説明

絶縁電線

【目的】 電気機器に使用する絶縁電線の電気的性能を向上させ、成型したコイルの径、長さ、太さの小型化を図ったものである。
【構成】 電線21の外周部に絶縁薄葉テープ25を縦添え接着し、この絶縁薄葉テープ25を接着した前記電線21にガラス糸29を巻回し、このガラス糸29を巻回した前記電線21に絶縁ワニス処理を行ない、この絶縁ワニス処理を行った前記電線21を加熱処理し上記絶縁ワニスを熱硬化するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は絶縁電線に係り、特に、電気機器のコイルに使用される絶縁電線に関する。
【0002】
【従来の技術】近年の電気機器は小形化になる傾向がある反面その使用環境が過酷になっている。そのため、これらの電気機器に使用される絶縁電線は一層の耐熱化が要望されている。従来、この種の耐熱化された絶縁電線として下記のようなものが使用されていた。
【0003】例えば、いわゆるエナメル絶縁電線である。このエナメル絶縁電線は電線がワニス槽に浸漬され、このワニス浸漬電線のワニスがダイスまたはフェルトにより絞られた後加熱硬化処理されて製造されたものである。この処理においてワニス層が薄い場合には同様な処理が数回繰り返され所定の厚さの絶縁層になるようにされている。
【0004】つぎは、図9に示すようないわゆるガラス絶縁電線10である。このガラス絶縁電線には一重ガラス絶縁電線、二重ガラス絶縁電線等がある。この電線11には例えば2.402×5.995mmの平角電線が使用され、この電線11にガラス糸12を一重、二重等に巻き付けられる。このガラス糸12が巻かれた電線11にワニス処理が行われた後加熱硬化処理がされるようにして製造されたものである。
【0005】このガラス絶縁電線10を用いて亀甲形コイルに成型するには型巻きを行いながら各ガラス絶縁電線10間に0.1mmの厚さのフレークマイカガラステープ13が配置され、さらに、これらにワニス14によりワニス処理が行われ加熱硬化するようになっている。
【0006】さらには、いわゆるフィルム絶縁電線である。このフィルム絶縁電線は予め加熱融着した合成樹脂が塗布されたフィルムが電線に巻き付けられ、このフィルム巻き付け電線が加熱加圧して形成されたものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】これらのエナメル絶縁電線、一重、二重等のガラス絶縁電線およびフィルム絶縁電線が電気機器用の亀甲形コイルに成型されるときに、その亀甲形コイルの角部、円形部、転移部の絶縁物が加工落ちすることがある。この加工落ちは亀甲形コイルの耐電圧を低下させる。この現象は安価なガラス絶縁電線に多く発生する。
【0008】この加工落ち部には絶縁テープ、マイカテープ等により補修絶縁、補強絶縁が行われ性能や信頼性の確保が図られるが、修理、補強には時間がかかるばかりかこのような作業を行うことにより亀甲形コイルの価格を高くさせてしまうと言う問題がある。
【0009】また、亀甲形コイルの補修、補強を行うと絶縁テープ、マイカテープ等が電線に均一に被覆されず電気的特性を低下させるばかりかこの亀甲形コイルの径、長さ、太さを増大させ直に電気機器のスロットに収められないと言う問題がある。
【0010】このため、亀甲形コイルの切削加工をしなければならなくなると言う問題がある。
【0011】そこで、本発明は加工落ちがあっても電気的特性を低下させず、かつ、コイルの径、長さ、太さを増大させないでスロットに収め易い電気機器用の絶縁電線を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、電線の外周部に絶縁薄葉テープを縦添え接着し、この絶縁薄葉テープを接着した前記電線にガラス糸を巻回し、このガラス糸を巻回した前記電線に絶縁ワニス処理を行ない、この絶縁ワニス処理を行った前記電線を加熱処理し上記ワニスを熱硬化させたことを特徴とする絶縁電線を提供するものである。
【0013】また、前記絶縁薄葉テープにはポリアミド系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルム、エポキシ系樹脂フィルム、シリコーン系樹脂フィルムのうちから1つの耐熱樹脂フィルムであることを特徴とする絶縁電線を提供するものである。
【0014】さらに、前記絶縁薄葉テープは電線の上面あるいは側面に平らな耐熱樹脂フィルムあるいはU字状の耐熱樹脂フィルムを縦添えするようにしたことを特徴とする絶縁電線を提供するものである。
【0015】
