2のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項14】
接続ケーブルであって、(i)請求項1〜13のいずれか一項に記載の絶縁電線の1本と、(ii)前記ケーブルを電気および/または電子機器および/または電源装置に接続するための、前記1本の絶縁電線に取り付けられた1つまたは2つの接続要素と、任意選択の(iii)電気または電子部品とを含む、接続ケーブル。
【請求項15】
前記接続ケーブルが、携帯電話の充電器用ケーブルまたはコンピュータの付属品の接続ケーブルである、請求項14に記載の接続ケーブル。
【請求項16】
電子機器における、または電子機器に接続される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の絶縁電線およびそれから作られる請求項14または15に記載の接続ケーブルの使用。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の絶縁電線あるいは請求項14または15に記載の接続ケーブルを含む、電子機器。
【請求項18】
難燃性熱可塑性組成物が請求項1〜12のいずれか一項に記載された難燃性熱可塑性組成物である、難燃性熱可塑性組成物。

【公表番号】特表2009−545127(P2009−545127A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522114(P2009−522114)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005345
【国際公開番号】WO2008/011939
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】