説明

絶縁電線

【課題】架橋ポリ乳酸の層を有する耐熱性に優れた絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体部11と、この導体部11を被覆する被覆部12とを備え、被覆部12は架橋ポリ乳酸を含む外層(第1の層)12bと、この外層12bの内側に位置し、エチレン系ポリマを含む内層(第2の層)12aとを積層してなる絶縁電線10。前記エチレン系ポリマは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−アクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂のうちのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁電線及び絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁電線の被覆材に、ポリ乳酸を含む絶縁組成物からなる絶縁材料を用いることが検討されている(特許文献1参照)。ポリ乳酸は、トウモロコシ又はサトウダイコン等の植物から得られるデンプン或いは糖類を発酵して製造される乳酸を化学重合させてできる熱可塑性の樹脂で、環境に優しく、しかも絶縁特性に優れる。
【0003】
ポリ乳酸を被覆材とした絶縁電線を製造するにあたり、ポリ乳酸は融点が170℃であり、通常被覆電線に使用するポリエチレン等に比べて高いが、融点より高い温度では水飴状に溶融することから、溶融を防止し、樹脂に耐熱性を付与する目的で、ポリ乳酸を架橋することが検討されている。ポリ乳酸を架橋する方法として、一般にポリエチレンの架橋剤として使用されている有機過酸化物、例えばジクミルパーオキサイド(DCP)を使用する方法がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−358829号公報
【特許文献2】特開2004−217288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、DCPの1分半減値温度は175℃であり、ポリ乳酸の融点より高いため、ポリ乳酸を混練する過程でDCPを加えると、押出機の中でDCPが分解してポリ乳酸の架橋反応が進行する。このため、架橋ポリ乳酸が押出機内に滞留し、この滞留した樹脂によってブレーカープレートやスクリーンメッシュが目詰まりを起こすため、長尺な被覆電線を製造することは難しい。また、押出機内で樹脂が固化して塊ができ、被覆電線表面に凹凸ができる場合がある。さらに、架橋剤の量を増やすと押出機から樹脂を押し出せなかったり、スクリューが抜けなくなる場合がある。
【0006】
また、押出機から出る直前に架橋剤を添加する方法もあるが、押出機のヘッドの温度が170℃以上と高いため、樹脂に混ざる前に架橋剤の分解が始まる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明に係る絶縁電線は、導体部と、この導体部を被覆する被覆部とを備え、被覆部は架橋ポリ乳酸を含む第1の層と、この第1の層の内側に位置し、エチレン系ポリマを含む第2の層とを積層してなることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る絶縁電線の製造方法は、エチレン系ポリマに架橋剤を加えた第1の絶縁材料により導体部を被覆する第1の工程と、導体部を被覆する第1の絶縁材料をポリ乳酸により被覆する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、架橋ポリ乳酸の層を有する耐熱性に優れた絶縁電線が提供される。
【0010】
本発明によれば、架橋ポリ乳酸の層を有する耐熱性に優れた絶縁電線を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図である。
【図2】製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例を説明する。
【0013】
まず、図1及び図2を参照して本発明の実施の形態に係る絶縁電線10を説明する。図1はエチレン系ポリマ1とポリ乳酸5とを被覆材12a、12bとして押出成形した絶縁電線10の断面図、図2は製造工程図である。
【0014】
絶縁電線10は、複数の銅製の素線11aを撚った撚線からなる導体部11と、この導体部11を絶縁被覆する被覆部12とで構成される。被覆部12は、架橋ポリ乳酸を含む厚さt1の外層12bと、外層12bの内側に位置し、エチレン系ポリマ1を含む厚さt2の内層12aとを備えた積層体から構成される。被覆部12は、電線用の添加物を含む絶縁材料を導体部11上に押出し、仮想線で示し、13a及び13bから構成される合わせ目13がなくなるようにシームレスに成形した状態に製品化される。
【0015】
次に、絶縁電線10の製造方法を述べる。
【0016】
絶縁電線10の製造方法は、電線用の第1及び第2の絶縁材料4、7を調製するための調製工程20と、調製された第1及び第2の絶縁材料4、7を被覆材として押出成形する加工工程30とからなる。
【0017】
調製工程20は、エチレン系ポリマ1に第1の添加物2(例えば、難燃剤)を添加して混練し、次いで架橋剤3を添加して混練し、第1の絶縁材料4を得る工程と、ポリ乳酸5に第2の添加物6(例えば、難燃剤)を添加して混練し、第2の絶縁材料7を得る工程とを含む。
【0018】
加工工程30では、まず、エチレン系ポリマに架橋剤3を加えた第1の絶縁材料4を導体部11上に内層12aとして押出し、仮想線で示す合わせ目13aがなくなるようにシームレスに成形した状態に成形する(第1成形工程31)。次に、第2の絶縁材料7を内層12aで被覆された導体部11上に外層12bとして押出し、仮想線で示す合わせ目13bがなくなるようにシームレスに成形した状態に成形し(第2成形計工程32)、絶縁電線10を製造する。第2成形工程32では、架橋剤3が添加された内層12aの周囲をポリ乳酸5を含む第2の絶縁材料7で被覆することにより、第2の絶縁材料7押出時に、第2の絶縁材料7の熱によって内層12aから外層12bに架橋剤3が移行し、第2の絶縁材料7に含まれるポリ乳酸5を架橋する。