【作用】電線の外側から絶縁薄葉テープを縦添え接着する。この縦添接着により接着した絶縁薄葉テープの外側からガラス糸を巻回する。この巻回したガラス糸を絶縁ワニス処理を行った後加熱処理し熱硬化する。
【0016】また、前記絶縁薄葉テープとしてはポリアミド系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルム、エポキシ系樹脂フィルム、シリコーン系樹脂フィルムのいずれか1つが使用される。
【0017】さらに、前記絶縁薄葉テープとしては平、U字状のものが使用される。
【0018】
【実施例】以下、本発明絶縁電線の一実施例を添付図面により説明する。本発明絶縁電線は図4に示すような工程により製造される。この絶縁電線製造装置20には一端に電線21を巻回したドラム22が備えられ、他端には絶縁処理された電線21を巻回するドラム23が備えられている。この電線21の絶縁処理中にはドラム23が回転され、電線21をドラム22からドラム23に所定の速度で送るようになっている。また、電線21としては、例えば、2.402×5.995mmの平角電線が用いられる。
【0019】ドラム22とドラム23との間には電線21を処理するための多数の装置が備えられている。すなわち、ドラム22に近接して接着剤塗布装置24が備えられ、電線21の外表面に接着剤が塗布されるようになっている。この接着剤塗布装置24の後方には縦添えテープ25を巻回したドラム26が備えられ、電線21の供給方向に沿って縦添えテープ25がその外周面に配置されるされ順次供給されるようになっている。
【0020】縦添えテープ25は電線21の成型加工に追従し、伸張性に富んだ0.025mmの耐熱フィルム、例えば、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルム、エポキシ系樹脂フィルム、シリコーン系樹脂フィルム等が使用される。
【0021】この縦添えテープ25は図5に示すように電線21の上部から覆い被せるような逆U字の縦添えテープ25a が供給され、同様に、図6に示すように電線21の一側から横U字に配置されるように縦添えテープ25b が供給され、同様に、図7に示すように電線21の上面から平坦な縦添えテープ25c が供給され、同様に、図8に示すように電線21の一側から平坦な縦添えテープ25d が供給される。
【0022】これらの形状の縦添えテープ25a 、縦添えテープ25b 、縦添えテープ25c および縦添えテープ25d は電気機器絶縁巻線の使用電圧、加工落ちの傾向、転移の有無等から適切なものが適宜選択される。
【0023】このドラム26の後方向には加熱炉27が備えられ、電線21に添えられた縦添えテープ25が接着され、かつ、加熱硬化されるようになっている。この加熱炉27の後方向にはガラス糸巻装置28が備えられ、縦添えテープ25を加熱硬化した電線21にガラス糸29が横方向から巻かれるようになっている。
【0024】このガラス糸巻装置28の後方向にはワニス処理槽30が備えられ、ガラス糸を巻いた電線21にワニス31によるワニス処理を行うようになっている。このワニス処理槽30の後方向には加熱炉32が備えられ、ワニス処理された電線21を加熱硬化するようになっている。この加熱硬化処理された電線21はドラム23に巻かれるようになっている。
【0025】このようにして製造された絶縁電線21は適宜な型(図示せず)を用いて図2に示すような電気機器用の亀甲形コイル40が成型される。この亀甲形コイル40のコイル端41a 、41b は順次重ねながら巻かれるものもあるが図3に示すように絶縁電線21の幅分だけ転移しながら巻かれるものもある。かかる転移を行ったときには、転移電線間に補強絶縁材42が挟み込まれ、加工落ちで絶縁損傷が発生した場合の防御策が行われる。
【0026】その他、大電流、高電流密度用の交流電気子コイルでは、太い1本の電線に比べ表皮効果による損失が著しく低減できること、転移により全ての分割電線に可能な限り等しい電流を通うすようにして、内部循環電流を防止できることなどから、ほとんど例外なく転移コイルが用いられている。これは多数の細い互いに絶縁された電線に分割されたコイルで各絶縁電線が順次スロット内で少なくとも1回は高さ方向の全ての位置を占めるように交又させており、中には、幅方向に交又させ転移を行っている。
【0027】次ぎに表1に示すような本発明絶縁電線21により成型した亀甲形コイル40と従来の二重ガラス絶縁電線および一重ガラス絶縁電線により成型した亀甲形コイルとを用いて絶縁破壊試験を行った。
【0028】
【表1】


