説明

絶縁電線及びそれを用いた、電機コイル、モータ

【課題】絶縁層を低誘電率化してコロナ放電開始電圧を高くできると共に、層間密着力及び導体との密着力が高く耐加工性に優れる絶縁電線、及びそれを用いた電機コイル、モータを提供する。
【解決手段】導体及び該導体を被覆する第1の絶縁層及び該第1の絶縁層を被覆する第2の絶縁層を有する絶縁電線であって、前記第1の絶縁層はポリアミドイミド樹脂からなり、前記第2の絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られ、イミド化後のイミド基濃度が28.0%未満であるポリイミド前駆体を主成分とするポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼き付けして形成されたものである絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線およびそれを用いた電機コイル、モータに関し、特に耐コロナ放電特性及び耐加工性に優れる絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等のコイル用巻線として用いられる絶縁電線において、導体を被覆する絶縁層(絶縁皮膜)には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度等が求められている。絶縁層を形成する樹脂としてはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等がある。
【0003】
また適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモータ等では、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加され、その絶縁皮膜表面で部分放電(コロナ放電)が発生しやすくなる。コロナ放電の発生により局部的な温度上昇やオゾンやイオンの発生が引き起こされやすくなり、その結果絶縁電線の絶縁被膜に劣化が生じることで早期に絶縁破壊を起こし、電気機器の寿命が短くなる。高電圧で使用される絶縁電線には上記の理由によりコロナ放電開始電圧の向上も求められており、そのためには絶縁層の誘電率を低くすることが有効であることが知られている。
【0004】
ポリイミド樹脂は絶縁電線の絶縁層として汎用されている樹脂の中では特に耐熱性に優れている。また誘電率が低く機械特性にも優れるため、要求特性の高い絶縁電線の絶縁層として用いられている。たとえば特許文献1には耐熱区分がC種(180℃以上のクラス)のエナメル線として、導体直上にポリイミド樹脂エナメル皮膜層が塗布焼付けされているエナメル線が開示されている。
【0005】
また特許文献2には芳香族エーテル構造を有するポリイミド樹脂が記載されている。具体的には、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等の芳香族エーテル構造を有する酸無水物と、芳香族エーテル構造を有するジアミン及びフルオレン構造を有するジアミンとを反応させてポリイミド前駆体を合成している。芳香族エーテル構造を有する酸無水物及びジアミンを用いることで可とう性を向上している。またこのような構造のポリイミド樹脂は低誘電率でありコロナ発生抑制に優れた絶縁皮膜を得ることができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−198932号公報
【特許文献2】特開2010−67408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにポリイミド樹脂は耐熱性、機械的特性、電気特性に優れる材料であるが、耐加工性、特に耐摩耗性が悪いという問題がある。絶縁電線をコイルとして使用する際には、コイルの占積率を上げるために絶縁電線を大きく変形させる加工を行う。例えば絶縁電線を捲線してコイルを形成した後にコイルをスロット中に挿入したり、あらかじめ変形させた絶縁電線同士を溶接してコイルを形成したりする。絶縁層の耐摩耗性が悪いと加工時に絶縁層が損傷を受けやすく、絶縁皮膜の割れやピンホールが発生して電気特性が不良となるおそれがある。
【0008】
特に最外層にポリイミド皮膜を有する絶縁電線で耐加工性が低下することが知られている。そのためポリイミドを絶縁層として用いる場合、最外層には別の樹脂からなる層を設けることが多い。特許文献1ではポリイミド皮膜層上にポリベンズイミダゾール樹脂からなる皮膜層を設けて耐熱性と耐摩耗性を両立している。
【0009】
ポリイミドの耐加工性が低下する一つの要因は、ポリイミド皮膜の耐溶剤性が高いことである。ポリイミド皮膜は、ポリイミド前駆体樹脂を溶剤に溶解したワニス(ポリイミド樹脂ワニス)を導体上に塗布、焼付けして形成する。焼付け時の熱によってポリイミド前駆体であるポリアミック酸がイミド化してポリイミドとなる。一度の塗布、焼付け工程では数μm程度の薄い皮膜しか形成できないため、塗布、焼付け工程を複数回繰り返して所定の厚み(数10μm程度)のポリイミド皮膜を形成する。そのため2回目以降の工程では前回の工程で形成されたポリイミド層の上にポリイミドワニスを塗布することとなる。この時、ポリイミドワニスに含まれる溶剤が下層(前回の工程で形成されたポリイミド層)を若干溶解することで層間のなじみが良くなり層間の密着力が得られる。しかし焼付けてイミド化したポリイミドはポリアミドイミド等の他の樹脂と比べると耐溶剤性が高すぎるためワニスを塗布した際に下層がほとんど溶解しない。従って層間の密着力(接着力)が低下し、皮膜に大きな変形を起こすような加工を行うと層間の剥離に起因して皮膜が破壊される。
【0010】
耐加工性には絶縁層と導体との密着力も必要である。導体と絶縁層との密着力が低いと、捲線工程や絶縁電線を変形させる工程で導体と絶縁層との間に浮きが発生して電気特性が悪化する。
【0011】
