説明

絶縁電線

【課題】 高絶縁特性、耐外傷性および高難燃性を有する絶縁電線を提供することにある。
【解決手段】 導体上に順次、PEまたは水浸漬100時間の体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがないポリオレフィン系樹脂からなる第1絶縁体層、EVA45〜55質量部、AEM35〜45質量部およびSEBエラストマー5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウムが250〜350質量部配合された難燃性樹脂組成物の第2絶縁体層、EVA60〜80質量部、SEEPS15〜25質量部、AEM5〜10質量部および酸変性LLDPE5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム50〜100質量部およびメラミンシアヌレート10〜30質量部からなる難燃剤の合計量が60〜130質量部となる範囲で配合した耐外傷性樹脂組成物の第3絶縁体層が形成された絶縁電線とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高絶縁性、耐外傷性並びに高難燃性を有する絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境等の問題から難燃性絶縁電線の被覆材料においても、従来のPVCやハロゲン系難燃剤に代えて、燃焼時にハロゲンガスの発生しない、いわゆるハロゲンフリーの被覆材料への転換が進められている。このようなハロゲンフリーの被覆材料としては、エチレン系単独重合体、エチレン系共重合体、エチレン・アクリルゴム等をベース樹脂成分とし、これに水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水和珪酸アルミニウム等の金属水和物系難燃剤を配合したものが知られている。しかし、前記エチレン系重合体などの樹脂成分は本質的に難燃性を有していないので、これを高度に難燃化しようとする場合、金属水和物系難燃剤を多量に配合することが必要であり、その結果、被覆材料の可とう性や機械特性が低下し、或いは脆くなって電線どうしの擦れや硬い器物の角との接触などにより外傷を受けやすくなるという問題がある。さらには、絶縁特性等の電気的特性にも問題があった。
【0003】
上記のような問題を改善するため、ポリオレフィン系樹脂に脂肪酸やシランカップリング剤で表面処理した金属水和物を配合して、難燃性、機械特性、電気絶縁特性を改善しようとする提案が特許文献1に記載されている。また、エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレン系共重合体、少なくとも一部が懸化されたエチレン・酢酸ビニル共重合体、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂をベース樹脂とし、これに架橋性シランカップリング剤で表面処理した金属水和物、メラミンシアヌレート化合物を配合し、これを被覆することによって絶縁電線の難燃性および機械特性を改善しようとする提案が特許文献2に記載されている。さらに、エチレン系共重合体にスチレン系のエラストマーやアクリルゴムを混合することによって機械特性を向上させ、金属水和物とメラミンシアヌレート化合物によって難燃性を改善しようとする提案が特許文献3に記載されている。
【0004】
上記した特許文献に記載されている被覆樹脂組成物や絶縁電線は、UL規格1581の垂直燃焼試験のVW−1規格に適合する難燃性を有し、また破断伸び、引張破断強度等の機械特性を満足させることができるとされている。しかしこれらの被覆樹脂組成物や絶縁電線は、いずれもベース樹脂100質量部に対して金属水和物系難燃剤100〜250質量部または150〜280質量部を配合してなるものであり、このように金属水和物系難燃剤を多量に配合すると、難燃性の向上には有効であるが可とう性の低下や脆さの増大を招き、特に電線どうしの擦れや硬い器物の角との接触等で被覆層に傷が生じやすく、いわゆる耐外傷性が悪いという問題がある。また絶縁特性上からも問題があった。
【特許文献1】特開2000−195336号公報
【特許文献2】特開2000−294036号公報
【特許文献3】特開2001−60414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明が解決しようとする課題は、高絶縁特性、耐外傷性および高難燃性を有する絶縁電線を提供することにある。