説明

絶縁電線

【課題】再生可能なバイオマス資源を用いて環境負荷の低減を図ることができるとともに、バイオマス資源を用いた場合においても耐水性に優れる絶縁電線を提供すること。
【解決手段】導体と、導体の外周を被覆する絶縁体とを備えた絶縁電線において、絶縁体が、バイオエタノールを原料とする植物由来のポリエチレンと塩化ビニル樹脂とを含有する樹脂組成物よりなる。植物由来のポリエチレンのASTM D1238に準拠して測定される190℃、21.18Nにおけるメルトフローレイトは、0.1〜50g/10分の範囲内であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関するものであり、さらに詳しくは、自動車、電気・電子機器等に好適な絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車や電気・電子機器等に配線される絶縁電線には、ポリオレフィンなどの化石資源(石油資源)を原料とする樹脂を絶縁体(絶縁被覆)に用いたものが知られている。周知の通り、化石資源は限りある資源である。また、化石資源から生産された製品を焼却廃棄すると、大気中のCO濃度の上昇に繋がる。
【0003】
最近、地球環境への配慮から、バイオマス資源が注目されている。バイオマス資源は、植物等の現生生物由来の、比較的短期間で再生可能な資源である。また、バイオマス資源に含まれる炭素は、そのバイオマスが成長過程で光合成により大気中から吸収されたCOに由来するため、バイオマス資源は大気中のCO濃度のバランスを維持する面を有する。さらに、バイオマス資源の多くは生分解性を有するため、バイオマス資源から生産されたバイオマスプラスチック製品は、使用後に埋め立て処理できる場合がある。なにより、バイオマス資源を用いることで化石資源の使用量を低減できる。したがって、バイオマス資源を用いることにより、環境負荷の低減を図ることができる。
【0004】
従来、このようなバイオマスプラスチックは、その機械特性から、主に成形部品に用いる試みはなされているものの、自動車等の電線分野で用いる試みはあまりなされていない(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−191547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車等の電線分野でバイオマスプラスチックを用いる場合には、電線を配策する場所の特殊性から、電線として求められる各種機械特性の他、耐水性を備えていることが求められる。しかしながら、バイオマスプラスチックは、ポリエステルやセルロースからなるものが多く、これらのものは、その分子構造から十分な耐水性を備えていないのが現状である。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、再生可能なバイオマス資源を用いて環境負荷の低減を図るとともに、バイオマス資源を用いた場合においても耐水性に優れる絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る絶縁電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁体とを備えた絶縁電線において、前記絶縁体が、バイオエタノールを原料とする植物由来のポリエチレンと塩化ビニル樹脂とを含有する樹脂組成物よりなることを要旨とするものである。
【0009】
この際、前記植物由来のポリエチレンのASTM D1238に準拠して測定される190℃、21.18Nにおけるメルトフローレイトが0.1〜50g/10分の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る絶縁電線によれば、バイオエタノールを原料とする植物由来のポリエチレンと塩化ビニル樹脂とを含有する樹脂組成物により絶縁体が構成されているため、環境負荷の低減を図ることができる。また、この植物由来のポリエチレンは、バイオエタノールを原料としているが、ポリエステルやセルロースからなるバイオマスプラスチックとは異なり、加水分解しにくく、耐水性を有する。したがって、バイオマスプラスチックを用いた場合においても耐水性に優れる。
【0011】
この際、植物由来のポリエチレンのASTM D1238に準拠して測定される190℃、21.18Nにおけるメルトフローレイトが特定の範囲内であると、ともに用いる塩化ビニル樹脂との相溶性が高くなるため、耐寒性を低下させにくくできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周を被覆する絶縁体とを備える。導体は、金属線、金属撚線などにより構成される。導体の金属としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを挙げることができる。
【0014】
絶縁体は、植物由来のポリエチレンと塩化ビニル樹脂とを含有する特定の樹脂組成物(以下、本組成物ということがある。)よりなる。
【0015】
植物由来のポリエチレンは、バイオエタノールを原料とするものである。バイオエタノールは、例えばさとうきびの搾りかすなどの植物残渣を発酵させることにより得ることができる。植物由来のポリエチレンは、バイオエタノールを脱水させて得られたエチレンを重合させることにより得ることができる。
【0016】
植物由来のポリエチレンは、原油由来のものではないため、カーボンニュートラルの観点から、二酸化炭素の増加を抑えるものである。植物由来のポリエチレンは、植物由来のものではあるが、ポリエチレンであるため、生分解性がない。このため、生分解性の他のバイオマスプラスチックと比べて、耐久性に優れる。また、耐水性にも優れる。
【0017】
植物由来のポリエチレンであることは、年代測定法のひとつである炭素14法を用いて、ポリエチレンに含まれる炭素14(14C)の割合を調べることにより確認できる。すなわち、植物由来のものである場合には、ポリエチレン中の炭素14の割合は大気中や海水中の割合とほぼ等しいものとなる。一方、原油由来のポリエチレンである場合には、化石資源の年代により異なるが、ポリエチレン中の炭素14の割合は大気中や海水中の割合よりもはるかに少ない割合となる。