さらに、絶縁電線のコロナ放電開始電圧を向上するために絶縁層の低誘電率化が求められている。ポリイミド樹脂は比較的誘電率が低い材料であるが、一般的なポリイミド樹脂の誘電率は3.0〜3.5であり、コロナ放電開始電圧を向上するためにはさらに低誘電率とすることが求められている。
【0012】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、絶縁層を低誘電率化してコロナ放電開始電圧を高くできると共に、層間密着力及び導体との密着力が高く耐加工性に優れる絶縁電線、及びそれを用いた電機コイル、モータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のようにポリイミド皮膜の層間密着力はポリイミドの溶剤への溶解性と相関する。本発明者らはポリイミドのイミド基濃度に着目し、極性の高いイミド基の濃度を下げることで耐溶剤性を緩和できると共にポリイミドの誘電率を低下できることを見いだした。なお絶縁電線の皮膜に汎用されている一般的なポリイミド樹脂はピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを重合して得られるポリイミド前駆体(ポリアミック酸)をイミド化して得られるもので、イミド基濃度は36.6%である。
【0014】
イミド基濃度を低くするとイミド化後のポリイミドの溶解性が向上し、層間密着力が向上する。また極性の高いイミド基の濃度が小さくなることで誘電率を低くすることができる。しかし極性の高いイミド基は導体との密着力に寄与しており、イミド基濃度が低下すると導体との密着力が低下する。そこで、導体直上には導体との密着力に優れるポリアミドイミド樹脂からなる第1の絶縁層を形成し、この第1の絶縁層に接してイミド基濃度の低いポリイミドからなる第2の絶縁層を形成することで、層間密着力と導体との密着力とを両立できると共に誘電率の低い絶縁電線が得られることを見いだした。
【0015】
すなわち本発明は、導体及び該導体を被覆する第1の絶縁層及び該第1の絶縁層を被覆する第2の絶縁層を有する絶縁電線であって、前記第1の絶縁層はポリアミド樹脂からなり、前記第2の絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られ、イミド化後のイミド基濃度が28.0%未満であるポリイミド前駆体樹脂を主成分とするポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けして形成されたものである絶縁電線である(請求項1)。
【0016】
イミド基濃度を28.0%未満とすることで層間密着力が向上する。また導体直上にポリアミドイミド樹脂からなる第1の絶縁層を形成することで導体との密着性も良好となる。またポリアミドイミド樹脂はポリイミド樹脂よりも溶剤への溶解性が高いため、第1の絶縁層と第2の絶縁層との間の密着力も良好である。
【0017】
イミド基濃度はポリイミド前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂において、
(イミド基部分の分子量)/(全ポリマーの分子量)×100 (%)
で計算される値である。ポリイミド前駆体は芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られるので各モノマー(芳香族ジアミン又は芳香族テトラカルボン酸二無水物)の分子量が大きくなるとイミド基濃度は低くなる。ポリイミド前駆体を構成する芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを任意に選択してイミド基濃度を28.0%未満とする。
【0018】
前記ポリイミド前駆体のイミド化後のイミド基濃度は20.0%以上とすることが好ましい(請求項2)。イミド基濃度を低くするとイミド化後のポリイミドの溶解性が向上し、層間密着力が向上する。また誘電率も低下する。しかしイミド基濃度を低くするとポリイミドの耐熱性が低下するため、耐熱性の観点からはイミド基濃度を20.0%とすることが好ましい。さらに好ましくは25.0%以上である。
【0019】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物はピロメリット酸二無水物(以下、PMDA)であると好ましい(請求項3)。ピロメリット酸二無水物は比較的分子量が小さく剛直な構造である。イミド基濃度を調整するためには、芳香族ジアミン、芳香族テトラカルボン酸のいずれかを分子量の大きいものとすることが考えられるが、分子量の大きい芳香族テトラカルボン酸を使用すると耐熱性が低下するため、酸成分は分子量の小さいPMDAを選択し、分子量の大きい芳香族ジアミンを用いてイミド基濃度を調整する方が耐熱性が向上し、好ましい。分子量の大きい芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及び1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等が例示される。
【0020】
前記第2の絶縁層の厚みは、前記第1の絶縁層の厚みの8倍以上であると好ましい(請求項4)。第1の絶縁層を構成するポリアミドイミド樹脂はポリイミドに比べると誘電率が高いので、絶縁層全体の厚みに対する第1の絶縁層の厚みの割合が大きくなると、絶縁層全体の誘電率が高くなり電気特性が低下する。
【0021】
請求項5に記載の発明は、上記の絶縁電線を捲線してなる電機コイルである。また請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の電機コイルを有するモータである。耐加工性及び耐熱性に優れた絶縁電線を使用していることから占積率の高いコイルが得られ、コイル及びモータの小型化が可能となる。また高電圧が印加された場合でも絶縁皮膜の劣化が起こりにくいので、寿命を長くすることが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、絶縁層を低誘電率としてコロナ放電開始電圧を高くできると共に、層間密着力及び導体との密着力が高く耐加工性に優れる絶縁電線、及びそれを用いた電機コイル、モータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の絶縁電線の一例を示す断面模式図である。