特に、絶縁体層が比較的薄い層であっても前記の特性を有し、電子機器類用として有用な絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載されるように、導体上に、3層構造の絶縁体層が形成された絶縁電線であって、導体上から順次、ポリエチレン樹脂または水浸漬100時間の体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがないポリオレフィン系樹脂からなる第1絶縁体層、エチレン・酢酸ビニル共重合体45〜55質量部、エチレン・アクリルゴム35〜45質量部およびスチレン・エチレン・ブチレン共重合体エラストマー5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウムが250〜350質量部配合された難燃性樹脂組成物からなる第2絶縁体層、エチレン・酢酸ビニル共重合体60〜80質量部、スチレン・エチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体15〜25質量部、エチレン・アクリルゴム5〜10質量部および酸変性直鎖状低密度ポリエチレン5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム50〜100質量部およびメラミンシアヌレート10〜30質量部からなる難燃剤の合計量が60〜130質量部となる範囲で配合した耐外傷性樹脂組成物からなる第3絶縁体層が形成された絶縁電線とすることによって、解決される。
【0007】
また請求項2に記載されるように、前記絶縁体層の厚さは、各絶縁体層の合計厚さをTとした時に、第1絶縁体層は厚さが0.05mm以上でかつ<1/3T、第2絶縁体層は>1/3T、また第3絶縁体層が<1/3Tとなるように形成した請求項1に記載の絶縁電線とすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、導体上に3層構造の絶縁体層が形成された絶縁電線であって、導体上から順次、ポリエチレン樹脂(以下PE)または水浸漬100時間の体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがないポリオレフィン系樹脂からなる第1絶縁体層を形成したので高い絶縁特性を有し、またエチレン・酢酸ビニル共重合体(以下EVA)45〜55質量部、エチレン・アクリルゴム(以下AEM)35〜45質量部およびスチレン・エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(以下SEBエラストマー)5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウムが250〜350質量部配合された難燃性樹脂組成物からなる第2絶縁体層を形成したので、高難燃性、具体的にはノンハロゲンでUL規格1581のVW−1試験に合格すると共に、EVA60〜80質量部、スチレン・エチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体(以下SEEPS)15〜25質量部、AEM5〜10質量部および酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(以下酸変性LLDPE)5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム50〜100質量部およびメラミンシアヌレート10〜30質量部からなる難燃剤の合計量が60〜130質量部となる範囲で配合した耐外傷性樹脂組成物からなる第3絶縁体層を形成したので、高い耐外傷性を有する絶縁電線が得られる。
【0009】
また前記絶縁体層の厚さは、各絶縁体層の合計厚さをTとした時に、第1絶縁体層は厚さが0.05mm以上でかつ<1/3T、第2絶縁体層は>1/3T、また第3絶縁体層が<1/3Tとなるように形成したので、高絶縁特性、耐外傷性および高難燃性を有する電子機器類用の絶縁電線として有用となる。さらにこの絶縁電線は、第1絶縁体層としてポリオレフィン系樹脂を用いるので口出し作業性等にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1に記載の本発明は、導体上に、3層構造の絶縁体層が形成された絶縁電線であって、導体上から順次、PEまたは水浸漬100時間の体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがないポリオレフィン系樹脂からなる第1絶縁体層、EVA45〜55質量部、AEM35〜45質量部およびSEBエラストマー5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウムが250〜350質量部配合された難燃性樹脂組成物からなる第2絶縁体層、EVA60〜80質量部、SEEPS15〜25質量部、AEM5〜10質量部および酸変性LLDPE5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム50〜100質量部およびメラミンシアヌレート10〜30質量部からなる難燃剤の合計量が60〜130質量部となる範囲で配合した耐外傷性樹脂組成物からなる第3絶縁体層が形成された絶縁電線である。このような構成の絶縁電線とすることによって、高絶縁特性、耐外傷性および高難燃性を有する絶縁電線とすることができる。
【0011】