この結果、本発明絶縁電線40による亀甲形コイル40の絶縁破壊電圧が1.1kvであるのに対し、従来の二重ガラス絶縁電線による亀甲形コイルが1.0kv、一重ガラス絶縁電線による亀甲形コイルが0.76kvにすぎず本発明亀甲形コイル40の絶縁破壊電圧が0.1kv高いものが得られた。
【0029】また、260℃で30日加熱したものの絶縁破壊電圧は亀甲形コイル40が1.8kvまで高められたのに対し二重ガラス絶縁電線による亀甲形コイルが1.0kv、一重ガラス絶縁電線による亀甲形コイルが0.83kvにすぎず亀甲形コイル40の絶縁破壊電圧を非常に高くすることができた。
【0030】この結果から明らかなように本発明絶縁電線は加工落ちがあっても縦添えテープにより電気特性を落とさず向上させることができた。また、亀甲形コイルをスロットに収めるときに補修絶縁を行わなくてそのまま使用することができる。
【0031】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は電線の外周部に絶縁薄葉テープを縦添え接着し、この絶縁薄葉テープを接着した前記電線にガラス糸を巻回し、このガラス糸を巻回した前記電線に絶縁ワニス処理を行ない、この絶縁ワニス処理を行った前記電線を加熱処理し上記絶縁ワニスを熱硬化するようにしたから、電気特性を落とさず、かつ、スロットに収め易い絶縁電線を得ることができる。
【0032】また、絶縁薄葉テープにはポリアミド系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルム、エポキシ系樹脂フィルム、シリコーン系樹脂フィルムのうちから1つの耐熱樹脂フィルムを使用したから、絶縁電線の性能を向上することができる。
【0033】さらに、絶縁薄葉テープは電線の上面あるいは側面に平らな耐熱樹脂フィルムあるいはU字状の耐熱樹脂フィルムを縦添えするようにしたから、電線に絶縁薄葉テープが良好に接着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図2に示した本発明による亀甲形コイルをIーIに沿って切断し矢印方向から見た断面図。
【図2】本発明による絶縁電線を用いて亀甲形コイルに成型したときの平面図。
【図3】図2の亀甲形コイルのコイル端を示す斜視図。
【図4】本発明による絶縁電線を製造する工程を示す説明図。
【図5】電線に逆U字の縦添えテープを上部から配置させた場合の説明図。
【図6】電線に逆U字の縦添えテープを側部から配置させた場合の説明図。
【図7】電線に平らな縦添えテープを上部から配置させた場合の説明図。
【図8】電線に平らな縦添えテープを側部から配置させた場合の説明図。
【図9】従来の絶縁電線に用いて成型した亀甲形コイルの断面図。
【符号の説明】
10 ガラス絶縁電線
11 電線
12 ガラス糸
13 フレークマイカガラステープ
14 絶縁物テープ
20 絶縁電線製造装置
21 電線
22 ドラム
23 ドラム
24 接着剤塗布装置
25 縦添えテープ
26 ドラム
27 加熱炉
28 ガラス糸巻装置
29 ガラス糸
30 ワニス処理槽
31 ワニス
32 加熱炉
40 亀甲形コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】電線の外周部に絶縁薄葉テープを縦添え接着し、この絶縁薄葉テープを接着した前記電線にガラス糸を巻回し、このガラス糸を巻回した前記電線に絶縁ワニス処理を行ない、この絶縁ワニス処理を行った前記電線を加熱処理し上記絶縁ワニスを熱硬化させ、たことを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】前記絶縁薄葉テープにはポリアミド系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルム、エポキシ系樹脂フィルム、シリコーン系樹脂フィルムのうちから1つの耐熱樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1記載の絶縁電線。
【請求項3】前記絶縁薄葉テープは電線の上面あるいは側面に平らな耐熱樹脂フィルムあるいはU字状の耐熱樹脂フィルムを縦添えするようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開平7−245017
【公開日】平成7年(1995)9月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−35984
【出願日】平成6年(1994)3月7日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)