【図2】誘電率の測定方法を説明する模式図である。
【図3】本発明のコイルの一例を示す模式図である。
【図4】本発明のモータの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の絶縁電線の第1の絶縁層にはポリアミドイミド樹脂を使用する。ポリアミドイミドはポリイミドと同等の耐熱性を示すため、第2の絶縁層のポリイミドの耐熱性を損ねることなく導体との密着性を向上することができる。ポリアミドイミドを主成分とするポリアミドイミド樹脂ワニスを導体上に塗布、焼付けして第1の絶縁層を形成する。
【0025】
ポリアミドイミドは分子内にアミド結合とイミド結合を有する樹脂であり、芳香族ジイソシアネート成分を含むジイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物を含む酸成分とを重合反応させて得られる。ジイソシアネート成分としてはジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3、3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4、4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが使用できる。
【0026】
酸成分としては、トリメリット酸無水物(TMA)、1,2,5−トリメリット酸(1,2,5−ETM)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−(2,2’−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等が使用できる。イソシアネート成分、酸成分は1種類ずつ用いても良いし複数の種類を組み合わせても良い。
【0027】
酸成分とジイソシアネート成分を略当量ずつ混合し、有機溶媒中で加熱して反応させてポリアミドイミド樹脂ワニスを得る。カプロラクタム化合物を反応系に加えても良い。有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクタム等が使用できる。ポリアミドイミド樹脂ワニスには顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、密着向上剤等の各種添加剤や反応性低分子、相溶化剤等を添加しても良い。
【0028】
本発明の絶縁電線の第2の絶縁層には、イミド基濃度が28.0%未満のポリイミド樹脂を使用する。ポリイミド樹脂からなる第2の絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られるポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を主成分とするポリイミド樹脂ワニスを前記第1の絶縁層上に塗布、焼き付けして形成する。芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との縮合重合反応は、従来のポリイミド前駆体の合成と同様な条件にて行うことができる。
【0029】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボンキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等が例示される。
【0030】
また、イミド基濃度を下げるため、分子量が大きい下記式(1)で示されるビスフェノールAジフタル酸二無水物(BPADA)を使用しても良い。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は1種を用いても2種以上を併用しても良い。
【0031】
【化1】

【0032】
この中でもピロメリット酸二無水物(PMDA)は低分子量で剛直な構造を持つため、ポリイミド樹脂の耐熱性を向上できる点で好ましい。
【0033】
芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4’−メチレンジアニリン(MDA)、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサン(4−APBZ)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(3−APB)、1,5−ビス(3−アミノフェノキシ)ナフタレン(1,5−BAPN)等が例示される。
【0034】
この中でも2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)は分子量が大きく、イミド基濃度を低減できるため好ましく使用できる。これらの芳香族ジアミンとODA、MDA等の分子量の小さい芳香族ジアミンとを組み合わせて使用することで、イミド基濃度を調整できる。
【0035】
芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンは、イミド化後のイミド基濃度が28.0%未満となるように選択する。イミド基濃度はポリイミド前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂において、
(イミド基部分の分子量)/(全ポリマーの分子量)×100
で計算される値である。具体的には以下の方法でイミド基濃度を計算する。
【0036】
芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンの分子量からユニット単位でのイミド基濃度を計算する。例えば下記式(2)で示されるポリイミドの場合、イミド基濃度は
イミド基分子量=70.03×2=140.06
ユニット分子量=894.96となるため、