まず、導体上に形成される第1絶縁体層について説明する。この第1絶縁体層は、絶縁電線に高い絶縁特性を付与するものであるから、絶縁性能に優れた樹脂材料が使用される。すなわち、水浸漬100時間における体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがない樹脂が好ましく、PEやポリプロピレン(以下PP)、α−オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂が用いられる。」このような樹脂から第1絶縁体層を形成することによって、得られた絶縁電線は絶縁特性として、30℃の水道水に24時間浸漬したとの絶縁抵抗が、10MΩ・km以上の特性が得られる。
【0012】
つぎに第2絶縁体層として、難燃性に優れた樹脂組成物について説明する。この第2絶縁体層は、絶縁電線に高度な難燃性を付与するためのもので、難燃性に優れた難燃性樹脂組成物が使用される。すなわち、EVA45〜55質量部とAEM35〜45質量部およびSEBエラストマー5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、好ましくはシランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウム250〜300質量部配合された難燃性樹脂組成物である。ベース樹脂の一つとして使用されるEVAは、難燃性の点から酢酸ビニルの含有量が高いものが好ましいが、機械特性とのバランスから適宜選択して用いる。一例としては、酢酸ビニル含有量22~47質量%、好ましくは25〜42質量%でMFR(メルトマスフローレート)が0.1〜20g/10min(190℃、2.16kg)、好ましくは0.1〜3のEVAである。このようなEVAは、例えば三井・デュポンポリケミカル社製の商品名EV180などが挙げられる。そしてEVAは、ベース樹脂中に45〜55質量部の範囲で配合される。その配合量が45質量部未満では機械強度が不足し、また55質量部を超えると難燃性が不足するためである。
【0013】
また、ベース樹脂として用いるAEMの配合量は35〜45質量部とする。配合量が35質量部未満では難燃性が不足となり、また45質量部を超えると機械強度が不足となるためである。さらに、ベース樹脂として用いるSEBエラストマーの配合量は5〜10質量部であり、配合量が5質量部未満では機械強度が不足し、10質量部を超えると難燃性が不足する。このようなSEBエラストマーとしては、スチレンの含有量が15〜35質量%のものが好ましい。具体的な一例としては、日本合成ゴム社製の商品名ダイナロン4630Pを挙げることができる。
【0014】
そして、前述のベース樹脂には難燃性と機械特性を向上させるために、ベース樹脂100質量部に対し水酸化マグネシウムが250〜300質量部添加される。なお水酸化マグネシウムは、好ましくは平均粒径が0.3μm以下の微粒子水酸化マグネシウムをシランカップリング剤で表面処理したものが使用される。さらに、平均粒径が0.3μm以下の微粒子水酸化マグネシウムをシランカップリング剤で表面処理したものを180〜250質量部、平均粒径が0.3μm以下の微粒子水酸化マグネシウムを50〜120質量部の割合範囲とし、これを250〜300質量部となるように配合しても良い。このように2種類の水酸化マグネシウムの組合せによって、ベース樹脂中に隙間なく水酸化マグネシウムを分散できるので、引張り時のクレーズ(欠陥)の発生を防止でき、得られた難燃性樹脂組成物は、特に破断強度や破断伸び等の機械特性が大幅に向上される。なお、水酸化マグネシウムの配合量が250質量部未満では、UL規格1581のVW−1試験に合格する高度な難燃性が得られず、また300質量部を超えると可とう性等の機械特性が著しく低下するようになり好ましくない。
【0015】
以上の難燃性樹脂組成物は、構成各成分の所定量をドライブレンドし二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の通常用いられる混練機で溶融混練し、ついで通常用いられる押出成形機を用いて導体上に押出被覆することによって、絶縁電線の第2絶縁体層を形成できる。またこの難燃性樹脂組成物には必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、銅害防止剤、顔料、滑剤、相溶化剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合しても良く、また場合により他の難燃助剤(赤燐、ポリ燐酸化合物、ヒドロキシ錫酸亜鉛等)を併用しても良い。
【0016】
つぎに、第3絶縁体層を形成する耐外傷性に優れた樹脂組成物について説明する。この耐外傷性樹脂組成物は、耐外傷性のみではなく難燃性も考慮することが好ましいので、耐外傷性に優れたベース樹脂と難燃剤によって構成される。ベース樹脂の一つとして使用されるEVAは、難燃性の点からは酢酸ビニルの含有量が高いものが好ましいが、機械特性とのバランスから適宜選択して用いる。一例としては、酢酸ビニル含有量22~47質量%、好ましくは25〜42質量%でMFR(メルトマスフローレート)が0.1〜20g/10min(190℃、2.16kg)、好ましくは0.1〜3g/10minのEVAである。このようなEVAとしては、例えば三井・デュポンポリケミカル社製の商品名EV180などが挙げられる。そしてEVAは、ベース樹脂中に60〜80質量部の範囲で配合される、その配合量が60質量部未満では機械強度が不足し、また80質量部を超えると難燃性が不足すると共に、柔軟性も低下するので前記範囲とされる。