【0018】
植物由来のポリエチレンとしては、具体的には、例えばブラスケン社のSHA7260、SHC7260、SHD7255LSL、SGF4950、SHE150、SLL118、SLL218、SLL318、SLH218、SGM7746C、SHB7260などを挙げることができる。これらは単独で用いることもできるし、2つ以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
植物由来のポリエチレンは、ASTM D1238に準拠して測定される190℃、21.18Nにおけるメルトフローレイトが0.1〜50g/10分の範囲内であることが好ましい。植物由来のポリエチレンのメルトフローレイトが特定の範囲内であると、ともに用いる塩化ビニル樹脂との相溶性が高くなるため、耐寒性を低下させにくくできる。この観点から、より好ましくは0.2〜45g/10分の範囲内、さらに好ましくは0.5〜10g/10分の範囲内である。
【0020】
例示する植物由来のポリエチレンのメルトフローレイトは、次の通りである。すなわち、SHA7260:20g/10分、SHC7260:7.2g/10分、SHD7255LSL:4.5g/10分、SGF4950:0.34g/10分、SHE150:1.0g/10分、SLL118:1.010分、SLL218:2.3g/10分、SLL318:2.7g/10分、SLH218:2.3g/10分、SGM7746C:0.08g/10分、SHB7260:53g/10分である。
【0021】
植物由来のポリエチレンとともに用いる塩化ビニル樹脂は、市販のものを用いることができる。このようなものとしては、昭和電工社製「エラスレン」シリーズや、大洋塩ビ社製「リューロン」シリーズなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
塩化ビニル樹脂は、可塑剤を含有していても良い。可塑剤としてはジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジイソデシルフタレート(DINP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)などを挙げることができる。
【0023】
本組成物は塩化ビニル樹脂を含有することから、耐水性の低下を抑えることができるとともに、難燃性も良好である。このため、難燃剤を配合しなくても、自動車等の車両に用いられる絶縁電線として求められる難燃性を十分に確保することができる場合がある。あるいは、難燃剤の配合量を極力減らすことができる。したがって、難燃剤の配合によるコストの上昇を抑えることができる。
【0024】
このような難燃性を確保する観点から、塩化ビニル樹脂の含有量は、本組成物の樹脂成分中における割合として、10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、塩化ビニル樹脂の含有量の上限値としては、特に限定されるものではないが、再生可能なバイオマス資源を用いて環境負荷の低減を図る観点から、本組成物の樹脂成分中における割合として、90質量%以下であることが好ましい。より好ましくは85質量%以下である。
【0025】
本組成物中には、上記樹脂成分以外に、物性を損なわない範囲で、必要に応じて、他の樹脂成分を含有していても良い。他の樹脂成分としては、他のオレフィン系樹脂を挙げることができる。他のオレフィン系樹脂としては、原油由来のものを挙げることができる。このような他のオレフィン系樹脂を含む場合にも、耐水性の低下は抑えられる。
【0026】
他のオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや、エチレン−ビニル酢酸共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のエチレン共重合体、プロピレン−ビニル酢酸共重合体、プロピレン−アクリル酸エチル共重合体等のプロピレン共重合体などを挙げることができる。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセンポリエチレンなどを挙げることができる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなどを挙げることができる。他のオレフィン系樹脂は、酸無水物やカルボン酸等により変性されていても良いし、変性されていなくても良い。
【0027】
他のオレフィン系樹脂としては、耐摩耗性に優れる組成物が得られるなどの観点から、ポリプロピレンである。特に好ましくは、耐寒性と耐摩耗性とのバランスに優れる組成物が得られるなどの観点から、ポリプロピレンのうちでも、ポリエチレンとのブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)である。
【0028】
植物由来のポリエチレンの含有量は、特に限定されるものではないが、本組成物の樹脂成分中における割合として、10〜50質量%程度であれば良い。本組成物は、植物由来のポリエチレンを含有するため、環境負荷の低減に貢献できる。
【0029】
本組成物中には、上記成分以外に、物性を損なわない範囲で、必要に応じて、添加剤を適宜配合することができる。添加剤としては、例えば、難燃剤、酸化防止剤、銅害防止剤(金属不活性化剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、加工助剤(ワックスなど)、顔料、相溶化剤、可塑剤などを挙げることができる。
【0030】
本組成物の添加剤として配合可能な難燃剤としては、特に限定されるものではない。例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物、メラミンイソシアヌレートなどの窒素系難燃剤、エチレンビス(テトラブロモベンゼン)、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)などのハロゲン系難燃剤などを挙げることができる。これらの難燃剤の配合量は、適宜定めることができる。