イミド基濃度(%)=(140.06)/(894.96)×100=15.6%
となる。
【0037】
【化2】

【0038】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを混合して反応させる。芳香族ジアミンの合計量(当量)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計量(当量)を約1:1とすると反応が良好に進行して好ましい。それぞれの材料を混合し、有機溶媒中で加熱して反応させてポリイミド前駆体樹脂を得る。
【0039】
有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性有機溶媒が使用できる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を組み合わせても良い。
【0040】
有機溶媒の量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンを均一に分散させることができる量であれば良く特に制限されないが、通常これらの成分の合計量100質量部あたり100質量部〜1000質量部(樹脂濃度で10%〜50%程度となるように)使用する。有機溶媒量を少なくするとできあがったポリイミド樹脂ワニスの固形分量が多くなりコスト低減に有効である。
【0041】
ポリイミド樹脂ワニスには顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、密着向上剤等の各種添加剤や反応性低分子、相溶化剤等を添加しても良い。密着向上剤としてメラミンを添加すると、導体との密着力を向上できる。さらに本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂を混合して使用することもできる。
【0042】
上記のポリアミドイミド樹脂ワニスを導体上に塗布、焼付けして第1の絶縁層を形成する。また第1の絶縁層上に上記のポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けして第2の絶縁層を形成する。焼付け工程でポリイミド前駆体樹脂がイミド化してポリイミドとなる。塗布、焼付けは通常の絶縁電線の製造と同様に行うことができる。例えば導体又は絶縁層を被覆した導体に樹脂ワニスを塗布した後、設定温度を350〜500℃とした炉内を1パス当たり5〜10秒間通過させて焼付ける作業を数回繰り返して絶縁層を形成する。塗布、焼付け工程の繰り返し回数を多くすることで厚みを増すことができる。第1の絶縁層及び第2の絶縁層の厚みは任意にすることができるが、第1の絶縁層の厚みは3μm〜20μm、第2の絶縁層の厚みは10μm〜150μmとすることが好ましい。第2の絶縁層の厚みを第1の絶縁層の厚みの8倍以上とし、第2の絶縁層(ポリイミド)の厚み割合を多くすると誘電率が低下して好ましい。
【0043】
導体としては銅や銅合金、アルミニウム等を使用できる。導体の大きさやその断面形状は特に限定されないが、丸線の場合は導体径が100μm〜5mmのものが、平角線の場合は一辺の長さが500μm〜5mmのものが一般に使用される。
【0044】
さらに、絶縁層として、最外層に表面潤滑層を有するとさらに加工性が向上して好ましい。また絶縁電線の外側に表面潤滑油を塗布しても良い。この場合はさらにインサート性や加工性が向上する。
【0045】
図1は本発明の絶縁電線の一例を示す断面模式図である。断面が平角形状の導体3の外側に導体3を被覆する第1の絶縁層1、及び第1の絶縁層を被覆する第2の絶縁層2がある。なお本発明の絶縁電線はこの形状に限定されるものではない。
【0046】
図3(a)は本発明の電機コイルの一例を示す模式図であり、図3(b)は図3(a)のA−A’断面図である。磁性材料からなるコア13の外側に絶縁電線11を捲線して電機コイル12が形成される。コアと電機コイルからなる部材は、モータのロータやステータとして使用される。例えば、図4に示すように、コア13と電機コイル12とからなる分割ステータ14を複数組み合わせて環状に配置したステータ15を、モータの構成部材として使用する。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお本発明の範囲はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
(ポリアミドイミド樹脂ワニスの作製)
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器、窒素吹き込み管を取り付けたフラスコ中に、前記窒素吹き込み管から毎分150mlの窒素ガスを流しながら、TMA(トリメリット酸無水物、三菱瓦斯化学(株)製)108.6g、MDI(メチレンジイソシアネート、三井武田ケミカル(株)製、商品名コスモネートPH)141.5gを投入した。次いでN−メチルピロリドン637gを入れ、攪拌器で攪拌しながら80℃で3時間加熱した。さらに約3時間かけて反応系の温度を140℃まで昇温した後140℃で1時間加熱した。1時間経過した段階で加熱を止め、放冷して不揮発分25%のポリアミドイミド樹脂ワニスとした。
【0049】
(高密着ポリアミドイミド樹脂ワニスの作製)
上記のポリアミドイミド樹脂ワニスに密着向上剤としてメラミン(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名:サイメル303)を1phr混合して高密着ポリアミドイミド樹脂ワニスを得た。
【0050】
(ポリイミド樹脂ワニスの作製)
芳香族ジアミンである4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)16.7gと2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)102.6gを808gのN−メチルピロリドンに溶解させた後、芳香族テトラカルボン酸二無水物であるピロメリット酸二無水物(PMDA)72.7gを加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。その後60℃で20時間撹拌し反応を終え、室温まで冷却してポリイミド樹脂ワニスを得た。なおイミド基濃度は25.9%である。