【0017】
また、ベース樹脂の一つとして用いるSEEPSは、スチレンの含有量が20質量%以上のものが好ましい。このようなSEEPSの具体例としては、クラレ社製の商品名セプトン4033などである。そしてSEEPSの配合量は、ベース樹脂中に15〜25質量部とする。配合量が15質量部未満では機械強度が不足し、また25質量部を超えると難燃性が不足するためである。
【0018】
さらにベース樹脂として使用するAEMは、エチレンの重合体ブロックとメチルアクリレートの重合体ブロックからなるブロック重合体であり、一例としては、三井・デュポンポリケミカル社製の商品名VAMAC DPなどが挙げられる。そしてAEMの配合量は、ベース樹脂中に5〜10質量部とする。その配合量が5質量部未満では、難燃性が不足すると共に柔軟性が低下する。また、10質量部を超えると機械強度が不足するので前記範囲とされる。
【0019】
またベース樹脂の一つである酸変性LLDPEは、直鎖状低密度ポリエチレンや直鎖状超低密度ポリエチレン等の密度が0.93g/cm以下のポリエチレンを、マレイン酸、無水マレイン酸等で変性してなるものであり、中でも直鎖状超低密度ポリエチレンをマレイン酸変性してなるものが好ましい。そして酸変性LLDPEの配合量は、5〜10質量部の範囲であり、配合量が5質量部未満では水酸化マグネシウムのベース樹脂中への分散性の改善効果が小さく、機械特性等に及ぼす向上効果も期待できない。また10質量部を超えると破断伸びが不足し、柔軟性も低下すると共に、導体との密着力が強くなり過ぎて、絶縁電線の接続作業等の口出し性が悪くなるので好ましくない。以上の耐外傷性組成物によれば、R=0.5のダイヤモンド圧指、荷重100gによる引掻き試験を行なっても白化が見られない耐外傷性が得られる。
【0020】
以上のベース樹脂には難燃性を向上させるために、ベース樹脂100質量部に対して水酸化マグネシウム50〜100質量部とメラミンシアヌレート10〜30質量部の割合範囲の難燃剤を、60〜130質量部配合して難燃性も付与した耐外傷性樹脂組成物とする。そして水酸化マグネシウムは、天然水酸化マグネシウム、合成水酸化マグネシウム等が用いられるが、中でも合成水酸化マグネシウムを用いるのが好ましい。また、その粒子径等について特に制限はないが、粒子径が5μm以下で平均粒子径2〜4μmとするのが樹脂に対する分散性等から好ましい。なお水酸化マグネシウムの配合量が50質量部未満では、難燃性が十分でなく、また100質量部を超えると、耐外傷性樹脂組成物が硬くなりすぎ、第3絶縁体層としての耐外傷性を低下させるようになる。水酸化マグネシウムと併用するメラミンシアヌレートは、10〜30質量部の範囲で配合される。配合量が10質量部未満では難燃性の改善効果が期待できず、また30質量部を超えると破断伸び等の機械強度の低下や、被覆層として外観が悪くなる。このように水酸化マグネシウムとメラミンシアヌレートを併用することによって、水酸化マグネシウムを単独で配合する場合に比較して、同部数の配合でより高い難燃化の効果が得られる。また、両者はそれぞれの配合量範囲において、ベース樹脂100質量部に対して60〜130質量部となるように配合される。このような配合量とするのは、60質量部未満では耐外傷性は良好となるが難燃性に劣るようになり、また130質量部を超えると耐外傷性が劣るようになるためである。
【0021】
なお、この水酸化マグネシウムも、シランカップリング剤によって表面処理することが好ましい。シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。表面処理の方法としては、水酸化マグネシウムとシランカップリング剤を混合し、或いは混練することにより行なうことができる。また前記シランカップリング剤は、水酸化マグネシウムに対して0.1〜5質量%の範囲で用いるのが好ましい。このような表面処理水酸化マグネシウムは、耐外傷性樹脂組成物中への分散性が改善され、外層として被覆する際の押出加工性に優れると共に、機械特性を向上させ難燃性をさらに高めることになる。
【0022】
以上の難燃性を有する耐外傷性樹脂組成物は、各ベース樹脂および難燃剤の所定量を、ドライブレンドし、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の通常用いられる混練機で溶融混練することによって得られる。またこの耐外傷性樹脂組成物には、必要に応じて他の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、銅害防止剤、顔料、滑剤、相溶化剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合しても良く、また、場合により他の難燃助剤(赤燐、ポリ燐酸化合物、ヒドロキシ錫酸亜鉛等)を併用しても良い。そして以上の3層構造の絶縁体層は、通常各層の合計厚さとして0.9mm以下程度とされる。またこの絶縁電線は、電子線照射等によって架橋を行なっても良い。機械特性が向上されると共に、耐熱性や耐外傷性をさらに向上することができる。