【0019】
このように、本発明の実施の形態に係る絶縁電線の製造方法によれば、ポリ乳酸5に架橋剤3を添加することなく架橋ポリ乳酸を得ることができる。このため、押出機内で架橋反応が進行することによる不具合が生ずることがなく、容易に架橋ポリ乳酸の層を有し、耐熱性に優れた絶縁電線10が得られる。また、絶縁電線10は、架橋ポリ乳酸が絶縁性及び耐熱性を有し、かつ、生分解性が良く、エチレン系ポリマ1が柔軟性を与えるため、環境に優しく、しかも絶縁性、耐熱性及び可撓性のある絶縁電線として機能する。
【0020】
なお、第1の絶縁材料4は、100〜120℃の温度で押し出す。この温度では、架橋剤はほとんど分解しない。第2の絶縁材料7を押し出す温度は、180〜200℃の温度であることが好ましい。この温度で押し出すことにより架橋反応が進行し、同時に架橋剤3は分解する。DCPが90%反応する時間は、180℃で130秒、190℃で53秒、200℃で22秒である。高い温度で第2の絶縁材料7を押し出して早く冷却すると、架橋剤3が外層12bを移動する時間が短くなり、架橋剤3が内層12a中に未反応物として残り、架橋反応が充分に進行しない。このため、第2の絶縁材料7を押し出す温度は180℃であることがより好ましい。
【0021】
エチレン系ポリマは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、エチレン−アクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂のうちのいずれかであることが好ましい。これらのエチレン系ポリマは柔軟性を有するため、第1の絶縁材料4として使用するのに好適である。ここで、エチレン−アクリレート共重合樹脂は、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂(EBA)から選択されるいずれかをさす。
【0022】
外層12bは、1.0mm以下の厚さ(t1)を有することが好ましい。ポリ乳酸5の架橋反応は、内層12aから架橋剤3を含まない外層12bへの架橋剤3の移行により進行する。このため、第1の層12bの架橋反応が充分に行われるためには、外層12bは、1.0mm以下の厚さであることが好ましい。外層12bの厚さが1.0mmを超える場合には、架橋剤3が外層12bの表面まで届かなくなり、充分に架橋反応が進まない。
【0023】
また、エチレン系ポリマ100質量部に対して0.5〜3.0質量部の架橋剤3を配合することが好ましい。この場合には、第1の層12bの架橋反応が充分に進行する。
【0024】
なお、図示していないが、内層12a及び外層12bで被覆された導体部11上にさらに第1の絶縁材料4を押出して最外層とし、被覆部12が3層で構成されていてもよい。この場合、架橋剤3を含まない絶縁材料によって被覆してもよい。
【実施例】
【0025】
上記実施の形態の実施例として実施例1〜実施例14を行い、比較のために比較例1〜比較例2を行った。
【0026】
1.試料の調製
まず、60℃に暖めたエチレン系ポリマにDCPを入れ、保温したままシェーカーミキサで30分攪拌し、DCPをエチレン系ポリマに含浸させた。これを外径1.6mmの撚り線導体の上に0.2mm厚で押し出した。押出温度は100℃とした。これを一度巻き取り芯線として用い、次にポリ乳酸を180℃で押し出した。エチレン系ポリマは、EEAとして三井・デュポンポリケミカル社製のA−703を、EVAとして三井・ポリケミカル社製EV360を用いた。ポリ乳酸は三井化学社製レイシアH400を用い、次に示す条件で被覆電線を作製した。
【0027】
実施例1
内層としてEEAを用いた。EEA中に含まれるDCPの量は0.3phr(per hundred resin)であり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0028】
実施例2
内層としてEEAを用いた。EEA中に含まれるDCPの量は0.5phrであり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0029】
実施例3
内層としてEEAを用いた。EEA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0030】
実施例4
内層としてEEAを用いた。EEA中に含まれるDCPの量は3.5phrであり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0031】
実施例5
内層としてEEAを用いた。EEA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは1.0mmとした。
【0032】
実施例6
内層としてEEAを用いた。EEA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは1.2mmとした。
【0033】
実施例7
内層としてEEAを用いた。EEA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは1.4mmである。
【0034】
実施例8
内層としてEVAを用いた。EVA中に含まれるDCPの量は0.3phrであり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0035】
実施例9
内層としてEVAを用いた。EVA中に含まれるDCPの量は0.5phrであり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0036】