【0051】
(高密着ポリイミド樹脂ワニス1の作製)
上記のポリイミド樹脂ワニスに密着向上剤としてメラミン(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名:サイメル303)を1phr混合して高密着ポリイミド樹脂ワニス1を得た。
【0052】
(高密着ポリイミド樹脂ワニス2の作製)
芳香族ジアミンである4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)94.3gを803gのN−メチルピロリドンに溶解させた後、芳香族テトラカルボン酸二無水物であるピロメリット酸二無水物(PMDA)102.7gを加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。その後60℃で20時間撹拌し反応を終え、室温まで冷却し、さらに密着向上剤としてメラミン(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名:サイメル303)を1phr混合して高密着ポリイミド樹脂ワニス2を得た。なおイミド基濃度は36.6%である。
【0053】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
(絶縁電線の作製)
厚み2.0mm、幅3.0mmの平角導体の表面に、表1に示す皮膜構成となるように上記の樹脂ワニスを常法により塗布、焼き付けして第1の絶縁層及び第2の絶縁層を形成し、絶縁電線を作製した。なお表1中のPAIはポリアミドイミド、PIはポリイミドである。
【0054】
(導体密着力)
得られた絶縁電線の絶縁層に導体と絶縁層との境界面まで0.5mm幅の切れ込みを入れ、180°剥離試験により導体と絶縁層との密着力を測定した。
【0055】
(層間密着力)
得られた絶縁電線の絶縁層に、絶縁層の途中まで0.5mm幅の切れ込みを入れ、180°剥離試験により層間密着力を測定した。
【0056】
(誘電率の測定)
得られた各絶縁電線について絶縁層の誘電率を測定した。図2に示すように、絶縁電線の表面3カ所に銀ペーストを塗布して測定用のサンプルを作製した(塗布幅は両端2カ所が10mm、中央部分が100mmである)。導体と銀ペースト間の静電容量をLCRメータで測定し、測定した静電容量の値と被膜の厚みから誘電率を算出した。なお測定は温度30℃、湿度50%の条件で行った。以上の評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1、2は、下層(第1の絶縁層)に高密着ポリアミドイミドを使用し、上層(第2の絶縁層)に、イミド基濃度が25.9%であるポリイミドを使用した絶縁電線である。導体密着力は40g/mm以上、層間密着力は100g/mm以上あり、耐加工性に優れることが予測される。また絶縁層の誘電率も低い。
【0059】
比較例1は、下層に高密着ポリアミドイミドを使用し、上層にはポリアミドイミドを使用した絶縁電線である。導体密着力、層間密着力ともに高く、耐加工性に優れることが予測されるが、誘電率が4.5と高くなっており、イミド基濃度の低いポリイミドを使用した実施例1、2の絶縁電線に比べると電気特性が劣っている。
【0060】
比較例2、3は下層及び上層にポリイミドを使用した絶縁電線である。比較例2ではイミド基濃度の低いポリイミドを使用しているため導体密着力が25g/mmしかなく耐加工性に劣ることが予測される。比較例3は、イミド基濃度が高いポリイミドを下層に使用しているので導体密着力は高いが、層間密着力が極端に低くなっている。イミド基濃度が高いポリイミドは耐溶剤性が高すぎるため、下層内の1パス(1回の塗布、焼付け工程で形成される層)間の界面及び下層と上層との界面の密着力が弱くなっていることがこの原因であると思われる。
【符号の説明】
【0061】
1 第1の絶縁層
2 第2の絶縁層
3 導体
11絶縁電線
12電機コイル
13コア
14分割ステータ
15ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及び該導体を被覆する第1の絶縁層及び該第1の絶縁層を被覆する第2の絶縁層を有する絶縁電線であって、前記第1の絶縁層はポリアミドイミド樹脂からなり、前記第2の絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られ、イミド化後のイミド基濃度が28.0%未満であるポリイミド前駆体を主成分とするポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼き付けして形成されたものである絶縁電線。
【請求項2】
前記ポリイミド前駆体のイミド化後のイミド基濃度が20.0%以上である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物である、請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記第2の絶縁層の厚みが、前記第1の絶縁層の厚みの8倍以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁電線を捲線してなる電機コイル。
【請求項6】
請求項5に記載の電機コイルを有するモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−234625(P2012−234625A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100291(P2011−100291)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】