【0023】
このような3層の絶縁体層を形成した絶縁電線は、請求項2に記載されるように、前記絶縁体層の厚さを各層の合計厚さをTとした時に、第1絶縁体層が、厚さが0.05mm以下でかつ<1/3T、第2絶縁体層が>1/3T、第3絶縁体層が<1/3Tとなるように厚さを形成することによって、高絶縁特性、耐外傷性および高難燃性を有する電子機器類用の絶縁電線として有用となる。また、第1絶縁体層にポリオレフィン系の樹脂を用いているので、口出し作業性等にも優れた絶縁電線となる。
【0024】
すなわち、3層の絶縁体層の合計厚さをTとした時に、特に第2絶縁体層をその他の層よりも十分厚く(1/3Tを超える厚さ)することによって、特に高い難燃性が得られ、第1絶縁体層および第3絶縁体層と共に、絶縁特性並びに耐外傷性を十分維持することができるようになる。なお絶縁体層の厚さTは、通常0.09mm程度以下とされる。図1によって説明する。1は導体で、銅、銅合金などの単線または撚り線によって構成され、導体径は通常0.3〜3.1mm程度のものである。2は第1絶縁体層の絶縁体層で、その厚さは0.05mm以上でかつ1/3Tよりも薄く形成される。このことによって、絶縁電線の絶縁特性として、30℃の水道水に24時間浸漬したとの絶縁抵抗が10MΩ・km以上の特性が得られる。3は第2絶縁体層の絶縁体層で、1/3Tを超える厚さとすることによって、高難燃性、具体的にはUL規格1581のVW−1試験に合格する難燃性が得られる。4は第3絶縁体層の絶縁体層で、1/3Tよりも薄く形成することによって、R=0.5のダイヤモンド圧指、荷重100gによる引掻き試験を行なっても白化が見られない耐外傷性が得られることになる。さらには、第1絶縁体層にポリオレフィン系樹脂を用いたことにより、口出し作業性等にも優れた絶縁電線となる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例、比較例を示して本発明の効果を述べる。実施例を示す表1或いは比較例を示す表2に記載の絶縁電線を作製した。すなわち、表1および表2に記載した各材料をブレンドし、バンバリーミキサーを用いて160〜190℃で溶融混練し、第2絶縁体層および第3絶縁体層用の樹脂組成物を、AWG26(7/0.16TA)導体上に形成した0.08mm厚さの第1絶縁体層の上に、順じ0.27mm(第2絶縁体層)、0.05mm(第3絶縁体層)厚さに被覆した。なお、第1絶縁体層のPEは日本ユニカー社のLLDPE、ポリオレフィン系樹脂としてはプライムポリマー社のJ232WA(PP、MFRが1.5)を、また第2絶縁体層および第3絶縁体層用の樹脂としては、EVAとして三井・デュポンケミカル社製の商品名EV180、AEMとして三井・デュポンケミカル社製の商品名VAMAC DP、SEBエラストマーとして日本合成ゴム社製の商品名ダイナロン4630P、SEEPSとしてはクラレ社製の商品名セプトン4033、酸変性LLDPEは、日本ポリエチレン社製の商品名アドテックスL6100Mを使用した。また水酸化マグネシウムは、シランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとして協和化学社製のキスマ5Pおよびキスマ5Lを使用した。さらに、酸化防止剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製のイルガノックス1010を、メラミンシアヌレートは日産化学社製の商品名MC−860をそれぞれ使用した。
【0026】
上記の絶縁電線について、破断強度および破断伸びをUL規格1581により測定し、破断強度は10.3MPa以上、破断伸びは150%以上のものを合格、それ以外を不合格として記載した。また耐外傷性については、R=0.5mmのダイヤモンド圧指、荷重100gによる引掻き試験を行ない被覆層の白化の有無を判定した。白化が見られないものを合格、白化が見られるものを不合格として記載した。さらに難燃性として、UL規格1581の垂直燃焼試験のVW−1試験を行ない、この試験をクリアしたものを合格とした。また、絶縁特性として30℃の水道水に24時間浸漬した後の絶縁抵抗を測定し、絶縁抵抗が10MΩ・km以上を合格とした。実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