実施例10
内層としてEVAを用いた。EVA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0037】
実施例11
内層としてEVAを用いた。EVA中に含まれるDCPの量は3.5phrであり、外層の厚さは0.8mmとした。
【0038】
実施例12
内層としてEVAを用いた。EVA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは1.0mmとした。
【0039】
実施例13
内層としてEVAを用いた。EVA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは1.2mmとした。
【0040】
実施例14
内層としてEVAを用いた。EVA中に含まれるDCPの量は3.0phrであり、外層の厚さは1.4mmとした。
【0041】
比較例1
外層のみを被覆部としたものを比較例1とした。外層の厚さは0.8mmとした。
【0042】
比較例2
内層を有するが、架橋剤を加えていないものを比較例2とした。外層の厚さは0.8mmとした。
【0043】
各実験例で得られた試料は、被覆部の表面を観察し、次に示す耐熱試験により評価した。
【0044】
2.耐熱試験
外層が架橋ポリ乳酸であるかを確認するために、上記調製でできた被覆電線100mmをオーブン中にぶら下げ、オーブンをポリ乳酸の融点以上の180℃の温度で10分保ち、樹脂の溶け出しがあるかを確認した。ここで、試験開始から10分後に下にポリ乳酸が樹脂が垂れ落ちない場合を○、垂れ落ちた場合を×として判断した。
【0045】
3.試験結果
表1に、内層、内層に使用した樹脂、樹脂中に含まれるDCPの量、外層の厚さ、被覆部表面、及び耐熱試験の結果を示す。なお、被覆部表面は、滑らかなものを○、発泡等が見られるときは×とした。
【表1】

【0046】
被覆部が架橋されていないポリ乳酸のみからなる比較例1では、被覆部表面は滑らかであるが、耐熱試験では樹脂が垂れ落ちた。また、被覆部が内層と外層から構成され、内層にDCPを含まない比較例2では、比較例1と同様に被覆部表面は滑らかであるが、耐熱試験では樹脂が垂れ落ちた。これに対し、実施例2及び実施例3では被覆部表面が滑らかであると共に、耐熱試験で樹脂の垂れ落ちが見られなかった。これは、内層に含まれるDCPが外層の押出時に外層に移行し、ポリ乳酸が架橋ポリ乳酸になったことによると考えられる。実施例1では、被覆部の表面は滑らかであるが、耐熱試験では樹脂が垂れ落ち、外層の厚さに対してDCPが少ないことが考えられた。また、実施例4では外層の厚さに対してDCP量が多すぎたため、耐熱試験で樹脂の垂れ落ちは見られなかったが、被覆部表面に発泡が見られた。これはDCPから発生する分解成分の影響と考えられる。
【0047】
実施例5では、実施例2及び実施例3と同様に、被覆部表面が滑らかであると共に、耐熱試験で樹脂の垂れ落ちが見られず、外層の厚みに対するDCP量が適当であったと考えられる。これに対し、実施例6では被覆部表面で変形が見られ、実施例7では被覆部表面から溶け出しがみられた。これは、DCPが1.2mm厚程度からポリ乳酸の表面まで届かなくなり、1.4mmでは充分に移行しなくなったためと思われる。
【0048】
実施例8〜実施例14より、内層をEVAとして行なった場合にも、EEAと同様な結果を得た。
【0049】
このように、ポリ乳酸の厚みに対して適当量のDCPを内層に含有させることでポリ乳酸を架橋ポリ乳酸とすることができ、架橋ポリ乳酸は耐熱性に優れていることがわかった。また、架橋反応は、内層から外層へDCPが移行することによるため、ポリ乳酸の厚さが1.0mmを超える場合には、充分に架橋反応が進まないことがわかった。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0051】
10…絶縁電線
11…導体部
11a…素線
12…被覆部
12a…内層(第2の層)
12b…外層(第1の層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体部と、この導体部を被覆する被覆部とを備え、前記被覆部は架橋ポリ乳酸を含む第1の層と、この第1の層の内側に位置し、エチレン系ポリマを含む第2の層とを積層してなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記第2の層は、前記被覆部の最内側の層であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記エチレン系ポリマは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−アクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記エチレン−アクリレート共重合樹脂は、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂のうちのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記第1の層は、1.0mm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−69523(P2012−69523A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227704(P2011−227704)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【分割の表示】特願2006−30842(P2006−30842)の分割
【原出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】