【0031】
本発明に係る絶縁電線は、例えば、導体の外周に本組成物を押出成形するなどして製造することができる。本組成物の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、本組成物の必須成分および任意添加成分をバンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸混練押出機、ロール等の通常の混練機で溶融混練して均一に分散することで、本組成物を調製することができる。
【0032】
以上の構成の本発明に係る絶縁電線においては、絶縁体を構成する材料にバイオマス資源から得られるポリエチレンを用いているため、従来の絶縁電線と比較して、化石資源の使用量を低減できる。また、バイオマス資源は、化石資源と比較して、比較的短期に再生可能な資源であり、カーボンニュートラルな性質を有する。したがって、本発明に係る絶縁電線によれば、従来よりも環境負荷の低減を図ることができる。
【0033】
また、本発明においては、バイオマス資源から得られるポリエチレン自体が耐水性を有するものであるため、絶縁体を構成する材料にバイオマス資源を用いたときにも、絶縁体の耐水性を低下させないようにすることができる。併せて、絶縁体を構成する材料に塩化ビニル樹脂を用いているため、絶縁体の耐水性を低下させず、優れた耐水性を示す。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0035】
(実施例1〜13)
表1に記載の成分組成(質量部)となるように、植物由来のポリエチレン成分、塩化ビニル樹脂成分、添加剤を加え、二軸混練機を用いて200℃で混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを押出成形機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積:0.5mm)の外周に0.2mm厚で押出して、樹脂組成物からなる絶縁体により導体が被覆された実施例1〜13に係る絶縁電線を得た。
【0036】
(比較例1〜7)
表2に記載のバイオマスプラスチックと添加剤を用いて絶縁体の組成物を形成し、実施例と同様にして、比較例1〜7に係る絶縁電線を得た。
【0037】
実施例及び比較例で得られた絶縁電線を用いて、耐寒性試験及び耐水性試験を行った。試験の結果を表1〜2に示す。耐寒性試験方法及び耐水性試験方法は下記の通りである。
【0038】
〔耐寒性試験方法〕
JIS C3005に準拠して行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を38mmの長さに切断し試験片とし、試験片を耐寒性試験機に装着し、所定の温度まで冷却し、打撃具で打撃して、試験片の打撃後の状態を観察した。5本の試験片を用いて、5本の試験片が全て割れた温度を耐寒温度とした。
【0039】
〔耐水性試験方法〕
ISO6722に準拠して、実施例、比較例の絶縁電線を80℃の温水に5週間浸漬した後、絶縁体の絶縁抵抗値を測定した。絶縁抵抗値が1×10Ω・mm以上であったものを合格「○」とし、絶縁抵抗値が1×10Ω・mm未満であったものを不合格「×」とした。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
(植物由来のポリエチレン成分)
いずれもブラスケン社製
・SHA7260:MFR=20g/10分
・SHC7260:MFR=7.2g/10分
・SHD7255LSL:MFR=4.5g/10分
・SGF4950:MFR=0.34g/10分
・SHE150:MFR=1.0g/10分
・SGM7746C:0.08g/10分
・SHB7260:53g/10分
【0043】
(塩化ビニル樹脂成分)
・エラスレン301A、303B:昭和電工社製
・リューロンE−1700、E−2200:大洋塩ビ社製
【0044】
(他のバイオマスプラスチック成分)
・ポリ乳酸(V351X51):東レ社製
・ポリ乳酸(V554R10):東レ社製
・ポリ乳酸(TCA8070MN):ユニチカ社製
・酢酸セルロース(15300−26):ダイセル社製
・酢酸セルロース(15300−31):ダイセル社製
・ポリブチレンスクシネート(NF01U):ケミテック社製
・ポリブチレンスクシネート(ビオノーレ1020):昭和高分子社製
【0045】
(添加剤成分)
・酸化防止剤(イルガノックス1010):チバスペシャリティケミカルズ社製
【0046】
比較例は、樹脂成分が、ポリ乳酸、酢酸セルロース、ポリブチレンスクシネートからなるバイオマスプラスチック成分のみからなるものであるため、耐水性に劣っている。これに対し、実施例は、樹脂成分が、植物由来のポリエチレン成分と塩化ビニル樹脂成分とを含有するものからなるため、耐寒性を維持しつつ、耐水性にも優れることが分かる。
【0047】
したがって、本発明に係る絶縁電線によれば、再生可能なバイオマス資源を用いて環境負荷の低減を図ることができるとともに、この場合においても耐水性に優れる絶縁電線が得られることが確認できた。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁体とを備えた絶縁電線において、
前記絶縁体が、バイオエタノールを原料とする植物由来のポリエチレンと塩化ビニル樹脂とを含有する樹脂組成物よりなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記植物由来のポリエチレンのASTM D1238に準拠して測定される190℃、21.18Nにおけるメルトフローレイトが0.1〜50g/10分の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2012−182034(P2012−182034A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44607(P2011−44607)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】