結果は、表1の実施例から明らかなとおり、導体上に3層構造の絶縁体層が形成された絶縁電線として、導体上に、PEまたは水浸漬100時間の体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがないポリオレフィン系樹脂からなる第1絶縁体層を形成し、またEVA45〜55質量部、AEM35〜45質量部およびSEBエラストマー5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウムが250〜350質量部配合された難燃性樹脂組成物からなる第2絶縁体層を形成し、EVA60〜80質量部、SEEPS15〜25質量部、AEM5〜10質量部および酸変性LLDPE5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム50〜100質量部およびメラミンシアヌレート10〜30質量部からなる難燃剤の合計量が60〜130質量部となる範囲で配合した耐外傷性樹脂組成物からなる第3絶縁体層を形成したので、優れた高絶縁特性を有し、高難燃性、具体的にはノンハロゲンでUL規格1581のVW−1試験に合格すると共に、高い耐外傷性を有する絶縁電線が得られることが判る。
【0030】
詳細に説明する。実施例1〜12に示されるように、第1絶縁体層にPEを施し、第2絶縁体層として、EVAが45〜55質量部、AEMが35〜45質量部、SEBエラストマーが5〜10質量部に、キスマ5Lを250〜300質量部の範囲で配合した難燃性樹脂組成物を用い、また第3絶縁体層として、EVAが60〜80質量部、SEEPSが15〜25質量部、AEMが5〜10質量部、酸変性LLDPE5〜10質量部に、キスマ5Pを50〜100質量部並びにメラミンシアヌレート10〜30質量部の割合で、合計量が60〜130質量部配合した耐外傷性樹脂組成物を形成した絶縁電線は、絶縁抵抗が10MΩ・km以上であり、耐外傷性については傷ないし傷による白化は認められず、また破断強度が10.3MPa以上、破断伸びは150%以上であった。さらに難燃性に関しても、UL規格1581に規定されているVW−1規格に合格する優れた難燃性を示した。また、実施例13として記載した第1絶縁体層に体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがないポリオレフィン系樹脂を使用した絶縁電線も、絶縁抵抗が10MΩ・km以上であり、傷ないし傷による白化が認められない耐外傷性を有し、破断強度が10.3MPa以上、破断伸びは150%以上で、難燃性に関しても、UL規格1581に規定されているVW−1規格に合格する優れた難燃性の絶縁電線であった。またこれ等の絶縁電線は、口出し作業性等にも優れていた。
【0031】
これに対し、表2の比較例1〜11に示した本発明範囲から外れた例の場合には、絶縁特性、破断強度、破断伸び、難燃性並びに耐外傷性のいずれかが不合格となった。すなわち、比較例1のように第2絶縁体層の水酸化マグネシウムの配合量が240質量部と少ないと、難燃性に合格しなかった。また比較例2のように水酸化マグネシウムの総量が360質量部となると、破断伸びが不合格となった。さらに比較例3のように第2絶縁体層のEVA量が45質量部と少なく、AEMが50質量部と多いと、破断強度不合格となった。また比較例4に示されるように、AEMが30質量部と少ないと難燃性が不合格となり、さらに比較例5に示されるように第3絶縁体層のEVAが45質量部で、酸変性LLDPEが20質量と多いと、破断伸びが不合格となる。また比較例6のように第3絶縁体層に酸変性LLDPEを添加しない場合には、破断強度が不合格となる。さらに比較例7および8のように、第3絶縁体層のSEEPSの添加量が少ないと、耐外傷性並びに破断強度が不合格となる。また比較例9にように、第3絶縁体層のキスマ5Pの添加量が多く、メラミンシヌレートの添加量が少ないと、耐外傷性が不合格となる。また比較例10のように、第2絶縁体層のSEBエラストマーの添加量が多いと、難燃性が不合格となる。さらにまた比較例11にように、第1絶縁体層がポリオレフィン系樹脂の場合も第3絶縁体層のEVAの添加量が少なく、SEEPSの添加量が多いと難燃性が不合格となることが判った。
【0032】
つぎに、表3に記載した各絶縁体層の厚さを種々変えた絶縁電線を作製して、その特性を調べた。すなわち、第1絶縁体層のPEは日本ユニカー社のLLDPEを、また第2絶縁体層および第3絶縁体層用の樹脂としては、EVAとして三井・デュポンケミカル社製の商品名EV180、AEMとして三井・デュポンケミカル社製の商品名VAMAC DP、SEBエラストマーとして日本合成ゴム社製の商品名ダイナロン4630P、SEEPSとしてはクラレ社製の商品名セプトン4033、酸変性LLDPEは、日本ポリエチレン社製の商品名アドテックスL6100Mを使用した。また水酸化マグネシウムは、シランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとして協和化学社製のキスマ5Pおよびキスマ5Lを使用した。さらに、酸化防止剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製のイルガノックス1010を、メラミンシアヌレートは日産化学社製の商品名MC−860をそれぞれ使用した各種樹脂組成物を用い、全体の絶縁体層(T)の厚さを0.8mmとし、第1絶縁体層、第2絶縁体層および第3絶縁体層の厚さをそれぞれ変えて種々の絶縁電線を作製した。この絶縁電線について表1および表2と同様に、破断強度、破断伸び、耐外傷性、難燃性および絶縁特性の試験を行なった。結果を表3に示した。
【0033】
【表3】

【0034】
表3の実施例から明らかなとおり、絶縁体層の各層の合計厚さをT(0.8mm)とした時に、第1絶縁体層が<1/3T、第2絶縁体層が>1/3T、第3絶縁体層が<1/3Tとなるように形成することにより、高絶縁特性、耐外傷性および高難燃性の絶縁電線が得られることが判る。すなわち、実施例14〜19として記載したように、各絶縁体層の厚さが前記条件の範囲内の場合は、絶縁抵抗が10MΩ・km以上であり、耐外傷性については傷乃至傷による白化は認められず、また破断強度が10.3MPa以上、破断伸びは150%以上であった。さらに難燃性に関しても、UL規格1581に規定されているVW−1規格に合格する優れた難燃性を示した。さらにこの絶縁電線は、口出し作業性等にも優れていた。これに対して、比較例12のように第1絶縁体層、第2絶縁体層および第3絶縁体層の厚さを全て同じにすると、難燃性が不合格となる。また比較例13のように、第1絶縁体層の厚さを第2絶縁体層の厚さよりも厚くすると、やはり難燃性が不合格となる。さらに比較例14のように、第3絶縁体層の厚さを第2絶縁体層の厚さよりも厚くすると、比較例1や2と同様に難燃性が不合格となる。
【0035】
さらに、特に絶縁特性を確認するために第1絶縁層の厚さについて検討した。すなわち、第4表に示す構成の絶縁電線を作製してその特性を調べた。各絶縁体層は、表3に示した絶縁材料を用い第3絶縁体層の厚さを0.2mmで一定にし、第1絶縁体層の厚さを変えて絶縁電線を作製した。また、第1および第2絶縁体層の厚さの合計が0.6mmとなるように第2絶縁体層の厚さを調整した。この絶縁電線について表3と同様に、破断強度、破断伸び、耐外傷性、難燃性および絶縁特性の試験を行なった。結果を表4に示した。
【0036】
【表4】

【0037】
表4の実施例20および21から明らかなとおり、第1絶縁体層の厚さは0.05mm以上とすることが好ましいことが判る。すなわち比較例15に示すように、第1絶縁体層の厚さが0.04mmであると、絶縁抵抗が10MΩ・km未満となって不合格となるためである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の絶縁電線は、優れた絶縁特性とノンハロゲンの高難燃性を有すると共に、耐外傷性にも優れているので、特に電子機器等に用いられる絶縁配線として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の絶縁電線の概略断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 導体
2 第1絶縁体層
3 第2絶縁体層
4 第3絶縁体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体上に、3層構造の絶縁体層が形成された絶縁電線であって、導体上から順次、ポリエチレン樹脂または水浸漬100時間の体積抵抗率が1×1014Ω・cmを下回ることがないポリオレフィン系樹脂からなる第1絶縁体層、エチレン・酢酸ビニル共重合体45〜55質量部、エチレン・アクリルゴム35〜45質量部およびスチレン・エチレン・ブチレン共重合体エラストマー5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウムが250〜350質量部配合された難燃性樹脂組成物からなる第2絶縁体層、エチレン・酢酸ビニル共重合体60〜80質量部、スチレン・エチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体15〜25質量部、エチレン・アクリルゴム5〜10質量部および酸変性直鎖状低密度ポリエチレン5〜10質量部からなるベース樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム50〜100質量部およびメラミンシアヌレート10〜30質量部からなる難燃剤の合計量が60〜130質量部となる範囲で配合した耐外傷性樹脂組成物からなる第3絶縁体層が形成されたことを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記絶縁体層の厚さは、各絶縁体層の合計厚さをTとした時に、第1絶縁体層は厚さが0.05mm以上でかつ<1/3T、第2絶縁体層は>1/3T、また第3絶縁体層が<1/3Tとなるように形成したことを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−52983(P2007−52983A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236590(P2005−236590)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】